「それでは、定例会議を始めたいと思います」
事務所の会議室に集まったプロデューサーたち、その代表の男の合図で定例会議は始まる
議題は担当しているアイドルのプロデュース方針についてだ
プロデューサーたちはそれぞれ、自分の担当しているアイドルの活動状況を説明し
話しを聞いている他のプロデューサーはそのアイドルについて今後どう活動していけば
良いか提案をしていく
ここに集まって居るのは事務所から「売れないアイドル」扱いされている担当を持つ
プロデューサーたちで。そんな肩身の狭い集まりで出る意見は分かりやすい
「やっぱり、スタイルの良いアイドルは水着グラビアで勝負をするのはどうでしょうか?」
「だけど舞浜歩の時はダメだったじゃないか」
「しかし、豊川風花、篠宮可憐のグラビアアイドルユニットは水着グラビアで人気になり
事務所でもトップクラスの人気ユニットになって居ます」
豊川風花、篠宮可憐はアイドルブームによって次々と登場するアイドルたちの勢いに押され
少し前まではのり子たちと同じように伸び悩んでいたものの、定例会議で提案された
水着グラドル路線で勝負をして成功。女性として抜群のスタイルを持ち
男心をくすぐる初々しさ、そして二人の尊い関係性等で人気になり
今では事務所を代表するアイドルユニットの一つだ
プロデューサーとしてアイドルを売り込む事は出来ても、必ず売れるとは限らない
それは集まっている皆、分かっている事だ
それでも……そんな成功体験を覚えているからこそ、追ってしまう
……追ってしまうし、だからこそ俺たちはここに居るんだろう
「プロデューサー~!」
「ああ。のり子、撮影の調子はどうだ?」
会議の後、のり子も参加するドラマ撮影現場へと合流し現場の責任者へ挨拶をしていると
休憩中らしくのり子はこちらに気づいて駆け寄って来た
「うん!スタッフの人たち皆親切で、すごくやりやすいよっ」
えへっ、と嬉しそうなのり子の笑顔にホッとする
相変わらずの社交性で、今回の仕事でも上手く周りとやれているようだ
「のり子、歩も休憩中?」
「歩は撮影で疲れちゃったみたいで、鈴木さんと一緒に控室で休んでるって」
そう言って控室の方を指差すのり子、鈴木さんは現場にカメラマンとして参加していて
鈴木さんのコネで歩もこの仕事に参加させて貰っていた
歩と鈴木さんの関係に思う所はあるものの、こうして歩へ仕事を斡旋してくれる所は感謝しかない
「のり子は疲れてないか?」
「アタシは平気、体力はそれなりに自信あるし楽しいからまだまだいけるよっ!」
「ははっ、それは頼もしいな」
腕を曲げて力コブを見せつけてくるのり子に、俺もつられて笑う
「それなら撮影を再開する前に歩の様子も見てくるよ」
「うん、いってらっしゃい!」
ドラマ撮影で充実した様子を見せるのり子と手を振り合い、教えて貰った控室へと足を運ぶ
ドアを軽く数回叩いて中へと入るとのり子の言っていた通りそこに居るのは歩と鈴木さんの二人
……なのだが
「ぷ、プロデューサー!?」
こちらを見て驚く歩はなぜかパーティードレスを着ており、隣に座る鈴木さんへ
飲み物を注いでいた
控室の中に入ったらそこはキャバクラと言った状況で困惑していると
「ああ、これは演技指導だよ。歩ちゃんの役はキャバクラでアルバイトしてるからね
ドレスも良く似合ってるだろう?胸元スカスカじゃないからねぇ」
そう言って、歩に飲み物を注いで貰っている鈴木さんは楽しそうに笑う
セレブ交流の際にも露出の多いパーティードレスを着ていた事もあり
女性らしい体つきの歩はその露出の多さに負けていない
「な、なるほど……いつもありがとうございます」
「いやいや、オレとしてもお気に入りの歩ちゃんには活躍して欲しいから気にしないでよ」
ドラマ撮影中なので飲んでいるのはお酒というわけではないだろうけど
隣に歩を侍らせているからか上機嫌だ
「ただ撮影をある程度やってみて、のり子ちゃんの方は演技も大丈夫そうだけど
歩ちゃんはぎこちなくてねぇ。ほら、オレとしても歩ちゃんを紹介した責任あるからさ
今度演技練習をじっくりやるって約束してた所。ね、歩ちゃん?」
「は、はい……えっと、プロデューサー。そういう訳だから、後でスケジュールの調整お願い」
「あ、ああ……」
少し気まずそうにこちらから視線を外す歩に、俺も何とか了承を返す
「それじゃ、オレはそろそろ準備に戻るよ、二人も本番に遅れないようにね」
二人きりを十分楽しめたと言うように、鈴木さんは隣にいる歩を軽く抱きめ
恋人の様に歩の髪を撫でると控室から出て行った
少し煙草臭さも残る控室の中で、気まずい雰囲気を引きずっていると
「……アタシは、大丈夫だから」
そう言って歩は立ちあがると、控室で立ち尽くす俺に一歩、また一歩と近づき
……そのまま、ゆっくりと俺に抱きついてくる
背中に回された手の感触にはっとなり
「あ、歩……!?」
歩に抱きつかれ、どうしたものかと手を宙に漂わせる
「ごめんプロデューサー、心配ばっかりかけて。プロデューサーとしてはやっぱり認められないよね
……その、鈴木さんとの関係」
「それは……」
本心で言えば、枕営業と言える関係に思う所はある
だけど、歩を満足にプロデュース出来ていない自分にそれを言う資格は……
「でも、アタシは事務所のアイドルの皆と一緒にこれからもアイドルをやって行きたい」
そのはっきりとした歩の言葉に、それ以上のやりとりは必要ないと思えた
歩は俺に何と言われても、鈴木さんとの関係を続けるつもりなのだ
「お帰りプロデューサー!鈴木さんから聞いたよ、アタシのキャバ嬢姿見てみたいってさ」
「え、き、キャバ嬢……?」
「そう!ドラマの役で着るの、友人役の歩のバイト先で一緒にキャバ嬢をやるって流れ」
キャバ嬢と言う単語に、ふと歩に抱きつかれた事を思い出して後ろめたい気持ちになりつつ
ドラマの役としてそういうシーンもあったと見せて貰った台本の内容を思い出す
「プロデューサーはむっつりだもんね、そんなに見たいなら直接言えば良いのに」
「ああ、その、恥ずかしくて……な?」
「と言う訳で……こっちこっち!」
何かを企んだようにニヒヒと笑い、のり子は俺の手を引いて撮影機材の並ぶスペースへと歩いて
行くとパソコンの前に座り、隣に座るよう空いている椅子を手で叩く
「スタッフさんに確認させてもらえるようにお願いしたんだ」
慣れた手つきでパソコンを操作し動画を再生するとそこに映し出されたのは
歩と似たようなデザインのパーティードレスに身を包んだのり子の姿
「……セレブ交流の時も思ったけど、色はイメージカラーと言うのは徹底してるんだな」
「イメージカラーは大切だからね、その辺りは毎回スタッフさんと話し合ってるし」
柔らかい黄系の色で、パーティードレスの色としては馴染みのなさそうな色でもある
だからこそ映像で見ていてものり子の存在感はあり、主役のオーラを感じられる
「ちなみに、このドレスノーブラでさ。中はニップレスだけなんだよ」
映像を見ていると、隣でのり子はそう小声で囁いてくる
どおりで柔らかそうに揺れていると思った……じゃなくて
「千鶴さんの仕事で丸出しにしてたんだから、ニップレスくらいOKだよ
それにドレスの中だから見せてる訳でもないし」
「それは確かに……」
こちらの考えを読んだように、のり子は再び小声で話しかけてくる
その囁きに内心ぞくっとしつつパソコンの画面に集中する
キャバクラを模したスタジオの中、のり子は明るい表情でお酒を注ぎ接待をしていて
客と会話している様子を見ても緊張を感じさせず、むしろ普段通りののり子そのままと言える
様子に鈴木さんの評価ももっともだと思った
ただ、その分演じている役と普段の様子がイコールに感じられ
実際にのり子がキャバクラで働いている様な錯覚を覚えてしまう
地方での仕事をきっかけに良い調子で仕事に結びついているけど、そうでなければこうして
キャバクラなどで働く事もあったかもしれない、なんて考えてしまった……