※この作品はR-18です。

モブおじ精液でレベルアップ!? ~でも好みのショタっ子しか手助けしません!!~   作:とけそうだら

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※2025.12.27に改稿しました


第七話 モーブルと『愛の皿亭』復活大作戦!

 ディナータイムの喧騒が幻だったかのように静まり返った、レストラン『愛の皿亭』。

 オーブンに残るわずかな熱と、皿にこびりついたソースの香りが、先程までの活気をかろうじて物語っていた。

 

 店主のベレナ・マクレアは、古びた帳簿を前に、今日何度目か分からない重いため息を落とす。

 ランプの頼りない光が、彼女の燃えるような赤毛を濡れたように照らし、その美しい横顔には隠しようのない憂いが影を落としている。

 

「……はぁ。今日も、帳簿の数字は真っ赤っか、だねぇ……」

 

 一日分の労働の結晶たる数字を記す羽根ペンが止まり、インクの染みた指先が微かに震える。

 愛情だけを注ぎ込んできたこの店も、容赦なくのしかかる経費と税金の重圧に、もはや限界が近いのかもしれない。

 

 絶望に沈みかけていたその時、店の奥から、娘のアンがぱたぱたと軽い足音を立てて駆け寄ってくる。

 

「お母さん、モーブルさんが来てくれたわよ!」

 

 その声に弾かれたように顔を上げると、入り口には馴染みの顔があった。

 恰幅のいい身体に人の良さそうな笑顔を張り付けた商人、モーブルだ。その腕には、ずしりと重そうな麻袋が軽々と抱えられている。

 足元では、息子のアルが「おじさーん!」と甘えた声で太いズボンにしがみついていた。

 

「よぉ、ベレナ! 頼まれてた極上の香辛料と、今朝獲れのロックリザードだ。こいつは滅多にお目にかかれねぇ極上品だぜ!」

 

 威勢のいい声と共に、モーブルは麻袋をどさりとカウンターに置く。

 革のような質感の、見るからに硬そうな爬虫類の肉がちらりと見えた。

 

「ねぇ、モーブルおじさん! 今日はどんな冒険者の話!? この前の、ゴブリンの財宝が全部罠だった話、すっごくドキドキしたんだ!」

 

 アルが期待に目を爛々と輝かせる。好奇心の塊のような少年だ。

 

「ははっ、アル坊は相変わらず元気だな! お母さんと大事な商談があるから、話は後でな。今日のもとっておきだぜ? ひよっこ冒険者のカイルが、洞窟のスライムに丸呑みされかけたって間抜け話だ!」

 

 モーブルは悪戯っぽく笑い、アルの癖っ毛をわしわしと乱暴に撫でる。

 それを見て、ベレナは無理に口角を上げ、重い腰を上げた。

 

「モーブル、いつも悪いね。本当に助かるよ。……それで、代金の件なんだが……すまない。少しだけ、支払いを待っちゃくれないかい? 来月の頭には、必ず用意するからさ……」

 

 言い淀む声は、自分でも情けなくなるほどか細い。

 モーブルは一瞬、人の好い目をぱちくりとさせたが、次の瞬間には全てを見通す商人の目に変わっていた。

 

「んん? そいつは驚いた。律儀なお前がツケを頼むなんて。明日、空から槍でも降るんじゃないか?」

 

 普段の彼女からは考えられない言葉に、モーブルの声にはからかいよりも純粋な驚きが滲む。

 ベレナはバツが悪そうに俯き、力なく笑った。

 

「ああ……本当に、恥ずかしい話だがね……。最近、何もかもが値上がり続きで、耐えきれずに料理の値段を上げたんだ。……そうしたら、客足が、ぴたりとさ……。売上は落ちる一方なのに、支払いは待っちゃくれない。……正直、もう、どうしたらいいんだか……」

 

「ほう……そうだったのか。値上げの噂は耳にしちゃいたが、そこまで響いていたとはな。お前の料理はどれも絶品だ。客も納得してくれるもんだとばかり思っていたが……」

 

 モーブルは心配そうに眉を寄せ、ベレナの顔を覗き込む。

 隣で聞いていたアンも、きゅっと、自身のエプロンの端を握りしめていた。

 

「去年までは、なんとか……本当にギリギリでやってこれたんだがね。でも、もう潮時かねぇ。この店を畳むことも、真剣に考えなきゃならんよ……」

 

 ベレナは再び、諦観の息を吐き出した。

 帳簿をパタンと閉じる乾いた音が、まるで店の終焉を告げる弔鐘のように、しんとした空気に虚しく響いた。

 

 モーブルは腕を組み、黙ってベレナの言葉を噛み締めていた。

 やがて、陽気な商人の仮面を外し、何かを決意したように真っ直ぐ彼女に向き直る。

 

「ベレナ。……これはお節介かもしれんが、一つ賭けをしないか? このわしの『商人の知恵』に、この店の未来を賭けてみるってのはどうだ?」

 

「あんたの知恵に……? でも、そんな……」

 

「はっは、水臭いこと言うな! わしだってこう見えて、一応はこの街で一番の品揃えと評判の店を切り盛りしてる商人だ。金の流れ、客の呼び込み、口うるさい役人の黙らせ方……。料理以外の、こういう泥臭い算段にはちったぁ自信がある」

 

「でも、あんただって忙しい身だろう? やっぱり気が引けるよ……」

 

「お前の腕は一流だ。だがな、ベレナ。ただ旨いメシを作るだけじゃ店は回らん。そこをどうにかするのが、わしら商人の腕の見せ所ってもんよ」

 

 モーブルは、どんと己の胸を叩き、自信に満ちた、それでいて温かい笑顔を向けた。

 だが、それでもなお、ベレナの心の壁は厚い。

 

「……包丁も握ったことないあんたに、レストランの何が分かるってんだい」

 

 料理人としてのプライドと、女手一つで店と子供たちを守ってきた意地が、素直になることを許さない。

 この店は彼女の城であり、戦場なのだ。

 他人に容易く土足で踏み込ませたくはない。

 

 だが、その頑なな壁を、いとも容易く打ち砕いたのは娘のアンだった。

 

「お母さん! 何言ってるの! モーブルさんの言うこと、聞いてよ!」

 

「アン……でも……」

 

「でもじゃないよ。考えてみて!」

 

 アンは一歩前へ出て、指をぴんと立てた。

 

「モーブルさんのお店って、カヴェナの冒険者ギルドの御用達なんだよ!? いつも屈強な冒険者さんでいっぱいで、珍しいアイテムや魔法の道具が飛ぶように売れてるって、八百屋のおばちゃんも言ってた! そんな人が『手伝う』って言ってくれてるのに、断るなんて……もったいないよ!」

 

 子どもらしい、まっすぐな叫び。

 けれど刺さるところを正確に刺してくる。

 

「お母さん、お願い」

 

 アンは母の腕にぎゅっとすがりつき、きらきらと涙を湛えた瞳で訴えかけた。

 その熱に当てられたのか、モーブルは悪い気のしない顔で口元をつり上げる。

 

「ほれ見ろ、アンちゃんの言う通りだ」

 

 そしてベレナへ視線を戻すと、わざとらしく肩をすくめて付け加える。

 

「それにな。わしだって、お前の作る絶品ドーナッツがこの街から消えるのは――正直、耐え難い。なぁに、貸し借りじゃねぇ。幼馴染の誼(よしみ)ってやつだ。遠慮はいらん」

 

 悪戯っぽい笑い方のくせに、声には有無を言わせぬ芯があった。

 

 母親を思う娘の純粋な願い。

 頼れる幼馴染の不器用な後押し。

 ベレナは二人の顔を交互に見つめ、胸の奥にこびりついていた意地が、少しずつ溶けていくのを感じた。

 

 ふっと息を吐く。肩の力が、ようやく抜ける。

 

「……そうだね。アンの言う通りだ。意地を張ってる場合じゃない……」

 

 そして、照れ隠しのように口元を曲げながらも、凛と告げた。

 

「分かったよ、モーブル。力を貸しておくれ」

 

「おう、任せとけ!」

 

 モーブルは頼れる経営コンサルタント気取りで腕まくりし、カウンターの帳簿をひったくった。

 さっきまでの人の良さそうな笑顔はすっと消え、獲物を見据える鷹のような鋭い商人の眼光が、憎らしい赤字の羅列を射抜いている。

 

「よし、善は急げだ。『愛の皿亭』復活大作戦――まずは現状分析からだな!」

 

♦

 

「メニューを……絞る、だって?」

 

 ベレナは眉をひそめ、反射的にモーブルを睨み返した。

 値上げで客が離れたというのに、さらに品数を減らせだなんて。

 まるで店じまいの準備に聞こえて、不安が喉元までせり上がる。

 

「ああ。だが、ただ減らすんじゃない。“厳選”するんだ」

 

 モーブルは帳簿の上に指を置き、落ち着いた声で言い切った。

 

「値上げを飲んでもらうには、それだけの価値が皿に乗ってなきゃならん。今の品数を、ベレナとアンちゃん二人で回すとなれば一皿ごとの手間も、仕込みの精度も、どうしたって薄まる。だからこそ数を絞って、残した料理を徹底的に磨き上げる。そうすりゃ、“高い”じゃなく“納得”になる」

 

 言葉は冷静なのに、刺さる場所だけを正確に抉ってきた。

 ベレナはぐっと唇を噛み、視線を帳簿へ落とす。痛いほど、当たっている。守ることに必死で、料理そのものの“強さ”を上げることから目を逸らしていたのかもしれない。

 

 ふと、店の奥で小さな背中を丸め、健気に洗い物を続けるアンの姿が浮かび、胸がきゅっと締め付けられた。

 

「……でもねぇ」

 

 ベレナはかすれた声で続ける。

 

「どの料理も、あたしが生んだ子みたいなもんさ。常連のトム爺さんは『ホーンラビットの香草焼き』を楽しみにしてくれてるし、市場のアンナは『沼蟹のクリーム煮』がないと機嫌が悪くなる。あの顔を思い浮かべると……削れないよ」

 

 モーブルは困ったように笑い、それでも目は真剣だった。

 

「分かる。お前にとっちゃ、メニューは全部“家族”だろうさ。だがな、ベレナ――これは捨てる話じゃねぇ。“店を生かすために、看板を作る”話だ」

 

 彼は壁のメニュー表を見上げ、まるで未来を読み上げるように言う。

 

「残った料理が、この店の伝説になる。『愛の皿亭に行けば、あれが食える』って噂が走る。行列ができる。値段じゃなくて、味で客を納得させる――そういう店にしようぜ」

 

 ベレナはゆっくりと壁のメニュー表に視線を移した。

 そこに並ぶ一品一品には、思い出がある。

 手間がある。誇りがある。

 ――そして、家族を食わせてきた時間が詰まっていた。

 

 それでも、凍りついていた心が、陽だまりに触れたようにじわりとほどけていく。

 逃げ道ではなく、進む道が見えたからだ。

 

「……分かったよ」

 

 ベレナは小さく息を吐き、顔を上げる。

 迷いを噛み砕くように、言葉を選びながら――しかし最後はきっぱりと言い切った。

 

「やってみる。きっと痛むだろうね……でも、やる。客の声に耳を澄ませて、そして何より――あたしが『これこそ“愛の皿亭”の魂だ』って胸を張れる料理を、選び抜いてみせるさ」

 

 腹を括ったその言葉に、モーブルは満足そうに口角をつり上げた。

 

「その意気だ、ベレナ!」

 

 帳簿を指でトントン叩き、早くも頭の中で算段を回し始める。

 

「よし、まずは“残す料理”と“磨くポイント”の作戦会議だ。常連への聞き込みは任せとけ。あいつら、メシの話なら財布の紐より口の方が早く開く」

 

 そして、思いついたように指を一本立てた。

 

「……それと、もう一つ仕掛けるぞ。話題作りだ。この際、『季節限定メニュー』ってやつはどうだ? 旬の食材なら仕入れも読みやすいし、“今しか食えない”って特別感は、客を動かす一番の札になる」

 

「季節限定……特別感……!」

 

 その言葉は、閉じかけていたベレナの創作意欲を、内側から叩き起こした。

 春なら山の若鶏茸を包んだ香り立つパイ。

 夏なら港に揚がったばかりのレッドサーモンを、柑橘で締めた冷たい前菜に――。

 

 忘れかけていた料理の熱が、胸の奥で再点火する。

 ベレナの瞳にぱっと灯る輝きを、モーブルは見逃さなかった。

 

「そうだろ? やり方次第で『愛の皿亭』は、まだまだ化ける」

 

 モーブルは悪戯っぽく笑い、胸をどんと叩く。

 

「このやり手の商人モーブルが見立てるんだ、間違いねぇ。街の連中が舌を巻く、カヴェナ一番の行列店に――返り咲かせてやるわ!」

 

 その豪快な言葉が、ベレナの胸の奥で燻っていた熾火に風を送り込む。

 迷いは薄れ、代わりに熱い希望が、確かな炎になって灯った。

 

 

♦

 

 だが、再生への道は平坦ではなかった。

 むしろ、最初の一歩から棘だらけだった。

 

 モーブルの助言に従い、断腸の思いでメニューを数品に絞り込んだ翌日。

 ベレナは、目の前で“いつもの日常”が崩れる音を聞くことになる。

 

「はぁ!? モンスターグラタン、やめちまったのかよ! あれで腹を満たすのが日課だったってのに……!」

 

 馴染みの冒険者が、新しいメニュー表を見た瞬間、露骨に眉を吊り上げた。

 

「あら……私も好きだったわ。あの素朴な味がねぇ」

 

 別のテーブルでは、婦人が名残惜しそうにため息を落とす。

 

 その言葉が耳に入るたび、胸の奥に小さな棘が刺さった。

 ――分かっている。捨てたわけじゃない。守るために削ったのだ。

 そう頭では理解していても、痛みは痛みとして残る。

 

 ベレナは唇を引き結び、深く頭を下げた。

 

「悪いね。……でも、その代わり、残した料理は“別物”にしたよ」

 

 そして、逃げずに顔を上げる。

 

「騙されたと思って、こっちのロックリザードステーキを試しておくれ。焼き加減も、ソースも――昨日までのうちの味じゃない。あたしが保証する」

 

 ただ謝るだけでは終わらせない。

 一皿ごとに理由をつけ、言葉を添え、納得への道筋を作る。ベレナはそのやり方を、少しずつ身体で覚えていった。

 

 モーブルもまた店の隅に陣取り、客の表情と皿の戻り方を観察しては、容赦なく指示を飛ばす。

 

「今の顔色見たか? “量”に不満が残ってる。付け合わせで満足感を足せ」

「そのソース、評判がいい。なら“名前”をつけろ。客の口に残せ」

「盛り付けが惜しい。皿は宝石箱だ。料理は“売り場”に並べる商品だぞ」

 

 商人の視点は冷たい。

 けれどそれは追い詰めるためじゃない。“勝つための形”を、徹底して作らせるための冷たさだった。

 

 そして一ヶ月後――モーブルは、改善と並行して「客を連れてくる」段階へ踏み込んだ。

 味が整ってきた今こそ、宣伝の火力が要る。

 

「ベレナ。広告を打つぞ。――もう“腕”は見せられる」

 

「……広告? うちみたいな店がかい?」

 

「だからこそだ。知られなきゃ、存在しないのと同じだろ」

 

 そう言ってモーブルが呼び出したのは、紫がかった髪を上でまとめ、橙のヘアピンで留めた小柄なエルフ――ネリオ・フォックスストライド。

 カヴェナのミニコミ誌『カヴェナ通信』編集長にして、広告会社『フォックス広告』の社長でもある。

 

「おおっと……匂いますねぇ。これは……“復活”の匂いです。しかも、かなりいいやつ」

 

 ネリオは店内を一周すると、目をきらきらさせたまま帳簿とメニュー表へ視線を落とす。

 数字と料理名を見比べる仕草は、記者というより探索者のそれだった。

 

「おい、ネリオ。変な記事は書くなよ。今回はゴシップ禁止だからな」

 

「もちろんもちろん。“山ゴリさん”」

 

「その呼び方をやめろっつってんだろ」

 

「いやぁ、だって見た目が立派な山ゴリラにそっくりで……あ、見出し思いつきました。『愛の皿亭』の美人女亭主と、山ゴリ商人の爛(ただ)れた――」

 

「待て。続きを言うな」

 

「――もとい。“清らかな幼馴染関係”! ほら、健全!」

 

「ギリギリでアウトだ!」

 

 ベレナは半歩引いた顔でその漫才を眺めていたが、ネリオの視線が飛んできた瞬間、反射で背筋を伸ばした。

 

「だ、大丈夫ですかね……うち、そんなに派手な店じゃないんだけど……」

 

「派手かどうかは関係ないです。面白いかどうかです」

 

 ネリオはにこっと笑い、モーブルに指を向ける。

 

「それに山ゴリさん、今回は“仕掛け”がちゃんとある。記事にする価値がある。そういう顔してます」

 

「だから最初からそう言ってる。記事は“うまい”だけじゃ弱い。『今行く理由』が要る」

 

「はい出ました。“今、行く理由”。【今】を入れたのが、また商人っぽいですねぇ」

 

 ネリオはわざとらしく頷き、ベレナに笑いかける。

 

「『愛の皿亭』、今がいちばん面白い時期です。地図にない道ほど面白い――って、いつも言ってるでしょう?」

 

 ベレナが出したロックリザードステーキを一口。

 ネリオの軽さが、すっと消えた。

 

 舌が。

 目が。

 ――仕事の顔になる。

 

「……これは、書けます。忖度なしで、ちゃんと“推せる”味です」

 

 短い断言だった。

 けれど、その一言でベレナの肩から力が抜けた。

 モーブルは満足げに鼻を鳴らす。

 

「よし。これで“入口”は作れる」

 

 

 そして数日後。

 カヴェナ地区に無料配布される『カヴェナ通信』に、『愛の皿亭』の特集が載った。

 

 見出しは挑発的で、文章は軽妙で、それでいて要点を外さない――“行って確かめたくなる”記事だった。

 

 さらに、モーブルは起爆剤をもう一つ投下する。

 看板に踊る文字は、冒険者の心臓を直接殴った。

 

「ダンジョン直送! 週替わり限定メニュー」

 

 モーブル独自の仕入れで手に入る珍しいモンスター肉や秘境の食材を、週替わりで“試す価値のある一皿”に仕立てる。

 それは冒険者の好奇心と自慢話の欲を、これ以上なく刺激した。

 

「おい、『カヴェナ通信』見たか? 今週の限定、サンドウォームの唐揚げらしいぞ」

「先週のシーネットルのコンソメ、反則だった。飲み干した瞬間、体が軽くなった気がした」

「次は何が出る? 逃したら損だな」

 

 そんな会話がギルドの酒場を駆け巡るのに、時間はかからなかった。

 

 試行錯誤の末に蒔いた種は、数週間後、確かな芽を出し始める。

 絞り込んだ定番は「高くてもここで食べる理由がある」へ変わり、ロックリザードステーキは店の看板――いや、噂の核になった。

 週替わり限定と『カヴェナ通信』の特集は、“久しぶりに行く理由”と“初めて行く理由”を同時に作り出し、客足を押し上げていく。

 

 いつしかディナータイムの店内は、以前を凌ぐ熱気で満ちていた。

 カウンターの向こうで鍋を振るうベレナの横顔には、追い詰められていた頃の影はない。

 手は忙しく、声は明るく、目は真っ直ぐだ。

 

 帳簿の赤は、まだ残っている。

 それでも、その赤が日に日に薄れ、黒へ塗り替わっていく手応えがある――その確信だけは、もう揺らがなかった。

 

♦

 

「「いらっしゃいませーっ!」」

 

 『愛の皿亭』の扉が開くたび、アンとアルの澄んだ声が店内に弾けた。

 その明るさは、足を踏み入れた冒険者たちの肩の力までふっと抜いてしまう。

 

 まだ昼には早い時間だというのに、店内はすでに心地よいざわめきと湯気に満ちていた。

 アンは蝶のようにテーブルの間をすり抜け、客の顔を見て、言葉を交わしていく。

 

「あら、アンちゃん。今日のエプロン、素敵ね。金の刺繍が洒落てるじゃない」

 

「えっへん!」

 

 アンは胸を張った。

 

「モーブルさんに頂いたんです! ヴァルクリア神聖王国の“運気が上がる”エプロンなんですよ。――それで、今日のご注文はお決まりですか?」

 

 そんな会話が弾む中、あるテーブルの女性冒険者が、真新しいメニュー表を前に甘い悲鳴を上げる。

 

「うーん……迷う。定番の煮込みも捨てがたいし、新しいのも気になるし……」

 

 すると、隣のテーブルから屈強な鎧の男が、声を潜めながらも興奮を抑えきれずに囁いた。

 

「おい、今週の限定――『黒曜トリュフのリゾット』だ。昨日食った奴が言ってた。冗談抜きで魂が溶けるって」

 

「知ってる! アレクスティアのダンジョン最深部でしか採れない幻のキノコだろ? ……一口で天国行き、ってやつ!」

 

 その噂は瞬く間に伝染し、店中の視線がメニューの『限定』へ熱っぽく吸い寄せられていく。

 

 入口近く、壁に背を預けてその光景を眺めていたモーブルは、満足げに口の端を吊り上げた。

 ベレナと一緒に蒔いた種が、いま目の前で花を咲かせている。

 

(……よしよし。これで『愛の皿亭』も、もう大丈夫だな)

 

 不意に、カウンターの下からひょこっとアルが顔を出し、モーブルを見つけて声を張り上げた。

 

「あれぇ? モーブルおじさん、そんな隅っこでコソコソして! つまみ食いのチャンスでも狙ってるの?」

 

 ざわめきが一瞬だけ止まり、好奇の視線がモーブルへ集まる。

 

「お、おいアル坊! 人聞きの悪いこと言うな! 近くまで来たから、店の様子を見に来てやっただけだ!」

 

 慌てて言い繕うモーブルに、アルは悪戯っぽく笑った。

 

「へー。じゃあまた、お母さんに“お金儲けの話”でも持ってきたんじゃないの? おじさん、いっつもお金のことばっかりだもん!」

 

 子どもの無邪気な一撃に、常連たちが堪えきれず吹き出した。

 

「まーったく……このクソガキ……いや、愛すべきアル坊め!」

 

 モーブルは苦笑いしながら、アルの頭をわしわしと掻き回す。

 

「やめろってば! 髪がぐちゃぐちゃになるー!」

 

 そのやり取りが、店の空気をさらに柔らかくする。

 

 そこへ、厨房からベレナが出てきた。

 忙しさの中に確かな余裕を宿した顔で、モーブルの前に立つ。

 

「モーブル……ありがとよ。あんたがあの時、背中を押してくれなかったら、今頃この店は……」

 

 モーブルは一瞬だけ目を伏せ、ぶっきらぼうに肩をすくめた。

 

「よせ。わしだって、あんたの店が繁盛すりゃ上物の食材を納められて儲かる。持ちつ持たれつだ」

 

 そう言いながらも、その目には損得とは別の、優しい光が滲んでいる。

 

「……それに結局、客がこうして集まるのは、お前の作るもんが文句なしに旨いからだ。わしが口出しした程度で、どうにかなるもんじゃねぇ」

 

 ベレナは嬉しそうに、少しだけはにかんだ。

 

「……ありがとよ。これからも、頼りにしてる」

 

 深く頭を下げるベレナに、モーブルは照れ隠しのように鼻の頭を掻き、悪戯っぽく笑い返す。

 

「おうよ。わしだって、ここのドーナッツ腹一杯食うのが楽しみなんだからな!」

 

 その時だった。

 アンがパンッ! と景気づけに手を叩き、店内に高らかに告げた。

 

「はーい! 皆さま、お待たせいたしましたーっ! 今週の限定、『黒曜トリュフのリゾット』――ただいまよりご提供開始でーす!」

 

 わっ、と店内が沸き、視線が一斉に厨房へ向く。

 湯気の立つ皿を、アンとアルが誇らしげに運んでいく。

 

 白いリゾットの海に浮かぶ、黒曜石のようなトリュフ。

 立ちのぼる香りが、店内の空気をまるごと塗り替えた。

 

「うお……なんだ、この香り。脳を直接殴ってくる……!」

「たまらん……!」

 

 ごくり、と喉の鳴る音があちこちで重なる。

 

「さあさあ、熱いうちに味わってくれ! 『愛の皿亭』渾身の一皿だ!」

 

 モーブルまで、まるで店主のように声を張り上げた。

 

 それを合図に、店内は再び幸福な喧騒に満たされていく。

 誰もが夢中で皿に向かい、至福の息を漏らす。

 

 モーブルはその光景を胸に焼き付けると、誰にも気づかれないよう、そっと扉へ向かった。

 背中に届く笑い声が、今日の報酬だ――そう言わんばかりに。

 

♦

 

 午後の陽光が心地よかった。

 『愛の皿亭』で満たされた胸のまま、モーブルはモーブル商会への帰路につく。

 

 活気を取り戻した友の店。

 あの喧騒と湯気と、弾む声を思い出して、自然と口元が緩んだ――その時だった。

 

「待ってってばー! モーブルおじさーん!」

 

 タッタッタッ、と石畳を叩く小さな足音。

 振り返ると、息を切らしたアルが、小さな紙袋を両腕で抱え込むようにして駆けてくる。

 

 ふわり。

 風に混じって漂うのは、甘く香ばしい揚げ菓子の匂い。

 

 その瞬間、モーブルの顔がぱっと明るくなった。

 

「おっと、アル坊じゃないか。そんなに肺を鳴らしてどうした? ……む、その匂い。まさか」

 

「ぜぇ……はぁ……っ!」

 

 アルは追いつくなり両膝に手をつき、それでも紙袋だけは落とさぬよう大事に抱えたまま、顔を上げる。

 

「お母さんが、これ……おじさんに渡してって! 忘れ物だって!」

 

 ぐい、と突き出された紙袋の口から、こんがり狐色に揚がったドーナッツが顔を覗かせていた。

 

 モーブルの目が、子どもみたいに輝く。

 

「おお……! ベレナ特製の揚げドーナッツじゃねぇか! わざわざ走って来てくれたのか。すまんな、アル坊。こいつにゃ目がないんだよ」

 

 受け取った瞬間、アルは「えっへん!」と得意げに胸を張った。

 

「おつかい終わったから、お母さんが『もう遊びに行ってよし!』だって!」

 

 その一点の曇りもない笑顔に、モーブルの目元がさらに緩む。

 

「ほう。そりゃ立派だ。頑張った小さな運び屋には――ご褒美が要るな」

 

 モーブルは悪戯っぽく口角を上げ、身を屈めて囁く。

 

「……どうだ。わしの店を探検してみるか? 折よく、昨日とんでもない逸品が入荷したばかりだ。あの伝説のドワーフ鍛冶師、ラウルゴの爺さんが打った最新式の武器や防具――見せてやる」

 

「ラウルゴ爺さん!? 知ってる! すっごい武器作る人だ!」

 

 アルの目が星みたいにきらめいた。

 

「行く行く! おじさんの店、キラキラ光る魔法の道具がいっぱいあるって、お姉ちゃんが言ってた!」

 

「はっはっは。よく知ってるな」

 

 モーブルは勿体ぶるように声を落とし、さらに“とっておき”を重ねる。

 

「今日は大サービスだ。……『秘密の部屋』にも入れてやろう」

 

「ひ、秘密の部屋!?」

 

「そこはな。国に名が轟くゴールドランク以上の一流(トップランカー)しか、足を踏み入れることさえ許されん特別な部屋だ。竜の炎さえ弾く盾、闇で青白く光る魔剣――本物の“伝説”が、ずらーっと並んでる」

 

 少年の冒険心に火を点けるには、十分すぎる呪文だった。

 

「うわぁーっ! なにそれ、最高にかっこいい! 絶対見たい! ねぇ、早く行こうよ、おじさん!」

 

 アルはモーブルの分厚い手を両手でむんずと掴むと、ぐいぐい引っ張り始める。

 その純粋さが可笑しくて、モーブルは腹の底から笑った。

 

「はいはい、分かった分かった。そんなに引っ張ると、おじさんの腕が抜けちまうぞ」

 

 わざとよろけるふりをしながら歩調を合わせ、モーブルは紙袋から一つ取り出して、がぶりと頬張った。

 

「んん……これだよこれ。表面はサクッと、中はふんわり。素朴な甘さがたまんねぇ」

 

 アルも自分のことみたいに、にぱっと笑う。

 

「でしょー! 僕も大好き! お母さんの料理、ぜーんぶ大好きだから!」

 

 軽口の応酬をBGMに、二人の影が石畳へ長く伸びていく。

 やがて賑やかな大通りを抜け、商人街へ足を踏み入れたところで――ひときわ大きく、風格のある看板が見えてきた。

 

「うわぁ……」

 

 アルが息を呑む。

 

 冒険者たちの憧れと信頼を一身に集める『モーブル商会』が、そこに堂々とそびえ立っていた。

 

♦

 

 モーブル商会の地下に隠された『貴賓室』。

 空気が、濃い。

 埃っぽさとは無縁の、古書の革と、磨かれた金属のかすかな冷香。

 そこに、甘く鼻腔をくすぐる香油が混じり合い、まるで時が止まった遺跡の最深部に迷い込んだかのような錯覚を覚える。

 

 壁にかけられた幾つもの魔導ランプが、青白い光を静かに投げかけていた。

 その揺らめきは、まるで生きているかのように、モーブルとアルの影を巨大に、幻のように壁へ映し出している。

 

 静寂を破るのは、わずかに漏れる息遣いと、布ずれの微かな音だけだ。

 

「んっ……♡ ねぇ、モーブルおじさん……これで、いいの……?」

 

 アルの声は、不安げに震えながらも、どこか甘く響いた。

 小さな手が、モーブルのズボンの中に差し入れられ、熱く脈打つ男のそれを、おずおずと握らされる。

 八歳の少年の指は、まだ幼さを残す柔らかさで、しかしそれが逆に、男の欲望を煽り立てる。

 

「ああ、そうだ……アル坊。上手だぞ。もっと……そう、根本までしっかり握ってみろ」

 

 モーブルは、息を荒げながら、優しくアルの頭を撫でた。

 細い指が直接カリ首を擦ると、モーブルの肩がびくりと跳ね上がり、抑えきれない快楽の波が体を駆け巡る。

 彼はアルの手に自分の手を重ね、ゆっくりと上下に導き始めた。

 少年の頼りない感触が、逆に甘美な刺激となり、モーブルの昂りをさらに高めていく。

 

「いい子だ、アル坊。さすがは『愛の皿亭』の孝行息子だ。素直に言うことを聞いて奉仕するようにしつけられているんだな」

 

 モーブルは満足げに笑いながら、少年の服の中に手を滑り込ませた。

 指先が柔らかな肌をなぞり、ぷくりと膨らんだ乳首を探り当てる。

 優しく円を描くように撫で、続いてくりくりと摘まむと、アルの体がびくんと反応した。

 

「……んぅっ……!♡ あっ……お、おっぱい……ぞくぞくするぅ……♡」

 

 乳首を駆け上がる甘美な痺れに、アルは喘ぎ声を上げた。

 初めての感覚に身を震わせながらも、手の動きを止めることなく、夢中でモーブルの性器に奉仕を続ける。

 その健気で無垢な姿が、モーブルの欲望をさらに煽り立て、男の目は獣のようにぎらついた。

 

「アル、上を向け。いいものをあげるから」

 

 囁きと共に、アルは素直に顔を上げる。

 モーブルは少年の顎をくいっと掴み、抵抗する間もなく唇を塞いだ。

 ねっとりとした舌が歯列をこじ開け、侵入してくる。

 未知の熱さと湿り気が、アルの口内を蹂躙し、甘い渦を巻き起こす。

 

「んむぅうッ!?♡ んっ……!♡ ふっ……んん~~っっ!!♡」

 

 アルの体が一瞬硬直し、続いて蕩けるように力が抜けていく。

 モーブルの巧みな舌使いに翻弄され、少年はなすすべもなく応じるしかなかった。

 倉庫の埃っぽい空気に、二人の吐息が混じり合い、ますます濃密な雰囲気を生み出していく。

 

「はぁ……っ♡ ぷぁ……♡ おじさ、ん……♡」

 

 ようやく唇が離れると、名残惜しげに唾液の糸が引いた。

 アルの蕩けた瞳に映るモーブルの顔は、欲望にぎらつき、淫猥な笑みを湛えている。

 少年の頰は赤く染まり、体中から甘い汗がにじみ出ていた。

 

「ふふ、どうだ。初めてのキスの味は……? わしの味は、気に入ったか?」

 

 モーブルがからかうように言うと、アルは恥ずかしそうに視線を逸らしながら、こくりと小さくうなずいた。

 

「う、うん……なんか、頭がぽーっとして……変な感じだけど……」

 

 その初心で可愛らしい反応に、モーブルはにやりと笑った。

 

「そうかそうか。そうだろう。わしの舌は何人ものショタっ子を淫らなメスへと堕としてきた業物だからなぁ」

 

 彼は満足げにうなずくと、再び少年の唇を奪った。

 今度はより深く、激しく貪るように舌を絡ませる。

 

「んむっ……!♡ ふっ……♡ んぅっ……!♡ んっ……んんっ……♡」

 

 アルはなすがままに、口内を蹂躙される。

 その快感に腰が砕けそうになりながらも、なんとか踏みとどまり、必死にモーブルに応えようとする。

 そんないじらしい様子に、さらに嗜虐心を煽られたモーブルの舌使いが激しくなる。

 互いの唾液を交換し合い、飲ませ合うような激しいディープキス。

 

「んくっ……♡ んぅううっ!!♡♡ んっ!♡ んむぅうう~~っ!!♡♡」

 

 アルの小さな舌が、モーブルの舌に絡め取られ、扱かれる。

 息継ぎさえ許されないほどの激しい口づけ。

 アルは呼吸をしようと必死に空気を吸い込むが、そのたびに甘い刺激に打ちのめされてしまう。

 脳髄まで響くような快楽と酸欠状態に陥り、思考が真っ白に染まる。

 その瞳には涙が浮かび上がり、口の端からは混ざり合った二人の唾液が零れ落ちる。

 

 小さな体は快楽に素直で、全身にじっとりと汗が浮かび、股間では可愛らしい膨らみがズボンを押し上げている。

 まだあどけない反応が、男の興奮をさらに掻き立てる。

 

「ぷはぁ。くくく、よーしよし。ちゃーんとキスのやり方を覚えられたな。偉いぞ、アル坊」

 

 モーブルはようやく口を離すと、蕩けた表情のアルの頭を優しく撫でた。

 

「はぁーっ……♡ はぁ……っ……♡ んくっ♡ おじさ、もぅ……くるしぃよ……っ♡」

 

 アルは肩で大きく呼吸をしながら、潤んだ瞳で訴える。

 その頰は真っ赤に染まり、全身から汗を流していた。

 そんな少年の姿に、中年男の欲望はさらに膨れ上がる。

 

「そうかそうか! それじゃあ次は……もっと気持ちいいことを教えてやるからなー」

 

 モーブルは舌なめずりをし、再びアルを抱き寄せた。

 今度は手がするりと下半身へ伸び、ズボンの留め金を外す。

 まだあどけない幼茎に触れ、小さく熱を持ち始めたそれを優しく包み込む。

 アルの口から、再び甘い吐息が漏れた。

 

「……んぁっ♡ ちんちん、変な感じ……♡ おしっこ出そう……♡」

 

「アル坊、大丈夫だ。おしっこじゃない。これは『気持ちいい』ってことなんだよ」

 

 モーブルは諭すように囁きながら、ゆっくりと手を動かし始める。

 最初は優しく包み込むような手つきで、次第に力を込めて上下に動かす速度を上げていく。

 その動きに合わせ、アルの呼吸が荒くなり、体がびくびくと震え始めた。

 

「はぁっ……んっ……♡ あぅっ……!♡ ひぁっ!♡」

 

 徐々に大きくなる幼い喘ぎ声が、狭い倉庫の中に響き渡る。

 それが反響し、二人の興奮をさらに煽り立てた。

 モーブルは少年の反応を楽しみながら、耳元で囁く。

 

「アル坊はまだ八歳なのに、こんなに感じるなんてなぁ。お前の母さんも男に抱かれているとき、お前のように、可愛い声で鳴くのかねぇ」

 

「あっ……お母さんの……知らないよっ……?♡ んっ……そんなこと!♡ はぁぁっ!♡♡」

 

 アルは快楽に蕩けた表情で、母の名前を聞いた。

 モーブルの手の動きがさらに激しくなり、同時に少年の幼茎がむくむくと大きさを増す。

 

「本当にスケベな子だ。こうやって手を動かすたびに、お前の可愛いちんちんが大きくなっているぞ。ほら、もう先っぽが湿ってきているじゃないか」

 

「あっ……んっ♡ そんなことっ……♡ あぅっ!♡」

 

 アルは恥ずかしそうに顔を背けるが、モーブルの言う通りだった。

 彼の小さな性器は、モーブルの手の中でぴくぴくと脈打ちながら、透明な蜜を吐き出し始めていた。 

 そのぬめり気がさらに快感を高めていく。

 

「はぁぁっ……!♡♡ おじさ、なんか……変だよぉっ!♡♡ おまたのとこが……熱いよぉっ……!♡♡」

 

 アルは切なげに腰をくねらせ、モーブルの体にしがみつく。

 

「ああ、それはな。『気持ちいい』ってことなんだ。ほら、言ってごらん」

 

 モーブルは優しく諭すように言うと、アルの耳元で囁いた。

 

「きも……ちぃ……?」

 

「そうだ。『気持ちいい』だ。ほら、言ってごらん?」

 

「……んっ♡ あぅっ!♡♡ きっ……きもちぃ……♡」

 

 アルがうわ言のように呟くと、モーブルの手の動きがさらに激しくなる。

 その動きに合わせて、幼い性器の先端から透明な蜜が次々と溢れ出す。

 

「あぁっ!♡♡ 気持ちいいっ!♡ おじさん……僕おしっこ出ちゃうよぉっ……!♡」

 

 アルが限界を訴えるように叫ぶと、モーブルはにやりと笑い、さらに強く握りしめる。

 そしてそのまま一気に扱き上げると同時に、耳たぶに軽く歯を立てた。

 その瞬間――

 

「んぁっ!!♡♡♡ あっ!♡ あぁああ~~っっ!!!♡♡♡♡」

 

 ぴゅっ!という控えめな音と共に、幼い性器から薄い液体が少量飛び出した。

 

 声にならない絶叫が喉の奥で詰まり、全身を貫く稲妻のような衝撃と共に、初めての絶頂が訪れた。

 痙攣の波が引いた後、ぐったりと力の抜けたアルは、荒い肩で息をしながらモーブルの胸に凭れかかった。

 その幼い性器からは、純粋な喜びの証である透明な雫が、後から後からと溢れ出している。

 

「くくっ……アル坊。幼すぎてまだろくに精子も出んよなぁ。その肉体の未成熟さがたまらんなぁ」

 

 恍惚の余韻に微かに震える体を眺めながら、モーブルは満足げに喉を鳴らした。

 

「……おじさん……いまの、なに……? おしっこじゃないの……?」

 

 初めて体験した快感の嵐。

 その余韻に思考を蕩かせながら、アルは掠れた声で尋ねる。

 体はまだ小さく痙攣を繰り返し、一度知ってしまった蜜の味を、本能がもう求めているようだった。

 

「これが『絶頂(イク)』ってことだ。どうだった? 魂が震えるほど、気持ちよかっただろう?」

 

 モーブルの問いに、アルはこくりと小さく頷く。

 羞恥心よりも、未知の感動が勝っていた。

 

「……うん……すごく……ふわふわして、気持ちよかったぁ……♡」

 

 素直な感想は、モーブルの支配欲をさらに煽る。

 蕩けきった幼い顔、熱に潤む瞳。

 そのすべてが愛おしく、そして淫らだった。

 モーブルはにやりと口角を上げ、アルの耳元に唇を寄せる。

 

「……くふふふ、アル坊よ。今度は、もっとすごいことを教えてやろう。たまげて腰を抜かすんじゃないぞ」

 

 その言葉と共に、モーブルは自身のズボンをずり引き下ろした。

 内側から解放された熱の塊が、薄暗い倉庫の中で禍々しい存在感を放つ。赤黒く膨張し、怒張した血管を浮き上がらせて脈打つそれは、生命そのものの暴力的な象徴のようだった。

 

「ひっ……! なに、それ……」

 

 アルは息を呑んだ。

 父親のいない彼にとって、それは初めて目にする「完成された雄」の証。

 己のそれとは比較にさえならない、圧倒的な質量と熱量。

 それは畏怖と、そして抗いがたい好奇心を同時に掻き立てた。

 

「ふふっ、これが大人の男の武器だよ、アル坊。そして今から、これをお尻の穴に突っ込んで、メスとしての喜びを教え導くのだ」

 

「お尻……? おじさんの、これ……を……?」

 

 アルは不安そうに呟く。

 しかしその視線は、モーブルの股間に釘付けになっていた。

 その凶悪な形と大きさが、これから何をしようというのかを雄弁に物語っている。

 心臓が早鐘のように脈打ち、背筋にぞくりと震えが走る。

 それは嫌悪ではなく、未知への恐怖であり――そしてそれ以上の期待だった。

 

「お尻の穴に入れたら……どうなるの? ……さっきのごしごしよりも……気持ち、いいの……?」

 

 アルはモーブルの股間から目が離せないまま、熱に浮かされたように尋ねる。

 その幼い瞳には、期待と好奇心がありありと浮かんでいた。

 

「ああ、そうだとも! さっきよりも何倍も気持ちよくて……病みつきになるぞぉ……!」

 

 モーブルの言葉に、少年の喉がごくりと鳴った。

 恐怖と期待が入り混じった複雑な感情。

 しかしその中に、確かに存在する甘い疼きがあった。

 

「さぁ、いくぞ……アル坊。わしのこの肉棒で、お前を天国に連れて行ってやるからなぁ」

 

 モーブルは、その先端をゆっくりとアルの小さな蕾(つぼみ)へと押し当てる。

 ぬるりとした粘液が、閉ざされた入り口を湿らせる。

 

 くりゅっ……ぬりゅ……

 

 上手く挿れられない。

 試すように軽く腰を押し込むが、その抵抗は想像以上だった。

 

「……むぅ、これは……まだ蕾が固すぎるか」

 

 モーブルはちっと舌打ちをすると、方針を転換した。

 

「仕方あるまい。ならばまず、この入り口だけで戯れるとしよう」

 

 そう言うと、彼は自身の硬い先端を、アルのお尻の割れ目に沿ってこすりつけ始めた。

 

「ひゃぅっ……!♡」

 

 再び訪れた直接的な刺激に、アルの身体がびくんと跳ねる。

 

「あははっ♡ おじさん、そこっ……くすぐったい、よぉ……♡」

 

 身をくねらせて逃れようとするが、その動きさえもが更なる快感を生み出してしまう。

 

「くくっ、口ではそう言うがな、アル坊。身体は正直だぞ。ここをこうして擦り合わせると……」

 

 モーブルは、アルの太腿の間に自身のそれを挟み込み、本格的な素股の体勢に入る。

 アルの会陰部――蟻の門渡りと呼ばれる敏感な一点に、自身の竿の根本がぐりぐりと押し付けられた。

 

「あっ♡ んぅっ……!♡ そこ、だめぇっ……!♡」

 

 先程とは質の違う、脳天を直接焼かれるような鋭い快感に、アルは甲高い声を上げた。

 

「むほほほほ♡ ここがそんなに良いのか、ん?♡」

 

 モーブルは獰猛に笑うと、片手でアルのペニスを再び扱きながら、腰の動きをさらに激しくする。

 大人の凶悪な性器と少年の初心な蕾が擦れ合う、ねっとりとした水音が薄暗い倉庫に響き渡った。

 

「はぁ……んっ……♡ あっ……♡」

 

 もはやアルの表情に戸惑いの色はない。

 瞳を閉じ、眉を寄せ、ただひたすらに与えられる快楽の波にその身を委ねていた。

 

「ぐっ……! アル坊の、桃色の蕾に擦り付ける……男をまだ受け入れられない、八歳の未成熟な肉体を好きなようにする……この背徳感……たまらん……!」

 

 モーブルの巨躯が、アルの小さな体を押し潰さんばかりにのしかかる。

 彼の硬い先端が、アルの小さな入り口を執拗に抉るように刺激するたび、アルの全身が震えた。

 

「だ、だめえっ……♡♡ それ、あたまが、ぐちゃぐちゃになっちゃう……ぅ♡♡」

 

 涙を滲ませた訴えは、しかし、紛れもなく悦びの色を帯びていた。

 

「ああ、もう我慢できん! この無垢な身体が淫らに喘ぐ姿は、どんな媚薬よりも効くわッ!」

 

 モーブルは獣のように咆哮すると、最後の激情をぶつけるように腰を乱暴に打ち付けた。

 それに呼応するように、アルも自ら腰を振り、快楽をねだる。

 

「むほほぉおおおおッ! この幼いオスの器に、大人の種をぶちまけてやるぞぉッ!!」

 

「あっ♡ あぁああ~~っ!!♡♡♡♡」

 

 ぴゅっ!

 

 アルの幼い性器から、薄い精液が迸り出る。

 同時に、モーブルも限界を迎えた。

 アルの蕾に自身の先端をめり込ませるように押し付け、灼熱の精液を大量に迸らせた。

 

「ああっ!♡♡♡ 出てるっ……お尻に、いっぱい……おじさんのあっついの、出てるぅっ……♡♡♡」

 

 己の絶頂と、尻にぶちまけられる熱い奔流。

 二つの快感に挟み撃ちにされ、アルの意識は完全に飛んだ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 しばらくの間、二人は互いの身体を重ねたまま、荒い息を整えていた。

 やがて、モーブルが名残惜しそうに身を起こす。

 

「アル坊……すまんな。こんなことするつもり無かったんだが……お前のその愛らしいプリ尻を見ていると、どうにも理性が……」

 

 謝罪の言葉に、しかし、アルはとろんとした瞳で首を横に振った。

 

「ううん……僕も、すっごく……気持ちよかったから……いいよ♡」

 

 その蕩けきった微笑みは、もはや純真な少年のものではなかった。

 禁断の果実の味を知り、その毒に喜んで身を浸した、小さな淫魔の微笑みだった。

 

「ねぇ、おじさん」

 

 アルは、モーブルの首に腕を回すと、その耳元で囁くように言った。

 

「もう一回、しよ♡」

 

 その言葉が、第二幕の開始を告げるゴングとなった。

 

♦

 

 一日の喧騒が嘘みたいに遠ざかり、『愛の皿亭』には心地よい静寂と、酒の温もりだけが残っていた。

 客の消えたカウンターで、ベレナとモーブルは並んでグラスを傾ける。

 まばらに灯るランプの光が、二人の横顔に柔らかな陰影を落とし、会話の隙間をそっと埋めていく。

 

「モーブル……本当に、ありがとう……あんたのおかげで、またこの店に笑い声が戻ってきた。なんとか、やっていけそうだよ」

 

 ベレナの声には、胸の底から湧き上がる安堵と感謝が滲んでいた。

 少し潤んだ瞳が、この店に注いできた愛情の深さを、言葉以上に語っている。

 

 モーブルは照れくさそうに鼻の頭を掻き、首を横に振った。

 

「よせやい。わしは大したことはしておらん。お前さんたちが家族で踏ん張ったからだ。わしは……ほんの少し、背中を押しただけさ」

 

 そのとき、アンが抱えた酒瓶を傾ける。

 トクトク、と小気味よい音がして、モーブルのグラスが静かに満たされた。

 

「そんなことありません。モーブルさんがいなければ、お店はどうなっていたか……。これは、私たちからの心ばかりのお礼です」

 

「おいおい、アンちゃん。気ぃ遣うなって」

 

 そう言いながらも、モーブルはその好意を拒まなかった。

 グラスを持つ指先に、悪くない熱が灯る。

 このまま穏やかな時間が続く――そんな錯覚すら、ふと胸をよぎった。

 

 けれど、ベレナの微笑みが、ゆっくりと別の色を帯びる。

 遠くを見るように、視線が揺れた。

 

「……ねぇ、モーブル。少し、込み入った話をしてもいいかい?」

 

 その声音に、モーブルの背筋がわずかに強張る。

 冗談の前触れじゃない。そんな“間”があった。

 

「ん? どうした、改まって」

 

 ベレナはグラスの縁を指でなぞり、言葉を探すように一拍置く。

 そして、照れと躊躇を押し込めるみたいに、ぽつりと言った。

 

「あんた……その……所帯を持つ、とか。そういうのは、考えないのかい?」

 

 思いもよらぬ問いだった。

 いつもは快活なベレナが見せる、不器用な踏み込み。

 それが妙に真っ直ぐで――モーブルの心臓を、乱暴に掴んだ。

 

「ぶっ……!」

 

 モーブルは危うく口の中の酒を吹きそうになり、慌てて喉の奥へ流し込んだ。

 

 

「い、いきなり何を言い出すんだ、ベレナ! 柄にもないことを!」

 

 モーブルの顔が、みるみる赤く染まっていく。

 ベレナはその反応を面白がるように口元を吊り上げ――悪戯っぽく、けれど逃げ道を塞ぐ声で言った。

 

「そうかい? ……じゃあさ。あんたがよけりゃ――うちのアンを、お嫁さんにでもどうだい?」

 

 静寂に、爆弾が落ちた。

 

「は、はぁっ!?」

 

 間抜けな声が、がらんとした店内に派手に響く。

 隣でアンが跳ね上がった。

 

「お、お母さん! な、何を言ってるのよ!」

 

 耳まで真っ赤だ。怒っているのか、恥ずかしいのか、自分でも分かっていない顔。

 ベレナはそんな娘を、慈しむように見つめた。

 

「あら、アン。あんた、モーブルのこと嫌いじゃないだろう? そ、それとこれとは別でしょ……っ!」

 

 母の視線が、ゆっくりとモーブルへ戻る。

 その眼差しには、軽口の笑みの奥に、確かな決意が宿っていた。

 

「モーブル。あんたは誠実だ。アンも昔から、あんたによく懐いてる。だから――二人が本当の家族になれたらって、ずっと思ってたのさ」

 

 モーブルは言葉を失い、金魚みたいに口をぱくぱくさせた。

 やっと絞り出した声は、情けないほど上ずっている。

 

「……そりゃあ、アンちゃんが器量よしの別嬪さんだってのは、誰の目にも明らかだが……ち、ちっと話が飛びすぎて、頭が追いつかん……!」

 

 アンはさらに顔を赤らめ、俯いた。

 けれど胸の奥では、母の言葉が落とした波紋が、じわじわと広がっていく。

 

 ベレナは二人の反応を見届けると、ふっと笑みを引っ込めた。

 そして、躊躇なく核心へ踏み込む。

 

「……モーブル。あんたが“美しい少年”を好むことも、知ってるよ」

 

 空気が一段、冷えた。

 

「……んー。さっぱり、何のことやら」

 

 とぼける声は軽い。

 だが、目だけが笑っていない。

 

「ふふ。私の目は節穴じゃないのさ。この前もアルが、随分と可愛がってもらったみたいじゃないか」

 

「ぎくぅっ!? い、いや、あれは……その……」

 

 モーブルの視線が、小動物みたいにせわしなく逃げ場を探す。

 歴戦の商人の余裕は、もう影も形もなかった。

 

 ベレナは静かに続ける。

 責める口調ではない。

 むしろ、確かめるように。

 

「隠さなくていい。アルがあんたを大好きなのも、私は知ってる。でもね――男同士じゃ、子は成せない」

 

 言葉を選ぶように一拍置き、そして刺した。

 

「あんたほどの男が、一度だって“自分の血を分けた子”を腕に抱きたいと思わなかった――そう言い切れるのかい?」

 

 その一言は、モーブルの心のいちばん柔らかい場所を正確に抉った。

 

(……血筋)

 

 重い鉛が、腹の底へ沈む。

 彼は、この世界でただ一人の『レベル師』の末裔。

 子を残さねば、その特異な力は自分の代で途絶える。

 だが――この身体も、この魂も、しなやかな肢体を持つ美しい少年にしか反応しない。

 

 何度か、女と寝たこともある。

 だが試すほど、拒絶だけが積み上がった。

 

「……わしには、無理かもしれん」

 

 吐き出した声は、自分でも驚くほど弱々しかった。

 

「驚かせてすまないね」

 

 ベレナの声は静かで、真摯だった。

 

「でも……あんたを、私は誰より信頼してる。だから、こんな話をできる相手も――あんたしかいなかったんだ」

 

 モーブルは返す言葉を見つけられず、グラスの中の酒を見つめた。

 揺れる液面が、言い訳のない沈黙を映している。

 

 しばらくして、彼は深く息を吐き――自分に言い聞かせるように告げた。

 

「……すまない、ベレナ。その話は、断らせてくれ」

 

 ベレナの表情に一瞬だけ翳りが差す。

 だが、彼女はすぐに、いつもの気丈な笑みに戻した。

 

「理由は分かってるよ。年の差もある。それに――あんたは、自分がアンを幸せにできないと思ってる。そうなんだろう?」

 

 モーブルは、痛いところを突かれた顔のまま、目を逸らした。

 

「……そうだ。男好きのこのわしが、アンを幸せにできるとは思えん。失望させる未来しか……わしには見えんのだ」

 

 モーブルは自嘲気味に笑い、グラスの縁を指でなぞった。

 

「アンはまだ若い。これからいくらでも、まともな相手に出会える。わしみたいな先の短い老いぼれが、その未来を縛るわけにはいかん」

 

「……あんたの優しさは、身に染みて分かるよ」

 

 ベレナの微笑みには、感謝と諦め、そして隠しきれない寂しさが滲んでいた。

 

「優しさなんかじゃない」

 

 モーブルは低く言い、吐き捨てるように続ける。

 

「結局わしは――自分が傷つくのが怖いだけだ。臆病者なんだよ」

 

 重い沈黙が落ちる。

 けれど不思議と冷たくはない。互いの弱さを、今だけは責めない空気だった。

 

 その沈黙を破ったのは、アンの声だった。

 

「モ、モーブルさん!」

 

 顔を上げると、アンが立っていた。

 頬は赤い。指先は震えている。けれど瞳だけは、逃げなかった。

 

「う……なんだ、アンちゃん。わしはお前のためを思って――」

 

「……待っています」

 

 アンは一歩進み、モーブルを真っ直ぐ見据えた。

 

「え……?」

 

「私、待っていますから。モーブルさんが、誰を好きでも……それでも私は、変わりません」

 

 真っ直ぐで、あまりにも無防備な言葉。

 それは、モーブルが長い年月をかけて築いた“孤独の壁”に、静かにひびを入れる声だった。

 

 次の瞬間――ベレナが、堪えきれないように吹き出した。

 

「あはははは! 聞いたかい、モーブル。あんたが男好きでも構わないってさ。……まったく、この子はどこまで真っ直ぐなんだか」

 

 場の重さがふっとほどける。

 モーブルは観念したように肩を落とし、照れ隠しに頭をがしがし掻いた。

 

「……参ったな。わしはこの子に、どう見られてるんだか」

 

「今すぐ答えを出せ、なんて言わないよ」

 

 ベレナは笑みを残したまま、けれど声は真面目だった。

 

「いつか、もし――あんたの気が変わる日が来たなら……その時は、うちのアンと……それからアルも。二人まとめて、貰っておくれ」

 

「…………えっ!?」

 

 モーブルは今度こそ息を呑んだ。

 

(アル坊も……“まとめて”って――いいのか……?)

 

 アンだけでなく、アルも。

 その提案は、モーブルの理解をあっさり飛び越えた。

 

 都合のいい夢。

 脳が焼けるほど甘い罠。

 ――そう決めつけたくなるのに、目の前のベレナの顔は、どこまでも真剣だった。

 

「ああ、そうだよ」

 

 彼女は迷いなく頷く。

 

「私の可愛い子を二人とも、あんたが幸せにしてくれるって言うなら――私はそれで本望さ。アンも、アルも。あの子たちを“守る”だけじゃなく、“愛して”くれる人がいるならね。そしてモーブル。あんたなら、きっとできる。私は、そう信じてる」

 

 その言葉は、押しつけでも取引でもない。

 温かな赦しであり、未来への約束だった。

 

「……ベレナ。お前さんは、とんでもない女だな。考え方が進みすぎてて……まるで未来から来たみたいだ」

 

 モーブルは半ば呆れ、半ば感嘆して笑った。

 ベレナはくすり、と悪戯っぽく笑みを返す。

 

「とんでもないさ。……ただ、本気で考えただけだよ。私の子どもたちの幸せと――それから、あんたの幸せをね」

 

(家族……か)

 

 モーブルの胸の奥で、その言葉がゆっくり形を持つ。

 ずっと一人で生きてきた。

 誰かの輪の中に溶けるなんて、自分には無縁だと思っていた。

 

 けれど――凍てついていた心が、目の前の温もりに触れて、少しずつほどけていくのを確かに感じる。

 怖い。

 だが、嫌じゃない。

 

「……もしも、わしが……心変わりをすることがあったなら」

 

 モーブルは視線を落とし、短い沈黙のあと、照れくさそうに顔を上げた。

 

「その時は……頼らせてもらう。……かもしれんな」

 

 ベレナは満開の花みたいに笑って頷いた。

 

「ああ。いつでも待ってるよ、モーブル。あんたがどんな決断をしようと――あんたは私たちの大切な友人で……もう、家族同然なんだから」

 

 その言葉が、最後の仕上げみたいに、モーブルの心の隙間を温かく満たしていく。

 長年まとわりついていた孤独の影が、ランプの柔らかな光の中で、静かに溶けて消えていく――そんな気がした。

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