※二人目のターゲット
中学高校と生徒会長を務め、学生時代から変わらずの黒髪ロングで、見た目通りの真面目で堅物な性格。
職業は大手女性ファッション誌の出版社に勤める副編集長。
数か月前までは編集長だったが、不祥事を起こして編集長から副編集長になった。
その不祥事というのが、別の部署で編集者として勤務していた夫が、職場の女性と不倫して逮捕されたというもの。
今も逮捕されている夫の愚痴も吐かず真面目に職務に励む彼女だが、毎日のように同僚や部下から陰口を叩かれ、時に笑い者にされてかなりストレスを溜めている。
そのため、浮気・不倫を毛嫌いしており、接触した場合は通報する恐れがある。
恋愛経験は乏しく、交際人数は三人だけ。
その内、性行為をしたことのある相手は職場で出会って結婚した旦那のみ。
けれど性欲は強く、結婚生活で旦那よりも彼女の方から誘う回数は多かった。
お堅い見た目だがベッドの上では大胆で、一度発情すると自分を抑えられなくなる。
お酒に弱く、付き合いの席では呑まないか断ることが多い。
日常的に溜まったストレスを愛用のおもちゃを使って解消しているが、溜まる一方で、愚痴を吐ける気の置ける友人はいない。
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「何かお礼をさせてちょうだい。それと、これまでの貴方に対しての数々の非礼のお詫びも」
「いや、そんなのいいですよ!」
「駄目よ。それだと私のプライドが許さない」
今までの日本であれば、そのお礼やお詫びで簡単にホテルまでの道筋に繋げられた。というより、こんな文言は下心無しなんてありえなかった。
だが、今の時代の、それも旦那のいる女性が口にするこの文言に下心は無い。
おそらくはお礼やお詫びを”モノ”だと彼女は思っているのだろう。
「……じゃあ、ご飯ご馳走してください」
「え、ご、ご飯!?」
「引っ越してきたばかりでこの辺のお店を知らなくて。もしよければ美味しいお酒が呑めるお店がいいです」
まさか正面から食事に誘われるとは微塵も想像していなかったのだろう。
麗子は面食らっていた。
「食事は、その……他のことじゃ、駄目かしら」
「他だと思いつかなくて、すみません。じゃあ、やっぱりお礼は──」
「わかったわ。食事……食事に行くだけなら」
自分から言い出したことだから退けなくなったのか。
それともさっきのたった一回だけの善行で俺への評価が変わったのか。
まあ、どっちもだろう。
少し前までだったら絶対に断られていただろうが、今の弱った麗子はこの誘いに乗ってくれた。
「お酒が吞めるとこだったわよね……。でも、私もあまりお店を知らなくて。だから私がよく一人で行くお店で良かったらだけど」
「もちろん! いやー、良かった。実は今月あまりお金もなくって……」
笑って告げると、麗子さんは呆れたように大きくため息をつく。
「それなのにうちのマンションで暮らしているの? まったく、不思議な子ね」
不思議な”子”か。
あくまでも年下の男の子って感じか。
まあ、年齢を見ればそうなのだが、果たしてその印象がいつ逆転するのか。
楽しみだ。
「じゃあ、行きましょうか」
麗子さんはそう言うと歩き出す。
左手の薬指にはめた指輪を触り、俺に見えないように外した。
その行動は『不倫OK』と俺に無言の合図を送っているようなものだが、彼女としては、第三者に誤解されないようにという配慮なのだろう。
早く犯したい気持ちを抑えて、俺は好青年の顔をして麗子さんに付いて行く。
♦
一人でよく通う行きつけのお店と言っていたから、俺としてはお洒落なバーか何処かだと思っていた。
だが到着したのは──大衆居酒屋だった。
いやいや、なんの冗談だよとか思っていたが、実際に席に着くと定員さんは「いつものっすねー!」みたいな慣れた対応していた。
「麗子さんって、意外とこういうお店に来るんですね」
「意外ってどういうこと? 私だって来るわよ。安くて、美味しくて……まあ、いつもこの時間だから、一人でいると浮いちゃうけど」
「周りも麗子さんみたいなスーツを着たサラリーマンが多いけど、女性が、しかも一人ってなると他にいないですもんね」
「……」
「ま、まあ、いいと思いますよ! じゃあ、乾杯!」
レディーススーツを着た女性の行きつけが大衆居酒屋とは。
面食らったが、俺と麗子さんはビールのグラスを鳴らす。
これまでの彼女への印象は真面目で堅物で、学生時代に一人はいたずっと本を読んでいそうな女性だと思っていた。
だがこうして一緒に酒を呑んでいると、意外とユーモアのある話をしていて楽しい女性なんだと思った。
それに、
「それでね、あの子たち私が聞いているのにも気付かないでなんて言ったか知ってる? おかずだって! 私がおかずだって、そう言ったのよ!? 信じられる!?」
「麗子さん、声、声でかいですって……」
「もう頭に来ちゃって! なんで男ってすぐ──」
どうやらかなりのストレスが溜まっていたようだ。
旦那に不倫され、文句の言いたいその旦那は逮捕され、残された彼女は職場で腫れ物扱いされた。
きっと愚痴を吐ける相手もいないのだろう。
その溜まった愚痴を全て吐かれるのを、俺はドン引きしながら聞いていた。
良かったのか、悪かったのか。
ここまでなら他人の愚痴に付き合わされて悪かったかもしれないが、俺は知っている。
こういう女は堕としやすい。
すっかりお互いの間にあった壁も壊れ、酒の進む勢いも早くなっている。
呂律は既に上手く回っておらず、一人で歩くのも難しい。
「麗子さん、この辺で……」
「まだよ! まだ、吞める……お酒、呑みたい!」
「でも、もう歩けてないですよ?」
「嫌よ! だって、久しぶりに楽しいんだもん……こうして、誰かに話を聞いてもらえて」
「……わかりました。じゃあ、場所を変えましょうか」
「そうこなくっちゃ! 途中で帰ったら、許さないわよ!」
「はいはい、わかりましたよ」
きっと、今の彼女の頭には不倫はダメだなんて文字はない。