※この作品はR-18です。

異界の性奴隷   作:Henon

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降るはずのない雨の音が、耳の奥で滲んでいた。
夢のなかの空は曇っており、足元にはどこまでも広がる鉄の床。どこかの格納庫だろうか。
だが実在の風景ではなかった。そこに漂っていたのは、記憶の中でしか聞いたことのない、あの声だった。

「……小田。そういや、お前、特地調査隊に志願したんだってな」

振り返ると、そこにいたのは――坂崎一曹。
かつての上官。いつも皮肉とタバコの煙をまとっていた、あの人だった。

「……ええ。志願しました」

「珍しいじゃねえか。お前、ああいうの、遠巻きに見るだけの奴だったろ。人が変わっちまうようなとこに、自分から飛び込むなんてな」

小田は返事をしなかった。代わりに、背負っていたリュックを足元に下ろす仕草をした。何も入っていない。夢の中だから当然だ。

坂崎が、眉をひそめた。

「……まさかとは思うが、向こうの女に囲まれたくて行くようなアホじゃねえよな?」

「……いえ。まだ、向こうのことなんて、何もわかりませんからね。」

「だろうな。じゃあ、何でだ?戦地よりも酷いかもしれん未明の土地に、行こうなんて思ったのは」

一瞬、音が止んだ。格納庫の奥にあった風が消えたような感覚。

「――逃げただけですよ」

「……逃げた?」

「ええ。……俺には、もう、あの街が耐えられなかった」

坂崎が口を噤む。

小田の声は、静かに、それでもどこか泥に沈んだような重さを持っていた。

「仕事が消えて、駅前のビルが廃墟になって……みんな、顔を伏せて……毎日、誰かが何かを諦めていく。そういうの、目の前で見続けるのが、もう……無理でした」

「……」

「自衛隊ですら、いつまで存続できるかわかったものじゃありません。このまま腐ってくくらいなら……いっそ異世界の何かになったほうがマシだって。そんな、くだらない動機です」

自嘲気味に笑った唇を、夢の湿った空気がなぞる。

「誰かを守りたかったわけでもない。国家のためなんてのも口実でした。本当は……俺、自分のためにしか動けなかったんです」

沈黙が落ちた。

坂崎の姿は、そのまま影のようにぼやけていく。
タバコに火をつけることもなく、煙も吐かず、ただ――

「……なら、それでもいいさ。行った先で何を見て、何を知るかで、お前の価値は決まるんだ。俺たちがいる所で腐るより、まだマシかもしれねえ」

霞のような空気のなか、坂崎の背中がゆっくりと遠ざかっていく。
ブーツの足音はしない。床も壁も曖昧になりはじめていた。
夢が終わろうとしている――その確かな予感が、小田の喉元を締めつけた。

だからこそ、言葉が出た。
胸の底に沈めていたまま、誰にも言えなかった一言が。

「……俺は、どうすればよかったんでしょうか」

坂崎の足が、ぴたりと止まった。
その背は、振り返らない。
けれど、沈黙のなかに、確かに耳を傾けている気配があった。

小田の声は震えていた。
それでも吐き出すしかなかった。

「何が正しかったのか、もうわからないんです。残った者として支えるべきだったのか、日本の中で生きて耐えるべきだったのか……それとも、今こうして逃げた俺は、ただの臆病者なのか……」

吐く息が白くなった。いや、夢のなかでさえ、冷たい風が吹いたような錯覚だった。

「俺がいなくても、世界は回る。誰かが代わりに苦しんで、それで済んでしまう。……それでも俺は、逃げた。誰のためでもなく、自分のために、異世界なんてとこに」

坂崎は、ゆっくりと片手を上げた。
背を向けたまま、その掌を軽く振った。
まるで――「またな」とでも言うように。

「……正しいかどうかなんてのは、死ぬときにしかわからねえよ、小田」

遠くから、低く響くように、その声だけが届いた。

「それまで、せいぜい足掻いて、傷だらけになって、それでも生きてりゃ……最後の一瞬ぐらい、笑えるかもしれねえだろ?」

それきり、坂崎の姿は霧の中へと溶けた。
本当に消えてしまった。

小田の目元に、涙が一筋だけ伝った。
だが、それが夢の中のものだったのか、現実に流れたものだったのか――わからなかった。


第八話 赤子 上 ※グロテスクな表現あり

 

 

――むにゅ。

 

肉が、沈んでいた。

皮膚に触れるのではない。皮膚を押し包み、じわりと、内側に溶け込んでくるような圧だった。

 

重たく、ぬるく、柔らかい。

 

意識はまだ、眠りの底にあった。

音もなく、水のなかにいるような静けさ。

遠くで誰かが囁いているような錯覚のなか、小田の全身は、深い霧に包まれていた。

 

だが――頬だけが、はっきりとした『現実』を捉えていた。

 

ふわふわとした毛が、顔のラインをくすぐっている。

それは決して乾いた感触ではなく、ほのかに湿り気を帯び、呼吸に合わせて微かに膨らみ、沈む。

 

息を吐いた。

すると、鼻先に柔らかな毛がかすかに触れ、その下からむっとした温度が立ち上る。

汗の匂い。だがそれは労働や緊張のものではない。

舌の奥をくすぐるような、熱を含んだ、甘やかな体液の気配。

 

(……ん……)

 

重たく張りついたまぶたが、かすかに震えた。

意識がゆっくりと浮上していく。

 

そして――頬に触れている「それ」が、柔らかく形を変えた。

 

むにゅ……ぷにゅっ。

 

皮膚の下で肉が潰れるように押し返してくる。

乳腺の芯が、わずかに歪みながら、顔の骨格に沿ってめり込むように沈んだ。

 

(……何だ……?)

 

目はまだ開かない。だが、わかる。

頬の左右、同時に挟みこまれるように押し当てられたふたつのふくらみ――

重さ。湿り気。中心にある、柔らかくも張りのある突起。

それがぴたりと唇の端に触れていて、触れた場所からじんわりと淫らな粘膜の温度が染み出してくる。

 

「……っ……ぅ…………」

 

喉が渇いていた。

唾を飲み込もうとしても、咽の奥がひりついて上手く動かない。

それでも、反射的に口を少し開けてしまった。

 

すると――

 

ぬちゅっ……

 

湿った突起のような物が、唇の隙間に、わずかに沈んだ。

 

目を開けた。

薄桃色の毛皮、湿った肌の照り、そしてとろんと潤んだ瞳が、すぐ上にあった。

 

そいつは、笑っていた。

 

「んにゃ……おはようにゃ」

 

耳元で、甘い声が囁く。

 

優しく、舐めるような音だった。

声なのに、唾液のように耳の奥へ染み込んでくる。

舌足らずな猫語尾が、ゆっくりと耳朶を撫で、

その残響が、意識をより深く目覚めへと引き寄せてくる。

 

胸が――押し当てられたまま、わずかに揺れた。

 

ぷにゅ、むにゅぅ……

 

汗を含んだ乳房の肉が、顔に沿って滑り、乳首が唇をなぞっていく。

かすかにぬめる。目を開けるまでもなく、小田は今置かれている状況を理解した。

 

目の前にいるのは――猫人だった。

だが、その身体は、まるで少女のようにしなやかで、柔らかかった。

頬に押し当てられたふくらみは、たっぷりと熟れた乳房。

その下に敷かれた肉に、うっすらと汗ばむ肌の香り、そして何より――

乳首の先からわずかに滲む、湿りと熱。

 

それらすべてが、あまりにも女らしい。

 

(……女……?)

 

思わず錯覚しそうになった。顔にかかる毛皮のやわらかさ。

頬を挟む乳の重量。

吐息の熱。

 

胸を這うような脈動の感触――

 

そのすべてが、小田の本能を騙しにかかるような「雌」の気配だった。

 

だが。

 

ぴと。

 

次の瞬間、小田の下腹に、熱い『現実』が押し当てられた。

 

ふわりと揺れる身体の動きにあわせて、彼の下腹部に、柔らかな内股がすり寄る。

 

そして――その間にある、『異物』

 

皮膚越しに伝わる、それは。

潰れたわけでも、巻き込まれたわけでもない。

明らかに「硬さ」があった。

生き物のように、そこに「在る」と伝えてくる硬度。

 

ぐっ、と息が詰まる。

 

小田の腹に触れているそれは――

明らかに、『女にはないもの』だった。

 

「……ふふ……当たっちゃったにゃ?」

 

耳元で、甘く笑う声。

頬に押しつけられた乳房が、わざとらしくぴくりと震えた。

 

とろけた胸が頬を押しつけてくる一方で、下腹部では、確かな「雄の象徴」が布越しにぬるりと押し返してきた。

 

乳の匂いと、精の匂いが混ざる。

錯覚と現実がせめぎ合い、小田の思考が混乱する。

 

この猫人は、間違いなく雄だ。

だが、目の前の身体は女以上に女らしく、そして、その性の歪みが――

どこまでも甘く、どこまでも淫らだった。

 

「……アンタ、すっごい顔してるにゃ……夢でも見てたかにゃ?」

 

甘く、囁くような声音だった。

 

その言葉に合わせて、猫人の『彼』は、わざとらしく身体を沈め――

その胸の先端を、もう一度、小田の唇に押し当ててきた。

 

ぬるり……ちゅっ。

 

まるで口づけのような、湿った音が、静かな寝床の空気に溶けた。

 

小田の呼吸が止まる。

 

頬に押しつけられた肉の弾力、唇に触れる乳首のぬめり、そして耳をくすぐる甘い吐息――

目覚めの直後、思考の輪郭がまだ曖昧なままの状態では、それら全てがあまりに強すぎた。

 

肌が、感触を拒まずに受け入れてしまっている。

顔の筋肉すら、反射的に「その熱」を吸い寄せてしまっている。

 

理性が叫ぶより早く、肉体がそれを味わってしまっているのだった。

 

「……顔赤いにゃ。でも……今は動かないほうがいいにゃ」

 

耳元で、くぐもった喉の音とともに、優しく――しかし確かに言われた。

 

「アンタ、すっごく疲れてるにゃ……カザラ様にいっぱい、出されたのかにゃ?」

 

その声音は、決して責めるようなものではなかった。むしろ労わるように、静かに響いた。

 

「……だから、もうちょっと寝てるといいにゃ。あたしも……今日は、もう『奉仕』が終わったから……一緒に、ぬくぬくしてるだけにゃ」

 

そう言いながら、彼は再び、胸を頬に押し当ててくる。

そのまま、しっとりとした体温を押しつけ、ぴたりと密着した。

 

小田は、息を吸い込むようにしてようやく言葉を絞り出した。

 

「……ここは……どこだ……?」

 

声が掠れていた。

乾いた喉が焼け、腹の奥からようやく引っ張り上げた一言だった。

その問いに、猫人の彼は、ぺろりと舌を出して笑う。

 

「ふふ……ここは、寝床にゃ。……アンタも『商品』なんでしょ?」

 

その言葉は、やけに軽く、しかし重くのしかかる。

 

寝床。

商品。

雄として扱われる小田にとって、その言葉は、まだ認めたくない「現実」だった。

 

だが、頬を押し包む肉のぬくもりは、あまりに確かだった。

 

この場所は――夢ではない。

 

そして、自分のいる位置もまた、ただの休息ではないのだと――

肌が、静かに、確実に教えていた。

 

 

 

 

 

 

「ふにぁああ〜……にしても今日は、変態騎士に奉仕して、ほんと疲れたにゃあ〜……」

 

猫人の彼は、大きく伸びをしながら、小田の腹の上で身体をしならせた。

 

むにゅり、と乳房が頬に押しつけられたまま柔らかく潰れ、股間を挟んでいたぬるりとした肉の感触が、腹の上をゆっくりと撫でてくる。

 

その動きに合わせて、ふわりと湯と汗の混じった体臭が鼻をくすぐった。

けれど、その匂いには、明らかに別の香りも混ざっていた。

口では語らずとも、『奉仕』という言葉が意味するものを――

下腹の残り香が、ねっとりと雄弁に語っていた。

 

「……あの騎士、ほんと最低にゃあ……」

 

猫人の彼が、ぐったりとした吐息混じりに、愚痴を漏らした。

小田の腹の上に軽く乗るように寝そべりながら、ふわりと乳房を左右に揺らす。

 

「なんどもアタシの乳とおちんちんに噛みついてきてさぁ……もう、めっちゃ嫌だったにゃぁ……」

 

頬をすり寄せてきたその顔は笑っていたが、耳はわずかに伏せ気味だった。

あれは「快感」ではない。

明らかに「不快」という、わかりやすい拒絶の名残が滲んでいる。

 

(……噛みつかれるって……どういう奉仕だよ……)

 

小田は内心でそう呟いた。

だが、すぐに思考は別のところへ引き戻された。

 

ふと、鼻腔を擽る異質な匂い。

 

ほんの微かに、獣の汗の奥に――

乳白色の、甘ったるい、どこか「ミルクのような」香りが混じっていた。

 

湯気に溶けて漂うその匂いは、周囲の湿った空気のなかでも異様にくっきりと浮いて感じられた。

重たく、甘く、粘性を含んだ、どこか懐かしさすら思わせる匂い。

 

(……なんだ、この匂い……?)

 

小田は眉をひそめた。

 

意識を集中させる。

押しつけられた頬の奥、皮膚が感じるその中心――

彼の顔に貼りついている乳房の、ぬるりと濡れた中心から……確かに、その匂いは、じわじわと鼻腔へと染み込んでいた。

 

そして――

 

ぬるり。

 

唇の端に、何かが滲んだ。

それは汗とは違う、ほんのり温かく、舌に粘りを残す液体。

 

(……液体……? いや、これ……)

 

小田はそっとそちらに目を向け、視線を下に滑らせた。

頬に押しつけられていた乳房がわずかに揺れる。

そして、その中央――淡く膨らんだ乳首の先端から、

 

しっかりと、白濁した『母乳』が滲み出していた。

 

「……っ」

 

息が詰まった。

喉がひくつき、身体がわずかに跳ねる。

 

(――は? ……母乳?)

 

驚きというには鈍すぎる反応。

だが、事実は明白だった。

猫人の乳首から、じゅわりと滲み出したその液体は、明らかに『母乳』だった。

 

透明でも粘液でもない。

淡く白く、わずかに匂いを含みながら、

粘り気を帯びてとろりと乳輪に沿って流れている。

 

それが、小田の唇に触れ、ぬるく熱を残したのだ。

 

(なんで……こいつは、男だろ……?)

 

動揺が、心の奥からじわじわと沸き上がる。

 

この猫人は雄だ。乳房はあるが、下半身にはしっかりと男性器がある。

それなのに――

彼は今、その乳首から母乳を分泌している。

 

異常だった。

明確に「異質な存在」であると、体が告げていた。

 

「……あ、そこ……出ちゃってるにゃ?」

 

頬に押しつけたまま、猫人の彼がふにゃりと笑った。

 

「気にしないでいいにゃ……たぶん、今日いっぱい吸われたから、止まらなくなってるだけにゃ♡」

 

その言葉が、まるで罪悪感も羞恥もなく放たれる。

 

小田は動けなかった。

顔の横で、ぬるりと滴る母乳の熱。

乳腺の奥が脈動し、白濁がじゅわりとにじみ出してくるその様子に――

脳が、現実としての処理を拒みそうになる。

 

だが、唇に残る甘ったるい味だけが、否応なく、それを「真実」として刻み込んでいく。

 

小田は、甘い空気を変えるために喉を絞るようにして問いかけた。

 

「……お前は……雄だろう。なぜ、母乳が出るんだ……?」

 

声にはまだ熱がこもらず、驚愕とも呆れともつかぬ曖昧な響きがあった。

ただ、目の前にある『事実』――頬に貼りつく乳房から白濁が滲み続けているという異様を、理解できる理屈が欲しかっただけだった。

 

けれど。

 

「……ん?何でって……妊娠したからにゃあ」

 

猫人の彼は、まるでそれが当たり前だという風に、首をかしげながら答えた。

 

「え……」

 

小田の呼吸が止まる。

 

妊娠――その一語は、あまりにも重すぎた。

 

「妊……娠……? 男……いや、雄が妊娠できるわけがないだろう……」

 

ようやく言葉を吐き出した小田の声音には、動揺と困惑、そして微かに苛立ちの混ざった成分があった。

 

猫人は、ぺろりと自分の唇を舐めながら、何の悪気もなくこう言った。

 

「ん〜?……何言ってるのにゃあ、お兄ちゃん。雄にはちゃんと『両方』ついてるから、できるにゃあ?」

 

「……両方……だと?」

 

小田は思わず繰り返す。

 

猫人はにこりと笑って、今度は自分の腹を撫でながら続けた。

 

「そうにゃ、膣も子宮もあるし……おちんちんもあるにゃ。だから、入れてもらえば――妊娠できるにゃあ。」

 

小田が目を見開いたまま言葉を失っていると、猫人の彼は、ふっと表情を落とした。

 

いつもの無邪気な笑みを消し、視線を少しだけ伏せて、猫耳をしゅんと伏せながら、ぽつりと呟いた。

 

「……まあ……アタシはね……」

 

その声はさっきまでの甘えた語尾とはまるで違っていた。

濡れた毛皮の向こうに、かすかに沈んだ熱があった。

 

「……アタシはさ、前はオルクシアンにいたんだにゃ」

 

言葉の端に微かな棘が混ざる。

 

「『愉しみ』ってやつで……あの女どもに、無理やり、雄同士で交尾させられて……最初は意味もわかんないまま、身体だけ反応して……そしたら、ある日……できてたにゃ」

 

彼は自分の腹を撫でた。

 

その仕草は、やさしくもあり――痛々しくもあった。

 

「……雄の出産は、とても……危険なのにゃ」

 

ふいに、猫人の彼の声が細く、低く沈んだ。

 

先ほどまでの明るい語尾は消え、

彼の指先はそっと、自分の腹のやわらかな膨らみを撫でていた。

その動きには、甘えでも誇りでもない――

何かを確かめるような、怖れに似た力が込められていた。

 

「ほんとに……死ぬかと思ったにゃ」

 

ぽつりと、吐き出すような声音。

 

「裂けて、血が止まらなくなって……途中で意識、何回もなくなって……でも止めてもらえなかったにゃ。オーク達が、“そのまま産め”って……」

 

指が震えた。

 

「『雄が産む姿は、最高の娯楽だ』って……あいつら、血まみれになって叫んでるアタシを見て、笑ってたにゃ……」

 

その瞳はもう小田を見ていなかった。遠く、どこか過去に閉じていた。

 

「……あの時、生きてるかどうかもわからなかったにゃ。でも……たまたま、死に損なったのにゃ。そして、奇跡みたいに生き残った……」

 

そして――

 

「でも、『子ども』は……」

 

言い淀むようにして、唇がかすかに震えた。

 

「産んだあと……オルクシアンの奴ら、『死んだあの子』を――肉にしたにゃ」

 

静かな声だった。

叫びではない。ただ、呪詛のように、言葉の重みがそのまま沈んだ。

 

「『赤子は上物』なんだって。柔らかくて、油のノリがいいって……」

 

「……まだあたしの脚の間から血が出てたのに……そのすぐ横で、笑いながら鍋に放り込んでたにゃ……」

 

猫人の目が細く閉じられた。頬にかかる毛が、わずかに震えていた。

 

「……今、生きてるのは……ほんとに、奇跡なのにゃ」

 

ぺたりと、小田の手が腹の上に重ねられる。

 

「……アタシ達は、弱い種族だから……しょうがないのにゃ……」

 

猫人の彼は、ぽつりと、まるで独り言のように呟いた。

それは自分に言い聞かせるような声だった。

納得ではなく、諦め。肯定ではなく、慣れきった痛みの「馴致」――

 

それは――命を、奪われて、弄ばれた者の言葉だった。

 

その瞬間。

 

「……なんだ、そりゃあ……」

 

低く、震える声が割り込んだ。

 

小田の声だった。

 

いつの間にか起き上がりかけていた上半身が、わずかに震えている。

握った拳に力がこもり、血管が浮かんでいた。

 

「“しょうがない“……? オマエ……それで、納得してんのか……?」

 

視線が猫人を貫いた。

 

顔には怒りが浮かんでいた――だが、ただの怒りではない。

唇がわずかに噛み締められ、声の端がかすかに濡れていた。

 

「死にかけて、産んだ子を食われて……それでもまだ、『弱いからしょうがない』?……ふざけるな……ッ」

 

小田の喉が詰まる。

 

「誰がそんな理屈を認めた……! オークだろうがトカゲだろうが、何様のつもりだよ……!」

 

声は段々と荒くなり、それでもどこか、内側に震えを孕んでいた。

 

(ああ、ちくしょう…なんで……なんでこの世界は……)

 

脳裏で言葉にならない叫びが駆け巡る。

 

ただ弱いだけで殺される。

ただ弱いだけで弄ばれる。

ただ弱いだけで喰われる。

 

そんなことが、まるで『当たり前』のようにこの世界では流れている。

 

(……間違ってる。どう考えても……こんなものは……)

 

――「この世界の理」に、飲み込まれてたまるか。

 

そう、無言の誓いのように。

 

猫人の彼は、わずかに目を見開いたまま、小田の顔を見つめていた。

その頬に、ゆっくりと影が差して、そして――ほんの少しだけ、唇の端が震えた。

 

静寂のなか、寝床の空気がわずかに、揺れた。

 

だが。

 

その怒りを前にして――

猫人の彼は、まるで波が静かに引いていくように、ふと目を伏せ、淡い声音で、呟いた。

 

「……アンタも……アタシも……同じ『商品』にゃ」

 

それは、あまりにも静かな言葉だった。

刺すようでも、慰めでもない。

 

それは――この世界で「生き延びてしまった者」が、ようやく吐ける、骨の奥に沈んだ現実。

 

「私達、劣等種族は……ここじゃ、みんな『値札』が付けられるにゃ。

働けるか、出せるか。それで値が決まるにゃ」

 

彼の目が、小田に向けられる。

 

だが、そこに光るのは、絶望ではなかった。

少し赤く潤んでいながらも、わずかな熱が宿っていた。

 

「アタシは……それでも、まだこうして生きてるにゃ。あのオルクシアンの地獄から抜け出して、喰われず、売られてここまで来たにゃ」

 

そして、ひと呼吸おいて――

 

「アンタも、そうにゃろ?」

 

その声は、真っ直ぐだった。

 

「『ここにいる』ってだけで、すごいことなんだにゃ。奴隷として使い潰される前に、誰かにここへ『連れてこられた』ってだけで……奇跡にゃ」

 

小田は言葉を失っていた。

 

怒りは消えていなかった。

だが、その怒りの矛先が――もう『歪な世界そのもの』にしか向けられないという事実に、今、少しだけ気づいてしまっていた。

 

「アンタが怒ってくれて、アタシ……ちょっと、救われたにゃ。だって、怒らなきゃいけないにゃ。誰もが当たり前の顔してる中で、怒れるアンタは……たぶん、正しいにゃ」

 

ふわり、と尻尾が動き、

そっと小田の拳に、猫人の小さな手が重ねられた。

 

その手はぬくもりに満ちていた。

商品と呼ばれ、肉とされかけ、それでも、なお『誰かと繋がろうとする』命の手だった。

 

「……アンタも、生きてるだけで、もう『勝ってる』にゃよ」

 

そう告げるその声に――小田はゆっくりと、息を吐いた。

 

涙ではなかった。

ただ、肺の奥で燻っていた炎が、ようやく形を変えて、風になっただけだった。

 

この寝床の湿った空気のなかで、ふたりは、確かに――同じ温度で、静かに呼吸していた。

 

 

 

 

「……それにしても、元気にゃあ……」

 

小田の様子を見て、猫人――彼は、ふにゃりと目元を細めた。

怒りに震えていた小田の拳が、いまは落ち着き、わずかに呼吸を整えている。

 

「さっきまでカザラ様に、たっぷり絞られてたんじゃにゃいの?」

 

そう言って、くすくすと喉を鳴らした。

言葉こそ軽いが、どこかそれは「確認」のようにも聞こえた。

 

小田は、鼻から息を抜くようにして小さく呟いた。

 

「……まあな」

 

それだけ。

 

濃密な行為の余韻がまだ身体の奥に残っているのに、言葉にはもう、それ以上の虚勢も否定もなかった。事実として、それは終わった。

 

ふと、猫人が身体を起こす。

その胸の乳首からは、もう母乳は出ていない。

ぬるく濡れた寝床の熱のなかで、彼はさらりと問いかけた。

 

「そういえば、アンタ……名前、持ってるのかにゃ?」

 

小田は、少し間を置いてから視線を向ける。

 

「……商品は、名を言っちゃいけないんじゃないのか?」

 

問い返すように、冷めた口調だった。

かつて寝床で聞いた、あの犬人の少年…非常に女性らしい「ナズ」の言葉が脳裏に浮かぶ。

 

だが――

 

猫人は肩をすくめるように、にんまりと笑った。

 

「そんなの、あの『お硬いメイド』が言ってるだけにゃよ。ここは寝床だにゃ。商品だけの部屋。ここだけは……ちょっとくらい、自由でもいいじゃにゃい?」

 

そして、手を伸ばし、小田の胸にちょん、と指を乗せた。

 

「アタシはナーシャっていうのにゃ。元はオルクシアン付近生まれで、今はカザラ様のとこに引き取られてるにゃ。商品だけど……名前くらい、自分で持ってたって、いいと思うにゃ」

 

その笑顔は無邪気だった。

けれど、その瞳の奥には――確かに、自分を『持とう』とする意志があった。

 

名を持つこと。

それは、所有物であることから少しだけ逸れた、『自我の証』。

 

小田は、静かにその指を見つめたまま――

少しだけ、口を開いた。

 

「……小田。俺は、小田っていうんだ。」

 

名を言うことに、意味があるとは思っていなかった。

だがいま、この寝床のぬくもりの中でだけは、その名が、確かに「生きて」いる気がした。

 

「ん〜……小田、っていうのかにゃあ」

 

ナーシャはふにゃりと笑い、名前を口に転がすように言った。

まるで甘い果物を味わうかのように、音の響きを何度も確かめながら。

 

「ん、小田……おだ。んふふ、ちょっと可愛いにゃあ」

 

そして、視線をふと小田の胸元へと向ける。

 

「……にしても……暑くないのかにゃ? その服」

 

低く湿った寝床に座り込んだまま、ナーシャは首をかしげた。

毛並みのある腕で頬をぬぐい、じとっとした視線をこちらに向ける。

その目に映っていたのは、黒く光を吸い込むような奇妙な繊維——

肌にぴたりと貼りつき、身体の輪郭すら隠しきれない密着装備だった。

 

寝汗に濡れた小田の体温を包み込むそれは、この湿度と熱気のなかでは明らかに異物だった。布というより、殻。

 

「…ああ、これか」

 

猫人の視線の先を追うようにして、小田もまた自分の身体に目を落とした。

黒い素材。艶のないその表面が、胸から腹、鼠蹊部、そして太腿の内側にまで密着し、

まるで呼吸の隙間すら与えぬように、己を覆っていた。

汗を吸うどころか、閉じ込めるようにじっとりと蒸らし、

肌と繊維のあいだに生まれる温度が、自分の存在の“異常さ”をじわじわと突きつけてくる。

 

(……おそらく、カザラが、俺が寝てる間に着せたんだろう)

 

自分の意思で着た記憶は、ない。

あの晩、何度果てたのかも曖昧なままだ。

白濁した思考と、痙攣のように続く快楽の波に呑まれ、気づいた時には意識の底に沈んでいた。

唇を啄む舌の感触と、重くのしかかる肉体の重みだけが、脳裏にこびりついている。

 

そんな状態で、こんな装備を自分で着るはずがない。

つまりは——

カザラが着させたのだろう。

 

(……あの時も、カザラが……『匂いがやばい』って言ってたな)

 

もう一つの記憶が、じわじわと浮かび上がってくる。

それは数日前の、食事の場だった。

彼女は食器を片手に、こちらへと顔を向けるなり、ふっと鼻を鳴らした。

まるで本能で探知するかのように、空気の中から匂いの粒を嗅ぎ分けるように。

それから、舌の端をちらりと見せるような笑みを浮かべて——言ったのだ。

 

『……おいおい、今は食事中だぜ?そんな匂い撒き散らして……このままじゃ、また犯しちまうところだったじゃねえか』

 

冗談めいた調子。だが、あれは本気だった。

鼻先に立ちのぼる匂い——それだけで、彼女の目は潤み、唇はぬめりを帯び、そして、腹の奥で疼く衝動に体がわずかに震えていた。

視線だけで伝わってきた、「今ここで押し倒してやろうか」という無言の圧力。

 

(だから、あれ以降……俺にこのスーツを着せるようになったのか)

 

あるいは、彼女なりの理性だったのかもしれない。

小田を傷つけないように。あるいは、自分自身の暴走を抑えるために。

 

「……ちょっと、脱げなくてな」

 

小田は、スーツの腹部を指先で引っ張りながら、ナーシャにそう告げた。

苦笑の混じるその声は、自嘲のようでもあり、警戒のようでもあった。

だが、それ以上にそこには、静かな諦念があった。

 

そう答える小田に、ナーシャがごくりと喉を鳴らした。

 

「ん〜……それじゃあ、めくればいいにゃ」

 

「……おい、ちょっ……」

 

制止の声も遅かった。

 

ナーシャの指先がするりとスーツの胸元へ差し込まれ、ぴたりと密着していた素材が、ぺり……と湿った音を立てて剥がれていく。

 

「わ……すっごい汗……ほんとに暑そうにゃあ」

 

「やめ――ッ」

 

「じっとしてるにゃ、小田。ほら、通気しないと蒸れちゃうにゃ」

 

腕の内側、脇の下、腹部――

ナーシャは軽い手つきで、生き物の皮を観察するようにスーツの端を摘み、

指で少しずつ「めくって」いった。

 

「……この服……匂いが逃げないようにしてるにゃね……カザラ様が着せたってことは……よっぽど、アンタの匂いが強かったのかにゃあ?」

 

指が、ぬめった汗を拭いながら、肌の起伏を確かめるように這う。

 

「……お、おい……」

 

掠れた声が唇から零れる。だが、腕は動かない。脚も力が入らない。

 

小田の身体は、濃密な疲労に包まれていた。

抜けきったあとの虚脱感。骨の芯まで蕩けたような重さが、彼の意志を引き留めていた。

 

その様子を見ながら、ナーシャは、ふふっと甘い吐息を漏らした。

 

「もう……ほんっとに、疲れてんだにゃ……カザラ様に、いっぱい出されたからにゃあ……」

 

まるで母猫のように、やさしく、爪のない手つきでスーツの端を撫でる。

 

ぺり……ぺり……

 

汗で湿ったフェロモン抑制スーツが、皮膚を離れるたびに、音を立てた。

腹、胸、肩、そして股間までも――ナーシャの手際は、あまりにも手慣れていた。

 

そして――

 

「はい、できあがりにゃ」

 

そう言った瞬間には、もう、小田の全身から衣服は剥ぎ取られていた。

 

汗で濡れた身体が、寝床の布の上に晒されている。

温かく、湿った空気が、肌にまとわりつく。

けれど、不思議と羞恥よりも――ただ、呼吸を深く吸うことしかできなかった。

 

「よいしょっと……」

 

ナーシャは、小田の頭の下に、自分の太ももをすっと滑り込ませた。

 

ふわりと、柔らかな肉の感触。

そして、さらさらとした毛の生えた膝の内側が、頬に優しく当たった。

 

「にゃふふ……膝枕、してあげるにゃ。あんた、頑張ったんだからにゃ」

 

猫人の彼が、小田の頭を撫でる。

 

指先は、額から前髪をすくい、ゆるやかに生え際を撫でていく。

まるで「とっておき」のぬいぐるみを扱うかのような、丁寧で、慈しむような仕草。

 

「小田も……きっと、いっぱい痛い思いしてきたにゃ。だから、今は……こうして、何も考えず、甘えていいにゃ」

 

膝の上で仰向けにされたまま、小田は、ただじっと息を吐いていた。

 

だが――その安堵の呼吸の最中。

 

ぐっ、と。

 

下腹部が熱を持って脈動する。

 

「……っ」

 

遅れて、自分の身体の異変に気づく。

むき出しになった局部が、まるで勝手に「目覚めた」ように、空気の中でじくじくと膨張していく。

腰の奥からせり上がるような、重たくぬるい充血の感覚。

 

(……あんだけ出したってのに……)

 

疲労で何も感じないはずだった身体が――

膝の柔らかさ、撫でられる髪、そして頬に触れる太ももの匂いに、敏感に反応していた。

 

皮膚をなぞる空気が、微細に性器の先端を撫で、露わになった肉幹がぴくん、と反応する。

 

その様子に――

 

「……にゃふふっ」

 

耳元で、くすぐるような笑い声。

 

ナーシャが、顔を覗き込んでいた。

 

小田の視線が跳ねる。

その瞳に映ったのは、小悪魔のように細められた双眸。

そして、まるでおやつでも見つけたかのように、口元をにやりと歪めた彼の顔。

 

「ん〜、甘えていいって言ったら……おちんちんが、反応しちゃったかにゃぁ?」

 

艶やかな声色で囁くその語尾は、どこまでも猫らしく。

喉をくすぐるように甘く、だが、確実に――小田の自尊心と理性を試す響きをしていた。

 

「……ち、違う。これは……」

 

否定の言葉は、喉の奥で引っかかって消えた。

何が違うのか、自分でもわからない。

だが、ナーシャはその曖昧な否定にくすりと笑い――

 

「甘えるって、そういうことにゃあ?」

 

そう言って、ぐっと胸を反らす。

 

視界が――白桃色の肉に覆い尽くされた。

 

「……っ」

 

言葉を、失った。

 

ふくよかで柔らかそうな乳房が、目の前で揺れている。

ふにゅり、と上下に弾み、汗と母乳の残り香がふわりと鼻腔に届く。

重みのある胸が、わずかに引き寄せられ、小田の頬を包むように左右から圧をかけた。

 

視線の中心にあるのは、濡れた乳首。

 

先端が、ほんのり赤く、滲むように張っていた。

滴ることこそなかったが、確かにそこには、命を分け与える器官としての湿度があった。

 

ナーシャは、胸を押し当てたまま、優しく、しかし悪戯めいて囁く。

 

「ね、小田……いっぱい頑張ったあとは……こうして、甘えてもいいのにゃあ…」

 

耳を舐めるようなその声に、心臓がひとつ、跳ねる。

頬に押し当てられた乳房が、ぬるりと揺れる。

そして、すぐ下では――興奮で膨らんだ小田の性器が、かすかに震え、脈動していた。

 

 

 

 

小田の性器に手を伸ばしたナーシャの目が、かすかに見開かれた。

 

「……にゃ、にゃにこれ……」

 

言葉に、僅かな震えが混ざる。

 

ごくり、と喉が鳴った。

 

彼の指は、ぬるりとその輪郭をなぞる。

汗でぬめった皮膚を、そっと撫で上げながら――

 

ゆっくりと、根元から、先端までを包み込んだ。

 

「……ん……なにこれ……すっごいにゃ……」

 

指の隙間から零れる声が、震えていた。

 

「……アタシの……二倍はあるにゃあ……」

 

その言葉は、ただの比較ではなかった。驚きと興奮が混ざり合い、喉の奥から滲み出た、熱っぽい呟き。

 

「……こんなの、カザラ様が気に入るの、当たり前にゃ……♡ すごい……硬いくて……ん、熱もすごいにゃ……♡」

 

指を絡ませるたびに、小田の性器はぴくんと跳ね、指の隙間からとろりと透明な液が滲み出る。

 

その一滴を見た瞬間――

 

「……あは……出てきたにゃ……♡」

 

ナーシャの頬が、ほんのりと染まった。

その小さな手が、もっとしっかりと包み込むように握られる。

 

くちゅっ、ぬちゅっ……

 

両手で扱っても、なお余るほどの肉の太さと長さ。

小さな猫人の指には明らかに持て余すそれを、丁寧に、優しく――しかし興奮を滲ませながら扱っていく。

 

重なる掌の奥で、血を滾らせる肉棒が脈を打ち、熱を放ち――

ふたたび、小田の身体を、抑えがたい昂ぶりへと引きずり戻していく。

 

「ん、ここ…気持ちよさそうにゃぁ♡」

 

ぬちゅっ、ぬるっ、ぬちゅり……

 

猫人の手が、ゆっくりと、だが確実な動きでしごいていく。

指と指の間に、性器を優しく挟み込み、根本から亀頭へとぬるぬると這わせる。

 

空気と指の熱、そして汗が混じった滑りが、敏感な皮膚をじわじわと刺激する。

 

こきゅ、こきゅ、しこ……しこしこ……。

 

リズミカルに、けれどねっとりと。

根本を締めてから先端までを搾るように撫で上げ、時おり先端の裏筋をぴとっと撫でては、そのたびにぴくんと跳ねる反応を確かめるように指先でなぞる。

 

(……やべぇ……)

 

声にならない呻きが、小田の喉の奥で震えた。

 

全身が倦怠感と快楽の海に沈む中、ただ一点、膨張した肉幹だけが異様なまでに敏感になっている。

本来なら、もう何度も果てた直後で、痛みを感じてもおかしくないはずなのに――

 

ナーシャの小さな手は、そのすべてを甘やかすように、優しく扱ってくる。

 

その動きが――逆にたまらなかった。

 

「んふふ……ほら、小田……」

 

そして、彼は――胸を、小田の顔に押し付けてくる。

 

むにゅ……っ。

 

濡れた乳房が、頬をぬるりと包み込む。

揺れるたびに、乳首の先が唇をぺとりと撫で、かすかに残る母乳の匂いが鼻腔を刺激した。

 

「……いっぱい、吸っていいにゃ……アタシはもう、奉仕終わったから……今は、小田が……癒される番にゃ」

 

そう囁く声が耳元を這う。

 

その言葉とともに――

 

下では、しこっ、しこっ、と肉幹を撫であげる音が、ぬめった水音とともに、寝床の静寂に溶けていった。

 

空気に汗と乳の匂いが混ざる。

ぬくもりが肌にまとわりつく。

心臓が、どくん、どくんと、次第に昂っていく。

 

ぬるぅ……

 

突然、口の中に、温かい液体が広がった。

 

「……っ」

 

唇の隙間に、じゅわりと注がれたそれは――間違いなく、母乳だった。

先端を咥えていた覚えはない。だが、むにゅと頬に押し当てられた乳首の先から、ぴゅ、と不意に飛び出した一滴が、小田の唇を割り、舌の上に滴ったのだ。

 

ほんのりと甘く、熱を帯び、そしてわずかに塩味を含んだ味。

舌が条件反射のように反応し、ぬるりと口腔内を撫でる。

 

ぴちゃ、ぬちゅ……

 

無意識に、口が――動いた。

 

「ん……っ、んちゅ……」

 

吸ってしまっていた。

抵抗の意志も曖昧なまま、舌が、口内に滲んだ液を捉え、喉へと送り込む。

 

その瞬間。

 

「んみゃあっ♡」

 

頭上で、甘く跳ねるような声が弾けた。

 

びくっ、とナーシャの身体が震え、小田の頭を挟む太ももがぴたりと力を込める。

そして――

 

「……っ!」

 

その頭に、ぴとりと触れた。

 

柔らかくも、張り詰めた熱。

濡れた空気に包まれたその質感は、先ほどまで内腿のあいだで蠢いていた、もうひとつの「性」の器官。

 

(……これは……)

 

明確に、勃起していた。

 

小田の額に押し当てられたそれは、皮膚越しでもわかるほどに膨張し、熱を持ち、ぬるりと湿っていた。

先端が、ぴと……と額の生え際を撫で、そこから微かに透明な液が滲む。

 

「…………吸われたら……出ちゃうにゃあ……♡」

 

甘えと興奮の混ざった声が、頭上から降りてくる。

 

視線を上げれば、蕩けた表情のナーシャが、小田の頭を抱きかかえるようにしながら、顔を紅潮させていた。

膝の間に挟まれた小田の頭に、自らの性器を押し当てながら――

 

「……だめにゃ……そこ、擦れると……余計に、止まらなく……なっちゃうのにゃあ……♡」

 

言葉の意味も熱も、皮膚を通して伝わってくる。

甘ったるい母乳の残り香が口腔に広がる中、小田の後頭部に当てられた肉の硬さと、太腿から伝わる震えが、淫らに脈動していた。

 

頭の上で、歪に膨らんだ「雄の証」は、ねっとりとした熱と濡れを纏いながら、まるで生き物のように、小田の後頭部へと押しつけられていた。

 

 

 

 

「にゃふぅ……♡」

 

蕩けた声が、膝枕の上で揺れる。

 

ナーシャの頬はほんのり赤く染まり、猫耳がぴくんと震えていた。

小田の口に咥えられた乳首からは、絶え間なく母乳がじゅわじゅわと滲み出し――その都度、舌がぬちゅ、ぬちゅ、と絡みつく。

 

……んく……ちゅる……ん、んぅ……

 

吸えば吸うほど、乳腺が収縮し、じゅるじゅると音を立てて液があふれ出す。

小田の喉が上下に動き、温かい白濁が舌を這い、口内に広がっていく。

 

「ふふ……小田ぁ♡アタシの……赤ちゃんになるかにゃあ?♡」

 

耳元で、くすぐるような声。

 

「……んふ、んくっ……」

 

小田は答えない。

けれど、口は止まらなかった。

柔らかな乳房を深く咥え込み、上下に首を揺らしながら――

まるで母を求める赤子のように、必死に乳首へと吸いついていた。

 

「んぅ♡……はぁ、はあ……♡」

 

ナーシャの喉が震える。

 

片手で小田の頭を抱きかかえ、もう片方の小田の性器を扱く。

そこからは、しとしとと途切れなく母乳が流れ、舌の上を湿らせていく。

 

「……ん♡元気に……お乳吸って……気持ちいい『元』……出しましょうにゃ〜♡」

 

その声音には、甘やかすような慈愛と、ぞくりとするほどの性的な熱が入り混じっていた。

 

「んっ、くぅ……じゅ、じゅる……んんぅ……」

 

口内で乳首がねぶられ、唇が密着し、舌が乳輪の内側をくすぐるたびに――

ナーシャの太ももがぴくぴくと震え、押し当てられた股間から、また一筋の粘液が小田の額を濡らしていった。

 

「……小田、ホント……可愛いにゃぁ……♡もっと……もっと吸ってにゃ……♡」

 

声が、掠れながらも蕩けていく。

 

母性と支配の境目が曖昧なまま、ナーシャは、自分のすべてを小田の口に注ぎ込みながら――

とろけるような笑みを浮かべていた。

 

そしてーー

 

「……ん♡小田……ここ、気持ちいいにゃ?」

 

ぬちゅ……くちゅっ。

 

ナーシャの小さな指が、小田の亀頭の先端を、執拗に、なぞり始める。

 

敏感な部分。

すでに充血し、艶めいた粘膜が剥き出しになったその先端を、猫人の指先がそっと押し広げ、時に撫で、時に押し込むようにくちゅくちゅと愛撫していく。

 

「ん……んぅ……ぁ……ッ」

 

小田の腰がびくんと跳ねた。

 

だが、逃れられなかった。

ぐったりと膝枕に頭を乗せたまま、身体はすでに快楽に足を取られていた。

 

「ここ……じゅんじゅんにゃあ……♡んふ……先っちょが、くちゅって音、鳴ってるにゃ……♡」

 

指が輪を描くように、ぐるりと亀頭をなぞる。

先端からは、透明な露がとろりと溢れ、それを塗り広げるようにぬちゅ、ぬちゅと粘りを引いた。

 

その粘液が、皮膚と皮膚のあいだで滑り、ねっとりと湿った水音を生み出していく。

 

「……こんなに溢れて……カザラ様に搾られたのに、まだこんなに……♡」

 

ナーシャの声音は、どこか息を弾ませていた。

指が一層ゆっくり、丁寧に――しかし的確に、亀頭の裏筋を掬いあげ、爪先でぴと、とつつく。

 

「ッ……く、ぅ……!」

 

痺れるような電流が、下腹を突き抜けた。

 

その瞬間――

 

「んっ……!」

 

小田の口が、反射的に動いた。

 

むにゅっ。

 

頬に押し当てられていた乳房に、唇が沈み込む。

そして、濡れた乳首を本能的に捉え、そのまま――

 

ちゅっ……ん、んちゅ……

 

音を立てて、吸ってしまった。

 

「――ッ♡」

 

びくっ。

 

ナーシャの身体が跳ねる。

膝の上に乗る小田の頭を、思わず太ももでぎゅっと挟み込む。

 

「んにゃぁ……♡吸ったら……また……っ♡」

 

乳首の先端から、ぴゅっ、と母乳が噴き出す。

口内に広がる甘い味、ぬるりと熱い液が喉へと落ちていく。

 

吸えば吸うほど、止まらない。

小田の口がぴたりと吸い付いたまま、ちゅっ、ちゅるっ、と喉を鳴らすたび、ナーシャの乳房は軽く脈動し、その先からしっとりと、生命のような液を与え続けてくる。

 

「ん、あっ……そんな吸い方……ッ、んにゃぁっ……♡」

 

頭上では、ナーシャが喘ぐように身をよじらせ――

だが同時に、その指先は、なおも小田の亀頭をしこしこと責め立てていた。

 

上下で、淫らな往復が繰り返される。

口では母乳を、股間では快楽を――

 

小田の身体は、再び逃げ道のない快感の渦に沈み込みつつある。

 

「小田ぁ……いい子にゃあ……♡」

 

ナーシャの指が、するりと下腹へ滑り降りた。

 

汗と母乳にまみれた空気の中、既に何度も果てたはずの肉棒は、それでもなお、ぬらぬらと熱を帯びてそそり立っていた。呼吸に合わせてぴくりと跳ね、先端からは、じんわりと透明な液が滲み出している。

 

皮膚の奥から電流のような痺れが走り、小田の喉が、掠れた喘ぎとともに鳴った。

 

「――っ、う……」

 

思わず目を閉じる。だが、逃れられない。

ナーシャの指先は、ねっとりと滑る。

 

ぬちゅっ……くちゅ、くちゅ……

 

指先が肉棒の根元をなぞりながら、ゆっくりと先端へと這い上がる。

そのまま、尿道口の縁に指の腹を押し当てると、ぷにゅ、と柔らかく開かれた。

 

「……ふふっ……ここにゃ……♡」

 

指先が粘膜の唇を押し広げるように軽く撫で、裏筋をぴと、ぴと……と節の柔らかい腹で叩く。

触れるたび、ぴくん、と肉が跳ね上がり、先端から透明な雫がとろりとこぼれ落ちた。

 

「ん〜……ここにゃね、ここ触ると……ほら、こんなに……♡ぴくぴくしてるにゃぁ……ふふ、わかりやすい雄にゃ……」

 

指先は動きを止めず、尿道の開き口をなぞるように撫でたかと思えば、次の瞬間——

 

舌が触れた。

 

ぬるりと、粘膜に沿って這い寄る感触。

柔らかく、湿っていて、生温かい肉の塊が、肉棒の先端をねっとりと包み込んだ。

 

そして——

 

ペロッ

 

明確な、湿った音が響いた。

 

味わうように、ぬめりを巻き取るように、ゆっくりと舌が先端を舐め取った。

 

ぺろ、ぺちゅっ。

 

猫のように細く尖った舌が、湿った先端をぬめらせながら往復する。吸い取るのではない。あくまで舐め、塗り広げ、焦らす。

 

「んふぅ……苦くて、でも、あったかくて……♡ もう、先っちょからいっぱいこぼれてるにゃ……中が、ぱんぱんって、感じにゃあ……」

 

ナーシャの舌から解放された小田の肉棒は、まるで鼓動を持った獣のように、びくびくと震えていた。

 

亀頭が手で擦られるたびに、足先がぴくんと跳ね、腹筋が痙攣する。

自律神経が過敏になりすぎて、吐息ひとつすら制御できない。

 

「……もう、限界かにゃ?」

 

ナーシャの目が、甘やかすように細められた。

 

「だったら……アタシが……出してあげるにゃ♡」

 

その指が、根元から先端までをぎゅっと握る。

 

そして――

 

しこっ、しこっ、しゅこ……しゅこっ……

 

じっくりと、濡れた肉棒を扱く動きが始まった。

 

「はぁっ……ぅ、っく……っ!」

 

小田の身体が跳ねる。

 

腰が引ける。だが、腿の下に押し当てられたナーシャの膝が、それを逃さない。

 

「いいのにゃ、いいのにゃ……逃げなくて……出して、ほら……“元”を、気持ちよくぶちまけて……♡」

 

搾り取るような手の動きが、どんどん加速していく。

 

くちゅ、くちゅ、ぬちゅっ、しゅこっ、しゅこ……

 

粘液が滴り、手のひらが肉に貼りつきながら、リズミカルに前後する。

 

先端の裏筋は指で潰され、刺激が逃げ場なく一点へと集中する。

 

「ふふっ……いってにゃ、小田ぁ……♡ママのアタシが受け止めてあげるにゃ、ぜ〜んぶ……♡」

 

くちゅ、くちゅ、くちゅ……!

 

「……っ、あ、ぁあ……ッ!」

 

そして――

 

――びゅるっ、びゅるるるっ!!

 

小田の下腹が跳ね上がり、肉棒がびくびくと脈打つ。

 

熱い白濁が、空気を裂いて噴き上がる。

ぬちゅっ、びちゃっ、と湿った音を立てながら、粘ついた液がナーシャの掌を、手首を、胸元を――ぬるぬるに濡らしていく。

 

「んにゃあっ♡♡す…っごい、出たにゃあ……♡」

 

蕩けきった喘ぎ声が、寝床の空気にとろりと落ちる。

 

その瞬間だった。

 

「――っ……あ、ん……♡」

 

ナーシャの身体がびくりと大きく震えた。

 

そして、むにゅ、と小田の口に再び押し当てられていた乳房の先端――乳首が、ピンと張りつめたかと思うと――

 

……っぴゅく……ぴゅっ、ぴゅるるっ……♡

 

ぶしゅっと音を立てて、母乳が噴き出した。

 

「にゃあああ♡……出ちゃう……またいっぱい……っ♡」

 

ピュッ、ピュッと途切れながら、勢いよく飛び出した乳白色の液が、小田の頬を濡らし、口内にまで降りかかる。

 

熱く、ぬるく、甘い――まるで情交の余韻に呼応するように、乳腺が痙攣し、母性の液体を吐き出していた。

 

「……ん、くっ……ふふ、小田……いっぱい出して……アタシも、止まらなくなっちゃったにゃ……♡」

 

そのまま、小田の顔には――なおもふわりと柔らかく、そして熱を孕んだ乳房が押し当てられていた。

 

「……はぁ……んふ……まだ止まらないにゃぁ」

 

そう言った瞬間。

 

じゅわ……と小さな脈動を伴いながら、乳首の奥から、また一滴、また一滴と母乳が滲み出す。

小田の唇の端にまで満ちたそれは、じっとりと舌の奥へと流れ込み、口腔を甘く濡らしていた。

 

(……出続けてる……)

 

小田はぼんやりとした意識の中、ようやく乳首に吸い付いた自分の口を――

 

そっと、解放した。

 

――にゅぽん。

 

唇を離すとき、濡れた肉が引き剥がされるような音が、空気に落ちた。

 

それと同時に。

 

ぶしゅっ……!

 

「にゃっ……♡」

 

ナーシャが跳ねた。

乳首が、吸い口を失ったまま、ピンと張った状態で噴き出した。

 

「……っにゃああ♡止まんないにゃ……♡」

 

ぴゅ、ぴゅるっ、と断続的に吹き出す母乳が、宙に弧を描いて――小田の胸元に降りかかる。

 

ぴちゃっ、ぴちゅっ……

 

熱を帯びた液体が、腹部、胸、首筋にまで滴り落ちる。

 

さらりとしていながらも微かな粘性を持った液体が、汗の混じった肌の上を這い、乳首から流れ落ちた雫が、鎖骨を越えて静かに沈んでいった。

 

「……うにゃぁ……恥ずかしい………止められないにゃ……♡」

 

ナーシャの乳房は、まだじゅわじゅわと熱を帯び、母乳を湧き上がらせていた。

 

小田の肌に当たるたびに、その滴りが体温と混ざり合い、妙に心地よい痺れと安心感を与えてくる。

 

滴る音――ぴちゃ、ぴちゅ、ぴと……

濡れた音が寝床の静けさに響き、粘液の香りと母乳の甘い匂いが、鼻腔に絡む。

 

そのまま息を荒くしながら、ナーシャが身体をかがめる。

 

そして――

 

「……んちゅっ♡」

 

唇が、落ちてきた。

 

甘く、蕩けるような熱を孕んだキス。

 

唇と唇が、ぴたりと重なり、

その瞬間、小田の口内に残った母乳が、ナーシャの舌とともに――絡みついてくる。

 

ぬちゅ、ちゅる、ちゅっ……くちゅ……

 

「んん……ん、ちゅ……♡」

 

舌が深く差し込まれ、歯列をなぞり、上顎を撫で回し、柔らかく内側を侵していく。

さっきまで母乳を分け与えていた口とは別の口で、今度は小田の味を、求めるように、啜ってくる。

 

「ふふ……小田の口、あったかい……甘い……乳と元の匂いが混ざってて……最高にゃ♡」

 

口内で、母乳と精の香りが入り混じる。

ねっとりと絡む舌が、まるでそのまま吸い尽くそうとでもするかのように、小田の舌に絡みついてくる。

 

ちゅるっ、んちゅ……ちゅっ……

 

粘着質な水音が、何度も繰り返され、口内に溜まっていた唾液と母乳の味が、次第に混ざり合って、濃厚な『快楽の味』へと変わっていく。

 

「ん……ちゅ……ちゅぷ……っふ、ふふ、小田……キス、好きにゃあ?」

 

唇を離すとき、ぬるりと唾液の糸が引かれた。

 

その笑顔は、全身を蕩けさせるような、やわらかで淫らな母の表情だった。

 

そして――

 

「じゃあ、もう一回ママと気持ちよくなろうかにゃあ♡」

 

そう囁くなり、再び、小田の口へと――とろけた熱が、押し寄せていった。

 

甘やかしと支配。

癒しと誘惑。

その全てを抱えた“雌雄”の肉体が、小田の上に跨がり、揺れていた。

 

逃れようのない、官能と優しさの檻の中で。

 

 

 

 

 

 

 

 

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