『主人公』冒険者リザリアと99のバッドエンド 作:AIRUNo(旧AIRU)
リザリアが無事、ギルドへ冒険者登録をした翌日。
宿屋で目を覚ました少女は、見慣れぬ窓の外を見て、自分が冒険者の第一歩を踏み出したことを思い出す。
通りは朝早くから旅装や武装をした人々で賑わい、馬車に乗った冒険者パーティーが街の門に向かって通り過ぎていく。
整備された灰色の煉瓦道、2階建ての建物が密集する繁華街。
見慣れぬ大都会に、リザリアは着替えも忘れて窓の外へ身を乗り出す。
「わ、すっごい……あのカッコいい人も冒険者? 向こうの女の人が持ってる武器もスゴい…私の魔剣モルフェーとどっちが強いかな!」
目をキラキラとさせながら寝巻のまま外を眺め続け、そして自分も朝からギルドへ向かわなければいけないことを思い出して、慌てて準備をする。
顔を拭き、髪を結び直し、今日もブラウスとズボンを纏って、ブーツの紐をぎゅっと結ぶ。
最後に、背中にまっすぐな両刃の剣を背負えば準備完了だ。
「いってきます!」
リザリア以外誰もいない部屋だが、そう言いたい気分だったので、元気よく挨拶する。
彼女にとって冒険者とは、それだけ心待ちにしていた職業だったのだ。
(わ、どっちだっけ)
とはいえ、まだまだ街に慣れていないせいか、道に迷ったリザリア。
教会に兵士の宿舎、商人ギルドや中央広場と目印にした建物の側を通ってみるが、行き止まりや反対側へ抜け出てしまう。
「……そこの狭い路地の向こうに見えるのって、冒険者ギルドかな」
向こう側に見える屋根の色と形に見覚えがある。
とはいえ、裏路地といえば薄暗く、たとえ早朝であっても怪しい人がいるから避けるべきだと、リザリアは昨日の受付嬢から教わっていた。
(でも、待ち合わせまで時間がない……)
初日に遅刻は冒険者の第一歩として恥ずかしい。
それとも、ここは思い切って通りがかりの冒険者に尋ねてみようか。
でも強面な人や異形の人が多くて見た目も怖く、仕事に出る時間帯ともあって全員忙しそうだし……などと、街へ出たばかりの少女は気後れする。
この間、リザリアは自身が狙われやすい存在だということ自覚していない。
背中に大きな魔剣を背負った少女というだけで人目を引いているし、遠巻きにいる男の何人は不適な笑みを浮かべて彼女を値踏みしている。
別に危険な場所に入らずとも、下手な人間に声をかける、あるいはかけられてしまうと、易々と騙されて破滅の道を辿ることを、しかし彼女はしらなかった。
と、目の前に選択肢が表示された。
彼女にしか見えない、空中に浮かんだ二つの文章。
・急いで暗い路地裏を通る
・知らない冒険者に話しかける
(どっちも難易度が高いよぅ……)
しかし悩んでいる時間は惜しい。
リザリアはえいっと覚悟を決めて、足を踏み出した。
「……あら、ちょうど来ましたね」
ギルドの入り口までやってきたリザリアに、昨日の受付嬢が手を振る。
改めて日差しの中で見る受付嬢は、茶髪のショートに貴族風の襟元のぴっちりとした正装で、いかにも仕事ができる人だ。
「息を荒げていますけど、なにかありましたか? リザリアさん」
「はぁ、はぁ……い、いえ! なんでもないです!」
先ほどの選択肢。
リザリアは目を瞑ったまま、今まさに目の前を通りがかった冒険者にお辞儀をしながら、大声であいさつした。
「すみません! そこの冒険者さん!お忙しいところキョーシュクですが、道を聞いてもよろしいでしょうか!!」
目を瞑っていれば、相手がどんなに強面だろうと怖くない。
リザリアは名案だと思った。
「ああ、いいよ。どこへ行きたいんだい?」
優しい声色に思わずうれしくなって顔を上げたリザリアは、笑顔のまま固まる。
目の前にいたのは竜人、つまり全身を鱗に覆われた半龍半人だった。
初めて間近で見る全身を鱗で覆った冒険者に黄色の蛇目で見つめられた瞬間から、少女は睨まれたカエルのように硬直してしまった。
優しい竜人ことスナークは、放心状態のリザリアを呼び覚まし、丁寧に道を教えてくれたが、結局ギリギリの時間になってしまった。
周りを見ると、自分以外にも新米冒険者が2人いるのに気付く。
胸の銅色バッジがその証だ。
「さて、君たちには簡単な任務からやってもらいます」
リザリアはワクワクと次の言葉を待つ。
新人の任務と言えば、スライム退治か。それとも街の人々の依頼解決か。
いずれにしても、やる気満タンなリザリアだったが
「任務の内容は、『ギルドの清掃係』です。まずは1週間頑張りましょうね」
開いた口がふさがらないリザリアだった。