近所の中学生がTSしたので都合のいい女にしていこうと思う 作:あるぺん
「いつもありがとうね、蓮くん。はい、これお土産」
「ありがとうございます、上杉さん」
陽向と濃密な時間を過ごした日から少しして。夕飯前に部屋のチャイムを押してきたのはどこか陽向と似た顔の、今の陽向が二十年後はきっとこうなるのだろうと思われる、整った容姿の女性。
陽向の母親であり、今はシングルマザーとして頑張っている上杉
「もうお夕飯食べちゃったかしら? 日持ちするから、良かったらお昼にでも陽向と食べてね」
「いや、今ちょうどこっちも支度してるところで。有難く頂きます」
差し出されたのは郊外専門の大型スーパーにある大容量のお惣菜。
大食いと思われているのだろうかと思わなくもなかったが、陽向がうちに入り浸ってるのを知っているからか、先程の言葉と共に考えれば二人分含めてという事なんだろう。
「あの子、最近いい顔するようになってきたの。きっと蓮くんがいてくれたからね。本当にいつも陽向の傍に居てくれて助かってるわ。これからも仲良くして貰えるかしら」
「ええ、それはもちろん」
陽向との関係はバレているだろうか。まぁ流石にバレてはいないだろう。そう思いたい。
何せ陽向としているのは未成年との淫行という、バレれば間違いなくお縄になり、良識ある人やその親からは後ろ指を指されては石を全力で投石されてもおかしくはない。
そこに罪のない者だけが、なんて前置きもいらないだろう。
そんな行為を毎回とは言わずとも相当な頻度でしているのだ。しかも避妊無しで。バレたとしたら、それこそただでは済まされない事になる。
「貴方みたいに頼もしいお隣さんが、あの子にも私にも居てくれて本当に嬉しいわ」
「上杉さんも何かあったら言って下さい、出来る限り力になりたいので」
「……ありがとう助かるわ。そうだ、お夕飯の支度手伝ってあげようか?」
「い、いえ、もうすぐ出来るし大丈夫ですよ。そこまでさせるのは流石にちょっと」
「……そう? 蓮くんみたい若い子にご飯食べさせてあげるの結構好きなんだけど……」
断りを入れると残念そうにする優花さん。少し物憂げな表情は陽向のそれとまた違う趣がありつつも、男としての性が反応する魅力も確かに存在していた。
何せ陽向の母親である。その顔はいつも見ている可愛らしい顔と同様に整っていて、十人が十人美人だと評するようなそんな女性。おまけにそこに年相応の色気がプラスされる事で陽向の可愛らしさに、大人びた色香の混じるそれとなっているのだ。
そんな人がほぅ、と息を吐きながら上目使い気味にこちらを見て来るとなると、何かあるのではないのかとつい邪推を働かせてしまうもの。
「あー、その、折角ですがお気持ちだけ……」
「そう言わないで? 蓮くんには本当に助けて貰ってるから、たまにはもっと恩返しさせてくれないかしら? お土産渡すくらいじゃとても足りないもの」
妙な期待をしてしまっていいのだろうか。勘違いしてそれに乗ってしまってもいいのだろうか。若干そんな事へと頭の半分が傾きつつあるのを、残りの理性と良心で何とか押さえつけようとする。
そんな事で揺らぐ理性と良心だから薄っぺらなのは自明の理なのだが、それを支えてくれる様に別の音が耳に入ってきた事によって、何とか踏み止まる事ができた。
「母さん、何してるの? 早くご飯食べようよ」
隣の玄関から顔を出してそう言ってきたのは陽向だった。こちらを見て俺に近寄る優花さんを見ればその眉を顰めて、母親と俺の間へ押しのける様に体を割り込ませてきた。
「もう、ちょっと陽向……!」
「お腹空いたから早くってば! …………近づきすぎだって」
「あらあら、ごめんね。うっかりしてたわ」
陽向の呟きは聞き取れなかったが、優花さんは陽向に押される様にしてあちらのお宅へ戻っていった。それを見送ってからこちらも中に戻ると、止めていた火をつけ直してシチューを煮込んでいく。
別れ際の優花さんの目は何処か熱が篭った眼差しに感じられ、きっと勘違いでは無いんだろうなぁ、という予感は往々にして当たる気がしてきてしまうもので。
「……流石に親子は不味いよな」
そこまで品行方正でも品性下劣でも無いが、そこそこに女性と付き合ってきてはいた身だ。経験だって人並みにあれば、その手の色っぽい何かが混じっていれば相応に気づくというもの。先程のあの優花さんの瞳もそれらと同じ物だと分かってしまった。
だからと言って、元からそんな目を向けられていたわけでも、あの人と不貞を働いていたというわけでもない。あちらのお宅が離婚したのは、単純に夫婦のすれ違いが酷くなる前にという奴だ。
どうしようもない程に喧嘩したり、浮気の応酬で家庭が壊れる前に別れて、子供を育てられる方の手に置いたというだけの話だった。
「陽向の事で色々と付き合いが濃くなったからか? 魅力的な人ではあるけど気をつけないとなぁ……」
このままなし崩しになんてことになれば、陽向も含めた関係は一体どうなってしまうのやら。それこそ泥沼になってしまいかねない。
陽向を裏切る事だけはするわけにはいかないと理性を総動員させているが、陽向の事が無ければ一も二も無く頷いてしまっていただろう。それだけ優花さんの持つ色香と女性の魅力を感じさせる物があった。
三十七とは思えぬ若さの美貌は一回り以上離れていても魅力的な物。ましてその陽向よりも更に魅惑の肢体で隣り合って料理を作られては、別の物を頂きたくなってしまいそうだ。
「……あっちぃ!」
余計な事に思考を飛ばしている内についつい火力と放置する時間を見誤っていたらしく、シチューが鍋の縁から吹きこぼれていた。その跳ねかえりが当たった火傷を慌てて流水で冷やしていく。
「何してんだか俺は」
間の抜けすぎた己自身の姿を省み、溜息と共に呟きが漏れたところで、今度こそ煮えたそれを火から降ろし皿に盛り付けていく。
暫くは冷まさなければいけなさそうだった。
「で、あるから────」
講義室には今日も今日とて退屈な話をする声と、それを必死でノートに取ろうとする筆記の音が鳴る。
いつも通りの大学のいつも通りの風景。
陽向の事があっても日常は進んでいくし、単位の事は気にしていかないといけない。
そんな何時もの日々は、何時もと同じ様な面子で、何時もと同じ様に耳を傾けていく。
(帰ったらどうするかな……)
たまにはセックスはせずに普通に過ごすのもいいかと考えるものの、陽向を相手にすると、あちらからして欲しいという空気を出されて押し切られてしまいかねない。
男としては嬉しい限りであるのだが、夜は例の如くおばさん──つまり優花さんも在宅なわけで。息子もとい娘が遊びに行くだけならともかく、何故か隣から妙な物音や喘ぎ声がしてきたら、などとなってしまっては後が恐すぎるのだ。
強く意思を持てと言われそうだが、見た目も好みで、そして今や中身も好みの女に迫られてその誘惑を突っぱねられる続ける程、俺は強靭な理性など持ってはいない。
逆に家じゃなければいいかと思考が飛ぶものの、理由も無くよそ様の子供を外に連れ出せるわけが無い。いかに仲が良くても問い質されるには違いなく、一度ならまだしもその内にぼろが出てしまう可能性が高いとなれば、これもまたやめておいた方がよさそうだ。
結局の所、夜中は大人しく自分の事でもしてろという身も蓋も無い結論になってしまう。
そうしてノートを取りながらつらつらと考えていたら、いつのまにか講義も終わっていたようで、教授の声が上がれば生徒たちはぞろぞろと席を立っていく。
すると友人の一人である本田が、こちらの肩を叩きながら声を掛けてきた。
「うぃーす、お疲れ」
「お疲れ、何か用か?」
「今日皆で飲みに行くけど、お前も来るよな?」
切り出されたのは、ありきたりで単純な誘い。いつぞやに別の奴から誘われた様な合コンでもなく、仲間内だけで集まり酒を片手に騒ごうという物だった。
正直な所を言えば、そこまで酒が好きなわけではないが、付き合いの為と、気心の知れる奴とのそれを楽しめないわけではない。それに、余計な事を考えて煩悶するくらいであれば、適度にアルコールの力を借りて酔っ払ってしまった方がいいのかもしれないと、本田に了承の頷きを返した。
「あぁ行くよ。いつもの居酒屋か?」
「いや、駅の側の所。割と安いんだ」
「そうか。このまま行くのか? それとも後で集まるか?」
今は五限の終わりであり、夏場でまだ明るいとはいえ、訪れ始めた夜の闇が窓から窺えていた。
「用事あるなら後から来ていいぞ? なんかあんの?」
「いや、別に」
少しだけ陽向の顔を思い浮かべたが、俺の家で待っているわけでもないし、こちらの帰りが遅い日はあいつだって承知はしている。何も問題はなかった。
「ならこのまま行こうぜ、森本達も先行ってるだろうし」
「そうだな、じゃあ行くか」
荷物を持って大学の正門へと向かえば、他の連中もそこで待っていたので一緒に店へと向かい、そこで散々馬鹿を言っては、笑いながら酒とツマミを口へと運び込んでいく。
酔いが回ると共に時間も過ぎていき、俺達の中でも帰る奴と新たに酒を飲もうとする奴と入れ替わり、周囲の客も同じ様に変動していけば、喧騒は更に広がっていった。
気が付けばかなりの量を飲んでいたのだが、そんな時、俺達の座席ではなく通り掛かったカウンター席から聞き覚えのある声に名前を呼ばれた。
「あれぇ? 蓮くん……? 何でこんな所に……?」
「おば──上杉さん? 何でこんな所に……?」
振り向いてみれば、そこに座っていたのは優花さんその人だった。その格好はいつもの仕事へ行く時のパンツルックで、恐らくは仕事の帰りにでも寄っていたのだろうというのは想像できるのだが、陽向を置いて一人酒をする様な人ではないので、それには聊か違和感を覚えるものはある。
「蓮くんこそどうして居るのぉ……?」
随分と酔いの回っている優花さんが問い返して来るのだが、呂律は若干回っておらず、据わっている目でどのくらい飲んだかがよく分かるというもので。
「俺は大学の連中と飲み会です。ほら、あそこで。上杉さんこそどうしたんです?」
「優花でいいわよぅ。私は、さっきまで会社の人と別のお店でね。それで一人で飲み直そうかなぁってぇ」
「あー、なるほど。お疲れさまです」
あちらも飲み会という事なのか。となると陽向一人か、と思う程に不安を覚える年ではないが、気にならないと言えば嘘になるだろう。
だが優花さんは余程飲んでいるのか、何だかふにゃふにゃし始めていた。嗜んでいる所は見た事もあるが、こうも酔う所など見た事もないので、どうしたものかと思っていたら背中からまた別の声が投げかけられてくる。
「佐々木ー? なにしてんの? って、めっちゃ綺麗な人じゃねぇか。お前なに飲んでる時にナンパしてんだよ」
「いや違うって。俺んちのお隣さんだよ」
本田に声を掛けられて振り返れば、一瞬で優花さんに見とれているのが良く分かる。鼻の下が伸びっぱなしだ。
だがそんな事は意に介さずというのか、俺の肩に腕を回すようにして本田は優花さんに向き合っていく。
「どうもお姉さん、一人っすか? 俺達と一緒に飲みません? 奢るんで!」
「えぇ~? いいわよぉ、悪いし……」
「いえいえ全然悪くないです! お姉さんみたいな綺麗な人と飲めたら眼福どころじゃないっす! ね、行きましょう!」
人に言ってきた事はどこへやら、こいつ自身がナンパをしていく様を呆れ半分で見ていくが、あまり見過ごすわけにはいかない。
女癖が悪いという程の奴では無いが、こんな場でこうして声を掛ける男が何を考えて居るかなど、火を見るよりも明らかである。
「でも蓮くんのお友達でしょぉ……? 若い子に混ざっちゃったら変にならないかしら?」
「大丈夫っすよ。年上とか全然いけますし」
「いけますじゃねえよ馬鹿。上杉さん飲みすぎですって」
馬鹿の頭を軽く叩いてから優花さんに近づいて、その酔いに染まった顔を見ながら声をかけるが、当の優花さんは首を傾げつつ、逆に俺をじっと見詰めて来ると手を掴んできた。
そしてそのまま手を引かれてしまうと、優花さんは抱きしめるように俺の体を包み込んできていた。それも座る優花さんの胸の中へと導かれながら。
突然の事で一瞬頭が理解できなくなっていたが、鼻腔に入り込んできた香水の匂いやシャツと薄布越しの柔らかい感触、そして優花さんの心臓が刻むリズムが聞こえてきて、それが何を意味しているのかすぐに理解した。
「ちょっ……!」
「蓮くんも一緒なのよね? それなら……いいかもしれないかなぁ。蓮くん、私に付き合ってくれる……?」
優しく柔らかく、それでいて甘ったるい声に胸が大きく脈を打つのを自覚してしまう。陽向に似た容貌から向けられるそれと相まって、鼓動は加速の一途を辿る。
そんなこちらの様子を見ていたのか、背後にいるだろう奴が憎々し気に恨み事の様に呟いているのが聞こえてきた。
「なぁ佐々木、お前彼女出来たって森本が言ってたけどこんな美人とか……ちくしょう羨ましい!」
「アホ、そんなんじゃない。上杉さんも放してくださいって」
そう反論し、優花さんにも言葉を掛けてみるのだが、俺の体に回される手によってより深く抱えられ、その上優花さんは何やら妖艶な顔で見つめてくる。
「もう……優花って呼んでぇ?」
赤らんだ頬に濡れる瞳は妖しい光を放っている。いつもの理性的な優しい眼差しの裏にあるのだろう、情欲の色とでもいうべきもの。
「上杉さん、流石にやばいって、ほんとに……!」
「……やっぱり蓮くんはわたしのこと嫌いなのぉ?」
「いや、そんな事はないですけど、だから飲みすぎですってば! ほら、帰りましょう!」
どうにか優花さんの包容から抜け出すことに成功し、ふらふらになっている優花さんを立たせてカバンを持たせる。
すると今度は本田がこちらの服を引っ張って来た。
「あ、おま、お前マジか! ずりぃぞ!?」
「変な勘違いすんな馬鹿! お隣さんだから送ってくだけだ!」
そのまま振りほどき、席の連中に声を掛けると自分の分の金を置いていく。そのまま優花さんのお会計も済ませて外へ出れば、夜風で若干のぼせ上がった頭が醒めていくのを感じた。
だが酔いと興奮で火照った頭は完全に冷えてはくれないらしい。そんな中で隣の酔っ払いを見ると、優花さんはふわふわ笑顔を浮かべながら、俺の体へと腕を回して抱きついてくる始末。
「ほら、危ないですって上杉さん。ちゃんと歩いてくださいよ」
「蓮くん、抱っこして運んでくれるぅ?」
「…………おんぶですね?」
「お姫様だっこがいい~」
酔いすぎるとこうなるのかこの人は。
我儘を言う時の陽向と妙に似ている気がして、変な所で血の繋がりを感じてしまった。
「変な事言わないで下さい。ほら、送りますから行きましょう。陽向も待ってますよ」
「ひなた……いつもありがとうねぇ蓮くん……お礼……わたしで…………」
「おっとと……」
どうにか背負ったところで、優花さんの意識が限界を超えたようだった。背中に感じる体重が全身に掛かるのを受け止めてから優花さんの様子を窺うと、眠りの世界へと旅立っていったようで、静かに穏やかな寝息が聞こえてくるだけだった。
「とりあえずタクシーでも捕まえるか……」
そう独り言ちると、余計な考えが首を擡げる前に、優花さんを起こさないようゆっくり歩を進めるのであった。
理性の壁を背後から襲う煩悩と何とか格闘していったた結果、どうにかマンションまで優花さんと共に帰る事に成功したのだが、問題だったのは陽向だった。
家に着いた時、鍵を開けて出て来てくれたのだが、優花さんを背負っていたのを目にした一瞬で機嫌を悪くしてしまい、むくれたな顔をしながら招き入れられてしまう。
そして優花さんを部屋に寝かせた後、何故か俺の家までついてきてもその態度は治りそうになかった。
「……なんで母さんといたの? 今日は知り合いと遊ぶから遅くなるって言ってたじゃん」
俺の家で待たれていてもと思い、飲み会の途中でメッセージを入れていたのだが、もしかしたらそれは裏目だったのかもしれない。
しかし、優花さんと偶然飲み屋で顔を合わせるなんて事は予想外にも程があり、予見できない以上どうしようもなかったのだが。
「飲み会やってた店で偶然会ったんだよ。本当だぞ?」
まるで浮気の弁明になってしまっているが、紛う方なき本心である。しかし陽向は全然信じていないようで、唇を尖らせながら言葉を漏らした。
「ふーん……この前も母さんにデレデレしてたもんね、蓮にぃ」
「だから変な誤解するなって」
どうやら優花さんから惣菜を受け取った時を見てから、何か勘違いしているようだった。
まぁ、優花さんにそういう気があったのだろう事はこちらも薄々分かってはいるが、だからって本当にどうこうする気もなければ、何があった訳でもないのだ。それははっきりと断言できるし、疑われても困ってしまう。
だがそんな俺の言い訳じみた言葉は、拗ねて嫉妬し始めただろう陽向にはあまり届かないようで、その声色には少しだけ恨めしい色合いが含まれていた。
「蓮にぃはさ……もうわたしに飽きちゃったの? わたし、頑張って女の子になろうとしてるよ? それともおっぱいがおっきな大人の方がいいの?」
「そんな訳無いだろ。それに胸ならお前だって十分に大きいだろうが」
「だって母さんの方がもっと大きいし……」
確かに優花さんの胸はデカい。本当にデカかった。目測で90後半はありそうなくらいには大きかったのだが、それはそれ、これはこれという物。
優花さんにもその肢体に魅力的な物は感じるが、だからと言ってそれだけで流される程、惚れた女に飽きてもいない。
「変な嫉妬するなって、俺には陽向が一番だよ。何度も言ってるだろ?」
抱き寄せて唇に触れるだけのキスを落とすと、陽向の機嫌がようやく良くなってきた。
だが、その瞳の奥には嫉妬以外の炎が確かに宿り、欲情の色と共にどこか悪戯めいた光を宿していて、こちらに顔を寄せてくると鼻を鳴らして何かを探っていた。
「……母さんの匂いがする」
「そりゃ背負って来たからな」
変な事は何も起きてる筈はなく、実際ただその所為で匂いがついたのだからそう答えたのだが、陽向からしたらそれが気に入らなかったらしい。
自分の母親から俺に移ったそれと、女の色香と混じって漂わせているアルコールが混ざりあった物に何かしらの不快を感じているのだろうが、生憎と俺には分からなかった。
「お、おいっ」
「…………」
強めの力でベッドまで引っ張られると、何を思ってなのか陽向に上に乗られ覆い被されられてしまう。
そしてそのまま抱きついてくると、俺の首筋に顔を埋めながら擦りつける様に動いてきた。
「ちょっ、どうしたんだ?」
「んー、上書き……?」
問いかけにそう答えてくると、そのまま陽向は鼻を鳴らしたり口を付けたりと忙しない。
何が陽向をそうさせるのかはともかく、そんな姿を見ていれば、こうも心を向けてくれているという事実が嬉しかった。
「なんだそれ。ほら、こんな事しなくても、優花さん……いや、おばさんとはそんなんじゃないからさ。心配するなって、な?」
「蓮にぃは黙ってて。後じっとしてて」
「あっはい」
ピシャリと言われてしまった為、それ以上の反論も否定もできず大人しく言う事を聞くことにした。こういう時は黙っておくしかないのだ。それが功を奏したのだろうか、少しずつではあったが陽向の機嫌は治ってきているようだった。
そうしてどの位時間が経ったか分からないが、しばらくすると俺の上に乗っかっていた陽向の動きが変わってくる。匂いを擦りつける様なそれから、首筋を舐めたりキスをしてきたり、あるいは俺の体臭を嗅ぐ様になっていた。
「んっ……ふぅ……」
「陽向?」
陽向の吐息に甘さが混じってきている気がする。そしてその体もどこか火照っている様子で、呼吸が荒くなってきた。
どうしたのかと思う間もなく陽向の体は離れていくと、こちらを見下ろし熱い吐息を漏らしながら言ってきた。
「ねぇ蓮にぃ、しよ?」
「いや、隣におばさんいるだろ。寝てるけど」
「あれだけ酔っ払って寝てるんだから大丈夫だって」
それなりに防音されている壁だが、それだって大きな音や声は耳を澄ませば何となく聞き取れる。実際、別のお宅には聞き取られている。
確かに優花さんはかなり泥酔しているし今夜中に酔いが覚める可能性は低いだろうが、だからといってそんな危険を犯す程に理性と良識が飛んではいなかった。
「無理だって、絶対にバレる」
「でもわたしもうしたくなっちゃたんだもん……我慢できない」
「こいつ……」
「蓮にぃはじっとしてていいよ、わたしが動くから。蓮にぃにわたしの匂い付けたいだけだし」
そのまま陽向は俺の服の中へ手を伸ばし始めていく。
飲み会から始まった妙な後ろめたさのせいなのか、陽向の押しの強さとその瞳の奥から見え隠れする物に逆らえる気がしなかった。