友人以上、セフレ未満 作:ナナナ
「ふぅん、雛菜ちゃんと小糸ちゃんもアイドルに、ねぇ……」
『やは~♡アイドル合格~!』という一文と共に添付された雛菜ちゃんと小糸ちゃんの自撮りを眺めながら、俺は電車での家路についていた。
事前に透と同じアイドル事務所のオーディションを受けるとは聞いていたが、どうやらすんなりと合格をもらったらしい。
魔のアルバイト六連勤が終わり明日から二連休ということで、何かお祝いをしてあげても良いかもしれない。
「……そういえば」
樋口に女の子の日が来てから、今日で六日目だ。
男の俺にはいまいち分からないがデリケートな期間ということで向こうから連絡がこない限り接触を避けてきたが、久しぶりに顔を見に行ってみようか。
そんなことを考えているうちに最寄り駅に到着していたので、俺は慌てて電車から降りた。
☆
「……あ、もしもし?」
『……何?』
地下鉄のホームから出て電話をかけると、樋口はすぐに出た。
どうやらスマホを見ていたらしい。
どことなく不機嫌そうな声色が、少し心配になる。
「いや……体調大丈夫か?」
『……ヤれるか確認の電話ってこと?まったく、性欲どうなってるの?』
「そうじゃねぇよ……大丈夫じゃなさそうだな」
『…………はぁ。大丈夫じゃない』
長い沈黙の後、深いため息と共にそんな言葉が吐かれた。
幼稚園の時から一緒にいるのだ。喋る内容から、状態の想像がなんとなくつく。
「俺、バイト帰りだから。何か欲しいものあるか?薬買っていこうか?」
『……いらない。暇、潰せるものが良い』
「了解。じゃあ二十分後くらいに行くから」
俺はぷつっと電話を切ると駆け足で家に戻り、シャワーを浴びて鞄に漫画を詰め込む。
そして樋口の家のインターフォンを押すと、にこにこと笑ったおばさんが家に招き入れてくれた。
「瑞樹君、この間はお弁当届けてくれてありがとね」
「いえ……円香は部屋に?」
「うん。ちょっと具合悪そうだけど……大丈夫?」
「えぇ、まぁ」
階段をのぼり扉をノックすると、目の下に隈の浮かんだ樋口がそっと顔を出した。
「……入って」
「おう……大丈夫かよ」
「……大丈夫」
そういえば、樋口がここまで弱っている姿をあまり見たことがない。
意図的に見せないようにしているのは薄々感づいていたが、ひょっとしたら、大きなお節介だったのかもしれない。
「漫画。読むか?」
「……何持ってきたの」
「東リベ。面白いぞ」
ベッドの上で膝を抱えて座りブランケットを羽織る樋口に漫画の一巻を投げ渡すと、いそいそと読み始めた。
あまり近くに座るのも嫌がりそうなので、俺は樋口に背を向けて床に座る。
そこからしばらくは、無言が部屋を支配した。
漫画のページをめくる紙の擦れる音と、下の階から漂う夜ご飯の良い香り。
「……雛菜と小糸。面接受かったって」
口火を切ったのは、樋口だった。
「おう。俺にも連絡来たよ」
「……浅倉と三人でユニット組むかもって」
「へぇ……ま、可愛いし人気出るんじゃないか?」
タイプは違えど見目麗しい三人だ。きっと人気のアイドルになるだろう。
将来的に人気になった時、幼馴染だと言いふらして回りたい。まぁ、やらないが。
何の気なしに発した一言だったが、気づけば、俺の背中には樋口の鋭い視線が突き刺さっていた。
「……何?」
それに気づかない程馬鹿ではない。
樋口の方を振り返る。
「……まぁ、浅倉は顔だけは良いから」
「……はぁ?何言ってるんだよ?」
「別に……何でもない」
「……雛菜ちゃんや小糸ちゃんだって可愛いだろ」
「……最低な人」
「はぁ?」
疑問符しか出てこない。
何故いきなり最低呼ばわりされなくてはならないのか。
「言ってる意味分かんねぇんだけど」
「……分からなくていい」
樋口はそう言って読みかけの漫画をベッドに置き、ころんと寝転がる。
苛立ち……いや、これはきっと、それに似た別の感情だ。
何かしらの感情を樋口から向けられていることは分かるが、それが一体何なのか。
俺の頭では理解が及ばない。
「……大丈夫か?」
「大丈夫。寒いだけ」
「冷房消すか?」
「……消さないで」
「そ……」
猫のように丸くなりブランケットを被る樋口。
俺はベッドの端に腰掛ける。
「……いつもこうなのか?」
「……今回、長くて酷い」
「身体、震えてるぞ。冷房消した方が良いんじゃないか?」
「……消さないで」
「……」
ずぶ濡れの捨てられた子猫。
今の樋口だ。
「……毛布が欲しい」
「おばさんに頼もうか?」
「……いらない」
子猫。そして天邪鬼。
こんな樋口、滅多に見ない。
「……どこが寒い?」
「……お腹」
「……嫌なら言えよ」
俺は樋口の隣に寝転がり、背後から細い身体を抱きしめる。
そして、腹の辺りを優しくさすってやる。
「……本当に、最低な人」
最低。
強い言葉だったが、そこに拒否の色はなかった。
むしろ、甘えるような声色さえ存在していた。
「……勝手に言ってろ」
腹をさする度、樋口が気持ち良さそうに息を吐く。
セックスしている時とはまた違った、安心したような甘い吐息。
目の前では樋口の後頭部がゆらゆらと揺れ、シャンプーの良い香りが俺の鼻をつく。
「……あ」
「ん……?」
身体が密着していることもあり、つい臨戦態勢になってしまった肉棒が樋口の尻に押し付けられていた。
樋口もそれに気づいたようで、腹をさする俺の手首を強く掴む。
「……最低」
「……すまん」
先の甘えるようなそれとは違う、明確な蔑み。
悪いとは思っているが、俺だって男なのだ。
「最初からこれが目的なら、そう言えば?私の体調を心配するっていう、大義名分が欲しかったってことでしょ」
「いやだから違うって……説得力ないけど」
「……はぁ」
「悪かったって……離れるから」
「嫌とは言ってないけど、ミスター・湯たんぽさん。今更職務放棄しないで。あと、反対向いて」
「分かったよ……」
めんどくせぇ……と言ってやりたくなるのをグッと我慢し、身体を転がして反対を向く。
そんな俺の身体を、今度は樋口が背後から抱きしめる。
まぁこれなら肉棒が樋口に当たることもないか、と考えていると、俺の下半身に樋口の手が伸びてきた。
手探りで俺の肉棒を探し当てた樋口の指がズボンとパンツを下ろし、優しく鈴口に触れる。
「……布団汚したくないから、出そうになったら言って」
「……分かった」
亀頭を弄ぶように、円香の指が動く。
裏筋を触ったかと思えば、気持ち良くなってきたところで手が離れる。
指の腹で鈴口を擦りカウパーを亀頭全体に塗り広げ、シュッシュとテンポ良く竿を扱く。
だが、それも気持ち良くなってきたところで、ぱっと手が離れた。
「……一思いにイかせて欲しいんだけど」
「……嫌。あと下にお母さんいるから声出すの禁止」
「出してねぇだろ……」
心底愉しそうな樋口の声。
さっさとイかせてくれないと、俺は樋口に襲い掛かってしまいそうだった。
「……当たり前だけど、本番はできないから」
「分かってるって……」
見透かされた。
良いように遊ばれている現状にイラっときた俺は、竿を握る樋口の手を上から自分の手で覆う。
そして、自分でする時のように、樋口の手を使って竿を強く扱き上げる。
ゴツゴツした自分の手のひらとは違う、柔らかい樋口の手で。
「あ、ヤバ……そろそろ」
「ん……」
今にも爆発しそうな睾丸。
それを伝えると、樋口は何も言わず、俺の腰に十字の形でのしかかった。
そして亀頭を口で咥え、竿を扱く。
「う、あ……!」
樋口の口内で肉棒が跳ね上がる。
最後にヤった日以来の精液が、樋口の口内へ注ぎ込まれた。
下腹部に目をやると、樋口が苦しそうに呻きながら俺の精液を必死に口で受け止めていた。
「……」
支配欲。
自分ではどうしようもない肉欲が、脳に広がっていく。
「……まだ飲むなよ」
「……?」
小首を傾げる樋口を放って、チュポンと水音をたてて肉棒を引き抜く。
俺が上半身を起こすと、樋口も同じようにする。
口元の液体を手の甲で拭う樋口。
「……口、開けて。精液見せて」
「……」
樋口は目を閉じると、何も言わず俺に言われた通り口を開く。
小さな舌の上では白く濁った精液が唾液と混ざり合い泡立っていた。
「……飲めるか?」
「……」
樋口は無言のまま口を閉じる。
細い喉が何度も動き、粘っこい精液を苦しみながら飲み込む。
「……はぁ」
そんな吐息と共に口を開いた樋口。
精液は、残っていなかった。
「……ありがとう」
「……別に。うがいしてくる」
「あぁ……」
呆気にとられる俺を置いて、樋口は部屋から出て行った。
下の階から、洗面所で樋口が口を濯ぐ音が聞こえる。
手にオレンジジュースのペットボトルを持って戻ってきた樋口は、俺と向かい合うようにベッドへ寝転がった。
「……もう勃たせないでよ」
「……口の中で出すの、嫌じゃないのか」
「……嫌に決まってる」
「そうかい……」
俺は目を閉じ、樋口の頭を胸に抱き髪に顔を埋める。
「……寒くないか」
「ん……平気」
「……おやすみ」
こうして抱き合って眠るのは、いつぶりだろう。
トロンと溶けていく頭では、答えは出なかった。