※この作品はR-18です。

俺はこの露出願望女子を守りたい   作:尾籠ころち

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第1話 きっかけは些細な気遣い

 暗い路地裏で俺の後ろを、彼女が歩く。

 おそるおそるの足取りで、つかず離れず。絶妙な距離感。

 

 足音だけが響く、沈黙の中でやがて歩みが止まった。

 

「この辺で……いいよ」

 

 囁くような声だったが、しっかりと耳に届いた。

 

 俺は振り返る。

 

 グレーのパーカーワンピが、ふわりと揺れていた。切りそろえられた茶髪のボブショートがボーイッシュめな印象を与えている。やや童顔めの愛嬌ある顔は、いまや羞恥心でいっぱいだった。

 

 ――薄原(すすばる) 叶夜(かなよ)は口を開いた。

 

「えっと、一誠くん。すこし待っててね」

 

 告げると、暗い路地裏でそっと背中を向けた。

 

 覚悟を決めるような息を吸う音、続いてジジジッ、という音が続きフロントファスナーを静かに開いていく。しかし、それが終わっても彼女は振り向こうとしない。背中がわずかに震えていた。

 

「なにしてんの? さっさと振り向けよ」

 

 俺が急かすように声を掛けると、ビクリと肩が震えた。

 

「あ……う……」

 

 小さく漏れた声は、明らかに動揺を含んでいた。

 俺は黙って待つ。やがて、息を吐きだすと叶夜はゆっくりと振り返る。顔は真っ赤で、目には涙が浮かんでいるが、汚れた地面を必死に見つめている。

 

 叶夜はパーカーワンピのフロント部分を、両腕で覆い隠して留めている。ふるふるお震えて、次第にゆっくりと腕の力が抜けていった。

 

「ふぁあ……」

 

 夜の冷たい空気が直接肌に触れて、小さく身震い。

 そこで、ようやく俺と目が合った。涙が零れそうなほどな瞳に、恥ずかしさと緊張とが入り混じった表情。そして、隠しきれない確かにそこにある期待感。

 

 開かれたパーカーワンピの隙間から、ピンクの下着に包まれた肢体が見える。肉付きが良く、ブラジャーの谷間から膨らみが溢れそうになっていた。

お腹のラインは肉感的だが綺麗で、ヘソが愛らしい。健康的な美脚はむっちりとしている。

 

「なんか。すげえ綺麗だな、カラダ」

 

 思わず本音を漏らすと、叶夜は恥ずかしそうに俯いてしまった。

 とはいえ、せっかく見せてくれているのだから、と俺は遠慮なく眺めながら声を掛ける。

 

「誰も来ないよう、見張っててやるよ。それで、興奮してんの?」

「う、うん。……見られてると思うと、ドキドキしちゃうな」

 

 言いながらもどこか嬉しそうな様子だった。そんな彼女を見ていると、こっちも変な気分になってくる。

 

「こんな路地裏で、同級生に下着姿見せて興奮してんの、本当にやべえな。……変態かよ」

 

 はっきりと罵ってやると、「ひうっ」と里香は身を縮ませる。でも、身体を隠そうとはしない。はあはあ、と息を漏らした。いっそう顔が紅潮している気がする。

 なるほど、こいつ、こういうことが言われたいわけか。語彙力がないから、難しいもんだな。

 

「で? 次はなにをしたいんだ?」

「……そうだね。その、パンツも脱ぎたいかも」

 

 マジかよ、こいつ。おかしくもないのに、思わず笑いそうになって鼻から息が漏れた。

 

「じゃあ、脱いじまえよ」

「うん。……脱ぐね」

 

 俺が促すと、叶夜がスカートの裾を掴み上げていく。桃色の布地を見せつけると、そこに手をかけ始める。ゆっくり腰をくねらせながら……。

 

 

****

 

 

 俺、桃地 一誠にこんな趣味があるわけじゃない。

 

 そもそも、この薄原 叶夜と知り合ったきっかけは、本当に偶然だった。

 その日、俺は賑わう街の人混みをかき分けて、意味もなくブラついていた。

 

 お洒落なカフェのテラス席からは、若い女たちの楽しそうな笑い声が聞こえ、行き交う人々はそれぞれの目的地へと急ぎ足で向かっている。

 

 身体を動かすのもいいが、ただ人の流れを眺めながら、賑やかさに身を任せるのが嫌いじゃなかった。

 スクランブル交差点を渡り、空気感を楽しむ。

 

 そんな喧騒の中、ふと目に留まったのが、一人佇む叶夜の姿だった。この時の関係は、特にかかわりのないクラスメイト。

 普段はどっちかっていうと明るい奴で、威勢が良いタイプの女子だった。

 

 その叶夜が、地下鉄前で不安げな表情で落ち着きなく周囲を見回していた。

 

 ようするに、この姿がやけに俺の心を惹いた。

 普段なら見過ごしてしまうような場面だったかもしれない。だが、その時の俺は、ほんの少しの好奇心と、醸し出すどこか儚げな雰囲気に、庇護欲がそそられたのだろう。いわゆる、ギャップというやつだ。

 

 それに格好が……かなりヤバかった。

 

 だから、深い考えがあったわけじゃないんだ。本当に、ただの軽い気持ちだった。困ってるなら、助けてやろうと。

 

「薄原さん? なにしてんの」

 

 今思えば、この一声がまさかあんなことに繋がるとは夢にも思わなかった。

 

「えっ!? あ、あのっ、そのっ……」

 

 突然の問いかけに、叶夜は明らかに動揺した様子を見せた。

 

 肩をびくりと震わせ、瞳は大きく見開かれている。頬はほんのり赤く染まり、言葉を探すように口元が小さく開閉している。

 「なんか迷子の子犬みてえだな」と思いながらも、一瞬、声をかけたことを後悔した。俺はけっこうな強面だ、かえって怖がらせるならするべきじゃなかった。

 

 しかし、そこで叶夜はスーハ―と深呼吸をして、気持ちを落ち着かせようとした。強張っていた表情を和らげ、はにかんだような笑顔を浮かべて答えた。

 

「あ、えっと、友達と待ち合わせしてるんです! もうすぐ来る、はずなんですけど……」

 

 そう口にしながら、叶夜は心細そうにスマートフォンを握りしめた。

 俺はさりげなく周囲を見渡すふりをしながらも、実は、彼女の服装に目が釘付けになっていた。

 

 その日の叶夜は、白いワンピース姿だった。ただし、丈が膝の少し上で、動くたびに太腿のほとんどが露わになっている。胸元も大胆に開いているせいで、繊細な鎖骨が覗いている有様だ。

 そして、何よりも俺の目を引いたのは、下着をつけていないと思われる浮かび上がった胸のラインだった。薄手の生地から、くっきりと乳首の形が見える。

 

 これはどう見ても誘っているとしか思えない格好だ。

 

「……あのさ、その恰好、危ないと思うぞ」

 

 思わず本音が出てしまった。だが無理もないだろう。

 こんな格好で外を出歩くなんて、正気の沙汰とは思えないからだ。

 

 しかも、ここは、昼間から多くの人が行き交う繁華街だ。酔っ払いもいれば、悪意を持った人間もいるかもしれない。

 そんな場所で、肌を露わにした格好をしている彼女が、無事に過ごせるのだろうか。余計なお世話かもしれないが、どうしてもそう考えてしまった。

 

「あ、あはは。そう、かな。そうかも。……そうだよね」

 

 歯切れが悪い。叶夜は身を隠すように、自らを抱きしめた。

 見られたくないなら、なんで、そんな格好してるんだよ。

 

「ったく」

 

 小さく舌打ちをした後、俺は着ていた薄手のジャケットを脱ぎ、叶夜の肩にそっとかけた。少しでも肌の露出を減らせれば、いくらかはマシになるだろう。

 

「え、ちょ、ちょっと……!」

 

 戸惑う叶夜。俺は、これ以上ここに留まるのは気まずかったから、その場を離れようとした。無視して歩き出すと、叶夜も慌ててついてきた。

 

「いや、あのさ。なんか知らないけど、俺に関わってほしくないんだろ。でも、俺はその恰好だと心配だからさ。上着は都合のいいときにでも返してくれよ」

 

 シッシッと手で払いながら俺は言い残し、人混みの中に足早に紛れ込む。振り返ることはなかった。

 

 叶夜がどんな表情をしているのか、想像もできなかった。ただ、この行動が、彼女にとって迷惑でなければいいとだけそっと願った。

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