友人以上、セフレ未満 作:ナナナ
「はあっ……はあっ……バカ……!」
普段以上に荒い円香の呼吸音。
もう何度目か分からない射精。
最早どちらの何の体液か分別が付かない程に混ざり合った、粘性を持った液体。
「さ、さすがに……しんどいな……」
肉棒を引き抜く力すら残っておらず、ぐったりと円香に全身を預けてのしかかる。
重なり合った胸からダイレクトに伝わる心臓の鼓動。
汗の香りと甘い香りの混じった円香の首筋に、顔を埋める。
「……重くないか?」
「……平気」
「……そうかい」
身体をぴったりとくっつけたまま、俺達は静かな部屋の中で互いの鼓動だけを聞いていた。
僅か十秒だったか、はたまた一時間は経っていたか。
時間感覚を失った俺は、いつまでもこんな時間が続けば良いと思ってしまった。
「……手。離して」
「え?あぁ……悪い」
グッパーと動く円香の左手。
そういえば、ずっと掴んでいた気がする。
円香の左手首を離す。
「……退いて」
「無理」
「……」
「……悪い」
「……はぁ」
諦めたような円香のため息。
鉛でも詰め込まれたかのように、俺の身体は動かなかった。
「……何回した?」
「さぁ……」
頭の中で数えてみるが、所々記憶が抜け落ちているせいで正確な数は分からなかった。
とりあえず、俺の部屋に残っていたゴム八個は全て使い切った。
その後、円香の鞄に入っていたゴムも使ったが、あれが一体幾つだったのだろうか。
「というか、お前ゴム持ってるんだな」
「……もしもあなたがきらしてた時、避妊なしでされたら困るから」
「そこまで性欲に忠実じゃねぇよ」
「この惨状を見ても同じことが言える?」
「……まぁ、生ではしねぇよ」
「……そう」
ふと窓の外を見ると、空が白んでいた。
朝まで円香と一緒、というのは、何気に初めてかもしれない。
いつも、終わった後はすぐに帰宅か睡眠。
余韻、はたまたピロートーク。そんなもの、俺達の間に存在しているとは思ってもいなかった。
「……寝ないの?」
「眠いのか?」
「……少し。でも、暑くて眠れない」
「俺も」
さっきまで掴んでいた円香の手と自分の手を重ね、指を絡めて手を握る。
「冷房。付けるか?」
「……いい」
円香が、控え目に握り返してくる。
「……俺達、付き合ってたっけ」
「……さぁ」
「そうだよなぁ……」
扇風機のプロペラが回る。
朝早くから出勤している人の車のエンジン音。
心臓の激しい鼓動。
「……何で付き合ってると思ったの」
「……何となく」
汗の香り。
布団の香り。
甘い匂い。
世の中のカップルは、毎度こんなにも幸せな気分を味わっているのだろうか。
「幸せ者だな……」
「……そうかもね」
俺はひとつ息を吐くと、深い眠りへと落ちていった。
☆
目を覚ますと、樋口はいなくなっていた。
つい何時間か前のことであるはずなのに、まるで夢だったかのように。
だが、濡れたベッドシーツと枕についた茶色の髪の毛が、あれは夢ではなかったと証明していた。
「身体痛ぇ……」
身体中、特に、下半身がどんよりと痛い。
今何時か知らないが、土曜日なので少しくらい生活が破綻しても許されるだろう。
そんな自分への言い訳と共にベッドに寝転がる。
「あー……」
思えば、昨日の俺は少しおかしかったかもしれない。
樋口がアイドルをやると聞かされ動揺し、乗り気ではない樋口を家に呼びつけ朝まで抱き、挙句の果てには恋人ごっこ。
何故か、樋口がアイドルになるのが、俺は凄く嫌だった。
その感情は嫉妬か、はたまた違う感情か。
分からないし、分かりたくもない。
「寝るか……」
綺麗に畳まれ枕元に積まれた服から、下着だけを取って履く。
そして冷房を付けると、少し湿ったタオルケットを頭まで被って目を閉じた。