俺はこの露出願望女子を守りたい 作:尾籠ころち
嬉しかったです。もうすこし続けることにしますね。
「え……」と叶夜が掠れた声を上げた。それはあまりにも不確かで、すぐに教室の静寂に吸い込まれた。指先を弄ぶ動きが止まる。
俺は繰り返した。
「だから、どんな写真なんだよ」
今度は強めに問いただした。
「あー」とか「うー」とか呻いて、逃げ場を探すように視線をさ迷わせた。でも、逃げなかった。
深く息を吐くと、上目遣いで俺を見る。
「その、それは……ちょっと、恥ずかしい……から」
ますます俯き加減を深めながら、首を傾げた。
本人にそのつもりはなくても、その仕草が、かえってどんな写真なのかを想像させて、俺の心臓を騒がしくさせた。
「恥ずかしいって……あの夜の格好よりか?」
俺は意地悪く言ってやった。図星なのか、叶夜はびくりとすると、夕日の赤と混ざって、茹でダコみたいになった。
「あっ! ――あれとは、違うもんっ!」
ムキになったように言い返してきた。こいつ、からかうと面白いかもしれない。
俺は叶夜の見せる一面、どの顔が素なのかまったくわからなくて、どんどん言葉を投げかけたくなる。
「どう違うんだよ。どっちも、あんたが人に見られたくないような姿なんだろ。てか、自分でそんなの撮ってあげてるんだな」
「う……それは」
「それは?」
目線を外そうとしたので、俺はかがんで顔を覗き込んでやった。すると「ひゃう!」と悲鳴を上げて、亀みたいに首を引っ込める。
そうやって動揺して彼女が動くたびに、襟元から見える肌のコントラストへと目が向かい、心地よい香りが鼻を撫でた。
正直な話、俺は楽しくなっていた。
「ほら、言えよ。……そしたら、また浦瀬が絡んできたら助けてやる」
「えっ!? あー、それズルいよぅ……」
言い方を変えてやると、視線を俺の肩のあたりに逸らす。もう時間の問題だった。
「その、自分で、です。 自分で撮ってあげました」
「そりゃだろうな」
「……うう、わざわざ言わされた」
実際、引いてる部分はある。あの格好で外を歩き回ろうとするのも大概だと思ったが、自分で露出度の高い写真を撮ってネットにあげてるなんて、さらに意味がわからない。
だから、本当なら関わらない方がいい。理性はそう告げている。
でも、俺は踏み込むのを止めなかった。
「見せてみ?」
「……え?」
なにを言われたかわからない、というような顔をした叶夜。信じられない現実を突きつけられて、瞬きを忘れたらしい。そこから、顔が強張り小刻みに首を振る。
「むりっ、むりだよ、そんなのっ! だって……や、やだよ! そんなの、見せられるわけないじゃん!」
叶夜は両手をぶんぶんと振って拒否する。なぜか、拒絶されてるよりも怖がっているように俺には見えた。
「なんでだよ。俺、口堅いぜ、もうわかってんだろ」
「そりゃ、この間のこと黙っててくれてるんだから、そうなんだろうけど!」
「しかも、SNSじゃ晒してんだろ。じゃ、俺が一人増えたところで別にいいだろ。同じことだぜ」
「ぜんぜん違うよ! 目の前の人に見られるなんて、ぜんぜん違う!」
ネットで全世界に向けて晒す方が、よっぽどヤベえと思った。支離滅裂だった。
「どっちも誰かに見られてんだろ」
「そうだけど! だってっ……だって、画面越しと違って、目の前の人は……本当に、そこにいるから」
必死に言葉を選び、どもりがちに叶夜は言う。画面の向こうにだって人はいるだろうに。そう、さっきの浦瀬みたいに。
「さっき、助けてやった礼だと思えよ。出来ねえの?」
半ば強引に言ってやると、叶夜は「うう~」と唸り声を漏らした。足元を忙しなく見ながら、感情を抑え込もうとこぶしをきつく握る。
「……ずるいよ」
「ずりぃのはお前だろ。つか、あんま力入れて握んな、痛くなるぞ」
そのまま俺は叶夜のこぶしを手に取ると、ゆっくり指を開かせようと触れる。途端、ピュッと逃げられた。
「わ、わかったから! もう降参っ! ……その、誰にも言わないで」
「ああ、もう。言わねえって」
上目遣いで、不安そうに尋ねてくる。瞳に微かな光が宿っている。
まだ迷っているようだが、頑なだった姿勢はわずかに緩んでいるように見えた。
「……あと、その。わたしのこと汚いって思わないって約束して」
「はあ? あー、それだけはない」
意味のわからないことばかり言われている気がする。俺は自分の頭をわしゃわしゃと掻いた。
マジで綺麗だと思ってるんだから、絶対にそれはない。今すぐにでも、染まる叶夜の頬や首筋に触れたいと思う。柔らかそうな二の腕にも。
すると、叶夜は深呼吸をした。観念したような、なにかを諦めたような。そしてほんのかすかに期待が入り混じったような、複雑な表情を浮かべた。
そして、ゆっくりと自分のスマホを取り出し、操作し始めた。指先が若干震えているのがわかる。
俺は黙って、その手元を覗き込んだ。斜陽が画面に反射して、ちょっと見えにくかったから身体を寄せた。一瞬、画面をスクロールする動きが止まる。
「あの……本当に見る?」
「しつこい」
ぴしゃりと俺が切って捨てると、操作を再開。おずおずとスマホを俺の方へ向けてきた。
俺は叶夜のスマホを受け取り、画面を覗き込む。
そこに映し出されていたのは──。
画面の中の叶夜は、あの夜の路地裏で見せた姿とはまた違う、明らかな挑発的な雰囲気。撮影場所は私室なのだろう。
背景に、ぬいぐるみやハンガーにかけられた上着が映る。
ゆるい部屋着。無造作に襟元を指でつまみ、胸元を引っ張るように開いている。
ふっくらとした双つの膨らみが覗いて、深い曲線の谷間がくっきりと見えた。肌は風呂上がりのようにほんのりとピンクに上気している。
その左の乳房には、まるで秘密の印のように小さなホクロがひっそりと佇んでいた。
ああ、これか。と、俺はうっすら察した。
次の写真は、身体のふんわりしたラインを鮮やかに際立たせていた。ゆったりとした上着の裾を、彼女は軽やかな仕草でたくし上げ、ウエストのあたりでぎゅっと絞り上げている。
布地が肌にぴたりと寄り添い、室内の光を浴びて滑らかな肌が輝き、肉感的なのにどこか洗練されたお腹がくっきりと浮かび上がっていた。
愛らしい小さなへそが、さらに惹きつける。
ゆっくりとスクロールされる画面に、俺は釘付けだった。写真を見るにつれて、胸の辺りがざわつき始める。
――これは、ヤバいな。
素足、太ももを晒すようなものから、少しずつ大胆になって行く。
叶夜は、時折、チラリと俺の顔色を窺っているのが気配でわかる。その度に、息遣いも止まった。
最後の写真では、部屋着はすっかり脱ぎ去られ、淡い水色の下着に身を包んだ叶夜の上半身だった。
恥じらうような細い手が、軽く組み合わされわずかに隠そうとしているが、それでもなおブラの繊細なレースが、溢れ出しそうに揺れている乳房を際立たせていた。
腰をややひねったポーズは、挑発的でありながらどこか無防備で、視線を引きつけて離さない。顔はマーカーでかき消されているが、華奢な肩から流れる滑らかさ、鎖骨から左乳房近くにひっそりと佇む小さなホクロは隠しきれていない。
ほのかに漂う危うさがその一枚に閉じ込められていた。
「こういう、感じ、なのか」
思わず、叶夜を見た。目の前のこの娘が、この写真を。
だが、叶夜は目を逸らしてこなかった。
自分のお腹を押さえるように、シャツをぐしゃっとわし掴み。浅い呼吸、縮こませた身体が寒さに震えているみたいになっていた。
くしゃくしゃの顔。羞恥心で恐怖でいっぱいになっている。瞳からじわじわと涙があふれて、とうとうそれが頬を伝った。
……親に叱られることを怖がる子供みたいだった。