※この作品はR-18です。

モブおじ精液でレベルアップ!? ~でも好みのショタっ子しか手助けしません!!~   作:とけそうだら

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第六十六話 ニーシャの愛の誓いと未踏のダンジョン攻略④

 第二層から第三層へ向かう通路には、前回の攻略でニーシャが残した痕跡が、至るところに刻み込まれていた。

 

 黒く焼け焦げた壁。

 熱で溶かされ、飴細工のように歪んだ鉄格子。

 爆風をまともに浴び、半ば崩落した墓室。

 そして天井には、飛行魔法で進んだニーシャを追うように、一本の長い焦げ跡が暗闇の奥まで続いている。

 

「……おいおい」

 

 カイルが引きつった顔で天井を見上げた。

 

「ずいぶん派手にやったな。本当に一人で、ここを全部燃やしながら進んだのか?」

 

「ボクを誰だと思っている」

 

「後先考えない爆炎魔法馬鹿」

 

「燃やすぞ!」

 

 先頭を歩くニーシャと、そのすぐ後ろを進むカイルの声が墓道へ響き渡る。

 

「お二人とも」

 

 シルヴィオが静かな声で割って入った。

 

「もう少し声を落としてください。ここは死者の眠る場所です。音に反応する魔獣がいるかもしれません」

 

「ん~一足遅かったようです……」

 

 ネリオが前方へ目を細めた。

 

「あ?」

 

「ほら」

 

 ネリオが指差す。

 壁際に並ぶ石棺の一つが――。

 カタ。

 カタカタ。

 小さく揺れていた。

 

「……」

 

「少年たちが大声を出したせいで、お目覚めのようですよぉ」

 

「ニーシャが悪いんだって。こいつがいちいち偉そうなこと言うから」

 

「ボクを巻き込むな。最初に騒いだのはお前だ」

 

「お二人ともです」

 

 シルヴィオが即座に訂正した。

 ニーシャとカイルがそろって不満そうな顔をする。

 

 だが、その間にも――。

 カタカタカタ……。

 周囲の棺から、骨同士の擦れ合う乾いた音が次々と響き始める。

 

「……ここは私が何とかします」

 

 シルヴィオが前へ出る。

 胸元で杖を掲げ、静かに目を閉じた。

 

「彷徨える魂よ。怒りを鎮め、安らかなる眠りへ――鎮魂の祈り(ソウル・レスト)」

 

 淡い白色の光が、杖の先から波紋のように広がった。

 柔らかな光が回廊を満たし、並んだ棺を一つずつ包んでいく。

 棺の隙間から伸びていた骨の指が、ぴたりと止まる。

 やがて力を失ったように棺の中へ戻り、持ち上がりかけていた蓋も静かに閉じていった。

 

「ふぅ……」

 

 シルヴィオが杖を下ろす。

 

「これ以上、騒がないでくださいね」

 

 笑顔だった。

 慈愛に満ちた、穏やかな笑顔。

 だが――。

 

「……うん」

 

「……わかった」

 

 ニーシャとカイルは素直に頷いた。

 逆らいづらい何かがあった。

 

     ◆

 

 一行はさらに第二層を進んだ。

 天井から巨大な刃が振り下ろされる通路。

 壁に並ぶ石像の口から毒霧が噴き出す玄室。

 踏んだ者の足首を、床から伸びた石の手が掴む罠。

 その位置も仕組みも、すべてニーシャの記憶どおりだった。

 

「次。右から三枚目の床石を踏むな」

 

「はいはい」

 

「カイル」

 

「あ?」

 

「今、踏もうとしただろ」

 

「踏んでねぇだろ!」

 

「爪先が乗っていた!」

 

「乗ってねぇ! 浮いてた!」

 

「屁理屈を言うな!」

 

「ちょっと、お二人とも動かないでください」

 

 ネリオが二人を制止し、床へしゃがみ込む。

 細い探査針を隙間へ差し込み、内部の機構を調べていく。

 

 カチ。

 カチカチ。

 

 慎重に留め具を外し、内部の魔導線を一本ずつ切断する。

 

「……まだか?」

 

 ニーシャが眉間に皺を寄せた。

 

「確実に解除しておりますので、急かされても速くなりませんよぉ」

 

「前回は一秒で通過した場所だ」

 

「飛び越えただけでしょう?」

 

「ああ」

 

「でしたら今回も一人で飛んでいけばよろしいのでは?」

 

「隊を率いる者が、勝手に先へ進めるか」

 

 ニーシャが即答する。

 その背後で、カイルが退屈そうに欠伸をした。

 

「さっきから遅い遅いって文句ばっかりじゃねぇか。そんなに苛つくなら、一人で行けばいいだろ」

 

「苛ついているのは、進行速度だけじゃない」

 

 ニーシャが冷たい目を向けた。

 

「一番の原因はお前だ」

 

「なんで俺だけ!?」

 

「第二層へ入って最初の戦闘をもう忘れたのか?」

 

「……」

 

「骸骨犬八体だぞ」

 

「八体もいたんだぞ!」

 

「低級魔獣が八体だ!」

 

「数が多けりゃ強ぇだろ!」

 

「ほとんどボクが倒したじゃないか!」

 

「ぐっ……」

 

 カイルが言葉に詰まった。

 

 先ほどの戦闘。

 陽炎の楼閣ではA級の変異種魔獣を相手に渡り合ったカイルが、C級の骸骨犬を相手にした途端、まるで攻撃を読めなくなった。

 それどころか、一体もまともに仕留められていない。

 

 ニーシャにとっては完全な誤算だった。

 少なくとも第五層へ到達するまでは、自分の魔力を可能な限り温存するつもりだった。

 そのために前衛を集めたのだ。

 ところが第一層へ入って早々、自分が魔法を使う羽目になった。

 機嫌が悪くなるのも当然だった。

 

「次の戦闘では勝手に前へ出るなよ」

 

「分かってるって」

 

「本当だろうな?」

 

「俺だって馬鹿じゃないからな。一度あることは二度としねーっての」

 

 ニーシャが半眼になる。

 

「……二度あることが三度も四度もある脳筋には似合わない言葉だね」

 

「なんだと!」

 

 その時。

 カチン。

 

「はい、解除完了でっす!」

 

 ネリオが立ち上がった。

 

「どうぞお先に、隊長殿。ただし次の罠まで十七歩ほどしかありませんから、また足止めになりますけどねぇ」

 

「……遅い」

 

「はぁ、左様で」

 

 ネリオがにっこり笑う。

 

「では次は、ご自分でどうぞ」

 

「誰に向かって言っている」

 

「この隊で一番偉そうな方へです!」

 

「お前まで言うか!」

 

 後方でモーブルが一人愚痴る。

 

「……まったく。まだ第三層にも着いておらんというのに、この調子で大丈夫か」

 

「だ、旦那様……」

 

 ラースが不安そうに見上げる。

 

「皆さん、仲が悪いんでしょうか……」

 

「悪いというより――噛み合っておらんのだ」

 

 モーブルは前方を見た。

 

 先頭を急ごうとするニーシャ。

 そのニーシャへいちいち噛みつくカイル。

 二人を宥めるシルヴィオ。

 罠を確実に処理しながらも、皮肉の一つは忘れないネリオ。

 

 それぞれが役目を果たそうとはしている。

 だが、その歩調はまだ揃っていない。

 

「歯車なんぞ、形が合わなければ回らん。無理に回せば、先に欠ける」

 

「……?」

 

「まあ、今は黙ってついてこい」

 

「はい!」

 

     ◆

 

 一行はようやく第二層の最奥へ到達した。

 巨大な石扉を開く。

 その向こうには、さらに地下深くへ続く階段が伸びていた。

 

「この下が第三層ですかな」

 

 モーブルが暗闇を覗き込む。

 

「ああ」

 

 ニーシャは杖の先へ赤い光を灯し、階段の奥へ向けた。

 

「第二層までとは構造が違う。第三層は、無数の墓道が複雑に絡み合った巨大迷宮だ」

 

「今度は迷路かよ」

 

「正しい道は覚えている」

 

 ニーシャがちらりとカイルを見る。

 

「野良犬が勝手に走り回って、余計な通路へ入り込まなければ問題ない」

 

「ふーん」

 

 カイルは階段を覗き込みながら尋ねた。

 

「前回は迷わなかったのか?」

 

「賢いボクが、道を間違えると思うのか?」

 

「思う」

 

「お前にだけは言われたくない!」

 

     ◆

 

 第三層へ下りた一行を迎えたのは、巨大な地下迷宮だった。

 

 正面には天井の高い大回廊。

 そこから左右へ、人間二人が並んで歩くのがやっとの細い墓道が、蜘蛛の巣のように幾重にも枝分かれしている。

 壁一面には古代文字。

 その下には朽ちた棺が隙間なく積み上げられ、棺の間から漏れる青白い瘴気が、足元を薄い霧のように流れていた。

 

「全員、そこで止まれ」

 

 階段を下りきる直前。

 ニーシャが杖を横へ伸ばした。

 

「正面の大回廊は使わない」

 

「なんでだよ」

 

「第四層へ続く最短経路ではあるが、奥に墓守として封じられた吸血鬼が五体いる」

 

「五体?」

 

 カイルが二本の剣へ手をかける。

 

「だったら――」

 

 ニーシャが無言でカイルを見る。

 

「…………」

 

「なんだ」

 

「……いや」

 

 カイルの手が、ゆっくり剣から離れた。

 

「別の道があるんだよな?」

 

「あれれ?」

 

 ルチオがにやにやしながら顔を覗き込む。

 

「カイルくん、今日はずいぶん慎重だね」

 

「うるせぇ」

 

「さっきなら『五体くらいまとめて倒してやる!』って言ってたのに」

 

「学習したんだよ!」

 

「C級の骸骨犬で?」

 

「それ以上言うな!」

 

 カイルが顔を真っ赤にする。

 先ほどまで三体の骸骨犬に追い回されていた男の台詞としては、確かに説得力があった。

 ニーシャが鼻で笑う。

 

「賢明だな。吸血鬼は一度噛みつけば、相手の血を吸い尽くすまで離れない」

 

「……」

 

「それに、特に若くて血気盛んな子供の血を好むらしいぞ」

 

「…………」

 

 カイルの顔から、すっと血の気が引いた。

 

「右だったな?」

 

「ああ」

 

「よし。さっさと行こうぜ」

 

 踵を返すのが妙に早い。

 

「あららぁ。これはこれは分かりやすいことで」

 

 ネリオがにやりと笑い、すかさず手帳を取り出した。

 

「なになに――『骸骨犬との激闘を経て成長したカイル少年、吸血鬼五体を前に勇気ある撤退を即断』……と」

 

「待て! なんか記事っぽく書くな!」

 

「では、『吸血鬼に恐れをなし、尻尾を巻いて逃亡』の方が?」

 

「悪化してんじゃねぇか!」

 

 一行は右側の細い墓道へ入った。

 通路は狭い。

 場所によっては天井も低く、アックスの巨大な背負子が何度も壁へ擦れた。

 

 やがて――。

 ガコン。

 

「……あ」

 

 アックスが立ち止まった。

 

「どうした?」

 

「背負子が……引っかかっただ」

 

 左右へ積み重なった棺の間に、巨大な荷物が完全に挟まっていた。

 

「動けねぇだ……」

 

「押せば抜けるだろ」

 

 カイルが後ろから背負子へ手をかける。

 

「待て」

 

 モーブルが止める。

 

「ここで無理に押したら、壁の棺が崩れる」

 

「ちょっとくらい――」

 

「ちょっとで済む保証がどこにある」

 

 モーブルが背負子を確認する。

 

「ここだけ通路が狭くなっておるな。一度、荷物を小分けにするぞ」

 

「旦那、ここを往復すんのか?」

 

「荷物を捨てるよりはマシだ」

 

 モーブルが即答した。

 

「アックス。一番上の箱を外せ」

 

「分かっただ」

 

 ロープを解き、木箱を一つずつ床へ下ろしていく。

 

「ラース。これはポーションだ。貴様でも持てる」

 

「は、はい!」

 

「落としたら給料から引くぞ」

 

「命より大事に持ちますぅ!」

 

 ラースが両腕で小さな木箱を抱える。

 

「私も持てる」

 

 その隣で、ライは最も大きな木箱へ手を伸ばした。

 

「あ……お待ちを、ライくん。そっちは魔導具が入った箱ですぞ。見た目より重く――」

 

 モーブルが止めるより早く、ライは箱の取っ手へ片手をかけた。

 

 次の瞬間。

 床へ沈み込むように置かれていた木箱が、音もなく持ち上がった。

 

「軽い」

 

「…………は?」

 

 モーブルの目が点になる。

 アックスでさえ両腕を使って運ぶ箱を、非力なはずのライが片手で提げていた。

 

「い、いやいや。そんなはずは……ライくんが、その箱を……?」

 

 ライは不思議そうな顔で、モーブルへ身を寄せる。

 

「平気。飛行魔法をかけたから」

 

 本人は声を潜めたつもりらしい。

 だが、その言葉を聞いた瞬間、モーブルの背筋が凍りついた。

 

「おい」

 

 ニーシャが目を細める。

 

「その箱は、どれくらいの重さだ?」

 

「さ、さあ! それほど重くはありませんぞ! 持ち運びしやすいよう、中身を厳選してありますからな!」

 

 モーブルが慌ててフォローした。

 

「それに、ライくんは見かけによらず、荷運びが得意なのですぞ!」

 

「……本当にただの平民か」

 

 ニーシャは疑わしそうにライオットを見た。

 しかし、当の本人は分厚い眼鏡の奥から、不思議そうに見つめているだけだ。

 

「まあいい。今は先へ進むことが優先だ」

 

「そのとおりですぞ!」

 

 モーブルは安堵し、大きく息を吐いた。

 

 荷物を分けたことで、一行はどうにか細道を通り抜けることができた。

 ニーシャを除く全員で何度か往復し、木箱や袋を向こう側へ運んでいく。

 すべてを運び終えると、再びモーブルとアックスの背負子へ固定し、一行は墓道の奥へ進んだ。

 

     ◆

 

 崩れかけた石橋を渡った先。

 一行の前へ、ひときわ広い空間が現れた。

 

 古びた礼拝堂だった。

 天井の半分は崩れ、床には割れた長椅子が散乱している。

 最奥には、首から上を失った女神像。

 

 そして――。

 その祭壇の前に、三つの影が立っていた。

 ぼろぼろの黒い法衣。

 骨だけの腕。

 青白い魔力を宿した杖。

 胸骨の中央には、紫色の魔石が埋め込まれている。

 

 三体が同時に顔を上げた。

 

「……また骨かよ」

 

 カイルの声から、先ほどまでの威勢が少しだけ消えた。

 

「墓守魔術師(グレイブ・キーパー)だ」

 

 ニーシャが低く告げる。

 

「胸の魔石が核だ。頭や手足を壊しても止まらない」

 

「だったら、核を壊せばいいんだな」

 

「待て」

 

 カイルが剣へ手をかけた瞬間、ニーシャが制止した。

 

「今回はお前を先頭へ出さない」

 

「は?」

 

「魔剣は使えるようになったのか?」

 

「今度は大丈夫だ!」

 

「何を根拠に?」

 

「……気合い?」

 

「最後尾へ行け」

 

「なんでだよ!」

 

「前衛はルチオ。カイルは中央でシルヴィオを守れ」

 

「俺は剣士だぞ!」

 

「知っている。だから護衛をしろ」

 

「敵を斬らせろよ!」

 

「自分から追いかけるなと言っているんだ!」

 

 ニーシャは杖を床へ突いた。

 

「ルチオが敵を受ける。シルヴィオが浄化で動きを鈍らせる。ネリオが核を狙う。カイルは抜けてきた敵だけを止めろ」

 

「……」

 

「返事は?」

 

「へいへい」

 

 明らかに不満そうだった。

 だが、今度は従った。

 

「ルチオ」

 

「任せて!」

 

 小盾を構えたルチオが前へ出る。

 

「シルヴィオ」

 

「いつでも」

 

「ネリオ」

 

「射線さえ空けていただければねぇ」

 

「よし」

 

 ニーシャが三体を見据える。

 

「行け!」

 

 ルチオが駆け出した。

 墓守魔術師たちも、一斉に杖を掲げる。

 

「来るよ!」

 

 紫色の魔弾が三方向から放たれた。

 

 ルチオは盾を斜めに構える。

 

「今度こそ――!」

 

 一発目を受け流す。

 

 二発目を身体を捻ってかわす。

 

「できた!」

 

「止まるな!」

 

 ニーシャが叫ぶ。

 三発目が足元へ着弾する。

 ボンッ!

 

「うわっ!」

 

 爆発ではない。

 床から黒い腕が何本も伸び、ルチオの足首へ絡みついた。

 

「なにこれ!?」

 

「拘束術だ!」

 

 ニーシャが舌打ちする。

 

「シルヴィオ!」

 

「はい!」

 

 白い光がルチオを包む。

 黒い腕が煙を上げて弱まった。

 

「ネリオ!」

 

「見えてます!」

 

 矢が飛ぶ。

 ヒュンッ!

 一体の墓守魔術師が身体を傾ける。

 矢は胸の魔石を僅かに外れ、肋骨を一本砕いた。

 

「惜しいですねぇ」

 

「次で仕留めろ!」

 

 その間に二体目が杖を横へ振った。

 黒い霧が床を這い、シルヴィオへ向かう。

 

「シルヴィ!」

 

 ルチオはまだ拘束されている。

 そして――。

 

「俺の出番だ!」

 

 カイルが飛び出した。

 

「待て!」

 

 ニーシャの制止は間に合わなかった。

 

「今度こそ挽回してやる!」

 

「護衛位置を離れるな!」

 

 黒い霧へ向かって、カイルがエクセリオンを振り下ろす。

 

「うおおおっ!」

 

 刃が霧を切り裂いた。

 ――ように見えた。

 だが。

 

「え?」

 

 黒い霧は刃の左右へ分かれ、そのままカイルの身体へまとわりついた。

 

「カイルさん!」

 

「なんだこれ!?」

 

 黒い紋様が右腕へ駆け上がる。

 

「ぐっ……!」

 

 腕の感覚が消えた。

 握っていた剣が、石床へ落ちる。

 カラン。

 

「腕が……動かねぇ!」

 

「呪いです!」

 

 シルヴィオが叫ぶ。

 

「だから勝手に出るなと言っただろう!」

 

「斬れると思ったんだよ!」

 

「霧を剣で斬ろうとするな!」

 

 その時。

 三体目が狙いを変えた。

 杖先が――ネリオへ向く。

 

「あら」

 

 至近距離。

 回避するには遅い。

 

「ネリオさん!」

 

 シルヴィオはカイルの呪いを解くために杖を向けている。

 ルチオは拘束されたまま。

 カイルは右腕を失い、護衛位置を離れている。

 陣形が――また崩れた。

 

「……っ!」

 

 ニーシャの顔が歪んだ。

 紫色の光弾が放たれる。

 

「火炎障壁(フレイムウォール)!」

 

 ゴォッ!

 ネリオの眼前へ炎の壁が立ち上がった。

 光弾が炎へ飲み込まれ、消滅する。

 

「おや。これはどうも」

 

「礼は後だ!」

 

 ニーシャの杖へさらに炎が集まる。

 

「全員、その場を動くな!」

 

「え?」

 

「特にカイル! 絶対に動くな!」

 

「なんで俺だけ名指しなんだよ!」

 

「お前が一番信用できないからだ!」

 

 三体の墓守魔術師が再び杖を上げる。

 

「灼熱穿孔(フレイムランス)!」

 

 シュンッ!

 三本の細い炎が礼拝堂を走った。

 

 一撃目。

 胸の紫石を正確に貫く。

 二撃目。

 魔石だけを焼き砕く。

 三撃目。

 杖を掲げた瞬間の僅かな隙間へ入り込み、核を撃ち抜く。

 

 パキン。

 パキン。

 パキィン!

 三つの魔石が、ほぼ同時に砕け散った。

 墓守魔術師たちの青白い瞳から光が消える。

 

 ガラガラガラ……。

 三体は糸の切れた人形のようにその場へ崩れ落ちた。

 礼拝堂へ静寂が戻った。

 

「…………」

 

 また。

 誰も、すぐには口を開かなかった。

 

「……終わった?」

 

 ルチオが床から伸びる黒い腕を剣で払いながら尋ねる。

 

「ああ、終わったよ!」

 

 ニーシャが苛立たしげに答えた。

 そして――。

 ギロリ。

 カイルを見る。

 

「……な、なんだよ」

 

「カイル」

 

「はい」

 

 思わず敬語になった。

 

「ボクは何と言った?」

 

「中央でシルヴィオを守れ」

 

「お前は何をした?」

 

「……前へ出た」

 

「その結果?」

 

「呪われた」

 

「その結果?」

 

「……陣形が崩れた」

 

「その結果!」

 

「お前が魔法を使った!」

 

「分かっているじゃないか!」

 

 ニーシャの怒声が礼拝堂を震わせた。

 

「なんで同じことを繰り返すんだ!」

 

「今回はいけると思ったんだよ!」

 

「さっきもそう思って失敗しただろう!」

 

「今度こそ挽回したかったんだ!」

 

 カイルも負けじと言い返す。

 

「骸骨犬にボコボコにされて、このまま役立たず扱いされたままじゃ格好つかねぇだろ!」

 

「格好の問題で作戦を壊すな!」

 

「うっ……」

 

 カイルが黙る。

 シルヴィオが彼の右腕へ杖を向けた。

 

「少しじっとしていてください」

 

 白い光が黒い紋様を包んでいく。

 

「解除には少し時間がかかります」

 

「悪い……」

 

「私に謝るより、次からニーシャ様の指示を聞いてください」

 

「……はい」

 

「珍しく素直だな」

 

 ニーシャが吐き捨てる。

 

「うるせぇ」

 

 今度は声が小さかった。

 

「ルチオも」

 

「はい!」

 

 シルヴィオは弟を見る。

 

「助けに行きたい気持ちは分かります。でも、自分の役割を忘れてはいけません」

 

「ごめんなさい」

 

「ネリオさんも、先ほどの射撃は少し焦りましたね」

 

「おや、あたしまでですか?」

 

「核を狙うことに集中しすぎて、相手が術式を組み替えたことへの反応が遅れていました」

 

「これは手厳しい」

 

 ネリオは苦笑する。

 そしてニーシャも杖を見下ろした。

 

「……」

 

 また使った。

 魔力を。

 第二層の骸骨犬。

 そして、今の墓守魔術師。

 本来なら、どちらもニーシャが手を出す必要などない敵だった。

 魔力を温存するための攻略隊。

 そのはずが――。

 

 ニーシャが小さく呟く。

 

「これじゃ……ボクが一人で来た時と、何も変わらないじゃないね」

 

 その一言に、空気が止まった。

 カイルが顔を上げる。

 

「……だったらよぉ」

 

「あ?」

 

「だったら一人で行けばいいだろ」

 

 礼拝堂が静まり返った。

 

「お前が全部できるって言うなら、一人で行けばいいっての」

 

「カイルさん」

 

 シルヴィオが止めようとする。

 だがカイルは続けた。

 

「俺たちが邪魔なら、置いてけばいいじゃねぇか」

 

「……」

 

 ニーシャの表情から感情が消える。

 

「言われなくても……このまま役に立たないなら、そうする」

 

「……っ」

 

「ボクは遊びでここへ来たんじゃない」

 

 ニーシャは全員を見回した。

 

「未踏のカタコンベを踏破する。そのために必要だから、お前たちを連れてきた」

 

「……」

 

「必要でなくなれば――置いていく」

 

 空気が冷えた。

 ルチオの表情から笑顔が消える。

 シルヴィオも黙り込んだ。

 ネリオだけはいつもの笑みを残していたが、細い目の奥から軽さが消えている。

 

「……坊っちゃん」

 

 モーブルが口を開く。

 

「なんだ」

 

「少々、言い方というものが――」

 

「事実を言っただけだ」

 

 ニーシャは背を向けた。

 

「それとも、役に立たない者まで最深部へ連れて行けと言うのか?」

 

「……」

 

 モーブルも言葉を失う。

 間違ってはいない。

 未踏のダンジョン。

 一つの判断ミスが全滅へ繋がる場所だ。

 

 だが――。

 正しいからこそ、刺さる言葉もある。

 ニーシャはその違いを、まだ理解していなかった。

 

「……今日はここまでだ」

 

 ニーシャが礼拝堂の奥へ杖の光を向ける。

 崩れた祭壇の裏に、小さな石扉が残されていた。

 

「この先に祭具室がある。前回確認した限り、魔物も罠もない」

 

「もう進まねぇのか?」

 

 カイルがぶっきらぼうに尋ねる。

 

「疲労した状態で第四層へ入るほど、ボクは馬鹿じゃない」

 

 ニーシャは振り返らない。

 

「それに――」

 

 一瞬だけ言葉を止める。

 

「今のお前たちを連れて戦えば、ボクの魔力がいくらあっても足りない」

 

「……」

 

 今度は、カイルも言い返さなかった。

 

     ◆

 

 祭壇裏の扉を抜ける。

 その向こうにあったのは、かつて神官たちが祭具を保管していたと思われる小部屋だった。

 

 壁際には空になった棚。

 中央には古い石台。

 床には薄く埃が積もっているものの、他の墓室と違って瘴気はほとんどない。

 

「ここなら野営できますね」

 

 シルヴィオが周囲を確認する。

 ニーシャが命令する。

 

「アックス。入口を塞げるよう、荷物を配置しろ」

 

「分かっただ」

 

「ネリオは罠の再確認。ルチオとカイルは周囲の見張り」

 

「了解!」

 

「……分かったよ」

 

 先ほどまでなら必ず一言文句を返していたカイルが、珍しく素直に従った。

 ニーシャもそれ以上は何も言わない。

 モーブルはその様子を横目で見ながら、静かに息を吐いた。

 

 第二層での戦闘。

 第三層での戦闘。

 二度とも勝った。

 死者はいない。

 重傷者もいない。

 数字だけを見れば、順調と言ってもいい。

 

 だが――。

 

「……こりゃ、先が思いやられるな」

 

 誰にも聞こえないほどの声で、モーブルは呟いた。

 

 祭具室の重い扉が閉じる。

 その向こうで、墓道を満たす青白い瘴気が、ゆっくりと揺れていた。

 攻略は、まだ三層。

 未踏の深層までは――あまりにも遠い。

 

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【R18】とても都合のいいオナホ先輩(作者:九龍城砦)(オリジナル:現代/恋愛)

ウチの研究室の先輩はドスケベだ。 ▼部屋の中では常に裸白衣という変態スタイルだし、起きている間は四六時中オナニーに励んでいる。▼すると当然、同棲している後輩の僕は我慢なんて出来るはずもなくて。 合法ロリのぷにオナホ先輩を、いつも気絶するまで犯し倒してしまうのだ。▼6巻発売しました。▼オナホ先輩6巻好評発売中です。▼https://www.dlsite.com…


総合評価:11748/評価:8.62/連載:139話/更新日時:2026年08月28日(金) 07:00 小説情報

【R18】緑谷のち〇こでっけぇぇえ!!!(作者:ドスケベ世界平和ヴィラン)(原作:僕のヒーローアカデミア)

 最終決戦を乗り越え、平和な日常が戻りつつあったある日。英雄となった緑谷出久にヒーロー公安から連絡が届く。「未来の平和のため、多数の女性と性交渉をしてください」そんな事をいきなり言われ断った出久だったが、それで済むような話では無かったのだ。大義名分という後ろ盾を持った女性達は、出久と子作りする為あらゆる手を使い彼を襲い始める。そんな出久は彼女らを受け止め切る…


総合評価:3445/評価:8.78/連載:32話/更新日時:2026年07月29日(水) 15:02 小説情報


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