※二人目のターゲット
中学高校と生徒会長を務め、学生時代から変わらずの黒髪ロングで、見た目通りの真面目で堅物な性格。
職業は大手女性ファッション誌の出版社に勤める副編集長。
数か月前までは編集長だったが、不祥事を起こして編集長から副編集長になった。
その不祥事というのが、別の部署で編集者として勤務していた夫が、職場の女性と不倫して逮捕されたというもの。
今も逮捕されている夫の愚痴も吐かず真面目に職務に励む彼女だが、毎日のように同僚や部下から陰口を叩かれ、時に笑い者にされてかなりストレスを溜めている。
そのため、浮気・不倫を毛嫌いしており、接触した場合は通報する恐れがある。
恋愛経験は乏しく、交際人数は三人だけ。
その内、性行為をしたことのある相手は職場で出会って結婚した旦那のみ。
けれど性欲は強く、結婚生活で旦那よりも彼女の方から誘う回数は多かった。
お堅い見た目だがベッドの上では大胆で、一度発情すると自分を抑えられなくなる。
お酒に弱く、付き合いの席では呑まないか断ることが多い。
日常的に溜まったストレスを愛用のおもちゃを使って解消しているが、溜まる一方で、愚痴を吐ける気の置ける友人はいない。
♦
──ピンポーン。
18時、外が暗くなり始めた頃。
佐代子以外の来客のない俺の部屋のインターホンが鳴った。
玄関の扉を開けると、
「いらっしゃい、麗子さん」
「……」
仕事帰りであろうレディーススーツの麗子さんは、俯いたままそこに立っていた。
「どうぞ?」
「……」
何も言わず部屋の中へ。
鍵を閉めると、彼女の全身がビクッと反応する。
何の家具も置いていないリビングを抜け、寝る為だけの部屋と化した寝室へ。
昨日、佐代子を虐めていたベッドに俺が座ると、彼女は立ったまま口を開く。
「……お願い、消して」
何を言っているのか一瞬だがわからなかった。
「消して? ああ、酔ったときの写真をってことですか?」
「──ッ! や、やっぱり、撮っていたのね……最低ね、あなた」
「ん?」
「酔った女性を襲って、写真まで……」
「んー、何を言っているのかわからないですけど、写真なんて撮ってませんよ?」
「噓よ!」
怒られても撮っていないものは撮っていない。
そしてもちろん、俺と麗子の間には何の関係もない。
だが麗子は、俺がなんて言おうと信じないだろう。
「勘違いしているみたいですね。あの日は酔ったあなたを部屋まで送っただけです。家の鍵を俺に渡して開けさせたのもあなた、寝室を俺に教えてくれたのもあなた」
「だ、だけど……」
「それとも、あのまま居酒屋に捨ててきた方が良かったですか? 俺じゃなくて、知らない男たちに介抱された方が良かったですか?」
そう問いかけると、麗子は俯いたまま黙った。
「感謝こそされても、そんな風に怒鳴られる筋合いはないですよ?」
「……ごめんなさい」
「わかってくれたならいいです。座りませんか、立ったまま会話もなんですから」
ベッドを叩いて座るよう促すと、彼女は離れたとこに座った。
「じゃあ、本当に私とあなたは何もしていないのよね……?」
「ええ、もちろん。といっても、何の証拠もないですが」
「そ、そうなの。ならいいの……」
安心した表情を浮かべる麗子さん。
「と、ところで、あなたと佐代子さんって、その……」
「関係ですか? 昨日、見てもらった通りの関係ですよ」
「そうなのね。……誰かにバレたらどうするの?」
「さあ」
「さあって。いい、もし誰かに見られて通報されたら、二人とも逮捕されるのよ?」
「ですね。でも、佐代子はこの関係を望んでいるんで」
そう答えると、麗子は呆れたようなため息をつく。
「望んでいるからといって、不倫は法律で行ってはいけないことと決められているの。今すぐ止めなさい、それがあなたたちの為なのよ」
「それ、俺じゃなくて佐代子に言ってあげてください。まあ、彼女はあなたの言葉なんて聞かないと思いますが」
「どうして!?」
「元の生活が退屈だからです。仕事で家に帰らない老人の旦那。しかも帰ってきても会話もない。そんな退屈な旦那との生活に戻ろうなんて、佐代子が選ぶとは思いません」
「……じゃあ、離婚したらいいじゃない」
「確かにそうですね。今の裕福な人生を捨てて、女一人で生きていったらいいですね」
離婚しない夫婦の考えなんて色々だ。
金銭だけの関係であれば離婚という選択肢はできない。
子供がいれば面倒や養育費のこと、子供の将来の為。
残酷だが、夫婦になったからといって全員が幸せとは限らない。
「まあ、佐代子の場合は不倫っていう背徳感を楽しんでいるのもありますが。そういう人はたくさんいますから」
「……」
「失礼ですが、旦那さんもその一人だったんですよね?」
「……佐代子さんから聞いたのね」
正確には違うが、そこを訂正する必要はない。
「そう、かもしれないわね。だけど……だけど、きっと気の迷いなのよ。あの人に面会に行ったとき、反省していたから」
聞いてもいない言い訳を口にするのは、麗子が旦那のしたことを”旦那が後悔している過ち”だと信じ込みたいからなのだろう。
俺からしたら、そうは思わないが。
「じゃあ、戻ってきたら二度と旦那さんは不倫しないと?」
「……ええ。私は、そう信じているわ」
「いい奥さんですね。でも、旦那さんはまたすると思いますよ。不倫には、不倫でしか味わえない快楽がありますから」