※この作品はR-18です。

その男傲慢につき   作:アマチュアダックスフンド

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 今回は前編→中編→後編の3話構成で堕とします。

 よって前編はエロなしです。申し訳ないです。

 
 


第五話 一之瀬帆波 前編

 

「以上だ…何か質問のある者は?」

 

 唐突に始まった本年度最初の特別試験。ただの旅行だと思っていた生徒たちは鈍器で頭を殴られた様な衝撃を受けたことだろう。

 

 実際説明された時は阿鼻叫喚であった。不良品のDクラスだけでなく全クラスで等しく巻き起こった。

 

「ないようだな。唐突で始まった試験だが、君たちならどんな苦難も乗り越えると信じている」

 

 健闘を祈る。そう言い残して真嶋は去っていった。

 

「よし、では改めて…神楽何処に行くつもりだ」

 

「さあな、適当に彷徨く」

 

 ここに止まっても時間の無駄だ。そもそも正攻法で試験に挑む必要がない。

 

「計画性がないな、ここは無人島だ。遭難する危険も..」

 

「俺に指図すんな、リーダー気取ってんじゃねぇよモブ」

 

 雑魚と群れるなんてゴメンだ。クラスポイントなんぞどうでも良い、いかにこの1週間を楽に過ごせるか。それに尽きる。

 

「お前!葛城さんに!」

 

「あ?金魚の糞は黙ってろ。テメェらがどれだけ人に頼って生活してるか分かる1週間になるな。まあ、頭下げて靴でも舐めてくれたら力を貸してやる」

 

 


 

 

「随分と早いな30分前だぞ」

 

「他の生徒に見られたらと考えたら気が気じゃないもの」

 

 Aクラスのベースキャンプから1時間近く離れた小さな洞窟。クラス全員で占領するには狭過ぎるが、1人で生活するには充分過ぎるスペース。

 

「本当に貴方1人なのね…意外と恥ずかしがり屋なのね。先生が寝泊まりしてあげよっか?」

 

 時刻は午後10時。この試験では定期的にクラス内で点呼が行われる。点呼に遅れると減点されてしまうが、神楽は特別待遇により対象から除外されている。

 

 洞窟内には既に寝袋や仮設トイレ、シャワー室などこの試験で購入出来る最大限の物資と食糧で溢れている。

 

「用が済んだら失せろクソビッチが。売女は売女らしく素直に従えや」

 

 星乃宮が運んできたのは充分な食料と水。間違いなく1人で試験内に消費することは不可能だろう。

 

「すこーし言葉遣いが悪いかな?神楽くん」

 

「大人しく俺に投資しとけ、テメェのクラスに未来はねぇよ」

 

 次のターゲットは一之瀬帆波。彼女を堕とす為にこの約1ヶ月の間、水面下で準備をしていた。

 

「優秀で良い子たちばかりなのに。Aクラスだからって少し調子に乗り過ぎてない?」

 

「仲良しこよしのカス共の間違いだろ。一之瀬だったか?アイツがリーダーのままじゃ終わりだな」

 

 普通の高校なら理想のクラスではある。手を繋いで苦難困難に立ち向かうなんでアニメの様だ。ガキ向けの知育アニメだけどな。

 

「自分ならAクラスに導けるとでも言いたそうね」

 

「まあな、アンタには悪いがこの試験中は少しばかり意地悪させて貰う」

 

 


 

 

「…これ誰が」

 

 無人島試験2日目、Bクラスの朝。クラスメイトに呼び出された一之瀬の目に飛び込んできたのはズタズタに引き裂かれたテントだった。

 

 他にもポイントで購入した食糧が荒らされていたりと、何者かの手によって妨害されているのは火を見るより明らかだった。

 

「…」

 

 クラスメイトたちの視線の先には、前日にCクラスから追い出された金田という1人の生徒。

 

「ま、まあ落ち着いて!疑心暗鬼になる気持ちは分かるけど」

 

「そうだな、よし!直すか」

 

 一之瀬を筆頭に破壊されたテントを修理するBクラスの生徒たち。彼らの団結力はたった一度のアクシデントで崩れることはない。

 

 だがそれが何度も続いた場合はどうなるだろうか。

 

「な、なあ!お前がやったんじゃねぇか!?」

 

「落ち着いて柴田くん!」

 

「すまん…」

 

 無人島試験は既に折り返し。度重なる妨害や慣れないサバイバル生活で徐々にフラストレーションが溜まっている。

 

 最初に声を荒げたのは柴田であった。サッカー部に所属し活発的な性格でクラスのムードメイカーでもある。そんな彼が声を荒げた、少しずつクラス内に亀裂が入っていく。

 

「やっぱり先生に相談した方が」

 

「うん…そうだね」

 

 2日目と打って変わって一之瀬の顔は暗い。クラス内の裏切り者か、金田の仕業か、もしくはそれ以外か。

 

 何もやられっぱなしではない、Bクラスも対策はしている。だがその対策が意味を為さない。

 

「なあ、やっぱり深夜も見張りが必要なんじゃ」

 

「うん…自滅覚悟で妨害してる可能性もあるね。でも…」

 

 24時間何物かの存在に怯え続けるのは気が滅入ってしまう。初日とは比べ物にならないくらいにクラスはピリピリしている。

 

 他のクラスからの妨害行為は勿論ルールで禁止されている。そして点呼に遅れた場合も減点処置が存在する。

 

 自分のクラスの足を引っ張ってまでBクラスに嫌がらせをしている生徒が存在する。

 

「一之瀬…そろそろ食糧がキツくなってくる」

 

 妨害行為はベースキャンプ内に収まらない。Bクラスの周囲の果物や木の実は既に奪われていて、安全に効率良く食糧を手に入れる術がない。

 

「…他のクラスに協力を申請してみては?」

 

 重い口を開いたのはCクラスから追い出された金田だった。Bクラスは彼を徹底的に監視していたが、それでも妨害行為が起きてしまったことから完全なる白となっている。

 

「それは申し訳ないし…」

 

「Aクラスの神楽真央。彼は優れた能力を持っていますが、クラス内では孤立しています。…1日目から別行動をしているとか」

 

「随分と詳しいな?」

 

 神崎は眉を顰める。理由は明白、何故1日目の神楽の行動を把握しているのかこれに尽きる。

 

「…龍園氏は彼を警戒しています。初日に監視をしていましたが、異常な量の物資を蓄えているとのことです」

 

 


 

 

「うっそ…何コレ」

 

「…帰り道は分かるでしょ?それじゃ」

 

 神楽と接触する為に一之瀬はAクラスのベースキャンプに足を運んだ。大半の生徒は神楽の居場所は知らなかったが、唯一神室だけが把握していた。

 

 神室に案内されてやって来たのは小さな洞窟。その中には噂通り多くの食糧や物資が蓄えられており、1人で消費するのは不可能とも思える。

 

 現にクラスメイトにも配っているらしく、Aクラスの生徒たちも何処から手に入れたのか不思議に思っていた。

 

「っち…ペラペラ場所を喋りやがって口の軽い女は好きじゃねぇ」

 

 評判通り愛想が悪く言葉遣いが荒い。身長も大きく洞窟の雰囲気も相まって威圧感がある。

 

「貴方が神楽くんだね。私はBクラスの一之瀬帆波、よろしくね」

 

「その一之瀬帆波が何の用だ?」

 

「えっと何て言ったらいいかな。余ってるなら少し食糧を分けて欲しいなーって…都合良いよね」

 

 自分でも都合の良いことを言っている自覚はある。それでも藁にもすがる思いでここまで来た。それ程にクラスの雰囲気が悪い、今にも内部崩壊する可能性もある。

 

「自分勝手な女だな、何でも自分の思い通りになると思ってんのか?」

 

「あはは、言い方キツイなぁ」

 

「まあ、俺も鬼じゃねぇ。取引だ、上手く交渉してみろよ」

 

 言葉の端から端まで上から目線。人と対等に接するつもりは一切ない。

 

「…神楽くんじゃないよね?私たちの妨害をしてたの」

 

「お、良く分かったな。流石Bクラスのリーダーだ」

 

 悪びれる様子はない。まるで何か問題でもあるかと言わんばかりの態度。

 

「っ…妨害行為はルールで禁止されてる。バレたらクラスにも自分にもデメリットしかない。何でこんなことしたの?」

 

「お前が欲しいから」

 

 真っ直ぐと吸い込まれそうな目で見つめられて、そう告げられる。

 

「へ?」

 

 一瞬時が止まった様に感じた。思春期の年頃の女性の一之瀬はその言葉の意味を瞬時に理解出来る。ただ、余りにも突発的な発言だったので間抜けな返事をしてしまう。

 

「えーと…聞き間違いかな?もう1回っ…」

 

「何度でも言ってやる。お前が欲しいんだ一之瀬帆波」

 

 じわじわと距離を詰める神楽。一之瀬は後退り逃げるも洞窟の壁に行き当たり、手を伸ばせば届く位置まで近付かれる。

 

 2人の距離は目と鼻の先、比喩表現ではなくそのままの意味。このまま進めば唇すら触れてしまうそれ程の近さだ。

 

 一之瀬は神楽にパーソナルスペースまで接近されるも、不快感よりも恥ずかしさの方が大きかった。

 

 自分よりも背丈が大きく、顔立ちの整った異性に距離を詰められる。無人島で生活している以上、自分の匂いや身なりに気を使う暇はない。

 

 様々な感情に揺さぶられ、グイグイと来る神楽の勢いに押されてしまう。

 

「ま、待って…」

 

「簡単な話だ、俺の女になれ。たったそれだけで飢餓に苦しむ現状も、これから来る苦難困難も俺が全て救ってやる」

 

 一之瀬の顎に触れて唇を奪おうとする神楽。互いの息が掛かるそれ程の距離。

 

「す、ストップ!は、はぁ…」

 

 唇が触れ合う瞬間に一之瀬は神楽の胸板を押した。すんなりと退いた神楽に一之瀬は安堵する。

 

「こんな無理矢理…ダメだよ」

 

 声を震わせて微かな抵抗する。何故逃げ出さないのか、声を荒げないのか、恐怖心に蝕まれ身体が動かないのか?いや、違う。

 

「そうか、なら妨害を続けよう。手始めにBクラスのベースキャンプの周囲に綺麗な川があった筈だ。適当に汚染でもしてやろう」

 

「残った食糧に下剤を入れるのもアリだな」

 

「そんなこと…」

 

 この女は自覚無しの英雄症候群だ。私が何とかしなきゃ、無意識にそう考える根っからの善人。現にここに1人で来ている。

 

「出来ないと思ってるか?ならいいさ、好きなだけ油断していてくれ。俺はなこの無人島で試験が行われることを予め把握していたんだ。だから事前にポイントを使って様々な準備が出来た」

 

「その中で教師陣の口止め料も払っている。俺が起こす全てのイレギュラーを見逃せと。残念だが、お前たちは俺から逃げられない」

 

 何故この女がAクラスに配属されなかったのか疑問に思っていた。成績も良く愛想も良い。何処にも欠点はないように見える。

 

「この試験が終わってもだ。Aクラスにとって邪魔な存在は排除する。どんな手段を使っても」

 

 ただ坂柳以上に大きな欠点がある。

 

「これが最後のチャンスだ。俺の女になるか、クラスを壊されるか選べ」

 

 大きな挫折を、失敗を、敗北を知らない。

 

 何者にでもなれると本気で思っている。

 

 ぬるま湯で育ち、地獄を知らない。

 

 そして俺を通して知ることになる。

 

 この世にはどうしようもない絶望があると。

 

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