モブおじ精液でレベルアップ!? ~でも好みのショタっ子しか手助けしません!!~ 作:とけそうだら
清らかな沢の結界を一歩抜け出すと、そこは再び、乳白色の濃霧と腐臭が支配する地獄の森だった。
急激に冷え込んだ空気が肌を刺し、鬱蒼とした木々の陰からはカタカタと骨の擦れる不気味な音が響き始める。
「うぅ……やっぱり、ここに戻ってくると生きた心地がしねぇだべ……」
アックスは殺人的な背負子の重さに耐えながら、ガチガチと歯の根を鳴らした。
先ほどまでシダの葉の影から息を殺して覗いていた、「巨大な商人と双子の美少年による常軌を逸したピンク色の情事」の強烈な記憶は、肌を撫でる死の恐怖によってあっさりと吹き飛んでしまっていた。
「おじさん、そんなにビクビクしなくて大丈夫だって!」
「んだけどもなぁ……おらの元いたアイアン級の仲間さだって、こんなアンデッドの群れにビビっておらを捨てて逃げていくくらいだしなぁ……」
「アックスさん、安心してください。ヴァルクリア神に仕える私達が、責任を持って外にお連れしますから」
「そうそう! 行きと同じで、僕たちが全部片付けるからさ!」
シルヴィオが聖職者らしい慈愛に満ちた笑みで諭し、ルチオが振り返って太陽のような明るい笑顔でウインクをする。
先ほどまで顔を真っ赤に紅潮させてよだれを垂らし、発情した獣のように交尾を貪っていたとは思えないほどの、完璧で清らかな『天使の笑顔』だった。
(……お腹の奥までモーブルの旦那様の特濃の子種でパンパンに満たされてるはずなのに、天使様たちはなんて爽やかな顔してるんだべ……!)
アックスがその恐るべき切り替えの早さに感心していた、その直後。
「グルルルルルッ……!!」
濃霧を強引に切り裂き、四つん這いになった巨大な異形の魔物が飛び出してきた。
人間の死体を何体も無惨に繋ぎ合わせて作られたような、醜悪な『肉塊の獣(フレッシュ・ハウンド)』だ。
それが三体。どうやら生者の匂い――とりわけ、双子の身体の奥底からむせ返るほど漂う強烈な『事後の匂い』と『濃密なオスの匂い』に猛烈に刺激されたらしく、醜い顎から涎を撒き散らしながら一直線に襲いかかってきたのである。
「ひぃぃぃぃっ!! で、出たぁぁぁっ!!」
アックスが情けない悲鳴を上げてその場にしゃがみ込む。
背負子が重すぎて、得意の逃げ足を活かすことすらできない。絶体絶命かと思われた、その時。
シルヴィオがすっと前に出て、気高く神聖な祈りのポーズをとった。
「不浄なる魂の寄せ集めよ、大いなる光の前に平伏しなさい――『聖光の波動(ホーリー・ウェイブ)』!」
シルヴィオの澄み切った声が響き渡ると同時、強烈な翠色の光が森の瘴気を浄化しながら広がった。
その魔法の威力は絶大で、光の波に触れた瞬間、肉塊の獣たちは「ギャアアアッ!」と鼓膜を劈くような断末魔を上げ、全身から白煙を吹いて動きを大きく鈍らせる。
「はぁぁッ! 『白銀の十字(シルバー・クロス)』!!」
そこに、踊るような身のこなしでルチオが飛び込んだ。
大胆に腹部を露出させた聖騎士鎧が美しく輝き、白銀の剣閃が空中に鮮やかな十字を描き出す。
一切の淀みもない完璧な連携。動きの鈍った巨大な魔物たちは、まるで豆腐のように容易く四肢を両断され、ドサリと腐肉を撒き散らしながら絶命していった。
「す、すごいだぁ……」
アックスは感嘆と戦慄の入り混じった声を漏らした。
一時間ほど前、泉の中でモーブルの極太の指や猛りに乱暴に扱き回され、雌犬のように啼き喚いてだらしなくよだれを垂らしていた少年たちと同一人物とは、到底思えない。
剣を振るうルチオの姿は苛烈な戦神のようであり、祈りを捧げるシルヴィオの姿は慈悲深き女神のようだった。
極限の「聖」と「性」を秒単位で行き来する双子の狂気的な二面性に、アックスは底知れぬ畏怖すら覚えた。
「おい、ぼんやり突っ立っておるな。生者の匂いを嗅ぎつけて次が来るぞ。さっさと歩け」
モーブルは、目の前で繰り広げられた凄惨な戦闘など意にも介さず、ズボンの股間でまだ暴れている自身の『巨大な余韻』を無造作に位置直ししながら、悠然とあくびをして歩き続ける。
この絶対的な主従関係。
これほどまでに圧倒的な戦闘力を持つ美しい双子が、なぜあの醜悪で下品な商人に心底惚れ込み、雌のように嬉々として従っているのか。
アックスの純朴な脳みそには一生理解できない異常な世界だったが、一つだけ確かなことがあった。
(こ、この人たち……得体の知れねぇ、本当におっそろしい変態たちだべ……! でも……この人たちについて行けば……絶対に死なねぇで、生きて帰れるだ!)
「は、はいだべ! すぐ行くべ旦那様ぁっ!」
アックスは自身の真っ当な倫理観と引き換えに『絶対の命の保証』を得たことに安堵し、バカでかい背負子をズドズドと揺らしながら、必死に三人の背中を追いかけた。
◆
道中、ふと霧が薄れた森の奥深くに、周囲の禍々しい景色とはまるで不釣り合いな、白亜の無機質な人工の建物が姿を現した。
「ありゃ? モーブルの旦那様、あんなところに建物があるだべ。なんでこんな死霊の森のど真ん中に、あんな綺麗なものが……」
高く頑丈な塀で囲まれたその敷地は、人の気配など一切ないようにひっそりと静まり返っていた。
しかし、じっと見つめていると、なぜかフラフラとそちらへ歩き出したくなるような、不気味で抗いがたい引力が湧き上がってくる。
アックスが目を細め、まるで幽鬼のようにその門扉へ吸い寄せられそうになった、その瞬間。
前を歩いていたモーブルがピタリと足を止め、かつてなく冷たく険しい声で鋭く制止した。
「目を逸らせ。――そして、あそこには絶対に近づくな」
「え、なんで? すっごく綺麗な建物だよ。まるでお城みたいじゃん」
ルチオが首を傾げ、あっけらかんとした声で言う。
そんな無邪気なルチオを一瞥し、モーブルは忌々しそうに低く唸った。
「馬鹿もの。いいか、よく聞け。あそこはな……あの『魔導騎士団』が管轄している『犯罪者教育更生施設』だ」
「ひっ……ま、魔導騎士団だべ!?」
その恐ろしい名前に、アックスは弾かれたように肩を大きく震わせた。
魔導騎士団――。
それは、貴族から平民に至るまで、すべてのイングラジア国民が畏怖と恐怖を抱く絶対的な治安維持組織。
通常の警察機構や正規軍では対処不能な凶悪テロ、あるいは国家を揺るがす魔法災害といった非常事態にのみ投入される、魔法議会直轄の最高位特殊部隊である。
破壊、隠密、狙撃、拘束、魔力封印といった専門技術を極めた魔法のスペシャリストたちが一切の感情を交えずに連携し、標的が反撃の糸口を掴む前に現場を完全鎮圧する。
息の根を止めるよりも冷酷で精巧な手口で対象を無力化し、確実な生け捕りを完遂してみせる――まさに、対魔法・対国家犯罪の最高峰に君臨する冷徹なるエリート戦闘集団であった。
「そうだ。あそこは、重大犯罪者や政治犯、奴隷などを収容し、表向きは『社会復帰支援』を行うとされている施設だ。……だが、それはあくまで建前に過ぎん」
モーブルは周囲を警戒するように声を潜めた。
「そもそもこの『嘆きの森』は、ちょうど南の『アレクスティア剣王国』との国境沿いに位置している。厳しい正規の関所を避け、非合法にイングラジア魔導国から出国、あるいは密入国しようとする輩が使う『裏のルート』でもあるのだ。ゆえに、あの施設は犯罪者の更生だけでなく、国境を越えようとする不法者たちを監視し、秘密裏に捕縛するための施設だという噂もある」
「密入国者の、監視……?」
「ああ。そして裏社会の黒い噂では……犯罪者たちやここで捕らえられた不法入出国者たちを材料にして、非合法で悍ましい人体実験を繰り返しているという話だぞ」
その血生臭い噂に、シルヴィオが「ひっ……」と顔を青ざめさせ、ギュッと胸元の聖印を握りしめた。
「命を切り刻み、繋ぎ合わせるだなんて……そんな神の教えに背くような悪魔の所業、信じられません……っ。どうか、ヴァルクリア神の御加護が私たちにありますように……」
祈るように震えるシルヴィオの隣で、アックスもまた、背筋に氷を当てられたような恐ろしい悪寒に身を震わせた。
しかし、ルチオだけは「えーっ、嘘でしょー? いくらなんでも国の施設で死体のつぎはぎなんて……おとぎ話じゃないんだからさ」と、能天気にカラカラと笑っている。
「嘘と断言しきれんのが、あの狂った施設の恐ろしいところだ。噂では、囚人や不法入出国者だけでなく、あそこの敷地の近くに迷い込んだ不運な冒険者すらも手当たり次第に捕らえて、生きたまま実験の材料にしているという怪談じみた話まであるからな」
「え……犯罪を犯してない一般人も捕まえてって……嘘、だよね。……ねぇ、嘘だと言ってよ、モーブル様!」
先ほどまで肉塊の魔物を笑顔で両断していたルチオが、急に「お化け屋敷で親をはぐれた子供」のような顔になり、モーブルの丸太のように太い腕にギュッとすがりついた。
どうやら彼は、剣で斬れる物理的なグロテスクには耐性があっても、剣で斬れない「怪談じみたオカルトホラー」にはめっぽう弱いらしい。
「さあな。実際、この嘆きの森の深層で行方不明になった冒険者の数は計り知れん。まあ、こんな気味の悪い施設があるからこそ、他の冒険者どもは恐れをなして寄り付かない。わしらが安全な沢で『泣き苔』を独占してボロ儲けできるのも、あの悪趣味な施設のおかげと言えるかもしれんな。ぐふぇへへへ」
「もうっ、笑い事じゃないよ! そんな超危険なところに僕たちを連れてきたの!? もしあそこに誘拐されて、僕のこの国宝級に可愛いお顔を、オークやゴブリンの毛むくじゃらな身体とつぎはぎにされちゃったらどうすんのさ! 絶対ヤダ!」
「ル、ルチオ! そんな恐ろしい想像を口にしないでください……! もしそんな
双子は自身の『美貌』が損なわれる想像に、本気の涙目を浮かべて震え上がった。
「安心しろ。お前たちのような極上の『商品』を、あんな連中にタダで渡してなるものか。……だが」
モーブルはニヤリと悪魔のように意地悪な笑みを浮かべ、標的を変えるように、ガチガチと歯の根を鳴らしているアックスを横目で見下ろした。
「お前を囮にして逃げた、例の薄情な中堅パーティの連中はどうかな。もしかしたら今頃、森で迷ってあそこに攫われ、仲良く一つの『つぎはぎの化け物』に改造されている最中かもしれんな。ほれ、お前のすぐ後ろの茂みから……『アックスゥゥ……オレタチの
「ヒィィィィッ!? じょ、冗談キツイだべぇぇっ!!」
アックスの純朴な脳裏に、かつての仲間たちがグロテスクなツギハギの化け物となって迫ってくる最悪のビジョンが鮮明にフラッシュバックした。
「嫌だべ! 化け物は嫌だべーっ! 嫁っこと息子の顔が見られなくなるだべぇぇっ!!」
アックスは想像を絶する恐怖にボロボロと涙を散らしながら絶叫した。
そして、常人なら歩くことすら困難な殺人的な重さの背負子を背負っているにもかかわらず、その日一番の『逃げ足』のステータスを爆発させ、ズドズドズドッ!と地響きを立てながら、身軽な双子すら置き去りにする猛烈なスピードで森の出口へと爆走し始めたのである。
◆
その後も、襲い来るアンデッドや魔獣の群れを、双子は文字通り「薙ぎ払い」ながら進んだ。
アックスはただの一度も攻撃を受けることなく、ひたすら重い苔を運ぶことに専念できた。
彼がこれまで所属していたどの中堅パーティよりも遥かに安全で、そして――色々な意味で異常な探索行だった。
やがて、鬱蒼と生い茂る枯れ木の隙間から、夕日に燃えるような赤い空の色が差し込み始めた。
死と瘴気の森の、出口が近い証拠だ。
「……見えたぞ。ようやくこの埃っぽい森ともお別れだな」
先頭を歩くモーブルが特注の外套を翻し、満足そうに頷く。
その分厚い背中越しに見える街の堅牢な防壁に、アックスの瞳から思わず安堵の涙がこぼれ落ちた。
「あ, ああ……生きて帰ってこられただ……。おら、森の肥料にならなくて済んだんだべ……っ!」
極限の緊張の糸が切れ、アックスはその場にドサリとへたり込みそうになる。
しかし、背負子の殺人的な重さがそれを許さず、彼は膝に手をついて必死に荒い息を整えた。
「ふん。泣くのは街の門をくぐってからにしろ。……しかし、小男。お前、本当にその量を一度も落とさずに運び切るとはな。万年底辺ランクのくせに、なかなかの根性を持っておるようだな」
モーブルが振り返り、アックスの身体よりも大きな背負子をジロリと見下ろした。
その中には、双子だけでは到底持ち帰れなかったであろう、膨大な量の『泣き苔』がぎっしりと詰まっている。
「商人たるもの、労働には正当な対価を払うのが流儀だ。お前が命を救われた代金は、この荷運びで十分に相殺してやろう。それどころか……これだけの量があれば、市場を独占して莫大な利益を生むことができる。お前のその『逃げ足』と『無駄な体力』は、思いのほか金になるようだな」
モーブルの口角が、ニヤリと吊り上がった。
「ひぃっ……!」
「どうだ、アックスとやら。お前、パーティに見捨てられて、今は無所属の野良犬だろう? 田舎の嫁とガキに腹いっぱい飯を食わせたいのであれば……わしの店の『専属ポーター』として雇ってやらんこともないぞ? もちろん、骨の髄までコキ使ってやるが、報酬はこれまでの底辺稼業とは比べ物にならん額を出してやる」
その提案に、アックスは限界まで目を見開いた。
紛れもない、悪魔との契約。
この男の元で働けば、これからも常軌を逸した修羅場を潜り抜け、精神をゴリゴリと削られるような過激な情事の数々を間近で見せつけられることになるだろう。
だが。
「……本当だか?」
アックスは泥と汗にまみれた顔を上げ、モーブルの冷徹な目を真っ直ぐに見返した。
「本当に、家族に美味い飯を食わせてやれるくらい……お賃金を稼げるんだべか?」
「ふははっ! 愚問だな。この随一の商人、ジンジ・モーブルの財力と手腕を疑うか? お前が潰れずに荷を運び続ける限り、お前の家族には一生飢えを味わわせぬと約束してやろう!」
その力強い、強欲ゆえに絶対的な保証の言葉。
アックスは、懐に忍ばせた不格好な手彫りのお守り袋をぎゅっと握りしめた。
「……やるだ」
「ん?」
「おら、やるだ! 荷物持ちでも、奴隷でも、なんでもやるだべ! 天使様たちがいれば魔獣は怖くねぇし、モーブルの旦那様がお賃金をくれるなら、おら、死ぬ気で運ぶだべ!」
アックスは背負子の重みに耐えながら、深々と頭を下げた。
誇りなどない。
あるのは、這いつくばってでも家族を養うという、泥臭くも美しい一家の大黒柱としてのド根性だけだった。
「あははっ! よかったね、アックスおじさん! これからよろしくね!」
「ええ、私たちと一緒に、これからもモーブル様のために働きましょうね」
双子が無邪気で愛らしい笑顔でアックスを歓迎する。
その笑顔の裏にある強烈な変態性を知ってしまっていても、アックスはもう怯えなかった。
「ふはははっ! よい心がけだ! ならば凱旋と行くぞ、わしの愛しい天使たちよ! そして新たな歩く荷車よ!」
モーブルが高らかに宣言したその時――アックスの腹の底から、「ぐきゅるるるるっ……」と情けない音が大きく鳴り響いた。
「あははっ、おじさん、すっごい音!」
「ふふ、無理もありません。あんなに重い荷物を背負って歩き通したのですから」
「うぅ……お恥ずかしいだべ。おら、なんだか無性に……腹いっぱい、美味いシチューが食べたいだ……」
死の淵に立たされた時、脳裏をよぎった素朴な願い。それは、生還を果たした今、確かな空腹となって彼を襲っていた。
「シチューだと? ふん、初任給の祝いだというのに、随分と安上がりな舌をしているな」
モーブルは呆れたように鼻を鳴らしたが、やがて太鼓腹を揺らしてニヤリと笑みを深めた。
「だが……どうしてもシチューと言うなら、わしの知る『とっておきの店』があるぞ。極上のロックリザードのステーキとふんわり甘いハニードーナッツが自慢の、むさ苦しい庶民向けの店だがな。何を作らせても絶品だ、料理の味だけはこの美食家のわしが保証してやる。よし、今日の祝勝会はそこだ! わしの奢りだ、その貧相な胃袋がはち切れるまで食わせてやろうぞ!」
モーブルの豪快な笑い声と共に、四人は燃えるような夕日の中を歩き出す。
美しき双子の冒険者と変態商人、そして命からがら生き延びたド根性の底辺ポーター。
決して交わるはずのなかった彼らの奇妙で歪な絆は、こうして嘆きの森の片隅で、確かに結ばれたのである。