『このデュエルディスクは、デュエル中に限らず、いつでもモンスターを呼び出せる。とてもリアルなソリッドビジョンを伴ってね。おにーさんには――そのテストを手伝ってもらいたくて』
深くフードを被ったその少女に、そう言われて白いデュエルディスクを受け取ったのはいつのことだったか。
俺の肩の上に乗っかった素早いビッグハムスターに髪の毛を弄ばれながら聞いた説明は、実感を伴って実にわかりやすいものだった。同時に俺が使うデッキのエースのことを思うと、自分のわがままで彼女らを呼び出すわけにもいかないとも思えた。
――黒魔女ディアベルスターと、白魔女ディアベルゼ。
俺の使うデッキは白き森とアザミナの混合である。かつてはでかいシティの大会で優勝した経験もあった。とはいえ、それも昔の話。今では落ちぶれて、デュエリストの掃き溜めと名高いボーンヤードタウンで暮らしている。
新弾パックが来て彼女たちの物語が完結したのは記憶に新しく、だからこそあの壮絶な旅路を経験した彼女たちをおいそれと呼ぶ気にはなれなかった。たとえそれが本当に、とても精巧なだけのソリッドビジョンだったとしても。
白いデュエルディスクを受け取って数日後、俺は行きつけのカードショップである青年と出会い、デュエルをした。互いにしのぎを削り合うような、白熱したデュエルだった。いいデュエリストだった。ひとりで暮らす分には不自由しない程度に実力者であると自負している俺が、あろうことかボーンヤードタウンなんてデュエリストの掃きだめで、あそこまで追い詰められたのは久々だった。
その日は知人の誰かと会って相談でもできないものかと思って、フードの少女から受け取った白いデュエルディスクを持ってきていたから、感想戦のついでに彼に見せてみたが……彼もそんなものは見たことがないと答え、フードの少女が自分のところに来たこともなければ、少女の目撃談を聞いたこともないと言っていた。
であればやはり、なにかよからぬセールスにでも巻き込まれたのだろう。笑いながら彼と話したことをよく覚えている。
――事件が起きたのは、その直後だった。
突如として目の前で起きた、暴走するDホイールの爆発事故。
手に持っていた白いデュエルディスクで咄嗟に爆風を受け止めた俺は、そこで一人になった。
違法改造されたDホイールが、違法な燃料を使って走っていることは珍しいことじゃない。そして事故が起きることも日常茶飯事だ。
だが、あの日起きたあの事件は明らかに異常だった。レーンから飛び出した無人のDホイールが跳ね回りながら不自然に姿勢を安定させ、狙いすましたかのように俺達に向かって突っ走ってきた。俺達の真後ろには俺達が先程までデュエルをやっていた店があった。まだ客も大勢いた――あのDホイールは、一直線にそこへと向かっていたような気がする。
彼は――俺が飛び出すよりも、一瞬早く飛び出していた。暴走するそれを体で受け止めて、正面からハンドルを握って方向をそらし、空き地を挟んで隣に建っていた無人の雑居ビルにDホイールごとその体を壁面へ突き立てた。
反射的に助け出さねばと駆け寄ろうとした俺を止めたのは、彼の『離れろ』という声。血の混じった叫びだった。彼の腹と胸を押しつぶしている赤熱したDホイールからは、激突の衝撃で火花が散り始めていた。
彼の声、焦げ付いた鉄の臭い、彼が突き出した左腕、その手に握られていた――デッキケース。
撮影されたフィルムのように、脳裏に焼き付いて消えない鮮明な光景。
その爆発の後に形を残していたものは、突き出されていたことで千切れ飛んだ彼の左腕と、その腕が強く握りしめていた、彼のデッキだけだった。
命と引き換えにすべてを守り通し、そして被害の拡大を防ぎきった彼は……一瞬にして、瓦礫と化して消えてしまった。
――俺が先に、飛び出していれば。
俺はずっと、そんな強い後悔と自責の念に押しつぶされそうになりながら、日々を過ごしていた。
「…………」
ボーンヤードタウンの郊外、俺が借りているマンションの一室は、日当たりが最高に悪い。
朝日はささず、空気はまずい。それでも目は覚めるから、鉛のように重い体をどうにか起こしては、顔を洗って歯を磨き、テレビを見ながらデッキの整理を行うのが常だった。
『先日、――地区で起きた爆発事故に冠して…………は、…………との見解を』
テレビを見るわけじゃない。ラジオの代わりだ。内容はなにひとつ把握しないが、人の声を聴いていると時間の流れを実感できる。
「……?」
ふと、ひろげたデッキの中から二枚のカードが目にとまった。黒魔女ディアベルスターと、白魔女ディアベルゼ。俺の相棒たち。黒魔女の姿は発売したばかりのアートコレクション仕様で、憑き物が落ちたような、穏やかな顔に大胆な服装で着飾っている。
「俺の姿を見たら……こいつら、何て言うのかな」
ふとこぼれた、その独り言を。
ビルの谷間からわずかに射し込んだ陽光を反射し、きらりと光った白いデュエルディスクに聞かれたような気がした。
「…………なんて……言うのか……か」
気になるなら――実際に聞いてみれば?
そう誰かに囁かれたかのように、俺の体は自然とその二枚のカードを持って白いデュエルディスクを起動していた。
左腕にセットすれば、青白い光の筋がデュエルディスクの上を走る。展開されたフィールドの上に、黒魔女ディアベルスターと白魔女ディアベルゼのカードを置く。
その時だった。
「……っ!?」
デュエルディスクは明らかな異音を発し、眩しすぎる光を放ち始めた。
咄嗟に腕からディスクを取り外したが、光も異音も収まらず、手探りで触れたカードもフィールドに吸着して離れない。
脳裏によぎったのは、あの爆破事故。あの時俺は、爆風から身を守るためにこのデュエルディスクで顔を覆っていた。ガン、ガツン――と小さな瓦礫の破片を受け止めていたような気もする。
遅い後悔を覚えた俺の体がふわりと霧散し、どこか遠くへと吹き飛ばされていくような感覚だけがあって。
――気が付くと。
そこは、青い空と緑の平原がどこまでも続く、外だった。
「…………え……っ?」
幾度か瞬きと呼吸を繰り返した後、その異質さに気づく。
空気の味が違う。清浄、という言葉がこの上ないほど似合う。俺が暮らしていた、ビルが立ち並ぶあの街とは比べ物にならない体の軽さ。
まるで、全く別の世界に来てしまったような――。
「んん……くぅ…………?」
「うわっ……!?」
土と草に触れていた左手が、不意に誰かの体に触れる。
飛びのいて目を向けた先には、女性が寝転がっていた。白い肌に大きな黒い帽子を被った……。…………?
「あれ……? 私、さっきまで……あれ。……どこ、ここ……?」
むくりと起き上がり、帽子とモノクルを整える彼女の姿が、記憶にある誰かと一致する。
……黒魔女だ。ディアベルスターが、目の前にいる。
「ディ……アベル、スター……?」
「あ……。マスター、おはようございます。それと…………おい。うしろの」
「うし、ろ……?」
名を呼ばれた彼女はぺこりと慎ましく頭を下げると、一転した態度で俺の後ろに目を向ける。その先、俺の右側に寝転がっていたのは。
白い服に身を包んだ、淡い金と紫の髪を地面へと流れさせている……白魔女ディアベルゼ。
あの時、俺がフィールドに置いた二枚のカード。それが共に、俺の両隣に俺と同じように寝転がっていた。
「ん゙んっ、んぅ……? ……あー、幻聴かしら。起き掛けに聞きたくない声トップティアの声が聞こえた気がしましたけれど……? あ。ぁ……あ、あっ、マスター! おはようございます、お怪我はありませんか? どこか体に不調はっ? おはようのキスとハグは??」
ぐいぐいと距離を詰めるディアベルゼに圧倒され、困惑しつつ大丈夫と連呼しながらディアベルスターに目を向ける……と。彼女もディアベルゼと同じように俺の体に抱き着いていた。
ぎゅっと腕を抱き寄せられ、大胆な服装のいちばん大胆な部分に腕を抱き寄せられている。彼女が浮かべている、心配そうな、物憂げな表情と裏腹の行為にさらに驚きが加えられた。
「いっ、ぃや……だ、大丈夫。体はなんともないが……君たちは、その」
黒魔女ディアベルスターと、白魔女ディアベルゼ……。何度見ても、彼女たちは俺の記憶にあるそれだ。カードに描かれた女性が、そのまま俺の目の前で生きていた。
瞳に俺を映し、呼吸をして、鼓動と体温が腕から伝わっている。この世界の空気と相まって、それらがあまりに現実的すぎるがゆえに……現実味を覚えられなかった。
これをリアルなソリッドビジョンと呼ぶには、彼女たちはあまりにも――。
「……俺の相棒、の……ベルスと、ベルゼ、で……合ってる、のか?」
それぞれの愛称を呼びながら、それぞれの目を見た時。
二人は揃って、深く頷いた。
「はい。マスター」
「ええ、マスターっ!」
*
――白いデュエルディスクが起こした事故によって、俺がこの世界に転移されてから、かれこれ数週間が経った。
俺達三人は各地を旅してまわり、元の世界へと戻る方法を探しながら、時々現れるモンスターと戦ったり、立ち寄った街で日雇いの仕事をして旅の資金を稼ぎながら暮らしていた。
俺に直接の戦闘能力はないが、念じれば形のないデュエルディスクとデッキが現れて、それを使えば彼女たちの戦闘のサポートができた。断罪のディアベルスターを召喚すればベルスの姿が変わり、アーティファクト・ロンギヌスを使えばそれを彼女たちが振るうことができる。もっとも召喚には多大な精神力を消耗するから、日に何度も戦えはしないし、エクストラデッキからの召喚なんてした日にはひからびて死んでしまいそうなくらいだが……。
ベルスとベルゼ、彼女たち曰く――この世界には、俺の世界にあるデュエルモンスターズ、そのカードに描かれている存在が実在し、皆が一個体の生命として生きているのだという。
その説明の通り、この異世界に来て目にしたもの……長い白髮に大きな帽子を被ったモノクルの女性、黒魔女と、彼女と同じように大きな帽子を被り、白い衣服に身を包んだ笑顔の素敵な白魔女。そして立ち寄ったバイストリートでモンスター退治のお礼にと部屋を貸してくれたジェニーさん――それぞれ、ディアベルスターとディアベルゼ、そしてウィッチクラフト・ジェニー。加えてバイストリートの光景は、まさにウィッチクラフト・バイストリート。すべて俺が知るカードのイラスト、そのままだった。
……唯一、『白魔女』のカードで呼んだディアベルゼだけは、ベルスの姿を見た直後に自分から『原罪』に近い恰好に着替えていたが。
彼女たちにとって、彼女たちの物語はすでに終わっていて――今はこちらの世界を覗き見ながらこの世界、デュエルモンスターズのカードたちが生きている世界でのんびりと暮らしていたのだという。
その矢先に起きたのが、あの事故による転移。見知らぬ土地に飛ばされたのは、俺だけでなく彼女たちも同じらしかった。
「買い出しのついでに聞いたのですが、私達が先日ニュークリア・モンスターを討伐した場所……そこにはもともと小さな村があったそうです。襲撃を受けて住民は皆バイストリートへ避難し、今では廃屋が残るのみですが――お礼も兼ねて、バイストリートの主であるウィッチクラフトマスターから、その廃屋を使っていいと許可がありました」
道を歩きながら、ベルスが俺の隣……右側で古い地図を開き、よく通る綺麗な声でそう話す。
そして俺の隣……左側から、撫ぜるような蠱惑的な声でベルゼが付け加えた。
「襲撃自体は最近のこと……凶暴化したモンスター、ニュークリア・モンスターが現れるようになってからのことですから、風化や侵食が進んでいる様子はないそうでして。仮宿には丁度いいそうですよ、マスター?」
旅をする中で何度か戦った、青白いオーラを纏った凶暴なモンスター。それらはニュークリア・モンスターと呼ばれていて、対処できるほどの実力を持つ者は少ないと聞く。事実、罪宝の力を存分に振るえる、高い実力を有した魔女が二人で戦ってようやく勝てるほどに強い。
にっ、こりと微笑んでこちらの顔を覗くベルゼ。彼女はよく距離を詰めてアピールをするが、その度に可愛らしくきれいな顔だと思わされる。その彼女から目をそらし、反対方向を向いた先にも、また均整な顔立ちの女性が俺のすぐそばに居て、目線が合わないようにわずかに下を向けば大きく膨らんだ胸元がある。俺がついそこに注目してしまいがちなことを、おそらく知った上でベルゼはいつも体を近づけてくる。
「んんっ……けど、廃屋だろう。俺は構わないが……二人はいいのか?」
襲撃を受けたという事実から、その惨状は想像に難くない。あくまで平静を装って話を続ける。
そのような場所で、女性ふたりが休息を取れるのだろうか。その疑問にはベルゼが答えた。
「それに関してはご心配なく、マスター。わたくしは大抵の魔術は修めていますから……廃屋を綺麗な一軒家へ元通りにすることなんて、朝飯前ですよ?」
くるくると手に持った杖で円を描き、お任せあれと言わんばかりに微笑むベルゼ。
その案に対し、腕を組んでベルスが聞き返す。
「修復した上で仮宿にするっていうのには私も同じ意見だったけど……修復に必要な資材はどこから調達するの? 何を構築するにも資材……材木が必要でしょう。買いあさるわけにもいかないし」
「そのために貴女のような筋肉のだるまと同行しているのでしょう? 適材適所という言葉がご自慢の肉体には備わっていないのね。いいことアステーリャ、貴女はせいぜい汗を散らして馬車馬のように働いて近くの森から材木をえっほえっほと運んできなさいな。肉体労働のあとは知識と才能に秀でた側の仕事よ」
「……ああ、そういうこと。確かにあなたのセンスと才能はからっきしだもんね。うん、資材運搬と修復は私が担当するわ。そしたらマスターのお褒めの言葉もご褒美も独占できるもの。あなたは安心して草葉の上でごろ寝でもしてなさい、贅肉のかかし――ああ違った、リゼット。適材適所、うん、いい言葉ね」
「あ゙??」
「何かしら」
……この二人は放っておくとすぐに言い争いを始めてしまう。大抵、ベルゼが売ってベルスが買う形だ。
立ち位置として、常に俺が真ん中に挟まれる形になるから、両手で彼女らの肩を軽く押して宥めさせるのがこの世界で常だった。
「え、っと。廃屋を修復して使うって手には賛成だ、お願いしたい。先立つものも必要だから、宿代はできるだけ節約したいしな……」
「ええ、ええ、お任せくださいませマスター! とても快適なお部屋をご用意いたしますとも♪」
ぱん、と手を叩いてご機嫌な様子でベルゼがそう答える。
簡易的な結界を張って野宿をするのも慣れたが、できるならしたくはない。仮宿とはいえ、この世界に自分たちの家が持てることは嬉しい。
修復は手間だろうけれど、少しだけ楽しみに思いながら、俺達はその廃屋がある場所へと歩いて向かった。
*
そうして、ニュークリア・モンスターに破壊された廃屋は二人の魔女の手によって新築同然の一軒家に生まれ変わり――深夜。
旅の疲れを癒すために主人がぐっすりと眠った頃、二人はどちらともなく家を出て、月明かりの下で顔を合わせた。
「……夜更かしすると肌に悪いわよ。アステーリャ」
「お互い様でしょう、リゼット。起きてる理由も」
幼少の頃から二人はよく衝突し、かつては命懸けの戦いすらすることもあった。
取り巻く因縁に決着をつけた今、二人は気兼ねなく憎まれ口をたたき合う、互いのことを友人とも他人とも呼び難い関係性へと落ち着いている。
そう思いたくはないが、自分たちの間には確かに強い結びつきが、通じ合うものが存在すると彼女たちは理解していた。
夜の底、夜風を受けて並び立つ二人の間にあった沈黙こそがそれであり、今、二人はともに同じことを考えていた。
「……ある、らしいわね。マスターを元の世界に帰す手段」
先に口を開いたのはリゼット。
その言葉に、アステーリャは夜空を見上げながら答える。
「あのウィッチクラフトマスターが、白いデュエルディスクを配ってるから……ふたつの世界を渡り歩く手段も、当然持っているわけで。あの人の……マスターの目的は、達成されている……わけだけど」
バイストリートで彼女と話した内容。それはこの廃屋を自由に使っていいということだけでなく、彼女達三人の転移が事故であること、自分の力があれば彼を元の世界に帰すことができるというものでもあった。
その言葉に対し、二人は揃って同じ返事をした。主の言葉を待つことなく。
「や、帰せるわけないでしょ、普通に」
「彼一人、あの狭い部屋に戻るわけだものね。私たちは窓を覗くことしかできなくて――今こうしてるみたいに、声をかけることも、触れ合うこともできなくなる」
「あの事故があってからだわ。彼、ずうっとあのことを後悔して、自分がそうなりたかったとすら思ってる。……危なっかしくてしょうがないのよ、あのおばか! 誰かのために戦って殉死でも果たせば、それでいいとでも思ってるわけ!?」
「……思ってるんでしょうね、無意識に。あんな大きなモンスターの前に出て戦うなんて、普通の精神で出来ることじゃないもの」
白き森の師のもとで魔術を学び、育てられた彼女たちは、自分が無力な子供であった頃のことをよく知っている。戦う力を持たない者のことをよく知っている。
だからこそ、彼の今の姿が異常であると感じていた。
彼は……明らかに生き急いでいる。死を望んでいる。あの日できなかったことを、果たしたいと願っている。
「誰も――望んでなんていないのに、そんなこと」
窓の向こうから覗き見た、ビルに突き刺さったあの青年の姿。彼が握り締めたデッキケースの向こう側に見えた、焦燥と決意に満ちた精霊の顔。
私たちが今、彼に生きて欲しいと願っているように。あの日散った彼にもまた、そう願っていた存在がいた。
――あのデッキケースの中にいた、エクソシスター・マルファは。なにか、決意したような、覚悟したような顔をした彼女は。
左腕だけを残して散った彼を、助け出すことができたのだろうか?
「で」
俯き、考え耽るアステーリャにリゼットが声をかける。
「……聞きたいことがあるんだけど。アステーリャ」
「何。リゼ」
いつになく真剣な、はっきりとこちらの目を見つめる顔を同じように見つめ返すアステーリャ。
「あたしはね、彼のことが大好き。彼を愛してる。あたしのことを信じて、握り締めて、戦ってくれる姿が好き。今までも、今でも、これからも。だからまあ……その、今、多少、ぇやかなり、強引な手段を取ろうと……思ってる……んだけど」
「奇遇ね。私も一緒」
「あらそう、ならよかった、じゃなくて。だからその、一緒なら――普通は? 普通はどっちかが抜け駆けして、一抜けして……ってのが……普通でしょう? だけどその、あたしは……なんていうか……そうやってあんたを出し抜けたとしても、後味がよくないっていうか、なんて、いうか……どうせ一緒に旅するんだから、ぎくしゃくするのは勘弁っていうか」
「……結局、何が聞きたいの?」
ごほん、とリゼットは咳ばらいをひとつ挟み。
「あんたさ。……マスター、ごと。あたしのこと、抱ける?」
少し紅潮したリゼットの頬には、『自分はかまわない』という意思が表れていた。
あたしは構わない。あんたはどうなの。好きになった相手ごと、同性であり腐れ縁の仲である自分と同じベッドに入れるのか。
「あたしは、その、勿論あんた単体とはごめんよ? マジで。でもその、同じ立場になるならいいっていうか、『ごと』、ならいいっていうか。二人で、ぉ、お嫁さんになるのも、いいかな、って思ってん……だけど」
もじもじと両手の指を絡めながら、ちらと顔色を窺いつつ返事を待つ。
時間にして数秒、なんであたしの方ばっか喋って恥ずかしい思いをしてんだと爆発するより先に、するりとアステーリャの手のひらがリゼットの頬を撫でた。
「奇遇ね」
「あ……アステーリャ?」
「……私も一緒」
冷たい夜風と対照に、二人の体温が高くなる。
互いの意思は確認した。なら、行動を起こすのはいつでもいい。それこそ、今でも。
時刻は深夜、夜の底。彼はこの家の中でぐっすりと眠っている。ここは元は廃屋で、徘徊するモンスターは既に倒して、誰も来ない。
正真正銘自分たちだけ、私たちだけの世界。邪魔は、入らない。
「私は……彼に生きてほしい。命を無駄にしてほしくない。でも、あの事件を忘れさせるような、今の彼の心を書き換えるだけの説得なんてできそうもない。……だからいっそ、より単純で、手っ取り早い方法を取ろうと、思ってた」
そう言って、黒魔女は小さなリップを取り出す。灰色をした、強い魔力が宿るリップ。
「一応……聞くけど。それ、なに?」
「呪具。使った相手を従属させて、自分のものにできる。相手が望めば、ね」
「……使い方は?」
アステーリャはにっこりと淫靡に微笑んで答えた。
「実践で教えるわ。リゼ」
*
目を閉じる度によぎるのは、あの光景。
夜が訪れる度にそれを見る。今でも眠るのは恐ろしいが、この世界に来てからは、体に溜まった疲労が俺を寝かしつけてきた。
だから眠る。そして、逃れたくて起きる。その繰り返し。体力は回復できても、いつも、しっかりと眠りにつくことができなかった。
――その日も、だから。
俺は夢を見ているのだと、最初に思った。
「……、…………ぁ、……む。ん、っちゅぅ…………♥」
「れぇぇ……る……、れぅ…………、んっ、む……ず、っじゅるるるるるるぅ…………♥」
がたん、びくんとベッドが揺れている。次第に意識が明瞭になるにつれ、揺れているのが自分の体だと気づく。
靄のかかった頭の中に、思考を押しのけるほど膨大な快楽が存在している。狂おしいほどの放尿感と、至りきらない快感が股間の奥に入り混じっている。その快楽でぼやけた輪郭を柔らかく熱い唇の感触がなぞり、自分の性器が射精寸前のまま時間を止められたような勃起をしていると認識できた。
「あ――、ぁ…………?」
声を出そうにも、うまく出ない。全身がベッドに縛り付けられているような気がする。やっとの思いで開いた目と浮かせた頭で、視線の先にある光景を見た。
「ん、むぁ……っ。おはよう、ございます……マスター……♥」
「んぶ……? ん、んっ……ぢゅるるる……ぢぅぅ……ぢゅ、じゅずるっ♥」
左側には、脇腹を抱き寄せて俺の乳首にしゃぶりついている全裸のディアベルスター。
視線の奥で、髪をかき上げて俺の性器にしゃぶりついている全裸のディアベルゼ……。
「な――、に……ぉ…………っっ、し、で――っ、あ゙っっ」
びくんっっ、とまた強く体が跳ねる。至りたい、吐き出したいと訴える性器には甘く強烈な刺激が与えられ続けているのにも関わらず、その寸前で煮えたぎった精液が股間の奥に押し戻される。
絶頂――できない。状況を何ひとつ飲み込めないまま、現状だけを認識し続ける。
犯、されている。黒魔女と、白魔女に。絶頂を、禁じられたまま――?
「ん、っぢぅるるるるる……づっぷっっ♥ ん、っ……むぐ……♥」
「勿論……襲っているんですよ。マスターを……あなたを。……リゼのお口、見てあげて?」
「く、ち――っ?」
「ん……ぶ、ぁ…………♥」
指し示された先、俺の性器を口から解放したベルゼがこちらに向けて小さく口を開ける。
こぽ、と中で液体が揺れていた。透明な、それでいて白く濁った、彼女の舌で踊らされている液体――。
精液――では、ない。紅潮した頬がしつこいくらいに熱くなり、息も荒くなっていく。
「あれ、全部……あなたの、我慢汁、です。あなたが眠っている間、ずうっと私と彼女であなたの体を隅々まで味わいつくして……数十秒をかけたストロークで、ゆっくり、ゆっくり、あなたの性器を――おちんぽ、を――♥ 味わって、味わって、あれだけの量を搾りつくしたんですよ?」
耳元で囁かれる言葉にすら、今の俺の体はびくりと反応し、絶頂にまで至りそうだった。
その快楽も寸前で押し留められ、頭の中に流し込まれた言葉と興奮だけが積み重なっていく。ベルゼの口の中にある液体、あれが全部、俺の――? あれほどの量を搾り取られて尚、俺は、ただの一度も射精できていない。そう告げられる。
今の俺の頭は――快楽と快楽と快楽と興奮で、破裂寸前の水風船――だ。
「ぷぁ……♥ むぐっ、ん、ぐ……んく、んく、…………ん、く……♥ ……ご、くんっ♥」
その風船に、針を突き立てられるように。ぱくりと口を閉じて、ベルゼがそれを少しずつ喉を鳴らして飲み込んだ。
「ぶはっ♥ ごちそう、さまぁっ……ますたぁ……♥」
べぇ、と伸びる赤い舌。淫らな表情と、汗ばんだ綺麗な裸体、体に張りついた綺麗な金髪。すべてが官能的で、非現実的で美しくて――だからこそ、『なぜ』と問いたくなる。
なぜ、こんなことを。なぜ、いや、違う……。
「な――ん、でっ、ぃ……ィ、け、なっ…………」
頭の中は、さっきからずっと、それでいっぱいだった。
なんで、絶頂できない、射精できない。突き立てられた針はゆっくりと風船に突き刺さり、破裂させるのではなく、塞ぐように一体となっている。俺の前に裸を晒し、心の底から愛おしそうな顔で俺を愛でている二人が、愛情と相反するような仕打ちをしていることがわからなかった。これほどまでに愛されている理由もわからないが、それ以上に。
俺の体を縛り付けている力と、俺の射精を封じている力が――彼女たちが用いる魔力とまったく同じものであると感じられる、その理由がわからなかった。
「マスター。……マスターは、元の世界に帰りたいですか?」
左から、ベルスに囁かれる。頬を、その細い指で撫でられながら。
元の……世界。そうだ。俺には俺の、帰るべき世界がある……。破裂しそうな股間のもどかしさに涙すら浮かべながら、俺はゆっくりと頷いた。
ぎゅ、っとベルスのしなやかな手が体液にまみれた俺の性器を握る。その手はひとつではなかった。
右から、唇を舌で拭いながらベルゼが近づく。ベルスと同じように、俺の性器を握って。
「ふぅん……帰りたいんですのね。……ここには、私たちがいるのに?」
何本も何本も快感の針を突き立てられながら、破裂したいと訴えながら、それを絶対に許されないまま。
ちゅく、ちゅくと音を立てて、二人の手が性器を扱く。ベルスが根元を上下に、ベルゼは亀頭を握るように。
絶頂したい。射精したい。させてくださいと懇願しそうになる。耐えられない、それでも。
「こ、こはっ……ぉ……俺の、いる、べきっ、世界――じゃ」
俺は異邦人で、本当は、この世界の彼女たちと一緒にいるべきじゃない。
二人のことは確かに好きだ。でも、その好意は、少なからずこういった形にすべきものじゃない。
必死になって想いのすべてを詰め込んだ言葉を、詰まる喉の底から押し出すように口にして――。
「はむ」
「ん、むぐ――!!?」
続く言葉を言おうとした瞬間、ケーキでも頬張るような勢いでベルスに口を塞がれる。
もう何本目かもわからない快楽の針の刺激。じゅるじゅると音を立てて貪るようなベルスのキスから――『うるさい』――とでもいいだけな想いが伝わってきた。
「くすっ……。本当に、強情で、見栄っ張りで、強がりで……なっさけない。女が二人さ、あんたのこと……『大好き♥』『好き好き♥』ってしてんの……わかってないの? それ、ぜぇんぶ無視? こっちはあんたの気ぃ引くために、ずぅぅっと一緒に過ごしてきて、ぎゅーって抱き着いたり甘えたりしてたのにさぁ……ほんっと…………」
唇を貪られる最中、そんなことはお構いなしとベルゼも俺の耳元で囁く。普段とまるで違う、粗暴な口調で。
そして最後に、ぎゅっっ――!! と強く亀頭を握り締めて。
「――そーいうとこが、大っ……好きっっ♥♥」
びゅぐ、びゅぶぶっ……、と水を吸ったスポンジのように、彼女の手に握り締められた俺の亀頭から我慢汁が溢れ出る。
射精したい、射精したい――射精する、今、するっ――。そう俺の性器が訴えているのがわかる。尿道を押し広げて精液を噴き出す準備をし続けているのがわかる。それでも、それだけが、許されない。
ずろ、ぉ――と、名残惜しそうなベルスの舌と口が離れていく。見開かれた銀色の目に、俺の顔がはっきりと映っていた。
「はぁ……はぁ、ほん、と……こんなに上等に育った体の女がふたり、迫っても……答えは変わらないんですね。そういう、っ、そういう態度、取られるとっ……こっちも、本気でやばいんですよ……わかります? 我慢してたんですよ、ずっと……今でもしてるんです。精液……マスターの精液が欲しいんです。お口でごくごく飲みたいし、おまんこの中にだってぶちまけて欲しい。ゃ違う、一滴残らず、搾りたい。あなたが我慢汁どぷどぷ出してるのと一緒ですよ。私も――っっ」
満足に動かない手を取られ、熱く柔らかいものに押し付けられる。ぐっちょりと濡れたそれが何なのか、見ずともわかった。
ディアベルスターの、性器。ぉ……まん、こ。
手のひらから伝わる感触は、致命的なほどに俺の体を興奮させた。頭の中が、招かれる指に感じる触感に支配されていく。歯のない歯茎と頬肉にしゃぶりつかれ、丹念に舐られるような――。
駄目、だ。だめだ、考えては……。でも。
そこに、『挿れたい』、という、思考が。
どこまでも、巨大に膨れ上がっていく。
「はぁ、はぁっ……。……マスター。射精……したいですか? 私とリゼ、お口とおまんこ、どっち、なんて聞きません。選ばせません。だから答えてください。……射精したいですか?」
口調は変わらず、語気だけが強まったベルスの質問に、小さく頷いて答える。
もはや声も出せなかった。声を出そうと試みれば最後、膨らみすぎた欲求と疼きが、本能のままに要求を口にしてしまいそうだった。
「じゃあ――『射精させてください』。そう言ってください。ただし…………、ごめ、リゼ……説明、続けて」
――そう、まさに、その言葉。それを、必死で飲み込み続けているのだと心の内に返す……と。
突然ベルスは言葉を中断させて、俺の体の上で手を這わせてずりずりと体を回転させ――た、瞬間。
「ぁむっっ♥♥ ずっっぢぅぅぅぅぅぅぅ…………♥♥ じゅる、じゅぶっ、じゅぶっっ、じゅぶ、じゅぶっっ!!♥♥」
「~~~~~~ッッ!!?」
先程までとは比べ物にならないほど強烈な快楽が、豪快な水音とともに訪れる。
びゅぐ、びゅぶっ、と絶えず我慢汁が溢れ出る。それを搾り取られ、時折飲み下されてはまたしゃぶられる――ほんの一瞬で行われる無数のストロークは、ベルゼのそれと全く対照的で。
「はっ? え、ちょ……あー……おっけ。我慢できなかったわけね……っと」
音を立てて性器を貪るベルスの様子に構うことなく、それどころか優しく俺の乳首を指先で転がして刺激を付け加えながら、ベルゼが説明を引き継いだ。
彼女が俺の目を見た瞬間、やはり俺は『その言葉』を口にしてしまいそうになる。懇願、してしまいそうになる。必死で押し殺して、彼女の言葉を待つ。
「こほん……ただし。言った瞬間……マスターとわたくし達の間に、絶対的な上下関係が結ばれます。マスターはわたくし達に服従し、わたくし達はマスターの体を好きにできる。今行っている射精の禁止は序の口。もちろん、そうなった場合にあなたを元の世界に帰すつもりなんて毛頭ありませんので♥」
序の口――これ、が?
いや、大事なのはそうじゃない。絶対的な上下関係?
そん……な、それほどまで、強引な手段を取ってまで、どうして――。
どうして――俺、を。
「それでも……わたくし達を拒むのであれば。『帰りたい』と、仰ってください。拘束は解きますし、わたくし達も明日からはそのように動きます。……まあ、勿論」
「その場合――射精は、絶ッッッ、対……させませんけど」
ぎゅう――ッ、と強く性器を、玉袋の方を握り締められながらそう告げられる。腹の底から押し出されるような声が出る。
どうして、そう、『どうして』だ。ずっと、その疑問がついてまわる。
彼女たちは俺のことを好きだと言ってくれた。それは、本当にうれしい。けれど――好きなら、尚のこと、どうしてこんな、強引な手段、を。どうして、どうして――射精、させて、くれない?
必死で頭を働かせるが、答えに行きつく前に快楽が思考を奪い去る。組み立てた疑問は、最後に決まって本能的な欲求に打ち崩される。
下品な音を立てるベルスの唇がぴったりと張りつき、そして離れた。瞬間、何度目かも数えていられないほど繰り返した痙攣で俺の体が跳ねる。
「づぽ――っっ♥♥ ……ん、っっ……ごくん……♥ ……ほら、聞かせてください、マスター。でないと私達――」
「これから先、ずう、っと……あなたが噴き出す潮と我慢汁を啜り続けることになりますわよ? ほら、答えを聞かせて。……聞かせ、ろっっ♥」
今度はベルゼに手を奪われ、むにゅう――っと、ずっとそばにあり続けたそれへと抱き寄せられる。
お、っぱい。ベルゼの、おっぱい――やわら、かい。思わずうっとりしながら反射的に揉んでしまう俺の姿を見て、口の周りの唾液や我慢汁を親指の腹で拭ったベルスも、同じように俺の手を奪い、そして――おっぱいを、揉ませて、くれた。
どろり、と。音を立てて、思考が融けていく。気持ちいい……気持ちいい。片手にひとりずつ、違う少女のおっぱいを味わえる、その感触……だけじゃない。
二人が、俺に。
体を許してくれる、ことが、嬉しくて、気持ちいい……。
……ああ、でも、駄目だ。『したい』、と、考えるのは……。だって今の俺は、こんなにも苦しいまま、射精だけを取り上げられている。だから、しちゃいけない、できない。
でも、したい。したくてたまらない。二人と。
「……アステーリャ」
「ん……何? リゼ――」
「ごめんっっ……ね?」
言、おう。言って、しまおう。
どうして言ってはいけないと思っていたんだったか。その理由を忘れた言葉を口にしよう、と……した、時。
「「――――あ゛ッッ」」
ぱんっっ。……と。何かとなにかが激しくぶつかり合う、弾けるような水音がして。
俺から漏れ出た声が、俺の体の上に覆いかぶさったディアベルゼの声と重なった。
「~~~~ッッ?? は、ぁぇ――えっ、あ゙ッ――ぇ」
「ぁ――っっ、これ、や、っば……!!♥♥ イく寸前でっ、ずぅ、っと、お預けされてるちんぽの感触っっ――♥♥ やば、これ、マジっ、で、やっ――ばぁっっ♥♥ マスター、っごめんね、リゼ我慢できなかった♥♥ っでもいいよね、だって、お預けさせてきたのマスターだもんねっ、ずっと我慢してたのっ、リゼ達の方なん、だか、らッッ!!♥♥」
ばちゅんっっ、ばちゅんっ、ばちゅんっ、ばちゅんっっ――と、彼女、の、体……全部が、襲い、かかる。
目の前で汗を散らして激しく揺れるおっぱいも、彼女の据わった瞳も、全部、全部が俺を襲う。
熱く、むしゃぶりついてくるなにかに包まれてしまった性器が、悲鳴をあげている。俺の喉も、腹の底から溢れ出る悲鳴を奏でている気がする。心地いい、気持ちいい、のに。達せない。
――ディアベルゼの、おまんこを。犯しているのに、犯されているのに、犯せ、ない。
聞こえてくるのは激しくぶつかりあう腰と腰が鳴らす水音だけ。逃れようにも、体も口も動かせない。
「うぁ――ひっどい♥ まだ返事も聞いてないのに一方的にレイプしちゃって……かわいそうなマスター。でも……その顔、その声。すっごい……素敵♥」
「っっ、ぁ、ベル、スっっ、だすけ――っ、ぎもぢぃぃっ、ぃぐ、ぃっげなぃ、いぐ、ぃぐ、い――――っっ!!!」
「ほぉら、マスター。イかせてほしいなら、何て言うの? ちゃんと覚えてますよね。リゼと私にお願いしてください。ほら。言って。……言え♥」
「~~~~~~ッッ!!!!」
言おう、と、して、いたのに。それを、取り上げ、たのは――彼女が、い、きなりっっ――。
「あ゙~~~~ッッ♥♥ リゼごれすきっっ♥♥ リゼ、マスターのちんぽだいすきぃっっ♥♥ ほんっっとにぎもぢぃっ……♥♥ ぉっ、お゙♥♥ ずぅぅっと硬いまんまのおちんぽっ、ずぅぅっといいとこぐりぐり押し上げてくれるのだいすきぃっっ♥♥ 出せ、だせ、せーえきだしてっっ、リゼのことママにしてっっ、マスター、マスターっ、ね、ねっ♥ ――ィ、っけ!!♥♥ 言え、っつってんの、早く、ほらッッ!!♥♥」
「しゃせ――ぃ、させ、え゙ッッ!!! ~~~~ッッ!!!! ぁ、っが、しゃせ、させ、ぇ゙ッ――」
「頑張れ、頑張れ♥ ……リゼを孕ませたら次は私だよ? いっちばんキツいのは今なんだから……頑張って言えたら、あとは……ね? ほら……ちゃあんと、言って? 言え」
「言え、言え、言えっっ、言えっっ!! 子種も潮もオシッコも全ッッ部よこせっっ!! ぁぁぁぁあっっィくイくイくイくイ゙ぐっっ寸止めバキバキおちんぽぶち犯してイぐっっ!!! ぁ゙ッ――♥♥」
快楽という、強酸に、焼かれ、融かされ、ながら。
押し出した言葉が、言葉になっていることを、願った。
「しゃせ――させ、で――ぐだ、さい――――ッッ」
「「――――っ♥♥♥」」
頭蓋の中身が裏返り、真っ白に弾け飛ぶ、その寸前。
俺の腹に優しく触れながら、確かにディアベルスターが何かを呟いた。
「……“セーブ”。…………“オープン”」
「ぁ゙」
ぱん、と。
針にまみれた風船が、濁流をせき止め続けていた脆いダムが、その一瞬で決壊する。
「ぉ゙ッッ!?!!?♥♥ ~~~~っ、ィ、ぐ――――ぁ゙ッッ!!?♥♥ 待っ、やば、なにごれっ、リゼの、お腹ん中、に――ぃ゙ぃぃぃいいぃいぃいッッ!!!♥♥ あは、あははははっ、やば、最っっ高♥♥ ぉ゙ぉおおおぉおおっっ♥♥ せーえき、おしっこみたいに噴き出てきてっ、ィくの、止まんなっ――♥♥ ぁ゙…………っお゙へぁ!!!♥♥♥」
裏返ってはじけ飛んだ、頭蓋の中身ごと、体の中の何もかもが真っ白い濁流になって股間から噴き出ていく。
背中をのけ反らせたディアベルゼの真っ白いお腹が、ぎゅ、ぎゅっと蠢いて、ゆっくり、ゆっくり、膨らんでいく。
こじ開けられた子宮口に亀頭をしゃぶられ、溢れ出るすべてをそこに飲み込まれていく。
それは最早、快楽や、絶頂と、言う、よりも――消滅、に、近かった。
「あ゙…………っっ♥♥ ぁ、へ……♥♥ ひゅ、ご……っ、こぇ…………やば…………っっ♥♥」
自分の意識がすべて快楽に変わって霧散するような、心地いい消滅。それを味わい、浸り、自我が消えてしまいそうな最中。
脱力し、俺の上に覆いかぶさるディアベルゼと、ずっと俺の脇から頬を撫でてくれていたディアベルスターが、ともに顔を俺の首へと近づけて――。
「「……んっ……む…………♥」」
俺の首に口づけた、瞬間。ぎゅっと、俺の首が何かに締め付けられる感触があった。
気道や血管を締め付けるものではなく、むしろ心地いい――誇らしさすら覚える、存在しない首輪の感触。
それを感じたとき、俺は、あの時二人が話した言葉の意味を理解した。
「……もう、逃がさない、から――ぜ、ったぃ……♥」
「ずっと、ずーっと、一緒。あなたの体は、もう――私達の……もの♥」
両耳から注ぎ込まれる二人の主人の言葉を、受け入れながら。
ずるりと、ベルゼのおまんこから引き抜かれる性器の感触と外気の寒さ、そしてひどい名残惜しさを感じながら。
俺の意識は、ゆっくりと夜の闇に溶けていった。
「――“ロード”」
「はえ――――ッ」
目を、閉じようとした瞬間。ずくんと酷い疼きに襲われる。
ごぷごぷと股間の奥に何かが滾り、最後に感じた名残惜しさが急激に膨らみ、ベルゼの子宮を満たした充足感がじわりと消え失せていく。犯したい、犯させてください、犯してください、おまんこに挿れたい、射精させてください――あらゆる感情が股間から脊髄を通って伝わり、呼吸と心が乱れていく。
まるで――ほんの僅かに、時間が巻き戻ったように。
「な――ッ、何、を――され、ぇ――ッ」
「“クローズ”」
「あ゙く――ッ!!?」
ほんの僅か、驚きで噴き出そうになった精液すら、ベルスがその言葉を呟いた瞬間にびたりと静止する。
射精したい、のに、できない。させて、もらえない。ああ。同じだ、まるで同じ。
あんなに必死で耐えて、懇願して、やっと出せたのに――元、通り?
「ぅあ……アステーリャ、容赦なさすぎ……♥ こーなると怖いよ、この子……♥ 泣いても許してもらえないだろうから……まあ……がんば♥」
膨らんだお腹を撫でさすりながら、息を整えていたベルゼが傍らから俺に囁きかける。
言葉通り――ディアベルスターの据わった瞳は確かに恐ろしく。
「……ほんとは体力の回復だけで済ませるつもりだったんだけど……リゼが、あんまり気持ちよさそうだから……。ごめんね、マスター……私、も――っっ♥♥」
「あ、ぁっ、あ、ゃ、待って――――」
「ん゙っっ♥♥」
ディアベルスターが俺の上に跨り、ぐぱ、と性器をひろげた瞬間。ごぷぉっ――♥ と音を立てて溢れ出た愛液の塊が、ぼとりと俺の性器に落ちる。そしてどろどろに濡れたそれを、ゆっ――くりと、咥え、こまれ、て――い、く。
きつい、狭い、苦しい、やばい、気持ちいい。ベルゼのそれは一瞬だったが、ベルスは少しずつ味わうように頬張っていく。絶頂寸前で押し留められた俺の性器の、高まった感度が、ベルスのおまんこを隅々まで味わいながら、至ることのできない絶頂へ向かおうとして、硬く閉じた蓋を何度も内側から突き上げる。
「ぉ゙…………♥ ぉぉぉぉぉ…………っふぅぅぅぅ……♥♥ すご……これ、確かに……ゃば……♥ 気持ちいい、って、いうか…………落ち着くっ……♥ ふぅぅ……っっ♥♥ あ゙~~~~……っっ♥♥」
そして、俺の上に座り込むようにして、奥の奥まで性器を迎え入れて――ベルスの動きは、そこでぴたりと静止した。
ぎちぎちに締め上げる膣内は蠕動し、俺の性器を丹念に舐めしゃぶるが、犯しては、くれない。強酸のようだったベルゼとのセックスとは対照的に、ベルスはじっくりゆっくりと味わいながら溶かしていくような、挿れたいと願っていたおまんこに挿入できたにも関わらず、狂おしいほどのもどかしさを伴っていた。
「ベル、ス、頼っ、せめて、せめて動い、て――っっ」
「あ゙ーーーー……♥♥ ぁ゙ーーーー…………その、顔…………好き……♥♥ ふふ、ぅふふふっ、つらい……? 実ぁね……わたし……も♥ もどかしくって……あたま……ぉかしく、なり、そ…………♥♥ ……でぇ、も♥ ……うごかさ、なぃ……♥」
にっ……こりと、とろけきった笑顔でおもむろに自分のおっぱいとクリトリスに手を触れるディアベルスター。
そのまま彼女はふたつの手でそれらを刺激し始めて、ぎゅ、ぎゅっと刺激に反応する膣内がまた強く俺の性器をしゃぶり始めた。
せめて――せめて、動きたい、突き上げたい、犯したい、のに。それすら許されず、ただ、まるで玩具として使われるような思いで犯され続けることしかできない。
「……あたしが言えたことじゃないけど……あんたも大概ヘンタイよね……。ちんぽ挿れながらオナニーって……いくらなんでもマスターがかわいそうだと思うんだけど……」
「ぁ゙ぇえへぇぇぇ……♥♥ っぐ、ぃく、ぃ……くっっ♥♥ 好き好き好き好き好きっっ、このちんぽ、だい、っす、きぃ――――♥♥」
「ぅあ゙、っぐ、ぅ、ぎぅ――ッ!!」
ベルゼの言葉にも最早耳を貸さず、一方的に絶頂するベルスの膣が俺の性器にしゃぶりつく。
歯のない歯茎に、思い切り噛みつかれるような強烈な刺激に、苦しみもがくような嗚咽がこぼれて、噛み締めた歯の隙間と口の端から唾液が流れ出る。
「……だぁめだこりゃ。はぁ、まったく――マスター?」
「え――っっ」
「“オープン”」
ベルゼに名前を呼ばれた瞬間、そのもどかしい快楽に更なる追撃が加えられる。
閉じきっていた蓋がこじ開けられ、行き場を求めていた精液が突如として立ち上り始め、ただの一度もベルスの膣を犯さないまま――俺は再び、意識が消し飛ぶような射精を彼女の子宮めがけて放った。
消え入りそうな悲鳴とともに、ベルスのとろけた笑顔が困惑と絶頂に塗りかえられるのを見上げながら。
「ぃ゙――ッッ!!?!?」
「ぉ゙へっっ…………??♥♥ ぇあ、リゼ待っ――――♥♥ ぁ――あ゙ぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁあぁああああ…………っっ♥♥ ィっぐ、イってる、のにっっ、せーえき、びゅぐびゅぐっ、おなかに……ぃ゙っっ♥♥ ィぐのっ、イ゙っちゃうのっっ、お゙、おぉぉぉぉぉぉっっっ…………♥♥」
「はい、びゅーーーー……びゅぅーーーーっ……♥ おもらし射精、アステーリャのおむつまんこにどうぞ、マスター……♥ 一度もピストンしてないのに、あはっ、すっごい量♥ あたしに注いだのとおんなじだけ……アステーリャの子宮にも注がれてく♥ あの子のお腹、どんどん膨らんでるの、わかる……? あれ、ぜぇんぶあんたの……精液、なんだよ……♥」
少しずつ、少しずつ、ベルスのお腹が、膨らんでいく。
俺が強烈な快楽に悶える最中、真っ白く消滅していく意識が全部、彼女の膣内に、子宮に注がれていく。
辛うじて、その様子と、ベルスの幸せそうなイキ顔だけは見ることができたけれど。
俺の意識は、とっくに限界を超えていて。
「ぁ゙へっ……えへ…………っ♥♥ マスターっ……ひどい、のっ……♥ 女の子の、いちばん、大事なとこっ……こんなに、膨らませて……♥♥ っっ、独占、して……そんなに……アステーリャのおまんこ、気持ちよかったんだぁっ…………♥♥ アステーリャも……マスターのおちんぽ、大好きぃっ…………♥♥」
そうして、射精がようやく終わる時。お腹を膨らませた二人の魔女に、両の頬にキスをされて、抱きしめられながら。
深い深い多幸感と絶頂の余韻を味わいながら、俺の意識が、やっと、やっと――解放、されるのを、感じながら――。
俺は――。
「「“ロード”…………♥♥」」
長い――長い、長い、永い、夜を――。
二人の、魔女に、愛されながら、なぶられながら――過ごし、続けた。
*
……その世界は、どこまでも果てしなく。
起源も歴史も、法則すらもまるで違ういくつもの世界たちが、粘土のように混ぜこぜにされたような印象を受ける。
ならば、人の足で踏破できる限界はどこなのだろう。俺が知るものも、俺を知るものも何ひとつない世界を歩き続け、いつしか俺の心にはそんな興味と目標が出来ていた。
「お疲れ、ベルス、ベルゼ――今はアステーリャとリゼットか」
ニュークリア・モンスターとの戦闘を終えて、二人は幻影のディアベルとシルヴィに手を振り、幻影もまた小さく手を振り返して消えていった。
形だけのデュエルディスクからカードを取ってデッキにしまえば、二人の姿は俺がよく知る大人のそれへと戻る。
この世界の本人たちの助力のないまま、己の精神力だけで幻影を召喚して戦うのにも慣れてきた。次あたりは邪眼の大炎魔の召喚にでもチャレンジしてみるか――。
「んんっ……はぁっ! 昔の姿に戻って戦うっていうのも、ずいぶんおかしな感覚ね……アステーリャ、あんたは慣れた?」
「まあ……それなりに? 体力は落ちるけど、知識は変わらないから、あの時あれだけ強かったらな――なんて思ってた自分の姿をやれて、結構楽しいかも。マスターもお疲れ様、いつもありがとう」
ぱん、とベルスと軽くハイタッチをして、体を伸ばしているベルゼを労う。
マスターとして新たな力を使いこなすことで、彼女たちの負担が少しでも軽くなればいいのだが。
「惜しむらくは――魔力が足りないせいか、使えない魔法も多いんだよね。あの姿でこそ使いたいのに」
「使いたいって……何を?」
「“セーブ”と“ロード”。あと“クローズ”と“オープン”」
「わかるわ」
それはマジで勘弁してほしいと二人に頭を下げたりもしつつ。
「――この度は本当にありがとうございました……! 通常のアンデッドであれば手持ちの道具で対処できるのですが、ニュークリア化が重なると、我々だけではどうしようも……」
「いえ、お気になさらず。一宿一飯の恩がありますから」
植物に抱かれたビル群にある集落の中心で、俺達は旅の疲れを癒させてもらったお礼に襲来したモンスターを撃破した。
本来、この地区は哨戒を担当してくれている人たちがいて、たまたまその人たちがいなかった日に連中が襲ってきたのだと聞く。
経験則だが、ニュークリア・モンスターは狡猾だ。ここを襲う危険のあるアンデッドには規則的な行動をする習性があることを知った上で、あえてその裏をかいてきたのだろう。目的は不明だが、これも経験則から当てはめるに――人間を殺戮するために。
「日に日に、ニュークリアという現象の脅威は増してきています。今回は我々が居合せたからこそ、助けることができましたが……いずれ来たるかもしれない、頼れるものが何もない時の対処法も、考えておいたほうがよいでしょう。それを想定した訓練も、きっと必要になるかと」
胸に手を当てて、ディアベルゼがゆっくりと、一言一句をしっかりと伝えるように話す。
こういうとき、彼女が『良い魔女』の姿に変わるのを何度も見てきた。始めこそギャップに驚くが、普段俺達と過ごす姿もこの姿も、どちらも彼女が持つ一面に過ぎないのだと思う。
「戦うことは考えない方がいいわ。連中は狡猾で残忍で、だからこそ強い。恐れず、臆さず、生き残るという勝ちを得ることを考えて。命を繋ぐことが――次のターンに繋ぐことが、最善の手になる時だってあるから」
あの夜、彼女たちは俺の主人となった。魔法を用いた服従だが、俺はそれに不自由を感じたことはなく、また彼女たちが不自由を強制するようなこともなかった。
――死に急いでいたのだ、俺は。彼女たちが集落の人々に語る言葉が、そのまま俺の心にも突き刺さる。
俺の首にある、形のない首輪に触れながら、俺もディアベルスターの言葉に耳を傾けていた。
「そろそろ行こう。ベルス、ベルゼ」
「はい。マスター」
「ええ、マスターっ!」
長い語らいを終えて、まとめた荷物を担いで彼らに手を振る。
行先は決めていない。足が動くまで歩き続け、日が傾けば足を休める、その繰り返し。
昨日と違う場所で夜を明かす繰り返しの旅は、無為といえばそうなのかもしれないが、何も変わらない日は一度だってなかった。
そうして旅を続けていれば、いつか。考えたこともなかったような、奇跡のようなことだって起きるかもしれない。
元はと言えば――ひとりぼっちだった俺が、二人の魔女という伴侶を得ることができたのが、そもそも奇跡だった。
次はどんなことが待ち受けているだろうか……。小さな楽しみを覚えながら、数歩、集落から離れた時だった。
「――さん、ご無事ですかっ!? 怪我は……!!?」
遠くから、人の声が聞こえた。急いでこちらに向かいながら、何かを叫んでいる。
……心配? している?
「ん……? あれは……誰かしら?」
「マスター、前方に人影が。複数人――?」
二人もそれに気づいたようで、俺達は足を止めてその人影がはっきりと視認できる距離まで来るのを待った。
「ああ……! エクソシスターさん! 神父様!! 我々は無事です、このお方たちが助けてくださいましたよ!!!」
背後から、先ほど話していた男性の声が響く。この距離で、彼らは意思の疎通をはかっている。待つのが惜しいと言わんばかりに。
――。待てよ。エクソシスター、と呼んだのか?
「……ぁ……あ! リゼ、あれ――!!」
「…………んなこと、ある……?? マジ……??」
そして、目の前に現れたのは。
エクソシスター……。マルファと、エリス。
それと。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!! ぁ、あなた方が――? ありがとうございます!! 何とお礼を申し上げたら――!!」
「…………嘘だろ」
「へっ……? え――、…………あっ……」
互いに、互いの名を、呼ぼうとして。
名前を聞き忘れていたことを、思い出して。
二人そろって、相手をなんと呼べばいいか、わからないまま。
俺達は、涙を浮かべて、青空の下で笑い合った。