かなしい…。
ハンナドールの頬を涙が伝う。
館の二階。大きく窓の取られたサンルームには、陽の光の代わりに、月明かりが降り注いでいた。白い、金の装飾の施されたティーカップを満たす液体は仄赤い。
カップを なぞる指は たおやかに、吐き出した嘆息は湿っぽく。湯気に乗って咲いた香りも、彼女の憂鬱を晴らすことはなかった。
月明かりに照らされたハンナドールの横顔は美しい。
物憂げな表情でさえ、一つの絵画のよう。何がそんなに悲しいものか、端正な顔立ちに浮かんだ涙は途切れることもなく、また一滴と頬を流れていく。
かなしい…。
二階の窓から見る景色は、赤く揺れていた。
森の外れ、あちら と こちら の境に火の手が上がっている。怒号と悲鳴。雄叫びと鳴き声。ピカッと、光ったのは魔法の輝きだろうか。稲光の後に雷鳴が響く。火の手が大きく膨らんで、弾けたかと思えば、モクモクと煙が立ち昇った。
恐ろしかった訳じゃない。いや、怖いことは怖いのか。
自分達を殺しに来た人の群れ。それが恐ろしくないなんて事はない。あのユーレリアでさえ そうなのだから、しがないお化けでしかない自分には、恐ろしくてたまらない。
騒がしくなった窓の外に引き換え、森の中は静かになってしまった。
普段、良く鳴いている虫たちの声が聞こえない。ほぅ、ほぅと、寝ぼけ眼のフクロウも、何処かに行ってしまっていた。それに代わるのは、殺したがりの歓声ばかりでイヤになる。
それが、かなしい…。
音もなく、持ち上げたティーカップに口を付けた。
鼻に抜ける香気は錆臭く、舌で舐めた液体もどこか血の味に感じてしまう。
それが、悲しい。上手に淹れられたと思っていたのに。これなら雫も喜んでくれるだろうと思っていたのに。
お茶請けのクッキーでさえ、涙で湿気ってしまっている。舌の上で溶けるチョコレートも苦みが強いばっかりで、全然美味しくない。
「大丈夫か、ハンナドール?」
「…ユーレリア?」
ガシャリ…。
聞こえた足音に振り向けば、首のない甲冑が、いや今は付いているけれど。
気遣わしげな表情で、彼女は私を見つめていた。
「…平気よ。ちょっと悲しくなっただけ。貴女が今日も難しい顔をしているから」
「…悪かったな。つまらん顔で」
「そうは言ってない。ただ、難しいと言っただけ。面白いかどうかで言えば、面白いほうよ?」
「ああ、そうかい。からかわれているんだな、私は」
「そうも言ってない。ただ、あの子の前では笑っていて。そんな眉間に皺を寄せていては、怯えてしまうから」
「努力は、しているよ」
やっぱりか。窓の外が気になるのだろう。言葉を区切ったユーレリアは、つまらなそうな顔をして外を睨んでいた。
「ユーレリアーっ、ユーレリアったらーっ!」
ふと、館の方から呼ぶ声がある。幼子が、愛しい人を呼ぶような。声に振り返ったユーレリアの眉間から、少しだけ皺が取れる。
真面目なこと。
言った通り、努力はしているんだろう。あまり得意ではないようだけれど。
染み付いた顔立ちは、一度死んだって中々治るものでもないようだ。
「…すぐ戻る」
「ごゆっくり…」
ガシャリ…。耳障りな足音を立てて、ユーレリアはサンルームを後にする。
かなしい…。目を覚まして、真っ先に呼ぶのが自分じゃないことが悲しい。
きっと、寝苦しかったんだろう、怖くもなってしまったかもしれない。あの子がいい夢を見れなかったこと、それが悲しい。
ユーレリアは上手くやれるだろうか。怖い顔をして怯えさせたりはしないだろうか。自分なら抱きしめて、慰めて、寝かしつけて上げられるのに。ちゃんと引き止めておいて欲しい。あの子が、怖い目に合わないように。出来れば、寝ている間に全て終わらせたかったけれど。
濡れたティーカップの縁を指でなぞる。
きゅっと、聞こえた音は暗く沈んでいて、やっぱりそれが悲しかった。
ーーーー
ここは、地獄か。
狂ったものが死んで、死んだものが動き出す。
一度と、死神の大鎌が振られれば、散った命が刈り取られる。退路も無ければ、前にも進めなくなった。
もう何人目だ。
俺を庇って死んだ仲間が動き出す。その首を刎ね退ける。
分からない。もしかしたら、大鎌が奪った命の数よりも、俺が殺し返した仲間の数の方が多いじゃないか。
「リットリア…」
大鎌に斬られた傷が塞がらない。縛って、抑えて、薬も、魔法でさえも、流れた血を止められなかった。震える足で、一歩、踏み出したクライストは、目の前の館を睨みつけた。
開け放たれた扉には、リットリアの小さな背中がある。
首のない甲冑に両脇を抱えられ、彼女にはもう抵抗する力も残されていないようだった。無惨にも鎧を剥かれ、服を破かれていく。乙女の柔肌を晒しても、羞恥に震えるばかりで、声を上げる様子もない。
助けて、クライスト…。
声が聞こえた気がした。幻聴か、それはそうかも知れないが。
すすり泣くような呟きが耳に届くほど、俺は彼女に近づけてもいない。
無力なまま、辱めを受けるリットリアの後ろ姿を眺めているだけだ。
「ぐっ…あっ…」
うめきながらも、更に一歩。胸から溢れる血は止まりかけていて、俺ももう長くは無いのだと察せられた。あるいは、アンデットの仲間入りか。だが、そうなる前に彼女だけでも助けたい。いや、死んででも彼女だけは助けて見せる。
「かなしい…。逃げてって、そう言ったのに…」
「出来ないとも…言ったはずだ」
「そう…。でも、これ以上は行かせない。帰らないのなら、ここで大人しく見ていて?」
黒い服を着た女は、その白い肌に涙を浮かべていた。
女の細腕が、倒れ掛かった俺の体を引き寄せる。背後から、優しく、その胸に抱きしめるように。
天使かよ。
感じた母性に頬が緩みそうになる。
リットリアを追いかけるどころの話じゃない。この女一人に、部隊が壊滅させられた。長い黒髪の女だった。月明かりを流した黒髪は輝いて、妖艶な女の美しさを際立たせる。悲しいと、涙を流しながら。何がそんなに悲しいものか、女は表情を変えないままに泣き続ける。
俺達にとっては、正しく死神だった。
しくしく…と、女の泣き声に心を乱される。お前のせいだ。お前が悪いんだ。
攻めるような泣き声に、耐え切れなくなった者から気が狂っていった。
悲しいと、逃げろと口にしながらも、一歩たり、館に近づくことは許されない。
女の細腕に添えられた大きな鎌は、おとぎ話に語れる死神を思わせる。
ただ、引きずる様に、足元に引かれた だけの境界線を、俺達は誰一人と越えられなかった。
「彼女を…リットリアを返してくれ。俺が…代わりに」
「それはだめ。悲しいけれど…」
女の腕を振りほどけない。流れる血など、もう出し切ったはずなのに、胸の鼓動が早くなるのを感じていた。死の間際に子孫を残そうとでもしたのか。
バカバカしい。血を失いすぎて、頭が朦朧としていた。晒されたリットリアの肌色に、視線が固まってしまったのは、きっとそのせいだ。
悔しい。当然だ。仲間が辱めを受けているのに何も出来ない。
やめろと、心が叫ぶ。その女は俺のものだ。手を出すんじゃない。
負け犬の遠吠えだ。それすら、胸の内で叫ぶことしか出来ない自分が情けない。
目を逸らす。
リットリアの肌を見ていられなかったんじゃない。
俺は、俺自身の情けなさから顔を背けていた。
「よく見て? 貴方のために散る花よ?」
「やめろ…見せるな…」
たおやかな女の指が、俺の頬を撫でた。
俯いた顔を持ち上げられ、視線の先には、裸にされたリットリアの姿が映る。
ドクンっ…。
どうしようもなく男が反応してしまう。
なけなしの血液が股間に集まり、早くなる鼓動に傷口が痛んだ。女の色香が、そうさせたのか。戦いの興奮が、そのまま性の衝動に直結したように体が熱くなる。
綺麗だと、思う。
まだ年端もいかない少女(リットリア)の肌に、目を奪われた。
いや、違う。興奮していた。辱めを受けてる彼女の姿に、場違いにも欲情してしまっている。
クライスト。
俺を呼ぶ、彼女の笑顔が胸に浮かぶ。
そうだ、助けないと。俺が、俺の、それは、俺の女だ…だから。
ギィっと、関節が軋むようだ。鉄錆た血の匂いに、体まで錆びついてしまった。
女の細腕を振りほどけない。伸ばした手が空を掴む。リットリア、リットリア。
彼女の痴態が目に焼き付く。夢中になっていた。瞼を閉じるのを忘れた俺は、息が切れるほどにその光景を凝視する。
「かなしい…。嫌だと言いながらも、ここは…こんなにして」
「やめろ…さわ、るな。おれに、うぉっ!」
鎧を、衣服をすり抜けて、女の指が直接俺のモノに触れた。
ヒヤリとした指先に俺の熱が移る。柔らかな女の感触が強くなり、股間が更に熱くなった。上下に、さするように、指が這う。甘い痺れとなった快感が、背筋を駆けた。
ガクガクと、足が震えだす。
快感から逃れようと腰を引く。けれど、女の指に誘われた腰は勝手に動いてしまう。「浅ましい」と、その声を聞きながらも、引き出されていく性欲を抑えられなかった。
生の女の感触だ。金銭で成立する情婦の手管ではない。
たおやかな女の指先が、艶めかしく俺のモノに絡みつく。決して手慣れたものではなかったが、それが余計に俺の男を くすぐった。撫でて、擦って、時には からかうように。悪戯な仕草を見せながらも、女の指使いは優しいままに、俺のモノへ愛撫を繰り返す。
「ほら、もっとよく見てあげて。せっかくの晴れ舞台なのに」
「晴れ舞台…だとっ。あんな、辱めを…。くそっ、だれ、が…お前の言いなりに…くっ」
「大人しくしていて。そうすれば、直に貴方の番だから」
「ふざっ、けるなっ!」
腹に力を込めて、出来うる限りの声を上げる。
それは、女への反抗というよりも、脳裏によぎった光景を振り払うためでもあった。
俺が、リットリアを犯す?
あの少女を。細い手足を、柔い肌に手を掛けて?
ああ、そうだ。あんな化け物共に回されるくらいなら、俺がしてやったほうが彼女にも、何倍だってマシな事だろうが。ふざけるな。たとえリットリアが望んだとして、そんな事。
閉じない瞼を無理に落とす。
俺の男は反応してしまっても、せめて、せめて、心までは流されたくはなかった。これ以上は、自分が許せない。女の手管に反応させられてしまっても、それをリットリアに ぶつけるなど、出来る訳がなかった。
「かなしい…。ふざけて なんかないのに」
それも無駄か。
女の指が閉ざした瞼に触れると、その裏にリットリアの裸が映る。まるで直ぐ目の前にあるようだ。白い肌が色づいているのが分かる。肌を流れる汗さえ見える。
脇腹に浮かぶ青痣が痛々しい。丸い尻を揺らしながら、太ももを寄せる後ろ姿が悩ましかった。
思い出してしまう。
「きゃっ」と、聞こえた少女らしい悲鳴を。染まった頬と同じに、赤みを帯びた肌を。風呂上がりにかち合った時、湯粒が照らす彼女の髪は、光を弾いて美しかった。
「すまない…」
「いえ」
思えば、俺はこの時始めてリットリアを女として意識した。
子どもとばかり思っていたから。普段は隠されていた女の形を前にして、目が奪われてしまった。確かにある胸の膨らみと、男にはない腰のくびれ。
いつもは、性別なんか意識してなかった彼女がみせる乙女の恥じらいに、立場を忘れそうになる。
気の迷いだ。
若い女の肌を見て、何も思わない方がどうかしている。
けれど、一度意識してしまえば、気持ちは大きくなるばかりだった。
「かなしい…。団長、団長、クライスト、クライスト…。懐かれて、うれしかったですか? 年の離れた妹に、そんな風にも思っていた相手に、欲情してる。今、ほら? 犯されそうになってるってのに、興奮…してしまって」
女の声が耳に響く。それは脳へと直接響くように、俺の心を揺さぶった。
「…いうな。お前が、余計なものを…みせる、から…」
「かなしい…。私はただ、彼女を見せているだけなのに…。ただ、貴方を見ているだけなのに」
「やめろ…っ。勝手に、俺の心を…覗くっ、なっ…」
女の頬を涙が濡らす。しくしく と、聞こえる泣き声に、苛立ってしょうがない。
その苛立ちは、そのまま俺の股間を膨らませた。勃起を強くした陰茎から、ついには先走りが零れだす。女の指先が、それを掬い上げた。ビクビクと、跳ねる肉の棒に、濡れた指が這い回る。
ーいやっ、だっ、あぁぁぁぁぁっ!!ー
悲鳴だ。耳を劈くようなリットリアの悲鳴が、俺の耳に、心に響く。
弱音一つ吐かなかった。実戦の最中、ケガをした時でさえ、苦痛に耐えた彼女の悲鳴を、俺は始めて聞いてしまった。
リットリアの割れ目に、ピタリと閉じていた少女の縦筋を開くように、太い男の肉棒が突き刺さる。俺のものではない、人のものですらない肉棒だ。
ぐちゃり、押し入っていく。ぐちゃり、引き抜かれる。交わった証を示すように、リットリアの割れ目から、赤い色の混じった粘液が掻き出されてきた。
「りっと、りあ…。おおっ、おぉぉぉっ…」
「かなしい…。愛した女が奪われて、ああ、かなしい…」
俺に涙を流す資格はあったのか。
犯されているリットリアの後ろ姿を見ながら、更に勃起を強くする。
女に触れらているせいだ。言い訳はできても、それを犯されている彼女の前で言えるものか。
俺以上に、今は彼女のほうが辛いんだ。
だから、耐えなければならない。
頭の裏がチリチリする。血の集まった陰茎は更に熱くなり、腹の底で沸騰しそうになる射精欲を何とか押さえつけた。
「かなしい…。彼女だってほら…。貴方の事もを忘れてしまって…」
あっ♥ ひっ♥ ぃぅ、ふぅふぅっ、あぁぁっ♥
それは、嬌声だった。リットリアの喉が鳴る。少女の声をしながらも、それは情婦が褥でもらす吐息と何も変わりがない。
彼女が始めて上げた悲鳴より、俺は、俺には、その事が酷く辛かった。
アレは誰だ?
あの女は本当にリットリアなのか?
俺の知っているリットリアはもっと勇気があった。始めて見る魔物相手にも、しっかりと向かっていけた。涙を流し、怯えを隠せない。終わった後には、その場にへたり込むほどに怖くてもだ。
前向きで、一生懸命で、そんな彼女を皆好ましく思っていた。
誰にでも優しい。甘いと窘めたことも少なくはないが、俺もいつしか、そんな彼女に惹かれていた。
それなのに…。
奪われたのか。それとも、俺が抱いた印象の方こそ幻だったのか。
分からなくなる。男のモノに突き上げられる度、声を上げて泣いている。
涙を流し、快感を隠せない。へたり込んだ体はそのまま持ち上げられて、身を震わせる快楽に咽び泣く。その姿は、まだ恋も知らない少女のものではなかった。その姿は、快感によがる情婦の姿と重なって見える。
くらい、すと…ぉっ。たすけ…、たすけて。
快感を孕む吐息の向こうに、僅かな正気が見えた。
何をバカな。俺は、助けを求める彼女を見捨てようとしたのか。
「リット、リア…。リットリア…今、たすけ…」
女の指から逃れるように腰を引く。怯える声に応えて呼んだ名前は、けれどリットリアにまで届かない。すぐに、次の嬌声が彼女の正気を奪い去り、その細い体が快感に覆われていった。
あぁぁ…♥ い、ゃっ…んっ♥ ふぅ、ふぅっ…♥
愛液を、涙を、涎を流し、白い肌に浮かんだ汗が散っていく。
もはや正気なんて何処にもない。強引に開かれた割れ目が掻き回される。
太い男根に突き上げられる度、リットリアの体は震え上がっていた。ただ快楽のままに、受け取った快感を嬌声に変えて身悶える。
ぽたり、ぽたぽた。
開かれた割れ目の隙間から愛液が滴り落ちる。
純血の証は既に無い。ただ、興奮を示すかのように、密度の上がった愛液が、男のモノを濡らしている。
ぐちゅり、ぐちゅり…。
押し込まれ、弾けて。引き抜かれ、零れだす。
見ていられない。
どんなに強く瞼を閉じても、その裏には まざまざと、彼女の痴態が浮かび上がる。
「かなしい…」
ああ、そうだ。女の言う通り、悲しい。
やはり、いかせるべきではなかった。まして、一人でなどと。その小さな手を離すべきではなかったのだ。
「うぉっ、ぉぉぉぉっ!!」
グツグツと、暗い感情が腹の底で煮えたぎった。
陰茎をなぞる女の指が、更に深く絡みついた。指に包まれ、手の平で擦られる。
溢れた先走りの汁で、滑りが良くなり、快感が強くなった。それは、女の中を犯す快感にも良く似ている。
指の隙間、手の平の凸凹。先走りで滑る女の柔肌は温かく、濡れていた。
繰り返される刺激に腰が泳ぐ。あるいは、リットリアの中はもっと。考えてはならない最低な想像が頭をよぎってしまった。仄暗い期待に陰茎は脈を打ち、興奮を強くする。
快感を叫び、咽び泣くリットリア。
彼女の痴態に合わせて、俺の腰も動いてしまう。腰を突き出せば声を上げ、腰を引けば息を吐く。その吐息は甘く、切なそうだ。快感が理性を溶かす。絡みつく女の指に、グツグツと、腹の底が煮えたぎる。耳元で囁く声は「かなしい」とだけ、甘い吐息に耳が震え、鼓動がまた一つと高鳴った。
ふぅっ、ふぅっ、はぁっ、あぁぁっ…いぃぃっっ、くっ♥
男根に突き上げられ、リットリアは声を上げる。下腹をビクっと震わせ、背中を反らす。快感を叫んだ彼女は、とうとうと絶頂に達してしまっていた。
それと同時に、沸騰した射精欲が爆発した。
女の指に導かれるように、陰茎が震え上がる。欲望の限りを吐き出しながら、体を震わせ、腰が跳ねた。
何度も、何度も、女の手の中に精を吐き出し、たおやかな指先を汚し尽くす。
最高の快感だ。
一人で処理する時でさえ、リットリアの事は考えなかった。
情婦を抱いた時でさえ、彼女の事は意識の外に追いやっていたのに。
最高に最悪だ。
犯されるリットリアの姿を見ながら射精する。
本当なら、そこには俺のモノが挿っているはずなのに、まったくの無駄打ちが情けない。
ドクドクと、下着の中に広がる熱い精液。
行き場をなくした欲望が、ズボンにまで溢れ、染み出していった。
体から力が抜けていく。命が揺らぐ程の脱力感は、俺に強い快感をもたらしていた。地面に倒れ伏す自分を止められない。女の細腕が解けただけで、ドサリと、その場に崩れ落ちてしまう。「かなしい…」最後に聞こえた女の声は吐き捨てるように、冷めた視線が俺のことを見ろしていた。
ーーーー
かなしい…。
館に戻ったハンナドールは、エントランスの床に空いた大穴を見つめていた。
瞳から零した涙を、赤い絨毯の上に散した後、およよ…と、その場に身を崩す。
「…ユーレリア?」
犯人は誰だ。
せっかく、せっかく、綺麗にしていたのに。
赤い絨毯の上で、きゃっきゃっと、はしゃぐ雫の姿は今も目に浮かぶ。
美しい、綺麗だと、たくさん喜んでくれたのに。シャンデリアの輝きにも負けないくらいの笑顔だったのに。どうして、こんなにしてくれたんでしょう?
犯人は誰だ。
言わずもがなだ。
床に風穴を開けるなんて馬鹿力。雫の細腕に出来る訳がない。
ゴトリ…。ボールが転がるようにコロコロと、ちょうど生首が落ちたような重たい音が、エントランスに響く。
私は知らないわ。そっぽを向いた雫の腕から、ユーレリアの生首がおちた。
転がる首は、ハンナドールの足元で止まり、恨めしい視線と目があってしまう。
とり殺されそうだ。
いや、ただ人なら絶対に、その視線だけで殺していただろう。
「いや、その…すまない」
ユーレリアにも言い訳がある。
雫が勝手にと、事実を言えばそうなのだが、それを聞き入れる彼女ではない。
もちろん、自分にまったく責がないかと言われればそれも違う。雫の遊びに付き合わず、さっさと排除してしまえば、こうもならなかった のは事実なのだ。
謝るより他はない。
前髪から覗く悍ましい視線に、何時までも見つめられては敵わない。
言い訳を好まないのはそうだが、やはり、目の前で美人に泣かれるというは やりづらいものがあった。
「まぁ、ハンナったら、また泣いちゃっているのね。本当に、泣き虫なんだから…」
「ごめんなさい。すぐに綺麗にするから…元通りに、しくしく…」
「ああ、もうっ。泣いたらダメだったら。ねぇ、そうよ。そうだわ、ハンナ。私ホットミルクが飲みたいの。はちみつたっぷりの甘いのが良いわ。一緒に飲みましょう? そうしたら、きっと元気が出るわ」
「うん、うん…。すぐ、用意する」
生きやすいものだな。
大したものだと思う。大穴を開けた張本人が、素知らぬ顔で慰めに行けるとは。
私を囮に使ったのだ。涙の理由に気づいてない訳も無かろうに。
ハンナドールだってそうだろう。
涙は干上がり、笑顔まで浮かべて。ぱっと、咲くような笑顔ではない。陽だまりのような温かさも見られない。涙を流す前と、その後と。表情は何一つと変わってはいないに、確かにそれは笑顔なのだと分かる。
彼女たちの図太さの一端でも見習うべきなのか、転がった生首の傍らで、首無しの甲冑は体を傾けていた。