『主人公』冒険者リザリアと99のバッドエンド 作:AIRUNo(旧AIRU)
敗北イベントからのEDが多いRPGみたいなイメージです。
少女は、背丈よりも長く凶々しい魔剣を背負っていた。
「登録、お願いします!」
受付嬢の前でお辞儀をし、顔を上げた時。
その藍と紫の混ざる瞳に移ったのは、空中に浮かぶ半透明な文字だった。
・一生懸命に説得する
・一旦、大人しく引き下がる
―――少女リザリアは、一人冒険者ギルドへ登録しにきていた。
長い金髪を青リボンで束ねた童顔はあどけない。
まだ10代の成長期と分かる細身の子供が、防具すらないにも拘らず似合わぬ剣を持つその違和感に、周囲の冒険者たちの目は引かれ一部始終を眺めた。
受付嬢は眉をひそめながら、ステータスだけは確認する。
(職業は魔剣士……あまりこの辺りでは見かけないわね)
受付嬢は、ギルドの中を物珍しそうに見回すリザリアの魔剣を観察する。
背中の柄から鞘にまで何本もの触手が絡みつくような造形。
その中央には竜の瞳を抜き取ったと言われても信じるほどの、巨大な紫色の宝玉が怪しく輝いている。
確かに、何かしら強い魔術が込められていそうだ。
(とはいえ……こんな子供をクエストに送り出しては、達成できるかより、世間の悪い大人に何をされるか分からないのは不安ね)
断る理由を考えていたとき、一番下のユニークスキルに受付嬢の目が行った。
『マルチエンドの主人公』
・パッシブスキル。運命を変える分岐に出くわした時、自動的にルートを分けることでエンドを分岐させ、道を切り開く。
(……どういうこと? こんなの初めて見た)
受付嬢はリザリアを改めてジッと観察する。
小ぶりな尻に短いズボン。白いブラウスは僅かに膨らんだ胸を主張している。
新品のブーツやローブも経験の浅さを物語っている。
よくいえば可愛いコスプレで、その未熟さが、逆に周囲の冒険者の視線を引き寄せていることに、本人だけが気付いていなかった。
しかしその小さな身体の後ろには、間違いなく本物と分かる異形の魔剣を背負っている。
もしかすると彼女は何か特別なものを持っているのかもと、受付嬢は判断に迷っていた。
そしてその間、リザリアには2つの選択肢が見えていた。
・一生懸命に説得する
・一旦、大人しく引き下がる
深呼吸して、リザリアは一方の選択肢を行動に移す。
「お姉さん、私が子供だからって追い返そうとしてるでしょ」
「え? ……そ、そんなことないわよ?」
苦笑する受付嬢に、リザリアはピンとつま先立ちとなりながら詰め寄った。
幼い顔立ちだったその瞳に、凛々しさが宿る。
「ちゃんと師匠から皆伝の書状も貰ったし、モンスターの討伐記録だってある。これで他の冒険者と、年齢以外で劣っている点はある? 不満なら私の技も披露できるけど……でもそういう実力ってさ、難易度の低いクエストをこなさせて測っていくものなんでしょ?」
確かに……何もこの少女は、最初から危険な旅に出るわけではないと、受付嬢は改めて考える。
街の些細な用事から初めて信頼を得ていくものだし、その中で多くの社会経験も積ませられる。
そして、この顔立ちも良く人懐っこい少女は、集客という一点で将来必ず人気が出る、という打算ができる。
(それに……物怖じしない態度は、確かに冒険者向きね)
「……分かりました。でも最初は、ギルドからクエストを指定します。これから登録や手続きの話もするから、一旦奥のテーブルで座って待っててね」
「はい! ありがとうございます!」
リザリアはうきうきと腕を振りながら席へ向かう。
(やったー……! 今回も私の選択は合ってたんだ!)
いつも目の前に現れる選択肢は、正しいものを選べば上手くいくようになっている。
彼女は生まれたときから見えていたその2択を、強く信じていた。
―――ではもし、別の選択肢を選んでいたら?
今ここにいるリザリアは、一度とて2択を間違うことなく成功を選び続けてきた存在である。
―――どちらか一方だけが、彼女の未来を許される。
少女は知らない。
選択肢が生まれるたび、不正解を選んだルートのリザリアが、イフではなく枝分かれの世界として存在する。
そして不正解とは即ち、今まで正解の道で獲得してきた幸福の反動を、たった一度誤っただけで全て支払わされるのだということを。
正解以外は全てバッドエンド。
これは、少女自身の骸の山が積み上がる話。
魔剣と共に、その悲劇を見つめる物語である。