※三人目のターゲット
渚美奈ナギサミオ、20才。
石破大学に通う二年生。
家族構成は父と母と三奈の三人家族。
父と母は小さな工場を営む。
経営状況はそこまで良くはなく、いつ倒産してもおかしくなかった。
それでも今日まで続けてきたのは、他に行き場のない従業員がいる為、なんとか踏ん張っている状況。
三奈は大学進学と共に上京。
大学にて、石嶋風雅イシジマフウガと出会う。
三奈の両親の営む工場は、石嶋グループと呼ばれる大企業から融資を受けていた。
この融資が断ち切られると工場はあっという間に倒産する。
そのことを知った石嶋から、工場への融資をネタに恋人(セフレ)になるよう脅され、従うことに。
容姿は快活な雰囲気のある茶色のポニーテール。
学生時代はテニス部ということもあって、健康的な体型。
大学でつるんでいる連中が派手で騒がしい者が多いが、三奈自身は誰にでも優しいことから、大学でのファンも多い。
依頼人は大学の学友で、寝取るだけでなく石嶋と別れさせてほしいという要望。
♦
「はじめまして、君のことは佐夜子さんから聞いてるよ。今日からよろしくね」
「よ、よろしくお願いします!」
「さっそく仕事の説明だけど──」
私の家の全体よりもずっと広いリビングに、高所から辺りを一望できるガラス張りの窓。
リビングだけでも広いのに他に部屋が複数。
トレーニングスペースもあり。
お風呂場は室内と屋外に一つずつと、小さなサウナ施設が一つ。
すぐにわかった、世界でもほんの一握りしかいない富裕層が暮らす家だと。
「──と、お願いしたいのはこんなとこかな。分からないこととか、できないこととかある?」
「い、いえ、それぐらいなら大丈夫かと……」
「じゃあ、お願いね。俺はトレーニングがあるから」
玄栖さんは軽い自己紹介と仕事内容の説明をしてリビングを後にする。
仕事内容は全ての部屋の掃除がメインで、あとは細々とした雑用ぐらい。
これなら私一人でもできるかなって感じの内容になっていた。
「それにしても、見た目よりも優しい感じの人っぽくて良かった……」
見た目はオラついた感じだけど、言葉遣いとか口調は優しい感じだった。
それに私を緊張させないようにか、話すときに笑顔を浮かべてくれる。
「ああいう、ギャップに弱い女の子ならイチコロだろうなあ」
私も嫌いではないけど、まあ、彼氏持ちなので。
まあ、彼氏って呼べる彼氏じゃないけどさ。
と、そんな馬鹿なことを考えながら仕事を始める。
…………。
……。
「よし、こんなとこかな」
言われた部屋の掃除は一通り終わらせられた。
時間は、この家に来たのが10時で今が13時だから3時間ぐらいか。
「これで日給、30000円かあ……。なんか、簡単すぎて不安になってきちゃうよ」
好待遇だというのはわかっていたけど、それでもたった3時間で30000円は貰い過ぎな気がして仕方ない。
だって居酒屋バイトの一週間分ぐらいだもん。
部屋がいくつもあるのと、一人でっていうのは大変だったけど。
「なんか他にできるお仕事ないかな?」
玄栖さんに何かできることはないか聞こうと思って、掃除しなくていいと言われているトレーニング部屋に向かう。
中から物音が聞こえる。
まだ使用中だと思うけど、そういえばトレーナーの先生が来ているんだったかな。
「すみませ……」
恐る恐るといった感じで扉を少しだけ開けると、密閉されていた空間から熱気が勢いよく流れ込んでくる。
温い熱風、それに匂い。
そして部屋の中で行われている、スパーリング練習。
優しい笑顔を向けてくれた玄栖さんが、真剣な表情でミットに拳を打ち付けている姿。
「あ……」
見惚れた。
別にシュッとした顔の男性が好きとか、筋肉質な体型の男性が好きとか、そういうのは確かにあった。
だけどそれ以前に、トレーニング中の玄栖さんは男性としてかっこいいと思った。
女として、全身が一瞬で熱くなった。
「ん?」
玄栖さんよりも縦にも横にも大きいトレーナーさんが私を見た。
その瞬間──。
「ぐあ……ッ!?」
よそ見していたトレーナーさんの顎に、玄栖さんの拳が力強く当たる。
地面に倒れたときに嫌な音が響き、勢いよく倒れたトレーナーさんに玄栖さんが駆け寄る。
私も慌てて駆け寄って謝る。
「すみません、私がいきなり入ったから!」
よそ見したことによって起きてしまった事故だということはすぐにわかった。
一気に冷や汗が吹きだす私を見て、トレーナーさんが引きつらせた笑顔を浮かべなら言う。
「い、いや、自分が不用意によそ見をしたせいだから気にしないで……ぐッ!」
トレーナーさんが右腕を抑える。
「鵜飼さん、もしかして、受け身をとった時に右腕を痛めましたか?」
玄栖さんの問いかけに、トレーナーの鵜飼さんが申し訳なさそうに頷く。
「折れてはいないと思うんですが、すみません……」
「いえ、気にしないでください」
「あ、あの、玄栖さん、ごめんなさい!」
玄栖さんにも謝るけど、彼は怒ることなく優しい表情のまま首を左右に振る。
「スパーリング中は部屋に来ないようにって注意しなかったこっちが悪いんだ、だから気にしないでいいよ」
「でも」
「それより冷やす氷とか用意してもらっていいかな?」
「は、はい!」
急いでキッチンへ。
表情からは分からなかったけど、声色は怒っているような気がした。勘違いかもしれないけど、たぶん。
その後、トレーナーさんの治療をする。
折れてはいないみたいだけど、痛そうに腫れていた。
「この腕では明日以降のスパーリングは……。すみません、玄栖さん。試合も近いというのに」
「自分のことは気にしないでください」
「明日からのトレーニングは別の者を用意しますので。……あ、そうだ、トレーニング後にいつもしているマッサージ」
思い出したようにトレーナーさんが言う。
「すぐに別の者を手配しますので」
「いえ、今日のマッサージは無しで大丈夫ですから。それよりも鵜飼さんは病院へ行ってください」
「ですが」
「あ、あの」
恐る恐る手を上げる。
「そのマッサージ、私でよければ代わりにやらせてもらえませんか!?」