※この作品はR-18です。

異界の性奴隷   作:Henon

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第十二話 敗北

 

手が、扉に触れた。

冷たい金属の取っ手。夜気に冷えたその感触が、掌にぴたりと吸い付く。

 

扉の向こうに広がっている光景は、すでに小田の脳裏に焼き付いていた。

嗅覚が告げる。聴覚が揺さぶる。――心が、逃げ場を失っていた。

 

それでも。

 

(今、止まったら……)

 

足の裏に力がこもる。肩がわずかに震える。

怒りでも恐怖でもない。――それは、「踏み込むこと」の覚悟の震えだった。

 

視線を落とす。手が、取っ手をわずかに押し下げる。

 

空気が、変わった。

 

(……やるしかない)

 

身体の奥から湧き上がる衝動を、制御することはもうできなかった。

男として、人間として――それ以前に、ナズの、人の呻きを、これ以上見過ごす理由など、どこにもなかった。

 

息を吸う。深く、ゆっくりと。

その呼吸の奥で、兵士としての自分が、自分自身に命令を発した。

 

「…よし」

 

扉に手をかけた、その刹那だった。

 

――「おいおい……」

 

耳元で、女の声が囁いた。

冷たい爪先が首筋に触れたかのような、湿った空気をまとった低い声音。

次いで、右肩に「何か」が触れた。

 

ぐっ、と。

 

「友のお楽しみを……邪魔しちゃいけないなぁ」

 

その言葉がまだ耳に届ききらぬうちに――身体が、宙に浮いていた。

 

「ッ……!」

 

肩ごと軸を奪われた小田の体は、抗う暇もなく浮かび、まるで何かに“投げられた”のだと気づいた時には、すでに遅かった。

 

空気を裂く感触。視界が反転。

そして――

 

「…ッがあ!」

 

背中から、石畳に叩きつけられた。

鋭い衝撃。肺の中の空気が一瞬で押し出される。

 

だが、小田は即座に膝を立てた。

背筋に鈍い痺れを感じながらも、両手をつき、身体を起こす。

――訓練で鍛え上げた反応だった。

 

咳が止まらない。

だが、それ以上に「気配」が近い。

すぐ前に、確かに――“敵”がいる。

 

小田は顔を上げる。

 

そして、目の前に立つ「それ」を見て――一瞬、息を呑んだ。

 

ドラゴニュートの女。

 

やはりでかい。

身長は二メートル近くある。

 

だが、それ以上に圧倒されるのは――その肉体の『密度』だった。

 

筋肉質。

それでいて、異様なほど豊満。

腹は引き締まり、腕や脚にはしなやかな筋が走る。

だが胸は、人間の女性では到底ありえないほどに張り出していた。

 

まるで熟れきった果実のような膨らみ。

むせ返るような肉の存在感。

形を保ちながらも、揺れそうな柔らかさが伝わってくる。

 

その下、腰回りの肉付きも異常だった。

むっちりとした腰、そして――尻。

 

全身が『戦う女』であり、同時に『魅惑な肉体』だった。

 

鱗が所々に浮かび、首元には薄く光る皮膜のような装飾。

それでいて唇は艶やかに濡れ、牙の奥からは甘ったるい吐息すら感じられる。

 

にたり、と。

女は笑った。

 

「へぇ……下等種族の割に丈夫じゃないか。」

 

その目に宿るのは、獲物を値踏みする視線。

だが、いやらしさと残虐さが、等量で混じっていた。

 

「…ッち」

 

小田は舌打ちした。

まずい、と一瞬で悟る。

肩を掴まれ、視線を逸らした刹那、足元が浮き、背中から石床に叩きつけられた。衝撃に肺が一度潰れ、冷たい空気が喉を焼いた。

 

起き上がりながら、小田は唇を噛みしめる。

突入してナズを助け出す。――その一点に賭けていた行動が、結果として“扉を開ける前”に阻止されたという事実が、喉元に重く突き刺さる。

 

(……まさか速攻でバレるとはな)

 

本末転倒。

ナズを救い出そうとした自分は、それを止めることもなく、廊下に投げ出されている。

 

「ん?よく見ると……犬や鼠とは違うねぇ」

 

ぬるりと絡みつくような女の声が、頭上から降りかかる。

 

「しかも……クンクン……んふふ。君、雄じゃぁないかぁ……♡」

 

そう呟いた女は、見下ろすようにしゃがみ込んでくる。

 

大きな影。

その女――ドラゴニュートの雌は、異様なまでにグラマラスだった。

分厚い腿、艶やかに引き締まった腹部、そして誇示するように張り出した豊満な胸と、肉感のある尻が身体全体の重心をいやらしく揺らしている。

 

――女の鼻先が、ピクピクと揺れる。

 

「ふーん……なるほど。匂いが……すごいね……」

 

舌先がちらりと見える。

媚びた色ではなく、獲物を味わうような目だ。

 

「私はね、ただ……“しつけ”に来ただけなんだけど」

 

「しつけ……?」

 

小田の問いに、女は唇をゆがめ、陶然としたような目で囁いた。

 

「そう。なんでも商品共がね――勝手に欲情して、商品同士で交わったんだってさ」

 

「……」

 

「だから処罰。まあ……先にベニーラが“優しく”罰してる最中みたいだけど」

 

言いながら、女はくつくつと喉を鳴らして笑う。

 

「カザラ様が持ってる雄って、上物でしょ?体格も、匂いもすごいからね」

 

女は笑いながら、腰を揺らすようにして立ち上がる。

その身体の曲線は明らかに誇示的であり、豊かすぎる胸と尻が、冷たい廊下の灯りを柔らかく歪める。

 

「……そんな雄を味わえるなんてさ――めったにないよ。ほんっと運がいい……私達は、ね」

 

女の視線が細くなる。

湿った睫毛の奥から覗く瞳には、狩人の光が宿っていた。

 

「ん?どうしたのかな?」

 

小田はじっと女を見据えたまま、わずかに眉をひそめ、唇の端を引きつらせた。

そして、低く、静かな声で呟くように言った。

 

「……お前には…あれが『優しそう』に見えたのか?」

 

その言葉には怒気も嘲りもなかった。ただ、信じがたいものを目にした者の――乾いた驚きと、諦念が滲んでいた。

 

――くつ、くつ。

 

返ってきたのは、喉の奥でくぐもるように漏れた女の笑い声だった。

それは、あまりにも冷たく、そして楽しげだった。

 

「ふふふっ……あの程度で厳しいって思ってるのかな?あれでもすごく優しいじゃないか。」

 

声が一瞬だけ、鋭さを帯びる。

女の爪先が廊下の石をコツン、と叩き、光を反射する鱗がわずかに硬質な音を立てた。

 

「殺されてないだけ、ありがたいと思わなきゃね…あの子なんて、『奴隷』で、『劣等種』なのに……まだ、生きて、奉仕する事もできるんだから。」

 

にやりと、唇が歪む。

そして――視線が、小田の全身をゆっくりと舐めるように這い回る。

 

「それにしても――君は、誰かなぁ?顔、見覚えがないんだけど?」

 

女の声が、ねっとりと、甘く落ちる。

 

「就寝時間も……とっくに過ぎてるし?」

 

一歩、近づいてくる。

石の上を滑るような足取り。

乳房が重たげに揺れ、尻の肉が艶かしく波打つ。

 

「ねぇ、君も――『違反者』かなぁ?なら……『しつけ』は、平等に行き届かせないとねぇ♡」

 

その言葉は、甘く微笑みながら――確実に、小田の自由を奪う“判決”だった。

 

「…」

 

小田は黙っていた。

 

口を開くでもなく、拳を振るうでもなく――ただ、睨みつけていた。

 

凍てつくような無言の視線。それは怒りを押し殺しながら、全身から滲み出る殺意を抑え込んでいる者のそれだった。

 

だが、そんな視線を向けられてもなお、女は眉ひとつ動かさず、むしろ楽しげに小田の顔を覗き込んできた。

 

「てかさ――君も、混ざりたかったんじゃないの?♡」

 

声の主は、くす、と喉の奥で笑った。

 

高く張った胸を揺らしながら、女は艶やかに首をかしげ、小田の顔を間近で覗き込む。艶やかというより、粘つくような雰囲気だった。まるで汗ばんだ肌に指先を這わせるような、鈍い熱と悪意がそこにあった。

 

小田は応えなかった。

 

だがその沈黙を、女は気にせずに言葉を続ける。唇の端を持ち上げ、じわじわと間合いを詰めながら――まるで逃げ場を潰すように――続けた。

 

「あんなに覗いてさ…いっそ入っちゃえば?今なら……犬と私達…どっちでも交尾できるし♡」

 

その言葉が皮膚に貼りつくようだった。ねっとりとした声と笑みと色香が混ざり合い、まるで毒のように小田の思考を曇らせる。

 

「……」

 

小田の目は、冷えきっていた。

 

しかしその無言すらも、女には“味”のひとつに思えるらしい。好物を前にした肉食獣のように、じっと彼の顔を見つめていた。

 

「そういえば……ナーシャも、他の商品と交尾してたんでしょ?カザラ様が言ってたよ?ふふ……なら、あの子も『しつけ』してあげなきゃね♡」

 

女の目は細められ、唇が濡れた舌に撫でられる。

 

「いつもは優しくしてあげてたんだけど……今回はちょっと、特別メニューかなぁ?乳首とか……ちょん、と取っちゃおうかな。あの子、母乳も出るしねぇ?乳搾りにはぴったりなんだよ♡」

 

それは、悪意と悦楽が混じった声色だった。

苦痛と羞恥を、特権階級の快楽として享受する者の、残酷で甘美な嗜虐の響き。

 

その言葉を聞いたとき、小田の中で何かが――音もなく、冷たく、決定的に――崩れた。

 

心の底からわきあがった怒りは、熱ではなく、むしろ氷のようだった。脳髄の中心を静かに締めつけるような、制御された殺意。

 

小田は、ゆっくりと視線を上げ、女の顔を真正面から睨み据えた。

 

「……どこまで腐ってやがる、てめえらは…」

 

声は低く、深く、喉の底から絞り出すように響いた。

女の目がわずかに見開かれる。

 

「ん?なに、怒ったの?」

 

まるで『怒り』という感情を理解していない者のように、女はのんびりと問い返してきた。

 

それを見た小田は、一歩後ろに引いた左足に重心を落とし、低く構える。

右の掌は前に出し、指先を開いたまま、呼吸を深く整えた。

わずかに膝を屈めたその姿勢――それは、自衛隊式近接格闘術の構えだった。

脱力と集中が同居する、実戦仕様の無駄を削ぎ落とした構え。

獲物ではない。兵士の目だった。

 

女の目が、わずかに細められる。

そして――

 

「……ぷっ……あははっ!」

 

喉の奥から漏れたのは、くぐもった嘲笑だった。

女はくすくすと肩を揺らしながら、口元を手で覆い、わざとらしく首を傾げる。

 

「なにそれ?雄が……戦士の真似事ぉ?ふふっ、可愛いなぁ……やめておいたほうがいいと思うけど?」

 

その声音には侮蔑も警戒もなかった。

ただの『玩具』を見る目だった。

 

小田の脳裏に、冷たい警鐘が鳴る。

 

(――油断している。今なら…)

 

確かに、女の意識はまだ「戦い」に向いていない。

一撃を入れる隙はある。

――だが。

 

小田の視線が、改めて女の全身を捉える。

 

(……それにしても、こいつらは……やはりでかい)

 

女の身長は小田より頭ひとつ分高い。おそらく190センチ近い。

魅惑な肉体に隠れてはいるが、全身が野生動物のように研ぎ澄まされていた。

 

(骨格も筋肉も、まるで猛獣だ……あんなのに組みつかれたら最後だ…)

 

今まさに、文字通りの「化け物」と向き合っている実感が、小田の背筋に冷たい汗を滲ませる。

 

それでも、構えは崩さなかった。

 

たとえ何が待っていようと――

この瞬間、退くという選択肢はなかった。

 

 

「まあ……どうせ『しつけ』するしね」

 

女はくすりと笑い、腰をわずかに揺らす。

 

「――抵抗するなら……ちょっとだけ、痛くするけど?」

 

「……」

 

小田は無言のまま、低く構えた。

軍隊式の戦闘姿勢――重心を落とし、相手の動きに即応できる間合いを保つ。

 

女の目が細くなる。

唇が釣り上がり、瞳の奥が妖しく光る。

 

「そっか――じゃあ、遊んであげるよ」

 

その瞬間――

 

ドンッ!!

 

まるで壁を叩き割るような勢いで、女が地面を蹴った。

 

「ッ――!」

 

視界が一気に埋まる。

巨体が、迫る。

まるで『弾丸』のようだった。

 

腰を沈め、両腕を広げたまま、掴みかかる動作――

 

(速い――だが、いけるッ!)

 

眼前に迫る巨体。その質量が生む圧力を、正面から受けるのではなく、流す。

 

小田は一瞬で踏み込み、掴みかかってきた女の右手首を両手で強く握った。

 

「ッ――?」

 

女の口から小さな息が漏れる。だがその反応すら、もう遅い。

 

小田の身体が沈む。

膝を滑り込ませるようにして女の懐に割り入れ、同時に右足を軸に背を滑らせる。

 

手首を捻り、肘の支点を極めたまま――その巨体を、ぐるりと自らの肩へと導く。

 

瞬間、視界の中に女の重心が乗った。

 

「――ッ!」

 

ずしりとした重量感が、背中から脚へと抜けていく。

しかし小田は迷わなかった。

 

「うぉおおッ!」

 

筋肉を軋ませ、背筋に力を込めて、全身をねじり上げるようにして放つ――

 

背負い投げ。

 

女の巨体が、まるで重力を忘れたかのように宙を舞った。

 

「な――ッ!?」

 

目を見開いたまま、女の身体がゆっくりと天井の明かりを横切り――

 

石床に叩きつけられた巨体が鈍い衝撃音を立てる。

埃が舞い、空気が震え、女の吐息がくぐもった音を漏らした。

 

そして小田は膝を締めつけるように巨躯の上へ喰らいつき、両腕で女の首を絞め上げた。

 

「っらァ!」

 

喉元に食い込む前腕、背後から押し込む左腕。

軍隊仕込みの絞め技――体重ごと、全力で落とし込む。

 

女の息が詰まる。

ぐっ、と喉が鳴り、瞳が見開かれた。

 

(いける……このまま落とせ――)

 

だが――

 

小田が両腕で首を締め上げるなか――

女の瞳が、ギラリと、血のような紅を宿す。

 

「……ッやってくれたなぁ……」

 

低く、喉奥で震える声。

 

「やってくれたなぁッ……クソ雄がああああッ!!」

 

怒声と同時に、女の両腕が小田の腕をつかむ。

 

その指先が、鋼のように固い。

いや、単純に「重い」。

骨にまで圧が響くような、異様な握力。

 

ギリ……ギギギッ……

 

指が食い込む。

そのまま、ねじり剝がすように、腕を引き離してくる。

 

「ぐ……ッ」

 

(……ッ!なんつーバカ力だ……!)

 

喉を締めているはずの女が、顔を紅潮させながら、歯を剥き出してこちらを睨んでくる。

目が血走っていた。

その双眸は、殺気と、獣じみた敵意に濁っている。

 

「調子に乗ってんじゃねえぞ、ブッ殺すぞこの畜生がぁッ!!」

 

「調子に……乗ってんのはテメェだ、ボケェッ!」

 

怒号と同時に、小田は体勢を崩されたまま、逆に腰を落とし、絞めの角度を変える。

脇を絞り、腕の締め付けをさらに深く――首へとねじ込む。

 

肘が喉奥に食い込み、気道を圧迫していく。

だが女は――

呻きながらも、なおも腕を振るい、力でその締め付けを引き剥がそうとしてくる。

 

ぎりぎりと締め付ける小田の両腕。

それに対して、女はまるで鉄骨をこじ開けるように、腕全体を使って抗ってくる。

 

「く……ッ、放せェェッ…ゴラァ…ッ!」

 

「放すかよッ……このまま、落ちろッ……!」

 

肉と骨が軋む音すら聞こえる気がした。

 

女の喉元には、うっすらと血管が浮き出ている。

それでも目は見開かれ、牙を剥き、明確な殺意がそこにあった。

 

――膠着。

 

床に押し倒したまま、馬乗りで締める小田。

その下で、地を這うように暴れ、腕力で押し返す女。

 

汗と呼気が絡み合い、空気がぬるく滞る。

 

その密室の中――

一瞬でも力の配分を誤れば、勝敗は即座に逆転する。

 

小田は歯を食いしばった。

 

(ここで……抑えきらなきゃ……終わるッ!)

 

 

小田は全体重をかけて締め続けていた。

しかし、その瞬間――何かが首元に巻きついた。

 

「ッ……が、あ……?」

 

ざらり、と鱗が首筋を這い、ぬめるように強く締まってくる。

 

(……尻尾!?)

 

気づいた時には遅かった。

女の長く分厚い尻尾が、小田の首に絡みつき、蛇のように絞り上げていた。

 

「ぐ、っ……!」

 

喉が潰れる。視界がぶれ、呼吸が削がれていく。

小田の締め技に対し、女は獣じみた本能で逆襲していた。

 

下から見上げる女の目が血走り、口角には笑みとも怒りともつかぬ歪んだ感情が浮かんでいた。

 

「……ッたく、雄のくせに、生意気なんだよッ……!」

 

締めつける力が増していく。

喉がひゅっと鳴り、酸素が奪われる。

 

「ぐ……ッ、くそが……ッ!」

 

喉を圧迫され、意識が揺らぐ中、小田は無我夢中で腕に力を込めた。

絡みつく尻尾――それに抗うには、もはや本能の暴力しかなかった。

 

「ッ、ぅおお……!」

 

そのまま、女の首に回した腕へ一層力をこめる。

同時に、もう片方の手が滑るように彼女の胸元に食い込んだ。

 

――ぎゅむっ……

 

柔らかく、それでいて異様な重量感。

戦士の肉体に似つかわしくないほど肥大した乳房が、小田の指の間で変形する。

彼女の服ごと、肉塊をわしづかみにして揉み潰すような動きだった。

 

「んゔぇ♡」

 

女が短く、しかし明確に甘い声を漏らした。

意識と快感の錯綜が、肉体の反応を混乱させる。

 

次の瞬間――

 

尻尾の締めつけが、わずかに緩んだ。

 

小田は、そのわずかな好機を逃さなかった。

むしろ、それを待っていたかのように、女の首へ手をかけ、ぐいと締め上げる。

白く艶めいた喉が軋み、気道が押し潰される感触が手のひらに伝わる。

 

「んぎゅうぅうぃっ……!ふゅ……ッ……」

 

喉奥から濁った音が漏れ、女の瞳がぐらついた。

全身が痙攣し、熱と脈動が小田の手の中で膨張する。

 

(早く落ちろ、早くッ…早くッ…!)

 

理性ではなく、生存本能が叫んでいた。

異常な状況。

異常な女。

異常な反応。

 

だからこそ、小田は叩きつけるように絞め続けた。

力の限り、圧を加え、肉を潰す感触に身を浸した。

 

やがて――

女は声を発さなくなった。

瞳が潤んだまま、焦点を失い、口元からは甘い息も漏れない。

 

その瞬間、彼女の股間から、ぬるりとした液体がこぼれ落ちた。

びちゃびちゃと、床を打つ音。

無様で、生々しく、そして確かな敗北の証。

 

女はそのまま、ぐにゃりと膝をつき、小田の胸に額を預けるように沈黙した。

 

「……ッはぁ……は、ぁ……やっと、か……」

 

小田は、膝をつきながら呻いた。

腕には痺れと痛みが残っている。

だが、女は動かない。

 

胸を揉み潰し、喉を締め上げ、ようやく沈黙させたその躯を見下ろして、

小田は息を吐いた。

それは達成感ではなかった。

ただ、安堵。この場を乗り切ったという、濁った安堵。

 

「……殺して、ないよな……」

 

わずかにふらつく手を伸ばし、女の首に触れる。

汗と熱に濡れた滑らかな皮膚の奥――脈を探る指先が、微細な震えを捉えた。

 

(……生きてる)

 

指先に伝わる、かすかな律動。

それは確かに、生命の証だった。

自分が「殺しきっていない」ことに、救われるような感覚が胸に満ちる。

 

だが――

その一秒後。

油断という言葉が、そのまま現実に噛みついてきた。

 

「おい……なんの冗談だ、こりゃあ……?」

 

静寂を裂いた声――

くぐもり、低く、どこか舌足らずな語尾を引く、女の声だった。

 

「ッ!!」

 

全身が凍りつく。

反射で振り返ろうとした刹那――

後頭部に、鈍くて重い何かが叩きつけられた。

 

ゴンッ。

 

骨を通して、脳の奥まで震えが伝わる。

目の前が白く、次いで赤く染まり、世界が逆さに崩れていく。

 

(……ッ、もう一人いたのかッ)

 

認識が遅れた。

空間に放置されていた「もうひとつの気配」――

気づいていたはずなのに、戦いの最中に意識の底へ沈めていたそれが、今になって牙を剥いた。

 

思考がもつれ、口が動かない。

筋肉がゆるみ、喉が熱をもらし、膝が割れるように崩れる。

 

暗闇が押し寄せてくる。

早すぎる。

眩暈とともに視界が断ち切られ、身体の感覚も遠のいていく。

 

ただひとつ――

 

その、落ちてゆく視界の端に、鮮烈に焼き付いた像があった。

 

あの女だった。

ナズを犯していた女。

 

何も身に着けていなかった。

全裸の肉体――

光沢を帯びた皮膚。

隆起した乳房。

むせかえるような性の気配。

 

(ちく……しょ……う……)

 

意識の底で、小田は呻いた。

口は動かず、声も漏れない。

ただ思考だけが、泥のように鈍く、遅れて漂っていた。

 

 

 

 

 

 

「…こいつにライザがやられたってのか?…」

 

女は、目の前の光景にしばし言葉を失った。

床に崩れ落ちたライザの体。

その喉には明確な締め痕が残り、苦悶に歪んだ顔で昏倒している。

あのライザが――まともな抵抗すら許さずに沈められた。

 

そしてそのすぐ傍に、ぐったりと横たわる男。

 

女は、その『雄』の姿を見下ろしながら、ゆっくりと目を細めた。

どこかで、見たことがある。

この背筋の張り、この肩幅、この――身体のかたち。

 

「……まさか、な……」

 

濡れた髪が背中に張りついている。

その湿った匂いが、鼻の奥をくすぐる。

女は無意識のうちに、しゃがみ込んでその背に手を伸ばしていた。

 

女の喉がひくりと震える。

躊躇もなく、小田の体を力任せにひっくり返した。

 

どさり、と仰向けに倒れた男の顔を、女は凝視した。

 

仰向けに転がされた男の顔を見た瞬間、女の喉がびくりと震えた。

まるで何かに殴られたかのような衝撃。

空気が凍りつき、肌の上をぞわりと汗が這った。

 

「……は、ッ……」

 

目が見開かれる。

脳が追いつかない。

だが、顔は――確かに知っていた。

 

「……てめえ……」

 

女の声が、かすれた。

 

「てめえは――小田じゃねえかッ!」

 

叫ぶように吐き捨てた声は、部屋に響き渡る。

喉の奥でうなるような声。怒りと驚愕が入り混じった、嗄れた絶叫。

 

女の指先が震えながらも、小田の顎を掴み、さらに顔を覗き込む。

汗に濡れ、唇を開けたまま気を失っている男の顔――

 

間違いない。

あの日の『検査』、口に咥えた肉棒の主。

一度その味を知って以来、忘れられるはずがなかった存在。

 

「……小田が、ライザをやったのか……」

 

仰向けに倒れた小田を見下ろしながら、女はゆっくりと呟いた。

その声には驚きこそあったが、次第に何か別の感情が混じり始めていた。

それは、嗜虐。

あるいは、欲情。

 

「ふふっ……こりゃぁいいねえ……♡」

 

女の声は、喉の奥で転がるように甘くなる。

 

「……あの犬っころじゃあ、ぜんっぜん足りなかったんだよなぁ♡」

 

ナズのことだ。

雄ではあるが、所詮家畜の端くれ。

匂いも、味も、応も――女の本能を満たすには物足りなかった。

 

だが、今目の前に横たわるこの男。

雄のくせに雌を倒し、その上この肉体。

なにより、口淫の記憶がまだ舌の裏に残っている。あの味、あの跳ね返り、あの熱。

 

女はそっと、小田の胸元に手を伸ばした。

汗に濡れた服のような物をずらし、見えた乳首へ、指先を滑らせる。

 

「…約束すっぽかしやがって、ええ?♡」

 

指先で、くに、くに、と乳首をひねる。

左右を交互に、わずかな力加減で。

そのたびに、小田の体がわずかに反応する――無意識の中で、僅かに筋肉がぴくつく。

 

女は、しばらく小田の乳首を指で味わったのち、ゆっくりとその顔へと指を這わせた。

額から頬、顎の輪郭――そして唇へ。

乱れた呼吸でわずかに開いたその口元に、女の視線が絡みつく。

 

「……どーれ、ベロ出すか♡」

 

ぬるりと舌を這わせた指先で、小田の顎をくいと持ち上げる。

もう片方の親指で、そっと唇を押し開いていく。

その中に覗いたのは、よく知る形状――

 

「……いたいた♡」

 

小田の舌。

微かに乾きかけてはいたが、熱と唾液を帯びたそれは、まだ十分に生きている。

 

女はその柔らかな肉を、親指と人差し指でつまみ、ぬるりと引っ張り出した。

ぺろん、と舌先が唇の外に垂れた瞬間――女の目が妖しく光る。

 

「……はむぅ♡」

 

何のためらいもなく、その舌を自分の口へと含み込んだ。

唇を密着させ、しゃぶりつくように舌を吸う。

自らの舌を絡めながら、ぬちゅ、ちゅる、と淫らな音を立てて吸い続ける。

 

「んふっ、ふちゅっ……ちゅっ、ん、んちゅ……ッ♡」

 

口腔内に、肉の感触と塩味と、微かに残る血の風味。

女の喉がごくりと鳴る。

 

舌先をねぶるようにして味わい、唇を伝う唾液を舐め取ったあと――

にたりと笑って、顔を離した。

 

「……うめぇ〜♡」

 

唾液の糸が、小田の舌と女の唇を繋いだまま、艶やかに垂れる。

 

「いやぁ……ライザには悪いけどさぁ……」

 

女は濡れた唇を舐めながら、小田の頬を撫でる。

 

「ほっといて、俺と楽しむかぁ、小田ぁ♡」

 

頬に指を這わせ、乳首をつまみ、下腹部に手を滑らせながら、

女はまるで恋人に語りかけるように囁く。

小田の身体は、意識を手放してなお、女の手に正直に反応していた。

 

「……くく♡」

 

女は緩やかな笑みを浮かべながら、小田の下腹部へと指先を這わせる。

服越しに勃起したそれを感じ取ると、目尻がきゅっと吊り上がった。

 

「寝たままで……立ちやがって……ドッスケベだな、こりゃあ♡」

 

獣のような息遣いをこぼしつつ、女は小田のズボンに潜り込ませる。

冷えた指先が肌を割るように滑り込み、熱を孕んだ肉棒を優しく、だが貪るように包み込む。

 

ぐい、と一思いにそれを握りしめた。寝息混じりの喘ぎが、小田の喉から微かに漏れた。

小田の性器は、意識を失いながらもぴくりと脈動していた。

女はそれを、まるで戦利品を確かめるように見下ろし、ぬるりと唇を歪める。

 

指先が熱を帯びた先端をゆっくり撫でる。

その動きはまるで、飢えた獣が肉を味わうかのように執拗で――

 

しこぉ……しこぉ……♡

 

ぬちゃ、ぬちゃ、と湿った音が静かな部屋にいやらしく響いた。

肉棒が擦れ、女の掌に粘膜がとろけていく。

 

「こりゃ、たまんねぇな……なあ、小田ぁ♡」

 

女の目はどこか焦点を失い、狂気の熱に濁っている。

そのまま、腰をすり寄せるようにしながら、小田の顔を見ながら――

 

「部屋につれてって続き…するかぁ♡」

 

囁きは甘く、底冷えするように歪んでいた。

 

「犬っころとお前、交尾させて……俺はお前のケツ穴でもなめてやっかなぁ?♡」

 

濡れた舌が、小田の唇の端を舐め上げた。

 

「なあ、小田ぁ……」

 

快楽に濡れた女の声が、ぬちりと耳を打つ。

 

「……ぅ」

 

かすかな反応。女は喜悦に濡れた吐息を漏らし、狂おしげに小田の乳首へと唇を吸い寄せる。

 

ねっとりと、舌を這わせながら唾液を垂らし、声をくぐもらせたまま――

 

「んちゅぅ…マジ、たまんねぇ〜♡」

 

舌を這わせるたびに、雄の身体が艶かしく震える。

すでに女の瞳には理性など残っておらず、あるのはただ――

 

支配と倒錯の悦楽だけだった。

 

 

 

 

「やっぱり……でけぇなぁ♡」

 

ぬるり、と指先で肉棒を根元から先端へと撫であげる。

熱と張りが指に吸いつくたび、女の背筋にぞわりと快感が走る。

 

「……他の奴隷共より……二倍くらいでけぇ♡」

 

快楽に染まった瞳で見下ろしながら、女は一度、自らの太ももを擦るようにして押さえつける。

疼くような興奮が身体の奥で沸き立ち、吐息が熱を帯びる。

 

「これ……中に入れたらどうなんだ……?早く喰いてえ♡」

 

女は愛おしそうに、舌で小田の亀頭をちろりと舐め――

ぴちゃ、ぬちゅ、と音を立てて口づけた。

 

――そのとき。

 

ーーー様ッ!小田様ぁッ!」

 

鋭く、喉を震わせるような声が奥の廊下から飛び込んできた。

 

「あん?」

 

女の舌が止まる。目線をゆっくりと上げ、笑みの端に殺気のような色を灯す。

 

「……この声は……」

 

声の正体に気づいた女は、ふっと鼻で笑い、唾液で濡れた指先をぬぐいもせずに、小田の頬をぺちりと叩いた。

 

「……見せつけてやるか♡」

 

駆け込んできたシズの声が、湿った廊下の空気を一瞬、引き裂いた。

 

「小田様!小田様ぁっ……?!」

 

視界に飛び込んできたのは――

床に押し伏せられ、失神している女。そして、その傍らで。

小田の性器を淫らにしゃぶりながら、尻尾をくねらせている女――ベニーラ。

 

その口元には唾液が糸を引き、舌は尚もぬちゅぬちゅと蠢いている。

 

「ベ、ベニーラ様っ……なにを……っ!?」

 

シズの声は震えていた。

だが、ベニーラは小田の性器に唇を押し当てたまま、ちらりと上目で睨みつけ――

 

「きゃんきゃんうるせぇぞ、犬。今こいつに『しつけ』してんだから、黙っとけ」

 

舌で亀頭をねぶりながら、口の端を吊り上げ、唾液混じりの低い声で嗤う。

 

「し、しつけは……ナズとナーシャだけのはずですッ……!その方は……っ」

 

「うっせえぞッ!」

 

突然、ベニーラが口を離し、ぐいと小田の性器を握ったまま捲し立てる。

 

「こいつは俺たちに逆らったんだぜ?ライザもこのとおり、“のされ”ちまってるしよ」

 

シズの視線が動く――

床に倒れ、微かに痙攣しているライザの姿。その脚の間からは、尿が溢れていた。

 

「……ッ……」

 

シズの喉が詰まる。

 

それを見て、ベニーラはにたりと笑い――

再び小田の亀頭に口づけた。

 

「んちゅぅ……れろ……れろれろ……♡」

 

淫猥な水音が、場の静寂にいやらしく響く。

唾液を絡めながら、ねっとりと鈴口を舐め回し、女はちらりとシズを見上げた。

 

「……見てんじゃねえよ。劣等種」

 

その声は、冷たい殺意を帯びていた。

 

「……殺すぞ?」

 

その一言が、空気を刺した。

 

シズは動けなかった。膝がかすかに震え、喉が詰まる。

けれど――その瞳は、確かに怒りと焦りに溢れていた。

 

視線が揺れる。けれど逸らさなかった。

それでも、声はすぐには出なかった。

 

……言わなければ。

命令がある。彼を――この人を――連れていかなくちゃいけない。

 

唇が震える。呼吸が浅くなる。

 

「……カ……カザラ様の……め、命で……」

 

言葉が崩れかける。それでも、絞り出すように続けた。

 

「……その方は……お部屋に……案内しなければなりません……」

 

シズの声は震えていた。

理性と忠誠、それに込み上げる焦りが、言葉の端々に滲んでいる。

 

「……なので、どうか……おやめください……」

 

その言葉に、ベニーラはぴたりと動きを止めた。

唇を離し、ぬるりと濡れた口元でシズを睨み返す。

 

「……っチ。いつも美味しいとこだけ持っていきやがって……あの女……」

 

不満と欲情がないまぜになった吐息をこぼしながら、彼女は性器を撫でる手をゆるめなかった。

 

「じゃあ、一発だけやらせろ」

 

「で、ですが……っ」

 

シズは抗おうと一歩前へ出るが、その声音には既に自信がなかった。

膝がかすかに揺れる。視線は小田の裸体から逸らせない。

 

ベニーラは鼻で笑い、完全にシズの存在を無視するように顔を沈めた。

女は小田の顎をくいと持ち上げ――

自身の舌を、彼の口腔にねじ込んだ。

 

「んちゅぅ……れろ……んっ、ふ……ちゅっ……♡」

 

ぬちゅ、ちゅるる……と濡れた水音が、肌を這うように響く。

 

小田の舌に、ベニーラの長い舌がねっとりと絡みつき、唾液が口角から零れていく。

混ざり合う体温と呼吸。唇と唇、舌と舌、粘膜と粘膜――

まるで溶け合うように、絡み続ける。

 

そして、片手を伸ばし――

女は小田の玉袋を、ぬるぬると撫で上げた。

 

「んむぅ……♡やっぱ……重てぇな、こいつ……最高……」

 

その淫靡な行為を目の前にして、シズの頬がぴくりと引きつった。

 

小田の舌にベロを絡め、睾丸を慈しむように味わうベニーラ。

その姿に、シズの胸がきゅっと締めつけられる。

 

目を逸らしたいのに、逸らせない。

耳が熱い。喉の奥が焼けるようだ。

 

――嫉妬。

 

シズは、震える視線でその光景を見つめていた。

 

ベニーラの唇が小田の唇にむしゃぶりつき、指が睾丸を撫で回し、腰をくねらせながら肉の芯を愛撫する。

粘液のような唾液が垂れ落ちるたび、シズの胸奥がじくじくと焼けた。

 

(……ずるい)

 

声にはならなかった。

けれど、確かにそう思った。

 

(さっきまで……さっきまで、私のものだったのに……)

 

あのぬくもりも、あの匂いも――今は全部、あの女の唾液にまみれていた。

 

「……はっ」

 

ベニーラが、ちらりとこちらを見て薄く笑った。

 

「犬風情が、なに不満げなツラしてんだよ?」

 

その言葉が、皮膚の下までじくりと食い込む。

ベニーラは嘲笑を浮かべながら、小田の性器をしこしこと扱き続けた。

 

「ほらぁ……こうしてるだけで、身体がびくびくしてんぜ?こいつ♡」

 

ぐぐっ、と根元までしごきあげると、小田の腰が微かに震えた。

 

「おっ?♡ちけえか?♡もうイッちまいそうかぁ?」

 

ねっとりとした声が、淫らに室内を濡らしていく。

シズは無意識に、唇を噛み締めていた。

 

(……やめて)

 

そう思っても、口には出せない。

 

出したら――

この部屋で自分がどれだけ「下の存在」かを、はっきり知らされる気がした。

 

けれど――

 

(……やめてよ……)

 

その眼差しだけは、泣きそうなほど真っ直ぐに、小田の身体を見つめていた。

 

その時。小田の身体が、ぴくりと震えた。

 

気を失ったまま、脚が微かに跳ねる。

そして――

 

……びゅるっ、びゅるるる……ッ

 

快楽の頂に、意識がなくとも本能が達していた。

性器の先から、白濁した精が脈打つように噴き出す。

 

その瞬間、ベニーラの唇が――ずっと、待っていたかのように――

 

「はむっ……ちゅぅ〜〜〜……♡」

 

ぱくりと亀頭を咥え込み、吸い付く。

 

ぴちゃっ、じゅるるっ……ちゅっ、ちゅくっ……。

 

吐き出されたばかりの精液を、一滴残らず啜るように舌で巻き取り、

女は頬を凹ませながら、射精口に吸い付いた。

 

「んふっ……ッく……♡んちゅ……ちゅぅぅっ……♡」

 

喉奥でごくりと嚥下する音が響くたび、女の尻尾が愉悦に震えた。

 

シズは、その光景から目を逸らせない。

指が服の裾をぎゅっと握りしめ、肩が震える。

 

「ッ……」

 

息が詰まり、視界がにじむ。

こみ上げるものが、涙になって目元に溢れた。

 

何度も口に含んだはずの彼の身体。

感じた温もりも、名前を呼んだときの声も。全部、遠ざかっていく。

 

小田の精液が、別の女の舌の上で蕩けていくのを――

ただ見ているしかなかった。

 

 

精を吐ききった小田の体は、ぐったりと沈み込んでいた。

だが、ベニーラの興奮はまだ収まっていなかった。

 

吐息まじりに微笑むと、ベニーラは彼の頬を両手で挟み込み、

その唇に――たっぷりと精液の余韻を抱えた、自分の唇を重ねた。

 

「んちゅ……ちゅぅ……っ……ん、ちゅ……♡」

 

舌と舌。唾液と、精液と、残り香。

まるで蕩けるように、女は小田の口内をむさぼり、ねっとりと絡め続けた。

 

「ん、んふ……んふぅ……」

 

唇を離したとき、細い唾液の糸が二人の口をしばらくつないでいた。

 

そして――

 

「ふぅ〜♡」

 

満足げに、わざとらしく吐息を漏らしながら、ベニーラはゆっくりと振り返った。

 

シズを、見た。

 

唇の端に精液の残り香を宿しながら、獲物をいたぶる獣のように、にやりと目を細める。

 

「…カザラ様との用事が終わったら……絶対、交尾してやるぜ♡」

 

その言葉に、シズの表情が強張る。だが声は出ない。

ベニーラはそんな様子を楽しげに見下ろし――

 

「おい、犬」

 

舌打ち混じりに、女は乱れた髪をかき上げた。

 

「ぼさっとしてねぇで、運んどけよ。……案内すんだろ?」

 

嘲りと命令が混じったその一言に、シズは一瞬、呼吸を止めた。

 

ベニーラは快楽に満ちた吐息を漏らしながら、ゆっくりと腰を上げた。

荒く波打つ胸元を整えるでもなく、隅に倒れていたライザの体を、ぐいと片腕で抱き起こす。

 

「……ライザが目ぇ覚ましたら、次はあの雄猫か。ふふっ、忙しいねぇ……」

 

悪びれもせず、まだ気絶しているライザをずるずると引きずりながら、ベニーラは暗い廊下の奥へと姿を消した。

 

――そして、沈黙が訪れた。

 

けれど、シズにはもう、去り際の女の言葉も、足音も届いていなかった。

 

ただただ、そこに残された存在――

性器を露出し、荒く呼吸を繰り返しながらも、意識のないまま横たわる小田の姿だけが、視界に映っていた。

 

音もなく近づく。

そっと、膝をつく。

 

「……私たちは…なんで…」

 

シズの手が、そっと小田の頬に触れた。

温もりはまだあった。生きている。そのことに、どこか安堵している自分がいる。

 

――でも。

 

その唇には、あの女の味が塗り込められている。

喉には、濡れた吐息が残っている。

その身体は、さっきまで他の誰かに――

 

シズは、唇を噛み、指先を離した。

指が、濡れていた。

それが涙か、唾液か、精か、もうわからない。

 

小田の名を呼ぼうとして、喉が詰まった。

息が、できなかった。

 

ただ、立ち尽くしていた。

 

自分が、犬だから。

自分が、劣等だから。

自分が、「奴隷」にすぎないから。

 

そうやって、何度も呑み込んできた言葉たちが、口の奥で腐っていく。

 

……そして、結局。

 

シズは何も言えなかった。

 

誰かの足音が遠ざかっていく。

廊下には、湿った空気と、白濁の匂いだけが残っていた。

 

小田はまだ、目を覚まさない。

目を覚ましても、何も変わらないかもしれない。

 

それでも、彼の顔を見つめた。

触れられなかった唇を見て、ただ、黙っていた。

 

「なんで……こんなにも、弱いんでしょうか」

 

ぽたり。涙が、小田の胸元に落ちる。

喉が、詰まる。言葉が、こぼれる。

 

「小田さん……」

 

その名を呼ぶと、堰を切ったように、身体が傾いた。

唇を、重ねる。

 

ぴちゃ……くちゅ、ん、ちゅ……ちゅう……っ。

 

廊下に、静寂を破る音が響く。

口と口が吸い合い、触れ合い、涙と唾液が混ざり合って、静かに絡む。

 

「んっ……ちゅ……ぅ……」

 

その音だけが、世界に残されていた。

 

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