『主人公』冒険者リザリアと99のバッドエンド 作:AIRUNo(旧AIRU)
「ほら、玄関掃除が終わったら、こっちのテーブル拭きです。貴方はそこの箱を奥の部屋に運んでおいてください。リザリアさん、ゴミが溜まったら裏口に集めておいてください。営業時間までに終わらせないと、ギルドに人が入ってきてしまいますよ?」
新人冒険者3名は、朝からギルドの掃除をさせられていた。
大都市の冒険者ギルドとなれば、部屋も敷地も広い。
玄関の掃除を終えると、百人入る部屋を会議に使うからと、急いで掃除や椅子並べを行った。
その次は、依頼書や冒険者の出入りの管理記録を整理させられ、冒険者全員の報告からモンスターの総退治数などを計算させられるといった事務処理。
(こんなの冒険者じゃなくて雑用じゃ~ん!)
と、叫ぶのを我慢したが、小声で漏れていたのを横の新米冒険者に聞かれる。
「あはは……大変だよね~」
20代の魔術師メイラは、エルフの混血であり耳が少し尖っている。
緑色の長髪は、おっとりとした性格と会うようにフワフワとカールした癖毛。
それでもテキパキと家事をこなし、リザリアより頭一つ高いし、ダボついた服で分かりにくいが、スタイルも良い。
気づけばリザリアは、「メイラ姉」と呼んで彼女を慕い、メイラもまた幼い妹を思い出して満更でもなかった。
「でもさ、リザちゃん。このお仕事って、実は結構、私たちのためになってるんじゃないかな~って思うの」
「え~、どこがですか?」
「それくらい自分で考えろ」
話に割って入ってきたのは、オレンジ色の単発をした戦士職の青年ケヴィン。
彼は親しみやすさとは真逆で、先ほどから一人行動をして雑務を坦々とこなしていく。
が、じーっと彼を見続けるリザリアの視線に負けて、ため息交じりに解説する。
「例えば、この任務書を壁に張る雑務。これを張るとき、どんな種類の任務があるか、その報酬や適正ランクの傾向、そういったことを知る訓練になる。お前がさっきまでやっていた椅子並べや名簿リストも、子の冒険者ギルドにどんな人間がいるかの資料だ。後でパーティーを組む時に使える。要するに、冒険者として活躍した医なら冒険者ギルドのことをよく知れってことだ」
「へ~! 賢いですね」
「ケヴィンくんみたく、一緒に色々考えながらがんばろ? リザちゃん!」
雑務は日が落ちる夕方まで続き、明日朝も同じ時間に集合と告げられ、その日は解散した。
最初こそ不満の多かったリザリアだったが、頼りになる同僚も増えたし、案外終わってみると充実感のある一日だった。
そうして新米3人は途中まで一緒に帰ろうとしたところで、リザリアは肩掛けを忘れてきたことに気付く。
掃除のときに埃を被るからと倉庫で脱いだから、今もそのままだ。
まだ建物にギルドの人たちはいるし、取りに戻ろう……とする、リザリアの前に選択肢が現れる。
・忘れ物を取りに戻る
・明日取りに行く
「……? どうしたの、リザちゃん」
「ええと……」
今、選択肢は明らかに戻ろうとするリザリアを阻む壁のように突然現れた。
この宙に浮かぶ言葉は、彼女にしか見えないし、無視してすり抜けることができる。
忘れ物を取りに行ってから戻るまで、5分とかからずに終わるから、危険だってないはず。
けれども、リザリアは
「……何でもない! 帰ろうメイラ姉、ケヴィン!」
「あのなぁ、なんで俺は呼び捨てなんだ。アドバイスだってしてやったんだ、もっと敬え」
振り向いたときに見えた嫌な視線を感じて、今日は帰ることに決めた。
どうせ明日もギルドに来るのだから、そのときに行って返してもらおう。
夕焼けに染まる街の中、新たな一歩を踏み出した三人の冒険者たちの影。
彼らはまだ、自分たちが大いなる冒険の岐路に立っていることを知らない……