友人以上、セフレ未満 作:ナナナ
#EX1
「嫌だ」
幼馴染だからといって、その人間の全てを知ったことにはならない。
瑞樹と付き合い始めてから、私はそれを、嫌という程実感させられていた。
「何で」
「嫌だろ、普通に」
瑞樹がこんなにもはっきり『嫌』と言える人間だと、私は知らなかった。
「彼女がいきなり『私アイドルやる』とか言い出して、ハイソウデスカって言える男の方が少ないだろ」
付き合い始めて一週間。
浅倉達とアイドルをやることを瑞樹に報告していたのだが、予想外の反応に、私はかなり面食らっていた。
てっきり『うひょー、俺の彼女アイドルかよ』とか言って二つ返事で頷くタイプだと思っていたが……現実は違ったようだ。
ズゴゴと音をたててアイスティーを飲み干した瑞樹は、困ったように眉根を寄せて深く息を吐いた。
「アイドルって、ほら。プリップリでブリッブリな衣装着て頭痛のするような恋愛ソング歌いながら世の中の男連中に媚びる職業のことだろ?」
「……まぁ」
敵を大量に作りかねない発言だが、まぁ本質は突いている気がする。
「円香だって俺がアイドルやるとか言い出したら嫌だろ?嫌じゃないのか?」
「あなたがアイドル?」
ジャニーズ事務所に瑞樹が入ったと仮定して想像してみる。
……似合わない。絶望的に、似合わない。浅倉や雛菜や小糸に訊いても同じ答えが返ってくるだろう。
「はん……」
「鼻で笑うなよ……」
ほんのちょっぴり傷ついたのか、瑞樹はポリポリと頭を掻いた。
「とにかく俺は反対だから……つっても、俺が反対したところでどうにかなる話じゃないんだよな」
「……まぁ、ごめん」
「はぁ……一言くらい相談してくれねぇか?」
ため息交じりに天を仰ぐ瑞樹。
だって、仕方がないじゃないか。まさか反対されるなんて思ってもいなかったのだから。
私はもう既に、浅倉のプロデューサーとやらに『やっぱりアイドルやります』という連絡を昨日の夜に入れてしまったのだ。
走り出した電車は止められない。まして、新幹線はもっと無理だ。
「……ま、やるなら徹底的にな。一番取るくらいのつもりで頑張れよ」
「……うん」
素直に頷く私に、瑞樹は笑いながらため息をついた。
「それにしても、何でいきなりアイドルやる気になったんだ?」
考えてみれば、当たり前の質問だった。
瑞樹は私が一度断ったことを知っているのだから。
そんな至極当然の疑問に、私はビシリと石のように固まってしまう。
「……?何か不都合な理由でもあるのか?」
「別に……」
ある。むしろ、不都合しかない。
瑞樹と付き合い始めて、私のことをしっかりと見てくれている人がいると自覚して、自己肯定感が高まった。だから、アイドルに挑戦してみようと思った。
そんな恥ずかしいこと、言えるわけがない。
言ってしまった日には、向こう一年は馬鹿にされる未来が待っている。
「……?」
自分が理由だとも知らず呑気にクエスチョンマークを浮かべる瑞樹の顔を張り倒したい衝動に駆られる。
「……ないから、理由とか。気まぐれ」
「嘘、って言ってもどうせ本当の理由を喋る気はなさそうだな……」
両手のひらを上に向けてヤレヤレと言いたげなポーズを取る瑞樹。
付き合っているからといって、胸の内を全て話したりはできない。
瑞樹だってそれを分かっているから、余計な詮索をしてこないのだろう。
「……じゃあ、約束。芸能界には俺よりイケメンな輩が腐る程いるだろうけど、靡くなよ」
不貞腐れたように折衷案を出す瑞樹。
これも付き合い始めて分かったことだが、この人、結構独占欲が強い。
もっとあっさりした性格かと思っていたのに、新しい一面を垣間見た気がした。
「……靡いたら?」
「泣く。高校生男児が本気で号泣する姿を見たくないならやめとけ」
「見たい」
「性格悪いなぁ……」
「そんな性悪女を好き好んでる男はどこの誰でしょうね」
「はいはい、俺の負けだよ」
降参、と言わんばかりに両手を挙げた瑞樹は、そのままベッドに寝転がった。
明日提出の日本史のレポート用紙は相変わらず白紙だが、もうやる気はないらしい。
私はそんな瑞樹の横に寝転がると、一緒になって天井を見上げる。
「……そういえば。昨日雛菜と仲良く喋ってたけど、何話してたの?」
ふと、昨日の光景が瞼の裏側に蘇る。
283プロダクションの事務所からの帰り、最寄り駅の駐輪場で瑞樹と雛菜が何やら楽しそうに喋っていた。
遠巻きに見ていただけだから話の内容までは聞こえなかったが、私の胸にはもやもやが残っていた。
「あん?あー……何喋ってたっけなぁ」
わざとらしくすっとぼける瑞樹。
そんな態度が、私は気に食わなかった。
「何。言えないようなこと?」
「何喋ってたか覚えてねぇんだって」
「ふぅん……」
もやぁ。
そんなオノマトペが胸に広がる。
私は何も言わず瑞樹のジャージとパンツを脱がせると、まだ柔らかい肉棒を口に咥えた。
「うわッ……!いきなり……!」
フニャフニャの肉棒を口の中で、舌を使って転がす。
すると、ムクムクと徐々に大きくなっていき、すぐに先端が喉奥を刺激するまでになった。
「……やられっぱなしは嫌だな」
「……そう?」
「あぁ。円香もズボンとパンツ脱いで俺の顔の上跨れよ」
私は肉棒を咥えたまま、言われるがまま服と下着を脱いで瑞樹の顔の上に跨る。
見えはしないが、陰部を指で開かれて舐められる。
「っ……!」
ぞくり、と背骨に快感が走る。
それを堪えるように、私も頬をすぼめて瑞樹の肉棒をしゃぶる。
明るい部屋で、言葉をほとんど交わさず、平日の夕方から、互いの性器を口で愛撫し合う。
そんな背徳感が私の興奮を加速させていった。
ぺちゃり、ぺちゃりという、妖艶な水音が部屋に木霊する。
「……ぷはぁ」
一度、肉棒を口から抜く。
放課後シャワーを浴びていない肉棒は少し汗臭かったが、不思議と嫌じゃなかった。
「……ねぇ瑞樹。そろそろ」
「あぁ……分かった」
私はそう言うと、四つん這いのまま瑞樹の身体の上から離れる。
瑞樹は荒い息で私の背後に回ると、ゴムの入った机の引き出しをまさぐる。
ぴり、とゴムの袋を破る音が聞こえ、その後すぐに、膣内に肉棒が挿いってきた。
「あはぁ……っ!」
内臓が圧し潰されるような、幸せな圧迫感。
尻にグイグイと腰を押し付けてくる瑞樹と、下品に腰をくねらせる私。
声を我慢しようともせず、喘ぎ声を吐き出す。
そんなまるで、動物の交尾のようなセックス。
「瑞樹……」
「ん……?」
「……顔見たい……」
瑞樹と付き合い始めてから、私は変わってしまった。
前までは、思ってもこんな要求絶対に口に出さなかったのに。
「円香……」
ゆっくりと引き抜かれる肉棒。
四つん這いになっていた私は身体を転がしてベッドに背中を預けると、瑞樹の首に両腕を回す。
そして顔を引き寄せ、小鳥のような軽い口づけを交わす。
さらに膣穴に押し付けられた肉棒を、腰をくねらせて割れ目で何度も擦る。
「円香……お前、エロすぎ」
「……うるさい」
「うるさくて結構……」
ズブブ、とスローテンポで膣内に肉棒が挿入される。
太いカリが肉壁を掻き分け、私のことを妊娠させんばかりの勢いで子宮口を強く叩く。
私自身も本能的に瑞樹との子を欲しがっているのか、下腹部が切なそうにキュンキュンと鳴いていた。
「ま、円香……!」
私からマウントポジションを取って腰を振っている瑞樹から、私の頬に汗が滴り落ちる。
驚き思わず目を開くと、瑞樹と目が合った。
真っ赤に上気した頬と、今にも射精しそうな無防備な表情。
普段仏頂面なことが多い彼のそんな表情に、私はつい、くすっと笑ってしまった。
「な、何だよ……」
「何でもない」
「何でもないはないだろ……」
不満気に目線だけを横へ逸らす瑞樹を、私は再び引き寄せ唇を重ね合わせる。
今度は軽いものではない、舌同士を絡め合わせる大人のキスを。
ああ、みずきの睫ってこんなに長かったっけ。
「円香……俺のこと、好きか?」
カクカクと腰の動きが小刻みになる中、蚊の鳴くような声で、瑞樹はそう囁いた。
「……言わなきゃダメ?」
「言って欲しい」
「……馬鹿。好き」
「俺、も……!」
私が頭を胸に優しく抱えた瞬間、瑞樹の腰が大きく震えた。
膣内をかき回すように肉棒が跳ね、子宮口に押し当てられたゴムが精液で膨らむ。
子供のように呻きながら射精する瑞樹の髪を撫でる、この時間が、私はたまらなく幸せで好きだった。
「はぁ……はぁ……いつまで撫でてるんだよ……」
荒い息をつきながら胸から顔を上げた瑞樹は、頭に乗せられた私の手を払い除ける。
そして私と目が合うと、恥ずかしそうにしながら、胸に顔を埋め直した。
「……今日は甘えたさん?」
「そうじゃないけど……」
「ふふ……赤ちゃんみたいにおっぱい吸ってもいいですよ。ミスター・甘えん坊」
「イラつくなぁ……大して大きくもねぇくせに」
口ではそう言いながらも、瑞樹は私の乳首に吸い付いた。
「……」
付き合い始めて分かったことが、もうふたつ。
瑞樹は、結構甘えたがりなこと。
そして、私は甘えられることが、存外にも嫌じゃないこと。
「知らなかった……」
乳首に口を付け、下半身は繋がったまま寝息を立てる瑞樹の髪を指で梳かしながら、私はそう呟いた。