降るはずのない雨の音が、耳の奥で滲んでいた。
夢のなかの空は曇っており、足元にはどこまでも広がる鉄の床。どこかの格納庫だろうか。
だが実在の風景ではなかった。そこに漂っていたのは、記憶の中でしか聞いたことのない、あの声だった。
「……小田。そういや、お前、特地調査隊に志願したんだってな」
振り返ると、そこにいたのは――坂崎一曹。
かつての上官。いつも皮肉とタバコの煙をまとっていた、あの人だった。
「……ええ。志願しました」
「珍しいじゃねえか。お前、ああいうの、遠巻きに見るだけの奴だったろ。人が変わっちまうようなとこに、自分から飛び込むなんてな」
小田は返事をしなかった。代わりに、背負っていたリュックを足元に下ろす仕草をした。何も入っていない。夢の中だから当然だ。
坂崎が、眉をひそめた。
「……まさかとは思うが、向こうの女に囲まれたくて行くようなアホじゃねえよな?」
「……いえ。まだ、向こうのことなんて、何もわかりませんからね。」
「だろうな。じゃあ、何でだ?戦地よりも酷いかもしれん未明の土地に、行こうなんて思ったのは」
一瞬、音が止んだ。格納庫の奥にあった風が消えたような感覚。
「――逃げただけですよ」
「……逃げた?」
「ええ。……俺には、もう、あの街が耐えられなかった」
坂崎が口を噤む。
小田の声は、静かに、それでもどこか泥に沈んだような重さを持っていた。
「仕事が消えて、駅前のビルが廃墟になって……みんな、顔を伏せて……毎日、誰かが何かを諦めていく。そういうの、目の前で見続けるのが、もう……無理でした」
「……」
「自衛隊ですら、いつまで存続できるかわかったものじゃありません。このまま腐ってくくらいなら……いっそ異世界の何かになったほうがマシだって。そんな、くだらない動機です」
自嘲気味に笑った唇を、夢の湿った空気がなぞる。
「誰かを守りたかったわけでもない。国家のためなんてのも口実でした。本当は……俺、自分のためにしか動けなかったんです」
沈黙が落ちた。
坂崎の姿は、そのまま影のようにぼやけていく。
タバコに火をつけることもなく、煙も吐かず、ただ――
「……なら、それでもいいさ。行った先で何を見て、何を知るかで、お前の価値は決まるんだ。俺たちがいる所で腐るより、まだマシかもしれねえ」
霞のような空気のなか、坂崎の背中がゆっくりと遠ざかっていく。
ブーツの足音はしない。床も壁も曖昧になりはじめていた。
夢が終わろうとしている――その確かな予感が、小田の喉元を締めつけた。
だからこそ、言葉が出た。
胸の底に沈めていたまま、誰にも言えなかった一言が。
「……俺は、どうすればよかったんでしょうか」
坂崎の足が、ぴたりと止まった。
その背は、振り返らない。
けれど、沈黙のなかに、確かに耳を傾けている気配があった。
小田の声は震えていた。
それでも吐き出すしかなかった。
「何が正しかったのか、もうわからないんです。残った者として支えるべきだったのか、日本の中で生きて耐えるべきだったのか……それとも、今こうして逃げた俺は、ただの臆病者なのか……」
吐く息が白くなった。いや、夢のなかでさえ、冷たい風が吹いたような錯覚だった。
「俺がいなくても、世界は回る。誰かが代わりに苦しんで、それで済んでしまう。……それでも俺は、逃げた。誰のためでもなく、自分のために、異世界なんてとこに」
坂崎は、ゆっくりと片手を上げた。
背を向けたまま、その掌を軽く振った。
まるで――「またな」とでも言うように。
「……正しいかどうかなんてのは、死ぬときにしかわからねえよ、小田」
遠くから、低く響くように、その声だけが届いた。
「それまで、せいぜい足掻いて、傷だらけになって、それでも生きてりゃ……最後の一瞬ぐらい、笑えるかもしれねえだろ?」
それきり、坂崎の姿は霧の中へと溶けた。
本当に消えてしまった。
小田の目元に、涙が一筋だけ伝った。
だが、それが夢の中のものだったのか、現実に流れたものだったのか――わからなかった。
――むにゅ。
肉が、沈んでいた。
皮膚に触れるのではない。皮膚を押し包み、じわりと、内側に溶け込んでくるような圧だった。
重たく、ぬるく、柔らかい。
意識はまだ、眠りの底にあった。
音もなく、水のなかにいるような静けさ。
遠くで誰かが囁いているような錯覚のなか、小田の全身は、深い霧に包まれていた。
だが――頬だけが、はっきりとした『現実』を捉えていた。
ふわふわとした毛が、顔のラインをくすぐっている。
それは決して乾いた感触ではなく、ほのかに湿り気を帯び、呼吸に合わせて微かに膨らみ、沈む。
息を吐いた。
すると、鼻先に柔らかな毛がかすかに触れ、その下からむっとした温度が立ち上る。
汗の匂い。だがそれは労働や緊張のものではない。
舌の奥をくすぐるような、熱を含んだ、甘やかな体液の気配。
(……ん……)
重たく張りついたまぶたが、かすかに震えた。
意識がゆっくりと浮上していく。
そして――頬に触れている「それ」が、柔らかく形を変えた。
むにゅ……ぷにゅっ。
皮膚の下で肉が潰れるように押し返してくる。
乳腺の芯が、わずかに歪みながら、顔の骨格に沿ってめり込むように沈んだ。
(……何だ……?)
目はまだ開かない。だが、わかる。
頬の左右、同時に挟みこまれるように押し当てられたふたつのふくらみ――
重さ。湿り気。中心にある、柔らかくも張りのある突起。
それがぴたりと唇の端に触れていて、触れた場所からじんわりと淫らな粘膜の温度が染み出してくる。
「……っ……ぅ…………」
喉が渇いていた。
唾を飲み込もうとしても、咽の奥がひりついて上手く動かない。
それでも、反射的に口を少し開けてしまった。
すると――
ぬちゅっ……
湿った突起のような物が、唇の隙間に、わずかに沈んだ。
目を開けた。
薄桃色の毛皮、湿った肌の照り、そしてとろんと潤んだ瞳が、すぐ上にあった。
そいつは、笑っていた。
「んにゃ……おはようにゃ」
耳元で、甘い声が囁く。
優しく、舐めるような音だった。
声なのに、唾液のように耳の奥へ染み込んでくる。
舌足らずな猫語尾が、ゆっくりと耳朶を撫で、
その残響が、意識をより深く目覚めへと引き寄せてくる。
胸が――押し当てられたまま、わずかに揺れた。
ぷにゅ、むにゅぅ……
汗を含んだ乳房の肉が、顔に沿って滑り、乳首が唇をなぞっていく。
かすかにぬめる。目を開けるまでもなく、小田は今置かれている状況を理解した。
目の前にいるのは――猫人だった。
だが、その身体は、まるで少女のようにしなやかで、柔らかかった。
頬に押し当てられたふくらみは、たっぷりと熟れた乳房。
その下に敷かれた肉に、うっすらと汗ばむ肌の香り、そして何より――
乳首の先からわずかに滲む、湿りと熱。
それらすべてが、あまりにも女らしい。
(……女……?)
思わず錯覚しそうになった。顔にかかる毛皮のやわらかさ。
頬を挟む乳の重量。
吐息の熱。
胸を這うような脈動の感触――
そのすべてが、小田の本能を騙しにかかるような「雌」の気配だった。
だが。
ぴと。
次の瞬間、小田の下腹に、熱い『現実』が押し当てられた。
ふわりと揺れる身体の動きにあわせて、彼の下腹部に、柔らかな内股がすり寄る。
そして――その間にある、『異物』
皮膚越しに伝わる、それは。
潰れたわけでも、巻き込まれたわけでもない。
明らかに「硬さ」があった。
生き物のように、そこに「在る」と伝えてくる硬度。
ぐっ、と息が詰まる。
小田の腹に触れているそれは――
明らかに、『女にはないもの』だった。
「……ふふ……当たっちゃったにゃ?」
耳元で、甘く笑う声。
頬に押しつけられた乳房が、わざとらしくぴくりと震えた。
とろけた胸が頬を押しつけてくる一方で、下腹部では、確かな「雄の象徴」が布越しにぬるりと押し返してきた。
乳の匂いと、精の匂いが混ざる。
錯覚と現実がせめぎ合い、小田の思考が混乱する。
この猫人は、間違いなく雄だ。
だが、目の前の身体は女以上に女らしく、そして、その性の歪みが――
どこまでも甘く、どこまでも淫らだった。
「……アンタ、すっごい顔してるにゃ……夢でも見てたかにゃ?」
甘く、囁くような声音だった。
その言葉に合わせて、猫人の『彼』は、わざとらしく身体を沈め――
その胸の先端を、もう一度、小田の唇に押し当ててきた。
ぬるり……ちゅっ。
まるで口づけのような、湿った音が、静かな寝床の空気に溶けた。
小田の呼吸が止まる。
頬に押しつけられた肉の弾力、唇に触れる乳首のぬめり、そして耳をくすぐる甘い吐息――
目覚めの直後、思考の輪郭がまだ曖昧なままの状態では、それら全てがあまりに強すぎた。
肌が、感触を拒まずに受け入れてしまっている。
顔の筋肉すら、反射的に「その熱」を吸い寄せてしまっている。
理性が叫ぶより早く、肉体がそれを味わってしまっているのだった。
「……顔赤いにゃ。でも……今は動かないほうがいいにゃ」
耳元で、くぐもった喉の音とともに、優しく――しかし確かに言われた。
「アンタ、すっごく疲れてるにゃ……カザラ様にいっぱい、出されたのかにゃ?」
その声音は、決して責めるようなものではなかった。むしろ労わるように、静かに響いた。
「……だから、もうちょっと寝てるといいにゃ。あたしも……今日は、もう『奉仕』が終わったから……一緒に、ぬくぬくしてるだけにゃ」
そう言いながら、彼は再び、胸を頬に押し当ててくる。
そのまま、しっとりとした体温を押しつけ、ぴたりと密着した。
小田は、息を吸い込むようにしてようやく言葉を絞り出した。
「……ここは……どこだ……?」
声が掠れていた。
乾いた喉が焼け、腹の奥からようやく引っ張り上げた一言だった。
その問いに、猫人の彼は、ぺろりと舌を出して笑う。
「ふふ……ここは、寝床にゃ。……アンタも『商品』なんでしょ?」
その言葉は、やけに軽く、しかし重くのしかかる。
寝床。
商品。
雄として扱われる小田にとって、その言葉は、まだ認めたくない「現実」だった。
だが、頬を押し包む肉のぬくもりは、あまりに確かだった。
この場所は――夢ではない。
そして、自分のいる位置もまた、ただの休息ではないのだと――
肌が、静かに、確実に教えていた。
⸻
「ふにぁああ〜……にしても今日は、変態騎士に奉仕して、ほんと疲れたにゃあ〜……」
猫人の彼は、大きく伸びをしながら、小田の腹の上で身体をしならせた。
むにゅり、と乳房が頬に押しつけられたまま柔らかく潰れ、股間を挟んでいたぬるりとした肉の感触が、腹の上をゆっくりと撫でてくる。
その動きに合わせて、ふわりと湯と汗の混じった体臭が鼻をくすぐった。
けれど、その匂いには、明らかに別の香りも混ざっていた。
口では語らずとも、『奉仕』という言葉が意味するものを――
下腹の残り香が、ねっとりと雄弁に語っていた。
「……あの騎士、ほんと最低にゃあ……」
猫人の彼が、ぐったりとした吐息混じりに、愚痴を漏らした。
小田の腹の上に軽く乗るように寝そべりながら、ふわりと乳房を左右に揺らす。
「なんどもアタシの乳とおちんちんに噛みついてきてさぁ……もう、めっちゃ嫌だったにゃぁ……」
頬をすり寄せてきたその顔は笑っていたが、耳はわずかに伏せ気味だった。
あれは「快感」ではない。
明らかに「不快」という、わかりやすい拒絶の名残が滲んでいる。
(……噛みつかれるって……どういう奉仕だよ……)
小田は内心でそう呟いた。
だが、すぐに思考は別のところへ引き戻された。
ふと、鼻腔を擽る異質な匂い。
ほんの微かに、獣の汗の奥に――
乳白色の、甘ったるい、どこか「ミルクのような」香りが混じっていた。
湯気に溶けて漂うその匂いは、周囲の湿った空気のなかでも異様にくっきりと浮いて感じられた。
重たく、甘く、粘性を含んだ、どこか懐かしさすら思わせる匂い。
(……なんだ、この匂い……?)
小田は眉をひそめた。
意識を集中させる。
押しつけられた頬の奥、皮膚が感じるその中心――
彼の顔に貼りついている乳房の、ぬるりと濡れた中心から……確かに、その匂いは、じわじわと鼻腔へと染み込んでいた。
そして――
ぬるり。
唇の端に、何かが滲んだ。
それは汗とは違う、ほんのり温かく、舌に粘りを残す液体。
(……液体……? いや、これ……)
小田はそっとそちらに目を向け、視線を下に滑らせた。
頬に押しつけられていた乳房がわずかに揺れる。
そして、その中央――淡く膨らんだ乳首の先端から、
しっかりと、白濁した『母乳』が滲み出していた。
「……っ」
息が詰まった。
喉がひくつき、身体がわずかに跳ねる。
(――は? ……母乳?)
驚きというには鈍すぎる反応。
だが、事実は明白だった。
猫人の乳首から、じゅわりと滲み出したその液体は、明らかに『母乳』だった。
透明でも粘液でもない。
淡く白く、わずかに匂いを含みながら、
粘り気を帯びてとろりと乳輪に沿って流れている。
それが、小田の唇に触れ、ぬるく熱を残したのだ。
(なんで……こいつは、男だろ……?)
動揺が、心の奥からじわじわと沸き上がる。
この猫人は雄だ。乳房はあるが、下半身にはしっかりと男性器がある。
それなのに――
彼は今、その乳首から母乳を分泌している。
異常だった。
明確に「異質な存在」であると、体が告げていた。
「……あ、そこ……出ちゃってるにゃ?」
頬に押しつけたまま、猫人の彼がふにゃりと笑った。
「気にしないでいいにゃ……たぶん、今日いっぱい吸われたから、止まらなくなってるだけにゃ♡」
その言葉が、まるで罪悪感も羞恥もなく放たれる。
小田は動けなかった。
顔の横で、ぬるりと滴る母乳の熱。
乳腺の奥が脈動し、白濁がじゅわりとにじみ出してくるその様子に――
脳が、現実としての処理を拒みそうになる。
だが、唇に残る甘ったるい味だけが、否応なく、それを「真実」として刻み込んでいく。
小田は、甘い空気を変えるために喉を絞るようにして問いかけた。
「……お前は……雄だろう。なぜ、母乳が出るんだ……?」
声にはまだ熱がこもらず、驚愕とも呆れともつかぬ曖昧な響きがあった。
ただ、目の前にある『事実』――頬に貼りつく乳房から白濁が滲み続けているという異様を、理解できる理屈が欲しかっただけだった。
けれど。
「……ん?何でって……妊娠したからにゃあ」
猫人の彼は、まるでそれが当たり前だという風に、首をかしげながら答えた。
「え……」
小田の呼吸が止まる。
妊娠――その一語は、あまりにも重すぎた。
「妊……娠……? 男……いや、雄が妊娠できるわけがないだろう……」
ようやく言葉を吐き出した小田の声音には、動揺と困惑、そして微かに苛立ちの混ざった成分があった。
猫人は、ぺろりと自分の唇を舐めながら、何の悪気もなくこう言った。
「ん〜?……何言ってるのにゃあ、お兄ちゃん。雄にはちゃんと『両方』ついてるから、できるにゃあ?」
「……両方……だと?」
小田は思わず繰り返す。
猫人はにこりと笑って、今度は自分の腹を撫でながら続けた。
「そうにゃ、膣も子宮もあるし……おちんちんもあるにゃ。だから、入れてもらえば――妊娠できるにゃあ。」
小田が目を見開いたまま言葉を失っていると、猫人の彼は、ふっと表情を落とした。
いつもの無邪気な笑みを消し、視線を少しだけ伏せて、猫耳をしゅんと伏せながら、ぽつりと呟いた。
「……まあ……アタシはね……」
その声はさっきまでの甘えた語尾とはまるで違っていた。
濡れた毛皮の向こうに、かすかに沈んだ熱があった。
「……アタシはさ、前はオルクシアンにいたんだにゃ」
言葉の端に微かな棘が混ざる。
「『愉しみ』ってやつで……あの女どもに、無理やり、雄同士で交尾させられて……最初は意味もわかんないまま、身体だけ反応して……そしたら、ある日……できてたにゃ」
彼は自分の腹を撫でた。
その仕草は、やさしくもあり――痛々しくもあった。
「……雄の出産は、とても……危険なのにゃ」
ふいに、猫人の彼の声が細く、低く沈んだ。
先ほどまでの明るい語尾は消え、
彼の指先はそっと、自分の腹のやわらかな膨らみを撫でていた。
その動きには、甘えでも誇りでもない――
何かを確かめるような、怖れに似た力が込められていた。
「ほんとに……死ぬかと思ったにゃ」
ぽつりと、吐き出すような声音。
「裂けて、血が止まらなくなって……途中で意識、何回もなくなって……でも止めてもらえなかったにゃ。オーク達が、“そのまま産め”って……」
指が震えた。
「『雄が産む姿は、最高の娯楽だ』って……あいつら、血まみれになって叫んでるアタシを見て、笑ってたにゃ……」
その瞳はもう小田を見ていなかった。遠く、どこか過去に閉じていた。
「……あの時、生きてるかどうかもわからなかったにゃ。でも……たまたま、死に損なったのにゃ。そして、奇跡みたいに生き残った……」
そして――
「でも、『子ども』は……」
言い淀むようにして、唇がかすかに震えた。
「産んだあと……オルクシアンの奴ら、『死んだあの子』を――肉にしたにゃ」
静かな声だった。
叫びではない。ただ、呪詛のように、言葉の重みがそのまま沈んだ。
「『赤子は上物』なんだって。柔らかくて、油のノリがいいって……」
「……まだあたしの脚の間から血が出てたのに……そのすぐ横で、笑いながら鍋に放り込んでたにゃ……」
猫人の目が細く閉じられた。頬にかかる毛が、わずかに震えていた。
「……今、生きてるのは……ほんとに、奇跡なのにゃ」
ぺたりと、小田の手が腹の上に重ねられる。
「……アタシ達は、弱い種族だから……しょうがないのにゃ……」
猫人の彼は、ぽつりと、まるで独り言のように呟いた。
それは自分に言い聞かせるような声だった。
納得ではなく、諦め。肯定ではなく、慣れきった痛みの「馴致」――
それは――命を、奪われて、弄ばれた者の言葉だった。
その瞬間。
「……なんだ、そりゃあ……」
低く、震える声が割り込んだ。
小田の声だった。
いつの間にか起き上がりかけていた上半身が、わずかに震えている。
握った拳に力がこもり、血管が浮かんでいた。
「“しょうがない“……? オマエ……それで、納得してんのか……?」
視線が猫人を貫いた。
顔には怒りが浮かんでいた――だが、ただの怒りではない。
唇がわずかに噛み締められ、声の端がかすかに濡れていた。
「死にかけて、産んだ子を食われて……それでもまだ、『弱いからしょうがない』?……ふざけるな……ッ」
小田の喉が詰まる。
「誰がそんな理屈を認めた……! オークだろうがトカゲだろうが、何様のつもりだよ……!」
声は段々と荒くなり、それでもどこか、内側に震えを孕んでいた。
(ああ、ちくしょう…なんで……なんでこの世界は……)
脳裏で言葉にならない叫びが駆け巡る。
ただ弱いだけで殺される。
ただ弱いだけで弄ばれる。
ただ弱いだけで喰われる。
そんなことが、まるで『当たり前』のようにこの世界では流れている。
(……間違ってる。どう考えても……こんなものは……)
――「この世界の理」に、飲み込まれてたまるか。
そう、無言の誓いのように。
猫人の彼は、わずかに目を見開いたまま、小田の顔を見つめていた。
その頬に、ゆっくりと影が差して、そして――ほんの少しだけ、唇の端が震えた。
静寂のなか、寝床の空気がわずかに、揺れた。
だが。
その怒りを前にして――
猫人の彼は、まるで波が静かに引いていくように、ふと目を伏せ、淡い声音で、呟いた。
「……アンタも……アタシも……同じ『商品』にゃ」
それは、あまりにも静かな言葉だった。
刺すようでも、慰めでもない。
それは――この世界で「生き延びてしまった者」が、ようやく吐ける、骨の奥に沈んだ現実。
「私達、劣等種族は……ここじゃ、みんな『値札』が付けられるにゃ。
働けるか、出せるか。それで値が決まるにゃ」
彼の目が、小田に向けられる。
だが、そこに光るのは、絶望ではなかった。
少し赤く潤んでいながらも、わずかな熱が宿っていた。
「アタシは……それでも、まだこうして生きてるにゃ。あのオルクシアンの地獄から抜け出して、喰われず、売られてここまで来たにゃ」
そして、ひと呼吸おいて――
「アンタも、そうにゃろ?」
その声は、真っ直ぐだった。
「『ここにいる』ってだけで、すごいことなんだにゃ。奴隷として使い潰される前に、誰かにここへ『連れてこられた』ってだけで……奇跡にゃ」
小田は言葉を失っていた。
怒りは消えていなかった。
だが、その怒りの矛先が――もう『歪な世界そのもの』にしか向けられないという事実に、今、少しだけ気づいてしまっていた。
「アンタが怒ってくれて、アタシ……ちょっと、救われたにゃ。だって、怒らなきゃいけないにゃ。誰もが当たり前の顔してる中で、怒れるアンタは……たぶん、正しいにゃ」
ふわり、と尻尾が動き、
そっと小田の拳に、猫人の小さな手が重ねられた。
その手はぬくもりに満ちていた。
商品と呼ばれ、肉とされかけ、それでも、なお『誰かと繋がろうとする』命の手だった。
「……アンタも、生きてるだけで、もう『勝ってる』にゃよ」
そう告げるその声に――小田はゆっくりと、息を吐いた。
涙ではなかった。
ただ、肺の奥で燻っていた炎が、ようやく形を変えて、風になっただけだった。
この寝床の湿った空気のなかで、ふたりは、確かに――同じ温度で、静かに呼吸していた。
⸻
「……それにしても、元気にゃあ……」
小田の様子を見て、猫人――彼は、ふにゃりと目元を細めた。
怒りに震えていた小田の拳が、いまは落ち着き、わずかに呼吸を整えている。
「さっきまでカザラ様に、たっぷり絞られてたんじゃにゃいの?」
そう言って、くすくすと喉を鳴らした。
言葉こそ軽いが、どこかそれは「確認」のようにも聞こえた。
小田は、鼻から息を抜くようにして小さく呟いた。
「……まあな」
それだけ。
濃密な行為の余韻がまだ身体の奥に残っているのに、言葉にはもう、それ以上の虚勢も否定もなかった。事実として、それは終わった。
ふと、猫人が身体を起こす。
その胸の乳首からは、もう母乳は出ていない。
ぬるく濡れた寝床の熱のなかで、彼はさらりと問いかけた。
「そういえば、アンタ……名前、持ってるのかにゃ?」
小田は、少し間を置いてから視線を向ける。
「……商品は、名を言っちゃいけないんじゃないのか?」
問い返すように、冷めた口調だった。
かつて寝床で聞いた、あの犬人の少年…非常に女性らしい「ナズ」の言葉が脳裏に浮かぶ。
だが――
猫人は肩をすくめるように、にんまりと笑った。
「そんなの、あの『お硬いメイド』が言ってるだけにゃよ。ここは寝床だにゃ。商品だけの部屋。ここだけは……ちょっとくらい、自由でもいいじゃにゃい?」
そして、手を伸ばし、小田の胸にちょん、と指を乗せた。
「アタシはナーシャっていうのにゃ。元はオルクシアン付近生まれで、今はカザラ様のとこに引き取られてるにゃ。商品だけど……名前くらい、自分で持ってたって、いいと思うにゃ」
その笑顔は無邪気だった。
けれど、その瞳の奥には――確かに、自分を『持とう』とする意志があった。
名を持つこと。
それは、所有物であることから少しだけ逸れた、『自我の証』。
小田は、静かにその指を見つめたまま――
少しだけ、口を開いた。
「……小田。俺は、小田っていうんだ。」
名を言うことに、意味があるとは思っていなかった。
だがいま、この寝床のぬくもりの中でだけは、その名が、確かに「生きて」いる気がした。
「ん〜……小田、っていうのかにゃあ」
ナーシャはふにゃりと笑い、名前を口に転がすように言った。
まるで甘い果物を味わうかのように、音の響きを何度も確かめながら。
「ん、小田……おだ。んふふ、ちょっと可愛いにゃあ」
そして、視線をふと小田の胸元へと向ける。
「……にしても……暑くないのかにゃ? その服」
低く湿った寝床に座り込んだまま、ナーシャは首をかしげた。
毛並みのある腕で頬をぬぐい、じとっとした視線をこちらに向ける。
その目に映っていたのは、黒く光を吸い込むような奇妙な繊維——
肌にぴたりと貼りつき、身体の輪郭すら隠しきれない密着装備だった。
寝汗に濡れた小田の体温を包み込むそれは、この湿度と熱気のなかでは明らかに異物だった。布というより、殻。
「…ああ、これか」
猫人の視線の先を追うようにして、小田もまた自分の身体に目を落とした。
黒い素材。艶のないその表面が、胸から腹、鼠蹊部、そして太腿の内側にまで密着し、
まるで呼吸の隙間すら与えぬように、己を覆っていた。
汗を吸うどころか、閉じ込めるようにじっとりと蒸らし、
肌と繊維のあいだに生まれる温度が、自分の存在の“異常さ”をじわじわと突きつけてくる。
(……おそらく、カザラが、俺が寝てる間に着せたんだろう)
自分の意思で着た記憶は、ない。
あの晩、何度果てたのかも曖昧なままだ。
白濁した思考と、痙攣のように続く快楽の波に呑まれ、気づいた時には意識の底に沈んでいた。
唇を啄む舌の感触と、重くのしかかる肉体の重みだけが、脳裏にこびりついている。
そんな状態で、こんな装備を自分で着るはずがない。
つまりは——
カザラが着させたのだろう。
(……あの時も、カザラが……『匂いがやばい』って言ってたな)
もう一つの記憶が、じわじわと浮かび上がってくる。
それは数日前の、食事の場だった。
彼女は食器を片手に、こちらへと顔を向けるなり、ふっと鼻を鳴らした。
まるで本能で探知するかのように、空気の中から匂いの粒を嗅ぎ分けるように。
それから、舌の端をちらりと見せるような笑みを浮かべて——言ったのだ。
『……おいおい、今は食事中だぜ?そんな匂い撒き散らして……このままじゃ、また犯しちまうところだったじゃねえか』
冗談めいた調子。だが、あれは本気だった。
鼻先に立ちのぼる匂い——それだけで、彼女の目は潤み、唇はぬめりを帯び、そして、腹の奥で疼く衝動に体がわずかに震えていた。
視線だけで伝わってきた、「今ここで押し倒してやろうか」という無言の圧力。
(だから、あれ以降……俺にこのスーツを着せるようになったのか)
あるいは、彼女なりの理性だったのかもしれない。
小田を傷つけないように。あるいは、自分自身の暴走を抑えるために。
「……ちょっと、脱げなくてな」
小田は、スーツの腹部を指先で引っ張りながら、ナーシャにそう告げた。
苦笑の混じるその声は、自嘲のようでもあり、警戒のようでもあった。
だが、それ以上にそこには、静かな諦念があった。
そう答える小田に、ナーシャがごくりと喉を鳴らした。
「ん〜……それじゃあ、めくればいいにゃ」
「……おい、ちょっ……」
制止の声も遅かった。
ナーシャの指先がするりとスーツの胸元へ差し込まれ、ぴたりと密着していた素材が、ぺり……と湿った音を立てて剥がれていく。
「わ……すっごい汗……ほんとに暑そうにゃあ」
「やめ――ッ」
「じっとしてるにゃ、小田。ほら、通気しないと蒸れちゃうにゃ」
腕の内側、脇の下、腹部――
ナーシャは軽い手つきで、生き物の皮を観察するようにスーツの端を摘み、
指で少しずつ「めくって」いった。
「……この服……匂いが逃げないようにしてるにゃね……カザラ様が着せたってことは……よっぽど、アンタの匂いが強かったのかにゃあ?」
指が、ぬめった汗を拭いながら、肌の起伏を確かめるように這う。
「……お、おい……」
掠れた声が唇から零れる。だが、腕は動かない。脚も力が入らない。
小田の身体は、濃密な疲労に包まれていた。
抜けきったあとの虚脱感。骨の芯まで蕩けたような重さが、彼の意志を引き留めていた。
その様子を見ながら、ナーシャは、ふふっと甘い吐息を漏らした。
「もう……ほんっとに、疲れてんだにゃ……カザラ様に、いっぱい出されたからにゃあ……」
まるで母猫のように、やさしく、爪のない手つきでスーツの端を撫でる。
ぺり……ぺり……
汗で湿ったフェロモン抑制スーツが、皮膚を離れるたびに、音を立てた。
腹、胸、肩、そして股間までも――ナーシャの手際は、あまりにも手慣れていた。
そして――
「はい、できあがりにゃ」
そう言った瞬間には、もう、小田の全身から衣服は剥ぎ取られていた。
汗で濡れた身体が、寝床の布の上に晒されている。
温かく、湿った空気が、肌にまとわりつく。
けれど、不思議と羞恥よりも――ただ、呼吸を深く吸うことしかできなかった。
「よいしょっと……」
ナーシャは、小田の頭の下に、自分の太ももをすっと滑り込ませた。
ふわりと、柔らかな肉の感触。
そして、さらさらとした毛の生えた膝の内側が、頬に優しく当たった。
「にゃふふ……膝枕、してあげるにゃ。あんた、頑張ったんだからにゃ」
猫人の彼が、小田の頭を撫でる。
指先は、額から前髪をすくい、ゆるやかに生え際を撫でていく。
まるで「とっておき」のぬいぐるみを扱うかのような、丁寧で、慈しむような仕草。
「小田も……きっと、いっぱい痛い思いしてきたにゃ。だから、今は……こうして、何も考えず、甘えていいにゃ」
膝の上で仰向けにされたまま、小田は、ただじっと息を吐いていた。
だが――その安堵の呼吸の最中。
ぐっ、と。
下腹部が熱を持って脈動する。
「……っ」
遅れて、自分の身体の異変に気づく。
むき出しになった局部が、まるで勝手に「目覚めた」ように、空気の中でじくじくと膨張していく。
腰の奥からせり上がるような、重たくぬるい充血の感覚。
(……あんだけ出したってのに……)
疲労で何も感じないはずだった身体が――
膝の柔らかさ、撫でられる髪、そして頬に触れる太ももの匂いに、敏感に反応していた。
皮膚をなぞる空気が、微細に性器の先端を撫で、露わになった肉幹がぴくん、と反応する。
その様子に――
「……にゃふふっ」
耳元で、くすぐるような笑い声。
ナーシャが、顔を覗き込んでいた。
小田の視線が跳ねる。
その瞳に映ったのは、小悪魔のように細められた双眸。
そして、まるでおやつでも見つけたかのように、口元をにやりと歪めた彼の顔。
「ん〜、甘えていいって言ったら……おちんちんが、反応しちゃったかにゃぁ?」
艶やかな声色で囁くその語尾は、どこまでも猫らしく。
喉をくすぐるように甘く、だが、確実に――小田の自尊心と理性を試す響きをしていた。
「……ち、違う。これは……」
否定の言葉は、喉の奥で引っかかって消えた。
何が違うのか、自分でもわからない。
だが、ナーシャはその曖昧な否定にくすりと笑い――
「甘えるって、そういうことにゃあ?」
そう言って、ぐっと胸を反らす。
視界が――白桃色の肉に覆い尽くされた。
「……っ」
言葉を、失った。
ふくよかで柔らかそうな乳房が、目の前で揺れている。
ふにゅり、と上下に弾み、汗と母乳の残り香がふわりと鼻腔に届く。
重みのある胸が、わずかに引き寄せられ、小田の頬を包むように左右から圧をかけた。
視線の中心にあるのは、濡れた乳首。
先端が、ほんのり赤く、滲むように張っていた。
滴ることこそなかったが、確かにそこには、命を分け与える器官としての湿度があった。
ナーシャは、胸を押し当てたまま、優しく、しかし悪戯めいて囁く。
「ね、小田……いっぱい頑張ったあとは……こうして、甘えてもいいのにゃあ…」
耳を舐めるようなその声に、心臓がひとつ、跳ねる。
頬に押し当てられた乳房が、ぬるりと揺れる。
そして、すぐ下では――興奮で膨らんだ小田の性器が、かすかに震え、脈動していた。
⸻
小田の性器に手を伸ばしたナーシャの目が、かすかに見開かれた。
「……にゃ、にゃにこれ……」
言葉に、僅かな震えが混ざる。
ごくり、と喉が鳴った。
彼の指は、ぬるりとその輪郭をなぞる。
汗でぬめった皮膚を、そっと撫で上げながら――
ゆっくりと、根元から、先端までを包み込んだ。
「……ん……なにこれ……すっごいにゃ……」
指の隙間から零れる声が、震えていた。
「……アタシの……二倍はあるにゃあ……」
その言葉は、ただの比較ではなかった。驚きと興奮が混ざり合い、喉の奥から滲み出た、熱っぽい呟き。
「……こんなの、カザラ様が気に入るの、当たり前にゃ……♡ すごい……硬いくて……ん、熱もすごいにゃ……♡」
指を絡ませるたびに、小田の性器はぴくんと跳ね、指の隙間からとろりと透明な液が滲み出る。
その一滴を見た瞬間――
「……あは……出てきたにゃ……♡」
ナーシャの頬が、ほんのりと染まった。
その小さな手が、もっとしっかりと包み込むように握られる。
くちゅっ、ぬちゅっ……
両手で扱っても、なお余るほどの肉の太さと長さ。
小さな猫人の指には明らかに持て余すそれを、丁寧に、優しく――しかし興奮を滲ませながら扱っていく。
重なる掌の奥で、血を滾らせる肉棒が脈を打ち、熱を放ち――
ふたたび、小田の身体を、抑えがたい昂ぶりへと引きずり戻していく。
「ん、ここ…気持ちよさそうにゃぁ♡」
ぬちゅっ、ぬるっ、ぬちゅり……
猫人の手が、ゆっくりと、だが確実な動きでしごいていく。
指と指の間に、性器を優しく挟み込み、根本から亀頭へとぬるぬると這わせる。
空気と指の熱、そして汗が混じった滑りが、敏感な皮膚をじわじわと刺激する。
こきゅ、こきゅ、しこ……しこしこ……。
リズミカルに、けれどねっとりと。
根本を締めてから先端までを搾るように撫で上げ、時おり先端の裏筋をぴとっと撫でては、そのたびにぴくんと跳ねる反応を確かめるように指先でなぞる。
(……やべぇ……)
声にならない呻きが、小田の喉の奥で震えた。
全身が倦怠感と快楽の海に沈む中、ただ一点、膨張した肉幹だけが異様なまでに敏感になっている。
本来なら、もう何度も果てた直後で、痛みを感じてもおかしくないはずなのに――
ナーシャの小さな手は、そのすべてを甘やかすように、優しく扱ってくる。
その動きが――逆にたまらなかった。
「んふふ……ほら、小田……」
そして、彼は――胸を、小田の顔に押し付けてくる。
むにゅ……っ。
濡れた乳房が、頬をぬるりと包み込む。
揺れるたびに、乳首の先が唇をぺとりと撫で、かすかに残る母乳の匂いが鼻腔を刺激した。
「……いっぱい、吸っていいにゃ……アタシはもう、奉仕終わったから……今は、小田が……癒される番にゃ」
そう囁く声が耳元を這う。
その言葉とともに――
下では、しこっ、しこっ、と肉幹を撫であげる音が、ぬめった水音とともに、寝床の静寂に溶けていった。
空気に汗と乳の匂いが混ざる。
ぬくもりが肌にまとわりつく。
心臓が、どくん、どくんと、次第に昂っていく。
ぬるぅ……
突然、口の中に、温かい液体が広がった。
「……っ」
唇の隙間に、じゅわりと注がれたそれは――間違いなく、母乳だった。
先端を咥えていた覚えはない。だが、むにゅと頬に押し当てられた乳首の先から、ぴゅ、と不意に飛び出した一滴が、小田の唇を割り、舌の上に滴ったのだ。
ほんのりと甘く、熱を帯び、そしてわずかに塩味を含んだ味。
舌が条件反射のように反応し、ぬるりと口腔内を撫でる。
ぴちゃ、ぬちゅ……
無意識に、口が――動いた。
「ん……っ、んちゅ……」
吸ってしまっていた。
抵抗の意志も曖昧なまま、舌が、口内に滲んだ液を捉え、喉へと送り込む。
その瞬間。
「んみゃあっ♡」
頭上で、甘く跳ねるような声が弾けた。
びくっ、とナーシャの身体が震え、小田の頭を挟む太ももがぴたりと力を込める。
そして――
「……っ!」
その頭に、ぴとりと触れた。
柔らかくも、張り詰めた熱。
濡れた空気に包まれたその質感は、先ほどまで内腿のあいだで蠢いていた、もうひとつの「性」の器官。
(……これは……)
明確に、勃起していた。
小田の額に押し当てられたそれは、皮膚越しでもわかるほどに膨張し、熱を持ち、ぬるりと湿っていた。
先端が、ぴと……と額の生え際を撫で、そこから微かに透明な液が滲む。
「…………吸われたら……出ちゃうにゃあ……♡」
甘えと興奮の混ざった声が、頭上から降りてくる。
視線を上げれば、蕩けた表情のナーシャが、小田の頭を抱きかかえるようにしながら、顔を紅潮させていた。
膝の間に挟まれた小田の頭に、自らの性器を押し当てながら――
「……だめにゃ……そこ、擦れると……余計に、止まらなく……なっちゃうのにゃあ……♡」
言葉の意味も熱も、皮膚を通して伝わってくる。
甘ったるい母乳の残り香が口腔に広がる中、小田の後頭部に当てられた肉の硬さと、太腿から伝わる震えが、淫らに脈動していた。
頭の上で、歪に膨らんだ「雄の証」は、ねっとりとした熱と濡れを纏いながら、まるで生き物のように、小田の後頭部へと押しつけられていた。
⸻
「にゃふぅ……♡」
蕩けた声が、膝枕の上で揺れる。
ナーシャの頬はほんのり赤く染まり、猫耳がぴくんと震えていた。
小田の口に咥えられた乳首からは、絶え間なく母乳がじゅわじゅわと滲み出し――その都度、舌がぬちゅ、ぬちゅ、と絡みつく。
……んく……ちゅる……ん、んぅ……
吸えば吸うほど、乳腺が収縮し、じゅるじゅると音を立てて液があふれ出す。
小田の喉が上下に動き、温かい白濁が舌を這い、口内に広がっていく。
「ふふ……小田ぁ♡アタシの……赤ちゃんになるかにゃあ?♡」
耳元で、くすぐるような声。
「……んふ、んくっ……」
小田は答えない。
けれど、口は止まらなかった。
柔らかな乳房を深く咥え込み、上下に首を揺らしながら――
まるで母を求める赤子のように、必死に乳首へと吸いついていた。
「んぅ♡……はぁ、はあ……♡」
ナーシャの喉が震える。
片手で小田の頭を抱きかかえ、もう片方の小田の性器を扱く。
そこからは、しとしとと途切れなく母乳が流れ、舌の上を湿らせていく。
「……ん♡元気に……お乳吸って……気持ちいい『元』……出しましょうにゃ〜♡」
その声音には、甘やかすような慈愛と、ぞくりとするほどの性的な熱が入り混じっていた。
「んっ、くぅ……じゅ、じゅる……んんぅ……」
口内で乳首がねぶられ、唇が密着し、舌が乳輪の内側をくすぐるたびに――
ナーシャの太ももがぴくぴくと震え、押し当てられた股間から、また一筋の粘液が小田の額を濡らしていった。
「……小田、ホント……可愛いにゃぁ……♡もっと……もっと吸ってにゃ……♡」
声が、掠れながらも蕩けていく。
母性と支配の境目が曖昧なまま、ナーシャは、自分のすべてを小田の口に注ぎ込みながら――
とろけるような笑みを浮かべていた。
そしてーー
「……ん♡小田……ここ、気持ちいいにゃ?」
ぬちゅ……くちゅっ。
ナーシャの小さな指が、小田の亀頭の先端を、執拗に、なぞり始める。
敏感な部分。
すでに充血し、艶めいた粘膜が剥き出しになったその先端を、猫人の指先がそっと押し広げ、時に撫で、時に押し込むようにくちゅくちゅと愛撫していく。
「ん……んぅ……ぁ……ッ」
小田の腰がびくんと跳ねた。
だが、逃れられなかった。
ぐったりと膝枕に頭を乗せたまま、身体はすでに快楽に足を取られていた。
「ここ……じゅんじゅんにゃあ……♡んふ……先っちょが、くちゅって音、鳴ってるにゃ……♡」
指が輪を描くように、ぐるりと亀頭をなぞる。
先端からは、透明な露がとろりと溢れ、それを塗り広げるようにぬちゅ、ぬちゅと粘りを引いた。
その粘液が、皮膚と皮膚のあいだで滑り、ねっとりと湿った水音を生み出していく。
「……こんなに溢れて……カザラ様に搾られたのに、まだこんなに……♡」
ナーシャの声音は、どこか息を弾ませていた。
指が一層ゆっくり、丁寧に――しかし的確に、亀頭の裏筋を掬いあげ、爪先でぴと、とつつく。
「ッ……く、ぅ……!」
痺れるような電流が、下腹を突き抜けた。
その瞬間――
「んっ……!」
小田の口が、反射的に動いた。
むにゅっ。
頬に押し当てられていた乳房に、唇が沈み込む。
そして、濡れた乳首を本能的に捉え、そのまま――
ちゅっ……ん、んちゅ……
音を立てて、吸ってしまった。
「――ッ♡」
びくっ。
ナーシャの身体が跳ねる。
膝の上に乗る小田の頭を、思わず太ももでぎゅっと挟み込む。
「んにゃぁ……♡吸ったら……また……っ♡」
乳首の先端から、ぴゅっ、と母乳が噴き出す。
口内に広がる甘い味、ぬるりと熱い液が喉へと落ちていく。
吸えば吸うほど、止まらない。
小田の口がぴたりと吸い付いたまま、ちゅっ、ちゅるっ、と喉を鳴らすたび、ナーシャの乳房は軽く脈動し、その先からしっとりと、生命のような液を与え続けてくる。
「ん、あっ……そんな吸い方……ッ、んにゃぁっ……♡」
頭上では、ナーシャが喘ぐように身をよじらせ――
だが同時に、その指先は、なおも小田の亀頭をしこしこと責め立てていた。
上下で、淫らな往復が繰り返される。
口では母乳を、股間では快楽を――
小田の身体は、再び逃げ道のない快感の渦に沈み込みつつある。
「小田ぁ……いい子にゃあ……♡」
ナーシャの指が、するりと下腹へ滑り降りた。
汗と母乳にまみれた空気の中、既に何度も果てたはずの肉棒は、それでもなお、ぬらぬらと熱を帯びてそそり立っていた。呼吸に合わせてぴくりと跳ね、先端からは、じんわりと透明な液が滲み出している。
皮膚の奥から電流のような痺れが走り、小田の喉が、掠れた喘ぎとともに鳴った。
「――っ、う……」
思わず目を閉じる。だが、逃れられない。
ナーシャの指先は、ねっとりと滑る。
ぬちゅっ……くちゅ、くちゅ……
指先が肉棒の根元をなぞりながら、ゆっくりと先端へと這い上がる。
そのまま、尿道口の縁に指の腹を押し当てると、ぷにゅ、と柔らかく開かれた。
「……ふふっ……ここにゃ……♡」
指先が粘膜の唇を押し広げるように軽く撫で、裏筋をぴと、ぴと……と節の柔らかい腹で叩く。
触れるたび、ぴくん、と肉が跳ね上がり、先端から透明な雫がとろりとこぼれ落ちた。
「ん〜……ここにゃね、ここ触ると……ほら、こんなに……♡ぴくぴくしてるにゃぁ……ふふ、わかりやすい雄にゃ……」
指先は動きを止めず、尿道の開き口をなぞるように撫でたかと思えば、次の瞬間——
舌が触れた。
ぬるりと、粘膜に沿って這い寄る感触。
柔らかく、湿っていて、生温かい肉の塊が、肉棒の先端をねっとりと包み込んだ。
そして——
ペロッ
明確な、湿った音が響いた。
味わうように、ぬめりを巻き取るように、ゆっくりと舌が先端を舐め取った。
ぺろ、ぺちゅっ。
猫のように細く尖った舌が、湿った先端をぬめらせながら往復する。吸い取るのではない。あくまで舐め、塗り広げ、焦らす。
「んふぅ……苦くて、でも、あったかくて……♡ もう、先っちょからいっぱいこぼれてるにゃ……中が、ぱんぱんって、感じにゃあ……」
ナーシャの舌から解放された小田の肉棒は、まるで鼓動を持った獣のように、びくびくと震えていた。
亀頭が手で擦られるたびに、足先がぴくんと跳ね、腹筋が痙攣する。
自律神経が過敏になりすぎて、吐息ひとつすら制御できない。
「……もう、限界かにゃ?」
ナーシャの目が、甘やかすように細められた。
「だったら……アタシが……出してあげるにゃ♡」
その指が、根元から先端までをぎゅっと握る。
そして――
しこっ、しこっ、しゅこ……しゅこっ……
じっくりと、濡れた肉棒を扱く動きが始まった。
「はぁっ……ぅ、っく……っ!」
小田の身体が跳ねる。
腰が引ける。だが、腿の下に押し当てられたナーシャの膝が、それを逃さない。
「いいのにゃ、いいのにゃ……逃げなくて……出して、ほら……“元”を、気持ちよくぶちまけて……♡」
搾り取るような手の動きが、どんどん加速していく。
くちゅ、くちゅ、ぬちゅっ、しゅこっ、しゅこ……
粘液が滴り、手のひらが肉に貼りつきながら、リズミカルに前後する。
先端の裏筋は指で潰され、刺激が逃げ場なく一点へと集中する。
「ふふっ……いってにゃ、小田ぁ……♡ママのアタシが受け止めてあげるにゃ、ぜ〜んぶ……♡」
くちゅ、くちゅ、くちゅ……!
「……っ、あ、ぁあ……ッ!」
そして――
――びゅるっ、びゅるるるっ!!
小田の下腹が跳ね上がり、肉棒がびくびくと脈打つ。
熱い白濁が、空気を裂いて噴き上がる。
ぬちゅっ、びちゃっ、と湿った音を立てながら、粘ついた液がナーシャの掌を、手首を、胸元を――ぬるぬるに濡らしていく。
「んにゃあっ♡♡す…っごい、出たにゃあ……♡」
蕩けきった喘ぎ声が、寝床の空気にとろりと落ちる。
その瞬間だった。
「――っ……あ、ん……♡」
ナーシャの身体がびくりと大きく震えた。
そして、むにゅ、と小田の口に再び押し当てられていた乳房の先端――乳首が、ピンと張りつめたかと思うと――
……っぴゅく……ぴゅっ、ぴゅるるっ……♡
ぶしゅっと音を立てて、母乳が噴き出した。
「にゃあああ♡……出ちゃう……またいっぱい……っ♡」
ピュッ、ピュッと途切れながら、勢いよく飛び出した乳白色の液が、小田の頬を濡らし、口内にまで降りかかる。
熱く、ぬるく、甘い――まるで情交の余韻に呼応するように、乳腺が痙攣し、母性の液体を吐き出していた。
「……ん、くっ……ふふ、小田……いっぱい出して……アタシも、止まらなくなっちゃったにゃ……♡」
そのまま、小田の顔には――なおもふわりと柔らかく、そして熱を孕んだ乳房が押し当てられていた。
「……はぁ……んふ……まだ止まらないにゃぁ」
そう言った瞬間。
じゅわ……と小さな脈動を伴いながら、乳首の奥から、また一滴、また一滴と母乳が滲み出す。
小田の唇の端にまで満ちたそれは、じっとりと舌の奥へと流れ込み、口腔を甘く濡らしていた。
(……出続けてる……)
小田はぼんやりとした意識の中、ようやく乳首に吸い付いた自分の口を――
そっと、解放した。
――にゅぽん。
唇を離すとき、濡れた肉が引き剥がされるような音が、空気に落ちた。
それと同時に。
ぶしゅっ……!
「にゃっ……♡」
ナーシャが跳ねた。
乳首が、吸い口を失ったまま、ピンと張った状態で噴き出した。
「……っにゃああ♡止まんないにゃ……♡」
ぴゅ、ぴゅるっ、と断続的に吹き出す母乳が、宙に弧を描いて――小田の胸元に降りかかる。
ぴちゃっ、ぴちゅっ……
熱を帯びた液体が、腹部、胸、首筋にまで滴り落ちる。
さらりとしていながらも微かな粘性を持った液体が、汗の混じった肌の上を這い、乳首から流れ落ちた雫が、鎖骨を越えて静かに沈んでいった。
「……うにゃぁ……恥ずかしい………止められないにゃ……♡」
ナーシャの乳房は、まだじゅわじゅわと熱を帯び、母乳を湧き上がらせていた。
小田の肌に当たるたびに、その滴りが体温と混ざり合い、妙に心地よい痺れと安心感を与えてくる。
滴る音――ぴちゃ、ぴちゅ、ぴと……
濡れた音が寝床の静けさに響き、粘液の香りと母乳の甘い匂いが、鼻腔に絡む。
そのまま息を荒くしながら、ナーシャが身体をかがめる。
そして――
「……んちゅっ♡」
唇が、落ちてきた。
甘く、蕩けるような熱を孕んだキス。
唇と唇が、ぴたりと重なり、
その瞬間、小田の口内に残った母乳が、ナーシャの舌とともに――絡みついてくる。
ぬちゅ、ちゅる、ちゅっ……くちゅ……
「んん……ん、ちゅ……♡」
舌が深く差し込まれ、歯列をなぞり、上顎を撫で回し、柔らかく内側を侵していく。
さっきまで母乳を分け与えていた口とは別の口で、今度は小田の味を、求めるように、啜ってくる。
「ふふ……小田の口、あったかい……甘い……乳と元の匂いが混ざってて……最高にゃ♡」
口内で、母乳と精の香りが入り混じる。
ねっとりと絡む舌が、まるでそのまま吸い尽くそうとでもするかのように、小田の舌に絡みついてくる。
ちゅるっ、んちゅ……ちゅっ……
粘着質な水音が、何度も繰り返され、口内に溜まっていた唾液と母乳の味が、次第に混ざり合って、濃厚な『快楽の味』へと変わっていく。
「ん……ちゅ……ちゅぷ……っふ、ふふ、小田……キス、好きにゃあ?」
唇を離すとき、ぬるりと唾液の糸が引かれた。
その笑顔は、全身を蕩けさせるような、やわらかで淫らな母の表情だった。
そして――
「じゃあ、もう一回ママと気持ちよくなろうかにゃあ♡」
そう囁くなり、再び、小田の口へと――とろけた熱が、押し寄せていった。
甘やかしと支配。
癒しと誘惑。
その全てを抱えた“雌雄”の肉体が、小田の上に跨がり、揺れていた。
逃れようのない、官能と優しさの檻の中で。