「全くタツミは・・・怒れば良いと言う訳で無いぞ?大体私ほど慈悲のある女が何処に居る?その証拠にナイトレイド共の所に戻るタツミを何も言わず見送っているではないか、私の心は海の如き広さだぞ。」
エスデスはウィンクしながらの、ドヤ顔でタツミを見る。
「だから、その憂さ晴らしにアリアを連れてきただろ?」
「・・・確かに奴をいたぶるのは少しの気晴らしになってはいるな。」
「ほれ、みろ!やっぱり不満があったんだろうが!」
タツミは誘導尋問を行った。
「ん!?そ、それは不満が有るに決まっているだろう、タツミ!!ナイトレイドの雌豚共が私のタツミをいつ襲っているか、とそう思うと夜も眠れなくなる日が有るぞ!」
「だから、ナイトレイドの奴らはただ利用しているだけだって言ってるだろ!」
「・・・本当か?」
「本当だ・・・」
エスデスは顔近付けてタツミの目を覗きこむが、タツミも悟られないように無の境地の目をしている。
「ふぅ・・・判った、それとタツミ、いつになったら私は帝都へ戻って良いのだ?」
タツミはそれには適当に答え、今後のアリアへの対応に付いて話し合った。
それから数日時が経ち、アリアも表面上は大人しくしており、エスデスを怒らせる事が少なくなったが、彼女の内なる残虐性や怒りは消えてはいない。
ある日、タツミはエスデスと代わり、アリアを監督する事にした。
「よぉ、少しは懲りたか?」
アリアはタツミを一瞥した後、
「・・・あんた、一体なんなのよ?何者なのよ?あたしを閉じ込めて何が目的なのよ?」
「質問が多過ぎるな」
「じゃあ、聞くけどあの日あそこに居たのは何が目的なのよ?・・・まさか、あたしみたいな、か弱い子の家に同情を誘って入って、拉致監禁して拷問する事が目的・・・?この卑怯者、人でなし!」
アリアは毒づくが、タツミは皮肉な笑みを浮かべ
「他人のフリ見て我がフリ直せって言葉知ってるか?しかしまぁ・・・あのエスデスの指導を、手加減しているとはいえ、お前大して堪えて無いな・・・その根性だけは見上げたものだ、直ぐ根を上げると思ったんだがな・・・」
「そうよ・・・あんた、あのエスデスをどうやって連れて来たのよ?あいつ、将軍じゃないの?なんでこんな所で油売ってんのよ!」
そんな事はどうでも良い・・・と言って、タツミはアリアの目の奥を覗き込む。
「お前を変えるには生半可な手段じゃ駄目だな・・・」
アリアは小さく悲鳴を上げ、
「な、なによ・・・もっと酷い事する気・・・こ、ここを出た後、け、警察に訴えるわよ・・・」
「いや・・・残念だが、エスデスは(特殊)警察も兼務しているんだ、・・・ははは、世も末だよな」
進退極まったアリアは顔面蒼白となるが、タツミには見えていた。殺すのは訳も無い、そして、エスデスのように拷問を行えば、根を上げ、“その時は改心する、心を入れ替える”と言っても時が経てば、元のアリアに戻るだろう事を・・・。
「俺も暇じゃ無いんでな・・・手っとり早く済ませるぜ」
タツミはそう言って、懐から黒手袋を取り出し右手に嵌める。
「な、なにをするつもりよ!」
逃げ出すアリアの肩を捕まえ、即座にこちらに向き返させた後、タツミのその手が彼女の頭を捉える。
「お前に生きる喜び等与えん!!せいぜい苦しめ・・・」
やはりこれも帝具か、彼女は苦しみ始める。
タツミを誘惑するものなら、アリアを即殺そうと企んでいた・・・屋根裏に潜むエスデスは、様子を見に降りて来た。
アリアの頭の中は正に混沌と化し、彼女の視界は大きく回転し、吐き気を催す。
それが治まると次は、周りの物に恐怖を感じ、怯え始める。
「タツミ・・・それは帝具か・・・?」
「・・・本当は明かしたくないんだが、まぁ良いだろう・・・こいつはある意味で最強にして最凶の帝具でな。相手の脳内物質のバランスを撹乱・・・簡単に言えば相手に、恐怖を自在に与えられる・・・という代物だ。今俺はこいつに常に死にたくて仕方ない状態にした・・・つまり、自己破壊願望をそこそこ強化させたんだ」
そう言っている間にタツミはそれでも自殺出来ないようにアリアの両手を縛りあげる。
「そんな帝具があるのか・・・?」
「いきなり、目の前に召喚されたり、空気中の水分を一気に氷結させて氷の層を作り出す帝具があるんだ、こういう帝具が有っても不思議ではないだろう?・・・とはいえ革命軍と帝国軍の文献にも乗っていない、他に知る奴は居ない幻の帝具だがな」
その間、アリアは苦しみもがいている。それを気にせずエスデスは
「くくく・・・面白い帝具だな、タツミ。だが私は自らの手で行う拷問が好きだがな」
アリアは小さく蹲り、助けてお願い、と何度も唱え震えている。
「・・・奴は何に怯えているんだ?」
「こいつは、周りの物全てに怯えているんだ・・・」
「どういう事だ?私達以外のその辺の物にもか?」
「ああ・・・、机がいきなり襲いかかって来るとか、そういうありもしない被害妄想に今、囚われているんだ、こいつは・・・そして、生きている事への虚しさや大きな不安、自分自身への否定を強くして常に死にたくなる」
タツミはエスデスに矛先を向け、
「エスデス、お前もこの帝具を試してみるか?絶望が味わえるぞ」
「私が?ふふふ、面白い!・・・デモンズエキスの時もそうだったが、私は常に屈服させる側だ・・・何者であろうともな、くくく、試させて貰うぞ!」
タツミはエスデスの頭に手をやると・・・
・・・・・・!
彼女はいきなり途方も無い脱力感とそこに居るだけで何もしていないのに、軽い目眩や気持ちの悪さ、大きな不安が重くのしかかる。
エスデスはよろめき、
「く・・・こ、これは・・・」
遂に膝を付き、荒々しく呼吸をしている。
「エスデス・・・お前が屈服させたデモンズエキスは破壊衝動という攻撃的なものだ、だから相性が合ってお前の得意分野でもあったんだろ?」
「ぐ・・・うぐ・・・く・・・」
エスデスは泣きだしたくなるような、死への誘いに駆られている。
「言っとくが、これは攻撃的なものじゃない・・・もっと“静かで暗い”ものだ」
タツミは再びエスデスの頭に手をやり、帝具の効果を解除した。
「はぁ・・・はぁ・・・これが・・・、馬鹿な・・・こんな死に駆られたくなるような・・・このような弱者の感情など・・・この私が・・・くっ・・・」
エスデスは顔に手をやり、苦々しく呻いた。
「お前は得意分野に特化している・・・それだけの事だ・・・」
タツミが事もなげに言ってのけた事を、今のエスデスにはぼんやりとしか理解できなかった。
そして、未だ苦しんでいるアリアとその様子を黙って見据えているタツミを・・・エスデスはその様子を眺め、改めて戦慄した。
そして考えた・・・何故自分はタツミに惚れたのかを、単に闘いの実力が自分よりもはるかに上だからか?いやそれだけでない、本来の彼は自分の上をいくドS性・・・残虐性を秘めていた・・・それを日頃隠しているが、彼を一度本気で怒らせればその面が発露し容赦しなくなるのを・・・彼女が持つ野生の勘が教えてくれた・・・そして、今でもまだ本気を出し切っていない事も・・・。
今までは何となくだったが、ここに来て漸くエスデスは頭でも理解し始めていた。
自分は周りから帝国最強、そしてドSと恐れられ親われもしたが、何故タツミは自分のそんな面にまるで関心を示さなかったのか・・・、それはそうだろう、タツミは自分を凌ぐ力、ドS性・・・残虐性を普段は隠しているだけだ、それなのに私は日頃臆面も無く、その力をいつでも必要であろうがなかろうが自分がしたいから行いたい時に現している・・・。タツミから見れば私などは・・・小娘の如く映っているのかもな・・・、と。
神妙な顔つきになっているエスデスにタツミは
「・・・どうしたんだ」
「いや・・・なんでもない」
アリアをタツミは地下の部屋へと連れて行った。
それから数日後、再びタツミは様子見に山小屋に来て
「エスデス、どうだ奴の様子は?」
「ああ、全く持ってつまらん、私の言う事に反抗の色がない上に、終始怯えてばかりでな・・・言われた通り手の縛りはそのままで、足の鎖を解いても逃げ出す気配も無い・・・流石にここまで来ると私ですら哀れに思う・・・それでどうする、タツミ?」
それを聞き、タツミは例の帝具でアリアの恐怖の度合いを多少弱めた。
「タツミ、その帝具は本当に不思議だな・・・脳の錯乱と言ってたが、他に何か出来るのか?」
「・・・そうだな、その気になれば相手の人格もまるで変えれるぞ。だからエスデスお前も拷問好きから、・・・誰かに拷問を行うだけで自己嫌悪になって吐き気を催す、そんなお前にも変えれるぞ?」
「ふっ・・・正に最凶の帝具だな、そんな私を想像するだけで気分が悪いな」
またしばらく経ち、
アリアも以前と比べ大人しくなった、そんな時タツミは
「お前を解放してやる、・・・好きな所に行け」
アリアは特にこれといった感情も抱かずに答えた。
「貴方も悪い人ね・・・もしわたしが誰かに喋ったら殺すつもりなんでしょ?どう?」
「さぁな・・・、お前次第だな」
「・・・わたしは・・・親から世の中には何をしてもいい人種と何をされても良い人種がいて、私達はその何をしてもいい人種なんだと教わってきた・・・だから、捕まえてきた田舎の人達だって、殺したり惨い仕打ちをしたって別に何とも思わなかった・・・わたしが逆にそんな仕打ちを受けるなんて考えたりもしなかった」
タツミはそれに対しただ黙って聞いていた。アリアは半ば投げやりに彼に尋ねる。
「ねぇ、こんな娘っ子一人、ここ出てって、この帝都で生きていけるの・・・?」
「さぁな・・・、後ろ盾も親も居ないお前だ、悪い男の慰み者になるか、それこそどっかの悪党みたいに上手い事騙されて、屋敷に連れられ拷問死するか・・・運が良けりゃその辺で楽に餓死じゃないのか?」
タツミは餓死なんてまだ良い死に方だと言わんばかりに言ってのける。
「ふっ・・・でしょうね・・・タツミ・・・貴方、ナイトレイド・・・だっけ?その殺し屋達からあたしを庇ったけどなんで?」
タツミはへぇと驚き、
「少しは知恵が回るようになったみたいだな・・・だが庇った訳じゃなくて試そうと思っただけだがな」
「試す?・・・ああ、私が変わるかどうか・・・?あの帝具・・・最悪だったわ・・・早く死にたくなったもの・・・それから解放されて・・・ええ、以前と比べて同じ景色もなんだか、綺麗に見えたわ・・・元の気持ちに戻るに連れて、あんな地獄な思いはもうこりごり・・・私に殺されていった人達もこんな風に死にたくない、生きたいと思ったって事・・・それを貴方は教えてたくて?」
アリアはとりあえずあの地獄から解放され、生物としての生存欲求が満たされている状態になったので、ただ日々生きて行く事を良しとしようと、無意識に思っていた。
「・・・・・・、そんな事はどうでもいい、お前が死にたい無いならもう止めはしない」
タツミは今のアリアならそう簡単に死のうとはしないと判っていたから、敢えてそう言ってのけた。
「・・・・・・、私は改心なんてしないわよ?だけど、外で生きて行くのも、もういや・・・この家の掃除さえしてれば、最低限の食事にはありつけるでしょ?今更外で仕事して生きてく自信は無いわ・・・もし、追い出すんなら・・・一思いに殺して・・・」
「・・・じゃあ、死んだつもりで本丸で働いてみるか?俺の狗として・・・」
「本丸・・・?」
帝都中心、宮殿の応接室でエスデスは一人の女性を連れて来て、雑務を取りまとめる長にアリアを引き合わせる。
「こいつは・・・アリ・・・アリスという、何でも良いからとりあえず使ってやってくれ」
そういうエスデスは苦虫を潰してアリアを見ている。
(・・・何故私がこやつの紹介を・・・myタツミ、この代償は高くつくぞ!)
アリスと名乗った女は恭しく頭を下げ
「どうか、よろしくお願いいたします・・・」
「ふむ・・・これは可愛いお嬢さんだ・・・、良いでしょう。エスデス将軍の紹介ならお断りする訳にも参りません」
「・・・こいつの事は死なせるくらい働かせて良いからな!むしろ死なせろ!」
「ははは、また御冗談を・・・エスデス将軍の紹介者を無碍には致しません」
(ふぐぐぐぐ・・・・!!私の紹介となれば、悪いようにはしない・・・タツミは恐らくそこまで計算して、私にこの小娘を紹介させたか・・・く~~~~タツミ~~~~~~~)
「・・・どうかされましたか?将軍?」
「なんでもない!!」
それからアリアは必死になって働き、時折オネスト達の情報等をランを経由してタツミに伝えたりと、間接的に革命の助力をした。
そして、革命も成功しアリアは混乱の中で上手く立ち回り、革命軍改め新政府の長であるコウカツの話し相手を務める程にもなった・・・。
今のアリアは組織の中で自分の実力を発揮し居場所も作り出し、充実感を覚えて始めていた。
ある日、先の戦争で破損も見られる宮殿付近の人目の付かない場所で、タツミは空を眺め、時間を潰していた。
「待った?」
「いや、そんなに待っちゃいない・・・」
アリアはそう言って近づいてくる。
「お前も出世したみたいだな、言うの遅くなったが、おめでとう」
「ふふん・・・元々あたしは器量も良いし、その気になれば頭も良いんだから、あんな鼻の下伸ばしたオジサマ方に取り入られるなんて、訳もないわ?お尻を撫でられるくらいなら我慢も出来るしね」
「へっ・・・」
タツミは逞しくなったアリアの様子に苦笑いをした。
「それで、はい、これ、彼らの情報」
渡されたメモを見て、タツミも唸る。
「ふ~~む、よく調べたな・・・」
タツミは情報料をアリアに渡す。
「?・・・いつもより多くない?」
「そいつは今までの御苦労賃も兼ねてだ」
首を傾げるアリアに
「後の事はナジェンダ将軍に・・・、前に話したその将軍の事は判っているだろう?」
「もちろん知っているけど、・・・ちょっと待って、その将軍にはなるべく近づくなって、あたしを昔、殺そうとした殺し屋のボスだったんでしょ?・・・え?」
「そうだ・・・だから、この手紙を渡しておく、その中には俺がナジェンダに向けてお前の事を説明している」
「これを持って、これ以降はその人と仕事しろって事?」
「ああ・・・、ただナジェンダにも立場が有る、一応革命成功してお前を狙っていたナイトレイドは解散したが、・・・元々お前は人から恨まれて、殺すよう依頼されていたんだ」
アリアは以前の事を思い出し、顔が苦しく歪む。
「・・・お前も小金が溜まったんだろ?俺はお前がこれから何処に行こうが、もう気にしない。暇を貰って、何処かの田舎に行くも良い、それとも・・・」
アリアは少し間を置いた後、
「そのナジェンダと言う人と話した場合・・・、あたしはひょっとしたら殺される?」
「・・・いくら俺が手紙でお前の事書いていても、相手はどう判断するかな?」
アリアは長い間沈黙し、タツミも答えが出るまで待った。
「その時はその時ね、人間、自分がしでかした過去からは逃げたくないわ・・・」
タツミもふっと笑い、
「そうかい、じゃあ武運を祈ってるぜ」
「・・・?そういえば、貴方はこれからどうするの?」
「ん・・・?ああ・・・、俺はもうこの国から離れるさ」
アリアは目を見開いて驚く。そして、タツミはニヤッと笑い
「どうした?鳩がパンプキン喰らった顔しやがって」
「え?・・・あ・・・」
「まぁ、そういう訳だ・・・せいぜい、元気でな・・・あばよ」
タツミは後ろ手に片手をひらひら、そのまま去って行った。
「あ・・・・・・」
アリアは何かを言おうとしたが、その言葉を呑みこみ、彼の姿が消えるまで・・・消えた後もしばらくは見送った・・・。