友人以上、セフレ未満 作:ナナナ
「最近、瑞樹と仲良いらしいじゃん」
「……は?」
夏休み最終日。
毎年恒例透の「宿題って何やればいいんだっけ」に付き合わされていた私だったが、雑誌をめくる手が止まる。
「さっき樋口がトイレ行ってる時におばさん言ってたよ」
「は?」
「この間、幼稚園の時みたいに一緒のベッドで寝てたって」
「は?」
不覚だった。そりゃあ見られてもおかしくない。
そういえばここ最近母がニヤニヤしていたが、今ようやく理由が分かった。
痛む頭を指で抑えながら、この状況を切り抜ける道を探す。
「……浅倉には関係ないでしょ」
「うん。でも面白いし」
「……誰かに言った?」
「まだ。雛菜と小糸ちゃんにも伝えた方がいい?」
「やめて」
そんなことをされたら、地獄の果てまで雛菜に追及される。
スマホを取り出した透に、雑誌を投げつける。
「好きなの?瑞樹のこと」
「……」
「好きなんだ」
「……浅倉には関係ないでしょ」
「まぁ、そうかも?」
すっとぼけたすまし顔が妙に憎たらしい。
「まぁ、何となく分かってたけど」
「……え?」
喉まで出かかった「まさか」。
私の顔が面白かったのか、透はクスクスと笑った。
「大丈夫。雛菜と小糸ちゃんは多分気づいてない」
「……」
「あれだけ瑞樹の家に入り浸ってるの、流石に気づくよ」
「……はぁ」
どこかで何度か見られていたらしい。
細心の注意を払っていたつもりだったが、詰めが甘かった。
自分の馬鹿さ加減に、ため息しか出ない。
「付き合ってるの?」
「付き合ってない」
「……ふぅん」
「何。さっさと宿題やったら?」
「それどころじゃない。宿題は忘れても、樋口が一緒に怒られてくれるし」
「私はもう終わってる」
「そう言っても毎年一緒に怒られてくれるじゃん」
今年は絶対に怒られてたまるか。
胸に誓う。
「好きって言わないの?」
核心を突く、透の問いかけ。
真っ直ぐに私を見据える透き通った瞳は、いつ見ても瑞樹のものとよく似ている。
どす黒く濁りきった私にはない、ビー玉のような綺麗な瞳。
「……浅倉は?」
「ん?瑞樹は友達だよ?何で?」
「……」
悲しい程、哀れだ。
昔もこうして、告白されたことすら気づかなかったのだろう。
「……もうちょっと、周りに目を配ったら?」
「そうかな。配ってるつもりだけど。昨日もプロデューサーにジュース買ってあげたし」
「……はぁ」
そうじゃない。
言っても無駄だと分かりきっているから、口には出さない。
当の本人は何も分かっていないように、シャープペンをくるくると回して遊んでいる。
「あっ」
指から飛んだシャープペンが床に落ちる。
透はそれを拾うそぶりすら見せず、数学のドリルをぱたんと閉じた。
「……一緒に怒られないから」
「大丈夫。樋口は怒られてくれるって」
「……はぁ」
きっと、透の言う通りになるだろう。
どうせ明日の今頃、私は透と一緒に担任に叱られている。
「瑞樹。私のこと好きじゃないよ」
透は鞄を肩にかけ、そう言い残して部屋を出た。
残酷。それ以外の言葉が、出てこなかった。
☆
瑞樹は意外と器用だ。
しっかりと縛られた精液入りのゴムの結び口を見ながら、ふとそう思った。
「……どうした?」
Tシャツだけを着た瑞樹が、不思議そうにこちらを見ている。
私はゴムをゴミ箱に捨て、ブラジャーを付ける。
「別に」
「……そうかい」
疲れでホックが上手く付けられず苦戦していると、スッと瑞樹がつけてくれた。
やっぱり、器用だ。
恋愛は不器用なのに。
透という、絶対に叶わない相手の背中を追い続けているだけなのに。
「……明日から学校かぁ」
「宿題は終わってるの?」
「あー、そんなの最初の週に終わらせたよ。残しとく方がダルイだろ」
何でもないように言うが、瑞樹はそれなりに頭の良い進学校に通っている。
宿題の量も私達よりも多いはずだ。
要領だって良い。
「お前は?」
「……終わってる」
だが、全部終わったのはつい先週のことだ。
泥沼、いや、底なしの毒沼。
一度踏み入ったら逃げられない劣等感の毒沼に、私はもう両肩まで浸かっていた。
太ももまで履いたパンツを脱ぐと、私は瑞樹を押し倒した。
「……」
何も言わずゴムを装着し、瑞樹の肉棒を膣で咥え込む。
「んっ……!」
「うわッ……!」
重なる喘ぎ声。
私に気を遣ってか、瑞樹は自分の目を腕で隠そうとした。
「……浅倉のこと、好き?」
「……は?」
片目だけ隠れた瑞樹の目。
腕が被さっていない左目が、スゥと細くなる。
「それ、今関係あるか?」
「……ないけど」
「じゃあ訊くなよ」
透と同じ、透き通る瞳。
私の濁った瞳とは違う、透き通る瞳。
毒沼になんて浸かっていない、綺麗な身体。
「好きなの?」
やはり私は、薄汚く醜い。
この透き通る美しい瞳を、私と同じ濁った瞳まで墜としてやりたい。
毒沼へ、一緒に沈んで欲しい。
こうして性器同士が繋がったまま。温もりを感じながら。
「……何が言いたい?それとも、馬鹿にしてるのか?」
瑞樹の身体を黒いオーラを纏う。
鋭い眼光が、私の心臓を射抜く。
掴まれている太ももに、爪が食い込む。
「……好きだったら?」
「……私には関係ないけど」
「あぁ……そうかい」
その瞬間、私の身体は瑞樹に抱えあげられた。
肉棒が抜け、あっという間にベッドへ組み伏せられる。
両方の手首はまとめて片手で押さえつけられ、超えられない性の優劣をまざまざと教え込まれる。
「……俺と透が付き合ってくれた方が、都合が良いか?」
「……」
都合なんて、良いわけがない。
瑞樹と透が付き合えば、この関係は終わりだ。
瑞樹が私と交わる理由がなくなるから。
でも、そんなことを言えるわけがなかった。
「……あぁ、そうかい。あぁ、そう」
真っ黒に染まった瞳。
私の両手を抑えている手とは逆の手でゴムを外した瑞樹は、生の肉棒を膣穴に擦り付ける。
「ちょっと……!」
「うるせぇ」
やばい、生でする気だ。
私が気づいた時にはもう遅く、瑞樹は私に圧し掛かるように体重をかけ、生の肉棒を力任せに膣穴へとねじ込んだ。
「ち、ちょっと……!洒落に……!」
言葉は、最後まで出なかった。
私の口は瑞樹の唇で塞がれ、重なり合った唇の隙間から言葉にならない空気が漏れる。
「……!!!」
舌が無理矢理入ってくる。
私の口内で何かを探すように動いていた舌は私の舌を捕まえると、不器用に絡みついてくる。
ジタバタと暴れてみるが、瑞樹は全く意に介さず腰を振る。
それどころか、明らかにわざと、私の口内へ唾液を流し込む余裕すらもあった。
尋常じゃない愛液が、瑞樹が腰を振る度に飛び散る。
「ぷはぁ……!」
唇が離れる。
しかし、瑞樹は息継ぎをするとすぐに、再び唇を重ねてきた。
突然のことで息継ぎができなかった私は、酸欠で頭がぼうっとしてくる。
暴れる気力もなくなり脚で瑞樹の腰を抱え、射精を待つただの一匹の雌へと成り下がる。
好き、好き、好き、好き。
もう、どうなってしまってもいい。妊娠したら駆け落ちでもしたらいい。
ただ今は、狂った雄のように本能の儘腰を打ち付ける瑞樹と、繋がっていたい。
何度絶頂したか、もう分からない。
何もかも、分からない。
好き。愛してる。
「……ッ!!!」
私の一番深い所まで肉棒を叩きつけた瑞樹の身体が震える。
勢い良く吐き出される熱い精液が子宮口にかかる。
何度も、何度も、強く脈打つ肉棒。
「はぁ……!はぁ……!」
瑞樹が荒い息を吐きながら肉棒を抜くと、膣に収まりきらなかった精液が膣口から溢れ、肛門を伝ってベッドに滴り落ちる。
「わ、悪ぃ……」
「……いいから」
呆然とする瑞樹の瞳は、いつものように透き通ったものへと戻っていた。
罪悪感が、私の心を蝕む。
そんな悲しそうな顔をして欲しかったわけじゃないのに。
「……ごめん。本当にごめん」
声を震わせて謝る瑞樹の声は、私の耳にへばりついて離れなかった。