友人以上、セフレ未満 作:ナナナ
私は狡い。そして、醜い。
彼の……瑞樹の瞳には、きっと、私なんて映っていない。
透き通るような黒い瞳には。
でも、それでもいい。
それでも、瑞樹と交われているだけで、私は幸せだ。
☆
「ん……」
目を覚ますと、私の部屋とは違う、白い天井だった。
「夢……」
嫌な夢を見た気がする。
ぼんやりとしている頭を振ると、髪留めが落ちてきた。
隣では、瑞樹が私に背を向けて規則正しい寝息を立てている。
「はぁ……」
私は音をたてないようにベッドから降りると、床でごちゃ混ぜになっている2人分の服の山から下着を手探りで探し出す。
ブラジャーを身に付けながらスマホで時間を確認すると、午前三時手前だった。
「もうこんな時間……」
今日は、一段と激しかった。
いつもなら二、三回で終わる流れになるのだが、今日は少なくとも五回戦までした。
うつ伏せでベッドに押し付けられた辺りから、あまり記憶がない。
「んぁ……?」
陰毛までドロドロに濡れた股間をティッシュで拭っていると、背後でもぞもぞと瑞樹が起き上がる。
短い髪をかき上げる仕草が、私の琴線に触れる。
「……おはよう」
「あぁ……今何時?」
「三時。もちろん午前の」
「ん……そうかい」
ペットボトルから飲み物を飲む仕草ですら、少しかっこいい。
全く、狡い人だ。
「……飲むか?」
「……飲む」
私は瑞樹からペットボトルを受け取ると、グイっと煽る。
中は紅茶だった。
「どうする?今から帰るのか?」
「そんなわけないでしょ……十時くらいに親には友達の家に泊るって連絡入れた」
「ふぅん。ま、今週いっぱいはうちも親父帰ってこないし、自由にしろよ」
瑞樹はそう言うと、裸のままベッドに寝転がった。
父子家庭の瑞樹の家は、時々酷く静かに感じられることがある。
そんな寂しさを紛らわせるように、私は瑞樹の隣に潜り込んだ。
「……俺、床で寝てもいいけど。狭いだろ」
「……身体痛くなってもいいなら」
「嫌だな、そりゃ……」
それっきり、私達の間に会話はなくなる。
蝉の声と扇風機の音だけが、部屋にこだまする。
「……お前、アイドルやるんだって?」
うとうとと微睡に落ちかけていた私を現実に引き戻したのは、瑞樹の声だった。
誰から聞いた。そんな疑問が、私の頭にぐるぐると渦巻く。
「昨日……透から聞いたよ」
「……で?」
「いや?スカウトされた透はまだしも、お前はわざわざオーディションまで受けに行ったのに、連絡のひとつもなしかよ」
咎めるような声色。
暗くて表情までは読めないが、恐らく、声と同じような顔をしているだろう。
「……別に。アイドルやる気ないから」
だから、言いたくなかったのだ。
ため息交じりに答えると、瑞樹は「はぁ?」と言いながら上半身を起こした。
「どういうことだよ」
「浅倉はあの性格でしょ。アイドルのスカウトを騙っておかしなことをされていないか、確認したかっただけ。オーディションで合格はもらったし、話もしたけど……断った」
「なるほど、ねぇ……」
頷く瑞樹。
何も考えていなさそうなその顔に、「あなたのせいでもあるんだけどね」の一言くらいかけてやろうかと、私の中のどす黒い私が顔を覗かせる。
どす黒い、私。
「……やる気ねぇのかよ」
爛れた肉体関係にある幼馴染ひとりさえ、私を見ていない。
日常生活であっても、行為中であっても。
そんな私がアイドルになって、誰が見るというのだろうか。
透と並んで、惨めな思いをするだけじゃないか。
「おーい。聞いてるか?」
「え……な、何?」
いつの間にか、瑞樹が私の顔を覗き込んでいた。
こんなに近くに顔がきても気づかない程、暗い思考回路に没頭していたらしい。
「珍しいな。ぼーっとしてたぞ」
「……そんなことくらい、誰でもあるでしょ」
「まぁ……そうか」
瑞樹は納得したように鼻を鳴らすと、腕を伸ばして私の上に覆い被さる。
「……あれだけしたのに?発情期の猿なの?」
「うるせぇ」
私の左手首が、瑞樹の右手でベッドに固定される。
動かさなくても分かる、力で勝てるわけなんてない。
向かい合った彼の、透き通るような黒い瞳。
ああ、どうせこの目は、私のことなんて見ていない。
「……するなら早くして」
私は、もう片方の腕で自分の目を覆った。
行為中の瑞樹の目をもう一度でも見たら、自分の中の何かが、壊れてしまうような気がしたから。