※二人目のターゲット
中学高校と生徒会長を務め、学生時代から変わらずの黒髪ロングで、見た目通りの真面目で堅物な性格。
職業は大手女性ファッション誌の出版社に勤める副編集長。
数か月前までは編集長だったが、不祥事を起こして編集長から副編集長になった。
その不祥事というのが、別の部署で編集者として勤務していた夫が、職場の女性と不倫して逮捕されたというもの。
今も逮捕されている夫の愚痴も吐かず真面目に職務に励む彼女だが、毎日のように同僚や部下から陰口を叩かれ、時に笑い者にされてかなりストレスを溜めている。
そのため、浮気・不倫を毛嫌いしており、接触した場合は通報する恐れがある。
恋愛経験は乏しく、交際人数は三人だけ。
その内、性行為をしたことのある相手は職場で出会って結婚した旦那のみ。
けれど性欲は強く、結婚生活で旦那よりも彼女の方から誘う回数は多かった。
お堅い見た目だがベッドの上では大胆で、一度発情すると自分を抑えられなくなる。
お酒に弱く、付き合いの席では呑まないか断ることが多い。
日常的に溜まったストレスを愛用のおもちゃを使って解消しているが、溜まる一方で、愚痴を吐ける気の置ける友人はいない。
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振り上げた拳を掴み、彼女から引き離す。
後方へと後退っていく男は、俺の全身を眺めてから睨みつけてくる。
「ああ? なんでテメェ!」
威嚇する為の怒鳴り声。
おそらく俺の身長と細身な体格を見て勝てると判断したんだろう。
「ぶつかった場面を見ていたが、お前らだってよそ見をして話していただろ。それなのに彼女だけを悪者にするのは違うんじゃないか?」
「そんな証拠ねえだろ、ああん!? つか、ぶつかったのは事実なんだから、この女が弁償するのは当然のことだろ!?」
「そうだな。百歩譲ってぶつかったのが彼女だけの落ち度だとして、お前の服……そんなに高いのか?」
服の価値なんてよくわからないが、この服が50万もする大層お高い代物とは思えない。
俺のよく着る部屋着と同じレベルだろ。
「俺が50万って言ってんだから50万なんだよ! 文句なんて受け付けねえ!」
「なんだそれ。話にならないな」
一方的な言い分のみを口にする男を無視して、困惑している彼女に声をかける。
「大丈夫ですか?」
「え、ええ……あなた、どうしてここに」
「ランニング中です。少し小腹が空いたので街の方まで来たら、麗子さんがこいつらに絡まれているのが目に入ったので」
「──おいッ!」
肩を掴まれ振り向かされる。
どうやら無視したことに腹を立てているらしく、ここからは会話は不要で暴力という手段に出るようだ。
「舐めた野郎が、テメェはお呼びじゃねえんだよおッ!」
振り下ろした拳。
ただ速度は目で追える程度で力任せのパンチだ。
地下闘技場であれば、この程度の攻撃ならカウンターですぐ気を失わせられるが……。
「チッ、ちょこまか避けやがってぇ……ッ!」
反撃することはせず、ただひたすら力任せのパンチを避け続けた。
すると、周囲で我関せずだった観客がこちらを見て歓声を浴びせる。
まるでショーのようだ。
頭をタコみたいに真っ赤にさせた男が攻撃して、俺が余裕の表情で全て避ける。
「くそッ! くそお……ッ! おい、お前ら、なにボケッと見てんだ! こいつを後ろから抑えろ!」
「え、あっ、うん!」
取り巻きの二人が俺の背後を狙う。
反撃せず避けるだけというのは、どうもイライラしてくるな。
そう思っていると、
「おい、仲間を頼んな、卑怯だぞ!」
「さっきまでの威勢はどうしたんだ、兄ちゃんよお!」
一人が声を発したら他の誰かが声を発し、周囲の外野が一斉に騒ぎ出す。
こういう現象は近年ではよくあることだ。
締め付けられた環境で、現実だろうがネットの世界だろうが、誰かが攻撃を始めると第三者が騒ぎ出す。
日頃から溜まっているストレスを、この善悪がはっきりしている場面で発散させようって魂胆だろう。
あまり好かないが、今はその流れに身を任せるとするか。
「な、なんだよ、これ……おい、テメェら、見せ物じゃねえぞ! おい、撮ってんじねえ!」
男が観客に向かって歩き出す。
他の仲間たちはどうすればいいのか狼狽えるばかり。
「あいつらがよそ見している間に逃げますよ」
「え、あ……」
麗子の手を掴み、人込みを駆け抜ける。
追って来る者もおらず、彼女が俺の手を振りほどこうとすることもなかった。
──そしてしばらく歩いた後。
「あ、あの、手を……手を離してちょうだい!」
自宅付近まで着いた頃、ようやく掴まれていた手を麗子は振りほどいた。
「あっ、ご、ごめんなさい……助けてもらったのに失礼な言い方を。ただその、こんなところを誰かに見られでもしたら」
最悪の光景を思い浮かべたのだろう。
俺は振り返り、笑顔を浮かべた。
「ああ、すみません。そこまで気が回らなくて。今の時代、こういうので誤解されたら大変ですもんね」
「……その、助けてもらったのにこんなこと言ってごめんなさい。それに、ありがとうございます」
今までの態度が嘘のようだ。
まあ、あの男連中にも最初は誠意を込めて謝罪していたところを見るかぎり、それはそれ、これはこれと使い分けるタイプで、何より真面目で誠実なタイプの人間なのだろう。
申し訳ないから謝罪する。
感謝しているからお礼を言う。
彼女にとっては当たり前のことなのだろう。
「別に気にしないでください。まあ、あんな露骨に吹っ掛けてくる連中は久しぶりに見ましたけど」
「……ええ、そうね。でも私の不注意でコーヒーをかけてしまったのは事実だから、申し訳ないことをしたわね」
「真面目ですね」
素直な言葉が出た。
「そういう性格だもの。でも意外ね、どうしてやり返さなかったの? 前にボクシング選手だって言っていたから」
「覚えていたんですか。まあ、プロが素人を殴って問題に……なんてことになったら大変ですから」
そう答えると、麗子は驚いたような表情を浮かべたが、すぐに申し訳なさそうな表情に変わった。
「あなたのこと、誤解していたみたいね……。ごめんなさい」