『主人公』冒険者リザリアと99のバッドエンド 作:AIRUNo(旧AIRU)
ギルドの雑務をこなして1週間後。
朝集まった新人3人は、広場で受付嬢の話を受けていた。
「今日、ギルドの雑務はありません。代わりに皆さんには郊外での素材採集について学んでもらいます」
「素材採集……! 遂に街の外での任務ですね!」
「正確には、任務の基本練習です。ギルドが管理しやすいよう、規定した方法や素材に合った回収法を、先輩の冒険者から学んでもらいます」
そうして紹介された冒険者にリザリアは、元気に挨拶する。
以前助けてもらって以来、親身にしてくれる竜人のスナークだ。
「こんにちは、スナークさん! 今日はよろしくお願いします!」
「うん、よろしくね、リザリアちゃん。それにケヴィンくんとメイラちゃん」
紳士的な態度もあって、リザリアは彼に懐いており、顔を見ただけではしゃぐようになっていた。
初対面のケヴィンたちも、その様子を見て怖い人ではないのだろうと態度を軟化させる。
「それじゃあ早速だけど、これを持って欲しい」
渡されたのは、小さなポーチ。
腰帯にぶら下げられるほど軽く、しかし中を覗くと大型トランクよりも広い空間が広がっている。
「これはギルドからの支給品、『インベントリ・ポーチ』というマジックアイテムだ。見た目の何十倍も物が入るし、持ち主は重さも感じない。保存性も高く、素材を新鮮なまま持ち運べる」
「すっごい……! これをただで貰っていいんですか?」
「無料ではなく貸出だね。でも、その手数料も仕事代から引かれているし、冒険者として働いてる間は自由に使っていいことになってるよ。そういった説明も、任務の場所に向かいながらしていこうか」
4人は、ギルドを離れ、街の門へ向かうこととなった。
見送る受付嬢に、リザリアは元気いっぱいに手を振る。
「それじゃあ、いってきます!」
「疲れた~~~!!」
リザリアは弱音を挙げた。
街から1時間ほど離れた場所にある『始まりの森』。
ただの森ではなく魔力の濃い場所のため、魔法素材となる植物も多く生息している。
「でも草なんて全部同じに見えて、どれを採取したらいいのか、分からない~!」
「当たり前だ。植物に詳しくない人間が突然森に放り出されても判断できるわけがあるか」
黙々と作業するケヴィンに指摘され、リザリアはムッとする。
一方でスナークやメイラは着々と今回指定された植物素材を集めている。
「なんで二人は素材の見分けがつくんだろう……?」
「鑑定スキルを持っているからだ。素材の名称だけでなく、質や特徴も判断できる冒険者に必須のスキルだ」
「へぇ~……でも作業が遅いってことは、ケヴィンも私と一緒で持ってないんだ!」
嬉しそうなリザリアだったが……
シュピーン!
ケヴィンから謎の効果音がした。
「今獲得した」
「え!? 嘘、なんで!?」
「魔法素材の鑑別回数に加え、正解率が上がると自動で身に付く。お前はもっと頑張れ」
そしてひょいひょいと、先ほどの倍の速さで薬草や葉を積んでいくケヴィン。
小馬鹿にされた気がして、リザリアはさらにむきになった。
(私だって、すぐに鑑定スキルを手に入れて見せるもん。私だって皆と同じ冒険者になんだから!)
「……あら、リザちゃんは?」
しばらくして、メイラがあたりを見渡すと、少女の姿が見当たらなくなっていた。
背丈が小さいのもあるが、どうもあたりにいる様子はない。
スナークは頭をぽりぽりと掻く。
「あまり遠くへ行かないように伝えたのですが……」
「皆で探しにいきますか?」
「モンスターはいませんし、地形も複雑ではないので、危険は少ない。新人二人はここに残って、私が行きます」
一方、他の2人から出遅れて焦るリザリアは、一人森の奥へ奥へと進みこんでしまった。
魔力の濃い深部のほうが、特徴的な植物が多いために見分けがつきやすいと気付いたのだ。
「ほら、虹色の葉っぱ。甘い香りの花。不思議な形の木の実! 採集の経験を積むなら、こっちのほうが早いよ!」
実際、それは間違いではない。
鑑定スキルの獲得条件に「魔法素材を時間内に100回採集すること」が含まれているからだ。
しかし森の奥にいくほど危険もまた増えていくから、スナークはあえて入り口から離れない場所で作業をさせていた。
「……遠くまで来ちゃったな。皆の姿も見えないし」
最初こそやる気に満ちていたものの、濃くなる木々の影に不安を覚えてきたリザリア。
その後ろで、何かがガサゴソと揺れた。
身を強張らせながら、少女は背中の魔剣に手をかける。
「ひっ!? ……なんだぁ、鳥か」
やはり仲間たちのもとに戻りたいと、少しずつ引き返し始めたとき。
遠くに人影が見えた。
仲間だろうか、と安堵の表情を浮かべるも、いや、どうも違うと目を凝らす。
緑色の肌に、身体に対して大きな頭には耳元まで裂けた口。
半裸の身体から伸びる細い手足で草木をかき分けるその姿に、リザリアの体は凍りついた。
「もしかして、ゴブリン……!? この森にモンスターはいないって聞いたのに!」
ゴクリと唾を飲んだリザリアだが、向こうのゴブリンがリザリアに気付いている様子はない。
魔剣を使えば確実に仕留められるだろう。
周りを見ても、他に仲間のゴブリンらしき気配はない。
(はぐれゴブリン……今回の任務とは関係ないけど、倒すべきかな……?)
今ここでモンスターを倒せば、他の冒険者が襲われる心配も減る。
それに内心、同じ新米の二人より出遅れていると思っているリザリアは、何か一つでも多く手柄を立てたいと焦ってもいた。
だが、まずは安全に任務をこなすことが最優先ではないかとも、悩む気持ちもある。
(スナークさんなら、引き返せっていうかも……でも私なら、あの一匹くらい倒せる……)
焦りと不安に揺れる中、リザリアの前に選択肢の文字が現れる。
・倒しに行く
・ゴブリンを見逃す
リザリアは魔剣の持ち手を握りながら、決断を迫られていた。