近所の中学生がTSしたので都合のいい女にしていこうと思う 作:あるぺん
「温泉ですか?」
「そう、来月の連休に二泊三日。陽向と一緒に行くんだけど蓮くんもどうかなーと思って」
「いやぁ、お誘いは嬉しいんですけど流石に今はちょっと……」
先日、陽向から温泉旅行に行くとは聞いていたのだが、まさか俺まで誘われるとは思ってもみなかったので戸惑いを隠せなかった。
そして個人的な事情を鑑みて、お誘いを非常にとても実に勿体なく思いながら、優花さんへそう断りを入れていた。
勿論、面倒だとか嫌だとかそういう事ではない。
陽向に着せたい服だとかプレゼントを買ったりしたせいで、夏からここ数ヶ月、懐が少々心許なく旅費まで捻出できる程ではなかったのである。
「何か予定あったかしら? それならごめんなさいね……」
しょんぼりと肩を落とし、謝られながら申し訳なさそうな声を出されると居心地が悪くなってしまう。
それでも無い袖は振りたくても振れない。
「あ、いや、そういう事じゃないんです。単にご一緒するにはちょっと余裕が無いというかなんと言いますか……」
散財っぷりを白状するようで情けなくもあったが、正直に言うしかなかった。
「ああ、宿泊代とかなら心配しないで。懸賞で当たったんだけど一家族分だから蓮くんも一緒に行くのに丁度いいなって思っただけなの。だから遠慮なく来ていいからね? ……それとも他に一緒に過ごしたい人が居たりする? だとしたらうん……ちょっと残念だけどしょうがないわ」
更に肩を落とし、まるでフラれたか捨てられたと言わんばかりの空気。
「いやそれは絶対無いんで!」
「よかったぁ! じゃあ大丈夫そうね」
一緒に居たい相手というのであれば陽向なのだ。それは揺るぎようのない事実だった。
それにしてもパァっと華やいだ笑顔を浮かべてくる辺り、やはり血のつながりを感じる物があると内心苦笑してしまう。
「でも本当にいいんですか? 家族旅行の邪魔になるのもあれなんですけど……」
「あら、私も陽向も貴方なら大歓迎なんだから邪魔になんて思わないわ。それに迷惑かもしれないけど本当に家族みたいって思ったりもしていたから、一緒に来てくれたら陽向もきっとすごく喜ぶでしょうし。……もちろん、私も♡」
優花さんには色々と恩もあるし、これ以上その気持ちを無下にするのも忍びない。ここはありがたく受けるべきだろう。
どことなくゾクっとくる発言は聞かなかった事にしておく。
「……ならお言葉に甘えても良いですか」
「勿論。それじゃ予定はまた後で詳しくね。あっ! そうだ、陽向にも教えてあげないと駄目ね」
「分かりました。陽向にもよろしく言っておいてください。といってもあいつから何か言われそうな気がしますけど」
「うふふ、それもそうね。それじゃあ、何か聞きたかったらいつでも言ってちょうだい」
それを最後に優花さんが自宅へと戻っていく。
ドア越しに優花さんと陽向の喜んでいる声が微かに聞こえてくると、断らないでよかったなと安堵してしまう。
とりあえずは少しバイトを増やすか。連休のシフトを交換する意味でも、旅行の軍資金を捻出する意味でも。
そんな事を考えていく内に、自然と俺も旅行が楽しみになっていたようだった。
どことなく浮かれているのを店長や大学の友人から指摘された時は、何となく気恥ずかしくなったがそれも仕方ない。
美人母子と旅行なんて男なら誰だって浮かれない理由がなかったのである。もっとも、余計な邪念を入れる事なく普通に旅行を楽しむしかないのだが。
長期休暇や大型連休程ではないにしろ、三連休という事だけあってそこそこに人が混み合う新幹線の中。
予約しておいた座席まで行くと後ろを付いてきていた陽向に声をかけていく。
「陽向、荷物寄こせ。上に入れるから」
「うんお願い」
「上杉さんも荷物こっちに下さい。重かったでしょう?」
「ありがとう蓮くん」
女性陣のキャリーバッグを上げていると陽向から不服そうに声を掛けられてしまう。
「むぅ……最近の蓮にぃってば母さんに優しくなり過ぎ」
「そんな事ないだろ。単に年長者に対してそれっぽくなっただけだって」
「……やっぱりおばさんだものね私。そりゃ蓮くんだって遠慮して色々優しくしたくもなるわよね。分かってはいるんだけど……はぁ」
「上杉さん違いますって。全然そんな事ないですから」
落ち込む優花さんをフォローしている姿を見られて、またジトっと陽向が半目で睨んできていた。
これ以上余計な事を言われる前にさっさと席へと付く。
隣になった陽向がまだジト目のままなのでどうするべきか思案していると、逆にあちらから耳打ちをしてきた。
「ね、向こうでいつしよっか」
「……馬鹿」
小さく頭を小突いて諌めたものの、陽向は全く懲りてる様子はない。こっちをチラ見してくるその瞳からは、どこか期待に満ちたものと共に艶やかさがあるものが見て取れた。
ヤりたいかどうかでいえばそりゃヤりたい。温泉旅行で浴衣とか貸し切り風呂でとかなんて、ヤってみたいに決まっている。
だけど出来るわけがないだろうに。母親である優花さんも一緒の旅行なのだから。
「新幹線で二、三時間くらいかしら。朝早かったしちょっと寝てもいい?」
「わたしもちょっと眠たいかも」
「俺起きてますんで大丈夫ですよ。陽向も寝とけ」
優花さんと陽向が小さく欠伸をし、それで会話が途切れると直ぐさま二人は夢の世界へ旅立っていく。
と、思ったその時、隣に居た陽向がそっと俺の手を掴んできた。
「蓮にぃ、手繋いでて」
小さくお願いされ、そのまま手を握り返してやると陽向も眠りについていく。だが、その温かい手に触れている内に何時の間にか俺まで眠ってしまったらしかった。慌てて起きた時は優花さんにくすくすと笑われてしまう始末。
そして新幹線を降りる時、優花さんが撮っていたらしい写真を見せてもらい、後でこっそり送ってもらう事にした。
その中では眠りながら手を繋いで離さないままでいる写真に、何とも言えない幸せを噛みしめてしまうのは仕方がない事だと思いたい。
けどこれ、優花さんにバレてないか……?
駅を降りてからタクシーを使い、そう時間も掛かる事もなく目的の旅館へと到着していた。
「あら、随分立派な旅館だったのねえ」
「そうですね。ネットで見てましたけど実物の方がずっと凄いですね」
趣あるなんて言い方はともすれば古い建物にも聞こえかねないが、そんな昔ながらの良さを残しつつ新しく改装をしたのだろうか、モダンな部分も持ち合わせている。
温泉郷として整備された雰囲気ある街並みによく手入れされた店先は、ただ歩いていくのも心地良く感じられ、旅の非日常感を煽っていくには十分だった。
「修学旅行で行ったような所とは全然違うかも。撮って皆に自慢しとこ」
陽向がスマホを構えてシャッター音を立てているのを聞き、一声かけてから旅館の中に入っていったのだが、こちらもまた中々どうして良い感じだった。
外観と同じ様に、若者や外人さんにも配慮されながらも伝統や歴史を思わせる雰囲気はそのままに。和のイメージを損なわせる事もなく、内装でも旅の非日常を満喫できる様に、そして日頃の疲れを癒やしてくれるのだろう空間となっている。
安宿とは違うなぁ、なんて何とも貧相な感想が出てしまうのだが、実際そう思ったのだから仕方がない。
ただ、受付で出迎えてくれた仲居さんの発言に一瞬固まりかけた。
「上杉様ですね、お待ちしておりました。お部屋は離れの方をご用意させていただいております、どうかごゆっくり御寛ぎ下さい。それとチェックインの方をお願いいたしますね。ご主人様か奥様はこちらの用紙へご記入をお願いいたします」
「蓮くんお願いしてもいい? ねっ、あなた♪」
「勘弁してくださいって……」
悪ノリして優花さんに小声で囁かれると一気に変な汗が流れてきた。
旅館の人たちは単純に三人家族だと思っているだけだろうが、俺はそんなに老けて見えるのだろうか。いやまあ、優花さんが若く見えるから消去法でという事なんだろうけども。
陽向がまだ外に居てよかったと思いつつ、結局優花さんに任せたものの陽向が後で知ったら何を言われるんだか……。
ともあれチェックインも済み、荷物を持って仲居さんの後を追っていくと、これから泊まる部屋へと案内された。
「おおっ、すげぇ……」
案内された離れと呼ばれた部屋にたどり着き、中を見た第一印象がこれだ。
広々としている部屋は、い草特有のどこか落ち着く良い香り。和室を基準にしながらも一部の小部屋には洋風のインテリアもあって中々に面白い。
そして一番目を引くのが大きな窓だ。その先にあるのは青空の下に映える広々とした日本庭園。緑の風情に溢れる光景を楽しむために縁側には足が伸ばせる広々としたウッドデッキもあり、そこで寛ぐ事も出来そうだった。
「ここ全部使えるの!? 凄すぎじゃない!?」
「凄いわね~」
「内風呂に部屋付きの露天風呂も御座いますのでご自由にどうぞ。大浴場は館内へお戻りになって廊下の右手に御座います。ごゆっくりと旅の疲れを癒していってくださいませ。それでは失礼いたします」
仲居さんが立ち去っていくと、残されたのは部屋に感動する俺達三人。
「あんな風に言われちゃうとお風呂に行きたくなっちゃうわね。それじゃあ、先に大浴場行ってきても良いかしら?」
「あっ! じゃあわたし内風呂入りたい! ……蓮にぃ、覗いちゃ駄目だからね」
「馬鹿言ってないでさっさと入れ。俺も大浴場に行くかな」
内風呂もいい物だと思うが、やはり温泉と言ったら大浴場や露天風呂だろう。
「じゃあ浴衣に着替えたら一緒に行きましょ? 陽向は物壊したりしないようにね」
「……わたしもそっち行く」
若干嫉妬してるというか何というか。優花さんと一緒って部分に引っかかったんだろうな。
まぁそれはともかく。
荷物を置き、軽く部屋を見て回ってから浴衣に着替えたのだが、どうにもこれがまた強烈だった。
「じゃーん! 似合ってる?」
「浴衣なんて久しぶりに着たけど中々いいじゃない」
二人が並び立てば、それはもう素晴らしい光景だった。
陽向は元々可愛い系の雰囲気だが、浴衣を纏っているだけでぐっと色気と艶めかしさが増して、正直かなりくるものがある。
そして何より帯で締めつけられる胸の迫力が凄かった。薄手の生地のせいでしっかり隠しているのに形のいいバストや体のラインが浮き出て、陽向の体型を余すとこ無く映えさせていた。
優花さんに至ってはやばいとしか言いようがない。色気がダダ漏れなのだ。
親子だけあって可愛い系の顔や雰囲気は似ているのだが、優花さんはそこに大人の色気とでもいうのだろうか、そういうものが混ざり合いとても魅力的に引き立っている。
陽向のそれがまだ未熟な果実であるとするならば、優花さんのそれは十分過ぎる程に実り熟れたものであり、それこそ食べてくれと誘っているように錯覚すらしてしまいそうなくらいに。
そんな人が浴衣姿だ。襟を合わせているはずなのに動いたら谷間やその先がチラリと覗けてしまうのでは無いかと心配になる程大きく見えてくる。
「蓮にぃ?」
そんな感動をしていた俺を、陽向の声が現実に引き戻してくる。
「んんっ! よく似合ってるな陽向、可愛いぞ。自分で着れたのか?」
「お祭りの浴衣じゃないんだしこのくらい誰だって着れるって」
「そ、それもそうか」
「もう蓮くんってば上手ね~。ねえ、どう? 私の方は似合ってるかしら?」
優花さんも何か思いついたように悪戯めいた聞き方をしてくる。
胸を寄せ上げて強調までしてこられると正直とても辛い物があった。
「と、とてもお似合いで、はい……」
思わず口が滑りそうになるのを堪えて何とか言葉を捻り出す。
優花さんの表情を見るにこれ以上何かしでかしたら危険だと思わざるを得ないし、陽向はジト目になっていた。
さっきまでのテンションはどこに言ったのか、半目になって睨み付けてきて、そりゃもう不満ですとばかりに頬を膨らましていては誰だって分かるだろう。
でも仕方ないのだ。二人共可愛すぎるし美人すぎるんだ。俺は悪くない。
「ほら二人共、風呂行こう! なっ!」
これ以上墓穴を掘ったりする前に早く逃げなくては。
二人が何か言っていた気がしたが、後でどうにでもなるだろうと聞き流して大浴場へと足早に向かっていった。
そして入浴を終えてからは、旅館の庭園を散策したり近くの土産物屋を見たりと夕飯までの時間を楽しんでいく。いったんだが……。
これ、周りからはどう見られてるんだ?
ふと疑問が湧いて出たのは、俺達と同じ様な宿泊客や観光客と思われる人からすれ違いざまに見られているのを感じた時だった。
どうも好意とか微笑ましいというよりは、物珍しげな、もしくは訝し気な視線ばかりが目立って見えている気がしてならなかったのである。
いやまぁ見られている理由は分かる。そこまで馬鹿じゃない。
一緒に居るのが美女と美少女なんだし、そっちの方に目が行くこともあるだろう。ついでに言えば、その二人が俺と手を繋いでいたり腕を取っていたり引っ付き虫と化してるのは、ある種異様にも見えたろう。
でも陽向がニコニコと楽しそうにしているものだから邪険に扱うわけにもいかない。優花さんも同様だ。
だが、どう見ても家族には見えない距離感だった。
どちらかだけならそう見えたかも知れない。陽向とであれば年の離れた兄妹か恋人。優花さんとであれば歳の差夫婦か母と息子、或いは若いツバメなんて可能性もあったかもしれないが。
しかしながら、どっちもセットでというのは傍から見たらどんな光景だったのだろうか?
他人の目なんて気にしすぎても仕方がないと思っていても、そこまで開き直れないのが人間という物で。
両腕から伝わってくる体温と柔らかさに落ち着かないまま、旅の風情と共にその感触も満喫しながら過ごしていった。