石造りの廊下を、湿り気の残る足音がゆっくりと進んでいく。
冷たい床の感触が足裏に伝わるたびに、小田の意識はわずかに浮き沈みし、さっきまで膣に沈めていた肉体の残滓が、汗とともにじわじわと皮膚の奥から滲み出してくる。
扉の前に立ったとき、小田の息はもう白んでいた。
冷たい石壁の向こう側。
そこが「自分の空間」であると錯覚するには――あまりにも、ここで起きた出来事が生々しすぎる。
指先に力を込め、扉の取っ手に手をかける。
わずかに軋むような金属音が、湿った空気にこだまする。
静かに、扉が開いた。
――ほの暗い部屋の中、ぴたりと空気が変わる。
石壁と木の梁がむき出しのままの室内。
窓はなく、ランプすら灯っていない。
唯一の光は、廊下の明かりが扉の隙間から漏れ、寝台の端を淡く照らしていた。
そこに、ナーシャがいた。
小さな体躯を丸め、獣人特有の毛足の柔らかな尾を足元に巻き込むようにしながら、ぴくりとも動かず、ただ布の下で静かに寝息を立てていた。
その寝息が、小田の足元まで届く。
浅くも深くもない呼吸。
一度、何かに耐え切った後のような――深く沈んだ眠りだった。
「…寝てるのか……」
小田は扉を閉めることも忘れたまま、わずかに部屋の奥へと足を進めた。
寝台に近づくごとに、ぬるい湿気が肌にまとわりついてくる。
香るように、漂うように――
(……まだ残ってるやがるか……)
精の匂いだ。
おそらく、ナーシャと自分のもの。
先ほどまで、この部屋で交わされたであろう濡れた吐息と膣の湿り気、交尾の残り香が、まだ完全には消えていなかった。
鼻腔の奥をくすぐるような、雄の熱。
汗と粘液が入り混じった、それでいて本能に逆らえないほど甘やかな匂い。
それが、部屋の空気に薄く溶け込み、ひたひたと小田の理性を溶かしていく。
「…」
小田は奥歯を噛みしめる。
いま、身体を貫くのは獣的な欲望ではない。
ただ、胃の底に巣食った、あまりに現実的な――「飢え」だった。
「……腹、減ったな……」
低く、擦れた声が漏れる。
誰に言うでもなく、ただ空気にこぼれ落ちるような呟きだった。
身体は重く、眠気すら感じない。
それよりも、胃が――内臓が、何かを求めてざわついている。
しばらく口にしていなかった食事。
ただのパンでも、薄いスープでもいい。
ぬるい茶でも、冷たい粥でも構わない。
(……昨日から何も食ってなかったっけな……)
そう思いながら、小田は寝台の端にそっと腰を下ろす。
ぎし、と音が鳴る。
そのわずかな振動に、ナーシャの耳がぴくりと動いた。
だが、目を覚ます気配はなかった。
膣奥まで蹂躙され、肉体ごと溶かされた後の眠り――それは、まるで昏睡のように深かった。
「……」
小田は、視線を寝台の下へ向けた。
そこには、誰かが脱ぎ捨てた衣類とともに、薄く乾きかけた粘液の跡が残っていた。
石の床には細い筋状の液体が固まりかけ、わずかに艶を帯びて光を反射していた。
それを見た瞬間、胃がきゅう、と縮んだ。
食欲と、屈辱と、渇きと、嫌悪と、欲情――
すべてが混濁し、身体の奥で鈍く熱を帯びる。
そのときだった。
コツン、コツン……
遠く、廊下の向こう側から、かすかな足音が聞こえた。
誰かがこちらへ近づいてくる。
一定のリズムを刻みながら、確実に、ゆっくりと。
まるで空気そのものを押し広げるように。
(……シズか)
小田は、反射的に寝台から立ち上がった。
まだズボンの奥に湿り気が残る。
脚を動かすたび、粘液が内腿にまとわりつくのがわかる。
汗と精液と愛液が混ざり合ったそれは、冷たくなりかけた今でもなお生々しく自己主張を続けていた。
廊下の足音が、じりじりと近づく。
胃が鳴った。
ぎゅるる、と恥ずかしいほどに、音を立てて。
小田は、ただ無言で――
誰が来るのかを、ただ静かに待っていた。
数秒の間。
それは、まるで躊躇のようにも、覚悟のようにも感じられた。
そして――
ギィ……
扉が、きしむような音を立てて、ゆっくりと開いた。
部屋の中に、ふわりと熱気が入り込む。
香ばしく、少し甘く、どこか懐かしい――
それでいて、この空間には不釣り合いな、食物の匂い。
「……あの、失礼します……」
おずおずとした声。
細く、かすれがちでそれでも震えながら通るような、どこかで聞き覚えのある少女の声音。
その声と共に、そっと姿を現したのは――
シズだった。
彼女の手には、両腕で慎重に抱えるようにして運ばれた木製の盆。
その上には、湯気を立てる陶器の器がいくつも並び、金属の蓋の間からは、肉の焼ける匂いや、出汁の香りが柔らかく部屋へと流れ込んできていた。
一歩、また一歩と、シズは小田の視線を避けるように、そろそろと足を進める。
白い指が、盆を持つ腕にぎゅっと添えられており、その指先がわずかに震えているのが、空気の揺らぎのなかに感じ取れた。
「……その……お食事を、お持ちしました……」
その声音には、明らかな『後ろめたさ』が滲んでいた。
小田は、無言でその様子を見つめていた。
視線を逸らすシズの頬は赤く、耳の先まで上気している。
けれど、その目は、ちらちらと――
まるで罰を待つ子供のように――
何度も小田を見た。
上目遣いで。
伏し目がちで。
瞳の端に光を宿しながら、濡れたままの粘膜の余韻を内股に感じているのか、あるいは、それとはまた別の「渇き」が彼女の体内に芽吹いているのか。
小田は、黙ったまま彼女の手元へ視線を落とした。
盆の上には、確かに料理があった。
だが、それは――
捕虜や、奴隷に与えられるような代物ではなかった。
焼かれた肉。
焦げ目のついた皮の下から、肉汁がじゅわりと浮き出し、陶器の皿に薄く溜まっている。
付け合わせには野菜の炒め物、そして温かい穀類の粥。
とろりとした白湯のスープからは薬草の香りが立ち昇り、さらに別の器には、砂糖をまぶしたような焼き菓子まで添えられていた。
(…これは)
通常、捕虜に与えられる食糧といえば、干した肉の切れ端と、常温の水が一杯。あるいは、冷えた粥が木の椀に雑に盛られている程度。
脂も塩も希薄で、カロリーだけを満たすための粗末な配給。
消化に悪いものや、熱すぎる料理は避けられるのが基本。
つまり、『生きながらえるためだけの糧』にすぎない。
だが、今、目の前に並べられたこの献立は――
“歓待”であり、“褒美”のようだった。
「……その……」
シズの声は、ごく控えめだった。
まるで誰にも聞かれてはいけない秘密を囁くような、曇りガラス越しの声音。
彼女は卓の横に立ったまま、小田をじっと見られず、しかし何度も視線を揺らしながら、手元を落ち着きなくいじっていた。
「……お食べになって、ください……」
そう言ったあと、わずかに肩が上下する。
呼吸が、緊張に引き攣れているのが伝わってくる。
小田は応えない。
ただ、じっと彼女のほうを見る。
その沈黙が、かえって彼女を責め立てるように――
「……昨日から、なにも……食べていないでしょう?」
か細い声に、どこか泣きそうな響きが混じった。
まぶたを伏せるようにして、声だけが小田の胸元に届く。
「……」
しばしの静寂が、ふたりの間を覆った。
卓の上に立ち昇る湯気だけが、時間の経過を物語るようにふるふると揺れている。
「……うぅ……」
シズの喉の奥から、言葉にならない吐息が漏れた。
それは懺悔のようであり、またどこかで、赦しを乞うようでもあった。
小田は、ようやく口を開く。
「……君が作ったのか?」
その問いは、咎めるでも、責めるでもなかった。
ただ、確認するように――
だが、それゆえに、シズの肩はびくりと跳ねた。
「……!」
ぱっと顔を上げたその目には、一瞬の動揺と、そして――どこか誇らしげな色が浮かぶ。
「は、はいっ……!」
返事は思いのほか大きくなった。
緊張が破れたような声音だった。
さらに緊張を解すように小田が口を開いた。
「……頂いても?」
それは、まるで儀礼のような一言だった。
だがその声色には、明確な“礼”の気配があった。
強がりも、皮肉も、もう滲ませる気力すらない。
ただ静かに、目の前に差し出された温もりを――受け入れようとしていた。
「……!」
シズの瞳がぱっと見開かれ、喉がわずかに鳴る。
「えぇっ……! ぜひ、お食べになってください!」
声は少しだけ裏返り、それでもその言葉には、遠慮のない嬉しさと、強い願いが詰まっていた。
「……ありがとう」
小田の口元がわずかに緩んだ。
その言葉は、絞り出すようなものではなかった。
自然と出てきた、温度のあるひとこと。
シズの肩がすっと下がる。
張りつめていた空気が、ほんの少しだけ解けた。
それを確認するように、小田は卓に置かれた陶器の器へと手を伸ばした。
指先が器の縁に触れた瞬間、湯気がふわりと舞い上がり、鼻腔をくすぐる。
肉の焼ける香ばしさ、甘い脂の匂い。
煮崩れた根菜のほのかな香り。
そして、香草の清涼感を含んだスープの湯気が、渇いた喉に思わず唾を飲ませる。
そして――
彼は、箸を取り、最初のひと口を、ゆっくりと、慎重に運んだ。
咀嚼するたびに、口内に広がっていく塩味と肉汁。
とろりとした脂が舌の上で溶け、噛むたびに肉の繊維がほぐれ、わずかに焦げた香りが鼻に抜けていく。
思わず、瞼が微かに震えた。
(……うまい)
それは、虚勢でも、感傷でもなかった。
事実として、美味かった。
身に沁みる味だった。
シズは、卓の向こうでそっと息を飲み、その顔色の変化を見逃すまいと見つめていた。
だが、小田はもうその視線にさえ気づかないほどに――
ただ、ひと口、またひと口と、食事に集中していた。
それは生きるための行為だった。
それと同時に、身体の深部に残された「人間性」を回収する行為でもあった。
熱い粥を啜り、柔らかく煮込まれた豆を噛み、薬草の香るスープを啜るたびに――
彼の中に沈殿していた“獣性”が、すこしずつ冷めていくような、そんな錯覚さえあった。
小田は、無我夢中だった。
焼かれた肉の一切れを口に運び、ほとんど咀嚼する間もなく飲み下す。
すぐに次の器へ手を伸ばし、とろみのある粥をかき込む。
白湯のスープを啜ったあとには、口内に残る塩味と油分を、舌で舐めとるように追う。
ただ、飢えがすべてを支配していた。
その姿を、シズは静かに見つめていた。
畏れと、安堵と、そして少しの罪悪感を混ぜ合わせたような瞳で。
だが、ふいに小田が手を止める。
ふと、スープの器を置き、顔を上げた。
「……先程は、申し訳ありませんでした」
シズの声が、薄い沈黙を破った。
あまりにも突然の言葉に、彼女自身が息を呑むように口を結ぶ。
うつむいたその首筋に、かすかに汗の光が浮かんでいた。
「……」
小田は、器を見つめたまま数秒だけ沈黙した。
だが、静かに、落ち着いた声で呟く。
「……お前たちにとって、俺の匂いは……そこまで劇薬なのか?」
その声音に、怒気はなかった。
ただ、素直な疑問として――
理性が戻りはじめた男の、乾いた思索としての問いだった。
「……その……えっと……」
シズは戸惑った。
視線を宙に泳がせ、手元の膳の隅に目を落とし、小さく手を握りしめる。
小田はそれを見て、苦笑をひとつ、吐き出した。
「……いや、すまん。怒ってるわけじゃない」
器の縁をなぞるように指で触れながら、その声はどこか投げ出すように続いた。
「屈辱的だったのは確かだ。正直、耐え難かった」
「……」
「だが、それと同時に――疑問でもあったんだ。なぜそこまで、襲ってくるのか。雄が珍しいだけでは説明がつかないだろう。君らがどういうふうに『匂い』を受け取ってるのか……」
言葉の切れ間に、スープの湯気がふわりと揺れる。
その熱が、まだ彼の目元に残る疲れと怒りと、わずかな好奇を、霞のように包んでいた。
「……小田様の匂いは……」
シズの声が、小さく返された。
ほんの微かに震えていた。
「……少々、刺激が強いのです……。とても……強く、て……深くて……その……突き刺さるような、匂いで……」
言いながら、シズは視線を逸らしたまま唇を噛んだ。
羞恥と、それでも伝えなければならないという責任感が、彼女の声の端ににじんでいた。
言葉を探すように、瞳が泳ぐ。
膝の上で指がぎゅっと握られ、小さな肩が緊張に引き攣っているのがはっきりと見えた。
「……その……今、着ておられる服……」
小田の胸元に向けて、そっと細い指が伸びる。
シズの指先が差すのは、小田の身にまとわれた黒く密着するスーツだった。
汗を吸った生地は微かに光を帯び、皮膚に吸い付くように沿っている。
生地の合わせ目からのぞく骨格の起伏すらも透けるほど、薄く、張り詰めた素材。
小田は無言で、その指の先と、自らの服を見下ろした。
「……それを、着ておられれば……なんとか、耐えられます。鼻孔を焼くような匂いが、少しだけ緩やかになるので……」
「……脱ぐと?」
小田の問いは静かだった。
どこか、皮肉を混ぜる余裕すらもなかった。
ただ、確かめるように。
シズの喉が小さく動いた。
そして――一瞬、ためらったのち。
「……鼻腔の奥から、脳が焼かれるような衝動が走るのです」
その声はかすれ、震えていた。
膝の上で握った拳が、ぎゅうと強くなった。
「理屈では抑えなければと分かっていても…………でも身体が――追いつかないんです」
声が細くなりながらも、必死に続けた。
「小田様の匂いは……刺激が強すぎて……一瞬で、股が濡れてしまって……」
言い切ったその瞬間、シズはハッと息を詰まらせた。
まるで自分が口にした言葉に、自分自身が追いつけなかったかのように。
「あ、い、いえ、今のは、そのっ……!申し訳ありません……!」
慌てて手を振り、顔を真っ赤に染め、耳の先まで火が回るように赤くなる。
それでも、小田は何も言わなかった。
卓の向こう、彼女の震える手と頬と、その潤んだ瞳を、ただ静かに見つめていた。
生理の領域に踏み込むほどの本能的な欲情と、理性のギリギリで踏みとどまる羞恥心――
その両方が、シズという存在のなかで、今まさに火花のように交錯していた。
⸻
器の中には、もう何も残っていなかった。
焼けた肉の汁まで、粥の最後の一滴まで、スプーンでさらい尽くされた陶器の底が、ほんのりと湯気を残して冷え始めていた。
小田は、箸をそっと置いた。
喉の奥に残る温もりと、食べ終えたことへのわずかな満足感を噛みしめながら、息を一つ深く吐く。
「……ご馳走様」
低く、しかしはっきりとした声だった。
向かいにいたシズが、ぴくりと肩を揺らす。
その顔に、ふわっと安堵の色が広がった。
「……完食、ありがとうございます……」
目を細めて、どこか胸をなでおろしたような笑顔。
けれどその表情には、まだ緊張の名残が張りついていた。
「その……お食事の後は、カザラ様の部屋まで……ご案内いたしましょうか?」
笑顔のままの提案だったが、声の奥に微かに揺れる気配があった。
躊躇とも、期待ともつかない複雑な空気。
それを受けて、小田はほんの一拍、間を置き――
「あー……いや、自分で行くよ」
と、あっさりと断った。
軽く肩をすくめ、すでに立ち上がる動作に移っていた。
その動きは、さりげないようでいて、どこか逃げ腰の軽さを孕んでいた。
(――バックれてやる)
カザラの部屋など行ってたまるか、という理性的な拒絶。
満腹とわずかな冷静さを取り戻した今だからこそ、逆にあの女の淫靡な支配がどれほど危険か――理性が警鐘を鳴らしていた。
「さ、左様ですか……」
シズの声が、ごく小さく震えた。
表情はすぐに整えられた。
だが、その口元には一瞬、寂しげな影がさした。
言葉では何も言わない。
けれど、そこには期待していた“同行”を断られてた静かな落胆が滲んでいた。
小田は、あえて視線を合わせなかった。
「ああ……カザラに伝えてくれ。自分で行くから、大丈夫だとな」
シズは、まぶたを伏せた。
「……わかりました」
それ以上、何も言わなかった。
俯いたまま、小さく頷く。
その声には、逆らわぬ忠誠と、どうしようもない遠慮が、そっと押し込められていた。
小田はそれを聞くと、小さく息を吐き、部屋の戸口へと向かう。
その背中に、シズは声をかけなかった。
ただ、膝の上でそっと両手を重ねる。
湯気の立たない器たちが、静かに空気に冷えていた。
そして――
部屋の扉が、ゆっくりと閉じられる音だけが、静かに、二人の距離を仕切った。
⸻
静まり返った廊下に、靴底が石を踏む乾いた音だけが響いていた。
(どこかの部屋で隠れて寝よう……)
思考の奥底に、冷たい現実がじわりと滲んでいる。
(……どちらにせよ、カザラの部屋に行ったところで……寝れるとは思えんしな)
それは苦笑にもならない呟きだった。
尻に今なお残る粘着くような熱、唇にうっすらと残る塩味と、あの女の舌の感触。
目を閉じれば、すぐにでも瞼の裏に浮かび上がってくるだろうあの淫靡な笑み。
『寝かせると思ってるのか?あ?』
あの言葉が、耳の奥で鈍くこだました。
「はぁ…」
ため息は、無意識に漏れていた。
だが、それが誰かに聞かれたらまずいことを思い出し、足を止める。
廊下には誰の気配もない。
だが、この場所が異世界の「屋敷」である以上、警戒は決して緩められない。
どこかの角の先、あるいは高所の梁の上。
どんな獣じみた従者が、どんな目をして見張っているか――わかったものではなかった。
小田は、息を殺すように歩を進めた。
足音はできるだけ控えめに、だが決して躊躇せずに。
ときおり窓の外から風が吹き、薄布のカーテンがわずかに揺れる。
そのたびに、部屋の陰影が変わり、影が動く。
神経を尖らせながら、視線で周囲をなぞる。
廊下の左右には、数メートルおきに重厚な木の扉が並んでいた。
どれも似たような意匠で、一見して中の様子はわからない。
(一つ、開いてる部屋があれば……)
願うように、歩を進める。
胃は満たされていたが、肉体の疲労と精神の摩耗は限界に近い。
立ち止まったら、その場に倒れ込みそうなほど、足の筋肉に鈍い痺れが残っていた。
目の前に続く廊下の造り。
曲がり角に置かれた素焼きの壺。
壁にかかった色褪せた織物の模様。
(……ん?)
どこかで見たような景色だった。
ゆっくりと視線を滑らせ、廊下の突き当たりにある扉を見た瞬間――
(……ああ)
思い出した。
忘れようとしていた、いや、忘れたかった記憶が、ぬるりと浮かび上がる。
(ここ……ナズの部屋か)
数日前、自分が放り込まれたあの部屋だった。
思わず舌打ちしそうになるのを堪える。
(……知らないやつよりは…マシか……)
身体の奥に、鈍くうずくような感覚が残っている。
あの犬人――ナズの舌の感触。
しつこく乳首を吸われ、性器を甘く扱かれたあの夜の痕跡。
だが今、小田の思考はそこまで鋭くは働かなかった。
(……今は、寝てるかもしれん)
眠気と満腹感が、理性をなだめるように波を打っていた。
(……っていうか、もうどうでもいい……)
扉の前に立ち、そっと取っ手に手をかける。
わずかに軋んだ金具の音が響くが、中からの反応はない。
(いなけりゃそれでいい。いたとしても……黙って寝かせてくれ)
そう思いながら、重たくなった頭をふらつかせつつ、小田はゆっくりと部屋の中へ足を踏み入れようとした。
その時だったーー
小田は、思わず足を止めた。
廊下に微かに響く――妙な音。
ぱちゅん、ぱちゅん。
耳を澄まさなくても聞こえるほど、はっきりとした湿った音。
肉が打ち合わされるような、規則的なリズム。
息づかいのような、空気の揺れまではまだ届かない。
だが、間違いなく――誰かがいる。
(……ん?)
足を止めたまま、眉を寄せる。
さっきまで「寝ているだろう」と判断して進もうとしていたその先。
その扉の向こうから、確かにその音は響いていた。
ぱちゅん……ぱちゅん……くちゅ、くちゅ……。
いやに生々しい。
湿り気を帯びて、下腹にじわりと伝わるような、淫らな残響。
(……まさか)
小田の表情に、わずかな緊張が走る。
ナズの部屋。
思い出した扉の飾り。
まさしくそこから、その音は漏れていた。
ぱちゅ、ぱちゅっ、くちゅ……。
音は止まらない。
むしろ徐々にリズムを速め、どこか獣じみた熱を帯びていく。
小田は、息を呑んだ。
このまま立ち去るべきか。
それとも、音の主がナズかどうかを――
この場で確認しておくべきか。
頭の中で選択肢が浮かび、すぐに消える。
そしてーーー
⸻
自身の好奇心に抗えなかった小田は、扉の隙間へと、そっと視線を滑らせた。
わずかな開き――その光景に、小田の目がぴたりと止まる。
空気に漂う湿った匂いと、断続的に響く水音、それに混ざる、か細く濁った声――
嫌でも察せられた『行為』の正体を、小田の目が捉えていた。
そこには、膝上にナズを抱えた、褐色のドラゴニュートの女がいた。
でかい身長と、艶やかな褐色の肌。
豊満な乳房が揺れ、その女の腿に挟まるように座っているのは、あのナズだった。
彼は女の上に跨り、雄の性器を挿れたまま、おずおずと、申し訳なさそうに腰と尻を揺らしていた。
「んぅ……っ、あ、あの……その…奉仕は、もう……終わり、では……?」
声はかすれ、涙で濡れ、だがどこか、断ることを許されていない者の口ぶりだった。
褐色の女は――
その訴えを聞いていたのかどうかも怪しかった。
「ふぃ〜……♡おい、もっと腰振れよ」
呑気な声だった。
疲労も、哀願も、完全に無視するような、余裕と傲慢さの混ざった声音。
それどころか、女は――
べちんッ!
ナズの尻を、平手で打ちつけた。
震えた尻肉が跳ね、揺れる。
そのまま、掌で両の尻をわし掴みにし、
「ぐにゅっ」と音がするほど、乱雑に揉みしだいた。
「んひっ……ぁ、くぅ……っ!」
ナズの声が割れる。
だが、腰は止めない。止められない。
性器はまだ挿入されたままで、女の膣がじっとりと締めつけていた。
「…あ〜いいぞぉその調子ぃ……♡」
女の指がナズの尻穴を撫でながら、口角が吊り上がる。
ナズは、声も出せず、ただ潤んだ目で女の顔を見上げ、必死に小刻みに腰を動かしていた。
小田は、言葉を失っていた。
覗いてはいけないものを、覗いてしまったはずなのに――
目が、どうしても離れなかった。
肉体の交わり。
だが、それは交わりではない。
奉仕。
屈服。
嗜虐的な悦楽の道具としての、雄の運命。
にちゅっ、ぬちゅ……っ
湿った粘膜音が、ゆっくりと断続的に室内に響く。
ナズの腰は確かに動いていた――が、その動きはどこかぎこちなく、震えが混じっていた。
疲労か、羞恥か、それとも、恐怖。
それに気づいたのか、褐色のドラゴニュートの女は眉をひそめて声を低くした。
「……おい、なにチンタラやってんだよ……」
次の瞬間――
べちんッ!
鋭い音と共に、ナズの尻に赤い手形が新たに刻まれる。
小さな悲鳴と共に、彼の身体が跳ねた。
「ひぃっ……!」
しかし女は容赦しない。
手を滑らせるようにして胸元へと伸ばし――
その乳房を、無造作に、ぐいと引っ張り上げた。
「んぁっ……っ、いたぃ……っ」
乳首が伸び、引かれた肉が張り詰め、
その痛みに喉が震える。
「激しく動けって言ってんだよ♡」
さらにもう一度、
べちんッ…びちん
左右の尻を交互に打ちつける。
そのたびに、尻肉が揺れ、赤く熱を帯びた掌形がくっきりと浮かび上がる。
そして――
ナズの雌穴から、「ぷしゅぅッ」と糸を引く透明な愛液が音を立てて溢れた。
刺激に、あるいは羞恥に、身体は正直に反応してしまっていた。
それを見た女は、満足げに鼻を鳴らす。
「うひょ〜……♡さっすが、カザラ様が『厳選』してるだけあるなぁ……」
掌で尻肉をつねるように揉みながら、雌穴を指先で撫であげる。
「この硬さ、この味……マジでたまんねえわ♡なぁ?雄のくせして、こんなに感じてんの、恥ずかしくねえのか?」
ナズは答えられない。
ただ、命じられるままに腰を動かし続ける。
商品として、雄として。
快楽と羞恥に犯されながら。
小田は――扉の向こうで、息を呑みながら、その地獄のような光景に、身動きひとつ取れなかった。
褐色の女の膝上で、ナズの細い腰が懸命に揺れていた。
自身の性器を膣に挿れたまま、ぎこちなく、だが確かに奉仕を続ける。
額には汗、喉には押し殺した声、そしてその腰下――濡れそぼった雌穴と、赤く腫れた尻が晒されたまま、曝されていた。
「んふふ……♡じゃ、こっちはどうかなぁ……?」
女の指が、背後から滑り込むように伸びる。
ぐちゅ、ぐちゅっ――
濡れた音が一気に増した。
一本、二本……雌穴と尻穴に、指が乱雑に押し込まれる。
「やっ……ぁあ……っ!」
ナズの声が震える。
抵抗する間もなく、ぐちゅぐちゅと掻き回され、粘膜が擦れる感覚が、身体の奥で火花のように弾けた。
「お♡……どっちも緩くなってきたなあ、ほら♡」
そして――
女の指が、尻穴の中でぐいと開かれる。
「ひぃぃっ……やっ……やだ……っ!」
肛門が、指の圧で無理やり押し広げられていく。
敏感な肉が裂けるように悲鳴をあげ、ナズは涙を滲ませながら首を振った。
「や、やだ……! あなひろげないでぇッ!!」
叫ぶように訴えるその声に――
女の返答は冷たく、怒気に満ちていた。
「……うるせえッ!!犬っころッ!!!」
怒鳴り声とともに、前方から抱きしめるようにして身を乗り出し――
ナズの片乳を、そのまま牙を剥いて噛みついた。
がぶッ!!
「ぎゃぃいぁッ……っ!!」
突き立つ激痛に、ナズの背が跳ねる。
女の唇が、噛み跡に舌を這わせ、傷口から滲む血をぬるぬると啜るように舐め取る。
「ちゅる……んちゅぅ……この味、クセになるわぁ……♡」
尻穴を開かれたまま、性器を挿れたまま、乳を吸われながら――
ナズは、もう逃げることすらできなかった。
脚は震え、呼吸は浅く、身体中の穴という穴が、侵され、味わわれ、所有されていた。
それは奉仕ではない。
もはや完全な陵辱だった。
「小田の野郎が、なかなか俺のところに来ねぇからよ――ずっとイラついてたんだわ」
女は、ナズの髪を掴むようにして引き寄せ、耳元でねっとりと吐息を吹きかけながら呟いた。
その声音は怒りと抑圧された欲望が入り混じった声だった。
「でもよ、カザラ様が『こいつは好きにしていい』って言ってくれてよぉ……ほんっっっと、助かったぜぇ♡」
ナズの目が、涙に滲んで揺れる。
微かに首を振ろうとしたが、それよりも先に――
「ぅぅう……」
ひときわ細い嗚咽が喉から漏れた。
そして、びくりと身体が震え、膝の上で揺れていた腰の動きが止まる。
それを見た女は、口元を吊り上げてにやりと笑った。
「お?…もしかして、出そうなんじゃねぇの?♡」
そう言いながら、女は下腹に力を入れた。
膣が、ぎゅうぅうっと締め上げる。
ナズの雄器が逃げ場を失い、柔肉に搾られるように締めつけられた。
「んひっ……っあああ……っ♡」
そこに重ねて――
女の大きな手が、ナズの柔らかい尻を掴み、ぐい、と下に引き寄せるようにして押し込んだ。
ぬちゅうっ、と淫猥な音が響く。
ナズの性器が、女の膣奥まで押し込まれる感覚が全身を貫いた。
「ひゃあぁあっ……っ!」
それは突き上げではなかった。
埋没――沈み込まされる奉仕の極みだった。
「そうそう♡いい声で泣くじゃねえか劣等種♡」
女は唇を寄せ、舌を這わせながら、腰を小刻みに揺らし、さらに膣を締めつけ、ナズの身体から、最後の一滴まで搾り取ろうとする。
ナズは声も出せず、目を見開いたまま、身体全体を痙攣させていた。
⸻
部屋に響く水音。それは収まりを知らずに大きくなっていた。
「で、出ちゃい……ま、す……っ、でちゃいますから、指……ぬいて、くださいっ……!」
ナズの声は、涙と嗚咽に濡れていた。
腰は跳ね、脚が震え、雄の性器は限界まで脈打っている。
喉の奥からせり上がる精の波を、必死に押しとどめようとしていた。
だが――
「……へぇ、また文句つけやがるのか?」
褐色の女は冷たく嗤い、ナズの尻に挿れていた指を、抜くどころか、さらにもう一本、ねじ込んだ。
ぬちゅっ……くちゅっ……ぬぼぉ……♡
「ひぎゅぅ……!」
尻穴がぐじゅぐじゅと掻き回され、
腸の奥が押される感覚に、ナズは小さく悲鳴をあげる。
「劣等種族がッ……なに文句言ってんだぁ!?奉仕して射精するだけの肉袋が、口答えとか100年早えんだよ♡」
女の声には完全な嗜虐の熱が滲んでいた。
ナズが自我を残したままでいること自体、気に入らないと言わんばかりに。
そして――
女の手が、ナズの雌穴のすぐ上にぶら下がる、
小さく震える睾丸に伸びた。
「んでよ……コレがその『雄汁』の袋だろ?」
「や、やめ……やめてくださ……っ」
返事を待たず、褐色の女は――
ぎゅっぅう!
睾丸を、もぎ取るような勢いで握り締めた。
「うぎゅぅううっっ!!」
悲鳴が、肉の奥から爆ぜる。
射精寸前の敏感な袋に加えられた圧迫が、痛覚と快楽の境界を崩壊させ、ナズの意識を白く染め上げた。
ぶるぶると脚が痙攣し、身体が勝手に跳ね――
びゅるっ…びゅっ、びゅるるるっ!
射精。
ナズの肉棒が、腫れ上がったまま、精を膣奥へと吐き出す。
白濁が、女の中で熱く広がり、溢れ出る。
その間も――
指は尻穴をかき回し続け、睾丸はなおも掌の中で握られ、ナズの全身は、快楽と恐怖の最深に沈められていた。
「おぉぅ……♡たまんねえ〜……っ♡」
膣内に熱く広がる雄汁の感触をじっくりと堪能しながら、褐色の女は、半ば脱力して肩で息をするナズの頭を乱雑に掴んだ。
「なあ……惚けてねえで、さっさとキスしろや。『ご主人様』に精をぶちまけた後のお礼ってヤツを、よ?」
ナズは震えながら、小さく舌を出した。
それはもはや拒絶でも従順でもない――ただ、命令に従う“肉体”としての反応だった。
しかし――女は満足しなかった。
「ちっせぇ舌だな…」
そう呟いた次の瞬間、女は自らの舌を、ぐいと強引にナズの口内へ押し込んだ。
んちゅぅぅぅ……れろ、れろれろっ♡
舌と舌が粘液で絡まり、ぐちゅぐちゅと湿った音が喉の奥で響く。
ナズの舌が翻弄され、唇の端から唾液が垂れ、女はその味をたっぷりと堪能しながら、鼻を鳴らした。
「んふっ……犬のくせえに……なぁんだ、唾液うめえじゃねえか♡」
舌を這わせるたび、ナズの喉がびくびくと痙攣する。
呼吸すらままならないまま、強制的に味を交わされる――
それはキスなどではなかった。
服従の確認行為、嗜虐の延長だった。
そして――
女のもう片方の手は、すでに動いていた。
汗と唾液と血に濡れたナズの乳房に指を這わせ、柔らかくも傷ついたその肉を、掌でぐにゅ、ぐにゅと捏ねる。
「んっ、あっ……んぅ……」
唇を塞がれたまま、乳を揉まれ、体液の粘つきに全身を支配される。
女は吸い上げながら、再び笑う。
「おい、今度は俺の乳も舐めろよ。お前、もらうばっかじゃなくて、ちゃんと礼もしろ。」
褐色の女が再びナズの頭を掴み、ぐいと顔をでかい胸に引き寄せる。その眼差しは獲物を試す支配者そのものだった。
ナズは、かすかに震えながら、小さく頷く。
口を近づけるのも恐る恐る、
まるで毒を含んだ果実に舌を伸ばすかのように――
女の乳首に舌先を、ちろりと当てた。
んちゅ……っ、ちゅ、ちゅっ……
ぎこちない。
練度も、情熱もない。
それでも、命じられた通り、ナズは舌を這わせ、唇を当て、乳首を吸い上げた。
「あ〜そうそう……吸え♡もっとな♡」
女は快感に肩を震わせ、腰を軽く揺らす。
ナズの唇の感触に、乳首が次第に硬く勃ち上がり、
肌が粟立つようにざわめく。
ちゅぅぅっ……れろ……
「んぁ♡ああ、いいぞ……」
目尻を蕩けさせた女は、満足げにナズの髪を撫で――
その直後、掌を振りかぶって、勢いよく尻を叩いた。
びちんッ
「んひっ……ッ!」
湿った音と共に、ナズの雌穴がきゅうっと締まり、そこから、ぴちゃりと愛液が弾けて飛ぶ。
女はそれを見て、また笑った。
「ちぇ……お前らって、一日二回しか出せねぇのかよ。まあ、いいか……」
ナズの髪を撫でながら、唾液の糸を引く自分の乳首を見下ろす。
「……さぁて――ケツ穴舐めるかぁ♡」
その声には、確信と興奮と、残酷な慈しみが混ざっていた。
女はナズの頭を乱暴に放し、指をぱちんと鳴らす。
「後ろ向けよ」
命令。
ナズは反射的に動き、四つん這いに姿勢を変える。
その瞬間――
べちんッ!
再び尻が叩かれる。
腫れた尻肉が跳ね、雌穴がぬちゅりと揺れて愛液を吐き出す。
「ほら、見ろよ。叩くだけでこんなに汁飛ばしてんじゃねえか♡」
愛液は床に飛び散り、脚の付け根を伝って滴る。
その声音は、完全なる肉体支配者の声だった。
ナズの身体は――快楽と羞恥、そして命令に、無言で、震えながら従っていた。
――その時だった。
女に命じられるまま四つん這いになったナズの顔が、ふいに扉の隙間のほうを向いた。
そして、小田と――目が合った。
ナズの瞳が、一瞬だけ、大きく見開かれる。
熱に潤み、赤く染まった双眸が、扉の隙間の闇の中に潜む小田の姿を、確かに捉えていた。
その顔は、まるで――
呆然としたようだった。
目が震え、口が開きかけ、けれど声にならず、その代わりに、ふるふると小さく首を振る。
『見ないで』
――その言葉が、声にならぬまま伝わってくる。
ナズの涙が一滴、頬を伝い、膝下の床に落ちた。
羞恥。
屈辱。
こんな姿を、小田にだけは見られたくなかった。
でも、見られてしまった。
そして、見られながらも、逆らえず、逃げられず、女の命令に、身体は従い続けている。
だが――
褐色の女は、その視線のやりとりには一切気づいていなかった。
彼女の視線はナズの尻にしか向いていない。
「ぷりっぷりだなぁ、ほんっと……♡」
そして次の瞬間、女は――
ナズの、腫れて汗に濡れた柔肉に――
ガブッ!!
牙をむき出しにして、噛みついた。
「ひぃぁあああぁあっ……!!」
ナズの喉から悲鳴が弾け、尻肉がぶるりと跳ねる。
噛み跡が浮かび、血が滲む。
小田は――
目が離せなかった。
罪悪感と衝撃と、どうしようもない混乱が、心臓を締め付けていた。
⸻
ナズの涙と視線が、焼き鏝のように、小田の胸に突き刺さっていた。
それでも、彼はまだ――扉の向こうから、一歩も動けずにいた。
(……俺は……)
(扉の前で、ただ――見てることしか、できないのか?)
その問いは、思考ではなかった。
脳ではなく、胸の奥、もっと深いところでひりつくように浮かび上がる。
自衛官として、人間として、男として。
今この光景を前にして、何もできずに立ち尽くす自分を、小田は、見つめるしかなかった。
視線の先。
室内、灯りの下。
ナズは、四つん這いになっていた。
乳と尻を晒し、すでに涙と汗と体液に濡れ、それでも、命令に従うように脚を開いていた。
そして――
女の顔が、ナズの尻へと這い寄っている。
「ぺろ、ちゅる……ぬちゅっ……♡」
粘ついた音とともに、舌がナズの尻穴の奥へとぬめり込んでいた。
「ひぅ……っ、や……くぅ……ッ」
ナズの喉が震え、身体がびくびくと跳ねる。
そこへ――女の手が伸びた。
太ももをなぞり、腹を撫で、乳房へと到達すると、乱暴に引き寄せるように掴む。
ぐにゅっぅ
「んあっ……っ!」
揉まれ、引かれ、押し潰され、
その一瞬後――
べちんッ!
掌が乳房を平手で横打ちした。
「ああぁっ……!」
顔を歪め、涙を浮かべながら、それでもナズは身体を引こうとしない。
引けないのだ。
命じられた姿勢を、崩すことさえ、できないのだ。
(ナズ……)
小田は、視線を逸らせなかった。
息が詰まる。
喉が渇く。
胸が痛む。
怒り、羞恥、自己嫌悪、そのどれともつかないものが、小田の内側を焼いていく。
(……俺は、何をしてる?)
目の前で、彼が四つん這いで蹂躙され、泣きながら奉仕させられているというのに――
(本当に、ただ見てることしか、できないのか……?)
小田の足が、少しだけ震えた。
手は、拳を作ったまま、まだ動けずにいた。
その間にもねっとりとした舌が、ナズの尻穴を這い、睾丸をくすぐるように舐め回す。
褐色の女が、不意に口を開いた。
「……金玉、噛んじまうかなぁ?」
その声は、甘えるような調子で、それでいて冷たく残酷な温度を帯びていた。
ナズの喉が詰まる。身体がびく、と跳ねる。
「お……ねがい、です……そこだけは……そこだけはぁ……噛まないでくださぁ……い……」
かすれた声が、床に濡れるように落ちた。
それは、自尊心を捨てた懇願だった。
人としての誇りを守るより、肉体の破壊を恐れる、弱者の本能。
女は、唇の端を吊り上げた。嗜虐の匂いが濃くなる。
「……まぁ、これで『ここ』壊れちまったら、お前、用済みだもんなぁ」
指が睾丸を挟むように掴み、ふに、と押し込んでくる。
ナズはひくひくと腰を引き、泣きながら、声を重ねる。
「おねがいします……お願いしまあす……!」
泣き声はもう、言葉の形すら保てない。
「だったらよぉ――立たせろよ」
女はぐっと顔を寄せ、耳元で囁く。
「それか俺の尻穴、舐めるくらいしろや……なぁ?」
ナズの喉が潰れたような音を出し、がくがくと頭を垂れる。
服従と屈辱の湿った空気が、室内の隅々まで滲んでいた。
「…はい」
返事をしたナズの指が、床を這うようにずるずると動いた。
関節はこわばり、肩は小刻みに震えている。
だが、それでも彼は――命じられたとおりに。
おずおずと、膝と肘をついたまま、顔を女の臀部へと近づけていく。
その顔は、恐怖と屈辱に塗れていた。
鼻先に、雌のむわりとした熱と匂いがかかる。
それは、嗅いだことのない――暴力的なまでに生々しい、性そのものの臭気だった。
「そうそう、よぉーし♡」
女は腰をくねらせ、尻をナズの顔に擦りつけた。
しっとりと汗ばんだ尻の割れ目が、ナズの鼻梁に食い込む。
「しっかり舐めろよぉ〜……♡」
甘えた声。だが、その響きの奥にあるのは、支配と愉悦の混ざった嗜虐だった。
ナズの唇が震える。
しかし、もう抵抗はなかった。
ぺろ……ちゅる……じゅるっ、る、ぬちゅぅ……
舌が這う。
恥骨を、割れ目の端を、肛門の縁をなぞり、そこから内側へと潜り込む。
ぐっちゅ……じゅぶっ……んちゅるぅ……
湿った舌音が空気を撫でるように響く。
まるで、床石の上に粘液が滴るような、低くいやらしい水音。
「うひょッ〜♡」
女の身体が跳ねた。
興奮に震えた声が、思わず漏れたらしい。
「はっ、思ってたよりずっと……うまいじゃん、お前♡」
尻の奥をねぶられながら、女は笑う。
一方でナズの顔は、雌の尻に押し潰されて、ぬらぬらと濡れながら埋もれていた。
鼻で息をすれば、粘液の匂い。
舌を動かせば、肉のひだの味。
もう、何もかもが女のものだった。
ナズの目から、涙がぽたぽたと落ちていた。
しかし舌は止められない。止めれば、睾丸を潰される。
動きを止めれば乳と尻を裂かれる。
その恐怖と羞恥が、彼を這わせ、舐めさせ、女の尻穴へと舌を深く差し入れさせるのだった。
れろ…じゅるる、ぴちゃぁ
舌がねっとりと尻の奥を這っていた、その瞬間だった。
ぷぅぅぅう……
空気を裂いた音が、湿った震えを伴って響いた。
尻の割れ目の奥――女の肛門から、鈍く、湿り気を帯びた放屁が漏れたのだ。
顔を埋めていたナズの鼻先へ、熱と匂いが直撃する。
目を見開き、息を詰まらせた瞬間――
「んぶぅッ!!」
ナズは思わず嗚咽のような音を漏らし、顔をそむけようとした。
だが、すぐに後頭部を鷲掴みにされ、ぐい、と女の尻に押しつけられる。
「……あッ、悪ぃ悪ぃ、ついな♡けどよぉ――てめえら、どうせ便器みてぇなもんだろ?」
女の声は愉悦に濡れていた。
嗜虐の蜜が滲み、支配の悦びに震えている。
「問題ねぇよな?ほら、吸えよ。舌で拭け。匂いも、熱も、ぜんぶ飲め。しっかり掃除しろや。」
ナズの目に、ぼたぼたと涙が溢れる。
喉が震え、口の奥で嗚咽がせり上がる。
それでも、頭は尻に押し潰されたまま、逃げられない。
「なあ――舐めるの、やめたら」
女の声が、ぐっと低くなった。
それは、感情ではなく殺意に近い温度だった。
「……殺すぞ?」
その言葉に込められたものは、もはや冗談ではなかった。
ナズの肩が震えた。
その口元が、絶望の中で、再び舌を伸ばしていく。
ぺろ……ぬちゅ、じゅりゅっ、ねちゃ……ぬる……
吐き気と涙をこらえながら、放屁の名残と粘液が混ざる女の尻をナズは再び、丁寧に、忠実に、舐め始めた。
それはもう、奉仕ではなかった。
完全な、屈服だった。
女は笑っていた。
支配の悦びに、腰を揺らしながら、
自分の尻でナズの命を握るその感覚を楽しんでいた。
「んふふ……あ〜♡」
尻を舐められながら、女は喉を鳴らして笑った。
その声は、熱に浮かされたようでありながら、明確に支配者のそれだった。
舐められているのに――彼女の顔には、快楽ではなく征服の悦びが浮かんでいた。
「早くチンポおったてねえと、金玉に……噛んじまうかもなぁ〜♡」
喉をくすぐるように囁きながら、女は尻をくねらせ、ナズの顔にさらに押しつける。
「ひゅぐっ……っ、く、くぅぅっ……」
ナズは涙と涎を垂らしながら、必死に尻穴を舐め続ける。
鼻孔に充満する雌の肉の匂い。
肛門の皺、そこにこびりついた汗と体液の味。
すべてを拒絶したくても、身体はそれを受け入れ、舌先がいやらしく奥を探っていた。
ぺろ……じゅる、ぬりゅっ、ちゅるるぅ……
――生きたい。
ナズの意識には、もはやそれしか残っていなかった。
殺される恐怖。
身体を壊される痛み。
それを避けるには、女の欲望を満たすしかない。
彼は尻の奥に舌を差し込み、ねぶるように這わせた。
舌先で円を描き、唾液を惜しまずにまぶし、ひとときも止めず、喉の奥から卑猥な音を立てて女の肛門を舐め続けた。
それでも――女は飽き足らなかった。
「……おい、そこだけじゃなくて……前の穴も舐めろや」
その一言で、ナズの身体が一瞬凍った。
だが、返事は、遅れて出る。
「……は、ぃ……ぃぃ……」
かすれた声で応じ、ナズは口元を引き剥がす。
女の尻の割れ目をなぞるように舌を移動させ、股の間――しっとりと湿った肉の隙間へと顔を差し入れた。
そこは、体液と汗が混ざり合い、濃厚に発酵したような雌の匂いが溜まる場所だった。
「ふふ……そうそう、そこでいいんだよ……♡」
女は足を開き、ナズの顔が陰裂に深く押し潰されるように腰を沈めていく。
「もっとだ。ちゅうちゅう吸え。お前の舌で、奥の味まで吸い出せよ……そうしないと、あたし、満足できねぇんだわ」
ナズの舌が、震えながら、膣の入口へと這う。
ぬちゅっ……ちゅるる……じゅぷ、じゅりゅう……
媚びるように、願うように、雌を満足させるためだけに、彼は舐め続けた。
もう、誰の命令でもなかった。
これは本能だった。
生きるために、赦しを請うために、ナズは舌を使い、唇を使い、喉を濡らしながら奉仕を続ける。
一方、女の顔は――支配者の悦びで蕩けていた。
「ははっ……まあまあ使える舌じゃねぇか♡……ふふっ、どうする?今日からうちの『便所係』にしてやろうかぁ?」
その言葉は、冗談ではなかった。
この雌は本気で、ナズを「便器」として扱うつもりだ。
その事実が、空気の奥に濃密な重みを与えていた。
⸻
視線の先には、ナズの背中だけが見えた。
顔も、表情も、声の震えさえ、今は届かない。
(……クズ野郎がッ)
小田の内心で、静かに軋む歯が、今にも折れそうなほど力を込めて噛み締められていた。
拳は既に真っ白に変色し、爪が掌に食い込み、皮膚を破りかけている。
それでも目を逸らせなかった。
ナズが――
尻穴を。
雌穴を。
泣きながら、すすりながら、赦しを乞うように、奴隷のように舐めている
ぬちゅ、じゅるっ、くちゅぅ……
湿った音が、床石を這うように響いていた。
その音が、小田の鼓膜をじくじくと刺す。
ナズの顔は、女の豊かな尻の奥に埋もれていた。
鼻までねぶられるように押し潰され、呼吸もろくにできぬまま、口を動かし、舌を這わせ続けている。
(やめろ……そんなこと、するな……)
心の中で叫んでも、声にはならなかった。
視線の先――
褐色の肌をしたドラゴニュートの女は、満足げに尻を揺らし、笑っていた。
そして、小田の目は――ナズの背中に刻まれた“痕”を、改めて見る。
豊かな乳房には、血が滲んでいた。
噛み跡だった。
鋭い牙が食い込んだような痕が、乳輪の端にまで走っていた。
皮膚は赤く腫れ、噛まれた形そのままに、血が滲んでおり、痛ましい痕がくっきりと残っている。
さらに、ナズの尻――
その柔らかそうな、雄としては異様なほどに丸く張った尻肉には、無数の『手形』があった。
赤く火照った掌の跡。
打たれ、叩かれ、押しつけられた痕跡。
大きさも形も、さまざまだ。
手の跡が、幾度となく叩かれたことを物語っていた。
まるで尻が、見せ物として揉まれ、殴られ、陵辱の標的として扱われた証そのものだった。
肉は、もう軽く腫れていた。
小刻みに痙攣しながら、それでもナズは舌を止めようとしない。
女の手が彼の後頭部を包み、笑いながら押しつける。
「ほーら♡奥まで舌入れてこいよ、便器が♡」
甘えたような声の裏には、乾いた暴力と、心からの嘲笑がにじんでいた。
(……やめさせろ、止めろ、今すぐだ……)
そう思った。思ったのに。
(……何をしてる、小田……お前は……!)
足は、まだ動かない。
声も出せない。
だが、胸の内ではもう、爆発寸前だった。
ナズの姿が、小田の瞳に焼き付いて離れなかった。
あの背中の傷。
乳に食い込む噛み痕。
無数の手形に染まった尻。
(……こんなもん、赦せるわけがねぇだろ)
次の瞬間、小田の心が――音を立てて動いた。
⸻
女の声はなおも響いていた。
「お?ちょっと立ってきたんじゃねえか?♡」
ナズの背中がびくりと痙攣し、傷の上に血が滲む。
舐め続ける音がなおも響く中、小田の心はすでに限界を迎えていた。
(この女……油断してる)
そう確かに思った。
ナズの頭を尻に押し付け、喘ぎながら腰を揺らしているその褐色の女。
快楽に呑まれ、征服の陶酔に浸り、背後――いや、この扉の向こうに自分が立っているとは思っていない。
ならば。
(今なら――)
女は油断している。
あの嗜虐の笑みも、揺れる腰も、自信に満ちきっているからこそだ。
一歩踏み込めば、数秒で間合いを詰められる。
首か、背骨か、気管か――
殺す気なら、訓練どおりの動きで沈められるはずだった。
(……だが)
理性が、冷たい声で問いかけてくる。
(その次は、どうする?)
制圧できたとして――その場で終わらない。
屋敷には見張りがいる。
まだ屋敷の構造も全て把握できていない。
加えて、武器は持っていない。
そしてもう一つ、厄介な問題があった。
(……体格差)
自分は175センチ。
しかし、あのドラゴニュートの女は――少なくとも180センチを超えている。
しかも体格はしっかりしており、筋肉質で、種族的に人間よりも筋力が高い。
一対一でも、力では劣る。
ましてや、この場で取り押さえても、持久戦になれば確実に不利だ。
(……抑え込めるか? 本当に)
一瞬の勝機はある。
だが、それを逃せば――次の瞬間には逆に押し倒され、抑えられ、拘束される。
小田の怒りに支配された視界に、理性が冷水を流し込む。
(俺は……)
そんな状況だった。
ナズを救えば、自分もただでは済まない。
この女を制圧したとしても――
すぐに、次の暴力が降ってくる。
だが。
それでも。
(……俺は、自衛官だ)
この言葉が、小田の中に、鋼のように残っていた。
辱められ、蹂躙され、精神まで摩耗されてきた。
だが、それでも――
この信条だけは、手放すことができなかった。
「国民の生命と財産を守る」
「仲間を見捨てない」
「正義を失わない」
どれも、口先だけではない。
小田は、その誓いを胸に、この異世界に足を踏み入れた。
だから。
(この状況が、どんなに絶望的でも……)
(目の前で『人』があんな目に遭ってるのに――背中を向けるなんて、それこそ『死』だ)
小田の呼吸が、静かに整っていく。
怒りの中に、冷たい判断が宿る。
暴発ではなく、意志としての制圧。
命を賭しても、信条を通すという覚悟。
右足が、わずかに重心を変えた。
それは、攻撃姿勢への第一歩だった。