友人以上、セフレ未満 作:ナナナ
私が目を覚ました時には、瑞樹はいなくなっていた。
ぐちゃぐちゃのベッドから起き上がると、ガンガンと痛む頭を振る。
記憶が確かならば昨日は昼過ぎにセックスしていたはずが、起きたら次の日の朝だった。そりゃあ、瑞樹も帰る。
机の上には『鍵はポストの中』という簡潔な書置きが残されており、まだ肉棒が挿さった感覚の残る下半身を引きずってポストを見ると、私の鍵が入っていた。
「……はぁ」
部屋に戻り改めて惨状を見ると、昨日の交わりがどれだけ激しかったか分からさせられる。
シーツはぐしゃぐしゃに乱れてあちこちに何かの染みができており、ゴミ箱には目を疑うような量の精液が入ったゴムが捨てられていた。
何より部屋に凄まじい淫臭が充満しており、嗅いでいるだけでおかしな気分にさせられる。
顔を洗い歯を磨いた後は真っ先に窓を開けて換気、ベッドシーツや下着を洗濯機にかけ、コンビニで水を買うついでにゴミを捨てる。
母さんが帰ってくる前に痕跡を消さないと、何を言われるか分かったものじゃない。
部屋に掃除機をかけベッドシーツを干し終え、ようやく一息つく。
「はぁ……シャワー浴びないと」
身体中が汗まみれで気持ち悪い。
私はかけ終えたばかりの洗濯機に服を投げ入れると、シャワーを浴びる。
「……」
頭から湯を浴びながら、鏡で自分の身体を見る。
太ももにくっきりと残った爪痕と、胸と首元のキスマーク。
「……どう隠せばいいのよ」
胸は分かるが、首元のそれはいつの間に付けられたのだろうか。
こんなものを付けたまま……特に、雛菜の前に出た日には、私は終わりだ。
雛菜の質問攻めをかわす自信はない。
「夏場だからマフラー付けるわけにはいかないし……絆創膏?いや、湿布?」
あれこれ考えながらシャワーを浴び終え、父が使っている湿布を探す。
まぁまぁちゃんと困ってはいるのだが、不思議と嫌な気はしなかった。
湿布を見つけ鏡で見ながら首元に貼る。
少々おじさん臭いが、寝違えたとでも言っておけば良いだろう。
「はぁー……」
片付けを終えベッドに座ると、ドッと疲れが押し寄せてきた。
昨日の昼から何も食べていないせいでお腹が空いているが、もう一歩も動けない。
「……あ」
そういえば起きてから一度もスマホを見ていなかったことを思い出し起動すると、瑞樹からメッセージが入っていた。
体調大丈夫か?何かあれば呼べよ?という、男性らしい素っ気ない文面。
「……」
私が昨日生理の話をしたことを、覚えていてくれたらしい。
つい頬が緩むも、それを悟られないよう、ありがとう大丈夫、と短く返信する。
他にも幾つかメッセージが届いているが、返すのはまた後で。
「はぁ……」
横倒しにベッドに沈むと、ふわりと瑞樹の香りがした。
香水や石鹼の香りとはまた違う、男性特有の香り。
「……?」
香りの元を辿ると、それは枕だった。
きっと、昨日はこれで寝ていたのだろう。
外に干そうかと考えたが、無性に勿体なく感じてしまう。
枕に顔を埋めると、私と瑞樹の香りが混じっていた。
「瑞樹……」
目を閉じ瑞樹の顔を思い浮かべる。
私と同じゆるい天然パーマに、少し彫りの深い顔立ち。
最近より一層男性らしくなった身体つき。
高校まで十年近くやっていたバスケをあっさりと辞めたけれど、筋肉が衰えたようには見えない。鍛えているのか、訊いてみたい。
「ん……」
半ば無意識のうちに、私の手は下半身へと延びていた。
昨日の愛撫を思い出しながら、それと同じように自分のクリトリスをつまみ、擦る。
次第に愛液が染み出し指が滑るり、交尾中の犬のようにヘコヘコと腰がだらしなく動く。
自慰なんて、本当にいつぶりだろうか。
「瑞樹……瑞樹……」
名前を呼ぶ度、指が激しくなっていく。
昨日一瞬見た獣のような目は、誰を見ていたのか。
「っ……!」
腰が浮く。
きっと、きっと、あの目は私を見ていた。
そうに違いない。いや、そうであって欲しい。
「イっ……ク……!」
脳にスパークが走り、脚の筋肉が硬直する。
咄嗟に服の襟首を噛み声を抑えたが、パンツの中で軽く尿が漏れた。
「っ……!はぁ……はぁ……」
パンツから手を抜くと、指には白く泡立った愛液がべっとりと付いていた。
指を合わせ離すと、ネチャァと糸を引く。
「……最悪」
自慰に耽るのも、性欲が強くなったのも、全部瑞樹のせいだ。
瑞樹が居なければ、こんなに苦しい思いも、幸せな気持ちも、知らずに済んだかもしれないのに。
「……」
けたたましい蝉の声。
いつの間に、こんな真夏になったのだろう。