※この作品はR-18です。

俺はこの露出願望女子を守りたい   作:尾籠ころち

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第3話 きっと3回目の偶然はねえから

「お前、こんなところで何してんだよ?」

 

 真夜中に出会ったクラスメイトが泣いていて、足元に見知らぬ男が倒れている。まるでドラマか何かのワンシーンだ。

 犯人、俺だけどな。はは、ウケる。

 

「あの、その……」

 

 叶夜は言葉を探すように、潤んだ瞳をあちこちに彷徨わせた。グレーのパーカーワンピの裾をぎゅっと握りしめ、今にも崩れ落ちそうな表情をしている。

 

「この人が……いきなり、声をかけてきて……」

「あー、わかってる。それは、わかってるから」

 

 問題はアレよ。なんでこんな時間にいたんだよって話だ。

 俺が見た時には腕を掴まれて、引きずられそうになってたんだからな。反射的に、ブチのめしちまったけど。

 

「警察、呼んだ方がいいのかな」

「えっ、警察っ!?」

 

 何気ないつぶやきに対し、明らかに強い抵抗感を示した叶夜。顔面蒼白になっている。

 

「だ、大丈夫だよ! その、何もされてないから本当に! ちょっと声をかけられただけで……」

「いや、でもよ」

 

 言い返そうとすると、叶夜はさらに声を重ねてきた。

 

「お願い、警察だけは勘弁して! お母さんに知られたくないの!」

 

 涙声で懇願されて困惑した。なんだ、この剣幕。マジ、意味わかんねえ……。

 そこで俺はようやく状況に気が付いた。

 

 「チッ」と思わず舌打ちする。すると、ビクっと叶夜の肩が跳ねた。

 

「ちょっと来い、ここ離れるぞ」

 

 俺は叶夜の手首を掴み、近くの公園へと歩き出した。戸惑うような声を上げるが、なぜか抵抗はしてこなかった。

 足元がおぼつかなくて、時折つまずきそうになってるから仕方なく軽く支えてやった。

 

 倒れてる痴漢男は完全放置、どうなろうが知ったことか。

 

 夜の公園は人気がなく、街灯だけが頼りない光を投げかけている。ブランコや滑り台が、闇にぼんやりと浮かび上がっていた。

 ベンチに腰を下ろすと、叶夜は俯いたまま動かない。時折、小さく鼻をすする音が聞こえていた。

 

「で、お前さ。もう一回聞くけど、なんでこんなことしてんの」

「あの、ちょっと。お夜食、食べたくなっちゃって……」

「嘘つくな。そのパーカーの下さ、どうなってんの?」

 

 指摘に、うっ、と声を詰まらせた。パーカーのフードがわずかに揺れ、茶色の髪が覗いている。沈黙が重くのしかかる。

 叶夜はパーカーの生地をぎゅっと強く握りしめていた。

 

 やがて、意を決したように、隣からか細い声が漏れ出した。

 

「……なにも、着てない」

 

 やっぱりそうかよ。警察を呼ばれたくなかったのは、下着も何もつけていないからか。この間の騒動といい、こいつ、本当に危なっかしいな。

 ちらっと視線をやる。パーカーがぶかぶかだから、身体のラインとかはわかんねえけど、なんか変な気分になる。

 

「ったく、だから、変な奴に狙われるんだろうがっ」

「――っ!」

 

 俺がそう叱りつけると、わなわなと拳が震え始めた。

 

「そんなこと、きみに言われたくないもん……」

 

 俯いたまま、蚊の鳴くような声が返って来た。

 

「はあ? なんだって?」

「だから……この格好のこと。桃地くん、には、関係ないじゃん。別に、心配されなくても、大丈夫だし」

「大丈夫なわけねえだろ、痴漢に襲われてたじゃねえか」

「あれは……たまたまだもん!」

 

 たまたま、ねえ。深夜に下着もつけずにコンビニに行くのがたまたまなのかよ。それで襲われそうになって? ……こいつの思考回路は、本当に理解不能だ。

 

「この間も、動けなくなって困ったんだろうがっ! 変な奴に絡まれたらさっさと逃げやがれ。いざって時、逃げられないくらい委縮すんならすんなっ!」

 

 怒鳴りつけると、叶夜は口ごもった。

 

「それは……ちょっと、その」

「なんで、止めたのに同じことやらかしてんだよ。……まあ、俺と深く話をしたくないなら、別にいいけどよ。ただ、同じことを繰り返すんじゃねえぞ」

 

 俺は立ち上がってあたりを見回した。よし、静かなもんだ。

 

「送ってやるよ。家、どっちだ?」

 

 驚いたのか、叶夜は顔を上げた。零れ落ちそうなくらい見開かれた瞳が、街灯の光を反射してキラキラと光っている。

 

「え……いいよ。一人で帰れるから」

「こんな時間に、その格好でか? また同じ目に遭っても知らねえぞ」

 

 さすがにこれで何かあったら、目覚めが悪い。叶夜は小さく唇を噛んだ。

 

「……お願い。家まで送って」

 

 観念したように、小さな声でそう言った。

 

 仕方なく、叶夜の歩調に合わせて公園を出た。夜風が冷たく、パーカー、一枚だけでは心もとないだろう。ちらりと横を見ると、叶夜は両腕をさすりながら、寒そうに身を縮めている。

 

「寒いのか?」

 

 問いかけると、小さく頷いた。

 

「……うん」

 

 自分の着ている薄手のジャケットをどうしようか迷ったが、以前貸した時に気まずい雰囲気になったのを思い出す。

 俺は深々とため息をついた。もう、仕方ねえんだよな。

 

「ほらよ」

 

 俺は着ていた薄手のジャケットを脱ぎ、少し強引に叶夜の肩にかけた。以前と同じ光景だ。

 

「え……でも、桃地くんが寒くなっちゃうよ」

「俺は平気だよ。お前こそ、風邪引いたらどうすんだ」

 

 遠慮がちに叶夜はそう言ったが、今回は素直に受け取った。ぶかぶかのパーカーの上からさらにジャケットを羽織ったせいで、シルエットがさらに丸みを帯びて、なんだか子供みたいに見える。

 

 叶夜の歩くペースに合わせてゆっくりと歩き出す。夜の静けさの中、二人の足音だけが響く。時折、遠くで車の走る音が聞こえるくらいだった。

 

 しばらく歩いていると、叶夜がぽつりと呟いた。

 

「ありがとう……」

 

 小さな声だったが、確かに聞こえた。

 

「別に。そんな格好してるお前が悪いんだからな」

 

 素直に感謝の言葉を受け止めるのは、すげー照れくさかった。つい、いつものように突き放すような言い方をしてしまう。

 

「うん……そうだね」

 

 叶夜は反論することもなく、小さく頷いた。そこに、どこか諦めのようなものが混じっていた気がした。

 しばらくすると変哲もないアパートが見えてきた。そこが叶夜の家らしい。

 

「あ、あの……ここで大丈夫」

「そうか」

 

 俺も立ち止まる。

 

「今日は、本当にありがとう。助かったよ」

 

 今度は、さっきよりもはっきりと言った。顔を上げ、きちんと俺の目を見てくる。少しだけ涙の跡があるが、さっきまでの怯えた表情は消えていた。

 

「別に、礼を言われるほどじゃねえよ。二度とあんな危ない真似すんな」

 

 言い残して、俺は背を向けようとした。

 

「あの!」

 

 焦ったような声に振り返ると、叶夜は俺に駆け寄ってきて、羽織っている俺のジャケットを脱いで差し出した。

 

「これ、返すね。ありがとう」

「いや、もうちょっと先あるだろ。……別に明日でいいよ」

「ううん、今日返す。ありがとうね、本当に」

 

 ジャケットを俺の手に押し付けてきた。すげー小さな手だ。

 

「わかったよ、確かにな。学校で俺と噂されたら困るもんな?」

 

 あえて、意地悪に言ってやると悔しそうに口元を結ぶ。へえ、こいつこんな顔も出来るんだな。

 目を伏せて、なにかを堪えている幼い顔を見つめて、俺はきっとこれっきりになるだろうな、と予感した。

 

「スマホ出せよ」

「……えっ?」

「もし、お前が困って連絡よこしたら駆けつけてやるから、連絡先やるって言ってんの。どうする?」

 

 気まぐれ混じりの予防線だった。これで断られたら、今後なにが起きても、もう俺の責任じゃないと割り切れる。2回偶然が続いても、きっと3回目の偶然はねえから。

 何度も目を泳がせて迷う、叶夜。

 俺は答えが出るまで、いくらでも待つつもりだった。どうせ断られる。

 

 だが、予想に反して帰ってきた答えは――。

 

「――お願い、します」

 

 壊れてしまいそうなくらい、弱々しい同意だった。

 

 ……帰り道、自分のジャケットを抱きしめると、まだ微かに叶夜の匂いが残っているような気がした。なんだか、そわそわして落ち着かない。

 

「……コンビニ、行き損ねたな」

 

 今夜は、なんだか寝付けそうにないかもしれない。

 

 翌日、学校で叶夜と顔を合わせるのが、少しだけ気まずかった。




意外と読んでくださる方いるので、更新します。
(公募の合間なので、頻度は遅めです)
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