早々にマッサージを切り上げて、ボクはあいりちゃんを連れておでん居酒屋に行くことにする。
お店は、ボクが宿泊してるビジネスホテルから歩いて行ける距離で、道中、ボクの仕事の話や、あいりちゃんの大学の話などしているとすぐに着いた。
週末のせいかお客さんはけっこう入ってて、ボクらはカウンター席に案内される。
ボクはあいりちゃんのコートを脱ぐのを手伝う。
彼女が両腕を軽く上げてコートを脱ぐと、薄手のセーターがFカップのおっぱいをぴったり包んで、その丸みが強調される。
ボクはコートを預かって、ハンガーにかける。
「ありがとうございます」って、あいりちゃんがかしこまって礼を言うと、椅子に座ってボクを見上げる。
そのクリッとした目と幼い顔立ちが可愛い。
たたずまいこそ普通の女子大生なんだけど、さっきまでほぼ全裸で二人きりだったことを思い出すと、なんだか背徳的なエロさでちょっと興奮する。
あいりちゃんがカウンターにスマホを置く仕草を見て、ボクは出かける前のことを思い出す。
「あいりちゃん、お店のほうはどう?」って、タオルでオイルを拭きながら聞いてみると、彼女はスマホを操作して「はい、大丈夫です」って答える。
スマホを片付けながら、「予約はさかもつさんが最後なので、お店の人も、もう上がっても大丈夫だよって。……タイミングよくてラッキーです」って気丈に笑ってみせる。
ボクは内心ちょっと切なくなる。
ボクはマッサージを予約するとき、お店のホームページであいりちゃんのシフト時間を見ていて、まだ予約枠に余裕があることを知っていた。
あまりマッサージが上手くないせいなのか、リピートするお客さんが少ないのかも、とボクは内心不憫に思った。
でも、今、ボクの隣に座るあいりちゃんは、ちょっとウキウキした雰囲気でメニューを眺めている。
まぁ、結果的に食事でご機嫌取りしたって事になるかもしれないけど、それはそれで手堅い方法だ。
せっかく来たんだから楽しく食事しよう。
すくなくともボクは、さっきのマッサージから一転して、こんな可愛い子と一緒に夕飯を食べるなんて、レアなイベントにワクワクしている。
「まずはおでん盛り合わせを二人分かな、あいりちゃんは?」
ボクに顔を向けたあいりちゃんが、メニューを指さす。
「じゃあ、『しみしみ熟成厚切り汁だく大根』っていうのを」
ボクは「オーケー」と請け負うと、もう二品ほど見繕って注文する。
ほどなく、おでんが運ばれてくると、湯気が立ち上って、旨そうな香りが漂ってくる。
まずはちくわを食べてみる。
ボクがちくわを箸でつまんで口に入れると、魚の風味と出汁の旨味が広がって、「あ、おいしい」って無意識に感想がでた。
そういえば、わりと有名店だったかな、とか思い出しながら、ボクはあいりちゃんにも箸を勧める。
「いただきます」
あいりちゃんが箸を手に持つと、細い指が器用に動いて大根を掴む。
彼女が大根を口に運ぶと、唇がそっと開いて、熱々の大根をハフッと吹く仕草が可愛い。
「やっぱりおでんは、出汁が命だよね」ってボクが言うと、あいりちゃんが「そうなんです。出汁を味わうには大根だってわたし思ってます。んーっ!」って目を細めて味わう。
ボクも大根を食べて、「うん、出汁が染みてて柔らかい。最高だね」って言うと、あいりちゃんは大根をほおばりながら笑顔で何度かうなずく。
ボクはもちろんだけど、あいりちゃんもお腹が減ってたようで、ボクらは何品かぺろっと平らげて、ひと心地つく。
「そういえば、部屋でこのお店の話をしたとき、お酒にも反応してたよね?」
って言うと、彼女が「反応って、なんですかその言い方」って頬を膨らませる。
「え、お酒苦手?」
と聞くと、「いえ……どちらかといえば好きです」って答えて、唇を軽く舐める仕草にドキッとする。
「オーケー、オーケー、じゃあ何がいいかな。今日は寒いし、ここはやっぱり……」
「「熱燗でしょう!」」
と、ハモる。
なんだか面白くなってきた。
それからしばし、飲んだり、食ったり、喋ったりする。
特に面白いなと思ったのが、あいりちゃんの趣味の話で、主にミステリー小説を嗜んでいるというのに、
「今はブラム・ストーカーを読んでるんです」
とか言ってくる。
あまり小説とか読まないボクだけど、その作家は知ってる。
「え、それってドラキュラだよね? ミステリーとは違うような」
と言うと、あいりちゃんは「それはですね!」と目を輝かせる。
「ミステリーではないんですけど、原作は複数登場人物のザッピング小説みたいになってて、ドラキュラという謎の存在についてそれぞれ異なった視点で語られるのがミステリー作品でも見られる構造で……」って熱く語り出す。
小説を読まない、といっても興味がないワケじゃないから、いろいろ気になってあいりちゃんに聞く。
どうやら、自分の趣味に興味を持ってもらうのが嬉しいみたいだ。
なんだか懐かしさすら感じて、あいりちゃんをほほえましく眺めてしまう。
あいりちゃんはボクの視線に気づいてちょっと照れて見せると、すごく柔らかい表情で笑った。
それからも、ボクはあいりちゃんとで、あれこれ飲み食いする。
飲み物がラストオーダーで、ボクは梅酒ロック、あいりちゃんは冷酒を注文する頃には、結構酔いが回ってきてた。
「今、長期出張でさ、行きつけのメンエスにも行けなくてさ……」
いつのまにか、ボクは愚痴が止まらなくなっていた。
「いつも指名してた子がいて、癒されてたのに、今じゃ、あいりちゃんに会うまで身体バキバキでさ」
って言うと、あいりちゃんが「わたしも大学が忙しくて……単位落としそうでバイトも勉強も中途半端で……」って返す。
彼女がお猪口をグイッとあおるので、ボクは徳利を持ってお酒を注ぐ。
「わかるよ、出張先でネット会議ばっかで疲れるし」って言うと、彼女が「わたしもレポートとテストで頭パンクしそう……」って笑う。
二人の愚痴がお酒で緩んで、妙に共感し合っちゃう。
あいりちゃんが、酔いで赤くした顔を、手の平をパタパタと扇いで醒ます仕草が可愛い。
ボクはあいりちゃんを愛でながら、しみじみ思う。
「いやぁしかし、あいりちゃんって、施術中も恥ずかしがってて、食事に誘ってくるほど仲が良くなったと思えなくて、正直、こんなに楽しく飲めるとは思わなかったよ」
と、正直なところを打ち明ける。
するとあいりちゃんは、ちょっと改まって、ボクに向き合う。
「実は……、学費を稼ごうとセラピスト始めたんですけど、あまり指名もなく上手くいかなくて……」って打ち明けてくる。
「収入の代わりに、機会があれば食事をおごってもらうようなことしてるんです……でも、さかもつさん、本当に楽しそうで、なのに利用するようなことしちゃって、ごめんなさい……」って謝る声が小さくて、ボクの心がキュッとなる。
彼女が俯くと、茶髪が肩に落ちて、色白の首筋が露わになる。
ボクは「でもさ、食事中のあいりちゃんも、本当に楽しそうだったよ。それなのに利用したなんて気にしないで」って慰める。
最近の学生の厳しい環境を痛感するし、おっさんから食事をおごられるだけで心を砕く彼女が健気で可愛いと思うし、なんなら、飯くらいならいくらでも奢るよって、それらの気持ちを全部凝縮して「あいりちゃんは頑張ってるよ」って言う。
あいりちゃんが「ありがとうございます……」って顔を上げると、さっきより頬が赤くなってた。
店を出て、ボクとあいりちゃんは駅前まで歩き始める。
おでん居酒屋はボクが宿泊するビジホを挟んで駅の反対側にあるから、ちょっと歩く。
酔っぱらったあいりちゃんが「指名がすくなくって稼げないのはぁ! マッサージがじょうずくならないせいなんれす……」って愚痴り出す。
「さかもつさんは、メンエスヘビィユーザーなんれすよね? どうしたらいいと思いますかぁ?」
さすがに一人で歩けないほどではないにしろ、ろれつが怪しい。
ボクも酔ってて、なんだか気分が大きくなってて「上手くなるには練習しかないっしょ! 練習あるのみだよ、あいり君」ってなぜか夜空に向けて吠える。
するとあいりちゃんが「じゃあ、今から特訓ですね……!」って意気込んでくるので、ボクらは笑いながらホテルの部屋に戻ることを決めた。