※この作品はR-18です。

モブおじ精液でレベルアップ!? ~でも好みのショタっ子しか手助けしません!!~   作:とけそうだら

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第三十五話 モーブルと氷窟の生贄⑥

 店奥の扉を開くと、そこから続くのは地下の闇へと伸びる石造りの階段だ。

 華やかな表の店舗とは異なる、モーブルに選ばれた特別な「上客」だけが足を踏み入れることを許される、秘密の領域(サンクチュアリ)。

 

 

「こちらへどうぞ、若様。足元にお気をつけて」

 

 

 階段を降りるにつれ、空気はひんやりと冷たく、研ぎ澄まされたものへと変質していく。

 突き当たりの重厚なマホガニーの扉を開けば、そこは地上の喧騒を完全に遮断した、秘密のVIPルームだった。

 

 一歩踏み込めば、深紅の絨毯が足音を無音のごとく吸い込む。

 壁一面に並ぶのは、堅牢な強化ガラスのショーケース。

 そこに鎮座するのは、最低でも金貨百枚はくだらない、選りすぐりの“本物”たちだ。

 

 竜の灼熱ブレスさえ無効化するという『黒竜の鱗盾』。

 名工(めいこう)ドワルゴが鍛えし、不朽の輝きを放つ『ミスリルの剣』。

 一振りで大気を裂き、紫電を撒き散らす『雷獣の鞭』。

 視線による呪いをことごとく跳ね返す、磨き抜かれた『鏡面鎧』――。

 

 さらに棚の奥には、冒険者にとって「最後の命」となる『身代わりの泥人形』や、先日ライオットを死の淵から強引に引き戻した『特級ポーション』までもが並ぶ。

 それらは最も美しく見える角度で、ミリ単位の狂いもなく幾何学的に整列されており、主人の異常なまでの几帳面さを物語っていた。

 

 部屋の中央には、王侯貴族の応接間からそのまま移設したような豪奢な革張りソファセットが、主人の到着を待つように静かに鎮座している。

 

 

「……すごい部屋」

 

 

 ライオットが興味深そうに室内を見回す。

 その灰色の瞳が、ガラスケースの中の至宝を捉え、感嘆に揺れる。

 

 

「ふふ、ここは特別な客だけが入室を許される部屋ですので。商売柄、誰にも聞かれたくない密談が必要なことも多々ありましてな。……ささ、お掛けください」

 

 

 モーブルは手慣れた動作で戸棚を開け、クリスタルグラスを二つ取り出した。

 とぷ、と注がれたのは、琥珀色に透き通る『ヴァルクリア神聖王国の白ぶどうジュース』。

 一本で金貨五枚は下らない最高級品だ。

 

 

「どうぞ、喉を潤してください。アルコールは入っていませんが、味と値段はそこらのヴィンテージワインより上ですよ」

 

「ありがとう……」

 

 

 ライオットがグラスに口をつけるのを横目に、モーブルは向かいの席へどっしりと腰を下ろした。

 ソファに深く沈み込みながら、リラックスした様子で問いかける。

 

 

「さて、若様。改めまして、ご無事で何よりです。あれからお体の方は?」

 

「……平気。モーちゃんのおかげ。傷跡も残らなかった」

 

 

 ライオットは自身の胸元をさすった。

 そこには、かつて雷撃で焼かれた痕跡があったはずだが、今はきれいな肌に戻っているということだろう。

 

 

「それはようございました。……若様のその硝子細工のように繊細で完璧な美貌。そこに傷という名のノイズが走るなど……神ですら許されぬ、世界の損失ですからな」

 

 

 モーブルはねっとりとした視線で少年の華奢な体を一瞥し、満足げに頷く。

 そして――ふっ、と空気を変え、商人の鋭い眼光で切り出した。

 

 

「――で、本題に入りましょうか。今日はただ花を届けに来たわけではないでしょう?」

 

 

 モーブルの目が、商人の光を宿す。

 ライオットは姿勢を正し、真剣な表情でモーブルを見つめ返した。

 

 

「うん。……あの時のこと、ちゃんとお礼したかった。命を助けてもらったこと、あの『杖』を見つけてくれたことも」

 

「杖、ですか」

 

 

 あの日、フロスト・ベヒモスの体内から出現し、ライオットが持ち帰った遺物(アーティファクト)『涙核の楔(るいかくのくさび)』。

 禍々しくも美しい、異質な魔力を放っていたあの遺物が今、どうなっているのか。

 モーブルとしても、ずっと気になっていた案件だ。

 

 

「あれ……父上に渡した」

 

 

 ライオットの声が、少しだけ沈む。

 彼は視線を膝元に落とし、父親の言葉を反芻するように呟いた。

 

 

「『よくやった』って、言われた。女帝エリザ様もお喜びになられる。これでまた、イングラジア魔導国は世界に先んじて『真理』へ近づくことができる……って」

 

「……『真理』、ですか」

 

 

 モーブルは目を細め、上質な革の背もたれに深く身を預けた。

 きな臭い話だ。

 今、世界各国はダンジョン攻略と、その深奥に眠る遺物の回収を「国家の一大事業」として推し進めている。

 表向きは資源確保や治安維持などと綺麗事を並べているが、その本音はもっと冷徹で、そして馬鹿げているほど壮大だ。

 

 

 ――アーティファクトは、世界の謎を解く「鍵」である。

 

 それらを集め、世界の『理(ことわり)』を解き明かした者は、神の座へと至る道を知る。

 そして神の如き力を手にした国こそが、次なる時代の覇者となる――。

 

 

 そんな吟遊詩人が歌うような眉唾ものの神話を、各国のトップが真顔で信じ込み、血眼になって『競争』を繰り広げているのが今の世界情勢だ。

 

 まあ、こんな夢物語を信じて各国がダンジョン攻略に熱を上げるのも、ある意味では「国家間の直接的な殺し合い」がない平和な世の中になった証左とも言える。

 冒険者の血を流す代わりに、迷宮で宝探し競争をする。

 見方によっては、随分と健全な暇つぶしだ。

 

 おかげで、そのおこぼれに預かる我々のような冒険者向けの商売も、こうして潤うわけだが。

 

 

「……それだけ、だった」

 

 

 ポツリと落ちたライオットの言葉が、モーブルの思考を引き戻した。

 

 

「父上が言ったのは……国のことと、真理のことだけ。……私の怪我のことも、怖かったかどうかも、何も聞かれなかった」

 

 

 淡々とした言葉の裏に、隠しきれない寂しさが滲む。

 命がけで、味方の裏切りに遭いながらも持ち帰った成果。

 なのに、子に対する労いや心配の一つもない。

 父親であるゼノン・ヴァルディスにとって、息子は「真理」へ至るための便利な道具であり、道具が機能(しごと)を果たすのは当然だというのだろう。

 

 

(……相変わらず、吐き気を催すクソ野郎だな)

 

 

 モーブルは内心で毒づいた。

 国家の覇権だの神の真理だの、そんな大層な御題目のために、目の前の小さな命ひとつ愛せない。

 それがこの国の「貴族」という生き物なら、ドブネズミの方がまだ愛嬌がある。

 

 だが、その侮蔑を口には出さない。

 それが大人のマナーであり、商人の処世術だ。

 

 

「それで、父上から報酬が出た。……君が受け取るべきだと思った」

 

 

 ライオットは懐から、二枚の羊皮紙を取り出した。

 机の上へ、そっと滑らせる。

 ペラリ、と紙が鳴る。音は軽い。

 だが、その内容は――

 

 

「これは……?」

 

 

 何気なく手に取ったモーブルは、そこに書かれた数字と印章を見た瞬間、「ぶっ!!」と盛大にツバを吹き出した。

 

 

 一枚目。

 帝国銀行発行の小切手。

 額面――金貨五万枚。

 

 二枚目。

 ヴァルディス家直轄『マナ・クリスタル鉱山』、採掘権の一部譲渡証明書。

 

 

「――――ッ!?」

 

 

 声にならない悲鳴を上げ、モーブルはカメレオンのように左右の目を極限までひん剥いた。

 金貨五万枚。

 これだけあれば帝都の一等地に大豪邸が建つ。

 平民なら一族郎党が十代、いや百代先まで遊んで暮らせる額だ。

 

 さらにマナ・クリスタルの採掘権となれば、もはや金額などつけられない。

 未来永劫、寝ていても巨万の富が転がり込んでくる「金のなる木」そのもの。

 上級貴族でさえ、喉から手が出るどころか、血で血を洗う戦争をしてでも欲しがる国家級利権だ。

 

 

「……少ない? では父上にお願いしてもっと――」

 

「ちょ、ちょっと待ってください若様! 桁がおかしい! いや、次元が違う! わしはただの荷物持ちとして同行しただけですよ!? こんな法外な報酬は……」

 

「そう、かな……? これでも足りないくらいだと思ってた……」

 

 

 ライオットは不思議そうに首を傾げた。

 

 

「君がいなければ、私は死んでた。……フロスト・ベヒモスも、君がいたから倒せた。だから……これは、正当な対価」

 

 

 真っ直ぐな瞳。

 裏も、打算もない。

 あまりにも純粋で、透明な善意。

 

 

(……まいったな。こいつ、本当にあのゼノンの血を引いているのか? こんな馬鹿正直な取引をしてたら、骨の髄まで誰かにしゃぶり尽くされるぞ)

 

 

 額を押さえたいのは、眼前の富への欲望のせいだけじゃない。  

 背筋に、別の冷たさが走ったからだ。

 

 

(毒入りだ。食った瞬間に喉が裂ける猛毒だ)

 

「……若様。お気持ちは、痛いほど伝わりました……ですが、受け取るわけにはいきません」

 

 

 モーブルは断腸の思いで、震える指先で二枚の羊皮紙を押し戻した。

 

 

「……どうして?」

 

 

 ライオットが悲しげに眉を寄せる。

 

 

「理由は二つです」

 

 

 モーブルは指を二本立てて見せた。

 

 

「一つ目。これは裏取引だ。わしへの報酬はギルドを通すのがルール。商人にとって『信用』は金貨の山よりも重い。目先の利益でそれをドブに捨てるわけにはいきません」

 

「でも……税金も、手数料も引かれる」

 

「構いません。正規ルートで、安全かつクリーンに受け取る。それが『モーブル商会』の流儀(ブランド)です」

 

 

 綺麗な建前を並べる。

 半分は本音。

 残る半分は――。

 

 モーブルは声を潜め、獲物を狙う鷲のような真剣な眼差しで告げる。

 

 

「……そして二つ目。取引相手が悪すぎます」

 

「……え?」

 

「……あなたのお父上ですよ。ヴァルディス伯爵は、ご自身の管理下にない金の動きを許さない。それがたとえ、息子さんの意志であってもです」

 

 

 モーブルは「やれやれ」と首を横に振った。

 

 

「これは若様に与えられた『ご褒美』だ。それを、どこの馬の骨とも知れぬ商人が横取りしたと知れれば……どうなるか。わしの首が胴体と永遠のお別れをするか、明日には鉛のブーツを履いてカヴェナ湖の底へ観光ツアー……魚たちのメインディッシュになるのは確定でしょうな」

 

 

 ――そう。

 残る半分の理由は、シンプルにして究極。

 「死にたくない」という切実な生存本能だ。

 

 

「あ……」

 

 

 ライオットの白磁の頬から、さっと血の気が引いていく。

 否定できない。

 父ならやりかねない。

 いや、やる。

 あの絶対零度の視線を思い出し、ライオットの体が小さく震えた。

 

 

「ですから、お返しします。……これは『わしの命』そのものだと思って、どうか懐にしまってください」

 

「……私、そこまで考えてなかった……浅はかだった……ごめんなさい」

 

 

 ライオットはシュンと耳を垂れるように項垂れ、羊皮紙をしまった。

 その無防備な反省顔は、叱られた子犬そのもので、モーブルのささくれだった良心をちくりと刺激する。

 

 

(謝るな。悪いのは、あのアホ親父だ)

 

 

 モーブルは言葉を飲み込み、ふんと鼻を鳴らした。

 

 

「ふふ……」

 

「ん?」

 

 

 不意に、ライオットが小さく吹き出した。

 まるで雪解け水のような、透明な笑い声だった。

 

 

「何がおかしいのですか?」

 

「……モーちゃんは、やっぱり優しい」

 

「……はい?」

 

 

 素っ頓狂な声が出た。

 耳を疑うとはこのことだ。

 

 

「ダンジョンのときも、そう。君は……私を便利な『道具』や『名家』じゃなくて……ちゃんと、私自身として扱ってくれる」

 

 

 ライオットは自分の掌をじっと見つめる。

 そこに、確かな「個」としての輪郭を確かめるように。

 

 

「父上にとって、私は機能(どうぐ)。周りも……私の『力』か『ヴァルディスの名』にしか興味がない。……でも、君だけは違った」

 

 

 顔を上げる。

 その瞳に宿る絶対的な信頼が、モーブルの逃げ場を塞ぐ。

 

 

「危ない橋を渡ろうとしたとき……私のために、止めてくれた。私が死にたいと言ったとき……怒ってくれた。くじけそうになったとき……背中を押してくれた。……そんな大人、初めて」

 

 

 眩しすぎる。

 その純真さが、薄汚れた商人の心を焼き尽くすようだ。

 

 

「……買いかぶり過ぎです。わしはただ、損得勘定のソロバンを弾いただけ。そこに、若様が夢見るような『高潔な善意』など、これっぽっちもありませんよ」

 

「それでもいい。……私は、君を信頼してる」

 

 

 ライオットの言葉に迷いはない。

 彼は一度言葉を切り、意を決したようにモーブルを見つめた。

 

 

「だから……これからも、ここに来ていい……かな?」

 

「はぁ、そりゃあ構いませんが。うちは太客は大歓迎ですよ? 特に背中に金貨の山を背負ったカモ……いや、失敬。金払いの良いお客様は神様ですから」

 

「モーちゃんのお店、キラキラしてて素敵……お買い物もしたいけど……私……ここで働きたい……」

 

「…………んん?」

 

 

 今、変なノイズが混じらなかったか?

 働きたい? 

 誰が? 

 この深窓の御曹司が? 

 うちのようなブラック……もとい、アットホームな店で?

 脳内の翻訳機能がバグを起こし、盛大なエラー音を吐き出している。

 

 

「あの、若様……? それは一体どういうご冗談で……?」

 

「冗談……じゃないよ。……ここに来た時、見たんだ……。素敵なお店。輝く商品、楽しそうに働く店員さんたち……それを見て笑顔になるお客さん……」

 

 

 ライオットは夢を見るように目を細めた。

 その横顔は、ショーウィンドウの中にある、決して手の届かない玩具を見つめる子供のように切ない。

 

 

「それを見て、いいなって思った……。私の屋敷には、あんな温かい空気、どこにもないから……」

 

「い、いやいやいや! 正気ですか!? そんなのありえません!」

 

 

 モーブルは両手をブンブンと振って拒絶するが、ライオットは一歩も引かない。

 

 

「私、お店で働きたい……。モーちゃんからたくさん学びたい……。だから店の手伝いでも、床掃除でも……接客も……苦手だと思うけどやりたい……」

 

「無理! 絶対無理ですって! 雲の上の上級貴族様が、こんな掃き溜めのような店で下働きだなんて! ヴァルディスの家名がむせび泣きますよ!」

 

「それだけじゃない……私、モーちゃんのそばにいると、不思議と安心するんだ」

 

 

 ――そばにいたい?

 この、金と脂にまみれた卑しい商人のそばに?

 国宝級の美貌を持つ少年が、加齢臭漂うデブ親父の隣に、あろうことか「安らぎ」を感じるだと?

 

 正気か?

 ……だが、待てよ?

 もし仮に、こんな極上の美少年を看板店員(アイドル)として店に置けばどうなる?

 

 ラース、シルヴィオ、ルチオ。

 そこに、ライオット――。

 

 四人が並ぶ姿を想像しただけで、わしの脳内麻薬がドバドバと溢れ出し、理性がショート寸前だ。

 まさに美の暴力。

 わしの店(城)は、この世の楽園、絢爛豪華な美少年の園となり、客どもは拝観料を払ってでも押し寄せるだろう。

 

 富! 名声! そして眼福!

 一石三鳥どころか、国士無双の数え役満だ!

 

 ……いや待て、ステイ。

 落ち着け俺の欲望、ハウスだ、ステイ!

 その甘い蜜の奥を見ろ。

 これは悪魔が仕掛けた、あまりにも残酷な罠だ。

 

 

「ええっと……若様。大変、っっっっっつ大変に魅力的なご提案ではあるのですが! 今回ばかりは……その、百戦錬磨のわしでも手に余る案件と言いますか……。ハッキリとは申し上げられませんが……大人の事情というものを、察していただけますよね……ねぇ?」

 

 

 冷や汗を流しながら、必死に言葉を濁す。

 当たり前だ。

 相手はあの冷酷非道なゼノンの跡取り息子。

 万が一にでも粗相があれば即破滅。

 物理的に首が胴体とおさらばする。

 見た目は可憐な美少年だが、その実態は関わるだけで致死率100%の「歩く処刑台」だ。

 

 だから、断る。

 鋼の意志で、断固として断る!

 まだ関係が浅い今だからこそ、心を鬼にして突き放さねばならない。

 ここで引くことだけが、唯一残された生存ルートなのだ!

 

 

「……ダメ……かな? 私、モーちゃんの言うことなら……『なんでもする』から」

 

 

 トドメの一撃(クリティカル・ヒット)。

 涙で潤んだ瞳が、不安げに揺れる。

 天下のヴァルディス家嫡男が、迷子の子犬のように「居場所」を求めてすがってきているのだ。

 

 そのあまりに無防備な言葉は、モーブルの中に眠っていた「獣」の鎖を、いともたやすく解き放った。

 

 

(……今、あろうことか『なんでもする』と言ったな?)

 

 

 カチリ。

 脳内で、欲望の安全装置が解除される音がした。

 

 

(なんでも、か……。ならば……このまま抱きしめてソファに押し倒し、その高価な服をビリビリにひん剥いてやろうか。白磁のような肌を露わにして、恥じらう若様の細い体に、わしの肥大した欲望を容赦なく突き立てて……ドロドロのグチャグチャに汚してやろうか!)

 

 

 モーブルの鼻息が荒くなる。  

 目の前の少年は、深窓の令息。

 純粋培養の箱入り息子だ。

 

 

(げへへへへ……おそらくはこの慎ましいお坊っちゃんのことだ。オナニーの『オ』の字も、自分の慰め方ひとつ知らないに違いない。そんな無垢で初心な体を、わし好みに一から開発し、快楽の味を教えてやったりしたら……むふふ、夢も股間も膨らむわい!)

 

 

 想像するだけで、股間がズクリと疼く。  

 高貴な少年が、自分の手によって快楽に堕ち、涙を流して喘ぐ姿。  

 それは美少年愛好家にとって、至高のフルコースだ。

 

 

(むほほほほ! たまらん! 想像するだけでわしのおちんぽ様から我慢汁が溢れ出しそうだわい! 最高に興奮する――ッ!!)

 

 

 理性の堤防が決壊しかけた、その時だった。

 

 ――ヒュンッ。

 

 脳裏に、冷徹な氷の刃が突きつけられたような悪寒が走った。  

 妄想の中に、鬼のような形相をした男の顔がフラッシュバックする。

 

 

(――ッ!? ひぃっ!? わしは今、なんてヤバイことを考えておったんだ!? い、いかん、下半身の脳みそと上の脳みそを使い分けろ! 相手は誰だと思っている! こいつはあの『ゼノン・ヴァルディス』の息子、裏社会の帝王にして、泣く子も黙る魔導騎士団長の息子だぞ!? 一時の欲に負けて指一本でも触れてみろ……わしは殺されるどころか、生きたまま皮を剥がれて塩漬けにされ、カヴェナの広場前で豚の餌にされて……ひぃぃッ!!)

 

 

 死の恐怖が、性欲を上書きして殴りかかってくる。  

 モーブルはガタガタと内なる震えを抑え込み、必死で「紳士的な商人」の仮面を被り直した。

 

 

「……コホン。若様。その『なんでも』というのは、あまり軽々しく口にする言葉ではありませんぞ」

 

 

 モーブルは、震える指先で眼鏡の位置を直し、精一杯の理性をかき集めて諭すような声を絞り出した。  

 額からは冷や汗が滝のように流れている。  

 目の前に座る少年は、今、この世で最も危険で、かつ最も甘美な果実だ。  

 手を伸ばせば届く。

 齧り付けば、極上の蜜が滴るだろう。  

 だが、その果実には『ゼノン・ヴァルディス』という名の猛毒がたっぷりと塗られているのだ。

 

 

「……軽々しくなんて、言っていない」

 

 

 しかし、ライオットは引かなかった。

 潤んだ灰色の瞳が、逃げ腰になるモーブルを真っ直ぐに射抜く。

 

 

「本気。……下働きだってする。お掃除も、荷運びも、接客も……店員のみんなで食べるお料理だって、教えてくれたら、覚える」

 

「だーかーら! そ、そういう次元の話ではないのです! 若様は貴族だ! しかもヴァルディス家の次期当主なんですよ!? そんな雲上人が、こんな薄汚れた平民の店で、脂ぎった商人の使いっ走りなど……上級貴族としての外聞が悪すぎます!」

 

「貴族の外聞なんて、どうでもいい!」

 

 

 ライオットが、悲痛な声を張り上げた。

 その拍子に、身を乗り出した彼の細い体が、テーブル越しにぐっとモーブルへと近づく。

 

 ふわり、と。

 店内に満ちる芳香剤よりもなお甘く、それでいてまだ青い果実のような体臭が、モーブルの鼻孔を優しくくすぐった。

 それは理屈や恐怖を飛び越え、脳髄を直接蕩(とろ)かすような、魔性の香り。

 

 

「モーちゃんは……私のこと、嫌い……?」

 

「ち、違います! 断じて違います! 好きとか嫌いとか、そういう次元の話をしているのではなくてですね!?」

 

「もし迷惑だったら……いいよ。もう……ここには……来ないから」

 

 

 激情をぶつけたかと思えば、今度は急転直下の弱音攻撃。

 

 

「……モーちゃんにだけは……嫌われたくないから……」

 

 

 潤んだ瞳に、震える唇。

 それは反則級の破壊力を持つ、最上級の「おねだり」だった。

 捨てられた子犬? 

 否、そんな生易しいものではない。

 それはモーブルの歪んだ性癖と庇護欲をダイレクトに爆撃する、戦略級の兵器だ。

 

 

(嫌い……だと? ……バカを言え! 嫌いなわけがあるかァッ! むしろ大好きだ! 大好物だッ! その天使が嫉妬する顔立ち、硝子細工のように繊細な肢体、そしてこの健気な性格! どれをとっても国宝級! そんな極上の美少年を、この筋金入りの美少年愛好家たるわしが、本心から追い返したいわけなかろうが! できることなら今すぐその高価な服をひん剥いて、羞恥に染まる肌を足の指先まで舐め回したいほど愛おしいわッ!)

 

 

 脳内で猛り狂う獣が、理性の檻をガンガンと揺さぶり、拘束具を引きちぎろうと暴れ回る。

 だが――ここで一時の快楽に負けては、一流を自称するモーブル商会の名折れ。

 

 何より、その先にあるのは確実な『死』だ。

 相手を傷つけず、かつ、この破滅的な状況からスマートに脱するにはどうすればいいか。

 高速で回転する商人の脳が、一つの「最適解」を弾き出す。

 

 

(……そうだ。綺麗な夢を見ているなら、ヘドロのように汚い大人の世界を見せてやればいい)

 

 

 この温室育ちの無垢な少年に、大人の男が持つ「汚濁」と「危険」を濃厚に匂わせ、本能的な嫌悪感で自ら引かせるのだ。

 自分が憎まれ役(ヒール)になりさえすれば、貴族の坊っちゃんの甘い幻想などシャボン玉のように弾け飛ぶ。

 

 

「……嫌いなわけ、ありませんでしょう」

 

 

 モーブルの声が、意図して低く、鼓膜にへばりつくような粘着質な響きを帯びた。

 

 

「……本当?」

 

「ええ。ですが若様。わしが求めているのは、店番や掃除などといった、健全で可愛らしい労働ではありませんぞ」

 

「……?」

 

 

 モーブルはゆっくりと身を乗り出し、少年の顔を至近距離で覗き込んだ。

 わざとらしく目を細め、舌なめずりをして、商人の仮面の下から欲に濡れたオスの顔をあえて晒す。

 

 

「いいですか、若様。欲と脂にまみれた中年男の店で、世間知らずの美少年が働く……その意味を、本当に理解しておいでで?」

 

 

 モーブルが低い声で脅すが、ライオットはピンときていないのか、不思議そうに小首を傾げるだけだ。

 そのあまりに無防備な隙を突き、モーブルは喉の奥を鳴らして下卑た笑い声を漏らした。

 

 

「……げへへへへ。よろしい。ならば教えて差し上げましょう、我がモーブル商会伝統の『厳正なる入社試験』について」

 

「……試験?」

 

「ええ。わしは商人ですからな。雇用する『労働力』の品質管理には、誰よりも煩いのですよ。……いくら外見(ガワ)が綺麗でも、すぐに壊れるようなひ弱な肉体では、こき使う前にガタが来てしまいますからなぁ」

 

 

 じり、と。

 モーブルは舌なめずりをしながら、獲物を追い詰めるように距離を詰める。

 

 

「そこで必須となるのが、第一段階の『資質確認《スペック・チェック》』……すなわち、精密身体検査です。労働力として酷使する以上、耐久性の確認は不可欠。……さあ、羞恥心ごと高貴な服を脱ぎ捨てて、生まれたままの姿になっていただきましょうか」

 

「……ここで、全部?」

 

「当然の義務です。髪質、肌艶、筋肉の付き方はもちろん……若様の股間に実る『未成熟な果実(おちんちん)』の熟れ具合から、蕾(尻穴)のシワの形状に至るまで! このわしが責任を持って、隅々まで『検品』して差し上げますからなぁ……ッ!」

 

 

 下卑た笑いと共に、粘着質な視線で全身を舐め回す。

 我ながら完璧な悪役ムーブだ。

 ここまで露骨に性的な視線を向けられれば、いくら世間知らずのボンボンでも本能的な嫌悪感を抱くはず。

 

 ここで「いやっ、モーブル気持ち悪い! 近寄らないで!」と拒絶され、涙目で罵倒されれば、作戦は大成功。

 あとは「おや、冗談が過ぎましたかな? やはり若様には荷が重いようだ」と子供扱いして笑い飛ばし、頭を撫でて帰せばいい。

 それが大人としての、分別ある商人としての正しい撤退戦(あしらい方)だ。

 

 だが――。

 ライオットは怯えるどころか小首を傾げ、少し考えた後――。

 

 

「……ん。わかった」

 

「…………はい?」

 

 拒絶の悲鳴はなかった。

 代わりに聞こえたのは、今日のおやつの種類を決めるような、あまりにも軽い承諾の言葉。

 

 モーブルの思考がフリーズするその一瞬の隙に、ライオットの白く華奢な指が、腰元のベルトへと伸びる。

 

 カチリ。

 静まり返った室内に、バックルが外れる乾いた音が響く。

 

 

「ちょ、若様!? なにを――」

 

 

 慌てて止めようと手を伸ばしかけた、その時だった。

 ライオットは何の躊躇もなく、最高級の生地で仕立てられたズボンを、その下着ごと一気に引き下げたのだ。

 

 するり。

 衣擦れの音が、理性の崩壊を告げる。

 隠されていた美少年の「秘密」が、無慈悲なまでに白日の下に晒された。

 

 雪のように白く、柔らかな太もも。

 恐ろしいほどに滑らかな肌。

 そして――。

 

 ポロン。

 

 無防備に露出したのは、未成熟ゆえの愛らしさを残した、薄桃色の男の象徴。

 それはまさに、モーブルが先ほど冗談で口にした「可愛らしいおちんちん」そのものであった。

 

 

「ぶ、ぼぉあぁああああああああああッ!!??」

 

 

 モーブルの喉から、人語とも獣の咆哮ともつかぬ絶叫がほとばしる。

 脳内では理性の緊急警報(アラート)が爆音で鳴り響き、思考回路はショート寸前だ。

 

 見えた。

 あろうことか、見えてしまった。

 上級貴族、ヴァルディス家嫡男の清楚で可愛らしい幼茎(シンボル)が、今、完全に、遮るものなくわしの目の前で!

 

 待て。

 待て待て待て!

 なんで、どうしてそうなった!?

 ここは「泣いて逃げ出す」シーンだろうが! 

 わしの描いた完璧なシナリオと違う!

 

 

「……? どうしたの? モーちゃんが、見たいって言ったから……出したよ?」

 

 

 きょとんとした顔で、自身の股間とモーブルの顔を交互に見比べるライオット。

 羞恥心など微塵もない。

 あるのは、ただ純粋な「言われた通りにしました」という従順さだけ。

 

 詰んだ。

 社会的にも、理性的にも、完全に詰んだ。

 

 

「あ、あ、あ……ッ!!」

 

 

 モーブルはパクパクと口を開閉させ、あまりの事態に酸欠を起こした金魚のように仰け反った。

 だが、視線だけは呪いにかかったように、一点から離れない。

 

 

(な、なんて美しい……! 想像していた通りの白磁の肌に、薄桃色の皮に包まれた蕾のような一物……! 剥けていない、だと……!? これぞまさに、誰にも踏み荒らされていない雪原に咲く未成熟ゆえの花……ッ! 神よ、感謝します! わしの眼球は今、世界遺産を捉えておりますぞおおおッ!)

 

 

 感動と背徳の狭間で打ち震えるモーブルへ、特大の爆弾が投下される。

 

 

「それで……次はなにをすればいい? ……やっぱり、『セックス』……する?」

 

「――ッ!? ぶべらッ!? せ、ックスーーーー!?」

 

 

 直球ど真ん中の剛速球が、モーブルの顔面を捉えた。

 知っているのか?

 それとも、貴族社会のドロドロとした裏側で、何かを見聞きしてしまったのか?

 フリーズしかけたモーブルの脳内コンピューターが、爆音を上げて再起動し、最も健全かつ強引な言い訳(エラー回避策)を検索し始める。

 

 

「……はっ!? ひょ、ひょっとして……『レックス』!? おお、そうですな! 『ティラーノサウルス・レックス』の略称ですな! いやはや、若様は恐竜がお好きであらせられたか! 合点承知! このモーブル、体型だけなら古代の魔獣にも引けを取りませんぞ! さあさあ、遠慮なくこの脂の乗った背中に跨ってくださいまし! ドシンドシンと足音を立てて、古代の草原を駆け巡る夢をお見せしましょうぞーッ!!」

 

「違う……。『セックス』のこと……だよ」

 

 

 カヒュッ、と空気が凍りついた。

 下半身丸出しの美少年に真顔で否定され、恐竜ごっこ説という苦しい誤魔化しは、冷徹な事実(メテオ)の前に瞬時に絶滅(エクスティンクション)した。

 

 

「え、えと、若様? もしかして……その言葉の意味を、正確にご存知でいらっしゃる?」

 

 

 ライオットは少し頬を染め、恥ずかしそうに、けれど真剣な眼差しで告げた。

 

 

「うん……。あのね、『カヴェナ通信』って雑誌の、小説コーナーを読んで……知った……。そこにね……惹かれ合った男の人同士で……その……」

 

 

 ライオットは、まるで素敵な御伽噺でも語るように、うっとりと瞳を潤ませる。

 

 

「……熱く抱き合って、愛を確かめ合うのが……一番の『大人の娯楽』だって……書いてあったから」

 

 

 その瞬間、モーブルの脳裏に、ある一人の人物の顔がフラッシュバックした。

 

 

(…………ネ、ネリオォォォォォォォォッ!! 貴様の書いた小説(ポルノ)かぁあああああ!!)

 

 

 モーブルは内心で、あのいけ好かないキツネ目のエルフ記者の名を絶叫した。

 熟知している。

 嫌というほど知っているとも。

 ネリオが『カヴェナ通信』の片隅で、どんな小説を連載しているかを!

 それは「禁断のロマンス」などという生易しい言葉で片付けてはいけない、劇薬指定の危険物だ。

 

 男と男がねっとりと愛を育み、体液と吐息を交わし合い、竿と竿で剣技を競い合う――まさに背徳の極みたる、官能小説(ボーイズラブ)だッ!

 

 

(あの野郎が垂れ流したマニアックな猛毒(性癖)が、世の貴腐人たちだけでなく、まさかこんな純粋培養の深窓の令息にまで回っているとは!)

 

 

 しかも、あろうことかそれが、今のこの状況――「男同士の情事」における完璧な教科書になっていようとは!

 モーブルは天を仰ぎ、虚空に見えるニヤついたエルフの幻影に向かって、ありったけの呪詛を吐いた。

 

 お前のせいで!

 お前の書いた文字という名の劇薬のせいで、この無垢な少年が、開けてはいけない扉をフルスイングで開け放ってしまったではないか、と!

 

 

「……娯楽、ですか。ふふ、随分と可愛らしい認識だ」

 

 

 モーブルはゆっくりとソファから立ち上がり、テーブルを迂回してライオットのそばへと歩み寄った。  

 その巨大な影が、華奢な少年を飲み込むように覆いかぶさる。

 

 

「若様。……わしはね、強欲な商人なんですよ」

 

 

 モーブルの太い指が、ライオットの白磁のような頬に触れる。  

 ビクリ、と少年の体が跳ねた。

 

 

「一度手に入れた商品は、骨の髄までしゃぶり尽くさないと気が済まない。……もし、わしが若様を『抱きたい』と言ったら? それでも、そばにいたいと言えますか?」

 

 

 それは、最後通告だった。  

 逃げるなら今だ。

 悲鳴を上げて、この豚のような男を罵って走り去れ。  

 そうすれば、お前は無傷でいられる。

 

 しかし。

 ライオットは、頬に添えられたモーブルの手に、自らの手をそっと重ねた。

 

 

「……いいよ」

 

 

 澄んだ声が、静寂の地下室に響いた。

 

 

「モーちゃんになら……抱かれても、いい……」

 

 

 ブチリ。

 

 モーブルの中で、最後の一本の理性が焼き切れた音。

 それは同時に、商人の冷徹な計算機が、とんでもない「最適解」を弾き出した音でもあった。

 

 

(――ハイリスク・ハイリターン。いや、リスクなど知ったことか!)

 

 

 目の前の極上の美少年が、潤んだ瞳で抱かれたいと言っている。

 これを抱かずに帰すなど、男の面折れどころか、美少年愛好家の名折れだ。

 

 

(ここで抱かなきゃ、男が廃る!! あとは野となれ山となれだァッ!!)

 

 

 ゼノン・ヴァルディスの影?   

 死の恐怖?  

 そんなものは、今この瞬間の沸騰するような劣情の前では、紙切れほどの重みもなかった。

 

 

「……後悔しても、知りませんぞ」

 

 

 モーブルは獰猛な笑みを浮かべると、素早く部屋の入り口へと戻り、重厚な扉に鍵をかけた。

 ガチャン、と重い金属音が、二人を外界から断絶する。

 さらに、念には念を入れて『防音』と『認識阻害』の魔導システムを最大出力で起動させる。

 

 これで、神ですら覗き見ることはできない。  

 ここは完全なる、背徳の密室だ。

 

 モーブルが振り返ると、ライオットはソファに座ったまま、少し緊張した面持ちでこちらを見つめていた。  

 その姿は、祭壇に捧げられた生贄の仔羊そのものだ。

 

 

「さあ、立ちなさい、若様」

 

 

 モーブルはソファへ戻ると、ライオットを立たせた。

 身長差は歴然だ。

 見下ろす巨漢と、見上げられる美少年。

 モーブルの巨大な影が、ライオットを完全に飲み込んでいる。

 

 

「まずは、その堅苦しい服が邪魔ですな。……脱がせますよ」

 

 

 モーブルの太い指が、ライオットの上質なジャケットのボタンにかかる。

 一つ、また一つ。

 ボタンが外れるたびに、少年の心臓の鼓動が早くなっていくのが、服越しにも伝わってくる。

 

 

「……怖くないですか?」

 

 

 ジャケットを脱がせながら、モーブルが耳元で甘く囁く。

 ライオットはふるりと首を振った。

 

 

「……怖く、ない。……少し、ドキドキするけど」

 

「ふふ、素直でよろしい。では、中身も拝見しましょう」

 

 

 シャツのボタンを外し、左右に開く。

 そこには、息を呑むような光景が広がっていた。

 

 雪のように白く、陶磁器のように滑らかな肌。

 ほどよく引き締まった、けれど少年特有の柔らかさを残した肢体。

 華奢な骨格には無駄な肉が一切なく、薄い皮膚の下に浮き出たあばら骨が、繊細な芸術品のような陰影を作っている。

 その中央には、色素の薄い桜色の乳首が二つ、愛らしく咲いていた。

 

 先日の治療の際には意識のない状態だったが、こうして意識のある、生気を含んだ肌を見ると、その破壊力は段違いだ。

 恥じらいに染まった肌は、ほんのりと上気して甘い香りを放っている。

 

 

「美しい……。実に、素晴らしい逸品だ」

 

 

 モーブルは感嘆の息を漏らしながら、その白い肌を指先でなぞった。

 ツー、と鎖骨の窪みをなぞり、胸板へ、そして浮き出たあばら骨の一本一本を確かめるように這わせる。

 

 

「んっ……くすぐったい……」

 

 

 ライオットが身をよじる。

 その反応さえも愛おしい。

 そして、視線をさらに下へ落とせば――ライオットの愛らしい陰茎は、期待と興奮ですでにピンと反り返っていた。

 

 それを見た瞬間、モーブルの理性が完全に弾け飛んだ。

 股間の圧力が限界突破し、ズボンの生地が悲鳴を上げる。

 

 もはや一秒たりとも我慢できない。

 モーブルは荒い鼻息と共に、自身のズボンを一気にずり下げた。

 

 ボォーン!

 

 効果音が鳴りそうな勢いで、オークの棍棒のごとき極太の肉棒が解き放たれる。

 血管の浮き出たそれは、猛々しく脈打ち、少年の眼前で凶悪な存在感を放った。

 

 

「あ……」

 

 

 ライオットは驚いたように目を丸くする。

 

 

「ほら、よく見てください。若様のその淫らな姿のおかげで……わしのはもう、破裂しそうだ」

 

 

 見せつけるように、モーブルは自身の怒張した一物を、ライオットの可愛らしいモノへと並べた。

 先端同士が触れ合う距離。

 だが、その質量は比較にすらならない。

 ライオットのそれを小指とするなら、モーブルのそれは丸太だ。

 

 

「……すごい。モーちゃんの……おっきい……大人……」

 

 

 目の前の凶器に当てられたのか、ライオットがふらりと体勢を崩す。

 モーブルはすかさずその細い腰を抱き寄せ、自身の股間へさらに強く押し付けながら、意地悪く問いかけた。

 

 

「おや、腰が抜けてしまいましたか? ……震えていますよ」

 

「う、うん……」

 

「さて、教えてください。こんな脂ぎった中年男と密室で二人きり……若様はわしに、何をされたいのです? 獣のように貪り食われたいのか、それとも玩具のように弄り壊されたいのか……」

 

 

 選択肢を与え、言葉で辱める。

 だが、ライオットの答えは、モーブルの予想の斜め上を行くものだった。

 彼は潤んだ瞳で上目遣いに見つめ返すと、夢見る乙女のように頬を染めて告げたのだ。

 

 

「……やさしく、して」

 

「は? 優しく?」

 

「うん……あの小説に書いてあったみたいに……。愛する人が、壊れ物を扱うみたいに……優しく、愛してほしい」

 

 

 あまりの純真さに、毒気が抜かれる。

 モーブルは一瞬だけ呆気に取られたが、すぐに商人の仮面を貼り付け、恭しく頷いてみせた。

 

 

「……承知しました。それが若様の望みとあらば」

 

 

 モーブルは観念したように息を吐く。

 あのエルフ記者の三文小説を信じ切った、あまりにも純粋な眼差し。

 だが、その穢れなき願いは、モーブルの中に眠るサディスティックな加虐心を「愛」という形で溶かしていった。

 

 

(……いいだろう。夢見がちな若様が望むなら、演じてやろうじゃないか。『優しい恋人』役を。……もっとも、その結末はドロドロに溶かされた『雌(メス)』への変貌だがな)

 

 

 覚悟を決めた商人は、ライオットの熱い頬を包み込む。

 触れたのは、蝶が止まるような優しいキス。

 

 チュッ。

 

 

「ん……」

 

 

 強張っていたライオットの肩から力が抜け、安堵の色が広がる。

 その油断を見計らったように、モーブルは口角を吊り上げた。

 

 

「では、参りましょうか。……ご希望通り、身も心もトロトロになるまで『教育』して差し上げますよ」

 

 

 再び重なる唇。

 今度は甘噛みするように、執拗に輪郭をなぞる。

 

 

「んっ、ぁ……♡」

 

「……可愛い人だ。無自覚に男を誘う天才ですな」

 

 

 吐息交じりの言葉が、理性を麻痺させる。

 

 

「ふふ、頭では清らかな愛を夢見ていても、体は正直だ……。こんなに熱くなって、わしの愛撫を待っている」

 

「んぅっ……!♡ ちが、う……っ!」

 

「違わないでしょう。……ほら、もっと舌を出しなさい」

 

 

 否定の言葉を封じるように、モーブルの太い舌が侵入する。

 それは略奪の合図。

 優しい導入は終わり、粘つくような濃厚な接吻が少年を溺れさせていく。

 

 ジュルッ、レロ、チュプ……ヌチュゥ……。

 

 逃げ惑う舌を捕らえ、絡め取り、唾液を混ぜ合わせる淫らな音が、部屋の空気を淫靡に染め変えていく。

 

 

「んむっ、ぁ……ふぁ……♡」

 

 

 細い腕が首に絡みつく。

 甘い吐息を奪い合い、ライオットは成す術もなく、大人の愛撫に溺れていく。

 

 

「ぷはっ……はぁ、はぁ……♡」

 

 

 唇を離せば、銀糸がキラリと光る。

 とろんと溶けた瞳で見上げてくる美少年に、モーブルは口の端を吊り上げた。

 

 

「どうです? 小説よりも、ずっと刺激的でしょう?」

 

「う、うん……。モーちゃん、すごい……♡」

 

「ふふ、まだ序章ですよ。……さて、若様。物語には『解呪の儀式』が必要不可欠です」

 

「かいじゅ……?」

 

「ええ。若様の心を縛る『自己否定』という呪い。それを解くには、わしが愛を込めて全身を清める必要があるのです」

 

 

 吐き気を催すほど甘ったるい台詞だが、今のライオットにはこれこそが正解なのだ。

 モーブルは内心の羞恥を理性でねじ伏せ、無垢な少年の幻想を守るための「理想の恋人」を演じながら、甘い言葉で獲物を誘導し始めた。

 

 

「まずは、かつての傷跡から呪いが再発していないか……精密検査が必要ですね。失礼、ペロリ」

 

「っ!? ひゃぅっ!?」

 

 

 心臓の上を、熱い舌が這い回る。

 予期せぬ感触に、ライオットの体が弓なりに反った。

 

 

「モーちゃん、なにっ……!?」

 

「検査ですよ。……レロ、ヌチュ……目に見えない呪いの痕跡を、こうして舌で探っているのです」

 

 

 言い訳はあくまで真面目に、行為はあくまで卑猥に。

 あばら骨の浮く華奢な胸を、ナメクジのように這い回る舌。

 

 ジュルッ、レロレロ……。

 

 濡れた軌跡が、白い肌に淫らな地図を描いていく。

 

 

「ぁ、んっ……!♡ くすぐったいよぉ……!♡」

 

「我慢、我慢。……おや、ここは何やら熱を持っていますね」

 

 

 舌先が、ツンと尖った桜色の乳首を弾く。

 

 

「ひゃぁっ!?♡♡」

 

「ほう、いい反応だ。……どうやらここに『毒』が溜まっているようだ。わしが吸い出してあげましょう」

 

 

 パクッ。

 有無を言わさず食らいつく。

 

 ジュッ、チュパッ、ジュルルルッ!

 

 口腔内で転がし、舌で嬲り、真空になるほど強く吸い上げる。

 

 

「あぁっ!♡ だめっ!♡ 吸わないでっ!♡ おっぱいが、変になるぅっ!♡♡」

 

「変になるのは、毒が抜けている証拠です。……んむ、チュッ、ジュボッ……もっと啼いて、毒を吐き出しなさい」

 

 

 右を吸い、左を舌先で転がす。  

 ライオットの華奢な背中が弓なりに反り、モーブルの頭を抱え込むように指が髪に絡まる。  

 胸への愛撫だけで、すでに少年の呼吸は乱れ、瞳は潤んでいた。

 

 

「はぁ……はぁ……素晴らしい感度だ」

 

 

 ポンッ、と小気味良い音を立てて口を離せば、唾液に塗れた乳首は充血し、つんと硬く尖っていた。

 濡れて光るその突起は、まるで朝露を纏った熟したベリーのように、淫らにモーブルを誘っている。

 

 

「くくっ、若様のこの反応……初めてなのに、こんなに感じて……いやらしくて最高ですよ」

 

「う、恥ずかしい……」

 

 

 羞恥に顔を覆うライオットの手を優しく退け、モーブルは満足げに頷いた。

 そして、獲物を狙う獣の目で、ねっとりと視線を下へとずらしていく。

 

 

「上半身(うえ)は異常なし。……次は、下半身(した)のチェックに移りましょう」

 

「した……?」

 

「ええ……。ちなみに若様。大変失礼ながら、これまでご自身で『慰め』られたことは?」

 

「……なぐさめる……?」

 

「『オナニー』のことですよ。……ご自身で、股間のおちんちんを弄って、白いミルクを出して気持ちよくなる行為ですが……」

 

 

 モーブルは観察するように問いかける。

 ライオットはキョトンとした顔で首を傾げた。

 

 

「……ううん、知らない……」

 

「なんと! セックスという言葉はご存知なのに、自慰はご存じないと! では……『精通』も未経験ということですか! おお、なんたる奇跡(ミラクル)……!」

 

 

 モーブルは大袈裟に驚いてみせた。

 無知を責められたと思ったのか、ライオットが申し訳なさそうに身を縮こまらせる。

 そんな少年の頬を、モーブルは慈しむように優しく撫でた。

 

「謝ることはありませんよ。むしろ素晴らしいことです。……誰にも汚されていない、真っ白なキャンバスということですからな」

 

「……?」

 

「ふふ、安心なさい。では、このわしが手取り足取り……若様を『大人の階段』へと導いて差し上げます」

 

 

 モーブルの太く無骨な指先が、ライオットの秘部へと伸びる。

 ライオットは一瞬だけ躊躇うように膝を合わせたが、拒絶はしなかった。

 恭しく跪くモーブルの眼前に広がるのは、神ですら触れたことのない聖域。

 まだ産毛すら生え揃っていない、ツルリとした白磁の恥丘。

 そこに鎮座する、未熟で愛らしいイチモツ。

 

 

「ふふ、なんと健気な……。天を指してピンと張り詰めたこの幼茎……間近で見ると、破壊的なまでに愛らしい……。まさに天使の羽根の如き、神聖不可侵の領域だ……」

 

 

 感嘆のため息と共に、モーブルは拝礼するようにライオットの股間に顔を埋めた。

 スゥーッ、と鼻の穴を限界まで広げ、その神聖な空気を肺の奥底まで貪欲に吸い込む。

 

 

「あっ、見ないで……恥ずかしい……」

 

 

 ライオットが耳まで赤くして隠そうとするが、モーブルはその手を優しく、しかし有無を言わせぬ力強さで制した。

 

 

「隠してはいけません。ここは貴族の社交場ではないのです。……今の若様は『ヴァルディス家の令息』などという窮屈な肩書を持つ者ではない」

 

「じゃあ、私は……?」

 

「ここでは、あなたはただの愛らしい『オス』であり……これからわしの愛でたっぷりと満たされる『メス』になるのです」

 

「メ、メス……?」

 

「そうです。……ここから先は、若様の知らない世界。大人の快楽の授業(レッスン)ですよ」

 

 

 宣言と共に、モーブルは再びライオットの秘部に鼻先を押し付けた。

 クンクン、フンフン。

 まるで極上の獲物を品定めする犬のように、執拗に匂いを嗅ぎ回る。

 

 

「んんっ……! くすぐったい……」

 

「……あぁ、良い匂いだ。お風呂上がりのハーブの残り香と……若草のような、まだ熟れる前の青い果実の匂い。そして、その奥底から漂う濃厚な魔力(マナ)の甘い香り……」

 

 

 モーブルは陶酔したように呟いた。

 ただ汗臭いだけの冒険者とは格が違う。高貴な血筋だけが持つ、選ばれし者の極上のフェロモン。

 それを独占して吸い込む背徳的な優越感に、脳髄が痺れるようだ。

 

 

「見た目は完璧に美しいですが……機能に問題がないか、入念な『味見(テスト)』が必要ですな」

 

「あ、あじみ……?」

 

「ええ。確かに神々しいほどに美しい逸物(おちんちん)ではありますが、睾丸(きんたま)の奥で濃厚なミルクが醸造されていなければ、それはオスとしての機能が死んでいるも同然。つまり、ただの美しいお飾りに過ぎません」

 

 

 モーブルは一息つき、諭すように、しかし逃げ場のない正論のように続ける。

 

 

「オス失格……すなわち、我がモーブル商会の『店員』としても失格です! なぜなら、商売とは愛! 己の身で『精』という生命の源を作り出せる成熟したオスであってこそ、初めて商品を深く愛し、慈しみ、お客様に真心を届けることができるのです! 枯れたオスに良い商売はできません! だからこそ、このわしが直接舌で『味見』をして、オスとしての機能が正常に、かつ活発に働いているか……厳密に審査する必要があるのです!」

 

 

 反論を許さぬ勢いで言い切り、モーブルはライオットの未成熟な一物を、壊れ物を扱うように繊細に摘み上げた。

 そして、包皮の先端から滲む蜜を掬い取るように、ヌラリと熱い舌を這わせた。

 

 

「ひゃああっ!?」

 

 

 ライオットが悲鳴に近い声を上げる。

 敏感な先端を直接舐められ、足の指先がギュッと丸まり、白い太ももが小刻みに震えた。

 

 

「ペロ……レロレロ……ジュッ」

 

「や、やぁっ! そこ、おしっこするとこ……汚いよぉっ!」

 

「汚い? とんでもない! ここは生命の蜜が湧き出る、清らかな泉ですよ」

 

 

 モーブルは包皮の先端に鋭い舌先を割り込ませ、溢れ出てきた透明な先走り汁(カウパー)を余さず掬い取った。

 そして、わざとらしく音を立てて味わう。

 クチャ、クチャ、と口腔内で舌を鳴らす音は、ライオットの羞恥心を煽るには十分すぎる。

 

 

「おお~、じわじわと湧き出てきてますなぁ……これは……甘い。……とても甘くて、淡白な中にも深いコクがある。まるで最高級のミルクのようですな」

 

「みるく……? うそ……おちんちんからミルクでないよ……」

 

「嘘ではありませんよ。……ほら、思い出してください。若様が読んだあの小説にも書いてあったでしょう? 『男の逸物から、濃厚なミルクが溢れ出した』と……」

 

「あ……」

 

 

 ライオットがハッとして口元を押さえる。

 確かに、そんな描写があった気がする。

 モーブルは畳み掛けるように、脳を溶かす甘い声で囁いた。

 

 

「若様の体液は、極上の砂糖菓子のように甘く、理性を狂わせる味がするのです。……どうか、もっと頂いてもよろしいですかな?」

 

 

 返事を待たずに、モーブルはペニスを根元まで一気に口に含んだ。

 ジュボォッ!

 喉奥の粘膜で擦り上げるように、深く、深く飲み込む。

 

 

「あぐっ!? ぁ、ぁぁぁーーっ!♡♡♡」

 

 

 温かい口内、絡みつく舌、そして喉の締め付け。  

 未体験の快感に、ライオットの頭が真っ白になる。  

 モーブルは頬をすぼめ、バキュームのように吸い上げながら、舌裏で裏筋を刺激した。  

 

 ジュルルルルッ! ゴキュッ、ジュポッ!  

 

 部屋中に、淫らな吸引音が響き渡る。

 

 

「んぅぅぅッ!♡♡♡ モーちゃんにぃ……!♡♡ すご……吸われてる……!♡♡ 溶け……るうぅ……!♡♡♡」

 

 

 ライオットがモーブルの頭を押さえ、ガクガクと膝を震わせる。

 口内で暴れるペニスはすでにカチカチに勃起し、先ほどまでの柔らかさが嘘のような硬度を持っていた。

 

 ジュルルッ! レロッ、チュプ……っ!

 

 モーブルは口を離すことなく、さらに激しく責め立てる。

 口いっぱいに広がる若様の味。

 青い若草の匂い。

 この未成熟な一物を、自分の口の中で育て上げているという背徳感が、更なる唾液を分泌させる。

 

 

(……いいぞ、硬くなってきた。まだ細いが、脈打つたびに熱を帯びてきおる。これが初めて味わう快楽か……! ならば、その記念すべき瞬間(フィニッシュ)も、わしが責任を持って看取ってやらねばな!)

 

 

 ジュルッ、ボッ、ジュルルル……!

 

 モーブルは頭を前後に激しく揺らし、ストロークを早めた。

 唇をきつくすぼめて締め付け、舌を螺旋状に巻き付け、喉の奥の粘膜で敏感な亀頭をこすり上げる。

 ただ吸うだけではない。強弱をつけ、時折歯を立てないように甘噛みし、未経験の少年の脳髄に「射精(イく)」感覚を叩き込んでいく。

 

 

「あ、あぁっ……!♡ だめ、そこっ……!♡ 気持ちいいとこ……いじめない……でぇ!♡♡」

 

 

 ライオットの悲鳴が、甘く溶けた喘ぎ声へと変わる。

 細い指がモーブルの髪を鷲掴みにし、逃げるどころか、快楽を求めて無意識に腰を押し付けてくる。

 理性が飛び、本能が目覚めた証拠だ。

 

 

「んむ……ッ!」

 

 

 モーブルはカッと目を見開き、ライオットの表情を上目遣いで観察する。

 白磁の肌が桃色に染まり、瞳が潤んで焦点が合わない。

 半開きの口元からは涎が垂れ、完全に快楽に支配された雌の顔だ。

 

 

(そろそろか……!)

 

 

 ズズッ、ジュボォオオオッ!!

 

 最後の一押し。

 モーブルは肺の中の空気をすべて吐き出し、口内を真空状態にして、根本から亀頭の先までを一気に吸い上げた。

 強烈な吸引圧《バキューム》が、少年の精巣を絞り上げる。

 

 

「あぅっ……!?♡♡ あ、ああっ……!♡ なんか……くるっ! お腹の奥、熱いの……くる……っ!♡♡♡」

 

(よし……イケ!)

 

 

 口を離さず、喉を鳴らして促す。

 その振動が、決定的な引き金となった。

 

 

「あ……っ!♡ モーちゃん……くるっ!♡♡ くるっ、きちゃうぅぅぅーーーーっ!♡♡♡♡」

 

 

 ライオットの身体が弓なりに反り、白く華奢な背筋が限界までしなる。

 

 ドクンッ!!

 

 未成熟なペニスが大きく跳ねた瞬間。

 モーブルの口内に、熱い生命の奔流が解き放たれた。

 

 ビュルッ! ドピュッ! 

 

 初めての精通。

 今まで一度も出されたことのない純白の液体は、驚くほど量が多く、そして濃い。

 若さゆえの勢いで、白濁した愛液がモーブルの喉の奥を直撃する。

 

 

「んぐっ! ごくんっ……! んっ……!」

 

 

 モーブルは一滴もこぼすまいと、喉を鳴らしてそれを飲み干した。

 甘い。

 砂糖菓子よりも、ミルクよりも、どんな高級な酒よりも甘美な、純潔の味。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……っ♡」

 

 

 ライオットは焦点の合わない瞳で痙攣し、そのままモーブルにすがりつくように倒れ込んだ。

 震える体を抱きしめ、モーブルは満足げに唇を舐めた。

 

 

「ぷはぁ……! あぁ、たまらない! なんという極上の香り、そして深みのある味だ……! これこそが、若様の奥底に眠る『ミルクを作る機能』が正常、いや異常なほど活発に働いている証! ……ご覧なさい、若様の股間はもう、発情しきった『メス』の匂いをプンプンと撒き散らしている……! ええ、ええ、大変素晴らしい! 下の機能に関しては、文句のつけようがない満点の『合格点』ですよ!」

 

 

 褒め言葉として告げられた「合格」に、ライオットは茹で上がった顔を両手で覆った。

 

 

「もう……いじめないで……」

 

「いじめ? まさか。これは慈しみですよ。……さて、前の方は十分に検品できました。次はいよいよ、裏側(メイン)の『開通準備』に入りましょうか」

 

 

 モーブルは獰猛に口角を吊り上げると、ライオットを革張りのソファへ仰向けに押し倒した。

 抵抗する気力もない少年の両足を大きく広げ、その間に自身の巨体を割り込ませる。

 

 

「まずは、入念な準備運動といきましょう」

 

 

 モーブルは懐から、美しい装飾が施されたクリスタルの小瓶を取り出した。

 蓋を開けた瞬間、ふわりと芳醇なバラの香りが密室を満たす。

 蜜のように粘度の高い透明な液体を、たっぷりと太い指に絡め取る。

 

 その中身は、モーブル商会が独自開発した最高級の『特製潤滑油(ローション)』。

 肌に塗れば体温でとろけ、染み込んだ魔力成分が相手の心身を強制的にリラックスさせる。

 夜の社交界や、歓楽街の高級娼館へも卸している、知る人ぞ知る極上の代物だ。

 

 

「いいですか、若様。深呼吸をして、力を抜いて……わしに身も心も、全て委ねるのです」

 

 

 ヌルリ。

 油に濡れた太い指が、ライオットの秘部――固く閉ざされた処女の蕾(アナル)へと伸びる。

 

 

「んっ……!?」

 

 

 異物が触れる気配と冷たさに、ライオットがビクリと跳ねた。

 

 

「ふふ、固いですね。……ここは、誰にも触らせたことはないでしょう?」

 

「う、うん……そこは、出口、だから……」

 

「ええ、確かに出口です。ですがね……同時に、男にとっては極上の快楽への『入口』でもあるのですよ」

 

 

 モーブルは慈しむように優しく、円を描くように括約筋をマッサージし始めた。

 指先で未開発の皺の一つ一つを愛でるように、丁寧に、執拗に。

 次第に緊張が解け、蕾が呼吸をするようにひくり、ひくりと反応し始める。

 

 

「そうです、その調子。……では、失礼して」

 

 

 クプ。

 わずかな抵抗を排して、モーブルの第一関節が侵入した。

 

 

「ああっ! いたいっ……!」

 

「我慢なさい。すぐに気持ちよくなりますから」

 

 

 モーブルは残酷なほど冷静に、しかし手つきは愛撫そのもののように、指を奥へと進めていく。

 未開通の純潔な粘膜が、侵入者を拒むように、あるいは歓迎するようにギュウギュウと締め付けてくる。

 その温かく、吸い付くような極上の感触に、モーブルは理性が飛びそうになるのを必死で堪えた。

 

 

(なんという吸い付きだ……! まさに国宝級の名器……! ああ、理性が焼き切れそうだ! 今すぐにでも、わしの無骨な剛直(デカチン)を根元まで叩き込んで、この潔癖で高貴な未開の穴(おまんこ)を、ぐちゃぐちゃになるまで突き壊してしまいたいッ!)

 

 

 だが、ここで欲望のままに突き入れるのは三流のすることだ。

 最高の交わりには、入念な下準備が不可欠なのだから。

 

 モーブルは一本から二本へ、そして三本へと、ローションを追加しながら徐々に指の本数を増やし、狭く強張りきった内壁を丁寧に広げていく。

 同時に、指先で腹側の奥にある敏感な突起(スポット)を探り当て、クリクリと意地悪く刺激を与える。

 

 

「ひグッ……!? な、なに……今の……!? 雷が走ったみたいな……変な感じ……!」

 

「おや、ここですか? ここは男の子にとっての、一番気持ちいい『スイッチ』ですよ」

 

「そう……なの……? だから、こんなに変に……あっ、んんっ!♡ あぁっ!♡」

 

 

 苦痛に歪んでいた表情が、指が蠢くたびに、蕩けたような快楽の色に染め変えられていく。

 生理的な涙が瞳に滲み、半開きの口元からあえかな吐息が漏れる。

 頭では否定しようとしても、身体は正直に快楽へ屈服し、一度は萎えていた男根がビクビクと脈打ち、再び透明な蜜を零し始めた。

 

 

「ね、感じるでしょう? ご覧なさい、こんなにも男根(ペニス)を硬く反り返らせて、口からは涎を垂らして……。初めてでこれほど感じるとは、若様には『雌』としての天賦の才がおありのようだ」

 

「……私が、メス……?」

 

「ええ、そうですとも。……この淫らな反応こそが動かぬ証拠。若様のその高貴な身体は、今まさに、男の肉棒をねだるだけの『メス穴』へと作り変えられたのです」

 

 

 ジュプッ、と粘つく水音を立てて、埋まっていた指が一気に引き抜かれる。

 

 

「んっ、あぁ……っ!♡」

 

 

 詰め物を奪われた喪失感に、ライオットが切なげに腰を揺らして喘ぐ。

 ポカリと赤く口を開けたアナルは、ヌラヌラと淫らに光り、主人の帰還を待ちわびるようにヒクついている。

 蜜に濡れたその穴は、もはや「男」のそれではなく、種を欲する「雌」の器官そのものだ。

 

 受け入れの準備は、完璧に整った。

 ――そして、わしの理性の箍(たが)も、これで限界だ。

 

 

「さあ……若様。セックスといきましょうか。……貴方が望んだ、愛のあるセックスです」

 

「……うん」

 

 

 モーブルはライオットの華奢な両足を高く持ち上げ、自身の肩に担がせた。

 M字に開かれた股間は、すべてが丸見えになる屈辱的、かつ無防備な体勢だ。

 そして、その中心にある柔らかな入口に、怒張した亀頭をあてがう。

 

 

「若様。……ここからは、少し痛いかもしれません。ですが、絶対にわしから離れないでください。……いいですね?」

 

「う、うん……」

 

 

 ライオットが覚悟を決めたように目を閉じ、シーツをギュッと握りしめる。

 モーブルは腰を沈め、一気に突き入れた。

 

 ヌプッ、ズチッ、ズブブブブッ……!

 

 

「あ、あうぅぅぅぅぅッ……!!」

 

(くっ、狭い……! 熱い! そしてキツいッ!)

 

 

 未開通の肉壁が、異物の侵入を拒むように、あるいは離すまいとするように、モーブルの男根に凄まじい力で吸い付いてくる。

 裂けるような痛みにライオットが悲鳴を上げたが、モーブルは止まらない。

 ローションの助けを借りて、ズブズブと根元まで侵入し、二人の身体を完全に一つに繋げた。

 

 

「はぁ……はぁ……全部、入りましたぞ……」

 

 

 モーブルは荒い息を吐きながら、ライオットの顔を覗き込んだ。

 苦痛に顔を歪め、目尻から涙を流している。

 だが、その表情はどこか恍惚としていて、モーブルという存在を体内に受け入れた喜びに満ちていた。

 

「痛いですか?」

 

「……うん。痛い……でも、熱い……。モーちゃんが、私の中に、いっぱいいる……」

 

 

 嬉しいことをいってくれるじゃないか。

 その言葉が、モーブルの征服欲を爆発させる。

 天下のヴァルディス家の嫡男を、今、この脂ぎった自分が犯している。

 金と権力、そして美貌。そのすべてを持つ高貴な存在の、最も恥ずべき場所を、自分の剛直で満たしているのだ。

 この世の誰よりも深く、彼と繋がっているという事実は、モーブルの脳髄を焼き切るほどの優越感を与えた。

 

 

「動きますよ」

 

 宣言と共に、モーブルは腰を揺らし始めた。

 最初はゆっくりと、ねっとりと。

 内壁のひだを一枚一枚味わい、その形状を自身の男根に刻み込むように。

 

 ズチッ、ヌチュゥ……。

 

 粘度の高いローションと、ライオットの腸液が混ざり合い、卑猥な音を立てる。

 キツい。信じられないほどに狭く、極上の吸い付きだ。

 まるで生き物のように蠢く肉壁が、モーブルの侵入を拒みつつも、離すまいと絡みついてくる。

 

 

「んっ、あっ、あぅっ……!♡ くっ、くぅぅ……っ!♡」

 

 

 ライオットの唇から、甘い声が漏れ始めた。

 苦痛が快楽へ塗り替えられていくのを実感しているのだろう。

 汗ばんだ白磁の肌から、ふわりと高貴な香水の残り香と、若く青い雌の匂いが立ち昇る。

 それを脂ぎった商人の汗臭さが上書きしていく様は、まさに冒涜的な蹂躙だ。

 

 

「あっ……あぁ……っ!♡ すごい……お腹の奥、突かれてる……っ!♡」

 

 

 ライオットの吸い付くような白い手が、モーブルの広い背中に回され、爪を立てる。

 初体験の苦痛は、モーブルの巧みな腰使いによって、急速に甘い痺れへと変換されていく。

 

 

「ふふ、いい声だ……。若様、ここは貴方のお屋敷の寝室ではありません。声を殺す必要などないのです」

 

 

 ズプッ、グチュッ!

 モーブルは一度浅く引き抜き、再び深々と打ち込んだ。

 

 

「もっと鳴きなさい。獣のように、メスのように……もっと、この薄汚い商人の名前を呼びなさい!」

 

「あぁっ!♡♡ モーちゃん……っ!♡♡ モーちゃん……っ!♡♡ あっ、あっ、そこ……っ!♡♡」

 

 

 モーブルの動きが激しくなる。

 パンッ、パンッ、と肉と肉がぶつかり合う卑猥な破裂音が、静寂だった地下室に響き渡る。

 巨体が打ち付けるたびに、ライオットの華奢な体が揺れ、革張りのソファに深く沈み込む。

 白磁の肌は桜色に染まり、全身から吹き出した玉のような汗が、照明を弾いて艶かしく光る。

 その光景は、どんな高級な絵画よりも美しく、そして背徳的だった。

 

 

(ああ、たまらない……! この無垢で高貴な少年を、わしのような太った豚が犯し、自分色に染め上げている……!)

 

 

 モーブルは腰を振る速度を緩めず、角度を変えた。

 未成熟な身体の、最も敏感な一点を探る。

 そして、腹側にある前立腺を、亀頭のカリで抉るように擦り上げた。

 

 

「――ひぎっ!?♡」

 

 

 ライオットの喉から、今までとは違う、ひっくり返ったような悲鳴が上がった。

 ビクンッ! と身体が弓なりに跳ね、内壁が痙攣してモーブルを強く締め付ける。

 

 

「おや、ここですか? ここが若様の『弱点』ですか!」

 

「ちが、やっ、そこ……おかしく……なるぅっ!♡ 頭……真っ白になっちゃうぅぅっ!♡♡」

 

「そうです、そこです! ええい、なんと素晴らしい締め付けだ! まるで極上の名器が、わしの種を欲しがって吸い付いてくるようだ!」

 

 

 モーブルは一度動きを止め、荒い息を吐きながら、ライオットの華奢な両足をさらに大きく左右へと広げさせた。

 足首を太い手で掴み、その白くなめらかな太ももを、少年の肩につくほど深く押し付ける。

 いわゆる「屈曲位」と呼ばれるその体勢は、恥部を限界まで晒し出し、結合部のすべてを露わにする最も恥ずべき格好だ。

 

 特等席で見せつけられるのは、背徳の極みたる光景。

 白く愛らしい蕾が、太く黒い杭を限界まで飲み込み、パンパンに張り詰めている様。

 粘着質なローションと腸液が混ざり合い、あぶくを吹いて結合部を濡らし、滴り落ちている様。

 

 

「ご覧なさい、若様。……素晴らしい眺めだ」

 

「い、いやぁ……っ! そんなの……見たくない……っ!」

 

 

 ライオットが首を振って逃れようとするが、モーブルは許さない。

 

 

「いいえ、見るのです。これが貴方の真実の姿だ。高貴なヴァルディスの若様が、こんな下品な商人の肉棒を、欲しがって飲み込んでいる……その淫らな現実を、目に焼き付けなさい」

 

 

 モーブルは諭すように、しかし強制的にライオットの顎を掴み、自身の股間へと視線を向けさせた。

 

 

「あ……うぅ……っ♡」

 

 

 見てしまった。

 自分の体が、ありえないほど太い異物を、根本まで咥え込んでいるところを。

 入り切らないピンク色の粘膜が捲れ上がり、卑猥に脈動しているのを。

 

 

「……なんていやらしい。あんなにキツかった入り口が、今ではわしの形に馴染んで、よだれを垂らして喜んでいる」

 

「み、見ない……で……っ!♡ 恥ずか……しい……っ!♡」

 

「恥ずかしがることはありません。貴方は美しい。……愛してあげますよ、骨の髄まで」

 

 

 モーブルはライオットの覆いかぶさるように身体を倒すと、涙に濡れたその唇を塞いだ。

 

 チュッ、ジュルッ、レロ……。

 

 

「んむっ……んぁ……っ♡」

 

 

 下半身は暴力的に繋がりながら、唇は恋人のように甘く絡め合う。

 唾液を交換し、舌を吸い合いながら、モーブルはライオットの耳元で、呪いのような愛の言葉を囁き始めた。

 

 

「愛していますよ、若様……。貴方のその清らかな魂も、淫らな身体も、全てわしのものです」

 

「んぅ……♡ モーちゃん……♡ すきぃ……♡♡ だきしめてぇ……♡♡」

 

「ええ、抱きしめていますよ。外側からも、内側からもね……ッ!」

 

 

 ズドンッ!

 

 一転して、モーブルは猛烈なピストンを開始した。

 もはや慈悲も理性など欠片もない。

 ただ獣のように貪り、己の存在を刻み込み、種を植え付けることだけを求めるオスの本能だけがそこにあった。

 

 グチュッ、ズパンッ! グチュッ、ズパンッ!

 

 肉と肉が激しくぶつかり合う音が、地下室に反響する。

 モーブルの巨体が打ち付けられるたびに、ライオットの華奢な身体は壊れた人形のように揺さぶられ、ソファへと深く沈み込んだ。

 汗と愛液で濡れた肌同士が滑り、粘りつくような音が快楽を加速させる。

 

 

「あぐっ、ああっ……!♡ あぁぁぁっ……!♡♡ はげしっ……激し……すぎ……るよぉっ!♡♡♡」

 

「愛しているからですよ! わしの愛が大きすぎて、溢れ出してしまうのです!」

 

 

 モーブルは腰を振る速度を緩めない。

 それどころか、角度を変え、さらなる深淵へと切っ先をねじ込んでいく。

 狙うのは、男の弱点である前立腺。

 そこを正確無比に、かつ暴力的な速度で連打する。

 

 ゴリッ、ゴリッ、ゴリッ!

 

 

「――ひぎィッ……!?♡♡♡ そこっ……そこぉ、だめぇっ……!♡♡ 頭、とけちゃうぅっ……!♡♡」

 

「溶けてしまいなさい! わしの肉棒のことしか考えられない、淫らな雌になっておしまいなさい!」

 

 

 耳元で呪詛のように囁きながら、無防備な首筋に熱いキスを落とす。

 甘い愛撫と、内臓を突き上げる破壊的な暴力。

 相反する二つの刺激が、ライオットの脳髄をかき回し、残っていた理性の欠片をドロドロに溶かしていく。

 

 

「あぁっ……!♡♡ モーちゃん……すごいっ、すごいのぉっ……!♡♡♡ こわれるっ……!♡♡ 私、こわれちゃうよぉっ……!♡♡♡」

 

「壊れるものですか! 若様はこの国一番の『至高の逸品』だ! これしきの快楽で砕けるような、柔な造りはしていらっしゃらない! ……むしろ、こうして太った中年の商人に犯されるためにあつらえられたかのように、奥が喜んで締め付けてくるではありませんか!」

 

 

 言葉責めと共に、さらに深く、重く。

 内壁のひだ一つ一つを擦り上げ、弱点を執拗に抉るようなピストン。

 ライオットのペニスは、誰の手も触れていないにも関わらず、ガクガクと竿を揺らし、先端からポタポタと先走り汁を撒き散らしている。

 前立腺への刺激だけで、ドライオーガズムへと強制的に導かれているのだ。

 

 

「あ……あぁ……っ♡ 勝手に……おちんちん、ビクビクしてる……っ♡ 気持ちいい……お腹の奥、とろとろするぅ……っ♡」

 

「そうだ、それがお前の本来の姿……『メス』としての喜びだ。……可愛い、本当に可愛いな、ライオットは」

 

 

 昂りのあまり、つい敬語が剥がれ落ちた。

 一介の商人が貴族を呼び捨てにするなど、平時であれば許されざる不敬。

 だが、今のライオットにそれを咎める理性など残っていない。

 むしろ、その乱暴でいて慈しみに満ちた「オス」からの「メス」扱いに、彼は背筋がゾクゾクするほどの歓喜を覚え、恍惚の涙をこぼした。

 

 

「モーちゃん……うれしい……もっと……私の名前を呼んで……♡」

 

 

 潤んだ瞳が、無言のうちに訴えかけていた。

 もっと、その太い腕の中に閉じ込めて。

 高貴な身分も、家のしがらみも、全部いらない。

 ただの「ライオット」という一人の無力な存在として、貴方に愛されたいのだと。

 

 

「もっと乱暴に……一番奥に……ちょーだい……っ♡」

 

「ふふ、ライオットは本当に貪欲な子だな。……いいだろう、望み通り、わしの全てをくれてやる!」

 

 

 肌と肌を打ち付け合い、汗と体液を交換し合うこの場所。

 熱気と湿気に満ちたこの密室は、外界から切り離された孤島だ。

 そこには、平民も貴族もない。身分差などという無粋な壁は、とうに快楽の熱で溶け落ちている。

 ここにいるのは、ただ本能のままに求め合う、番(つがい)の雄と雌だけだ。

 

 モーブルはライオットの細い腰を万力のように両手で掴む。

 逃げ場を完全に封じると、体重のすべてを乗せた渾身の一撃を突き放った。

 

 ズドォォンッ!!

 

 

「あぎぃっ!?♡♡♡」

 

 

 最奥。

 第二の関門であるS字結腸の入り口を強引にこじ開け、未踏の聖域へと亀頭が深々と侵入する。

 

 

「あっ、あぁっ!♡♡♡ モーちゃんっ……私のお腹……すごい……っ♡♡♡ 深すぎるよぉ……ッ!♡♡♡」

 

 ライオットが切なげな声を上げ、涙を散らしながら自ら腰を揺らし始める。

 与えられた快楽を貪り食うように、もっと奥へと、楔(くさび)を招き入れるように。

 初めてでこの乱れよう。それはもはや才能などという言葉では生温い――本能の開花だ。

 

 

「ああ、ライオット……お前は、なんていじらしいんだ……! わしを受け入れるために生まれてきたような体だ……!」

 

 

 モーブルも息を荒げ、獣の如き荒々しさで腰を打ち付ける。

 

 パンッ! グチュッ! パンッ! パンッ! グチュッ! パンッ!

 

 肉がぶつかる硬質な音と、愛液が練られる湿った音が、密室に卑猥なリズムを刻む。

 打ち付けるたびに、結合部から泡立った白濁液が飛沫となって散り、ライオットの純白の太ももを背徳的に汚濁していく。

 

 

(くっ、わしも……もう、限界だ……!)

 

 

 極上の締め付けと、高貴な少年の乱れきった痴態。

 視覚、聴覚、触覚、その全てから流れ込む快楽の奔流が、モーブルの理性を焼き切る。

 腹の底から、灼熱のマグマが暴発寸前までせり上がってくる。

 

 モーブルはライオットの上体に覆いかぶさり、汗ばんだ髪をかき上げ、その耳元で野太く、情熱に満ちた声で吼えた。

 

 

「く……っ! ライオット、中に出すぞォッ! わしの全てを、お前の深淵(なか)に注ぎ込むぞぉ!」

 

 

 その宣言は、ライオットにとっても限界の合図だった。

 彼はモーブルの広い背中に爪を立て、泣き叫ぶように懇願した。

 

 

「うんっ……!♡♡ 出してっ……!♡♡ モーちゃんの……熱いの、全部ぅっ……!!♡♡ 私をいっぱいにしてぇぇぇっ……!♡♡」

 

 

 二人の絶頂が重なる。

 時が止まったような一瞬の静寂の後――世界が弾けた。

 

 ドピュッ!!! ドピュルルルルッ!! ビュルッ! ドピュッ!!!

 

 モーブルの剛直が大きく脈打ち、ライオットの胎内深くに、生命の奔流を叩きつけた。

 

 

「ん、んぅぅぅぅぅぅぅッ……!!!♡♡♡♡♡」

 

 

 ドクンッ!! ドピュルッ、ドピュルルルッ……!!

 

 灼熱の白濁液が、凄まじい勢いでライオットの腸内へと叩きつけられる。

 熱い。焼けるように熱い生命の塊が、間欠泉のように噴き出し、お腹の底にどっぷりと溜まっていく感覚。

 それは、本来は排泄器官であるはずの場所を、種を受け止めるための「子宮」へと強制的に書き換える、背徳の種付けだ。

 

 ライオットの華奢な背中が、限界まで弓なりに反る。

 内側からの強烈な圧迫刺激によって、前立腺が直接弾かれたのだ。

 誰の手も触れていないペニスがビクビクと跳ね、白濁した精を空中に派手に撒き散らした。

 脳髄を真っ白に染め上げる、完全なる同時絶頂。

 

 

「あ……ああ……♡♡♡」

 

 

 ドプン、ドプッ、ドクン……。

 

 射精の嵐が過ぎ去っても、モーブルは腰を密着させたまま離さない。

 亀頭を奥の奥へ押し込み、残尿感を絞り出すように、最後の一滴までをライオットの胎内へ注ぎ込む。

 それは、消えることのない所有の刻印(マーキング)。

 

 

「はぁ……はぁ……ッ♡」

 

 

 荒い息遣いと、水音だけが支配する地下室。

 モーブルは自身の熱を持て余したまま、ゆっくりと腰を浮かせた。

 名残惜しいが、まずはこの素晴らしい情事の結末――すなわち「作品の完成」を目に焼き付けねばならない。

 

 ズプンッ、ヌチュゥ……。

 

 粘着質な音と共に、肉と肉の結合が解かれていく。

 充血して赤く腫れ上がり、だらしなく広がった愛らしい蕾から、ごとりと凶悪な楔が引き抜かれた、その瞬間。

 

 ――ポンッ。

 

 まるで高級なシャンパンの栓を抜いたような、どこか間の抜けた、しかし極めて卑猥な音が響いた。

 空洞になったことが知らされると同時に、閉じきらないライオットのアナルから、先ほど注ぎ込んだばかりの濃密な液体が、堰を切ったように溢れ出した。

 

 

 とぷッ……だらぁ……とろとろ……。

 

 情事の熱で火照り、熟した桃のように赤く染まった内腿。

 その紅潮した肌の上を、白と透明が混ざり合った背徳の液体が、白濁した筋を描いて垂れ落ちていく。

 

 ぽっかりと口を開けたまま塞がらない穴と、垂れ流される精液。

 それは、高貴なヴァルディス家の嫡男が、ただの「メス」として快楽に堕とされ、開発され尽くした何よりの証明だった。

 

 ぐったりとソファーに沈む少年の肢体は、快楽と疲労で糸が切れた操り人形のように、無防備に投げ出されている。

 

 

「はぁ……はぁ……愛していますよ、ライオット若様……」

 

 

 事後の余韻の中、モーブルはぐったりとする少年の額に、誓いのような口づけを落とした。

 その言葉に応えるように、意識の飛びかけたライオットが、幸せそうに微笑んだ。

 

 しばしの間、二人は荒い息を吐きながら、重なり合って動かなかった。

 事後の余韻。

 濃厚な雄の匂いと、バラのローションの香りが混ざり合い、むせ返るような頽廃的な空気が地下室に漂う。

 

 

「……ふぅ。はぁ……。若様は、素晴らしい抱き心地ですな。せっかくの初体験なのです。回復したらもう一戦やりますかな……ふへへ」

 

 

 モーブルは額の汗を拭い、だらしなく相好を崩して、事後の気怠い充足感に浸ろうとした。

 だが、その瞬間。

 急速に冷えていく頭脳――俗に言う『賢者タイム』の到来と共に、モーブルの背筋に、氷柱を突き刺されたような戦慄が走った。

 

 

「……あ、待て。わし、今……中に出したよな……?」

 

 

 サァッ、と。

 全身の血液が逆流し、顔面から血の気が引いていく。

 脳内で最大級の緊急警報(アラート)が鳴り響く。

 

 

 ――まずい。致命的にまずい!

 

 

 懸念事項は二つある。

 一つは、当然ながら相手が、あの裏社会の帝王『ゼノン・ヴァルディス』の息子であること。

 この情事が露見すれば、物理的に消される。

 文字通り、挽肉(ミンチ)にされて海の藻屑だ。

 

 だが、それ以上にもっと恐ろしい、わしの身に迫る絶対的なリスクがある。

 

 

 ――『レベルブレイク(限界突破)』の発動だ。

 

 

 わしは、歴史の闇に埋もれた『レベル師』の末裔。

 特異体質であるわしの濃厚な体液を体内に受けた者は、強制的にレベルの限界値が底上げされ、その代償として全身が発光する現象が起きる。

 

 もし、今ここでライオットの身体に異変が起きれば?

 それは単なる「情事の果て」では済まされない。

 わしが伝説上の存在である「レベル師」だと、白日の下に晒すことになる!

 

 そうなれば、国家機密レベルの重要参考人として即座に指名手配。

 一生、陽の当たらない地下研究所で、死ぬまで精を搾り取られるモルモットとしての未来(バッドエンド)しか待っていない!

 

 

(頼む……! まだ発動しないでくれ……! いや、そもそも発動条件を満たしていなければセーフだ! 頼む、頼むぞ、レベル神様ッ!)

 

 

 祈るような気持ちで、ソファーに沈む少年を見下ろす。

 いまのところ、ライオットの白い肌は情事の熱で赤く染まっているだけで、異常な発光現象は見られない。

 だが、数値を見るまでは心臓が破裂しそうだ。

 

 

「くそっ、もう手遅れかもしれんが……確認せねば! スキル『レベル鑑定』――ッ!!」

 

 脂汗に濡れ青ざめた表情をしたモーブルは、ぐったりと横たわるライオットに向けてスキルを発動した。

 虚空が歪み、ライオットの頭上に、無慈悲で冷ややかな青白い光の羅列が浮かび上がる。

 

 

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【ライオット・ヴァルディス】

年齢:11歳

性別:男

職業:天才魔法使い

レベル:62(限界レベル:79)

体力:658

攻撃力:25

防御力:69

魔力:1086

魔法耐性力:872

知力:1276

素早さ:161

運:150

 

経験値:6130/6430

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「……ほっ、あぶねぇ……! 全然セーフだったな」

 

 

 空中に表示されたステータスウィンドウを確認し、モーブルは操り糸が切れたようにその場へへたり込んだ。

 どっと噴き出した冷や汗で、寿命が三年は縮んだ心地だ。

 

 モーブルの秘奥義『レベルブレイク』が発動する条件はただ一つ。

 対象者の現在のレベルが、その器の限界値(カンスト)に達している状態で、わしの濃厚な体液を受け入れること。

 

 

 ――ライオットの現在のレベルは『62』。

 対して、生まれ持った限界レベルは『79』。

 

 まだ器に成長の余地(あき)が残っていた。

 そのわずかな隙間のおかげで、限界突破の儀式は不成立(キャンセル)となり、謎の発光現象といった「バレる」事態をギリギリで回避できたのだ。

 

 

「……それにしても」

 

 

 安堵の息を吐き出した直後、モーブルは改めて目の前に浮かぶ光の文字列を凝視した。

 恐怖が去った後にこみ上げてきたのは、レベル師としての純粋な驚愕と、畏怖だった。

 

 

(レベルブレイクの儀式も受けずに、素の状態での限界レベルが『79』だと……?)

 

 

 一般人の限界レベルなど、せいぜい20止まり。

 一流と呼ばれる冒険者でさえ30か40あれば御の字だ。

 それを、この少年は生まれ持った才能だけで倍近く凌駕している。もはや神に愛されているというより、神が戯れに作り出した芸術品だ。

 

 

(それに、なんだこのイカれたパラメータは。レベル62の時点で魔力が1000を超えているなんて、聞いたことがないぞ)

 

 

 あの「神童」と名高いニーシャ坊っちゃんでさえ、初めて出会った頃はここまでの異常数値ではなかったはずだ。

 魔法理論や構築術といった『知力』ならニーシャが圧倒的に上だろう。

 だが、純粋な潜在能力(ポテンシャル)と魔力総量(MP)だけを見れば、この子は、あの天才をも凌ぐかもしれない。

 

 このまま順当に成長し、さらにわしの手で限界突破まで施したら……一体どんな大魔法使い(バケモノ)が誕生するというのか。

 

 

(……恐ろしい子だ。これがヴァルディスの血、これこそが真の『天才』というやつか)

 

 

 モーブルは、まどろむライオットを見下ろした。

 汗に濡れた前髪、白い肌に散る、赤黒い愛の痕跡。

 この華奢で折れそうな身体の中に、国をも滅ぼしかねない怪物が眠っている。

 

 そして、そんな怪物を――自分は『雌』として開発し、あろうことかその深淵に種を注ぎ込んでしまったのだ。

 

 背徳感と征服欲、そして遅れてやってきた得体の知れない戦慄が入り混じり、モーブルはぞくりと身震いした。

 

 

「……モーちゃん」

 

 

 不意に、ライオットがとろんとした瞳を向けてきた。

 情事の熱が冷めやらぬ、濡れて潤んだ瞳だ。

 

 

「……気持ちよかった?」

 

「ッ……! え、ええ。それはもう、この世のものとは思えぬほど極上でしたとも」

 

 

 モーブルは思わず本音を漏らした。

 嘘はつけない。商人の舌は、最高品質の極上品を前にしては正直すぎるのだ。

 すると、ライオットは嬉しそうに微笑み、モーブルの大きな手を、自身の小さな手できゅっと握りしめた。

 

 

「よかった。……これで、私と君は『共犯』……だね……」

 

「……共犯?」

 

「うん。……今日のことは、秘密……。絶対に、誰にも言わない……」

 

 

 ライオットは身を起こし、モーブルの耳元で甘く囁いた。

 その声は、無邪気な悪戯っ子のようで、けれど背筋が痺れるほど妖艶な、魔性の響きを帯びていた。

 

 

「父上にも、店員の子たちにも……神様にだって、内緒。……二人だけの、秘密の契約……」

 

 

 モーブルはゴクリと唾を飲み込んだ。

 秘密。

 それは、どんな魔法契約よりも重く、そして逃れられない甘美な鎖だ。

 

 

「……ええ。墓場まで持っていきますとも。神に誓って、絶対に秘密です」

 

 

 モーブルはライオットの手を強く握り返した。

 恐怖がないわけではない。バレれば破滅だ。

 だが、それ以上に――この美しく高貴な少年と共有する「秘密」の背徳感が、モーブルの魂をどうしようもなく高揚させていた。

 

 

「ねぇ……私、合格……? モーちゃんのお店で……働ける……?」

 

 

 甘い余韻から一転、ライオットは懇願するように潤んだ瞳を揺らした。

 その無垢な問いかけに、モーブルは現実に引き戻される。

 

 

「あ、ああ……入社試験は合格ですが、それは……やはり困るというか、立場というものが……」

 

「……ダメ? 『愛してる』って、言ってくれたのに……?」

 

 

 その上目遣いは反則だった。

 先ほどの艶めかしい記憶と、小動物のような愛らしさが同時に襲いかかってくる。

 これに勝てる男など、この世に存在するだろうか。

 いや、断じていない。

 

 

「……はぁ。仕方ありませんな」

 

 

 モーブルは白旗を上げるように深く溜息をつき、やれやれと肩をすくめた。

 

 

「分かりました、認めましょう。……ただし! 雇用条件は厳しいですぞ?」

 

 

 ビシッ、と人差し指を突きつけ、モーブルはここぞとばかりに捲し立てた。

 

 

「まず、大前提として『保護者の許可』を得ること! 若様のお父上、つまりゼノン卿のご承認がなければ、わしは若様を雇うことはできません。これは絶対条件です!」

 

 

「……父上の、許可……」

 

「ええ。もしそれがクリアできたら……その時は、わしの店で働いてもらいます。ですが、扱いは『アルバイト』かつ『試用期間ありの見習い』です! 当然、賃金も相場通りの見習い価格。金貨など夢のまた夢、銀貨……いや、働きが悪ければ銅貨での支払いになります。それでも文句は言わせません!」

 

 

 ヴァルディス家の嫡男に銅貨を握らせるなど、不敬罪で首が飛んでもおかしくない所業だ。

 だが、さすがにこれだけ厳しい条件を出せば、諦めるか、あるいは親父に怒られて終わるだろうという最後の悪あがきだ。

 

 

「そして、店に来るならわしの指示には絶対に従うこと。たとえ貴族だろうと、この『モーブル商会』においては、店主であるこのわしが王であり法律なのです。そのことを頭に叩き込んでください!」

 

「うん……!」

 

「それと、高価な貢物は禁止です。花も一本で十分! ……あと、ここが一番重要ですが、わしのことを『優しい』なんて他人に言うんじゃありませんよ。商人は冷徹でなんぼ。商売の邪魔になりますからな」

 

「うん…… 分かった……! 私、父上に……お願い……してみる……! ありがとう、モーちゃん……!」

 

 

 ライオットの顔が、まるで大輪の花が咲いたようにパァッと輝いた。

 純真無垢なその笑顔は、直視すれば目が潰れそうなほどに眩しい。

 

 

(……悪いな、若様。わしはハナから若様を雇う気などサラサラないんだよ)

 

 

 相手はあの冷徹冷酷な裏社会の帝王・ゼノン卿だ。

 上級貴族の跡取り息子が、平民の小汚い店でバイト? 

 ありえない。

 天地がひっくり返っても許されるはずがない。十中八九、門前払いで終わるだろう。

 

 

(くくく……いい気味だ、ゼノンめ! 『入社試験』になぞらえて、貴様が手塩にかけて育てた純白の息子の処女(はじめ)は、この薄汚い商人が骨の髄まで美味しく頂いてやったぞ! なんという僥倖! これぞ因果応報! かつてわしをゴミのように扱った報いだ!!)

 

 

 長年腹に溜まっていた澱が、一気に解消されたような爽快感。

 ライオットのあの純真さなら、この情事を他人に吹聴することもあるまい。「二人だけの秘密」として、墓場まで大事に胸にしまってくれるはずだ。情報漏洩のリスクは限りなくゼロに近い。

 

 たとえ店員として雇えなくても、身体の相性と恋心という鎖で繋ぎ止めておけばいい。

 彼はこれからも足繁く店に通い、恋する乙女のような顔で金を落としてくれる「太客」になってくれる。

 

 復讐完了、かつ金貨を背負ったカモの恒久的な獲得で万々歳。

 ――そう、この時のモーブルは、自身の描いた完璧すぎる絵図面に酔いしれ、完全に高を括っていた。

 

◆

 

「……え?」

 

 

 モーブル商会の重い木扉を開け放った瞬間、モーブルは石像のごとく凍りついた。

 喉の奥から漏れたのは、百戦錬磨の商人にあるまじき間抜けな濁音。だが、誰に責められようか。

 朝日が差し込む店先――そこに、ありえない「異物」がちょこんと鎮座していたのだから。

 

 

「……おはよう……ございます……モーちゃん。……お仕事、しにきたよ……」

 

 

 上目遣いで、恥ずかしそうにモジモジと挨拶してくるのは、つい先日わしが骨の髄まで愛で尽くした愛玩具――もとい、ヴァルディス家の嫡男、ライオットだ。

 

 先日までの貴族然とした装いではない。

 平民風の簡素なチュニック――なのに、素材の良さと育ちの気配だけが隠しきれていない。

 着慣れない服に戸惑いながらも、その瞳はどこか期待に濡れて、まっすぐこちらを見ていた。

 

 

「い、いやいやいや若様!? 『モーちゃん、お仕事しにきた』ではなくてですね!?」

 

 

 モーブルは反射的に周囲を確認し、ブンブンと両手を振った。

 

 

「以前申し上げたはずです! お父上――ゼノン卿の許可がなければ、逆立ちしても雇えないと! これは絶対の条件で……」

 

「……うん……。分かってる……。だから……もらってきた……これ」

 

 

 ライオットが小さな手で差し出したのは、一通の封筒だった。

 

 ――ヒュッ。

 

 モーブルの喉が、引き攣った音を立てる。

 封蝋に刻印されていたのは、見間違いようのない『漆黒の双頭竜』。

 泣く子も黙る、ヴァルディス伯爵家の家紋だ。

 

 

(ば、馬鹿な……!? あの冷徹なゼノンが、息子のバイトを許可しただと……!?)

 

 

 嫌な汗が、滝のように背中を伝う。

 本能が「触れるな」と警鐘を鳴らしている。だが、受け取らないわけにはいかない。

 モーブルは震える指先で封筒を受け取ると、祈るような気持ちでペーパーナイフを滑らせた。

 

 中から現れたのは、最高級の羊皮紙。

 そこには、カミソリのように鋭利で流麗な筆跡が走っていた。

 

 

『我が息子、ライオットが世話になる。本人がどうしてもと聞かぬゆえ、社会勉強の一環として、貴殿の店での労働を許可する。給与、待遇等は貴殿の店の規定通りで構わん。特別扱いは無用だ。

 

 ――ただし』

 

 

 そこで一度、文章が途切れ、行間からどす黒い殺気が立ち昇った気がした。

 

 

『――息子に傷一つ、指一本でも触れた場合は、貴殿の店を更地にし、一族郎党、未来永劫に至るまで根絶やしにするものと心得よ。

 また、息子の身分を公にすることは許さん。あくまで平民として働かせ、ヴァルディスの名は伏せさせよ。無用な騒ぎを起こせば、その時は分かっているな?

 

 ゼノン・ヴァルディス』

 

 

 

「ひっ……!?」

 

 

 モーブルの手から、羊皮紙がひらりと舞い落ちた。

 

 ――許可証、というより脅迫状だ。

 だが、文面のど真ん中に、確かにこう書いてある。“許可する”と。

 そして、“正体を隠せ”と。

 

 あのゼノンが? 跡取り息子を? こんな店で働く許可を出す?

 理屈が、まるで噛み合わない。

 

 

「……父上に……一生のお願い、した……」

 

 

 ライオットは真っ白な指先をもじもじと絡め、叱られた子犬のように目を伏せた。

 

 

「『どうしてもモーブル商会で働いて……社会のことを知りたいんです』って……。ご飯も食べずに……お部屋のドアの前で、ずっと座り込んで……。お願いしたら……『……そこまでの覚悟があるなら、好きにせよ』って……」

 

「……は、はぁ。そ、そうですか……」

 

 

 モーブルの口から、乾ききった笑いがヒュウと漏れる。

 

 

「熱意……届いちゃったんですね。……ハハハ……」

 

「うん……これで、モーちゃんとこれから……一緒にいれる……嬉しい……♡」

 

 

 とろけるような笑顔で、とんでもないことを言う。

 おとなしい顔をして、あの冷血漢ゼノン相手に“ハンガーストライキ”と“座り込み”の合わせ技で完全勝利をもぎ取っただと?

 この子、行動力のベクトルと出力がおかしい。

 

 

(ご、誤算だ。完全に計算が狂った……!)

 

 

 モーブルは内心で頭を抱えた。

 上客として可愛がり、金を落としてもらって、程よい距離感で飼い慣らす――それがわしの描いた完璧なシナリオだったはずだ。

 それなのに、なにが「雇用」だ。

 しかも背後には、裏社会の帝王による「殺害予告付き」の許可証?

 

 怪我ひとつで更地、指一本で根絶やし……。

 つまり、わしは今日から、“世界一危険な時限爆弾”を従業員員名簿に登録して、笑顔で接客させなきゃならんのか!?

 

 

「……あの、モーちゃん……? どう……したの……? 顔色、悪いよ……?」

 

 

 心配そうに覗き込む灰色の瞳。

 そこにあるのは純粋な親愛だけで、裏の事情なんて欠片もない。……その無自覚さが、いちばん厄介だ。

 

 

「……いえ、なんでもありません。感動で言葉が出ないだけですとも」

 

 

 モーブルは咳払いで喉を整え、商人の顔を貼り付ける。

 

 

「約束は約束です。採用としましょう。今日から我が商会の一員として――無理のない範囲で、働いてもらいますよ」

 

「……! うん……っ!」

 

 

 ライオットの表情が、ぱっと花開くように輝いた。

 店内の照明すら霞むような、極上の笑顔。

 

 

「私……モーちゃんの役に立てるように……がんばる……ね!」

 

 

 その眩しさに目を細めながら、モーブルは腹の底で深く、重くため息をついた。

 こうなっては仕方がない。

 毒を食らわば皿までだ。

 

 それに――店にこれほどの美少年が一人増えれば、見栄えは抜群だ。

 客足も伸びるし、謎めいた美貌の店員がいると噂になれば、店の格も上がるだろう。

 

 ただし、条件がある。

 これはわしの保身のためだけではない。

 ゼノンからの厳命でもある。

 上級貴族の若様が、平民の店で働いていると知れれば大騒ぎだ。

 ヴァルディス家の威信に関わるし、変な野次馬も集まりかねない。

 

 

「いいですか、若様。働くにあたって、一つだけ絶対の条件があります」

 

 

 モーブルは人差し指をビシッと立て、真剣な眼差しで告げた。

 

 

「ここではその『身分』を完全に隠していただきます。ヴァルディスの名は禁句……今のあなたは、ただの新人店員『ライ』です」

 

「……隠す? それに、ライって……私が……?」

 

「ええ。世を忍ぶ仮の名、というやつですね。上級貴族様がこんな平民の店で働いているとバレたら、商売どころか店が物理的に消し飛びかねませんから」

 

「ふふっ……貴族じゃない、私か……。面白そう……」

 

 

 狭い鳥籠の中で生きてきた浮世離れしたライオットにとって、これはただの『ごっこ遊び』に過ぎないのだろう。

 だが、その火遊びを押し付けられたモーブルにしてみれば、たまったものではない。

 モーブルは小さく溜息をつくと、カウンターの下をごそごそと探り、ある一つのアイテムを取り出した。

 ――少し大きめの、黒縁メガネだ。

 

 

「それと、これをかけてください」

 

「……メガネ?」

 

「ただのメガネではありません。わしが“とある筋”から仕入れた、特製の『認識阻害の伊達メガネ』です」

 

 

 モーブルはレンズを拭きながら、得意げに解説する。

 

 

「これをかけると、他人の認識を微妙にずらす魔術がかかっております。『あれ? どこかで見たような? いや、気のせいか』と思わせる程度の微弱なものですが、正体を隠すには十分な効果があります」

 

 

 ライオットは不思議そうにメガネを受け取ると、素直にそれをかけた。

 少しオーバーサイズなフレームが、彼の小顔と大きな瞳を強調し、知的でありながらどこか守ってあげたくなるような愛らしさを醸し出している。

 

 

「……どう? 似合う……?」

 

「…………ッ!!」

 

 

 似合うなんてもんじゃない。破壊力が倍増している。

 だが、確かに「ヴァルディス家の冷徹な麒麟児」という鋭い印象は薄れ、「文学少年風の可愛いバイト君」という雰囲気に変わっていた。

 これならいける。

 

 

「……え、ええ。完璧です。これなら誰も、あなたが『葬送の雷光』だとは気づかないでしょう」

 

 

 モーブルは満足そうに深く頷いた。

 

 

「今日から貴方は、モーブル商会で働くときは平民として振る舞ってもらいます。どこにでもいる(美しすぎる)平民のメガネ少年、『ライ』です」

 

「……うん。分かった……。私、ただのライ……メガネのライ……」

 

 

 コクリ、と素直に頷く姿に、少しだけ安堵する。

 これならなんとかなるかもしれない。

 

 問題は“扱い”だ。

 いくら身分を隠すといっても、平民どもが押し寄せるレジや接客の最前線に立たせたら、その浮世離れした言動からボロが出て正体がバレるかもしれない。

 かといって力仕事は論外だ。

 転んで膝を擦りむいただけで、こちらの人生が物理的に擦り切れる。

 

 

「ええと……まずは、一番……そう、手堅い作業から始めましょうか」

 

 

 モーブルは引きつりそうになる頬を必死に抑え、店内で最も被害額が少なくて済みそうな棚を指さした。

 

 

「まずは基本中の基本、商品の陳列からいきましょう。そこのポーションを並べ直してください。種類別かつ、ラベルは正面。……あ、雑に置いてはいけませんよ? 位置のズレは心のズレ。ミリ単位でビシッと揃えるのが、当店の流儀ですからね。時間はいくらかかっても構いませんので」

 

「……わかった。位置のズレは、心のズレ……」

 

 

 トテトテと小走りで棚へ向かう背中を見送りながら、モーブルはこっそりと溜息をついた。

 

 

(まあ、所詮は貴族のお坊ちゃんの気まぐれだ。泥臭い下働きに飽きたら、いずれ自分から『辞めたい』と言い出すだろう)

 

 

 それまでの辛抱だ。

 これは災害のようなもの。

 台風が通り過ぎるのを待つように、じっと頭を低くして耐えればいい。

 ヴァルディスという名の爆弾を、爆発させずに運用する綱渡りの日々――その期間は、そう長くはないはずだ。

 

 そう、自分に言い聞かせた、その時。

 

 カランカラン♪と入り口のドアベルが軽快な音を立てた。

 

 

「おっはよーございまーす! 今日も元気に稼ぎましょうね、モーブル様ぁ~!」

 

「……声が大きいよ、ルチオ。おはようございます、モーブル様」

 

 

 賑やかに入ってきたのは、対照的な二人の少年たちだった。

 

 先陣を切って飛び込んできたのは、太陽のような橙色の瞳を輝かせる少年、ルチオ。

 その後ろから、ルチオと同じ青色の髪を持ちながらも、一歩引いた位置で優雅に礼をするのが、兄のシルヴィオだ。

 

 

「……だ、旦那さま、遅くなりました……。『愛の皿亭』への食材配送、終わりましたぁ……」

 

 

 そして最後尾から、双子の陰に隠れるようにしておずおずと顔を覗かせたのは、羊のような巻き角を生やした魔族の少年、ラースだ。

 

 いつものメンバーが揃った。

 だが今日に限っては、その平和な日常の風景に、とんでもない「異物」が混じっていることに、彼らはまだ気づいていなかった。

 

 

「おう。双子ちゃん、おはよう。今日は随分と早いな」

 

「えへへっ! だって今日は朝からいいことがあったからさ! モーブル様にいち早く教えたくて、走ってきちゃった!」

 

 

 ルチオが人懐っこい笑顔を弾けさせ、カウンターに勢い良く身を乗り出してくる。

 その背後で、兄のシルヴィオがやれやれと苦笑しながら、優雅に一礼した。

 

 

「ルチオったら、ずっとこの調子で……騒がしくて申し訳ありません、モーブル様。……ところで」

 

 

 流れるような所作で顔を上げたシルヴィオの視線が、ふと店の一角で止まる。

 

 

「……あちらでポーションを並べている方は……どなたですか?」

 

 

 シルヴィオの視線の先――棚の前で、背伸びをしながら一本ずつポーション瓶を整列させている、見慣れない少年がいた。

 

 平民風の簡素な服。少し大きめのメガネ。

 華奢な肩は頼りなく見えるのに、不思議と空気だけは澄んでいて、つい目が吸い寄せられる。

 店の雑多な匂いの中に、そこだけ“浮いた”透明感がある――そんな後ろ姿だった。

 

 

「あ、ああ……あの方はな……うん……ええと……」

 

 

 モーブルの目が泳ぐ。

 「新人バイトだ」と言えば済む話だ。

 済む話、なのだが――相手が相手すぎて、言葉が喉の手前で詰まった。

 

 

「あー! もしかして……新しいバイトさん!?」

 

 

 ルチオの声が弾ける。

 ラースも、おずおずとシルヴィオの背中から顔を覗かせ、棚の方へ視線をやった。

 

 

「お、おう。……今日から働くことになった、新人だ」

 

 

 モーブルは、できるだけ平静を装って頷いた。

 心臓はバカみたいに暴れているが、顔には“店主の顔”を貼り付ける。

 ここで綻びを見せたら終わりだ。

 特にこの双子――状況把握と勘がやたら鋭い。

 

 

「名前は『ライ』。ちょっと……訳ありでな。これから時々、店の手伝いに来てもらうことになった」

 

「訳あり?」

 

「まあ、親元を離れて社会勉強中、といったところだ。……ライ、こっちへ来なさい。先輩たちに挨拶を」

 

 

 呼ばれて、少年の肩がぴくりと揺れた。

 ゆっくり振り返る。

 メガネの奥で、灰色の瞳がきゅっと緊張に固まるのが見えた。

 

 

「……はじめまして。……ライ、です。……一生懸命、がんばります。……よろしく……お願いします……」

 

 

 ぺこり、と深々と頭を下げる。

 ――丁寧すぎる。

 丁寧が過ぎる。

 所作の端々に、どうしても“育ち”が滲むが……今は「礼儀正しい新人」で押し切るしかない。

 

 

「うわぁっ! すごっ、めっっっちゃ可愛い子じゃん!」

 

 

 案の定、最初に食いついたのはルチオだった。

 まるで尻尾を振る大型犬のような勢いで距離を詰めると、躊躇なくライの両手をガシッと包み込む。

 

 

「ボクはルチオ! ここの看板店員にしてエースだよ! ねえ君、肌白すぎない? 陶器みたい! 歳はいくつ? どこから来たの? 好きな食べ物は?」

 

「あ……え、えっと……」

 

「こらルチオ。初対面の方を質問攻めにしない」

 

 

 シルヴィオが、慣れた手つきで弟の襟首をつまみ、すっと引き剥がす。

 そして何事もなかったかのように、涼やかな微笑みを浮かべた。

 

 

「……ライ君、驚かせてごめんなさいね。私はシルヴィオ。こっちの騒がしいのの兄です」

 

「……よろしく、お願いします」

 

「ふふ。言葉遣いも落ち着いてる。……それに、綺麗な目をしているね。吸い込まれそう」

 

「……ありがとう……ございます……」

 

「あ、あのっ……! ぼ、僕はラースって言いますっ……! ふつつかものですが、その、よ、よろしくおねがい、しますぅ……!」

 

 

 ラースも、緊張で耳まで真っ赤に染めながら、ぺこぺこと何度も頭を下げた。

 魔族、平民、そして上級貴族。

 本来なら決して交わらないはずの線が、この狭い店の中で奇妙に絡み合っている。

 

 ライオットは三人の顔を順番に見つめ――最後にモーブルへと視線を戻した。

 その肩の力が抜け、小さく息を吐く。

 浮かべたのは、張り詰めた仮面の下から覗く、年相応の少年の微笑みだった。

 

 

(……やれやれ。どうやら杞憂だったか)

 

 

 ここまでは順調。誰も彼を「ヴァルディス家の若様」だと怪しんでいない。

 それどころか、「可愛い新人が入った」という歓迎ムード一色だ。

 上級貴族である彼が、こうして種族も身分も違う者たちと馴染もうとしている姿に、モーブルは胸の奥で密かに安堵していた。

 

 嵐のような自己紹介タイムが終わり、モーブルはようやく張り詰めていた緊張の糸を緩める。

 ふぅ、と重く長い息を吐き出し、彼は店主の顔へと切り替えた。

 

 

「よし。挨拶も済んだな。お前たち、開店の準備に取りかかれ。……それとルチオ、また服のボタンが外れてるぞ。何度言えばわかる。店の品位に関わるから今すぐ留めろ」

 

 

 口では厳しく注意しつつも、その視線はちゃっかりと開いた胸元の隙間へ吸い寄せられている。

 

 

「はーい、わかりましたよーっと」

 

 

 ルチオは舌を出した。

 が、直すどころか、ひょいっとカウンターの内側に滑り込むと、モーブルの横にぴたりと張り付いてくる。

 

 

「ねえねえモーブル様ぁ。それよりさぁ、僕ちょっと相談があるんだけどぉ」

 

「……なんだ、その“ろくでもないこと”を言う前の顔は」

 

 

 潤んだ上目遣い。

 猫なで声。

 ゼロ距離のスキンシップ。

 この三点セットが揃った時のルチオは、十中八九、店の財布かモーブルの個人的な資産に牙を立てに来ている合図だ。

 

 

「実はさ、朝からすっごく徳を積んじゃったんだよね! 来る途中、お腹空かせて倒れそうな可哀想なおじいちゃんがいてさ。だからボク、持ってたお金……全部あげちゃった!」

 

「全部?」

 

「うん! そしたらすっごく感謝されてね。『ヴァルクリアの神様って最高だ』って! ほら、また一人信徒が増えたよ、やったね!」

 

「……やったねじゃない。破産だ」

 

 

 双子はヴァルクリア神聖王国の出身で、敬虔な神官の家系だ。

 聖職者として「施し」は呼吸と同じ――つまり、ルチオの行動は彼“らしい”と言えばらしい。

 らしいのだが、限度がある。

 

 

「で、今のボクの所持金がね――」

 

 

 ルチオは誇らしげに胸を張り、逆さまにした革袋を振ってみせた。

 チャリン、という音すらしなかった。

 

 

「完全なるゼロ!」

 

「胸を張るな」

 

「だからさぁ……お願いっ! お給料、前借りさせてくれない? このままだと晩ごはん買えないの! 今日は尊いことしたから、きっと神様も許してくれるはず!」

 

「神様を巻き込むな。あと許可権は神じゃなく、雇用主のわしにある」

 

「こら、ルチオ。モーブル様に迷惑をかけてはいけませんよ」

 

 

 シルヴィオが聖画のように涼しい顔で窘める。

 だがルチオは聞こえないふりでスルーし、さらに一歩踏み込んだ。

 

 

「じゃあ、お小遣いでもいい! パン一個分でいいから! ね? ね? モーブル様の海より深ぁ~い優しさに、ボクの可憐な胃袋がかかってるの!」

 

 

 言うが早いか、ルチオは猫のようにしなやかにモーブルの腕へ抱きついた。

 ぐりぐり、と。

 わざとらしく、ほどよく鍛えられた少年のしなやかな肢体を押し付けてくる。

 薄いシャツ越しに伝わる体温と、甘ったるい声。

 さらに、ルチオの悪戯な手がするりとモーブルの太ももの内側へ伸び、いやらしく這い上がってきた。

 

 

「お、おいこらルチオ! やめんか! もうすぐ営業時間だぞ……!」

 

「いいじゃーん、減るもんじゃないしぃ。モーブル様だって、僕のこと可愛がってくれるでしょ? ……ねえ、ここ。もうこんなに硬くなってるよ?」

 

 

 さわさわ♡

 

 股間の中心を、掌で包み込むように愛撫される。

 的確に急所を捉えたその手つきに、モーブルの腰がビクリと跳ねた。

 

 

「ば、馬鹿者ッ! ここは神聖な職場だぞ、公私混同も甚だしいわ、まったく! ……とはいえ、だ。可愛い部下の困った顔を見捨てるのも忍びない。働きやすい環境作りこそ店主の務め、かもしれんしなぁ? うむ、そうだな……貴様の今夜の“勤務態度”次第では……前借りと言わず、特別ボーナスの相談に乗ってやってもよいぞ……むふふふ♡」

 

 

 鼻の下をだらしなく伸ばし、デレデレと雪崩れ落ちるモーブルの顔。

 先ほどまでの店主としての威厳はどこへやら。

 ルチオの計算高い小悪魔アタックに、理性の堤防はもはや決壊寸前だ。

 シルヴィオも慣れたもので、「はぁ……また始まりましたか。ヴァルクリアの神よ、この迷える子羊をお導きください……」と呆れ顔で聖印を切り始めている。

 

 

 ――いつもの、平和で下世話な日常風景。

 

 だが、その時だった。

 ラースの黒い尻尾が、ピクリと不穏な気配を捉えて直立した。

 まるで、嵐の前の静電気を感じ取った猫のように、全身の毛を逆立てる。

 

 

「……? だ、旦那様。……空気が、変です」

 

「ん?」

 

 

 ラースの警告と、それは同時だった。

 

 バチチチチチッ……!

 

 不穏な音が、店内の空気を震わせた。

 乾燥した日の静電気? 

 いや違う。もっと密度が高く、致命的な何かが弾ける音だ。

 モーブルが反射的に顔を上げると、そこには――。

 

 

「……離れて」

 

 

 ポーション瓶を握ったまま、ゆらりと立ち尽くすライオットがいた。

 うつむいた顔は影に沈んでいるのに、全身からは青白い雷光の気配が、陽炎みたいに立ちのぼる。

 さらさらの黒髪がふわりと逆立ち、灰色の瞳だけが、モーブルにしがみつくルチオを“無”の目で捉えていた。

 

 

「あれれぇ? ライくん? どしたの、顔こわ――」

 

「……モーちゃんから……離れて……ください……ッ」

 

 

 声は小さい。けれど、店の空気のほうが先に震えた。

 

 ピキィッ。

 

 握りつぶされかけたポーション瓶に、細い亀裂が走る。

 中身が滲むより早く、青白い稲妻が瓶の輪郭をなぞり――次の瞬間、ガラスが“光ごと”鳴いた。

 

 ――まずい。

 

 モーブルの脳裏に、あの『慟哭の氷窟』での光景がフラッシュバックする。

 A級魔獣を一撃で消し炭に変えた、あの美しくも慈悲のない“葬送の光”。

 それが今、自分の店のど真ん中で輝き始めている。

 

 野生の勘か、ルチオも瞬時に「死」の気配を察知し、「やばっ!?」と言って弾かれたようにモーブルから飛び退いた。

 

 

「ライッ!? ちょ、待てストップ!! ここは店だぞォォッ!! 商品! 壁! 床! ぜんぶ資産!!」

 

「……やだ」

 

 

 商人の悲痛な叫びは届かない。

 前髪の隙間から覗く灰色の瞳には、ハイライトが一切なかった。

 

 

「……私の、モーちゃん……私のモーちゃんを……取らないで……ッ!!」

 

 

 カッ!!!!

 

 言い切ると同時、視界のすべてが青白く染まった。

 

 ズガガガガガガガッ――!!!

 

 

「ぎゃああああああああああッ!?」

 

 

 直撃を受けたモーブルの悲鳴が、人の声域を軽々と置き去りにする。

 

 バヂチチチチチッ!!

 

 凄まじい電圧が脂ぎった巨体を駆け巡り、視界がフラッシュバックみたいに明滅した。

 あまりの光量にモーブルの影が黒く抜け――レントゲン写真のごとく、肋骨から頭蓋骨までがスケスケに透けて見える。

 

 

「あばばばばばばば……ッ」

 

 

 そして稲妻がようやく収束すると――黒焦げ寸前のモーブルが「ぷすぅ……」と白い煙を吐きながら、膝から崩れ落ちた。

 

 全身が痺れて動けない。神経が焼き切れている。

 薄れゆく意識の淵、霞む視界に映ったのは、涙目で駆け寄ってくる“元凶”と、ドン引きして石像のように固まる店員たちの姿――。

 

 

「……っ、うぅ……モーちゃん……だめぇ……。モーちゃんは……私の……モーちゃんなんだからぁ……」

 

 

 ぎゅううっ、と。

 愛のこもった抱擁が、瀕死の体に炸裂した瞬間。

 

 バリバリバリバリッ!!

 

 

「追い打ちぃぃぃぃぃ!?」

 

 

 静かな涙と一緒に流し込まれる、容赦のない余韻の放電(おかわり)。

 もはや災害だ。

 抱擁という名のトドメである。

 

 

(ぜ、前言撤回……ゼノンに殺されるとか、そんな次元じゃねぇ……この子自身が、だいぶ危険物だ……!)

 

 

 見事なアフロヘアーへと爆発進化した髪を揺らし、白目を剥きながらモーブルは悟った。

 

 

(わしはとんでもない『猛獣』を……従業員名簿に入れてしまったようだ……)

 

 

 ガクッ。

 モーブルの首が重力に従い、意識のブレーカーが完全に落ちる。

 

 世間知らずの元貴族、ライオットの波乱万丈なバイト初日。

 それはこうして、黒焦げになった店主の尊い犠牲と共に、華々しく幕を開けたのである。




気づけばかなりの文字数になってしまいました……!
それでも最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。
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