※この作品はR-18です。

モブおじ精液でレベルアップ!? ~でも好みのショタっ子しか手助けしません!!~   作:とけそうだら

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今回は第十三話『とある少年冒険者グループ”金獅子団”の短すぎる英雄譚』
https://syosetu.org/novel/370980/13.html
に登場した彼らのお話です。
すっかり忘れられているかもしれませんが……今回は再び彼らが主役です!


第四十三話 少年冒険者グループ”金獅子団”の新たな冒険①

 シュタイナー子爵邸の朝は、決まって“音”から始まる。

 純銀の水差しが台座に触れる硬質な響き。

 濡れたモップが大理石の床を滑る湿った擦過音。

 そして、窓辺の過剰なほどに分厚いビロードのカーテンが風をはらんで揺れる、重たい衣擦れ。

 

 イングラジア魔導国にある冒険者の街カヴェナにおいて、シュタイナー子爵家といえば「金満」と揶揄される新興の下級貴族である。

 

 この国において、貴族の格とはすなわち『魔法の才能』と『魔力』によって決まる。

 シュタイナー家も一応は魔法使いの血統ではあるものの、その実力は貴族の平均を大きく下回る凡庸なものだった。

 本来であれば表舞台に立つことすら許されない彼らが爵位を得られたのは、北方の「ストーンブラッド王国」との交易を成功させたという商才――つまりは『金』の力によるものが大きい。

 

 潤沢な資金で地位を買い取ったようなその経緯ゆえに、魔法至上主義である他の歴史ある武門や旧家からの風当たりは冷たい。

 「魔法の才に乏しい、卑しい成り上がりの凡人」と、影では露骨に鼻で笑われ、軽蔑されているのが実情だった。

 

 そんな貴族社会からの冷ややかな視線への反発(コンプレックス)からか、シュタイナー家は屋敷の装飾にだけは異常なほど糸目をつけなかった。

 劣等感を金で塗りつぶすように、屋敷の中はこれ見よがしな美術品や煌びやかな調度品で埋め尽くされ、それを維持するために雇われている使用人の数も、無駄に多かった。

 

 平民の少年ノエルは、そんな豪奢な屋敷で、ただ黙々と雑用をこなしていた。

 皿を洗い、銀器を磨き、玄関のピカピカな大理石に一点の曇りも残らぬよう息を吹きかけては拭う。

 額に汗をかくたび、ずり落ちそうになる丸眼鏡を指で押し上げながら、シュタイナー家に雇われた下働きとして、今日も昨日と同じ動作を繰り返す。

 

 

 一ヶ月――。

 冒険者パーティ『金獅子団(ゴールデン・ライオンズ)』の聖魔法使いとして、嘆きの森のオーク討伐依頼に向かったあの日から、一ヶ月が過ぎた。

 

 オークの巣の中で何が起きたか。

 ノエルは、それを言葉にしようとすると、今でも喉の奥で何かが固く詰まる感覚がした。

 鼻孔にこびりついた洞窟の腐臭。

 手首に食い込んだ鎖の冷たさ。

 暗闇の天井を見上げながら、ただ終わるのを待つしかなかった夜。

 そして、耳の奥にいつまでも反響し続けるオークたちの下卑た嗤い声。

 

 それらをこうして平和な日常の手順(ルーチン)で上書きし、少しずつ薄めていくしかない。

 ノエルはそう学んでいた。そうするしか、前を向く方法を知らなかった。

 

 シュタイナー子爵家の嫡男にして、ノエルの主であるフェリクス・フォン・シュタイナーもまた、あの事件以来、奇妙なほどおとなしくなっていた。

 かつてノエルの前で家の財力と特権を傘に着て、尊大に振る舞っていた自信に満ちた『金獅子団』のリーダーの面影はもうない。

 今の彼は、無駄に広い食卓で亡霊のように静かにナイフを握り、以前のように些細なことで使用人を怒鳴り散らすこともすっかりなくなっていた。

 

 取り巻きだった剣士リックもそうだ。

 時折邸宅に顔を出しては、広い庭の手入れを手伝ったり、使い走りを買って出たりと、以前の横柄さが嘘のように殊勝な態度を見せている。

 彼もまた、無心で体を動かしていなければ、あの夜の恐怖に押し潰されてしまうのかもしれない。

 

 平和だ。

 この凪のような、退屈で、何も起きない静かな日々が続くことが、どれほど尊くてありがたいことか。

 ノエルは骨身に沁みるような思いで、自らが信じる慈愛の女神ヴァルクリアに、深く、深く感謝の祈りを捧げていた。

 

 

(このまま……こんな穏やかな日が、ずっと続けばいいのになぁ……)

 

 

 そう願った、まさにその瞬間だった。

 

 静寂に包まれた廊下の奥から、二つの靴音が重なって響いてきた。

 一つは、カツン、カツンと大理石を叩く、妙に自信に満ちた硬質な足取り。

 もう一つは、その後ろをついて回る落ち着きのない、弾むようなリズム。

 

 氷の刃で首筋をさっと撫でられたような、強烈な悪寒が走った。

 

 

「ノエル!」

 

 

 ノエルが雑巾を持ったまま振り返ると、そこに"いた"。

 

 豪奢な廊下の中心で、リックを引き連れて立つ少年――フェリクス・フォン・シュタイナー。

 

 手入れの行き届いた栗色の癖毛。

 他者を見下すような鮮やかな緑色の瞳。

 そしてその端整な口元には、かつて見たことのある――いや、一ヶ月のおとなしい日々がまるで嘘だったかのような、以前よりも遥かに危うく厄介な熱を帯びた"形"が戻っていた。

 

 何者も恐れない、尊大で傲慢な笑み。

 

 

「ふん……。お前は相変わらず、薄暗い廊下で死んだ魚のような顔をして退屈そうにしているな」

 

「……いいえ、フェリクス様。子爵様に使用人として雇っていただいたおかげで、僕は今の毎日がとても幸せです。申し訳ありませんが、まだ掃除が残っておりますので、これで失礼――」

 

 

 ノエルは足早にその場を立ち去ろうとした。逃げなければいけないと、本能が警鐘を鳴らしていた。

 だが――。

 

 

「待て」

 

 

 たった一言。

 静かだが、逆らうことなど許さない絶対的な響き。

 その声に縛り付けられたように、ノエルの足はピタリと止まってしまった。

 

 

「掃除など、もうどうでもいい。そんなくだらん雑用、今日限りお前には不要になる」

 

「…………はい?」

 

 

 思わず間の抜けた声が漏れるノエルに、フェリクスはいかにも得意げに顎を上げた。

 

 

「退屈しきった毎日を送るお前に、この俺様がとびきりの"刺激"を持ってきてやったぞ! 感謝しろ、ノエル!」

 

 

 ぎゅっ、と。ノエルの指が、思わず布巾を白くなるほど握りしめた。

 

 冒険者の資格。

 あの一件以来、三人はギルドから資格を剥奪され、冒険者グループ『金獅子団』は不名誉な解散に追い込まれた。

 表の世界で冒険者として生きる道は、とうに閉ざされたはずだ。

 それでもなお「刺激を持ってきた」というからには――。

 

 

「フェリクス様……いったい、何をなさるおつもりですか」

 

 

 震える声で絞り出したノエルに対し、フェリクスは悪びれるどころか、愉快そうに口の端を吊り上げた。

 

 

「ふっふっふ! 聞いて腰を抜かすなよ、ノエル!」

 

 

 フェリクスは、悪戯の中身を披露する直前の子供のように、嬉々として目を細めた。

 その表情に、ノエルの背筋がざわりと粟立つ。

 

 

「俺様はこれより、ニーシャ・オブライエンの秘密研究所に忍び込む!」

 

 

 ノエルは、完全に絶句した。

 ニーシャ・オブライエン。

 その名は、この国に住む者であれば知らぬ者がいない。

 マーリン魔法大学の天才教授にして、上級貴族オブライエン伯爵家の跡継ぎ。

 冒険者ランクはゴールド級。

 炎を自在に操り、理屈そのもので世界を爆ぜさせる、『爆炎の金髪貴公子』。

 

 そんな文字通り雲の上の存在に対して、よりにもよって冒険者の資格まで剥奪された自分たちが――何を仕掛けようというのか。

 

 

「む、無理ですよフェリクス様……っ! ニーシャ様の秘密研究所だなんて、それはもう自殺行為です……!」

 

 

 震える声で必死に訴えるノエルを遮ったのは、甲高い嘲笑だった。

 

 

「はーっ、ほんっとお前って昔から何も変わんないよな! 怖い怖いってすぐビビり散らしてさ。そんなんだから、いつまで経っても他の連中から『情けないひよっこ』って笑われんだよ!」

 

 

 それなりに鍛えられた体躯を揺らし、長い赤髪を鬱陶しそうに掻き上げながら、リックが鼻で笑う。

 

 

「リック……! でも、相手はあのニーシャ・オブライエンだよ!? 僕たちだけでどうにかなる相手じゃ――」

 

「だからお前はダメなんだよ! いいか? 俺たちには『金獅子団』を率いる偉大な天才魔法使い、フェリクス・フォン・シュタイナー様がついてるんだぞ!? フェリクス様の圧倒的な智謀! 底知れぬ魔力と財力! ついでに完璧な美貌! その全てが揃っているフェリクス様の前じゃ、不可能なんて言葉はただのゴミクズだ! 失敗なんかするわけがないんだよ! ねぇ、そうですよね、フェリクス様ァ!」

 

 

 ノエルの正論を力ずくでねじ伏せ、主人の顔色を窺うようにリックが快活に捲し立てる。

 

 

「ふん、当然だ」

 

 

 フェリクスは鷹揚に鼻を鳴らすと、まるで大劇場の舞台にでも立っているかのように、両手を高らかに広げた。

 

 

「秘密研究所は、イングラジア魔導国の北東――"ファビュラスの森"に点在する洞窟群にあるという。凶悪な魔物が跋扈し、熟練の冒険者すら足を踏み入れることをためらうその危険地帯の奥深くに、あのニーシャがダンジョンから持ち帰った無数の秘宝、武具、そして最新の魔道具が眠っている……と、まことしやかに囁かれている場所だ」

 

 

 ノエルの喉がひくりと鳴る。

 天才ニーシャが秘匿する秘宝の数々。

 どう考えても、今の自分たちの手に余る代物だ。

 しかも相手は上級貴族。

 もし盗みに入ったと発覚すれば、ただの窃盗犯では済まされない。

 国家への反逆にも等しい大罪だ。

 そんな虎の尾を踏むような真似を、いったい何を考えてやろうとしているのか。

 

 

「あの……それは、あくまで噂、ですよね? そんな不確かな噂のために、フェリクス様の高貴なお手を汚す必要はありません。どうか、再考を――」

 

「ぷーっ……かか、かーっかかか! バーカ! お前ってほんっとになーんにも分かってないよな!」

 

 

 リックが腹を抱え、わざとらしく涙まで滲ませてノエルを指差した。

 何がそんなにおかしいのか。ノエルが呆気にとられていると、フェリクスがゆっくりと、嗜虐的な笑みで口角を吊り上げた。

 

 

「噂だと? くくっ、それは違うぞノエル。……『確かな情報』だ」

 

「……え?」

 

 

 フェリクスは胸元のポケットから、一枚の折りたたまれた紙片を取り出した。

 ひらひらと、ノエルの目の前で見せびらかすように振ってみせる。

 

 

「見ろ。場所と地図が正確に記された"メモ"だ。これさえあれば、あの森の深い迷宮でも確実に研究所まで辿り着ける」

 

 

 得意げに鼻を鳴らす主人の手元を見つめ、ノエルは困惑して瞬きを繰り返した。

 

 

「え、でも……なぜ、そんな機密情報をフェリクス様が?」

 

 

 純粋な疑問だった。

 この一ヶ月、引きこもるように屋敷でおとなしくしていたはずの彼が、どうやってそんなものを手に入れたというのか。

 そんなノエルの首を傾げる様子を見て、フェリクスはさも何でもないことのように、とんでもない爆弾を落とした。

 

 

「簡単なことだ。数日前、マーリン魔法大学にある『ニーシャの研究室』に忍び込んで、直接くすねてきた」

 

「………………は?」

 

 

 ノエルの口から、間の抜けた音が漏れた。

 意味が分からない。脳が理解を拒絶する。

 

 研究室に忍び込んだ? 

 つい先日まで部屋に引きこもり、オークの幻影に怯えて震えていた、このフェリクスが?

 鉄壁の魔法警備を誇る、あの帝国の最高学府に?

 

 あまりの事実にノエルの思考は現実感を失い、真っ白に染まった。

 そんなノエルの混乱を楽しむように、フェリクスは紙片を指先でパチンと弾いた。

 乾いた音が、静かな廊下に鋭く響く。

 

 

「安心しろ。研究所の警報装置の解除方法までご丁寧に書いてあった。要するに――俺様たちは、入り口まで辿り着ければ勝ちだ」

 

 

 勝ち。

 その一言を聞いた瞬間、真っ白だったノエルの胸の奥で、小さな怒りの火種が爆ぜた。

 勝ち、負け。

 あの汚泥と絶望にまみれたオークの巣で、そんな薄っぺらい言葉がどれほど無力だったか。

 

 

「……フェリクス様。あなたは……また、同じ過ちを繰り返すつもりですか」

 

 

 ノエルは、静かに問いかけた。

 昔の――ただ怯えていた自分なら、決して出せなかったはずの、低く冷えた声で。

 

 その一言に、フェリクスの歪んだ笑みが凍りついたように止まる。

 だが、次の瞬間には瞳の奥に妖しい光が灯った。

 狂気にも似た、疑いの欠片すらない絶対の自己肯定。

 

 

「馬鹿め。……いいか、お前に俺様の真意を聞かせてやる」

 

 

 吐き捨てるように言って、鼻で笑う。

 

 

「あれはほんの些細な手違いだ。運が悪かった、それだけの話だ! 本来の俺様の実力さえ発揮できれば――すぐに取り戻せる。俺様の……いや、お前たちの、あの栄光の“金獅子団”を!」

 

 

 主人の血走った叫びに呼応するように、リックが堪えきれず身を乗り出した。

 

 

「そうです! あの時はただ、装備が悪かっただけだ! ニーシャ・オブライエンが溜め込んだ最強のアイテムさえ手に入れれば、俺たち……いや、フェリクス様は不死鳥みたいに蘇る! すぐに未踏のダンジョンだって踏破できる! そうですよね、フェリクス様ッ!」

 

「当然だ!」

 

 

 フェリクスは言い切り、昂ったまま言葉を継ぐ。

 

 

「世間は、シュタイナー子爵家を決定的に見誤っている……。鉄を売って成り上がった家だと……血筋もない成金だと……あいつらは笑う。ずっと笑い続けてきた。――だが、それでいい。笑わせておけ」

 

 

 じわりと、瞳の奥に暗い炎が灯る。

 

 

「父上を嘲った連中も、俺様を見下した連中も……その嘲笑の一つひとつが、今度こそ俺様が踏み台にしてやる石畳だ。このミッションを完遂し、俺様は奴ら全員がひれ伏すしかない、本物の英雄になる」

 

 

 そこまで言って、抑えていた野心が溢れ出すように、息を深く吸い込んだ。

 嗜虐的なまでに、口角が吊り上がる。

 

 

「そしていずれは、このイングラジア魔導国の頂点――『魔導帝』の座を、この手で掴み取ってやるッ!!」

 

 

 怨念すら混じった熱に浮かされたまま、虚空にある王冠を強引に奪い取るような仕草で、フェリクスが力強く拳を高く突き上げる。

 

 その宣言に、リックはついにボロボロと本気の感涙を流し、その場に跪くほどの勢いで両手を組んだ。

 

 

「おおおお……っ! それでこそ我らが王! あの上級貴族どもを全員黙らせる、次代の魔導帝、フェリクス様ァ! 俺は……俺は一生、あなたについていきますッ!!」

 

 

 完全に悦に入り、ボロボロと本気の涙まで流し始めるリック。

 

 

「…………」

 

 

 その狂乱の熱から完全に切り離された場所で、ノエルは手元のテーブルを拭いていた布巾をゆっくりと、ひどく丁寧に四角く畳んだ。

 胸の奥で燻っていた怒りすら、もはや湧いてこない。

 あるのはただ、足元から静かに、ひんやりと這い上がってくるような深い諦観だけだ。

 

 

(……もう、この人たちには何を言っても無駄だ)

 

 

 止まらない。

 目指すのは、ゴールド級の本物の天才が築いた秘密研究所。

 片やこちらは、最底辺のブロンズ級だ。

 どんな悪辣な罠が張られ、どれほど凶悪なモンスターが徘徊しているかも分からない。

 どう考えても、五体満足で済むような話ではない。

 それでも目の前の二人は、破滅へ向かって全力で走り出そうとしている。

 

 だったら、自分はどうする?

 ここで見捨てて、一人で逃げるか?

 

 ――いや、できない。

 

 彼らを見捨てることを、自分自身の良心が許さない。

 そして何より、厚く信仰するヴァルクリアの神がそれを望まないはずだ。

 自分の手が届く場所にある命を見捨てた者を、神は決して赦さないだろう。

 

 

(なら、僕の役割は一つだ)

 

 

 ノエルは深く息を吐き出し、二人を真っ直ぐに見据えた。

 

 

「……分かりました。僕も行きます。……ただし、条件があります。勝手な行動は禁止。何かあれば必ず三人で判断する。そして――必ず、三人で生きて戻る。これだけは約束してください」

 

 

 それは、彼らを先導して戦うためでも、この無謀な計画を成功させるためでもない。

 危険が迫れば誰よりも早く声を上げ、全力で彼らを止めて、撤退への道を探り続ける。

 それだけが、この狂った行軍の中で自分にできる唯一のことだと思ったからだ。

 

 

「このッ……! 偉大なフェリクス様に向かって、お前はいったいなんて口を――!」

 

 

 リックが顔を真っ赤にして詰め寄ろうとした、その瞬間。

 フェリクスがすっと片腕を持ち上げ、無言で制した。

 たったそれだけで、リックはピタリと固まった。

 

 

「……ふん」

 

 

 フェリクスはノエルをしばし無言で見下ろし、やがてゆっくりと、口の端を引き上げた。

 

 

「生意気な口を利くようになったな、ノエル。……だが、悪くない。俺様と死線を越えて、少しは胆力がついたか」

 

 

 一拍の沈黙。

 そして、フェリクスは天高く拳を掲げた。

 

 

「よし、旅の準備だ! リック、ノエル――地に堕ちた俺様たち"金獅子団"が、再び天へと駆け上がる、伝説の幕開けだ!!」

 

 

 リックが雄叫びを上げ、廊下に二人分の足音が弾んで遠ざかっていく。

 嵐が去った後のような静寂の中、残されたノエルは、手の中の布巾をそっと棚の上に置いた。

 

 

(……必ず、生きて帰る)

 

 

 誰に言うでもなく、ただ神に誓うように、心の中で呟く。

 

 冒険者の資格を失い、それでも夢から覚めることができない三人の――冒険者ではない旅が、今、始まる。

 

 

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