モブおじ精液でレベルアップ!? ~でも好みのショタっ子しか手助けしません!!~ 作:とけそうだら
深夜、午後十一時四十分。
カイルは大きく口を開けて欠伸を噛み殺しながら、ランプを片手に一階の暗い通路を歩いていた。
ニーシャは建物の屋根に陣取って外を見張り、カイルは一階の裏木戸や厨房の周辺に異常がないかを確かめて回っている。
偽りの夜を迎えた宿の中は、不気味なほど静まり返っていた。
足を運ぶたびに古い床板がきしみ、その乾いた音が冷たい廊下の奥まで響いていく。
「ふわぁぁぁ……ねっむ……。腹いっぱい肉とパンを食ったあとの夜更かしは、腹の底から効くなぁ……」
カイルは裏木戸の鍵がしっかりと掛かっていることを確かめ、凝り固まった肩をぐるぐると回した。
厨房へ向き直り、ランプの灯りを奥へ向けようとしたところで――頭の中にエクセリオンの低い声が響いた。
《小僧、前だ。誰か来るぞ》
その一言で、カイルの目から眠気が一瞬で吹き飛んだ。
ピタリと足を止め、いつでも抜けるよう魔剣の柄へスッと手を添える。
暗い通路の角から、ランプの薄明かりを揺らして現れたのは――女将のルイーズだった。
ゆったりとした薄く透けるようなネグリジェの上に、手編みのショールをふわりと羽織っている。
昼間のきっちりまとめた髪型は解かれ、柔らかな栗色の髪が、はち切れんばかりの豊満な胸元の谷間へと色っぽく流れ落ちていた。
「あら……カイルさん?」
「うわっ、ルイーズさん! ……び、びっくりしたぁ。まだ起きてたんだ?」
カイルは慌てて警戒を解き、柄から手を離した。
ルイーズはショールの前をそっと合わせ、柔らかな胸の谷間を隠しながら申し訳なさそうに微笑む。
「ごめんなさいね、驚かせてしまって。少し寝つけなくて……厨房へ白湯を飲みに行こうと思ったんです。カイルさんは、皆さんの見張りですか?」
「う、うん。初めて泊まる場所では、交代で起きて見張りすることにしてんだ。ニーシャの奴が、念には念を入れろってうるさくてさ」
《ほほう……昼間とは打って変わって、随分と無防備でケシカラン装いじゃねぇか。豊満な肉付きが薄布越しにスケスケで露わになってやがるなぁ。……おっ? おい貴様、鼻の下が伸びて……いや、それどころかテメーの股間の聖剣がギンギンにおっ勃ってんじゃねーか、童貞小僧!!》
(ど、童貞童貞うっせぇぞエクセリオン! 俺はもう童貞じゃねーっつーの! そ、それにこいつは……ただの疲れマラってやつでなぁ!)
《けっ! デブのオッサンに尻穴の処女を奪われて、男の娘相手に筆おろしだぁ? そんなもん、俺様の基準で言やぁ半分どころか九割九分童貞みてーなもんだろーが!》
(う、うっせぇな! 俺だって本当は……初めては受付嬢のリシアさんとロマンチックにしたいと思ってたのに! あんなの完全に事故と不可抗力のなりゆきだろ!)
《ぐだぐだぐだぐだ、言い訳ばっかり並べ立ててめんどくせぇヤツだなテメーは! ……ま、それにしてもここの女将はマジで国宝級のいい乳してんなぁ! 思春期の青二才がこんな無防備なド級のデカ乳を目の前に突き出されちゃあ、うっかりチンコがおっ勃っちまうのも無理はねぇか! ブァハハハハ!》
(黙ってろってんだよエロ剣! こんな至近距離で揺らされたら、嫌でも視界に入っちまうのは男の本能として仕方ねぇだろ!)
カイルは脳内の念話で必死に悪態をつきながら、顔を真っ赤にして目のやり場に困り、視線をあちこちへ激しく泳がせた。
そんなカイルの初々しい動揺を見て、ルイーズはくすりと優しく艶やかな微笑みをこぼすと、自らの私室の扉を少しだけ開けた。
「立ち話もなんですし、冷えるでしょう? よろしければ、部屋で少しあたたかいお茶でも飲んでいかれませんか? 少しの間なら、見張りの息抜きになるでしょう?」
「え、いいの? ……あ、でも」
思わず前のめりになりかけたカイルだったが、踏み出しかけた足を慌てて引っ込めた。
脳裏をよぎったのは、金髪の天才魔術師の氷のように冷たいジト目と、今にも指先から爆炎を撃ち放ってきそうな険悪な面構えだ。
「……やっぱりマズいって。屋根の上でニーシャが目を光らせてるんだ。持ち場を離れて女将さんの部屋でお茶飲んでたなんて知られたら、あいつ、間違いなく俺を頭から丸焦げにするし」
首をすくめるカイルに、ルイーズは小首を傾げて柔らかく微笑みかけた。
胸元の豊かな膨らみが、その拍子にふわりと揺れる。
「ふふ、そんなに怖いお友達なんですか? でも、ほんの少し体を温めるくらい、大目に見てくださってもいいと思いますけれど」
「あいつの厳しさは冗談抜きなんだよ……。それにさ、さっき妙な子供が表に来て、変なこと言ってたみたいなんだ。『鐘が鳴ったら、町の人に気をつけろ』って」
「鐘……?」
ルイーズはきょとんと目を丸くすると、納得したように細い喉を鳴らしてくすりと笑った。
「ああ、広場の教会の時鐘のことですね。深夜十二時になると、日付が変わるのを知らせるために町中に大きな鐘が鳴り響くんです。でも、ただのいつもの鐘ですよ? 鳴ったからといって、恐ろしい化け物や幽霊が出てくるわけじゃありませんから、怖がらなくても大丈夫ですのに」
「化け物とか、ヤバい奴が出るわけじゃないのか……」
あまりにも屈託のないあっさりとした説明に、カイルは拍子抜けして頭を掻いた。
さっきニーシャから告げられた子供の不穏な言葉と、目の前で微笑む女将の穏やかな反応。
どちらを信じるべきか迷い、眉根を寄せて腕を組んだその瞬間――腰元から、これ以上ないほど下卑た煽り声が脳内へ直接響き渡った。
《おいおいおい、待て待て小僧! テメー、この期に及んで何をぐだぐだ悩んでやがるんだぁ!? もしかして青臭いチェリーボーイらしく、目の前の極上爆乳にビビって怖気づいたのかよぉ!?》
(なっ!? ち、違げーよ! 俺はただ真面目に見張り中なんだっての!)
《見張りなんざ二の次三の次だろーが! いいか小僧、旦那に先立たれて欲求不満気味の熟れた極上未亡人から直々に夜這い……じゃねぇや、部屋でお茶を飲もうなんて誘われておいて、尻尾巻いて逃げ出すようなヤツは男として完全に失格だぞ! 末代までの大恥だ!》
(だ、誰が男として失格だ! でもニーシャの言いつけを破ったらだな……!)
《クソガキの小言なんざ知ったこっちゃねぇ! よく思い出せ、テメーはさっきまで『未亡人の大渓谷に飛び込んでお慰めしたい』なんつー下品極まりない妄想で鼻の下を床まで伸ばしてただろうが! 目の前にその千載一遇のチャンスが転がり落ちて来てんだぞ!》
(うっ……そ、それは……!)
《前回の初体験を思い出してみろ! デブのオッサンに後ろのケツ穴を掘られながら男の娘に注ぎ込むなんつー、狂った地獄のサンドイッチだったんだぞ!? 今度こそうまくやりゃ、本物の女相手に正真正銘の『童貞卒業』を果たす絶好の機会じゃねぇか! 女将のあのハチ切れんばかりの爆乳に顔面から突っ込んで、男としての階段を堂々と駆け上がってこいってんだよ!》
「ぐっ……!」
魔剣の露骨で容赦のない囁きが、カイルの血気盛んな下半身と理性を猛烈に苛み立てる。
ズボンの奥で熱く昂ったイチモツが、エクセリオンの煽りと、目の前で甘く微笑むルイーズの豊艶な肢体に抗えず、びくんッ、と情けなく跳ね上がってしまった。
「カイルさん? どうかされましたか?」
耳まで真っ赤にして固まるカイルを、ルイーズが心配そうに少し身を屈めて覗き込む。
薄いネグリジェの胸元からふわりと漂う熟れた甘い香りと、無防備に開かれた私室の奥から漏れ出る、誘うような温かな空気。
カイルの喉が、ごくりと大きな生唾を飲み込んだ。
《おい小僧、何をもじもじしてやがる! ここは漢を見せるところだろ!》
脳内で騒ぎ立てる魔剣の煽り声に背中を押されるように、カイルは消え入りそうな声で口を開いた。
「あの……」
「はい?」
「 ……じゃあ、ちょっとだけ」
「ふふ、どうぞ」
カイルは照れ隠しに頭を掻きながら、促されるままルイーズの部屋へと足を踏み入れた。
女主人らしい清潔で慎ましやかな部屋だった。
ほのかにラベンダーのような甘い香油の匂いが漂っている。
壁際の小さな丸テーブルの上には、木彫りの可愛らしい動物の置物がちょこんと並べられていた。
《うひょーっ! たまんねぇいい匂いじゃねぇか! こいつはいかにも『いつでも男を受け入れますよ』って準備万端のサインだぜぇ! おい、まずはどさくさに紛れて背中からガバッと抱きついてみるのはどうだ、童貞!》
(ふ、ふざけんな! こういう時はな、モテる男ってやつは焦らねぇんだよ! 大人のムードを作って、女心を優しくリードするもんなんだよ!)
脳内でエクセリオンに青臭い講釈を垂れながら、カイルはさっと手櫛で赤褐色の前髪をかき上げた。
そして卓の上に置かれた手鏡を覗き込み、眉をキリッと引き締め、どこかの吟遊詩人気取りで無駄にカッコつけた渾身の『キメ顔』をバッチリと決めてみせた。
「ル、ルイーズさん!」
「はい? どうされましたか?」
「ふぅ……昼下がりの優雅なひとときには、君のような極上のスイーツが欠かせない。ルイーズさんの甘い香りに、俺の心はすっかりとろけちまいそうだ」
「……」
一瞬の静寂。
カイルは壁に手をつき、低く渋い声(のつもり)で窓の外を指し示していた。
が、そこに広がるのは言うまでもなく、偽りの星が瞬くド深夜の夜空である。
《ブァハハハハハッ!! 昼下がりぃ!? ティータイムだぁ!? てめぇ今が何時だと思ってんだよ小僧!! 日付が変わる寸前に『優雅な午後』はねぇだろーが! ギャハハハハ、腹痛ぇぇぇ!!》
(し、しまっ……!!)
脳内で転げ回って爆笑するエクセリオンの声に、カイルはサーッと血の気が引いた。
緊張のあまり、かつて街角で見かけた貴族のナンパ男が使っていたキザな常套句を、頭の中でそのまま引きずり出してしまったのだ。
「あ、いや……! ち、違くて! その、夜空が綺麗だなぁとか、ルイーズさんが綺麗だなぁとか、そういう意味で――!」
真っ赤になって両手をぶんぶんと振り回すカイルを見て、ルイーズはぽかんと目を丸くしたあと――ふふっ、と堪えきれずに白い喉を鳴らした。
「ふふ……あはは! ごめんなさい、カイルさん、とっても面白い方なんですね」
「うぐっ……」
「でも、ありがとう。見張りの最中なのに、私を和ませようとしてくださったんでしょう? お優しいんですね」
艶やかな胸元を揺らしながら愛おしそうに微笑むルイーズに、カイルは「あ、うん……まあ、男の嗜みっていうかさ……」と小さく縮こまることしかできなかった。
《おいおい『大人のムードで優しくリード』が聞いて呆れるぜ! 完全に年上の女将に子供扱いされて手玉に取られてんじゃねぇか! チェリーボーイの哀しい限界だな!》
(うるせぇ! 笑いをとって場を和ませたんだよ! これも計算の内だっつーの!)
赤面したまま心の中で負け惜しみを叫び、カイルは居たたまれなくなって部屋のあちこちへ視線を泳がせた。
ルイーズが小さな魔導コンロで薬草茶を沸かしている間、カイルは何気なく棚の上の額縁に目を留めた。
そこには、がっしりとした体格の男と、今よりも少し幼いルイーズが寄り添って笑っている精巧な肖像画が飾られていた。
「あ……それ、旦那さん?」
ルイーズは振り返り、カイルの視線をたどった。
「ええ……。この銀鹿亭を、一緒に切り盛りしていた夫です」
「なんか、頼りになりそうな人だね。重い荷物とか、ひょいって持ち上げそうだし」
「そうなの。私が薪を運んでいると、危なっかしくて見ていられないって、いつも横から持っていってしまって」
ルイーズは優しく微笑み、二つのカップへ温かい薬草茶を注いだ。
「棚の修理も、屋根の手入れも、何でも自分でやる人でした。お客様に頼まれると、よその家の戸の建て付けまで直しに行ったりして。宿の仕事が残っているでしょうって、私がよく怒ったものです」
「いい人だったんだな」
「……ええ」
ことん、とカップが卓へ置かれた。
ルイーズは取っ手から指を離さず、立ち上る湯気を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「三年前も、そうでした」
カップに手を伸ばそうとしていたカイルが、ピタリと動きを止めた。
「三年前?」
「自警団の仲間が、血相を変えて呼びに来たんです。森から強大な魔獣の群れが近づいているから、今すぐ町の入口を守らなければって」
――おかしい。
夕方に食堂で聞いたときには、「一年前に亡くした」と言っていたはずだ。
カイルは問い返そうとしたが、何か重いものに取り憑かれたように語るルイーズの言葉に遮られた。
「私が止める間もなく、剣と盾を持って……。『必ず戻るから、温かいスープを作って待っていてくれ』って」
彼女は、焦点の定まらない瞳で肖像画を見つめていた。
「それきり、帰ってこなかったんです」
カイルの手が、カップの手前で完全に止まった。
《……小僧。聞こえたか。三年前に、魔獣の群れの襲撃、だとよ》
(聞こえてる)
《昼間はそんな話、一言もしてなかっただろうが。旦那が死んだのは一年前だって言ってただろ》
カイルは息を呑み、ルイーズを見つめた。
なぜ今になって話が食い違うのか。
嘘を吐いていたのか、何かを隠していたのか。
それとも――自分自身の記憶が混濁しているのか。
「その後、町はどうなったんだ?」
「鐘が鳴って……皆、悲鳴を上げて走っていました。私は宿の扉をいっぱいに開けて、逃げてきた人を中へ入れて……」
ルイーズの震える指が取っ手を離れ、卓の上を探るように虚空をさまよった。
「誰かが、灯りを消せって。外で何かが大きく崩れる音がして、床も激しく揺れて……。でも、扉を閉めたら、あの人が帰ってきたときに入れないでしょう?」
カイルは口を挟むことができず、ただ黙って聞いた。
「だから、ずっと入口にいたんです。暗闇の中で。……名前を呼ぶ声が聞こえた気がして……でも、外は真っ暗で、何も見えなくて……」
ルイーズは両手で顔を覆った。
「その後は……どうしたのかしら」
「覚えてねぇの?」
「朝になっていたんだと思います。とても静かで、誰も騒いでいなくて。ただ……あの人だけが、いなくて……」
声が途切れた。
薄暗い部屋の中で、ただならぬ違和感と悲痛な空気が入り混じっている。
カイルは少しためらい、意を決して尋ねた。
「でも、夕方は……一年前に亡くなったって言ってたよな?」
ルイーズが、ハッとしてこちらを見た。
「一年前……?」
「うん」
「そう……そうでしたね。一年前です。私ったら、何を……」
言い直してはみたものの、その顔から戸惑いと恐怖は消えなかった。
彼女は自分を抱きしめるようにショールを引き寄せ、両手を固く重ねた。
「長く……あまりにも一人が長かったから、分からなくなってしまったのかしら」
カイルは返す言葉を探した。
その時、壁の向こうの廊下で『ギシッ』と古い床板が軋む音がした。
ルイーズが弾かれたように扉を振り返る。
だが、足音は続かなかった。
「……今でも、ああいう音がするたびに、あの人が帰ってきたのかと思ってしまうんです」
ルイーズは、開かれた扉の向こうの暗がりを見つめたまま言った。
「自分で鍵を掛けたのに、確かめに行って。開けても……誰もいなくて。また、閉めて」
頬を伝った一筋の涙を、彼女は慌てて指で拭った。
「ごめんなさい。お客様にするようなお話ではありませんね。お茶をお勧めしたのは、私の方なのに」
「いや……いいよ」
カイルは居住まいを正した。
さっきまで脳内で用意していた、未亡人を口説くための気の利いたナンパ文句など、もう何一つ出てこなかった。
「俺、旦那さんのことは直接知らねぇから、うまいこと言えねぇけど……帰ってきてほしかったんだよな」
ルイーズは、小さく頷いた。
「だったら、寂しいのは仕方ねぇよ。俺の前でまで、無理して笑わなくていいって」
ルイーズは俯き、ショールを握り直した。
カイルは黙って待った。
やがて彼女が目元を拭うのを見て、少し声を落とす。
「……あのさ。今の話、俺の仲間にも聞かせていいか?」
「お仲間に、ですか?」
「ああ。口は悪いけど、俺よりずっと頭の回る奴がいるんだ。俺たちも、この町のことを調べてるからさ。旦那さんの手がかりも……」
『必ず見つける』と言いかけて、やめた。
まだ何も分かっていない。軽はずみな約束で期待させるのは残酷だと思ったからだ。
それでも、聞かなかったことにしてやり過ごすことはできなかった。
「よかったら、今から一緒に食堂へ――」
――ゴーン。
低く、重い鐘の音が、深夜の窓ガラスをビリビリと震わせた。
カイルは弾かれたように椅子を蹴って立ち上がった。腰の魔剣へ鋭く手を伸ばし、開いた扉の向こうの暗がりを窺う。
「……鳴った」
廊下に人影はない。
耳を澄ませても、聞こえるのは冷たい鐘の余韻だけだった。
「カイルさん?」
振り返ると、ルイーズがカップを持ったままきょとんと目を丸くしていた。
「どうなさったんですか?」
「いや、その……何ともねぇの?」
「何がでしょう?」
「気分が悪いとか、変な音が聞こえるとか……」
ルイーズは少し考え、それからゆっくりと首を横に振った。
「鐘の音なら、毎晩のことですよ」
ごく当たり前のことを答える、穏やかな声だった。
――ゴーン。
二つ目の音が響いた。
カイルは窓へ目を走らせ、もう一度ルイーズを見た。彼女は心配そうに、こちらの返事を待っている。
「あ……うん。そう、だよな」
カイルは警戒を解き、柄から手を離した。
急に、自分が大袈裟に立ち上がったことがひどく恥ずかしくなる。
「ごめん。急に立って、びっくりさせて」
《……おい小僧、油断すんな。まだ鐘は鳴り終わってねぇぞ》
エクセリオンの低い警告に、カイルは椅子を引き直そうとした手を止めた。
ルイーズは何も気づかない様子で、卓の上の茶器へ手を伸ばした。
「お茶、もう少しいかがですか?」
「……いや。そろそろ見張りに戻るよ」
カイルは扉へ向かった。
何はともあれ、まずニーシャに今聞いた『三年先の時間のズレ』という異常な話を伝えなければならない。
廊下へ半歩踏み出したところで、三つ目の鐘が鳴った。
――ゴーン。
ガシッ、と。
背後から、手首を力強く掴まれた。
「……っ?」
振り返ると、ルイーズが立っていた。
片手でカイルの腕を引き留め、もう片方の手を卓についている。
蹴られたように椅子が斜めに押しやられていた。
「ルイーズさん?」
返事がない。
彼女は浅く荒い呼吸を繰り返し、まるで高熱に浮かされているかのように、白い顔を不自然に火照らせていた。。
「どうしたんだよ? 急に具合でも悪く……」
「……待って。カイルさん……待って……」
ひどく掠れた、甘い吐息のような声だった。
カイルの視線が、男を誘惑するかのように熱く潤んだ瞳と、無防備に着崩れた衣服へと吸い寄せられる。
さきほどまでは慎ましく隠されていたはずの胸元が、今はだらしなく大きくはだけ、豊満な谷間がより一層露わになっていた。
思わず、カイルの喉がゴクリと大きく上下する。
極上の色香に理性を揺さぶられ、反射的にズボンの奥のペニスがビンッと勢い良く勃ち上がってしまった。
「あの……わ、分かったから。誰か呼んでくるから、とりあえず座って――」
慌てて振り払おうとした手首に、ギリッと骨が鳴るほどの異常な力がこもった。
卓についていた彼女のもう片方の手が滑り、カップにぶつかる。
ガチャンと倒れたカップから薬草茶が広がり、卓の縁を伝って床へポタポタと滴り落ちた。
だが、ルイーズは見向きもしなかった。
「えと、ルイーズさん? 聞こえてる?」
目は、しっかりと合っていた。
それなのに――少年の警告がカイルの脳裏に不気味に蘇る。
『呼んでも、分からなくなるから』
「ルイーズさ――っ!?」
カイルの言葉を力ずくで遮るように、ルイーズが獣のような激しい勢いでカイルの胸元へと飛び込んできた。
「わ、わわっ!? る、ルイーズさん!?」
ぎゅっ、と息が詰まるほど強い力で抱きしめられる。
薄い寝間着越しに、豊満で柔らかな双丘の弾力と、むせ返るような女性特有の甘い体温がダイレクトにカイルの胸板へ押しつけられた。
昼間の風呂で火照っていた若い身体が、一瞬で再びカッと熱を帯びる。
《おい小僧!? いい乳当てられてデレデレしてる場合じゃねぇ、なんかこの女、様子が絶対におかしいぞ!》
(し、知らねぇよ! いきなり向こうから抱きついてきたんだってば!)
「あたたかい……。お願い、カイルさん……今夜だけでいいから、私を一人にしないで……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺は見張りの途中で――ぐわっ!?」
動揺して身を引こうとしたカイルだったが、ルイーズは華奢な見た目からは到底想像もつかないほどの腕力と体重をかけて、カイルの胸元をぐっと押し込んだ。
抵抗する間もなく足をもつれさせたカイルは、そのまま背後のベッドへと仰向けに激しく押し倒されてしまう。
ギィィッ、と。
重なり合った二人の重みで、古びたスプリングが悲鳴のような鈍い音を立てた。
「る、ルイーズ……さん……?」
カイルの上に馬乗りになったルイーズの瞳は、理性を失った熱情と、底知れぬ狂気を帯びてねっとりと潤んでいた。
彼女は震える指先を自身の胸元へかけると、羽織っていた手編みのショールをハラリと床へ落とし、さらには薄紅色のネグリジェのボタンへと指をかける。
するり、と肩口から滑り落ちた薄布の下から、熟れきった果実のような、真っ白で豊潤な肌が露わになり始めていた――。