人類が…或いは数多の知的生命が宇宙に進出してもう幾星霜も経つ。
星の大海原を行く人々は太陽の光を集める帆を張った船で星々を渡った。
銀河大航海時代である。
幾つかの星間文明が銀河に出現し、前後左右という概念の無い銀河を東西南北に無理矢理に分け、それぞれが未知の星系にその触手を伸ばしていた。
その象徴と云うべきか、全長600M強の大型ガレオン(地球史では15〜16世紀に活躍した大型船。大航海時代に活躍し、スペインのガレオン船は金銀財宝を積み、或いは船に備え付けられた多数の大砲で海戦に及んだ事で有名)クラスの武装客船が金銀財宝と航海を楽しむ様々な身分、出身の星を持つ人々を乗せて、航路を進んでいた。
そこに怪しげな船が一隻、近づいてきた。
船員「船長、右舷後方より発光信号。臨検の為停船せよと言ってきています。」
船長はブリッジから星間望遠鏡を取り出し、件の船を見る。
両舷60門級の250〜300M級の重巡洋艦クラス(地球史の英国海軍等式に準えると3〜4等戦列艦クラスの二段甲板を持つ中型艦)の船が発光信号を送っている。
そしてマストに翻る旗はこのガレオン船の所属する国の物だった。
船長「臨検だと…?ここ最近海賊被害が増えている所為か?この辺りは安全な航路の筈だが…軍に目をつけられるのは厄介だ、臨検の準備、停船せよ。」
船員「はい船長、帆(太陽帆、ソーラーセイルの事)を畳めぇ!重力アンカーを降ろせぇ!」
船員「錨を降ろせ!帆を畳め!」
件の船も帆を畳み、少しずつ近づいてくる。
そして互いの船は相対速度を合わせ、宇宙のど真ん中に停船した。
警戒体制を敷いているのか、この重巡洋艦は両舷のエネルギーカノン(この銀河に広く普及する大砲。砲弾に電磁熱エネルギーを纏わせて発射する半実弾半光線兵器。ほぼ全ての船に搭載され、各惑星を守る守備軍も装備している。)
が剥き出しだった。
ガレオン船の船長は軈て不安になった。
重巡洋艦の船員達が見当たらない。
臨検に来る筈の士官や海兵すら現れない。
そして次の瞬間だった!
?「撃てぇぇぇ‼︎‼︎」
ガレオン船と接していた30門のエネルギーカノン砲が一斉に火を噴いた!
至近距離の一斉砲火はガレオン船には致命的だった。
船長「ヒィ⁉︎突然撃ってきたぞ‼︎」
船員「船長!コイツら海軍じゃありません!かいぞ…」
と言いかけた船員は横から飛んできたレーザー銃のレーザーに頭を撃ち抜かれ絶命した。
船に隠れていた船員達が一斉にレーザー銃を放ち、甲板に出ていたクルー達を狙撃し始めた。
そして向こうの船長らしき男が舵輪を持ち高笑いを浮かべていた。
?「ご機嫌麗しゅう‼︎カステリオン星間王国の諸君‼︎この船の財宝は全て頂いていく!哀れなクルーと乗客一同は船と運命を共にするか、脱出ポッドに乗り換えて頂こう!野郎ども!邪魔する奴らは全員やっちまえ‼︎」
船長「か、海賊だ‼︎総員戦闘配置につけ!無事なエネルギーカノン砲を出せ!撃ち返せ!」
だがこの海賊は手慣れていた。
海賊達はあっという間に鉤縄を船のマストや船縁に括り付けると、乗り移ってきた。
海賊達はレーザーカトラスとレーザーピストルを両手に持ち、戦いに不慣れな船乗り達を圧倒した。
城と見間違える程大きな船楼で、先程まで美酒に豪華な料理に舌鼓を打ち、踊り明かそうとしていた乗客達は恐怖に怯え、身を寄せ合っていた。
そして大きな船楼の扉が勢いよく開き、それと同時に手酷く暴行された船長が吹っ飛んできた。
?「乗客共‼︎有金全部寄越せ‼︎さもなくば全員皆殺しだぁぁ‼︎」
海賊の頭は威勢よく言った物だ。
乗客達は恐怖と同時に驚愕した。
その海賊の頭は人間の青年だった、然も歳は二十代半ばを迎えたぐらいにも関わらず、堂々としていた。
付き従う全員は年齢や姿こそ様々だが、頭を見る眼差しは尊敬に溢れていた。
粗方金目の物を奪い終わった頃、ガレオン船が爆発した。
海賊「船長!ガレオンがもう保たねぇ!沈んじまう‼︎」
?「コンスティテューションに戻るぞ!お前らは死にたくなかったら脱出ポッドにでも入ってな。助ける義理は俺たちには無いからな。」
そう言い残し、海賊達は去った。
海賊船コンスティテューション号は燃え盛り、沈むガレオン船の炎の背に宇宙を直走る。
さてコンスティテューション号はお祭り騒ぎだ。
何せ金銀財宝の山が船に溢れ返らんとばかりに満載されているのだから。
海賊「ヒャッハハハハ!見ろ、銀貨がザックザクだ‼︎」
海賊「当面女遊びにも食うにも困らねぇぞ‼︎」
海賊「流石はジョン船長だ‼︎」
ジョンと呼ばれた若い船長は舵輪を握りながら、ダイヤの指輪を眺めていた。
そしてそれを懐に仕舞うとこう話した。
ジョン「カステリオンの奴らは傲慢だからな、一介の商会ですら、馬鹿でかい武装ガレオンが持てるぐらい奴らは裕福だ。奴らはガレオンに喧嘩を売る様な奴は居ないと思っているだろうが、だが肝心の船員が軍隊程訓練出来てないから碌に戦えない、正に船の持ち腐れ。オマケに小型艦を護衛につけるような事もしない。だからあんな簡単に襲える。お前ら、明日は別の星系で網を張るぞ!カステリオン海軍のガレオンと巡洋艦の艦隊に追われるのは面倒だからな!」
海賊「ウオオオオオオオ‼︎‼︎」
海賊達が意気揚々としているとマストの見張り台にいた海賊が叫ぶ。
海賊「ジョン船長!左斜め前方に小型フリゲートクラスの船が接近中!一隻だ!」
ジョン「さっきのガレオンが救援要請を送っていたのか…?だが小型フリゲート船で俺たちとやり合えると思ってるのか?こっちは戦列艦だぞ?野郎どもやっちまおうぜ‼︎‼︎」
海賊「ウオオオオオオオ‼︎‼︎」
意気揚々から一点、ジョンと海賊達はコンスティテューションの甲板に全員集められ、組み伏せられていた。
どうしてこうなったのか?
ジョンはまるで理解が追いついていない。
仲間の海賊達もそうだ。
だが少なくとも分かるのは、一隻のフリゲートと戦っていたはずが四隻のフリゲートと戦う事になっていた事。
不意を突かれて船は身動きが取れなくなり、あっという間に乗り移られた事。
そして彼らは分け合ってこのフリゲート艦隊には手出しが出来なかったのだ。
ジョン「どういうことだ…なんでライオネス連合王国海軍がカステリオンの軍旗なんか掲げてやがる。…オマケに他の三隻のフリゲートも突然ワープ(超光速航行)してきやがった…。まるで…」
?「罠を張っていた様だ、と言いたいのかしら?」
ジョンの前に現れたのはこのフリゲート艦隊の提督らしき人物だ。
ジョンは顔を上げ、その提督を見上げると
ジョン「冗談だろう…」
と口をこぼした。
その提督は長い金髪の髪の毛を靡かせ、大人びた豊満な美しい肢体を赤いロングコートに白のスカートズボンで覆い、黒い長靴を履き、提督用の豪華なサーベルとピストルを佩た女だったのだ。歳の頃は20を少し過ぎた頃か。
?「海賊、ジョン・ドゥ船長。ライオネス王国国王陛下の名の下に貴方と貴方の船と船員は我が王立海軍の管理下に置かせて頂きます。」
ジョン「捕まえて絞首刑にするんじゃ無いのか?お前達の狙いはこの船だろう?」
?「確かにこの船の生い立ち、そして今積んでいるカステリオンの莫大な財宝…確かに魅力的ね、船長。でも私の狙いは貴方、ジョン・ドゥ船長、いやジョン・P(ポール)・ジョ…」
ジョン「その名で呼ぶな‼︎その名は父の名誉を回復するまで決して名乗らず、呼ばせぬと誓った‼︎」
ジョンは鬼の形相で女提督を睨みつけ、他の船員達も皆似た様な状況で怒り狂ったが、海兵達が銃剣をつけたレーザーライフルを突きつけ、黙らせた。
?「フフ、やはり貴方は、貴方達の狙いは…。なら取引をしましょうジョン船長?」
ジョン「取引?海軍と海賊がか?」
?「面白いでしょう?貴方は私に忠誠を誓えばいい、掠奪品も三割王国に納める事。私は貴方の復讐に手を貸し、それを成し得た時、十五年前のあの事件で被った貴方達の親や兄弟、今も乗っているかもしれないコンスティテューション号の船員の名誉回復と、その時生き残った船員全員に我が王立海軍の将兵としての地位を約束しましょう。」
ジョン「馬鹿にするな、フリゲート艦隊の提督如きにそんな事。」
?「出来るわ、私は国王陛下よりこの開拓セクター数十星系を我がライオネス王国の支配下に置くように拝命を受けた王立海軍第七艦隊の提督であると同時に、開拓セクターの総督を勤める事になる身。この様な些事幾らでも好き勝手に出来ますわ。」
ジョンはこの高飛車な女が出鱈目を言っているとは思えなかった。
理由あって碌に抵抗できなかったとはいえ、先の奇襲戦法といい、艦隊運用は見事な物だ。
それに溢れるこの高貴さ、只者では無いと察した。
ジョン「約束を守るのであれば依存は無い…復讐の成就と、俺を含め、俺たち全員を海軍に籍を用意してくれるならな。」
?『決まりね。』
女は指を鳴らすと、海兵達は海賊達を捕らえていた縄を切り、自由の身にした。
ジョン「あんたは何者なんだ、お嬢?」
女は振り返った。
?「私の名前は…」
と言いかけた瞬間、突然ワープアウトしてきたのは堂々たる異様を見せる700M級、エネルギーカノン砲両舷100門も備える一等戦列艦(地球史英国海軍等式に当てると最大級の戦艦、後の世の超弩級戦艦の立ち位置にあたる)だ。
メアリー「メアリー・ネルソン。王立海軍不敗の提督の後継者になる女よ!」