モブおじ精液でレベルアップ!? ~でも好みのショタっ子しか手助けしません!!~ 作:とけそうだら
その後、二人の攻略速度は劇的に加速した。
「カイル、右翼45度、サンドワーム接近だ! 扉の解錠(アンロック)まであと五秒、その剣で食い止めろ!」
「食い止める? そんな生ぬるいもんかよ! ミミズの蒲焼きにしてやらぁ!」
ニーシャの警告が飛び込むよりも早く、カイルの身体はすでに反応している。
地を這う巨大な影へ向かって、二刀を抜き放ち突貫する。
その背後では、轟音と共に巨大な歯車が軋み、閉ざされていた石扉が重々しく開いた。
◆
「『
「うっせー! どうせ壊すんだから、頭からぶった切りゃ同じだろ!」
砂煙を巻き上げ、地中から無数に湧き出る『
物理攻撃を受け流す厄介な流動体のボディを、ニーシャの放つ超高熱の炎鎖が空間ごと捕らえる。
ジュウウッ、と砂が焼ける音が響き、敵の身体が一瞬にして赤熱した
その刹那の隙間を、カイルの銀閃が雷光のごとく駆け抜ける。
硬化して脆くなった体を一撃で粉砕し、核を断つ。
その間、わずか三秒。
背中合わせで死線を舞うその姿は、この過酷なダンジョンにおいて唯一無二――"完成された戦術式"そのものだった。
水と油。
冷徹な論理と、野性的な本能。
本来ならば反発し合うはずの両極端が、戦場という極限状態を触媒とし、奇跡的な
そこに、一年という空白など存在しなかった。
理性では互いを「気に入らない」と罵り合いながらも、肉体だけは記憶しているのだ。
互いの呼吸を、間合いを、最適解を。
それは、あまりにも業の深い連携だった。
◆
そして、ついに二人は最深部――『星見の間』へと到達した。
重厚な扉を抜けると、視界が一気に開け、巨大なドーム状の空間が広がった。
天井を見上げれば、太古の魔法が映し出す偽りの星空が、皮肉なほど美しく瞬いている。
その空間の中央。
降り注ぐ星明かりを受け止めるように、古びた石の台座が一つ、静かに佇んでいた。
あれこそが、このダンジョンの心臓部なのだろう。
だが――その聖域への道を塞ぐように、絶望的な熱量が鎮座していた。
全身から灼熱を噴き上げる、巨大な
溶岩のごとき皮膚を持ち、吐息だけで鉄をも蒸発させる暴虐の覇者。
その姿は、あまりにも異様だった。
通常種が纏う紅蓮ではない。
より高温を示唆する、禍々しいまでの
ゆらりと揺らめくその青き炎が、台座を守る地獄の番犬のように、侵入者を見下ろしていた。
「……あいつが、ターゲットか」
カイルが喉を鳴らす。
肌を刺すプレッシャーだけで理解できる。今までの雑魚とは格が違う。
「『フレイムリザード』……しかも変異体の亜種か。なんて間の悪い」
常にクールなニーシャの眉間に、深い皺が刻まれる。
「通常の個体ならボクの魔法で一撃だが……あれは最悪だ、カイル。あの蒼い炎の鎧、物理無効な上に、同属性のボクの爆炎魔法じゃダメージが通らない。下手すれば吸収されるのがオチだ」
ニーシャが悔しげに唇を噛む。
「倒すには対極属性――高位の氷結魔法を叩き込むしかない。だが、火属性特化のボクが不慣れな属性を編むには、魔力変換のプロセスが要る。……時間がかかるぞ」
「へっ、上等じゃねえか。要は、お前の準備ができるまで、俺が死ぬ気で時間を稼げばいいんだろ? 何秒だ?」
「簡単に言うな! 最低でも三十秒……いや、術式の安定まで四十秒は動けない! その間、ボクは完全に無防備になるし、援護も一切できないんだぞ」
ニーシャの声が焦燥に震える。
「奴のブレスを浴びれば骨すら残らない。その猛攻を、たった一人で耐えきれる保証なんて――」
「やってみなきゃわからねえさ。……それに」
カイルはニカっと笑い、不安げなニーシャを振り返った。
「俺の後ろには、天才サマがいるんだろ? 大船に乗ったつもりで、その四十秒、きっちり稼いでやるよ」
その屈託のない笑顔に、ニーシャは一瞬、言葉を詰まらせた。
一年前の決別の日。
自分が切り捨てたはずの、眩しすぎる笑顔。
それが今、また真っ直ぐに自分へ向けられている。
「……フン。どこまでも馬鹿な野良犬だ。だが、その無謀な度胸だけは評価してやる」
ニーシャはふいっと顔を背け、あからさまに照れを隠すように帽子の
「……今回の“壁役”を見事務め上げたら、褒美に上等な肉でも奢ってやる」
「おっ、言ったな! 『愛の皿亭』の一番高いやつを頼むぜ!」
カイルの表情がぱぁっと明るくなるが、ニーシャは即座に冷徹な魔法使いの顔へと切り替わっていた。
杖の石突きでコツン、と地面を叩く。
「浮かれるな。一つ、絶望的な事実を言っておくぞカイル。こいつが目的のレアアイテムをドロップする確率は極めて低い。数百分の一……いや、統計では千分の一以下とも言われている」
「マジかよ!? んな博打やってられっか!」
「文句を言うな。出なければ、出るまでリポップを待って狩り続ける。それだけだ。ボクの計算では、今日中にあと五十回は周回可能だ」
「ご、五十回……!? 鬼かよ!」
「文句があるなら一発で出してみろ! 行くぞ、カイル! 陽動はお前に任せる!」
「了解! 一発で決めてやるよ! 行くぜえええッ!」
カイルが吼え、蒼き炎の怪物へと弾丸のごとく突貫する。
呼応するようにフレイムリザードの喉元が膨張し――世界を焼き尽くす咆哮と共に、灼熱のブレスが吐き出された。
視界を埋め尽くす、蒼炎の奔流。
掠っただけで即死、直撃すれば蒸発必至の超高熱。
――だが、カイルの思考が死の恐怖に染まるより早く、その“回路”は接続された。
神域のスキル『
それは、敵の殺意が高ければ高いほど、絶望的な実力差があればあるほど鋭さを増す、生存への自動演算装置。
カイルの意思など介在しない。
脳が「熱い」と認識するコンマ数秒前に、細胞の一つ一つが死のベクトルを解析し、最適解を弾き出す。
思考するな。ただ、
熱風が頬を焼き、前髪を焦がす。
それでもカイルの体は、針の穴を通すような精密さで、炎の激流の中にある「安全地帯」を無自覚に滑走していた。
《小僧!
脳内に響く魔剣エクセリオンの冷徹な指示。
それにカイルの『
豪風と共に頭上を通過する剛尾を、カイルは紙一重のダッキングでやり過ごした。
「おらおらぁ! カイル様の剣捌き、とくと見やがれぇ!」
回避の勢いを殺さず、カイルは踏み込む。
右手の魔剣『エクセリオン』と、左手の愛剣『晩餐』。
二振りの刃が、暴風の如き連撃となって蒼き鱗に叩き込まれた。
ガガガガッ!!
生身を斬った音ではない。
まるで鋼鉄の塊を殴打したような不快な反動が、カイルの手首を痺れさせる。
「――っ、硬ぇえ!!」
火花を散らして刃は通る。
だが、浅い。
切り裂いた端から傷口が沸騰し、瞬時に塞がっていく。
再生能力が桁違いだ。
カイルが舌打ちし、追撃のために体勢を直そうとした、その刹那。
絶望は、
《――ッ!? 小僧、左だ! 横穴からなにか飛び出してくるぞ!》
エクセリオンの警告と同時、左の岩壁が内側から砕け散った。
噴き出す粉塵を裂いて現れたのは、二体目のフレイムリザード。
今度は変異体ではない、赤い体表のリザード。
完全に虚を突かれた。
攻撃の反動で体が流れている。
回避行動が取れない。
死に体となったカイルの首元へ、灼熱の
「しまっ――」
反応が遅れる。
喰われる――そう確信し、世界がコマ送りのように緩慢になった、その瞬間。
「『
ドォォォォンッ!!
着弾音。
横合いから放たれた不可視の空気塊が、二体目の横っ面を強烈に殴り飛ばした。
軌道を強制的に逸らされた牙が、カイルの鼻先数センチで虚空を噛み砕く。
バギンッ!と硬質な音が鼓膜を震わせた。
「よそ見をするな駄犬! 死にたいのか!」
「ニ、ニーシャ!? お前、詠唱中じゃ……!?」
カイルが驚愕に目を見開く。
ニーシャは杖を掲げたまま、空いた右手の指だけで目にも止まらぬ複雑な
「メインの術式とは別領域で強引に撃ったんだ! だが今の並列処理で演算が遅れた……カイル、あと十秒耐えろ! 第五階梯の術式定義を完成させる!」
ニーシャを中心として、部屋中の空気が悲鳴を上げ、急激に冷却され始める。
大魔法の構築・維持・そして別系統魔法の即時行使。
脳が焼き切れてもおかしくない神業じみた
「十秒だと!? この化け物二匹を相手にしてかよ!」
「できないのか? ――お前は、ボクの背中を預けるには値しない男だと?」
冷ややかな、だが確信に満ちた挑発。
それは、「お前にならできる」という、あのニーシャからの最上級の信頼の裏返しだった。
「……へっ。高飛車な
カイルの口角が、凶悪なまでに吊り上がる。
その瞳に宿るのは、絶望ではない。
不敵にして不遜な、挑戦者の炎だ。
思考を加速させろ。
脳内クロックを極限まで引き上げ、一瞬を永遠に引き伸ばせ。
カイルの集中力が限界を超えた瞬間、世界から色彩が消え失せた。
灰色のスローモーション。
カイルの鼓動だけが、やけに大きく耳元で鐘のように鳴り響く。
右翼、赤のフレイムリザード――鋭利な爪を振り上げ、カイルの逃げ道を塞ぐように肉薄。
左翼、青のフレイムリザード――喉元を過剰なまでに膨張させ、必殺のブレスを装填中。
逃げ場はない。
防御も間に合わない。
物理的には完全に「詰み」の盤面。
常人なら諦めて死を受け入れるコンマ一秒。
だが――カイルは笑った。
「上等だ。全部まとめて“いなして”やるよ! オラァッ!!」
カイルは踏み込む。
回避ではなく、迎撃。
左手の愛剣『晩餐』を、迫りくる赤の爪の側面に叩きつけた。
ガギィッ!!
真正面から受ければ腕ごと粉砕される暴力的な質量。
だが、カイルは力で対抗しない。
インパクトの瞬間、手首を柔軟に返し、剣の腹を使って衝撃のベクトルを僅かにズラす。
流れる水のように、あるいは、舞う木の葉のように。
死の爪撃はカイルの髪を数本削ぎ落とし、そのまま、勢い余って、横にいたもう一匹――ブレスを吐こうとしていた青の顔面へと吸い込まれた。
ズドォォンッ!!
『ギャアアアッ!?』
友軍の爪を顔面に受け、青が悲鳴を上げてのけ反る。
同士討ち。
予期せぬ事態に、二体の連携が一瞬だけ瓦解した。
「よし、これで三秒!」
だが、相手は砂漠の猛獣だ。
顔面を殴打された青は、苦痛に狂いながらも即座に反撃動作に入っていた。
全身をバネのように捻り、その巨体に似合わぬ速度で、丸太のような尻尾を薙ぎ払ってくる。
《来るぞ! ガードだ、衝撃に備えろ!》
「ぐっ、おぉぉぉッ!」
カイルは咄嗟に二本の剣をクロスさせ、防御態勢をとる。
直後、オーガに殴られたような衝撃が全身を襲った。
ミシミシと骨が軋む嫌な音。
カイルの身体はボロ雑巾のように宙を舞い、焼けた石畳の上を無様に転がる。
「かはっ……!」
口の中に鉄の味が広がる。
肺が潰されたように空気を求めて痙攣する。
全身が熱い。
痛い。
だが、思考は止めない。
「……五秒! まだだ、まだ半分だぞクソッタレ!」
カイルは受け身を取り、獣のように四肢で地面を掻いて立ち上がる。
視界の先では、怒り狂った二体のフレイムリザードが、今度こそ確実に獲物を殺そうと殺意を膨れ上がらせていた。
空間が歪むほどの熱気。
酸素が燃え尽くされ、呼吸するだけで喉が焼ける。
青のリザードが立ち直り、再び喉元を赤熱させる。
今度は邪魔が入らない位置取り。
そして赤のリザードが、カイルの回避先を潰すように両翼へ展開する。
完璧な狩りの陣形。
万事休す。
だが、その絶望的な光景を前にしても、カイルの戦意は衰えるどころか、より鋭く研ぎ澄まされていた。
「へっ、必死じゃねえかトカゲ野郎……!」
カイルは魔剣『エクセリオン』を正眼に構え、誘うようにあえて隙を晒した。
それに呼応し、青の個体の
喉の奥底に見えるのは、全てを灰燼に帰す灼熱の輝き。
ブレスが吐き出されるまで、あと一秒。
距離は五メートル。
避ければ背後の赤に狩られる。防げば蒸発する。
詰みだ。
《おい小僧! 何ボケっと突っ立ってる! 死ぬぞ、早く逃げやがれ!》
「逃げる? 冗談言うな。こんな特大の獲物を前にして、そんなシケた真似できるかよ!」
カイルは獰猛に嗤った。
恐怖など微塵もない。
瞳の奥で燃えているのは、死地であればあるほど滾る、純粋な闘争への狂気のみ。
「だったらよぉ……答えは“前”しかねえよなァ!」
カイルは爆発的に地を蹴った。
逃げるためではない。
死の
「吐かせるかよぉぉぉッ!」
熱波が前髪を焦がし、皮膚を焼く。
だが構わない。
カイルは右手の『エクセリオン』を逆手に持ち替え――ブレスを吐こうと開かれた、その巨大な口内へ、強引に腕ごと突っ込んだ!
ジュウウゥッ!!
《ぐわっ!? 熱っ! あつゥゥい! エレガントな魔剣である俺様になんてことを! 口の中は反則だろ小僧、ふざけんなぁぁッ!》
「我慢しろ相棒! これなら物理的に吐けねえだろッ!」
口の奥深くまで突き刺さった魔剣が『栓』となった。
行き場を失ったブレスが体内で逆流し、青の個体が白煙を噴いてのけ反る。
その瞬間、背後から赤の爪が迫る。
カイルは突き刺した剣の柄を、まるで鉄棒のように強く握りしめた。
「ふんぬぁッ!」
強引な懸垂。
のけ反る青の個体の動きを利用し、カイルは地面から両足を高く引き上げた。
直後、赤の剛爪が、コンマ一秒前までカイルの足があった空間を虚しく薙ぎ払う。
ガガガッ!!
避けきれなかった衝撃が、盾代わりの青の腹甲を削り、火花を散らした。
敵の口内を安全地帯とし、その巨体をぶら下がるための盾として利用する。
狂気の
だが、これで死の時間は稼ぎきった。
「八、九……――十ッ!!」
脳内のカウントダウンがゼロを告げる。
同時、背後の空気が、パキリと凍てついた。
「今だ、ニーシャッ!! 思いっきりぶっ放してやれ!!」
カイルが叫び、リザードの顎を蹴って横へ飛び退く。
二体の動きが完全に止まった、その一点。
ニーシャの第五階梯魔術・術式定義が、完了する。
カイルが視界の端で捉えたのは、杖を突き出し、勝利を確信して微笑む相棒の姿。
「
ニーシャの杖から解き放たれたのは、数多の
それは唸りをあげる吹雪の波となって二体の巨体を飲み込み、燃え盛る炎ごと一瞬にして凍結させた。
パキィィィィン……!
世界が静止する。
もはや生物ではない。そこにあるのは、苦悶の表情を浮かべたまま芸術的なまでに凍りついた、二つの巨大な氷像のみ。
やがて、ピキリと亀裂が走り――
ドガァァァンッ!!
二体の怪物は自重に耐えきれず、粉々に砕け散った。
舞い散る無数の氷片が、ダイヤモンドダストのように戦場をキラキラと彩る。
先刻までの灼熱地獄が、嘘のような幻想的な銀世界へと塗り替えられていた。
「……やった、か?」
「ああ。……ボクたちの完勝だ」
ニーシャが杖を下ろし、ふぅ、と長く白い息を吐く。
振り返ったその横顔には、隠しきれない疲労と、それ以上に眩しい誇らしげな色が浮かんでいた。
二人は視線を交わす。
そして、どちらからともなく、小さく吹き出した。
「へっ……性格はねじ曲がってるくせに、放つ魔法だけは真っ直ぐで嫌になるぜ。……悔しいが、さすがは天才サマだ」
「フン。脳みその足りない野良犬にしては、計算以上の働きだったぞ。……少しは見直してやる。ほんの、一ミリだけだがな」
まだ、わだかまりは残っている。
一年という断絶は、言葉一つで埋まるほど浅くはない。完全に互いを許したわけでもない。
だが――二人の間に、ハイタッチなど不要だった。
並んで立つその背中には、言葉よりも雄弁な、あの頃のような確かな絆が。
少なくともこの瞬間だけは、背中を預け合う“戦友”としての敬意が、鮮やかに蘇っていた。
《おい、感動的な空気を出しているところ悪いがな……俺様の
「うっせーな、後でちゃんと手入れしてやるよ」
騒ぐ剣をあしらっていると、ふと、凍りついた空間に場違いなほど硬質な音が響いた。
カイルとニーシャが同時に視線を向ける。
砕け散ったフレイムリザードの残骸――その中心に、キラリと光る粒子が集束していく。
光は実体を結び、やがて重厚な装飾が施された一つの宝箱として具現化した。
「おい、まさか……」
ニーシャが目を見開き、眼鏡の奥の瞳を揺らす。
計算外だ。
数千分の一という天文学的な低確率を、たった一回の試行回数で引き当てたというのか。
「こいつが……噂のレア宝箱か!?」
「……信じられん。確率論のバグとしか思えないが、現実は現実か。とにかく、中には目的の『星屑の欠片』が入っているはずだ。開けるぞ」
目の前の奇跡に息を呑みながら、ニーシャが慎重に宝箱の蓋を持ち上げる。
ギィ、と蝶番が鳴り、中身が露わになった瞬間――カイルは言葉を失った。
そこには、夜空の輝きをそのまま凝縮したような、深遠なる
「おおっ……! すげえ!」
「……ふむ。この魔力光の波長。モーブルに聞いていた宝石の特徴と合致する。間違いなく本物だ」
ニーシャは宝石を持って満足げに頷くと、肩の力を抜いた。
「喜べカイル。どうやら神のいたずらで、地獄の五十周回は免除されたらしい」
「へへっ、晩飯までには帰れそうか。飯の約束忘れんなよ……っと、俺にもよく見せてくれよ?」
「おい、勝手に触るなと言って――」
ニーシャの制止など聞こえていないかのように、カイルは好奇心のまま『星屑の欠片』をひょいと摘み上げた。
そして吸い寄せられるように、部屋の中央――先ほどまで怪物が守っていた石の台座へと歩み寄る。
「なぁニーシャ! さっき必死こいて走ってる時に、チラッと見えたんだがよ」
カイルは宝石を掲げ、台座に空いた空洞と見比べるようにニカっと笑った。
「ここの窪み……コイツが丁度、パズルみたいにハマりそうだと思わねえ?」
「は……? 待て、よせ馬鹿! 迂闊にダンジョンの
――カチリ。
軽快な、あまりにも小気味よい音が静寂を破った。
カイルが宝石を台座の窪みにはめ込んだ、その直後。
ズズズズズンッ……!
台座の底から、腹に響くような重低音が鳴り響く。
同時に、部屋の入り口に分厚い石板が高速で落下し、轟音と共に退路を断った。
「なっ……!?」
ニーシャが驚愕に振り返り、目を見開く。
だが、異変は退路の遮断だけでは終わらない。
台座の四方に隠されていた通気口が開き、プシューッという甲高い排気音と共に、視界を塗りつぶすほどの猛烈な噴煙が上がり始めたのだ。
その色は、禍々しくも毒々しい、鮮烈なまでの
「げほっ、げほっ! ……なんだよ、この腐った果実みてーな甘ったるい匂いは……?」
思考が泥のように鈍る、媚薬めいた甘い香りがカイルの鼻腔を容赦なく犯していく。
「カイル、お前……ッ! なんと勝手なことをしてくれたんだ……!」
ニーシャが口元を袖で覆いながら、恨めしげに相棒を睨みつける。
だが――視線の先のカイルは、いつもと様子が違っていた。
「……ああ、わりぃ。でもなんか……俺の身体、変だ……」
荒い息を吐くカイルの瞳は、どこか心なしか潤み、トロンと熱っぽく蕩け始めていた。
戦いの高揚感は、また別の種類の――理性を溶かす、抗いがたい“熱”へと塗り替えられようとしていた。