※この作品はR-18です。

モブおじ精液でレベルアップ!? ~でも好みのショタっ子しか手助けしません!!~   作:とけそうだら

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第二十五話 ニーシャと猫耳ポーション④

 扉をくぐった瞬間、世界の手触りが変わった。

 

 回廊の湿気も、訓練場の白さもない。

 温度そのものが抜き取られ、音の輪郭だけが残っている。

 

 ――静かすぎる。

 

 空間は丸い。

 天井も床も壁も境目が曖昧で、暗い水の中にいるみたいに距離感が狂う。

 色は黒ではなく、薄い灰。

 

 光があるのに影がない。

 影がないのに、どこかが“怖い”。

 

《……なあオッサン。ここ、変だ》

 

「分かっとる。鼻が利く商人ほど、こういう空気は嫌いだ」

 

 エクセリオンの声が珍しく低い。

 いつもの悪態が薄いぶんだけ、背筋に冷たいものが走る。

 

 中央に、何かが浮いていた。

 

 人の形。

 小さな少年――いや、“少年だったもの”。

 

 ニーシャだ。

 

 目を閉じたまま、無重力のように空中に浮かんでいる。

 金髪は水草みたいにゆらゆら揺れ、頬は陶器のように白い。

 

 そして頭には――猫の耳。

 柔らかい毛並みの、ネコミミがぴんと立っていた。

 

 背中側に、影の尾が一筋だけ垂れている。

 尾は実体を持たず、煙のように揺らぎ、時折ぷつりと切れてはまた繋がる。

 

「……猫と絡まった、ってのは比喩じゃなかったんだな」

 

《比喩じゃねえ。実害だ》

 

 エクセリオンが吐き捨てる。

 だが、その声音にも焦りが混じっている。

 

 ニーシャの周囲には、薄い膜のようなものが張っていた。

 透明だが、触れれば指がちくりと痛む――心を拒む、棘の膜。

 

 モーブルは一歩踏み出した。

 空間がきしむ。

 床がないはずなのに足裏に圧が返り、音が鳴る。

 

「坊っちゃん。聞こえるか。……迎えに来たぞ」

 

 返事はない。

 眠っているというより、遠くへ沈んでいる。

 深い水底へ。

 

 その時、膜の向こう側で、ネコミミがぴくりと動いた。

 

《反応したぞ》

 

「なら、今だ」

 

 モーブルは手を伸ばす。

 指先が膜に触れた瞬間――

 

 ズン、と空気が落ちた。

 

 落ちたのは温度じゃない。

 “気分”だ。

 

 世界の底が抜け、暗い感情が一斉に噴き上がる。

 黒い煤のようなものが、床も天井も関係なく渦を巻いて襲ってきた。

 

《来やがった! “拒絶”のやつだ!》

 

 エクセリオンが舌打ちし、モーブルの前に立つ。

 闇が形を持つ。触手のように伸び、壁のように広がり、針のように突き刺さる。

 

 だが、刺さるのは肉体じゃない。

 刺さるのは“心”だ。

 

 モーブルの胸に、言葉にならない冷たさが流れ込んだ。

 誰かの声がする。

 自分の声じゃない。

 

 ――要らない。

 ――近寄るな。

 ――また奪う気か。

 

「……っ」

 

 息が止まった。

 空気を吸っているのに、肺が満たされない。

 

 闇の中に、景色が混じる。

 紙の匂い。

 冷たい書斎。

 白砂の訓練場。

 そして、そのどれとも違う“夜”。

 

 月のない庭。

 草の匂いが湿っている。

 小さな墓標――いや、墓標の代わりに置かれた、壊れた首輪。

 

 白い毛並みが、もう動かない。

 

「……ノーン……?」

 

 モーブルが呟くと、闇がいっそう濃くなる。

 痛みの中心を当てたからだ。

 

 ニーシャの膜の向こうで、表情がわずかに歪んだ。

 目は閉じたままなのに、眉だけが寄る。

 そして、少年の唇が動く。

 

『……来るな』

 

 声は小さく、鋭かった。

 刃物みたいに短い拒絶。

 

「坊っちゃん、わしらは――」

 

『来るな!』

 

 絶叫ではない。

 なのに空間が割れた。

 薄いガラスが砕けるように、見えない圧が跳ねた。

 

 モーブルの体が弾かれ、数歩分、後ろへ滑る。

 現実の床はないのに、転びそうになる感覚だけがある。

 

《おい、落ち着け! こいつは今、外と繋がるのを怖がってる!》

 

「怖がってる? ……拒んでいるんじゃなくてか」

 

《同じだが違う。拒絶は防御だ。奪われた奴ほど、二度と渡さねえってなる》

 

 闇が再び押し寄せる。

 今度は形が“人の顔”に似ている。

 笑いながら泣く顔。

 泣きながら笑う顔。

 

 それらが一斉に言う。

 

 ――どうせいなくなる。

 ――どうせ奪われる。

 ――だから最初から要らない。

 

 モーブルの喉が渇く。

 ここは精神世界だ。

 渇きは水分じゃない。

 希望の欠乏だ。

 

 エクセリオンが身を振り、闇を薙ぐ。

 闇が裂ける。

 だが裂けたそばから、また繋がる。

 

《切っても無駄だ。こいつ、“感情”そのものだぞ》

 

「なら、どうする」

 

《拾うしかねえ。原因のピースを出させて回収する。……だが問題は――》

 

 エクセリオンの目線が、上を指す。

 

 ニーシャの周囲の膜が、さらに厚くなっていた。

 拒絶が拒絶を呼び、殻が固まっていく。

 

 そして、ネコミミが伏せられた。

 耳が畳まれると同時に、空間の温度がさらに下がる。

 

『……誰も、信じない』

 

 その言葉が落ちた瞬間、闇が“壁”になる。

 モーブルとエクセリオンを、中心から切り離すように。

 

 分離の間――。

 名前どおり、世界が“分ける”ことを選び始めた。

 

《ラース! 聞こえるか! 介入しろ!》

 

 エクセリオンが虚空に向かって怒鳴る。

 次の瞬間、上から温もりが降った。

 薄い金の光。

 ラースの誘導だ。

 

 温もりは闇を押し返し、膜の表面を撫でる。

 だが――届かない。

 

 膜が拒むのは闇だけではない。

 “優しさ”も拒む。

 

 金の光が触れた場所から、じゅっと音がした。

 温もりが蒸発するみたいに、光が削れていく。

 

《チッ……! こいつ、癒やしを毒だと思ってやがる!》

 

「癒やしを……毒に?」

 

《優しさで釣って、後で奪われた記憶がある。そういう奴は“温もり”に噛みつく》

 

 ラースの光が強くなる。

 だが強くするほど、膜の棘が立ち、闇が暴れる。

 

 モーブルは歯を食いしばった。

 正面から押せば押すほど、少年は閉じる。

 

 ――なら、商売の基本だ。

 正面で売れないなら、横から回す。

 裏を取る。

 

「エクセリオン。ここは“分離”の間だと言ったな」

 

《ああ、言ったが》

 

「なら、切り離されとるのはわしらだけじゃない。坊っちゃん自身も、何かから切り離された。……その“切れ目”があるはずだ」

 

 エクセリオンが一瞬黙る。

 罵声より先に、理解が来た。

 

《……“死別”か》

 

 モーブルは頷いた。

 闇の中で見えた景色――壊れた首輪。

 動かない白い毛並み。

 あれが真ん中だ。

 

「ノーンを失った夜。あそこが、分離の原点だ」

 

《だったら、その場面に潜れ。だが――》

 

「だが?」

 

《こいつは“見る”だけじゃ済まねえ。今の拒絶は、記憶を守るための暴力だ。触れたら、お前の心が裂かれる》

 

「裂かれてなんぼだ。商人は、損を引き受けて利益を取る」

 

《カッコつけんな、オッサン。……死ぬなよ》

 

「お前に言われたくないわ」

 

 モーブルは一歩、闇へ踏み込んだ。

 煤のような感情が体を舐め、耳元で囁く。

 

 ――帰れ。

 ――奪うな。

 ――二度と、誰も。

 

 それでも進む。

 闇の中心へ。

 拒絶の核へ。

 

 すると、世界が“場面”を吐き出した。

 

 夜。庭。湿った草。

 小さな手。震える指。

 白い毛並み――ノーン。動かない。

 

 幼いニーシャが、その隣に座っていた。

 泣いていない。泣けない。

 声も出ない。息だけが、ひゅう、と漏れる。

 

『……やだ』

 

 絞り出すような声。

 否定じゃない。祈りだ。

 

『……やだ、やだ……戻って……』

 

 小さな手が、白い毛を揺らす。

 揺らしても、温度は戻らない。

 

 その瞬間、父の声が重なった。

 

『泣くな。みっともない。使い魔は装備だ。壊れたなら替えればいい』

 

 幼いニーシャの肩が、びくりと跳ねた。

 泣けない理由が、そこにある。

 

 泣いたら怒鳴られる。

 悲しんだら弱者だ。

 愛したら奪われる。

 

 だから――最初から、要らない。

 

 記憶のニーシャが、ゆっくり顔を上げる。

 目は真っ赤だ。

 でも涙は落ちない。

 落とせない。

 

『……もう、誰も……いらない』

 

 その言葉が、今の“分離の間”へ繋がる。

 拒絶の根。

 闇の井戸。

 

 モーブルは、胸の奥がきりきりと痛むのを感じながら、そっと言った。

 

「……坊っちゃん。そりゃあ、誰だって閉じる。閉じて当たり前だ」

 

 返事はない。

 だが、闇が一瞬だけ揺れた。

 

 ラースの温もりが、上から差し込む。

 相変わらず膜に削られ、細くなる。

 それでも、消えない。

 

《オッサン! 何か掴め! 鍵穴を出させろ!》

 

「分かっとる……!」

 

 モーブルは、記憶の中の幼いニーシャへ――届かないと知りながら手を伸ばした。

 

 触れた瞬間。

 

 痛みが走る。

 胸を裂く痛み。

 喉を焼く痛み。

 

 “失った”という一点に凝縮された、子供には大きすぎる痛み。

 

 だが、その痛みの中に――小さな形がある。

 

 それは悲しみの核。

 拒絶の理由。

 守れなかった後悔。

 

 そして、守りたいと願った証。

 

 闇の底で、金の線がひと筋、走った。

 白い世界には似合わない、細い細い“鍵穴”の輪郭。

 

 膜が、ほんのわずかに薄くなる。

 ネコミミ姿のニーシャの頬が、微かに緩んだように見えた。

 

『……やだ……奪うな……』

 

 拒絶はまだ強い。

 だが、扉の鍵は――確かにそこにある。

 

 モーブルは血の味のする息を吐き、掌を握り込んだ。

 

「……拾うぞ。坊っちゃんの“別れ”を。……そして、戻す」

 

 闇が、最後の抵抗のようにうねりを上げる。

 ラースの光が、必死に差し込む。

 エクセリオンが怒鳴る。

 

《潰されんな! ここが山場だ!》

 

 分離の間の中心で、金の線がもう一度脈打った。

 次の欠片が落ちる――その直前、世界が息を止める。

 

 ネコミミの少年が、閉じた瞼の奥で、初めて“涙の形”を作りかけた。

 

 ――しかし、落ちない。

 落とすことを、まだ許せない。

 

 だからこそ、闇は濃く、重い。

 

 そして、拒絶が告げる。

 

『……触るな。近づくな。……ボクから、奪うな』

 

 モーブルは一度だけ目を閉じた。

 商人の計算を捨て、ただ人間として、言う。

 

「奪わん。……取り返しに来た」

 

 闇が、きし、と軋む。

 鍵穴の輪郭が、もう一段だけ鮮やかになった。

 

 だが、まだ足りない。

 

 “分離”を解くには、最後の一押しが要る。

 ラースの温もりだけでは届かない。

 エクセリオンの力技でも壊せない。

 

 必要なのは――ニーシャ自身が、ほんの少しだけ「外を見ていい」と思える理由。

 

 その理由を、モーブルは今から探す。

 

 

 

◆

 

 

 分離の間が、ひとつ息を吐いた。

 

 闇が膨らむ。

 煤の渦が太くなり、空間そのものが“嫌悪”で満ちていく。

 

《……オッサン、来るぞ。これ以上踏み込んだら――》

 

「分かっとる。だが、今引いたら二度と手が届かん」

 

 モーブルは拳を握った。

 掌の中に、まだ形になりきらない“別れ”の感触が残っている。

 鍵穴は見えた。だが、開かない。

 涙が落ちない限り、扉は開かない。

 

 ――泣くことを許されなかった子供。

 

 その事実が、重石のように胸に沈む。

 

 ネコミミのニーシャが、ふっと唇を動かした。

 

『……理由なんて、いらない』

 

 静かな声だった。

 静かすぎて、逆に怖い。

 

『外に出たら、また失う。優しいふりをして、奪って――それで終わりだ』

 

 言葉の端々に、ノーンの死んだ夜が刺さっている。

 湿った草。冷たい首輪。動かない白い毛並み。

 そして父の声――「替えればいい」。

 

 ミッドナイトの影が、ニーシャの背中側で大きくうねった。

 尾が裂け、黒い糸になって伸びる。

 まるで「近づくな」と空間に釘を打つように。

 

《ミッドナイトだ。主人を守ってる――いや、守り方が歪んでる》

 

「守り方が……歪む?」

 

《守る=排除になってる。“傷つかせる奴は最初から消す”って回路だ》

 

 闇が壁になる。

 モーブルとエクセリオンを中心から切り離すように、円を描いて盛り上がった。

 

 壁の表面に、無数の“顔”が浮かぶ。

 泣き笑い。嘲り。憐れみ。

 優しさの顔をして、剥いだら牙の顔。

 

 ――どうせいなくなる。

 ――どうせ奪われる。

 ――だから最初から要らない。

 

「……くっ」

 

 胸の奥が乾いていく。

 希望が削れる感覚だ。

 

《ラース! 聞こえるか! 介入しろ!》

 

 エクセリオンが怒鳴った。

 

 次の瞬間、上から温もりが降ってきた。

 薄い金の光。ラースの誘導。

 

 だが光は、膜に触れた瞬間に“削れた”。

 じゅ、と音がする。温もりが蒸発するみたいに、金が薄くなる。

 

《チッ……! こいつ、癒やしを毒だと思ってやがる!》

 

「優しさを……毒に?」

 

《優しさで釣られて、後で奪われた。

 そういう奴は“温もり”に噛みつくんだよ》

 

 外側の温もりが強くなるたび、内側の棘が立つ。

 ラースの光は、じわじわと削られ――

 

 それでも、ラースは止めない。

 止められない。

 

 金の光の揺らぎが、苦痛の呼吸みたいに乱れた。

 

「……ラース、無理をするな!」

 

 返事はない。

 だが“温もり”の向こうで、何かが軋む。

 肉体が。精神が。限界を擦る音。

 

《外のラースが……潰れるぞ》

 

 エクセリオンの声が、初めて怯えた。

 

 その瞬間だった。

 

 壁が裂けた。

 

 闇が、牙をむく。

 

 ミッドナイトの影が跳び、モーブルの頭上から降り注いだ。

 触手。針。爪。

 全部が“拒絶”でできた凶器。

 

 モーブルは身を捻る。

 だが闇は避けた先へも伸びる。

 刺さるのは肉体ではなく、心だ。

 

 耳元で囁きが炸裂する。

 

 ――帰れ。

 ――奪うな。

 ――お前も、奪う側だ。

 

「……っ、違う……!」

 

 言い返した瞬間、闇が笑った。

 反論するほど、相手は“こちらが必死”だと確信する。

 

 その中心で、ネコミミのニーシャが静かに呼吸した。

 眠っているはずの胸が、ゆっくり上下する。

 

『……ミッドナイト』

 

 名を呼ぶ声。

 祈りの声。

 そして命令の声。

 

 黒猫の影が、嬉しそうに尾を揺らした。

 

 ――融合が始まった。

 

「おい……待て! それは――」

 

《やべえぞ! このままくっついたら“分離”が“縫合”になる!》

 

 黒い糸が太くなる。

 ニーシャの背へ絡み、首へ巻きつき、心臓へ沈む。

 影が“主人の中”へ流れ込む。

 

 ミッドナイトは守るために溶ける。

 主人の孤独へ、完全に同化する。

 

 ネコミミのニーシャの瞼が、ゆっくりと開いた。

 

 金色の瞳。

 だがそこにあるのは子供の光じゃない。

 夜の獣の目。

 “排除”を正義として抱いた目。

 

『……邪魔をするな』

 

 空気が焼ける匂いがした。

 

 小さな掌に赤い光が集まる。

 火球――いや、火球ではない。

 圧縮された炎が“芯”になって回転し、槍のように尖っている。

 

《来る!》

 

 ――ドォン!!

 

 爆炎が空間を薙ぎ払い、闇の壁すら赤く焼いた。

 精神世界なのに、魂が焦げる錯覚が走る。

 いや、錯覚じゃない。

 熱が“心”に直接触れてくる。

 

 モーブルは跳び退き、熱風を喉で噛み潰した。

 

「坊っちゃん! 正気に戻れ!」

 

『戻る? どこに?』

 

 首を傾げる仕草だけが幼い。

 だが目が冷たい。

 

『戻ったら、また奪われる。

 だから、いらない』

 

 爆炎が連射される。

 炎は“効率”で研がれている。無駄がない。

 避けても避けても、狭い隙間へ刺さってくる。

 

《クソッ……! ラースが持たねえ!》

 

 上からの温もりが、途切れかけた。

 金の光が震え、薄くなり、今にも消える。

 

 ――外でラースが悲鳴を上げている。

 その気配が、温もりの形で伝わってきた。

 

《オッサン、撤退だ! このままだとラースが先に死ぬ!》

 

「……!」

 

 撤退。

 その判断が正しいのは分かる。

 だが正しい判断が、必ずしも“救い”を連れてこないことも――商人は知っている。

 

 ネコミミのニーシャが、両手を広げた。

 赤い光が膨張し、球ではなく“炉”のように渦を巻く。

 

《次で焼き切られる! 引け、オッサン!!》

 

 エクセリオンが叫んだ。

 声がかすれている。珍しく、必死だ。

 

 モーブルは歯を食いしばった。

 

「……まだだ」

 

《はぁ!?》

 

「坊っちゃんは、いま“温もり”に噛みつく。

 優しさを毒だと思っとる。

 なら――毒でも薬でもない形で、止めるしかない」

 

《何言って――》

 

 炎の炉が回転し、空間の温度が跳ね上がった。

 とどめが来る。逃げ場はない。

 

 その瞬間、モーブルの頭に一つの手が落ちた。

 

(商売はな……相手の目を“値札”から外した瞬間に決まる)

 

 予想外。

 理解不能。

 相手の思考が止まる“一瞬”。

 

 モーブルは走った。

 焼き切られる距離へ、逆に突っ込んだ。

 

「エクセリオン。口を閉じろ」

 

《は?》

 

「黙れ。……恥は、命より安い」

 

《オッサン!?》

 

 モーブルは、服に手をかけた。

 

「こういう時は――商人は“身ぐるみ”を売るもんだ!」

 

 バサッ。

 商人服が落ちた。

 下着も、見栄も、社会的な立場も、全部まとめて脱ぎ捨てる勢いで。

 

《なっ――!? 何してやがる、この変態!!》

 

 エクセリオンの絶叫が脳内に響く。

 だが、モーブルは止まらない。

 

 その瞬間。

 

 ネコミミのニーシャの炎が、ピタリと止まった。

 

 金色の獣の瞳が見開かれる。

 拒絶の壁が、一瞬だけ薄くなる。

 “理解不能”な事態を前に、排除の回路がフリーズしたのだ。

 

『…………え?』

 

 たった一拍。

 けれど、百戦錬磨の商人には十分すぎる隙だった。

 

 モーブルは巨体を揺らしダッシュで駆け抜け距離を詰め、腕を伸ばし――抱き寄せた。

 

「ニーシャくん! するぞ! セックスだ!」

 

 冷たい。

 軽い。

 抱きしめた腕の中で、少年の体が小さく震えた。

 炎の熱さは消え、代わりに氷のような孤独の温度が伝わってくる。

 

 闇がざわめく。

 ミッドナイトの影が牙を剥き、モーブルを引き剥がそうと背中に爪を立てる。

 激痛が走る。

 だが、モーブルの腕は鉄の万力のように離れない。

 

『……な、なにを……離せ、汚らわしい……!』

 

 ニーシャが身をよじる。

 拒絶の力が爆発しようとした、その時。

 

 モーブルは、少年の唇を塞いだ。

 

『――んんッ!?』

 

 言葉を封じ、息を奪う。

 ただのキスではない。

 魂の呼吸を合わせるような、深く、乱暴な口づけ。

 

『ひゃめっッ!? んむっ! ちゅぶっ、れろっ、ぐちゅっ、れろれろ、じゅぼれろぉっ!」

 

《おいオッサン! セックスって……正気か!? 相手は暴走した精神体だぞ!》

 

「ちゅぽん! いいから貴様は黙って指くわえて見てろ!」

 

『うぅ……。くすぐったい……にゃ……』

 

 ニーシャが小さな声で呟き、身をよじった。

 モーブルは慈しむように、けれど捕食者が獲物を味わうような粘着質さで――唇を重ねる。

 

 んちゅ……ちゅぷ……。

 

 初めのキスとは違って軽く、甘露を吸うように。

 ニーシャの唇はマシュマロのように柔らかく、吐息からはあどけない薬草の香りがした。

 少年はくすぐったそうに身をよじったが、すぐに喉の奥でエンジンのような振動が生まれ始める。

 

「ん……にゃ……ぁ……♡ くすぐったい……やめ……にゃ……♡」

 

 猫のような甘い鳴き声。

 拒絶の言葉を吐いているはずなのに、その響きはどうしようもなく甘えている。

 モーブルは言葉を無視し、強引に舌をねじ込んだ。

 逃げる小さな舌を執拗に追い回し、絡め取り、口内の粘膜すべてを塗り替える勢いで蹂躙する。

 

「うにゃっ……! んむぅ……♡ くすぐったいのに……変な感じ……♡」

 

 ニーシャの身体がびくんと震え、猫耳がぴくぴくと忙しなく動く。

 普段のプライドの高いニーシャなら、絶対に許さない行為だ。

 モーブルは内心で、背筋が粟立つほどの悦びを感じていた。

 この魔導国の至宝たる天才少年が、こんなに無防備に、くすぐったがりながらも自分を受け入れている。普段の傲慢不遜な態度からは想像もつかない。

 そのギャップこそが、モーブルにとっては最高の媚薬だった。

 

「ふへへ、くすぐったいか? いいんだよ、ニーシャくん。今日は特別だ。普通なら絶対に言わないようなこと、たくさん言わせてやるからなー♡」

 

 モーブルはキスを深くしながら、手をニーシャの首筋へ滑らせた。

 白い肌を指先でねっとりと撫で、華奢な鎖骨のくぼみをなぞる。

 ニーシャの身体がまたびくんと跳ね、尻尾が無意識にモーブルの腕へ絡みついた。

 

「にゃはっ……! そこ……くすぐったい……にゃ……♡ やめて……動かないで……♡♡」

 

 くすぐったがるニーシャを、モーブルは体重をかけて強引に押さえつける。

 少年の細い手首を片手でまとめて掴み、もう片方の手で、薄い胸の突起を探り当てた。

 未成熟な小さな突起を指で摘み、優しく、意地悪に転がす。

 

「にゃうっ……♡ あっ……♡ そこ……変……♡♡ くすぐったいのに……熱い……♡」

 

 ニーシャの声色が、少しずつ“熱”を帯びて変わっていく。

 普段の理性的な少年なら、絶対にこんな声は出さない。

 モーブルはそれを耳の奥で反芻し、存分に味わう。

 指の動きを速め、突起を軽く摘まんで引っ張った。

 

「ふへへ、感じてるな? ニーシャくん、こんなおっさんに弄られて感じちゃうなんて、普段の君じゃ絶対にありえないよなァ♡ 一流の品ってのは、弄り甲斐があるもんだ」

 

「にゃ……にゃに言ってる……にゃ……♡ ボクは……そんな……♡♡」

 

 ニーシャは否定しようと身をよじるが、体は正直に反応している。

 モーブルは容赦なく手を進めた。

 胸から手を滑り落とし、平らな腹を撫で、へそのくぼみを指先でほじくるようにくすぐる。

 ニーシャの身体がまた跳ね、尻尾がバンバンとシーツを叩く。

 

「ひゃんっ……♡ お腹……くすぐったいにゃ……♡ ……やめ……♡♡」

 

 モーブルはニーシャの肌に滲んだ汗を指で拭い、ペロリと舐めた。

 塩辛く、ほのかに甘い汗の味。

 これこそが、生きているニーシャの味だ。

 

「美味いな、ニーシャくんの汗ぇ。もっと出してくれてええぞぉ。商人は『極上品』の味見は遠慮せん主義でな」

 

 モーブルは舌を伸ばし、ニーシャの身体を直接舐め始めた。

 首筋から鎖骨へ、ぬめるような舌使いで這わせ、汗を余さず舐め取る。

 ニーシャの肌は白く滑らかで、汗が珠のように光って誘っているようだった。

 

「にゃっ……♡ 舐めないで……汚い……♡ くすぐったいにゃあ……♡♡」

 

 くすぐったがるニーシャを無視し、モーブルは胸の突起を口に含んだ。

 舌先で転がし、吸い付き、軽く歯を立てる。

 電流が走ったように、ニーシャの身体がびくびくと痙攣し、甘い絶叫が漏れた。

 

 モーブルは口で愛撫しながら、もう片方の胸も手で弄り、溢れ出る反応のすべてを貪る。

 ニーシャの体液――汗、唾液、吐息、そのすべてを味わい尽くす。

 普段のプライド高い少年が、こんな屈辱的な行為を許すはずがない。

 その背徳感が、モーブルの欲をさらにどす黒く、熱く燃え上がらせていく。

 

「あわわわわ……ニーシャ様、すごいえっちです……」

 

 その光景を、精霊を介してラースは瞬きもせずに凝視していた。

 

《おいおい、見とれてる場合じゃねーぞ! おめーは不測の事態が起こったときに対処するんだ! しっかり気ぃ張って精霊を制御しとけよ!》

 

「は、はい!」

 

 ラースはしっかりと二人の姿を焼き付ける。

 精霊憑依によって黄金色に染まった瞳は、ただの情事を見ているのではない。

 唾液が繋がり、息が混ざり合うたび――二人の魂の波長が“同期(シンクロ)”していく様子を、数値のように冷徹に観測する。

 

 モーブルは唇を離さず、舌を絡ませたまま、ラースに指示を出す。

 

「んぅー……! ッぷ……ラース、聞こえるか! 貴様も触れ! ニーシャくんの身体を、熱を、魂の形を! 外から指先でしっかり感じ取れ! 治療の一環だ、遠慮するな!」

 

「え……は、はい……! 貴族様に恐れ多いですが……し、失礼いたします、ニーシャ様……治療のため、失礼しますっ……」

 

 ラースの細い指が、恐る恐るニーシャの薄い胸にある突起へ触れる。

 途端、精霊の光と肉体の刺激が同時に走り、ニーシャの身体がびくんと跳ね上がった。

 猫耳がぴくりと立つ。

 

「にゃうっ……♡!?」

 

 驚きと快楽が混ざった悲鳴。

 モーブルはニーシャの首筋に唇を這わせて吸い付き、ラースは震える手で光を注ぎながら胸を愛撫する。

 三人の荒い吐息が、少しずつ、確実に重なり始めた。

 

 背中で蠢いていた黒い影――ミッドナイトが、焦ったように揺れた。

 孤独を餌にする影が、主人が「他者」によって満たされていく光景に、本能的な恐怖と嫉妬を感じているのだ。

 

 エクセリオンの声が、儀式の進行を見守るように静かに響く。

 

 モーブルは、ニーシャの白く細い両脚をゆっくりと左右へ押し広げた。

 無防備に晒された秘所。

 桃色の蕾は、主人の拒絶の言葉とは裏腹に、すでに蜜で濡れそぼり、期待するようにヒクついている。

 まるで、これから与えられる楔を待ちわびるかのように、静かにクパクパと開閉していた。

 

『や、やだ……! 来るな、挿れるにゃ……! 壊れちゃう……!』

 

 ニーシャの悲鳴が上がる。

 それは拒絶の叫びでありながら、どこか“知っている快楽”が訪れることへの、甘い怯えを含んでいた。

 

 モーブルはニーシャの華奢な腰を万力のように掴み、亀頭を蕾にあてがうと、容赦なく腰を押し進めた。

 

 ぬぷっ、ずぷ、ずぷずぷッ。

 

 精神の世界に、湿った肉の音が響く。

 熱く脈打つ太い楔が、冷え切った少年の秘所を強引にこじ開け、貫いていく。

 

『にゃあ゛、あ゛あ゛あ゛っ――!?♡♡♡』

 

 ニーシャの喉から、声にならない絶叫が迸る。

 背中が弓なりに反り、金色のネコミミがピンと立ち、尻尾の毛が電流を受けたように逆立つ。

 

 拒絶の闇が、ドロドロと波打った。

 侵入者を排除しようとするミッドナイトの意思と、侵入者を深部まで受け入れそうになるニーシャの本能が激しくぶつかり合う。

 

 ずっぽ、ずっぽ、ずっぽ、ずっぽ、ずっぽ――!

 

 モーブルが突き上げるたびに、ニーシャを覆っていた透明な膜――心を閉ざす“棘の殻”が、内側から熱でドロドロに溶かされていく。

 

 それは痛みではない。

 恐怖でもない。

 圧倒的な“生の実感”が、摩耗し乾いた魂に直接注ぎ込まれる暴力的な救済だ。

 

「っ、う、ぅぅ……! やだ、熱い、お腹のなか……変ににゃる……!」

 

 ニーシャの瞳が潤み、獣の金色が揺らぐ。

 背後のミッドナイトの影が、悲鳴を上げるように激しく明滅した。

 

 孤独を餌にする影にとって、この強烈な接触は劇薬だ。

 他者と繋がり、満たされる感覚。

 それは“拒絶”という概念を根底から否定し、焼き尽くす行為。

 

《なるほどな……! 言葉が通じねえなら、本能でハッキングするってか! イカれた商法だが、理に適ってやがる!》

 

 エクセリオンが叫ぶ。

 

《おいラース! 聞こえるか! チャンスだ!》

 

 外――現実世界にいるラースに指示が飛ぶ。

 

《今、回路が完全に繋がった! オッサンが“パイプ”になってる! 外から弾かれてた癒やしを、オッサンの肉棒を通してガキの中に流し込め!》

 

 その指示に応えるように、精神世界のモーブルのペニスが淡く、しかし力強く発光した。

 ラースの魔力だ。現実の肉体から送られた温もりが、結合部を通じてニーシャの魂の深淵へ、奔流となって流れ込む。

 

「ぐ、おおっ……!」

 

 モーブル自身も苦悶と快楽の入り混じった声を上げる。

 自分の男根を魔力の導管にする負担は半端ではない。尿道から芯まで焼けるような熱さだ。

 だが、気持ちいい。

 ニーシャの中は、魔法の熱と肉の締め付けで、気が狂うほど気持ちいい。

 自然と、腰の動きも激しく、早くなる。

 

 熱く狭い内壁が、モーブルの肉槍を逃すまいと強烈に締めつけ、ニーシャの身体がびくんと震える。

 

「んあっ……♡ モーブル……深いにゃ……♡ お腹の奥……熱いのが、当たってる……♡♡」

 

 ニーシャの声が甘く溶け、金色の猫耳がぴくりと立ち、尻尾がモーブルの腕に絡みつく。

 

「坊っちゃん……感じるか。これが“熱”だ。お前が欲しかった温もりだ!」

 

 パン、パン、パン、パンッ!

 

 肉と肉がぶつかる湿った音が、床のない空間にリズムを刻む。

 モーブルは汗だくになりながら、少年の腰を掴み、何度も、最深部を叩くように打ち付ける。

 

『あ、あうっ、んくっ、ひぐっ……! にゃ、にゃああっ♡ すごい、来る、深いぃっ♡』

 

 ニーシャの声が変わっていく。

 拒絶の叫びが、甘い喘ぎに。

 排除の意思が、求める熱に。

 

 ラースの光とモーブルの欲望が混ざり合い、快楽が脳髄を白く焼き尽くす。

 “失うのが怖い”という理屈を、“今ここにある圧倒的な熱”が塗りつぶしていく。

 

『モー、ブル……っ! モーブル……っ!』

 

 獣の声が消え、少年の声が戻る。

 涙が、閉じた瞼から溢れ出した。

 

 モーブルはさらに強く抱きしめる。

 楔を最深部まで押し込み、己の存在を刻みつける。

 

「わしはここにおる! どこにも行かん! お前の中に、ずっとおる!」

 

 それは嘘ではない。

 物理的にも、精神的にも。

 モーブルという存在が、ニーシャの空っぽだった心の穴を埋める“栓”になったのだ。

 

 モーブルは腰の動きを速める。

 

 パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!

 

「おほほほほ♡ ニーシャくんと交尾! 従順になった猫耳ニーシャくんと交尾! おほ! 最高! 最高じゃあああ!」

 

「ああっ……♡ モーブル……すごい……♡♡ ラースの魔力……熱い……♡♡♡」

 

 ニーシャの声が高くなり、身体がびくびくと痙攣する。

 猫耳が優しく揺れ、尻尾が空気を叩く。

 

 その時、現実世界からラースの甘い懇願が響いてきた。

 精神のリンクを通して、声が脳に直接届く。

 

『旦那様……僕も……入れて……欲しいですぅ♡ 精神だけじゃ足りない……僕も、体ごとニーシャ様といっしょに感じたいです……♡♡』

 

「ぬぅ……欲しがりめ! そうか、じゃあ貴様は現実世界のわしの肉棒にケツマンコを挿れておけ! こっちで興奮してる分、現実のわしのモノも大きくなっておるだろ?」

 

『は、はい! ビンビンですぅ! では、旦那様。失礼します!』

 

 現実世界のベッドの上。

 ラースは腰を浮かすと、仰向けになったモーブルの屹立するペニスを、自らの蕾にあてがった。

 ぬるりと、モーブルの昂りがラースの内側へゆっくり沈む。

 

『あぅううううう!♡ 旦那様の、すごいですぅううう!♡ 精神ではニーシャ様と、肉体では僕と……全部繋がってますぅぅ♡』

 

「くっ、感じるぞ……ラース……ニーシャくんのと合わさって二倍に……現実と精神、両方から締め付けてくるぞ……♡」

 

 精神世界ではニーシャを突き、現実世界ではラースに跨がられ、モーブルの魂と肉体は快楽のサンドイッチ状態にあった。

 三人が完全に繋がり、魂の波長が強く共鳴する。

 精霊の光が部屋を淡く染め、ニーシャに憑依していたミッドナイトの魂が、あまりの快楽の波動に耐えきれずさらに緩む。

 

《完璧だ! 結び目がほどけ始めてる! このまま頂点まで持っていけ!》

 

 エクセリオンの声に興奮が混じり、光が強く輝く。

 モーブルは精神世界でニーシャの腰を強く抱き、現実の肉体も無意識に腰を跳ね上げる。

 ラースもモーブルを強く抱きしめ、腰を激しく動かす。

 

 パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!

 

 次元を超えた二重の交わりが、絶頂へと加速していく。

 

「くうっ、くぅぅ……! 精神のチンポも、現実のチンポも、パンパンじゃあ! 前と後ろ、夢と現(うつつ)、両方から極上の締め付けが来おる……!」

 

 モーブルの理性が弾け飛ぶ寸前だった。

 精神世界ではニーシャの未成熟で熱い肉壁が、現実世界ではラースの献身的で巧みな肛門が、示し合わせたように同時にモーブルの昂りを搾り上げている。

 

『あぁっ、んあぁっ……♡ モーブル、モーブルぅ……♡ ボクの中……いっぱい、かき混ぜてぇ……♡♡』

 

 ニーシャの瞳からハイライトが消え、快楽に蕩けた表情で涎を垂らす。

 かつての拒絶など見る影もない。

 今はただ、モーブルという存在に満たされることを至上の喜びとする、雌の顔だった。

 

『旦那様ぁ! 僕も、僕もイきそうですぅ! ニーシャ様と繋がって、魔力が、快感が、逆流してきますぅぅ♡』

 

 現実世界のラースもまた、白目を剥きかけて腰を打ち付けている。

 

《いいぞ、臨界点だ! 拒絶の殻はもうボロボロだ! オッサン、最後だ! 精液(あいのしずく)と一緒に、特大の“受容”をぶち込んでやれ!!》

 

「おうよ! 覚悟しろニーシャくん! そしてラース! わしの全てを……お前たちの魂の最深部に注ぎ込むぞおおおおっ!!」

 

 モーブルは雄叫びを上げ、渾身の力で腰を突き上げた。

 

 ドズゥゥゥゥゥゥンッ!!

 

 精神と肉体、二つの世界で同時に、楔が最奥と前立腺を穿つ。

 

『――ッ!?!? にゃ、にゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ♡♡♡♡』

 

『ひぎぃいいいいいいいいっ♡♡♡♡』

 

 ニーシャとラース、二人の絶叫が重なる。

 その瞬間、モーブルの尿道口から、白濁した熱い奔流が爆発的に射出された。

 

「で、出るぅ! 出る出る出るっ! わしの商売道具(タネ)が、全部出るぅぅぅッッ!!」

 

 ビュルルルルルッ! ドピュッ! ドピュルルルッ!

 

 精神世界ではラースの魔力を帯びた光る精液がニーシャの胎内を灼き、現実世界では生々しい雄の種がラースの直腸をどろりと満たす。

 二重の射精。

 魂と肉体、次元を超えた同時絶頂。

 

『あぁっ、熱っ、熱いぃいいい……♡ お腹、いっぱい……モーブルの、いっぱぁい……♡♡』

 

 ニーシャの身体が激しく痙攣し、白目を剥いてガクガクと震える。

 その絶頂の余韻の中で、背中に張り付いていたミッドナイトの影が、たまらず悲鳴を上げた。

 

 ギニャアアアアアッ――

 

 影がのたうち回る。

 圧倒的な“生の歓喜”と“肯定”のエネルギーに焼かれ、これ以上張り付いていられなくなったのだ。

 

 べり、べりべりべりっ!

 

 音を立てて、黒い影がニーシャから剥がれ落ちそうになる。

 だが、まだだ。

 最後の一本――未練のように伸びた黒い糸が、しぶとくニーシャの魂に食らいついている。

 

《往生際が悪ぃぞ、黒猫ォ!》

 

 エクセリオンが叫んだ。

 モーブルの背後で、聖剣の輝きが閃光となって迸る。

 

《ここからは俺の仕事だ! オッサンがこじ開けた隙間、俺が断ち切る!》

 

 ――ザンッ!

 

 光の刃が、空間ごと黒い糸を斬り裂いた。

 一切の未練を許さない、鮮やかな一閃。

 

 プツンッ。

 

 何かが切れる音が、世界に響いた。

 同時に、ニーシャの頭から猫耳が消え、尻尾が光の粒になって霧散する。

 ミッドナイトの影は弾かれたように遠くへ飛び去り、小さな黒猫の形へと戻っていった。

 

《よしっ! 分離完了だ!》

 

 エクセリオンの勝どきと同時に、空間に散らばっていた光の欠片――回収した記憶のピースたちが、一斉にニーシャの元へ集束する。

 

 ”忍耐”。”友情”。”守護”。”優しさ”。”最適化”。”喪失”。

 

 そして――。

 

 モーブルは射精の快感と疲労に打ち震えながら、薄れゆく意識の中で、最後のピースがカチリと嵌まる音を聞いた。

 

 ――”受容”。

 

 ニーシャが、他者を、自分を、そして愛されることを受け入れた瞬間だった。

 空っぽだった心の穴が、温かな光で満たされていく。

 

「……よかったな……坊っちゃん……」

 

 モーブルは満足げに呟き、光に包まれるニーシャを抱きしめたまま、深い眠りの底へと落ちていった。

 

◆

 

 チュン、チュン……。

 

 高い位置にある通気口の向こうから、微かに小鳥のさえずりが聞こえてくる。

 地下倉庫特有のひんやりとした空気の中で、モーブルは重い瞼をこじ開けた。

 

「……んぐ、腰が……腰が砕けそうだ……」

 

 場所は、モーブル商会の地下倉庫。

 殺風景な石造りの空間に場違いなほど豪奢なベッドが置かれ、その上は地獄のような、あるいは天国のような惨状と化していた。

 

 モーブルは仰向けに大の字になり、その股間にはラースが力尽きたように突っ伏している。

 無防備に晒されたラースの尻からは、白濁した液体がだらりと垂れ、シーツに背徳的な染みを作っていた。

 

 そして、モーブルの太い腕の中。

 金髪の少年が、安らかな寝息を立てていた。

 

 ニーシャだ。

 猫耳はない。

 尻尾もない。

 いつもの冷徹な仮面は剥がれ落ち、年相応よりもずっと幼く見える、無防備な寝顔があるだけだ。

 その肌は上気し、事後の艶めかしさを帯びているが、表情からはあの能面のような凍てついた孤独は消え失せていた。

 

 枕元には、小さな黒猫――ミッドナイトが、普通の猫の大きさで丸くなり、「ふぅ、ひどい目にあった」とでも言うように前足で顔を洗っている。

 

「……終わった、のか」

 

《ああ。大団円だ、デブ商人。“拒絶”は消えた。ガキの魂も元通り。ミッドナイトも正常化。……お前の息子以外は、すべて平和に解決だ》

 

「うるさいわ。わしの息子を見ろ。かわいい美少年二人を抱いて、ツヤツヤのテッカテカ、元気ピンピンのビンビンじゃわい」

 

 モーブルは苦笑し、腕の中の少年をそっと撫でた。

 大きな手が髪を梳くと、ニーシャが身じろぎし、無意識にモーブルの贅肉たっぷりの柔らかい胸へ頬をすり寄せる。

 

「……ん……モーブル……ぶよぶよ……あったかい……」

 

 寝言。

 だがそれは、もう悪夢にうなされる声ではなかった。

 心からの安心が紡いだ、幸福な寝息だ。

 

「……ゆっくり寝ろ、坊っちゃん。商談は、起きてからだ」

 

 モーブルは二度寝を決め込むように目を閉じ、ラースの頭とニーシャの頭を同時に抱き寄せた。

 高窓から差し込む細い朝の光が、埃と戯れるように三人を優しく照らしていた。

 




あけましておめでとうございます!
昨年は作品を読んでくださってありがとうございます。

今年もマイペースに投稿していこうと思います!
2026年もどうぞよろしくお願いします  
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