※この作品はR-18です。

モブおじ精液でレベルアップ!? ~でも好みのショタっ子しか手助けしません!!~   作:とけそうだら

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第四十七話 聖なる双子と嘆きの森の迷い人②

 泥濘(ぬかる)む足場も、視界を遮る濃霧も、双子の歩みを止める障害にはならなかった。

 かつて万年最底辺のブロンズランクで燻っていた彼らだが、モーブルの『レベルブレイク』によって限界値を底上げされた今の実力は、もはや凡百の冒険者の比ではない。

 

 現在のレベルは『18』。

 ギルドの登録上はまだジンクランクだが、その戦闘能力はすでに中堅ダンジョンを主戦場とする『アイアン』クラスの領域に足を踏み入れている。

 

 

「ルチオ、右前方から三体来ます!」

 

「了解! そのまま突っ切るよ!」

 

 

 彼らの行く手を阻むように、濃霧の中からカタカタと顎を鳴らすスケルトンや、腐臭を放つグールたちが姿を現した。

 生者の温かい血の匂いを嗅ぎつけ、新たな仲間に引きずり込もうと群がってくる。

 先ほどまで「アンデッドは生理的に無理」と涙目で震えていたシルヴィオだが、今は違った。

 見知らぬ誰かの助けを求める悲鳴が、彼の恐怖心を完全に凌駕していたのである。

 今の双子にとって、行く手を阻む低級の死霊など、文字通り薙ぎ払うべき「雑草」に等しかった。

 

 

「不浄なる者たちよ、大いなる光の前に道を空けなさい――『聖光の波動(ホーリー・ウェイブ)』!」

 

 

 走りながら、シルヴィオが高らかに祈りの言葉を紡ぐ。

 彼が掲げた聖印から、太陽の破片のような強烈な翠色の光が波紋となって広がり、前方十メートルの空間を薙ぎ払った。

 光の波に触れた瞬間、アンデッドたちは「ギャアアアッ!」と鼓膜を劈く断末魔を上げ、身体の内側から浄化の炎に焼かれて次々と灰燼に帰していく。

 

 

「さっすが兄さん! じゃあ、残りの削りカスは僕が片付けるよ!」

 

 

 浄化の光を逃れ、しぶとく側面から襲いかかってきた数体のグールに対し、ルチオが躍動する。

 大胆に腹部を露出させた『太陽の聖騎士鎧』が、薄暗い森の中で煌びやかな軌跡を描く。彼は地面を力強く蹴り上げると、空中で独楽のように身体を捻りながら、右手の聖剣を一閃させた。

 

 

「はぁぁッ! 『白銀の十字(シルバー・クロス)』!!」

 

 

 空中に描かれた白銀の十字斬撃が、グールたちの腐肉を豆腐のように両断する。

 着地と同時に剣を鞘に収め、ルチオは泥ひとつ跳ね上げることなく、そのままのトップスピードで再び駆け出した。

 

 二人の連携は、息をするように自然で、一切の無駄がない。

 他の誰とも組まず、双子である二人きりで結成された冒険者パーティ『ヴァルクリアの双聖』。

 

 かつて彼らは、人の好い両親が悪党に騙されて遺した莫大な借金を返済するため、故郷であるヴァルクリア神聖国で冒険者となった。

 だが、残酷なまでに才能は開花せず、何一つ実績を上げられないまま無情にも資格を剥奪され――ついには借金のカタとして、イングラジア魔導国の薄暗い娼館へと売り飛ばされた。

 理不尽な暴力と借金によって、一度は人生のどん底で絶望に沈んだ「落ちこぼれ」だったのだ。

 

 しかし、モーブルという悪魔のように強欲で救世主のような商人に大金で身請けされ、このイングラジアの地で再び冒険者としての道を歩み始めてから、彼らの運命は激変した。

 破竹の勢いで魔物を討伐して実績を積み上げ、短期間であっという間にジンククラスへの昇格を果たした二人の強さの根源。

 それは、地獄のような底辺生活と娼館での絶望を共に這いずり回り、生き抜いてきた絶対的な絆に他ならない。

 

 お互いの死角を完璧に補い合い、言葉を交わすまでもなく次の行動を理解する。

 その洗練され尽くした美しい戦闘スタイルこそが、彼らがカヴェナのギルドで「期待の超新星」と持て囃される最大の所以であった。

 

 

「……見えました! あそこです!」

 

 

 木々が開け、少し開けた広場のような場所に出た瞬間、シルヴィオが叫んだ。

 そこは、悲惨な死の舞台が完成する寸前の光景だった。

 

 広場の中央、巨大な朽ち木の根元。

 そこに、ひどく小柄な男が追い詰められていた。

 

 男の周囲を、十匹を優に超える巨大な狼の魔物――『シャドウファング』が完全に包囲し、赤い舌なめずりをしながらじりじりと距離を詰めている。

 全身から黒い瘴気を放つその魔物は、獲物の恐怖と絶望を味わうように、わざとゆっくりと死の包囲網を狭めていた。

 

 

「ハァッ、ハァッ……お、おら、ここで死ぬだか……?」

 

 

 男――アックス・オーベンジョーは、震える腕で実家から持ち出した「使い込まれた鉄の鍬(くわ)」を構えながら、絶望の涙をこぼしていた。

 信じていた中堅パーティの仲間に、「お前のそのデカい荷物が邪魔なんだよ! 囮(おとり)になれ!」と突き飛ばされ、見捨てられた。

必死に鍬を振り回して抵抗したが、多勢に無勢。もはや全身は獣の爪牙によって傷だらけで、立っているのがやっとの状態だ。

 

 

(……ああ、やっぱりおらの人生、こんなもんだべか。誰にも期待されず、利用されるだけ利用されて、最後は暗い森の中で犬っころの餌になる……あぁ、せめて最後に、嫁っこの作ったじゃがいものシチューが食べたかったなぁ……)

 

 

 死の極限状態の中で、アックスの脳裏に浮かんだのは、走馬灯でもなく、ただそんな素朴で哀しい願いだった。

 ガクン、と膝の力が抜け、アックスの手から泥まみれの鍬が滑り落ちる。

 その決定的な隙を見逃さず、最も巨大なシャドウファングの一匹が、アックスの喉笛を食いちぎろうと背後から高く跳躍した。

 

 

「あ……」

 

 

 死を覚悟し、アックスが絶望のままに目を閉じた、その瞬間。

 

 

「――汚れた闇よ、ヴァルクリア神の威光の前に跪けェッ!!」

 

 

 重苦しい森の暗闇を切り裂いて、小柄な影が爆発的な踏み込みと共に宙を舞った。

 直後、アックスの目の前で、目を開けていられないほどの強烈な白銀の閃光が弾けた。

 跳躍していた魔物は、空中で輝く炎を纏った一撃を脳天から叩き割られ、悲鳴を上げる間もなく光の粒子となって四散した。

 そのあまりの衝撃と神聖な空気に、周囲を囲んでいたシャドウファングたちが一斉に怯んで後ずさる。

 

 

「え……?」

 

 

 アックスが恐る恐る目を開けると、そこには信じられない光景があった。

 自分と背丈がほとんど変わらない、女神と見紛うほどに美しい碧髪の少女が、自分を囲んでいた醜悪な魔物たちの群れの中へ、単機で軽やかに降り立ったのだ。

 

 

「ほらほら、どうしたの、ノロマな狼さん! さっきまでの威勢はどこに行ったのかな! そんな眠くなる動きじゃ、君の爪も牙も僕たちにかすりもしないよ!」

 

 

 少女――ルチオは、ニシシと無邪気な笑い声を上げながら、まるで華やかな舞踏会で踊るように軽やかに剣を振るう。

 その動きは、五年間過酷な冒険者稼業を底辺で生き抜いてきたアックスの動体視力をもってしても、全く捉えきれないほど速く、そして残酷なまでに美しかった。

 大胆に腹部を露出させた鎧が暗闇で煌めき、白銀の刃が閃くたび、先ほどまでアックスをいたぶっていた恐ろしい狼の魔物たちが、文字通り紙くずのように両断されて霧へと還っていく。

 

 そして。

 地響き一つ立てず、呆然と座り込むアックスの傍らに、ふわりと舞い降りるように跪いたのは、もう一人の少女だった。

 剣を振るう少女と瓜二つの顔立ちだが、こちらは露出のない純白と翠の神官服――『月光の聖衣』を身に纏っている。

 

 

「……もう大丈夫ですよ。よく頑張りましたね。今、すぐに治しますからじっとしていてくださいね」

 

 

 シルヴィオは聖母のように優しく微笑むと、泥と血と汗にまみれた三十歳のむさ苦しい男の腕に、一切の躊躇いもなくその白く滑らかな両手を添えた。

 

 

「慈愛なるヴァルクリア神よ、どうか傷ついたこの者に、安らぎと温かな癒やしを――『癒やしの光(ヒーリング・ライト)』」

 

 

 その瞬間、恐怖で凍りついていたアックスの身体を、太陽のように温かく清らかな翠色の光が包み込んだ。

 無惨に裂けた肉が瞬く間に繋がり、流れていた血が止まり、森の瘴気に蝕まれて息苦しかった肺の奥までが、澄み切った清流で洗われるように満たされていく。

 

 

(……あぁ、おらはもう、死んだんだべか? こんったらにキレイな天使様がお迎えに来てくれるなんて……)

 

 

 地獄の底のような暗闇に現れた、穢れを知らない二人の美少女。

 妻と息子の待つ故郷へ帰ることもできず、泥にまみれて惨めに犬死にするはずだった。だが今、目の前で微笑み、そして美しく舞うように戦う神々しい姿に、アックスは痛みを忘れ、ただボロボロと涙をこぼしながら呆然と見惚れるしかなかった。

 

◆

 

「あ……あぁ……おら、やっぱり死んだだか? 天使様が、お迎えに来てくれたんだな……」

 

 

 あまりの温かさと安堵感に、アックスの泥だらけになった頬を大粒の涙がとめどなく伝い落ちていく。

 魔法の光が傷を塞いでいく心地よさに身を委ねていると、目の前の『天使』はふわりと優しく微笑んで、美しい碧色の髪を揺らした。

 

 

「もう大丈夫ですよ。……ふふ、私たちは天使なんかじゃありません。ただの冒険者です」

 

「僕はルチオ! こっちはシルヴィオ。間一髪だったね、おじさん!」

 

 

 最後の一匹を鮮やかに討ち果たし、チャキッと軽快な音を立てて剣を鞘に収めたルチオが、無邪気な笑顔で振り返る。

 死地とは思えないほど明るい声で、彼は後方の霧の中をビシッと指差した。

 

 

「で、僕たちの絶対の恩人で、この世界で一番偉大でお金持ちなご主人様が、あそこでどっしり構えてるモーブル様だよ!」

 

 

 ルチオが指差した方向――重苦しい乳白色の霧がぬちゃりと割れ、ズシン、ズシンと不気味な地響きを立てながら、一つの「巨大な肉の山」がゆっくりと姿を現した。

 

 

「まったく……雇い主を置いて勝手に飛び出しおって。で、なんだ、そのみすぼらしい小男は」

 

 

 見上げるほどの巨漢だった。

 あふれんばかりの贅肉が詰まった太鼓腹を高級な特注の外套で包んだその男は、顔に浮かんだ脂汗を拭いながら、道端の這い蹲る虫ケラでも見るような目つきでアックスを一瞥した。

 豚のように醜悪な肥満体型。

 だが、その瞳の奥に宿っているのは、相手の命の価値から臓器の値段までを瞬時に弾き出すような、極めて鋭く冷徹な『悪徳商人』の光だ。

 

 先ほどの双子が天から舞い降りた「慈愛の天使」ならば、目の前に立つこの男は、間違いなく地獄の釜の底から這い出してきた「強欲な悪魔」である。

 長年の底辺冒険者生活で培われたアックスの生存本能が、頭の中でけたたましい警鐘を鳴らした。

 

 

(関わっちゃならねぇ……このオッサンには、絶対に関わっちゃならねぇだべ……!!)

 

 

 ヒッ、と喉の奥で息を呑み、アックスは無意識のうちに、自らの身長の何倍もある巨大な背負子の紐を、すがるようにぎゅっと握りしめた。

 

 

「だ、旦那様っ、お初にお目にかかりますだ……! お、おら、アックスって言いますだ……っ」

 

 

 ガチガチと歯の根を鳴らしながら、アックスは地面に額を擦りつけるように這いつくばり、必死に震える声を絞り出した。

 

 

「ふん。冒険者……いや、ただのポーター(荷運び)か。辺境の貧村から出稼ぎに来たといったところだな」

 

「ひゃいっ……そ、そうですだ」

 

「年齢は三十前後。冒険者歴だけは無駄に長い、万年ブロンズランクの底辺……といったところか」

 

「ひ、ひえぇっ!? な、なんで一目見ただけでわかるんだべか!? 心を読む恐ろしい魔法使い様だべか!?」

 

 

 過去も素性も丸裸にされた恐ろしさに、アックスが地面にめり込む勢いで平伏すると、モーブルは呆れたように豊満な顎肉を揺らして鼻を鳴らした。

 

 

「魔法など使わんわい。ただの『観察眼』だ。貴様の手を見れば、剣ではなく農具の『鍬』の柄に合わせてマメが潰れておる。目尻の深いシワと日焼けは長年の野良仕事の証。さらにその安物の革の胸当て……よく見れば五種類の違う糸でツギハギされておるな。つまり、装備を新調する金もないまま、五年は貧乏冒険者を続けているという動かぬ証拠だ」

 

「ひぃぃっ! ほ、骨の髄まで見透かされてるみたいだべ……!」

 

「極めつけは、その異常にすり減った靴のつま先と膝当てだ。魔物と戦う気など最初からゼロ。能力はひたすら『逃げ足』と『土下座のスピード』に全振りしているのが丸わかりだぞ。どうせ、雇い主の中堅パーティあたりに『お前、邪魔だから囮になれ』とでも理不尽に切り捨てられ、鼻水垂らして無様に逃げ回っていたのだろう?」

 

「図星すぎるだべぇぇっ!?」

 

「やれやれ……才能以前の問題だな。よくその貧相な装備と情けない逃げ足だけで、今日まで森の肥料にならずに生きてこられたものだ。お前のような徹底した底辺は、せいぜいスライムにでも飲み込まれて、三日三晩かけてゆっくり消化されるのがお似合いの末路というやつだぞ」

 

「うぅ……ひ、ひどい言われようだべ……。で、でも、おらは戦いはからっきしだけど、どんなに重い荷物でも文句一つ言わずに運ぶド根性だけが取り柄なんだべ……っ! 田舎で待ってる二十五の可愛い嫁っこと、十歳になる息子に、腹いっぱい美味い飯を食わせるまでは……おら、泥水すすってでも絶対に死ねねぇんだぁ……っ!」

 

 

 アックスはボロボロと泥混じりの涙を流しながら、懐に忍ばせた不格好な手彫りのお守り袋をぎゅっと握りしめた。

 それはまさに、愛する家族を背負う一家の大黒柱としての悲哀と、泥臭いド根性に満ちた美しい姿であったが――。

 

 

「ふん。他人のむさ苦しいお涙頂戴や家族愛など、このジンジ・モーブルの前では銅貨一枚の価値もないわ。同情してほしければ金を出せ」

 

「ほげぇっ!? 血も涙もねぇだっ!?」

 

「第一、三十路の泥まみれのオッサンなど、わしのストライクゾーン(美少年)の遥か圏外、視界に入るだけでも不愉快だ。関わる気にもならん。まあいい、うちの可愛い天使たちのお節介で運良く命拾いしたな。用が済んだならさっさとここから立ち去れ。わしは忙しいのだ。しっし」

 

 

 モーブルはアックスの家族愛に一ミリの感動も同情も見せることなく、薄汚い野良犬でも追い払うようにシッシッと冷酷に手を振った。

 

 

「ま、待ってけろ! ここから立ち去れって……おら、パーティーに見捨てられたから丸腰で一人なんだべ!? こんな深い死霊の森のど真ん中にポツンと置いて行かれたら、今度こそ間違いなく魔獣のウンコになっちまうだ! お、お願いだ旦那様! せめて、せめて森の出口まで一緒にお供させてくだせぇ!」

 

 

 アックスは泣き叫びながらモーブルの足元にすがりつこうとするが、巨漢の商人はその泥だらけの手をひらりと躱し、無情にも靴の先で小男を転がした。

 

 

「断る。わしらはこれから帰るのではない。さらに森の最深部へ向かうのだ。お前のような足手まといの底辺を護衛してやる義理も、割く時間もないわ。さあ、とっとと散ってアンデッドの養分になれ」

 

「そ、そんなぁ……!」

 

 

 無情な宣告にアックスが絶望で顔を蒼白にさせたその時、純白の神官服を着たシルヴィオが庇うようにアックスの前に立ち塞がった。

 

 

「お待ちください、モーブル様! 見捨てるなんてあまりに可哀想です! どうかアックスさんを一緒に連れて行ってあげてください! ここで彼を見捨てるのは、私たちが手を下すのと同じ……それに、彼には帰りを待つ奥様と小さなお子様がいるんですよ!?」

 

「うーむ、可愛いシルヴィオの頼みとはいえなぁ……。見たところこいつは銅貨一枚の価値もなさそうだし、わしらの限られたリソースをこんなむさ苦しいオッサンに割くのは、商人の美学に反するしなぁ……」

 

「あーあ、モーブル様ってば商売の天才なのに、肝心なところで損してるなぁ!」

 

 

 兄に並んで立ち、呆れたように腰に手を当てて声を上げたのはルチオだ。

 

 

「ん? どういうことだルチオ」

 

「モーブル様、よーく考えてみてよ。今回僕たちが採りに行く『泣き苔』って、水気をたっぷり含んでて、すっごく重いんでしょ? 僕や兄さんの華奢な身体じゃすぐ限界が来るし、なにより、モーブル様の大切な『黄金の特上ボディ』に、あんな泥だらけの重い荷物を背負わせて歩かせるなんて、僕、絶対に嫌だね!」

 

「まぁ、わしもちょっと腰が痛くなってきたところだし、肉体労働などまっぴら御免だが……」

 

「だったら、このおじさんを『使い捨ての歩く荷車』として使えばいいじゃない! 助けた命の代金として、この馬鹿でかい背負子に限界まで苔を詰め込ませるの! さっき、おじさんは逃げ足とスタミナだけは一丁前だって言ってたよね? 専属のロバ……コホン、荷物持ちが増えれば、一回の探索で持ち帰れる素材の量が倍……ううん、三倍にはなるよ! つまり、利益も三倍ってこと!」

 

「……ッ!!」

 

 

 ルチオの悪魔的かつ合理的すぎるプレゼンテーションに、モーブルの糸のように細い目が、カッと限界まで見開かれた。

 シルヴィオの「人道的なお涙頂戴」には一ミリも動かなかった強欲商人の魂が、『利益が三倍』という魅惑のキラーフレーズによって、ドゴォォォン!と激しく揺さぶられたのだ。

 

 

「……ふ、ふはははっ! なる、ほど……なるほどぉっ、ルチオよ! お前、いつの間にそんな立派な帝王学を身につけたのだ! タダで拾った命(ゴミ)を極限まで搾取し、利益を最大化する……実に素晴らしい! お前はわしの自慢の天使であり、最高に優秀な店員だな!」

 

 

 モーブルは興奮のあまり太鼓腹をブルンブルンと揺らし、先ほどまで汚物を見るようだった目で、今度はアックスを「歩く金貨」としてねっとりと値踏みした。

 

 

「聞いたな、小男。お前がここでアンデッドたちのウンコになるか、それともわしらの『専属ポーター』となって限界まで死ぬ気で荷物を運ぶか。どちらか選べ」

 

「は、運ぶだ! なんでも運ぶだべ、モーブルの旦那様! 荷物持ちでも奴隷でも馬車馬でもなんでもやるから、どうかおらを見捨てないでけろ〜っ! こんったらに可愛くて優しい『お嬢ちゃんたち』の役に立てるなら、おら死ぬ気で働くんだべぇぇっ!」

 

 

 再び平伏し、涙と鼻水まみれで激しく感謝を叫ぶアックス。

 しかし、その言葉を聞いた瞬間。モーブルの顔からピタ、と笑みが消えた。

 

 

「……お嬢ちゃん、だと?」

 

「え?」

 

「ふはははっ! お前、この天使たちが『少女』だと思っていたのか? 目玉が腐っておるのではないか?」

 

 

 モーブルは呆れたように鼻を鳴らすと、双子の腰元に手を伸ばし、なんの躊躇いもなく二人のボトムス――ルチオの鎧の佩楯《はいだて》と、シルヴィオの神官服の裾ごと、下着をバサッとずり下げた。

 

 

「ほ、ほげぇぇぇっ!?」

 

 

 アックスの剥き出しになった眼球が、今にも眼窩(がんか)からこぼれ落ちそうなほど見開かれた。

 無防備に晒された二人の白く滑らかな太ももの間には、女のそれではなく、未熟ながらもはっきりと、男としての証が誇らしげにぶら下がっていたのである。

 

 

「も、モーブル様っ……いくらなんでも、殿方の前で急にこんな……っ、恥ずかしいです……」

 

 

 シルヴィオは顔をリンゴのように真っ赤に染め、潤んだ瞳で恥じらいながら、慌てて神官服の裾を引き上げてモジモジと太ももを擦り合わせた。

 だが対照的に、ルチオは全く恥じる様子もなく、むしろ誇らしげに腰を突き出している。

 

 

「あははっ! おじさん、目玉飛び出ちゃいそうなすっごい顔! 僕たち、こんなに可愛い顔してるけど、本当は立派な男の子なんだよ!」

 

 

 無邪気にケラケラと笑うルチオと、羞恥に身をよじるシルヴィオ。

 

 

「お、男だべか!? こんったらに美人な天使様たちが、男だべぇぇっ!?」

 

「ぐふぇへへへ! そうだ、正真正銘の『美少年』だ! わしの最高のコレクションであり、わしだけを慰める極上の愛人でもある!」

 

 

 モーブルは双子に衣服をサッと直させると、アックスの胸ぐらを掴み上げ、商人特有の底冷えする凄みを利かせた。

 

 

「いいか小男。この双子は世界でも上位レベルの美少年なわけだが、絶対に手を出すなよ。もし欲情して指一本でも触れようものなら、お前のその無駄に頑丈な四肢を切り落として、オークの巣穴に放り込んでやるからな」

 

「ひ、ひぃぃぃっ!! し、しねぇだ! 絶対におさわりしねぇだべぇぇっ!!」

 

 

 こうして、美しき双子(※美少年)の冒険者と変態商人、そして命からがら生き延びたド根性の底辺ポーターという、ひどくアンバランスな四人組の探索行が幕を開けたのである。




この世界での冒険者ランクは7つあります。

ブロンズ<ジンク>アイアン<スチール<シルバー>ゴールド>オリハルコンの順で上がっていきます。

シルヴィオ、ルチオの双子は現在、下から二番目のランクです。
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