友人以上、セフレ未満 作:ナナナ
火照った身体を、風が撫でる。
猛スピードで流れていく景色を眺めながら、私はぼんやりと、つい先刻のことを思い出していた。
まさか、学校で抱かれるとは思ってもいなかった。
思い返せば、教室に入ってきた時から瑞樹の様子はどこかおかしかった。
普段あまり感情を表に出さない瑞樹が珍しく怒っていたような……いや、苛立っていたと言うべきか。
私が何か悪いことをしてしまったのかと錯覚してしまったくらいに。
「そろそろ着くぞ」
「……ん」
そう言われるまで、自分の家の近くに来ていることが分からなかった。
車一台分くらいの道に入り、スピードが落ちる。
私の家は、もう目と鼻の先だった。
「ほら。降りろ」
「……ありがと」
顔を見ることすらできず、押し付けるようにヘルメットを乱暴に返して家に入る。
そして逃げ込むようにシャワールームへと入ると、頭から熱い湯を浴びた。
私の全身を蝕む膿を洗い流すかのように、シャワーを浴び続ける。
「……はぁ」
瑞樹が何に対して苛立っていたのかなんて、私には分からない。
ただ……瑞樹はそんな苛立ちを、私の身体にぶつけた。
いつも通りだが、愛なんてきっとない。
性奴隷。はたまた、肉便器。
でも、私はそれでも良かった。
だから私は、『最低な人』なのだ。
「……やめよう」
これ以上自分をいじめたところで、ただの負のスパイラルに陥るだけ。
そんな判断を下し思考を打ち切ると、シャワーのコックを捻る。
バスタオルで身体を拭きタンクトップとショートパンツの部屋着に着替え居間に行くと、部屋は真っ暗だった。
いつもソファでドラマを見ている母の代わりに、食卓に一枚のメモが置かれていた。
「ん……?」
メモの他には、千円札が三枚。
何事と思いながらメモに目を通すと、『おじいちゃんが体調を崩したのでお見舞いに行ってきます。明日の夜に帰ります』と見慣れた丸っこい文字で書かれていた。
父も出張で明後日まで帰ってこないし、今日は私一人だけらしい。
汚くならないうちに弁当箱を洗うと、自分の部屋へ引き籠る。
気分を切り替えるためにも少し眠ろうとするが、目を閉じても寝付けない。
つくづく、自分が嫌いになる。
「……瑞樹」
彼の名前を呼びながら、電話をかける。
『もしもし?どうした?』
「あ……」
ワンコールで電話に出てもらったことが嬉しくて、つい声が上ずる。
「……今日、うち来ない?」
感情の赴くままに出た言葉は、そんな恋人のような我儘だった。
☆
「この部屋も変わらんなぁ」
私の部屋に入った瑞樹の第一声は、それだった。
考えてみれば、瑞樹が私の部屋に入るのは中学生ぶりだ。
それなりに変わっているはず、と言ってやりたくなった。
「はー、涼しい……」
「あなたの部屋にもエアコンあるでしょ」
「そうだけど、なんかお前の部屋の方が涼しいんだよ」
「……殺風景って言いたいの?」
「俺の部屋の方がよっぽど殺風景だろ」
瑞樹もシャワーを浴びたのか、Tシャツに短パンと随分とラフな恰好になっていた。
さも当たり前のようにベッドに大の字で寝転がった瑞樹は、ぼーっと天井を眺める。
私は部屋の電気を消すと、ベッド脇の床に膝を抱えて座り込む。
「……多分、明日から生理だから」
「あぁ……まぁ……その……がんばれ」
「……」
「……俺、男だから。なんて声かけていいか分かんねぇよ」
「……ごめん」
「いや……伝えてくれるのはありがたいよ。何か困ったことがあれば何でも言えよ」
私は狡い。
この話題を出す度、瑞樹は決まって言葉を詰まらせる。
それを分かっていながら、優しい言葉をかけられたくて、今も喋っている。
そんな狡さから目を逸らすように、畳んだ膝に鼻先を埋めた。
「……しないの?五日間くらいできないけど」
あぁ、本当に私は狡い。
自分の性欲を、瑞樹を盾にしている。
本当に交わりたいのは、私なのに。
「原因の俺が言うのもアレだけど……身体、辛いだろ。今週何度シたんだよ」
「別に。慣れたし」
「……そうかい」
がさり、と瑞樹の身体が動く音が聞こえた。
そして腋の下から腕が回され、力任せに身体が引っこ抜かれる。
ベッドに押倒される時、一瞬目が合った。
透き通るような目と。
「……!」
私は反射的に自分の目を腕で覆った。
暗闇の中、タンクトップが胸の辺りまでずり上げられる。
「……ッ!?」
へそを舐められ、驚きで腰が跳ねる。
私達の関係上、あまり前戯というものをしてこなかった。
精々、互いに性器を手や口で刺激する程度。
淡白だと思っていた瑞樹がこんなことをするのが、私には衝撃的だった。
「……嫌だったら言えよ」
瑞樹の舌は、そんな言葉と共にツツツと胸の方へ上ってくる。
頭をタンクトップの中に入れ、胸の間に顔を埋める。
いつの間にか胸も揉まれており、乳首を中心に弧を描くように乳輪をなぞられる。
そのあまりにも慣れた手つきが、私の中でポツポツと不安となっていく。
「……誰で練習したの?」
なるべく声を出さないという掟を破り訊くと、瑞樹の手が止まった。
「……笑うなよ」
「……誰」
「……アダルトビデオ」
恥ずかしそうな瑞樹の声。
その馬鹿らしい真剣さに、私は思わず吹き出すかと思った。
そんな私の態度が癪に障ったのか、瑞樹は照れ隠しのように再び乳輪をなぞる。
しばらく胸の間を舐めていた瑞樹だったが、やがて飽きたのか、指で触っている方とは逆の乳首に吸い付いた。
チュウチュウと音をたて、痕が残るのではないかと思う程に強く吸い付く。
「んっ……」
自分の口から出たとは思えないような甘い声が漏れる。
グシャグシャに濡れたパンツがエアコンの風に吹かれ股に貼りつく。
「あ……」
そう、濡れている。
どうしようもないくらい。
「……ぷはぁ」
満足したように乳首を離す瑞樹。
そのままスススと下に移動すると、ショートパンツだけが脱がされた。
「……?」
何故、ショートパンツだけ。
そんな疑問は、すぐにどうでもよくなった。
「布越しなら、妊娠しねぇだろ……」
そんな言葉のすぐ後に、パンツ越しに陰部へと肉棒が押し当てられる。
割れ目をなぞるように、肉棒が濡れたパンツを擦る。
太ももを鷲掴みにされ、股で肉棒を擦られる。
相手次第では即座に通報しているような恥辱だったが、相手が瑞樹なら、その例には入らない。
「うッ……!」
呻き声と共に、腹に熱い精液が降り注ぐ。
火傷するような熱さのそれはすぐにティッシュで拭き取られた。
「ま、待って……」
「ん……どうした」
ゴムの袋を破ろうとする瑞樹の手を止める。
思わず両手を使ったせいで、目と目が合う。
飢えた肉食獣のような、獰猛な目。
私は今から、この獣に喰われる。
本能がそう語り掛けてくる。
「……やられてばっかりは嫌」
ああ。こんな醜い私を、骨の髄までしゃぶり尽くしてくれ。
瑞樹を押し倒すと、私は彼を煽るように舌を出した。