「……あら?」
シャルティア・ブラッドフォールンは、日課である巡回警護中、地表部の中央霊廟へタネヅが転移したのを感覚で捉えた。
ナザリックのNPCたちは、タネヅを含めた至高の四十二人の存在を察知することができる。なんでも、遠くにいても感じ取れるほど“強い輝き”の気配があるのだとか。
「タ・ネ・ヅ・さ・まっ♪」
「ん? おぉ~シャルティア。パトロール中?」
飛び出してきたシャルティアの声が霊廟の静寂に響く。
銀髪がふわりと舞い、ボールガウンドレスの裾が石畳に軽く触れる。
「その通りでありんす。ちょうど第一階層にいたので、御身の崇高で強大なオーラはすぐにわかりんした!」
「お、おう。そっか、いつもお疲れさん」
絶対的な支配者が気さくに声をかけてくれる、それだけでシャルティアの胸は高鳴る。
主の言葉一つ一つが、彼女にとってかけがえのない宝物だ。
「とんでもございんせん。ナザリックは至高の御方々がお作りになった神域。不届き者が足を踏み入れないよう見回るのは当然でありんす」
「お前達はみんな本当に働き者だよなぁ。たまには息抜きしないとダメだぞ。ちゃんと休んでるか?」
「お心遣いに感謝いたしんす。ですが問題はございんせん。アンデッドは疲労とは無縁でありんすぇ」
「いや、そういうことじゃ……まあお前がいいならいいか」
「ところで……タネヅ様は何故こちらに? もし、何もご予定がないのでありんしたら──」
気遣いは嬉しいが、休息ではなく別の意味で“息抜き”させてほしい──主の動向を気にするシャルティアの言葉には、ただの質問以上の何かが込められていた。
しかし、彼にはその微妙な変化が見えていないようだ。
「あぁ、ここへはログハウスにいるユリに
「う〜〜〜残念でありんす。何か新しい依頼でも?」
「いや、
「なっ…! まさか行かれるのですか?」
シャルティアの肩がピクリと硬直し、紅玉の瞳に一瞬だけ嫉妬の色が宿った。
人間の娼婦如きが至高の御方に抱かれる──そんな想像が脳裏をよぎり、尖った牙が唇を傷つけそうなほど噛みしめられた。
「それこそまさかだろ。名も無き
「も、もうっ! 驚かせないでくんなまし!」
シャルティアは大袈裟にホッと息を吐き、薄唇に安堵の笑みを浮かべた。
大きく盛り上がった胸元を押さえる仕草に、男の視線を引きつけようとする計算高さを感じさせる。
「それにしても、全てはご計画の一端と理解はしていんすが、人間如きが御身を呼びつけるなど……あっ! そ、そうでありんす。そんなお労しいタネヅ様にご提案が!」
「提案?」
「娼館には行かれないのでありんすよね? 最近、アッチの方がだいぶご無沙汰だと思いんすが……。ふふっ、色々と溜まってるのではないでありんしょうかぇ? お戻りになられましたら、久しぶりにご奉仕させてくんなまし♥」
彼女の瞳はタネヅの姿を捕らえて離さない。
手指で輪っかを作り、前後にシュッシュッ♥ と動かす動作を見せた。
半開きの唇の隙間からは、ぬめった舌先がチロチロと顔を出す。いわゆるフェラ素振りである。
「それなら色んな子に処理してもらってるから大丈夫大丈夫。今日は組合の帰りにエ・ランテルの上空でナーベラルと
「ぇ…………え? あっ、そ…そうです、か……」
瞬間、シャルティアの表情が凍りつく。瞳が大きく見開かれるが、すぐに無理やり笑みを貼り付けた。
小さな手がドレスの裾をきゅっと握り、寂しげな眼差しがタネヅの浮かれたニヤケ顔を追いかける。
「そういう訳だからさ、ぼちぼち行ってくるわ。後はよろしくなー。そんじゃっ!」
「行ってらっしゃいませ。どうかお気を付けて…………。言ってくだされば…わた、わらわも……」
その様子を見たシャルティアの胸に、冷たい風が吹き抜けた。最後のか細い呟きは虚空にかき消され、誰の耳にも届かず散った。
(はぁ…………近頃はなかなか同衾の機会に恵まれないわね……)
愛する男との親密な時間を思い出すたびに身体の奥が熱くなる。それなのに、その機会が遠ざかっていく現実が、無いはずの心臓を締め付ける。
振り返ったシャルティアは足元へ伸びる影に視線を落とし、とぼとぼと歩き出した。
少女の見た目にそぐわない
その背中には最強の守護者らしからぬ哀愁が漂い、愛に飢えた亡魂の如く霊廟の闇を彷徨うのだった。
◇
同日の夜。
薄暗い照明がカウンターと酒瓶の棚を柔らかく照らす、静かな雰囲気が漂う一室。
第九階層にあるショットバーには椅子がわずか八つ。常連と呼べる者は片手で数えられるほどしかいない、落ち着きのある空間だ。
カウンターの向こうには、副料理長として普段は食堂で腕を振るう男が立っている。
そんなひっそりと佇むバーの扉が今宵、勢いよく押し開かれた。現れたのは、大人の空間には一見似つかわしくない小柄な少女。
「おや、シャルティア様。ようこそいらっしゃいました」
シャルティアを出迎えた彼の名はクラヴゥ。自然を愛するブルー・プラネットにより創造されしNPC。
曜日と時間によってはバーのマスターとして働く彼は、普段とはどこか様子の違うシャルティアに丁寧に頭を下げた。
「マスター! 生ビール、大ジョッキで!!」
シャルティアは椅子にドスンと腰を下ろすやいなや、カウンターに勢いよく手を叩きつける。
どこか投げやりでありながら威勢の良い大声がバーの静寂をぶち破った。
「……かしこまりました」
クラヴゥは『ここは安酒場ではない』の言葉をひとまず飲み込み、慣れた手つきで大ジョッキにビールを注ぎ始めた。
泡立つ黄金色の液体が器を満たし、シュワシュワという音が静かな空間に響く。
彼は無言でジョッキを差し出し、彼女の一挙一動をそっと見守る。
シャルティアはジョッキを受け取ると、躊躇なく一気に飲み干していく。ゴキュッゴキュッと喉を鳴らす音が小気味よく響き、唇の端にわずかに泡が残る。
あまりの勢いにビールが零れ、首筋を伝ってドレスの襟に小さな染みが広がった。
その後ジョッキを乱暴に置き、大きく息を吐く。
「ぶっふぁーっ、くぅ〜! おかわり!」
「……はいよろこんでー」
全く気持ちのこもっていない声色で生返事をするクラヴゥ。
本来は細やかな気遣いのできる聞き上手な男である。しかし心なしか、現在は静かな怒りにより──
「──うぅ~ん、少し酔っちゃったわぁ~」
次々とジョッキが空になり、シャルティアの瞳に赤い血の膜が張る。まるで脳髄がアルコールの熱に溶かされていくかのようだ。
早くも8杯目に差し掛かろうかという頃、とっくに頬は紅潮し目も据わっていた。いくらなんでもペースが早すぎる。
クラヴゥは空ジョッキを片付けながら、聞こえない程度に舌を打つ。とても“少し”などというレベルではない。
(な〜にが『少し酔っちゃったわぁ~』だ。もうベロベロだよ。なんでアンデッドなのに酔うんだ)
アンデッドでありながらへべれけな状態に、違和感を覚えつつも口には出さない。
慎重に言葉を選び、それとなく探るように問いかけた。
「……お言葉ですが、確かシャルティア様には毒に対する完全耐性がありましたよね?」
シャルティアはジョッキを握ったまま、苛立たしげに目を細める。その眼光には不機嫌さが滲んでいた。
「はぁー? ふんっ! そんなもんはねぇ、あらかじめ耐性をカットしてるに決まってるでしょーが! 酔わなきゃやってられないっつーーーのっ!! あー、つらいわー。本当につらいわー」
グラスを磨く手がピタリと止まる。明らかに何かしらのモヤモヤを抱えており、それをこちらに共有させたい気持ちがありありと伝わってくる。
彼女がわざわざ耐性を解除してまで酒に逃げる理由は、想像するだに面倒な話だと直感していた。
(耐性を自分でカットとか、いらん小細工しよってからに……。これ、どう考えても話を聞いてほしい感じだよな……いやだなぁ……)
それでも客を放っておくわけにはいかない。クラヴゥは作業を中断し、渋々ながらも話を振ってみる。
「えっと……何かありました?」
「あらぁ~? 気になるのかしら~?」
シャルティアが身を乗り出すようにカウンターに寄りかかる。
クラヴゥは酔っ払いの視線から逃げるように目を逸らした。
「……ええ、まぁ。お客様の悩みですから……」
(聞いてほしい雰囲気をバリバリ出してただろうが! これだから女ってやつは……頼むからもうはよ帰ってくれ)
全身から構ってオーラが溢れ出ているくせに、今さら焦らされても困るのだ。内心で毒づきながら、何とかバーのマスターとして相応しい対応を心掛ける。
シャルティアの視線が刺さるたび、背筋に嫌な汗が滲むのを感じていた。
「実はね、最近タネヅ様があまりわたしに構ってくれないの……。はぁー、気になる……愛しい御方はわたしをどう思ってらっしゃるのかしら」
「はぁ…随分とご不満のようで……」
「不満よぉ! すっごく不満! 不敬かもしれないけど言わせて! タネヅ様ったら、ソリュシャンやナーベラルばっかり贔屓してるんだから!」
シャルティアがジョッキをガンガン叩きつけると、ビールの泡がそこら中に飛び散った。
クラヴゥは慌てて布巾でカウンターを拭きながら、胸中で悲鳴を上げる。
「あのお二人は確か…同じ冒険者チームとして行動を共にされる時間が多いんでしたよね? であれば、単純にその分どうしても……」
「それだけじゃないの! 聞いて! この前なんて、
シャルティアの声が一オクターブ上がり、握りしめたジョッキからはミシミシと音が鳴り始めた。
クラヴゥはもはやカウンターを拭く手すら止め、ヒヤヒヤした様子で彼女の手元を見やる。
「……そもそもの話になってしまうのですが、それはタネヅ様の自由としか言いようが…いえ、まぁシャルティア様にとっては確かに寂しいというか、もどかしい話ですかね…?」
「当たり前でしょ! 悔しい、悔しい、く゛や゛し゛い゛!! ナザリックがこの地に来て! 御方に初めて愛していただいた女は! あのゴリラでも、ましてやちびすけでもなくわたしなのにぃ…! …………ぐすっ。うっ、うぅぅ…!」
(えぇ……泣いちゃったよ。マジかよこの人)
うつむきがちになったシャルティアが、今度は泣き声を漏らし始めた。
最早どうすればいいのかわからず、クラヴゥは頭を掻きむしりそうになる。
「大体ねえ、そもそもの話をするなら守護者のメイン回をマーレ以外やってないのはおかしいと思わない!? みんなわたしのエロを読みたいに決まってるでしょーが! わたしは超大人気キャラのシャルティア・ブラッドフォールンなのよ!! もうやだぁ~! うぇ~ん!」
「メタ発言はお控えください! それ以上はいけない! ほ、ほら、ビールだけじゃなく何かおつまみとか…あっ、食事はしないか……。えーっと、水! 水飲みます?」
「水なんかいらにゃい! ビール! もっとビール! わたしの心の隙間を埋めるにはアルコールしかないの!」
激昂し、ついにはジョッキを振り回し始める。するとその勢いで彼女の身体がぐらりと傾き──
咄嗟にクラヴゥがカウンター越しに手を伸ばすも、間に合わず椅子からずるりと滑り落ちた。
ドサッと床に倒れ、胸パッドが何枚かポロポロ零れ落ちる。淑女としてあるまじき姿である。
「ちょっ、大丈夫ですか!?」
「うぅ~、タネヅ様ぁ……わたしのこと、もっと見てぇ……抱いてぇ……」
床に這いつくばったシャルティアは、呻くように愛する男の名を呼び続ける。クラヴゥは完全に途方に暮れ、頭は真っ白だ。
(どうするんだこれ……デミウルゴス様とコキュートス様は昨晩ご来店されたし、さすがに連日では来ないか? 最良はタネヅ様だが、このベストタイミングで都合よくいらっしゃるなんて奇跡がある訳──)
その時、バーの扉がギィッと音を立てて開かれた。
クラヴゥにとってこの夜は非情なだけのものではなかった。奇跡は存在したのだ。
振り返ると、ご機嫌な様子の支配者が立っている。まさに彼にとっての救世主だ。
「ようピッキー。ちょっと久しぶりか?」
「おぉ……神よ…!」
「えっ、何が?──って、うおっ! シャルティア!? おい、大丈夫か!?」
タネヅの目が見開かれ、足取りが一気に速まる。
階層守護者としての威厳が消え失せた、ただの酔いどれ少女がそこにいた。
「この状況は…? 一体何が……」
「これは……シャルティア様が、ご自身で耐性をカットした状態でお酒を……。その、色々とストレスが溜まってらっしゃるようでして、私の手には負えませんでした」
「耐性をカット? そんなことしてたのか……」
「ええ。私がお伝えしていいのかわかりませんが、タネヅ様と一緒に過ごす時間が以前より減ったことで、その……幾分、感傷的な想いになられていたようです。それに、
「うっ…そ、それは……」
クラヴゥの言葉に、タネヅの眉がわずかに寄った。それから目を逸らし、並んである酒瓶に視線を落とす。
その沈黙が、絶対的な支配者に似つかわしくない負い目の感情を物語っていた。
「うーん、別にぞんざいに扱ってるつもりはなかったんだが……こりゃ何かで埋め合わせしてあげなきゃダメか…? にしても出来上がり過ぎだろ。どんくらい飲んだんだ?」
「えー、確か……ビールを大ジョッキで8杯、ですかね……」
確認するように指を折り、ため息をつく。
疲れ切った雰囲気のクラヴゥに、タネヅが同情の視線を投げる。
「……そっすか。なんか、お疲れ様です……」
「いえ、とんでもございません……」
タネヅはカウンターに肘をつき、軽くため息をつく。
クラヴゥの作るカクテルは絶品で、たまの息抜きにはもってこいだと彼はいつも言っていた。
本来ならここで一杯やるつもりが、この現状を見て飲む気が失せてしまったようだ。
「やれやれ、今日はやめとくか……。ピッキー、こいつ第二階層まで送ってくわ」
「何も御身がそのような雑事をなさらなくとも。
「あいつらだと、この状態のシャルティアに何をされるかわからないからなぁ……」
「あっ(察し)。……で、ではお願いしてもよろしいでしょうか。申し訳ございません」
クラヴゥの疲れた様子を見たタネヅが軽く肩をすくめる。バー全体に漂うアルコールの匂いが、今日の騒動を物語っていた。
「気にすんな。それより店内がすげー散らかってるけど、どうするよ? 掃除を手伝ってくれるよう一般メイドに頼むか?」
布巾を握り締めた彼は、カウンターの濡れた部分を丁寧に拭きながら首を横に振る。自分の店を他人任せにするのはプライドが許さなかった。
「いえ、これも私の仕事ですから。お気遣いには感謝いたします」
「そうか? まあピッキーがいいなら構わんけど…じゃあカクテルはまた今度ってことで」
「ええ、タネヅ様の次のご来店を心よりお待ちしております。どうか、どうか次はごゆっくり…!」
やけに真に迫った言葉に苦笑したタネヅは、少女の細い腕を引き上げ、ふらつく身体ごと抱え上げる。
当のシャルティアはというと、呑気に「んふぅ~」と甘えた声を漏らし、タネヅの胸に顔を埋め始めた。酒の匂いが混じった吐息が、首筋に生温く触れる。
「タネヅ様ぁ……わたし、ずぅっと待ってたんだからぁ……」
「はいはい、わかったから休んどけ。とりあえずお前の部屋まで送ってくぞ」
ぶっきらぼうながらも優しさを感じる言葉に、朦朧状態のシャルティアが僅かに微笑む。彼女の小さな手がタネヅの服をぎゅっと握り、二度と離すまいと強くしがみつく。
クラヴゥがドアを開けると、シャルティアをお姫様抱っこしたままタネヅは静かに出ていった。
二人がバーから退室すると、一人残されたクラヴゥは周囲に散らばったビールの泡を眺め深いため息をついた。
「はぁ……疲れた……。次は普通の客で頼むよ、ほんと……」
◇
「タネヅ様!?」
第二階層に足を踏み入れた瞬間、バタバタと廊下の奥から飛び出してきたのは内巻きボブカットの
いつも通り胸元がガバ空きで、慌てて駆け寄ってくる姿がエロくてそれだけで勃起しそうだ。
出迎えてくれた彼女の視線は、俺の腕の中でぐったりと横たわるシャルティアに釘付けになっている。
直後、ボソッと「し、死んでる…」と呟いた。いや元から
「お前は……そうだ、A子だったな」
「わたくし如きの名を覚えていただき、恐悦の至りでございます! あの……ところで、何故タネヅ様がシャルティア様を……。そのご様子は…ひょっとして、寝てらっしゃる…?」
あー、なるほど。寝てるようにも見えるのか。
こいつらやシャルティアは睡眠を必要としないから、傍から見ると確かに違和感があるだろう。
「安心しろ。問題ない……とは言わないが、これは飲み過ぎでベロンベロンになってるだけだ。さっきまで九階層のバーで飲んでて色々やらかしたっぽい」
「さ、左様でございますか。副料理長様には多大なご迷惑を……。いえ、それよりも…もしやわざわざ送り届けてくださったのですか!? ご連絡いただければ我々がお迎えに参りましたものを……」
「いや、実はピッキー…副料理長から聞いた話では…。えーと、まあ自分で言うのも恥ずかしいんだが、最近俺との時間が減って寂しかったんだと。要はやけ酒だな。ついでにこないだのお前らとの3Pもバレてたらしい」
「っ…! 申し訳ございません! やはりその、室内の状態と言いますか、臭いなどで…その……」
「あー、別に責めてないからな? 俺が好き勝手やってる結果だし」
恐縮しきったA子がペコペコと必死に頭を下げる。
その拍子にドレスの胸元がぷるんと揺れて乳輪が覗く。なんだその輪チラは。ナザリックの風紀が乱れるだろ。
けしからん。これはけしからんですぞー!
ダメだ、いよいよ本格的におちんちんがイライラし始めてきた。さっさと部屋に入らせてもらおう。
「だからまあ、せめてこれくらいはしてあげたくてな。このまま寝室まで俺が連れて行くわ」
「……あの、タネヅ様……シャルティア様は、御身のことを心からお慕いしております。私たちの主人をどうかよろしくお願い致します」
「でえじょうぶだ。オラに任せておけ。シャルティアのこと、ちゃーんと気持ちよくしてやっぞ!」
「はい。どうか気持ちよく……えっ? いえあの、そういう意味では……」
心配するA子に
こんなにも慕ってくれる配下を持ってシャルティアは幸せ者だなぁ。
最後の方でA子が何故か戸惑った表情をしていたが、きっと気のせいだろう。そうに違いない。
◇
死蝋玄室の空気は、甘く熱い吐息と香炉の煙で怪しげに淀む。
とっくに上着を脱ぎ捨てたタネヅが、シャルティアの細い身体をベッドに押し倒している。
ボールガウンドレスは床に投げ出され、黒い総レースのショーツもどこかへ飛ばされてしまった。
残ったのは、銀髪を乱れさせた全裸の少女だけ。
パッドでかさ増しされていない、あまりにも膨らみの足りない貧相な胸。
無意識にこれからの情事を期待しているのか、まだ何もされていないのにも関わらず、小さな乳首は既に尖りきっていた。
「……ん、ふぅ……タネヅしゃまぁ……」
朦朧とした声で想い人の名を呼ぶシャルティアの両足を、タネヅは無造作に左右に割り開いた。
膝を掴んで大きくM字に広げると、幼い少女のふっくらとした恥丘が露わになる。
「むぅー? だぁれぇ……にゃにしてるのぉー…?」
秘部に顔が近づくと、固く閉ざされた割れ目に唇が吸い寄せられる。
熱い吐息が敏感な粘膜を撫でるたび、シャルティアの全身は小刻みに揺れていた。
「んっ…んふっ、もぉ~……くすぐったい〜」
「すぐ幸せな気持ちになるからねー、それまでちょーっとだけ我慢しましょうねー」
最初は優しく、クリトリスの包皮を押し上げるように舐める。
それと同時に、両手を上に伸ばして乳首も刺激し始めた。
「……? んン…ふっ、ふぅぅ……っん」
舌頭で秘泉をそっと刺激するたび、透明な滴が少しずつ湧き上がり始めた。
純白の太腿が何度も波打ち、嬌声が次第に熱を孕む。
湿った吐息が香炉の煙と絡み合い、それによって室内の空気を高揚させる。
「ふぁっ、あっあっ」
容赦なく舌を這わせ続ける。執拗に、まるで甘い蜜を舐め尽くすように。
シャルティアの腰は勝手に浮き上がり、舌を求めて卑猥に突き出される。無意識に媚びる女の姿がそこにはあった。
手応えを感じたタネヅは、舌先を一気に奥まで突き入れると共に、胸の突起を左右同時にギュッと摘まんだ。
即座にシャルティアの背が弓なりに反る。
「んあぁぁあああッッ!?!?」
「お、やっとお目覚め?」
「ん゛っ、あんっ……えっ? な、なに…!?」
紅い瞳に少しずつ焦点が戻り始める。
先程まで希薄になっていた世界との繋がりが、快楽の奔流で覚醒していく。
「──はぇ? タ、タネヅ、さま…?」
「うーん、まだ少しボーッとしてるか? まあいっか。寂しい思いをさせたみたいでごめんなー?」
「へ? い、いえ。とんでもございませ……あっ。そ、そう! わたし、バーで!! あの! お酒臭くはありませんか!?」
シャルティアは、ここでようやくはっきりとタネヅを見上げた。
段々と意識がはっきりし、アンデッドであるにも関わらず血の気が引くような感覚を覚える。
「大丈夫だ。そんな些細なこと気にするな」
間髪入れず、タネヅの唇が左の鎖骨下にチュパッと吸い付く。
冷たい肌に熱い舌が触れ、赤い痕がうっすらと浮かび、続けざまに新たな場所へと続く。
右の肋骨、胸骨の中心、左の乳首のすぐ横。吸い上げるたびに甘い嬌声が漏れた。
「あんっ、嘘っ…そんな……嬉しいっ……。わたし、ずっと御身の人肌が恋しくて……」
愛欲に濡れた瞳でシャルティアは囁く。
階層守護者としての威厳も、真祖としての誇りも、今はどこにもない。ここに横たわっているのは、ただの“好きな人に愛されたい女の子”だけだ。
ほどかれた髪が大きく広がり、恥ずかしさから顔を背けてしまう。
だが股間だけは正直で、ぴちゃぴちゃと蜜を零しながら「早く来て」とばかりにパクパクと開閉を繰り返す。
タネヅはその卑猥な光景を見て、啄むポイントを少しづつ下げて再び股間へ舞い戻った。
舌先で小さく円を描くように転がす。同時に人差し指と中指で秘裂を左右に開くと、ピンク色の内側が丸見えになる。そこはもう、愛液が溢れてシーツに大きな染みを作っていた。
「だめっ、そこばっかり……!」
「んー? でもシャルティアのここは喜んでるみたいだけど?」
クリトリスを吸い上げたタネヅは、軽く歯で挟んで引っ張る。
逃がさぬよう腰骨を掴むと、敏感な突起を舐めしゃぶり、その後すぐに舌で優しく包み込む。
「ッあひッ♥ 良いとこっ、当たってる♥」
一番弱いところを転がされ、頭が真っ白に灼かれるような快楽。
鋭い愉悦に全身を貫かれ、反射的に身を捩らせるシャルティア。太ももがガクガク震え、踵でシーツを掻きむしる。
限界だとわかっていても尚、膣口を舌に押しつけようとヘコっ♥ ヘコっ♥ と情けなく腰が動いてしまう。
その反応に満足げに笑うタネヅが、最後のとどめにクリトリスを強く吸い上げた。
「──ッ!!ふぅう゛う゛う゛ぅ?!?!?!」
次の瞬間、声にならない叫びが部屋中にこだまする。
ビクン、ビクン、ビクンッ! と膣が激しく収縮し、透明な潮がタネヅの顔に勢いよく浴びせられていく。
身体が激しく跳ね回り、いやらしい部分を全て見せつけんと大きく開脚させた。
真っ平らな胸が小さく痙攣し、腫れた乳首はピンと天を突き刺す。
やがて力尽きたようにベッドへと沈み込んだ。
「う、そ……わたし…また、クンニだけで……♥」
「そんなに良かったのか? よし、じゃあ今日はこのままずーっと舐めてやろうか?」
絶頂の余波でヒクつく膣口を目ざとく発見するタネヅ。
硬く尖ったクリトリスに再び舌先を這わせながら、悪戯っぽい笑みで囁いてきた。
「え…! タ、タネヅさまぁ…………」
「どうした?」
「確かに気持ちいいのですが……」
シャルティアの視線が、余韻の霧に覆われながらもタネヅの顔を捉える。
指先がシーツを弱々しく掻き、新たな刺激を待ち侘びる気配を漂わせた。
「うん。気持ちいいんだろ? じゃあいいじゃん」
太ももに軽く手を置いたタネヅは、肌の震えを感じ取る。
彼女の反応を観察するように内腿をなぞり、淫裂へ指先を近づけては寸前で離す──そんな焦らしを数回繰り返す。
「意地悪しないでください……」
「えー? 何が意地悪なのかわかんないなぁ」
発情しきったシャルティアの訴えにあえて気付かないフリをしたタネヅが、乳首に触れるか触れないかギリギリの位置をなぞるように愛撫してくる。
期待ともどかしさが交錯し、抑えきれない欲求が表面化する。
「どうかお慈悲を……。わたしの中に……早く入れてほしいです……」
「それだけじゃ何が欲しいのかわからないだろ? ちゃんと言葉にしろ」
命令口調の物言いにゾクゾクと体を疼かせるシャルティア。興奮が羞恥を上回り、自らの秘部へ指を這わせる。
なりふり構わず大股開きになり、両手を用いて花弁を満開にした。
「うぅ〜っ…! ちんぽっ、ちんぽっ! わたしの寂しがりまんこにハメてください! 早くパコパコしてっ♥」
その淫らな懇願に、タネヅの目が細まる。陰毛の一切生えていない恥丘の下で、ピンク色の破れ目が期待に震えながら息づいていた。
タネヅは紅い瞳を覗き込みながらズボンを下ろし、脈打つ肉棒をついに解放した。
シャルティアの視線が釘付けとなり、ゆっくりと秘裂に近づいてくる。
狭い膣口を最大限に広げ、亀頭をぴったりと密着させたかと思えば、そのまま押し込まれた。
成長することのない、未発達な幼穴へ肉槍が無理やり入り込んでいく。待ち焦がれたこの時がついにやってきたのだ。
ぬちゅっ♥ …ずちゅるるるるっ……♥
「ぁ……♥ あ〜〜〜〜〜…っ♥ はいっ、たぁ…♥」
腹部が大きく盛り上がり、侵入者の輪郭が薄く浮かび上がる。
自分の体に埋没していく禍々しい男性器を、シャルティアは恍惚の表情で見つめていた。
「ぉっふ……あ〜極楽〜。どうよ、久しぶりの支配者チンポは?」
「おぐまで、入ってるっ……深いとこまで…トントンされてっ、きもちぃ…です♥」
「あんだけほぐしたのに、まだキツいな…っ」
タネヅは腰を回しながら蜜壺を探り、子宮口を亀頭で小突く。
ペニスをゆっくり引き戻すと、膣壁が名残惜しそうに吸い付き、ぬちゃぬちゃと粘ついた音が響く。
「やっぱちっぱい吸血鬼のロリまんこ最高だわ〜。俺の形、ちゃんと覚えてるみたいだな」
「覚えて、ますぅ……。タネヅ様のっ、ずっと…お待ちしておりまし、たっ…。その分いっぱい…可愛がってください」
「もちろんだ。たっぷり可愛がってやる」
おでこからまぶた、鼻、そして唇へと順にキスを落としていく。
一つ一つのキスがシャルティアの肌に温かな痕を残し、細い腕が彼の背中に回される。
「あぁっ、それ好きです…♥」
「シャルティアは優しくされる方が好みか?」
「優しいっ、のも…ネチネチとしつこいのもっ、激しいのもぜんぶ好──うひゃっ!?」
「じゃあ今度はっ、激しくっ、してやる…よっ!」
途中で言葉を遮り、小さな身体を乱暴にひっくり返したタネヅは強引にバックの体勢へと移行する。
細腰を両手でがっちり掴むと、あとはもう容赦なく獣のようにパンパンッ!! と肉槍を打ち付けるだけだ。
忙しなく響く肉と肉の衝突音以外、今は何も聞こえない。
「ぉおおお゛ッ? だ、だからって急にそんな……♥ 本気ピストンだめぇっ……♥」
シャルティアの瞳が蕩け、口元から涎が一筋垂れ落ちた。
膣内が痙攣し始め、ペニスを絞り上げる圧力が強まる。
「えー、だめ? じゃあやっぱり抜いた方がいい? しょーがないなー」
「あーっだめじゃないです! もっと♥ もっとくださいタネヅ様ぁ♥」
その懇願に応じるように、タネヅは彼女の腰を強く引き寄せる。
肉棒を根元までごっっっちゅんっ♥♥♥ と叩き込むと、じゅぶっ♥ ぐちゅっ♥ と結合部からは卑猥な音が鳴り続ける。
「ほぎゅっ!? ほぉっぉぉおおお……♥」
「おいおい、口からもまんこからもすっごい下品な音出てるぞ?」
「もっ、もうひわけっ、ら゛めッ♥ イっ、イっひゃう♥」
言葉にならない声が甘く溶けていく中、ベッドから降りたタネヅは挿入したまま華奢な体を持ち上げた。
シャルティアの足が完全にベッドから離れ、爪先が不安げに虚空を掻く。
「やっ、タネヅひゃまっ、これだとっ、足がつかないで──んぶぅっ!? やっ…♥ んっ♥ んむぅっ♥」
抗議の言葉が途中でくぐもる。タネヅは彼女の顎を逆手で掴み大きく仰け反らせ、背後から貪るようにキスを仕掛けてきたのだ。
「なぁ、ベロちょーだいベロ」
「フーーーっ♥ んぐっ♥ じゅるッ、れうっ♥」
タネヅとは顔が逆さま状態で唇が重なり、冷たい舌が熱く絡みつく。身体が宙に浮き、満足に体を動かせない不安定さが彼女の感覚をさらに敏感にさせる。
海老反りの姿勢で口内を蹂躙されながらも、肉棒は容赦なく膣内を抉り続ける。
(反則っ♥
タネヅの熱気と汗により、ぐちゃぐちゃに濡れたシャルティアの髪が額にへばりつく。
「お前は俺のモンだ! 手放すつもりはないってことを理解したか?」
「しましたっ♥ 理解しまひたっ♥ だからこれからもいっぱいエッチしてくらひゃいっ!」
ピストンの動きに合わせて小さな胸が上下に揺れ、乳首がさらに硬く尖っていく。
頬は燃えるように真っ赤に染まり、半開きの唇の隙間からは舌が無様に飛び出していた。
「じゃあ次はコスプレエッチとかどうだ? ゼッケンに平仮名で“しゃるてぃあ”って書かれてるスク水持ってたよな? それ着たままハメさせろ!」
「着ますっ♥ 旧スクでもセーラー服でもナースでも何でも着ますっ♥」
「
「何でもやりますからっ♥ だからもっと! もっとわたしを求めて! もっと愛してぇええ♥♥♥」
繋がった状態で再び倒れ込んだタネヅは、腰使いを加速させてシャルティアの全身を何度もベッドに押し付ける。
膣壁が食い千切らんばかりに狭まり、内部の圧力はついに限界に近づく。
「愛してる証拠を出してやる! 今から中に
「はひっ♥
身体の奥底からせり上がってくる射精感に身を任せたタネヅは、ロリ吸血鬼の膣内に全て放出せんと──
ぶびゅるるるるーーーッ♥ ごぶごぶごぶっ、びゅぐっ♥ どぼぼぷっ♥ ぶびゅぶぶぶぅぅぅうううぅッ♥♥♥
「ォおおおおっ!? しゅごっ……♥ っっあ゛っあ♥ おぉお〜〜〜??? あっあ゛──〜〜〜〜〜っ♥♥♥」
溜まりに溜まった快楽が一気に堰を切る。
灼熱の奔流が内側から噴き上がり、シャルティアの理性を焼き尽くしながら全身を飲み込んでいく。
「くっ、うぉお…! 締まりキッツ…! 吸い付いて、離れねえ…!」
ぴったりと密着した肉体が重なる中、タネヅは腰を深く沈めながら熱い飛沫を全てぶちまける。
あまりにも大量の精液を注ぎ込まれ、シャルティアのお腹はパンパンに膨らみはじめた。
「へっ♥ へゅ~♥ びゅーびゅーっ、出て……♥ 精液っ……中で跳ねてる…♥」
(あぁぁっ、もぉ〜〜〜♥ すきすきすきすきしゅきぃ…♥♥♥)
意識が遠のきすぎて、シャルティアの瞳はどこか別の場所を向いていた。
膣内でまだ脈打つ熱と、腹部に満ちた白濁の重みが、彼女を夢うつつの世界に留めている。
うつ伏せ状態のまましばらく痙攣していたシャルティアは、振り返りぼんやりと主の顔を捉える。
「このままずっと、タネヅ様を…あなただけを見ていたい……好き……大好き……」
うわ言のように愛の言葉を繰り返す彼女の頭を、優しく撫で続けるタネヅ。
ようやくお互いの熱が引き始めた頃、寄り添うように身を寄せ合った二人は、しばらく静かな余韻に浸っていた。
◇
悪夢の酔いどれ事件から数日が経過した。シャルティアに埋め合わせすべく、タネヅの方から『たまにはゆっくり飲もうぜ』と誘われ、珍しくこの日は二人でバーにやってきた。
「くぅ〜! バーでデートなんて最高! はぁ……幸せ」
カウンターの椅子にちょこんと腰掛けたシャルティアは、両手を頰に当てて上目遣いでタネヅを見つめる。
クラヴゥへの申し訳ない気持ちはもちろんあるが、それ以上にこのシチュエーションが彼女を浮かれさせていた。
「……いやいや、何故シャルティア様がまたここに?」
クラヴゥはカウンターの向こうでグラスを磨く手を止め、面倒くさそうな態度を隠しもせずシャルティアに視線を向けた。
表情は読み取れないものの、機嫌が悪いのは声のトーンからも明らかだ。
「ぐっ…! も、もう許しておくんなまし! 先日は悪かったでありんす」
シャルティアは慌てて両手を合わせて深く頭を下げる。
悪いと思ってはいるものの、どこか“許してにゃん♪”とでも言うような媚びたニュアンスも混じっており、純粋な謝罪より甘えに近い。
「まあまあピッキー。俺に免じて許してやってくれ。これでも一応、先日の件はガチで反省してるみたいだから」
「タネヅ様がそこまで仰るのなら……」
クラヴゥは渋々といった様子で頷き、磨いていたグラスを棚に戻した。
正直、出禁にしてえ……という思いが胸中で渦巻いているのは間違いない。しかし、ナザリックの支配者が許しているのであればこれ以上言うことは無い。
「ぬしには本っ当ーーーに迷惑をかけんした! 御方からもお酒は程々にと言われていんすし、今後は適切な量を心がけるわぇ」
決意に満ちた瞳を煌めかせ、胸を張って宣言するシャルティア。
その妙に自信満々な表情が、逆にまたすぐやらかしそうな予感をクラヴゥに与える。
「お酒は楽しむのが一番ですからね。耐性を切るのは……まあ百歩譲って構いませんが、それでも節度を持ってくださいよ?」
クラヴゥは淡々と返しつつも、どこか諦め混じりの声色で新しいグラスを取り出した。
“楽しむのが一番”という言葉に微かな皮肉が混じっているが、シャルティアは気づかずニコニコしている。
「ええ、任せなんし。タネヅ様、そしてペロロンチーノ様の御名にかけてしかと肝に銘じんす!」
シャルティアは拳を握り、力強く頷いた。
その勢いに、タネヅとクラヴゥが同時に視線を交わす。
「アンデッドに肝はあるんですかね…?」
「いや、そこをマジでツッコまれても……意気込み的なことだろ……」
「どうかしたでありんすか?」
二人の囁きはシャルティアには届いていないようで、キョトンと首を傾げてタネヅを見上げてきた。
「いや、何でもない。よーしピッキー、何かオススメの酒を頼むぜ!」
「オホン。では僭越ながら…先日ついに完成した渾身の一品、十種類のリキュールを使ったカクテル。その名も“ナザリック”をご提供したく」
「いよっ、待ってました!」
「待ってましたでありんす!」
クラヴゥはすぐにプロフェッショナルなマスターに戻り、棚のボトルに手を伸ばし始める。
それからは宣言通り、マイペースに飲み始めるシャルティアだったが──
カクテルを一口飲むごとに、頰を緩めるシャルティアの声が徐々に高くなっていく。
クラヴゥの視線がカウンターの下に逃げ、タネヅは苦笑いを浮かべ出した。
「それでね〜、タネヅしゃまがね〜、わたしに『愛してるぞシャルティア』って耳元でそっと──ってちょっと、聞いてんのぉ? 先生のお話はちゃんと聞かなきゃダメよ~? なーんちゃって♪ きゃはははは!」
言葉の端々が甘く伸び、時折クラヴゥの肩を軽く叩きながらケラケラと笑う。
良く言えば恋話を自慢している少女、悪く言えばただの面倒くさい酔っ払いだ。
「ええ、聞いてますよ……」
「えーっと、シャルティア? シャルティアさーん? もうぼちぼちお開きにした方が……」
クラヴゥの声に抑揚が薄れ、タネヅの言葉も空を切るように響く。
「まあっ、もしかして照れてらっしゃるのですかぁ? ふふっ、そんなお姿も素敵♪マスターもそう思わにゃ〜い? でね、まだ続きがあってね、その後に何度も何度もやさしくキッスを……あ、でもでもぉ♪ たまにしてくださる強引なやつも〜それはそれで〜」
「……」
「……」
カウンターの灯りが、男性陣の心を象徴するかの如く虚しく揺らめいていた。
クラヴゥの指がボトルに伸びる動作が、いつになく重い。手持ち無沙汰のタネヅは静かにグラスを回し、氷の音を立てながら明後日の方向を見ている。
同じことを考えているであろう彼らの内心が静かに交錯した。
((……結局ベロンベロンじゃねえか!))