「いやっ!」
心が冷たくなる。開いた扉を目の前に、私だけが遠ざかる。
赤い絨毯の毛先を毟り、なんとか抵抗しようとしても無駄だった。
あと少し、もう少しで、この館から逃げられる。
こんな化け物たちから、逃げられたのに。
私の足首を掴む手の力は強く、どれだけ暴れても振りほどけない。
赤い絨毯の上を滑りながら、どんどんと、館の扉が遠のいていく。
いや、いや、もういやだ。
怖い、怖い。
助けて、クライスト。
私はもう聖女でも、聖騎士でもなかった。
ううん。元からそうだ。皆が褒めて、煽てるから。そんな気にもなってしまっただけ。本当は、魔物と戦うなんて、怖くて、怖くて、しょうがなかったのに。
どうして、ただの少女でいられなかったのか。
恋に恋をするような。私はまだ、そうしていたかったのに。
「あっ…ぁぁ…っ」
涙で視界が滲む。ぼやけた視界に扉が歪んで見えた。
ゆっくりと、閉じていく。錯覚だったのかもしれないけれど。私の心にはもう、扉を開けるほどの強さは残っていなかった。
「リットリアっ!!」
「へ…」
ズルっと。体が引きずられた瞬間、私の手を彼が掴んでいた。
「あ、あ、あ…」
声が出ない。言葉にならない。
あんなに冷たかった涙が、急に温かく感じて、ドクンっと、心臓が息を吹き返す。
「リットリアは返してもらうぞっ!」
転がっていた聖剣を拾い上げたクライストは、首のない甲冑へと投げつけた。
当然、倒すには至らない。けれど、私の足首を掴んでいた手が弾け、怯んだように後ろへ下がる。
都合の良い夢だ。
まるで、おとぎ話のよう。
お姫様のピンチに駆けつける王子様。
憧れをそのまま形にしたような状況に、心臓のドキドキが収まらない。
手を引かれ、抱え上げられる。あれだけ遠くに感じた館の扉が、すぐに近づいて。ふわり、飛び出し、駆け抜けた。冷えた夜半の空気が私の頬を撫でる。
ー
「もう大丈夫だぞ、リットリア」
「あっ、あぁ、あぁぁぁぁ…っ」
その言葉が、どれだけ頼もしかったか。
私は彼に抱えられたまま、その胸に顔を埋めて泣いてしまっていた。
金属の鎧で覆われた胸は傷だらけで、肌触りは良くはない。
思い出せば、父親のヒゲの感触にも通じるものがある。ザラザラとしていた。硬い金属の感触は冷たくて、でも、温かい。
ああ、恥ずかしいな。
もう、聖女じゃいられない。もう、聖騎士でいたくない。
少し背伸びをしたいだけ。恋に恋するだけじゃいや。私は、もっと彼の事を好きでいたい。
こんな子どもみたいに泣いていたら、また子供扱いされてしまいそうだ。
ちゃんと見て欲しい。女として扱って欲しい。泣き止まないと、いけなのに。
「ひっ…く、ぇぅ…はぁ、ひぅ、んっ…はぁっ、はぁっ…ぐす…」
涙は止まらない。だって、ずるい。そんな事されたら、気を張っていられない。
ぐずぐずと、泣き続ける私の頭が、彼の手に包まれた。
下手くそ。不器用に、髪を掻き混ぜられて、子供扱いされるみたいで少し不満。
頭を振って、照れ隠し。抱きしめられているのか、抱きついているかも分からない。ただ、離れがたい。胸の内に顔を埋めて、しがみつく指に力が入る。
「悪かったな。一人にして…」
「ちがっ…ちがう、んです。わたし、勝手に、無理に…行くって、聞かなくて、だんちょっ…止めようとした、のに。してくれた、のに…私、悪くって、皆…まきこ、んだ…」
「良いんだよ、そんなの。みんな無事だ。誰もお前を恨んじゃない。結局は、俺も賛成したんだ。皆だって頷いたんだ。こうなったのは、俺達の責任だ。お前一人が背負うものじゃない」
「でもっ…でもっ…」
違和感はある。
都合の良い夢を見ているような。
こうであったら、どれだけ良かったか。
そうじゃない。そうはならなかった。頭の片隅でなり続ける警笛を、私は努めて無視をした。聞きたくない。目覚めたくない。都合の良い夢ならそれでもいい。
目をつむり、耳を塞いだ。大きく息を吸って、吐き出して。体と、心から力を抜くと、意識はすぅっと夢の中へと溶けていく。
ー
「あははっ。まさか、リットリアがあんなに泣くなんてなっ」
「やめて、ください。皆には…絶対」
「ああ、言わないさ。俺はしっかりが覚えてるがな」
「もうっ…しりませんっ」
どれだけ館から離れただろう。
雨風を凌げそうな洞窟を見つけた私達は、夜の深くなった森の中で、焚き火を囲んでいた。ボロボロになった鎧を脱ぎ捨ててようやく一息。「こんなものしかないが」と、彼のくれたチョコレートの甘さが身に沁みる。
ズキリ…。
動かした脇腹が痛む。蹴られた場所はすっかりと、青痣を作ってしまっていた。
「痛むか?」
「少し…は。でも、平気です」
「お前は我慢をしすぎるな、いつも」
「だって、皆頑張ってるのに。私だけ、弱音を吐くなんて、出来ません」
「お前以上に頑張ってる奴もいないんだよ」
「…珍しいですね。団長が私を褒めるなんて」
「そうだったか?」
「そうですよ…」
パチパチと、爆ぜる薪の音を聞きながら、私は自分の体を抱いていた。
なんだか落ち着かない。団長と二人きり、思えば、そんな機会はあんまりなかったか。あんなに泣いてしまった後では、どんな風に自分をみせても、背伸びをしている子どもみたいだ。
「体でも拭いてきたらどうだ? 向こうに川がある。少しは楽になるだろう」
「それは…」
タオルなんて上等なものはない。差し出されたのは、彼の着けていたシャツと、鎧から外したマントだった。正直、目のやり場に困る。初めて見たわけではない。男の人なんて上着くらいポンポン脱ぐし、男社会な騎士団の中では尚更だ。
ただ、私にとって彼の裸が少し特別だっただけ。
好きな人だってのはもちろんある。少し、思い出してしまったんだ。
脱衣所でかち合ってしまった時のこと。見てしまった裸と、見られてしまった裸と、その時の光景が頭に浮かんでしまった。
「見ないで…下さいね?」
「そういう事は、もう少し大人になってから言え」
「…っ」
ムッとした。また子供扱いしてって思う。「バカ」って、思わず呟きそうだった。
洞窟の外。夜の森は、焚き火から少し離れただけで暗くなる。
水の流れは、確かにすぐそこから聞こえてきた。目を凝らせば、月明かりにキラキラと揺れる川面も見える。10mも、あるかどうか。焚き火の灯りと、月明かりの間の暗がりが、やけに遠い。
見通せないほどじゃない。
普段なら別になんとも思わないのに。
ここから少しも離れたら、もう二度と彼には会えないような気がしてならない。
「あの、ここに…いて下さいね? 見える所に、その…」
「見ないでって言ったのはお前だろ?」
「…良いです。でも、あんまり見ないで…」
暗がりの中を振り返りながら歩く。木立の影に彼の体が隠れる度に、右に左にと顔を傾けた。まるで小動物だ。怯える私を見つけた彼は、手を振って応えてくれる。嬉しいような、はずかしいような。流れるせせらぎを前にして、気恥ずかしさを思い出す。
マントを羽織り、自分の服に手をかけた。
気のせいなんだろうけど。背中に視線を感じてならない。
揺れる焚き火に照らされる彼は、特にこっちを見ている様子はないのに。
私の願望がそれを見せたのか、自意識過剰にも程がある。
そうでしょう?
いつだって、子供扱いされていたし。
さっきだって。もう少し大人になれってさ。
もう少しって、どれくらい?
二つか三つか、歳を重ねれば彼も認めてくれるのかな。
多分違う。なんか言い訳をされてる気分だ。四つに五つと数えたって、多分彼は私のことを子供扱いするんだろう。きっと、団長としての立場が、それを言わせている。
「ばか…」
羽織っていたマントを肩から落とす。
月明かりに照らされる私の肌は、彼にはどう見えるんだろう?
分からない。貧相だって、言うのかな。少しでも、綺麗だと思ってくれれば良いな。
心臓がドキドキする。
あそこからじゃ、私が裸でいることくらいしか分からないだろうけど。
でも、やっぱり、見えてしまっていることには違いがない。
盗み見た彼の顔はどうだったろう?
焚き火に照らされる横顔は、こちらからでは伺いきれなかった。
水面にさらした彼のシャツを軽く洗う。お湯があればなんて贅沢は言わない。
体を拭けるだけでもありがたい。水の冷たさだって、熱を持った体には心地がいい。
肌を拭いて、汗を拭って。
ズキリ…。痛む脇腹に体が震えてしまう。
白い肌に浮かぶ青痣が痛々しい。蹴られた脇腹は、すっかり跡を作っていた。
残らないと良いけど。少しくらいなら薬で治る。多少の大事だって、魔法を使えば死にはしない。騎士の真似事をしていれば、生傷くらいは普通に出来るものだ。
このくらいの傷、気になんかしてられない。
普段なら、そう言って歯を食いしばっては見せたけど。
今の私にはもう、そんな意地を張る気力もなかった。守らなきゃいけなかったのに。国にいる人達を、騎士団の仲間たちを。なのに、助けられた事にすっかりと安心してしまった。
青痣に触れる。
ズキリと痛む。
何度撫でてみた所で、傷跡が消える様子もない。
男の人なら、こんな傷跡も勲章だって言うんだろうか。戦って、ちゃんと生き残った証だと。
気持ちは分かるけど。
彼もそう。他の皆だって同じだ。経験を積むほどに傷跡も増える。
醜いだなんて思わない。最初は面食らってしまったけれど、誇って良いものだと今は思う。
「そんなの…」
出来ない。
少女としての自分が首を振るのは当然で。
聖女だった自分が首を振るのも当然だ。
だってこれは、戦った時の傷じゃない。
逃げ出した時に、横から蹴られただけ。
何一つ、誇れるものはない。
何やってるんだろう。
落としていたマントを拾い上げ、肌を隠す。
こんな体見せつけて、何をしようっていうんだ。
貧相な女の体でしかないのに。情けない傷跡まで作って。
そんなだから、子どもだなんて言われるんだ。ちょっと助けて貰っただけで、運命なんて感じてしまったの? だって彼は優しいから。仲間を助けるくらい、普通にするでしょう?
ズキリ…。
痛む脇腹を拭う水の冷たさが、イヤに身に染みた。
ー
パチパチと、爆ぜる薪の音を聞きながら、私は自分の体を抱いていた。
下着姿に、マント一枚を羽織ったまま。頼りない自分の格好に、湧き上がる恥ずかしさも今はない。
どうせ、子供扱いしかされてないし。
焚き火の向こうに座っている彼も、私のあられもない格好なんて気にしてる様子さえもない。両思いだと、なんとなく感じていたのだって、私の思い上がりだったんだ。
なんかもう、どうでもいいや…。
疲れのせいもきっとある。揺れる焚き火を眺めていると、だんだんと、瞼が重くなってきた。うつら、うつら…。船を漕ぐ。まぶたを閉じると、少し楽になった。
抱えた膝に頭を乗せると、肩から力が抜けていく。
「…」
なんだろう。視線を感じる。
焚き火の向こうからだ。なんて、また自意識過剰なんじゃないか。
彼はきっと、私になんか興味もない。すっかりと、自信を失くした私は、ある意味では大胆だった。
下着姿に、マント一枚羽織っただけのあられもない格好。
そんな状態で膝を抱えれば、浮き上がった太ももの隙間から何が見えるのか。
寝返りを打つような調子で体を揺らす。偶然を装って、少しだけ足を広げてみせた。
変化はない。パチパチと、薪の音が爆ぜただけ。
大袈裟に視線を反らすような事も無ければ、戸惑った吐息も聞こえては来なかった。
まぁ、そうだよね。
分かっていたことだ。
でも、彼の方から視線が途絶えた訳でもなかった。
私の肌を見た男の人の大体は、咄嗟に視線を逸らすか、大袈裟に囃し立てるかだ。どっちにしたって、照れ隠しなのは伝わってくる。
じゃあ、この視線は何なんだろう?
照れ隠しをするでもなければ、貧相だとからかわれるでもない。
ていうか、見られていることを意識するほどに、だんだんとくすぐったくもなってくる。
「なに、見てるんですか?」
頭を膝に乗せたまま、視線だけを持ち上げて彼を見る。
どうせ私の勘違いだろう。そう言ってくれるのを期待すらしてもいた。
「悪いか?」
「悪い、でしょ? そりゃ…盗み見なんて」
開き直ったような彼の態度に、言葉が詰まってしまう。
「まぁ、そうだな。悪かった…」
不貞腐れた。とも違うのか。
私から視線を外した彼は、焚き火を背にして横になってしまった。
ずるい人。私はもう、諦めるつもりだったのに。
私なんかが貴方と一緒にいる資格なんて無いと、そう思っていたのに。
なんで今更、そんな反応をするんだろう。
「みたい、ですか?」
スルリ…。羽織っていたマントを肩から落とす。
立ち上がった私は、焚き火を越えて、横になった彼の傍に立った。下着姿のまま、ほとんど裸見たいな格好だ。
洞窟に揺らいだ影が、彼に伸びると、見上げてくる視線とかちあった。
「馬鹿か、何をやってるんだ」
咄嗟に視線を逸らされる。貧相だと囃し立てる訳でもなければ、いつも見たいに子ども扱いされるでもない。それは、私の肌を見た男の人のそれ。よくある照れ隠し。横顔は赤く、耳まで染まって。焚き火にあてられているせいだけでは、きっとなかったはずだ。
「バカ…ですよ。どうせ私は…。団長だって、いつも子供扱いしてるじゃないですか」
「何を拗ねて…。悪かったよ。そんな気にしてたのか?」
「別に…。ただ、団長って、ロリコンだったんですね?」
「なっ…だれがっ。俺はなっ、もっとこう…っ」
「もっとこう…なんですか?」
逞しいな。手の平から伝わってくる胸板の感触に息を呑む。
撫でて、擦って。そのまま覆い被さるように、彼に顔を近づけていった。
「やめろ…バカ」
「バカですよ? ええ、バカなんです私。好きな人にも好きって言えないくらいには。だって、子どもだもんっ。分かんないんですよっ。団長が何考えているのか。教えて…教えて下さいっ。もっと、こうっ、何なんですか? おっぱいが大きければ良かったですか? お尻が大きい人が好きですか? ロリコンでもいいじゃないですかっ。私だったら…私、私じゃ、ダメなんですか?」
ぽたり、ぽたぽた。
私の頬を伝った涙が、彼の頬へと落ちていく。
何も言ってくれない。何か言って欲しい。
ダメならダメって言って。諦めるから。好きなら好きって言って、もう我慢出来ないから。
「バカ…」
「バカ、じゃない。そんな事、言って欲しい訳じゃ…」
「だから、もっとこう…。肌が白くて、目が青くて、金髪が似合ってて。いつも一生懸命で真っ直ぐで、誰にも優しい。笑顔を絶やさないような、そういうバカが…俺は」
「誰の…話、してるんですか?」
それを認めるには勇気がいる。一生懸命で真っ直ぐで? なんだか自画自賛をするようで面映ゆい。
「リットリア…」
「…クライ、スト」
彼の太い指が、私の頬を撫でた。不器用なままに動いた指が、私の涙を拭っていく。凸凹してて、節くれだってて、触り心地は全然良くは無いけれど。
でも、伝わってくる彼の温かさに、涙が溢れて止まらない。
「んっ…」
ああ、思ったとおりだ。
乾いた肌の感触がする。焚き火にあてられ続けていたせいか、少し煙たい感じもした。重なった太い唇に、私の薄い唇が包まれる。吸い込まれて、力強い。
ちゅっと、途切れた水音に、ちょっと恥ずかしくなった。
「触るぞ?」
「…うん」
彼の手が背中に伸びると、あっさりとブラのホックを外されてしまう。
それは、ちょっと面白くない。外し方が分からずに、もうちょっと戸惑っても欲しかった。
「慣れてるん、ですね?」
「拗ねるなよ。お前で最後だ…」
「…どうだか」
否定はされなかった。最後だと言われるくらいには、女の人と経験があるらしい。
私は初めてなのに、彼はそうじゃない。きっと、娼館に通ったのだって一度や二度じゃないのだろう。あるいは、寝耳に愛を囁いたことだってあるのかもしれない。
「信じないか?」
「分かりませんよ。どうせ、私は…子どもだし」
「お前は十分綺麗だよリットリア。俺が今まで見た誰よりもだ」
「っ!?」
ズルい人。急に綺麗だなんて言う。
心臓が跳ね上がる。顔が熱くて仕方がない。
こんな誰にでも当てはまりそうなセリフをさ。ちょっと言われただけで舞い上がってしまう自分は、確かに子どもなんだろう。
「信じないか?」
「だって、そんな、簡単に信じたら…ほんとに子どもみたいで」
「素直なのは、お前の良い所だよ、リットリア」
これで嘘だったら、彼には詐欺師の才能があるんだろう。
ううん、嘘でもいい。それならそれで、最後まで騙して欲しいだけ。
彼が良いと言ってくれる私。素直な私は、顔を赤くしたままに「…うん」と、小さく頷いてみせた。
「ぁっ…」
彼の指先が、私の胸をそっと撫でた。
頬を撫でた時とは大違い。その指使いは妙に手慣れていて、私の中から女を引き出すようだった。
「はぁっ、あっ、んっ…ふぅ、はぁ…ぁぁ…ぁっ、やっ…あ、はぁ…」
だんだんと体が熱くなる。
下から掬い上げるように、彼の手の平が胸の膨らみを包みこんだ。
固い手の平だ。凸凹して、節くれだっていて。普段は剣を握っているその手が、今は私の胸を包んでくれている。
広がる手の平。伸びる指先。
胸の膨らみは、はみ出す事もなく、大きな手の中に収まってしまった。
ちょっと恥ずかしい。もう少しだけ。贅沢は言わない。彼の手から余るくらいは欲しかった。窮屈そうに動く指を見ていると、なんだか申し訳なくて、無い物ねだりをしないでいられない。
「そんな顔するなって」
「そんな顔なんて…べつに。楽しいんですか? 男の人は…その、こんなの」
「お前はどうだ? 痛かったりはしないか?」
「ううん…。それは、大丈夫…です」
どっちかと言えばむず痒い。
ザラザラとした彼の肌に胸の膨らみが引っ掻かれる。
くすぐったいような、なんとも言えない異性の指の感触に、どんな顔をしたら良いのか分からないのはそうだ。
もう少し、激しくされるものだと思ってたんだけどな。
そのくらいの覚悟はしていた。
獣みたいに…は、流石に想像つかないけれど。もうちょっと乱暴にされるんじゃないか。イヤって逃げても、興奮した団長は、やめてはくれなくて。
だから、余計にどんな顔をして良いかわからない。なにかこう、気づいた時には終わってるようなイメージをしていたから。
彼の手の平に、胸の膨らみが包まれる
ふわっと持ち上げられて、ふっと力が抜けていく。
伸びた指先は、脇の下にまで届くと、膨らみの横から くすぐるような刺激を繰り返された。
くすぐったいな。
最初はそうだった。
ムズムズして、ちょっと体が逃げたくなる。
でも、少し体を反らした程度じゃ、彼は全然離してはくれなかった。
くすぐられて、ムズムズして、なんだか落ち着かない。ふわっとして、ふっとされて、鼓動のリズムが早くなる。
そんな時だった。
「んっ!?」
ビリっと痺れるような感じ。喉が詰まり、身体に力が入って、でもすぐに緊張が解けると、甘い何かが後に残る。包まれた膨らみの反対側。彼の指は乳首に触れて、ころりと、指の腹に転がされた。
「んぁっ、はっ…やっ、くらい、すと…なにして」
「ちょっとは感じてきたか?」
「感じて? わかんな…ああっ」
「気持ちいいかって、聞いてるんだ」
「わかんなっ、だって、びりって、きて…それ、乳首、だ、はぁぁ…」
乳首を転がされる度に、ビリビリした刺激が強くなる。
反射的に力が入り、肩を竦めて、背筋が伸びる。けれどだ。それも一瞬。緊張が解けると同時に、体から力が抜けていく。それは、甘い痺れを伴って、ふわり、ふわふわと、頭の中に綿を詰め込まれたような気分にさせられた。
「甘く痺れるだとか。ビリビリするだとか、ジンジンするって言う奴もいたな。くすぐったいのとも違うそうだが、どうだ?」
「どうって…」
ああ、そうだ。ビリビリして、ジンジンして。甘く痺れてくる。
くすぐったいのとは確かに違う。だんだんと、刺激にも慣れてくると、もっとして欲しくなる自分がいた。
「分かってて…きいてます、よね?」
「どうかな?」
ふっと、彼は微笑んだ。その笑みに、顔がかぁっと熱くなる。
感じている。気持ちよくなっている。瞳は潤んで、息は上がって、頬は熱い。
そんなの彼から見たら一目瞭然だっただろう。それを わざわざ聞いてきたのは、私への気遣いと言うよりも、ちょっとした意地悪の様に思えてしまう。
「ぃっ。こらこら、爪を立てるんじゃない」
「立ててませんっ。なんですかっ、このっ、こんなっ。鉄みたいな胸板してっ」
からかわれてる事に気づいた私は、言い返す代わりに力を込めた。
胸板に置いていた指先を立て、ことさら爪を押し付けてみたものの、少し食い込んだくらいで何にもなりはしない。
「ははっ。お前の胸は、白パン見たいに柔らかいな」
「褒めるんだったら、もうちょっと…。ケーキとか、の方が」
「ん? まぁ、そうだな。リンゴみたいに赤い顔はしているか」
「バカっ!」
ガキンと、音がなったみたい。
拳を作った手を振り下ろした良いものの、軽く弾かれてしまった。
「腕の力だけで殴るなと、教えたはずだぞ?」
「むぅぅぅっ…」
ガキン、ガキン、ガキン…。
なんだか悔しい。少しくらい悲鳴を上げさせたくて、何度も拳で叩いては見るものの、駄々をこねている子どものような塩梅にしかならなかった。
「ふくれっ面も可愛いがな、リットリア」
「あっ…」
振り上げた拳が途中で止まってしまう。
乳首を弄っていたはずの彼の手は、気づけば私の太ももへ。その内側を、そっと撫でてくる。膝から、上へと向かって、ゆっくりと。薄い下着の一枚が隠す私の秘所に、彼の指が触れた。
冷たくはない。
焚き火の火と、私の体温、それに指先から伝わる彼の熱。
ぬちゅっとした。下着が濡れているんだ。滲んだ水分を舐め取るように、彼の指が私の秘所を撫で上げる。
「意味は、分かるな?」
おもらしをしたんだ。
そう思うほど子どもじゃなかった。
男女の営みの途中。男性を受け容れるための体の準備。女性としての正常な反応だ。振り上げた拳の落とし所が分からない。私は、男性として彼を受け入れようとしている。私は、女性として彼を受け入れたがっている。
ぬちゅ、ぬちゅ。繰り返される指の動きに、下腹が揺れ動く。
「はぁ…」と、吐き出した息は重さを増して、体が落ちていくような感覚に包まれた。
秘所の、割れ目の、その筋を。下着の上から舐めるように、彼の指が動く。
いやらしい。こんな事、何でもない顔で出来るくらいには女性との経験があるんだ。
気持ちよくなる。感じてしまう。期待はどんどんと膨らんで、強い興奮に心臓が早鐘を打った。
悔しいなぁ…。
彼にばっかり、してもらってる。私だって彼にしてあげたいのに、でも、どうして良いか分からない。触れば良い? 彼のその、おちんちん。股間にそっと視線が移る。ズボンを押し上げている膨らみは、きっとソレなんだと分かった。
振り上げた拳を下ろす先。
ズボンの上からそっと手で触れる。
彼の身体に跨った私の身体。その下で、窮屈そうに震えている膨らみを、手の平で包み込む。
「うぉっ…」
「あっ!? ごめんなさい、痛かった…ですか?」
「ああ、いや。急に触られたからな、少し驚いた」
「その、だって…。して貰ってばかりも悪いから…私、もって」
「ん? そうか…じゃあ、そうだな」
ガサゴソと、ズボンと下着をズラした彼は、その股間に屹立したものを際立たせる。男の人の、その、おちんちん。肉棒、男根、陰茎、男性器。頭の中でグルグルと、それを示す言葉が回っていく。
「こんな…だって、前は…こんなには、だって…」
大きい。余りに大きい。脱衣所でばったりとあった時は、もっとぶら下がっていたのに。今やその先端は、しっかりと私の方に向けられて、ビクンっと、力強く膨れ上がっていた。
「流石に、四六時中こうはしてないぞ」
「それは、分かります。だから、これは…そういう?」
「ああ そうだ、リットリア。お前に興奮しているんだ。抱きたいと、思っている」
「…っ!? そ、そう…ですか」
心臓が跳ねた。体が一段と熱くなる。
抱きたいと思われている。今からアレが、私の中に挿ってくるんだ。
本当に、挿るんだろうか? 分からない。自分で弄った事すらなかったから、感覚的にも追いつかなかった。
多少は広がるにしたって、でも、だって…。
「怖くなったか?」
「少し…」
「じゃあ…」
「ダメッ! 大丈夫っ、大丈夫ですから…多分」
「多分って…。まあ、正直、やめろと言われるのも辛いがな」
秘所から離れていく指先を引き止めるように、声を上げてしまった。
自信なんかない。頼みの綱は、生まれついての女性だけ。
「腰、下ろせるか?」
「…はい」
先端が、下着の上から私を舐めた。
とっぷりと、丸みを帯びた先っぽから溢れた汁が、下着に塗りたくられていく。
あれが、精液なんだろうか? 想像していたのとは随分違う。白濁としているとは聞いていたが、どうにも透明感が強い。
「クライスト…。その、もう、出ちゃったんですか?」
「おいおい。人を早漏みたいに言うな」
「あ、ごめんなさい。でもそれ、出てるの…精液じゃ?」
「違う違う。お前と同じさ。先走りってな、興奮すると出てくるんだよ」
「そう…なんだ。いえ、べつに…興奮してるとかじゃ、私…」
なんだか気恥ずかしい。勃起して、先端から汁を流して、男性として身体的な反応を目にすると、どうにも自分の女を意識してしまう。
ぬちゅり、ぬちゅり…。私に差し向けられた陰茎は、おちんちん なんて呼べるほど、可愛いものじゃなかった。つるっとした先端部分とはちがって、その途中は意外と不均一だ。浮き上がった血管も生々しければ、ビクビクと震える肉の棒は、何か別の生き物の様にも思えてしまう。
熱くて、固い。
下着越しに触れる彼の肉棒に、ムズムズとした。下腹が震えたかと思えば、秘所の隙間か溢れた愛液が流れ出る。ぬちゅり、ぬちゅり…。押し付けられた凸凹と、固い肉の感触が私の秘所を舐め上げた。
なんだろう?
頭がふわふわしている。
まるで、お酒を飲んだ後のように酩酊感が強くなる。
体から力が抜けて、ピタリと閉じていた秘所が緩むような。
陰茎が押し付けられて、割れ目が開いてしまう。でも、薄い下着に阻まれて、ソレ以上には挿ってこれない。
苛立ちが、伝わってくるようだ。
ビクビクと、下着の向こうで強く震えては、先端からとっぷりと、先走りを吐き出した。もう、私の股間はグチャグチャだった。自分の流した愛液と、彼の流した先走りが混ざり合う。滲んで、溢れて、ダラダラと。陰茎を伝い、跨った私の太ももからも零れて、彼の腰を汚していく。
「良い…よ? クライスト…私、うん」
何がよかったんだろう? 初めてなのに、何も分からないのに。
でも、受け入れて上げたかった。受け入れたかった。こんなにも、私のせいで固くなった陰茎を。
緊張はある。胸がドキドキして張り裂けそう。
不安はもちろん大きい。けどそれ以上の興奮と期待の方が強い。
自分から腰を持ち上げた。もう、下着を脱ぐなんて頭にすらない。
指を股間に触れさせて、下着と肌の隙間に忍ばせる。ぬちゅっと、熱くて、粘ついていた。こんな自分の体を、自分の体がこんなになるなんて、思わなかったな。
彼のことを考えて、胸がドキドキした。
そういう時は少しだけ、濡れてしまった事もあった。今は違うからと、胸の内に押し込んだ感情を、もう隠すこともない。女としての私が、彼を求めて止まない。
彼が私を抱きたいように、私だって彼に抱かれたい。
「愛して? クライスト…」
「ああ、もちろんだ。リットリア」
ぬちゅり…。
抵抗はなかった。
陰茎の先端が沈み込み、下腹に広がる違和感が大きくなる。
まるで警鐘のようだ。違和感は痛みに変わって、本当に良いのかと、私に問いかけてくる。
「んっ!」
自分から腰を落とした。
彼に甘えたくなかった。気遣われて、ゆっくり してもらうなんてイヤ。
私がそう望んだんだから、最後の一線は自分で越えたい。
陰茎の先端が、奥に届くその手前、何かが千切れたような感じだ。ふつっと、伸ばしたパン生地が途切れたような感触にも思う。
お腹が熱い。じりっと、ヒリ付くような感じもある。
その熱は じわじわとお腹に広がり、膣を伝って割れ目から、つぅっと太ももへと零れ出す。
「大丈夫か?」
「っ…はい」
言われるほどの痛みはなかった。
これも騎士の真似事をしていたお陰かな。多少の傷みに怯むほど、乙女ではなくなっていたらしい。喜んで良いのか、悲しむべきなのか。まぁ、でも。彼を慌てさせることが無かったのは、良かったかもしれない。
「それもそうだが…」
気遣わしげに、彼が私の脇腹を撫でていた。
ズキリとした。あんまり見ないで欲しい。白い肌に浮かんだ青痣は、やはり、興奮を冷ます程には痛々しかった。
「ごめんなさい…。こんな、傷…イヤですよね」
「そうじゃない。俺はただ、お前が辛くはないかと…」
「痛い、ですよ? そりゃ…あはは…。でも、初めてはそういうものだって、思うことに、しますから…」
「なるべく、優しくするな?」
「…うん」
頬を撫でた彼の指が、再び胸の膨らみへと触れていた。
固い手の平に包まれる。ふわっとして、ふっとした。脇の下に伸びた指に、膨らみをくすぐれると、体が落ち着かなくなった。
くすぐったい。けど、気持ちがいい。
気遣わしげに脇腹を撫でていた彼の手が滑ると、下腹を優しく撫でられる。
伸びた指先が、開らいた割れ目の袂に触れた。乳首とよく似た膨らみ。
けれど、それよりも小さい膨らみ。普段は、もっと隠れているのに。いつの間にか、私の陰核は、ぱっとみて分かるほどに大きくなっている。
「ひぅっ…♥」
ビリッとした。強く体が痺れてしまう。
腰が震え、背筋が伸びて、ふわっと、体から力が抜けていく。
甘く痺れる。さざ波の様な快感が糸を引く中、またビリッと、強い刺激に襲われた。
「ああっ…♥ ま、クライスト…そこは、刺激、が…」
「ん? もう少し優しいほうが良いか?」
言いながらも、今度は乳首に刺激が移る。
陰核を刺激されるよりは弱い。けれど、そっちの方が余計に辛い。
おっぱいを横からくすぐられているだけで、何か、もやもやした感覚が強くなる。
時折、思い出したかのように乳首を弄られると、力の抜けた体が甘く痺れてしょうがない。
「だめ、だから…」
「何がだ?」
「こんなっ、こんなこと。あっ♥ 他の、ほかのぉ…ゃっ。女の子…に、したら…もう、ああぁ♥ ぜった、ぜったいに…だめ、なんだ、からっ」
ひどい人だ。
こんな手管を他の女の子にもしてたなんと思うと、やりきれない気持ちが溢れてくる。付き合っていたわけじゃない。情婦が相手の時もあっただろう。
分かってはいても、彼を欲しがった私の女は、嫉妬を隠しもしなかった。
「随分と嫉妬深かったんだな? リットリアは」
「いや? しっとする、おんなのこ、は? だめ? クライストは…私、だけじゃ、不満、なの?」
「イヤでもないし、ダメでもない。お前だけいれば満足だ」
「あはっ♥ よかった…んっ♥」
ゾクゾクとした。
強い刺激に体が強張り、力が抜けていくと甘い痺れに包まれる。
陰核を、乳首を弄られて、横から胸をくすぐられているのですらたまらない。
快感が、快感を呼び込んで、刺激はだんだんと強くなる。それは一気に膨らんで、私の中でパチっと弾けると、背筋が反り返るくらいに力が入ってしまう。
「んんっ…! あ、あ、ぁぁぁ…はぁ…ひぃ、んっ…ふぅ…はぁ♥」
甘い痺れに包まれる。体から力が抜けて、気持ちがいい。
きゅんっと、下腹に力が入り、ふわっと、胸が浮ついた。
ズルっと、腰が落ちる。
まだ、奥があったんだ。
無意識に力でも入っていたのかもしれない。
純血を奪った陰茎が、更に奥へと入り込む。まだ、僅かにも残っていた陰茎の根本までが秘所に埋まって、お腹を少し持ち上げられた。
「あっ、はっ…ぁぁ♥」
恍惚とした吐息だ。
まだ男を知らなかった少女のものでは決してない。
愛されることの実感。異性と交わる快感を知った体は熱を上げ、せがむようにと吐息を零す。
「動くぞ、リットリア?」
「うん、うんっ…」
彼の呼びかけに、力強く、何度も頷いた。
頷きながら腰が浮き上がり、強い刺激に、ぎゅっと力が入ってしまう。
甘く、痺れ、力が抜けて…。
敏感になった秘所の中を、陰茎が外へと抜け出ていく。
ぬるっと、ぬるぬると…。抵抗なんて無い。すっかりと彼の形を覚えた私の中は、その動きに合わせて陰茎を締め付ける。
「あひっ♥ あっ、あぁっ♥ くらい、すとっ、くらいすとぉぉっ♥」
うわ言のように名前を叫んだ。彼の陰茎に突き上げられる度に、下腹に力が入って、快感が凝縮されていく。突き上げられ、キュッと締まる。引き抜かれて、ふわふわする。
全身を覆う甘い痺れに、訳が分からなくなった。
抽挿の感覚は次第に短くなり、体から力が抜けるヒマがない。
だめ、もう、むり…。
せめて、息継ぎをしたくって、逃げるように腰を浮かせた。
突き上げてくる刺激が遠のき、ふわっと、体から力が抜けて。
「あああっ!? だ、め、まって、クライストっ、はげしっ、少し、やすませ…んんっ、もっと、ゆっく、り…あひっ♥ ひぅっ、はっ、はっ、はっ…♥」
逃さない。
そうとでも言うように、逃がした腰が掴まれる。
ズキリ…。痛む脇腹の痛みに体が怯み、けれどそれすらもう、快感の一部に変わっていく。ああ、クライスト、クライスト。彼が必死になって私を求めてくれている。
覚悟をしていてよかった。
優しいままで終わったら、ちょっと拍子抜けをしてしまったかもしれない。
それが不満というわけでは決して無いけれど。気遣われるままに終わってしまうのがイヤだった。
ガクガクと腰が震え上がる。
もう限界だ。
下腹には力が入りっぱなしで、突き上げてくる陰茎を締め付ける。
ビクンッと、震える気配は大きくなった。ビクビクと、膨らんだ陰茎に秘所が大きく開かされる。
「リットリアっ。出すぞっ、全部…受け取ってくれ」
「はいっ。はひっ♥ クライストっ、どうぞっ、全部…私の、あはっ♥ 中、貴方の、でっ、やっ、はっ♥」
出して。
それを口に出来たかどうか。
ガツンっと、腹の中で強く響く。陰茎の先端が私の奥へと、突き刺さった様な気さえした。反射的に背筋が反り返り、下腹が強く、強く、陰茎を締め付ける。
ぞわり、ぞわぞわ…。
下から上に、誘うように蠢いて。
その瞬間、大きく跳ね上がった彼の陰茎から、私の中へと、大量の精が吐き出された。先端を濡らした先走りとはまるで違う。なるほど。それを一緒にしたら、男性としては不名誉極まりないだろう。
かぁっと、下腹が熱くなる。飛び出した精液は、私の子宮にすら届きそうな勢いだった。ドクンっと跳ねて、ドクドクと震えて。陰茎を伝って、熱く滾った精液が、何度も、何度も、私の中を満たしていく。
「あ…♥ あぁ…♥ あぁぁ…♥」
心が解けていくみたい。
お腹には、力が入っているのに、全身から力抜けていく。
陰核からも、乳首からも。あぁ、あぁ、もっとだ。指先から、つま先から、力が抜けていく。
全身が、甘く痺れて気持ちがいい。
ドクドクと、注がれる精の熱に気が遠くなる。
愛してます、クライスト。
たった一言、どうして言えなかったんだろう。
ああ。嫌だ。嫌だ。やめて。せめて。
その一言を伝えるまでは…。