※この作品はR-18です。

モブおじ精液でレベルアップ!? ~でも好みのショタっ子しか手助けしません!!~   作:とけそうだら

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第七十九話 ニーシャの愛の誓いと未踏のダンジョン攻略⑰

 ――ゴーン。

 

 重苦しい三つ目の鐘の音が、夜気を震わせた。

 ニーシャは身を隠していた煙突の陰から腰を上げ、宿の前の大通りを鋭い眼差しで見下ろした。

 

 向かいの家の窓に、パッと不自然な灯りがともる。

 先ほどまで、死んだように暗かった窓だ。

 薄暗い部屋を人影が横切り、バタンと乱暴な音を立てて鎧戸が内側から押し開けられた。

 夜風に当たりたいのか――最初はそう思った。

 だが、隣の家でも勢いよく扉が開いた。

 その向こうの家でも、路地を挟んだ薬屋の二階でも。

 

「……ずいぶん行儀よく、一斉に揃って起きるね」

 

 ニーシャは警戒心を強め、杖の柄を固く握り直した。

 寝間着姿の男が、裸足のまま通りへふらふらと出てきた。

 道の中央で立ち止まり、まるで何かを探すように首を左右に振っている。

 やがて向かいの家へ歩み寄ると、閉ざされた扉をバンバンと叩き始めた。

 

「おい。いるんだろ」

 

 返事はない。

 

「帰ってるんだろ。開けてくれ」

 

 もう一度、叩く。

 今度は平手ではなく、固く握りしめた拳で。

 

 ドゴッ、と。

 およそ人間の腕力とは思えない鈍い音が、屋根の上にいるニーシャの耳まで真っ直ぐに届いた。

 ニーシャの青い瞳が、すっと細くなる。

 男は扉に顔を擦りつけ、隙間へ向かって狂ったように何かを呼びかけていた。

 言葉の全容は聞き取れなかったが、うわ言のように何度も同じ名を繰り返しているようだった。

 

 ――ゴーン。

 

 四つ目の鐘が鳴り響いた瞬間、別の家から若い女が悲鳴を上げて飛び出してきた。

 

「どこにいるのっ!」

 

 女は路地を覗き込み、そのまま一心不乱に走り出す。

 異常な音を立てて扉を殴り続ける男には、一切見向きもしなかった。

 走る途中で足元から履物が脱げ飛ぶ。

 だが、女はそれにすら気づかず、裸足で石畳を蹴りつけながら角を曲がって消えていった。

 

 ニーシャは広場へと広く目を向けた。

 噴水の周りにも、わらわらと異常な数の人が出始めていた。

 両手で頭を抱えてうずくまり叫ぶ者。

 誰もいない虚空の店先に向かって激しく怒鳴り散らす者。

 戸口を必死に椅子で塞ごうと暴れる者もいる。

 

 暴力だけではなかった。

 隣家の戸口から、まだ寝間着のままの男が女を引きずり出した。

 女は石畳に爪を立てて抵抗したが、男は構わず胸元を裂き、路上へ押し倒す。

 

 別の路地では、年配の男が若い男の髪を掴み、壁に膝をつかせたままズボンを引き下ろしていた。

 咥えさせようとする動きに、相手は喉の奥で噎せながらも、拒むというより夢遊病者のように従っていた。

 

 噴水の縁では、女が別の女の腿を開かせ、顔を埋めている。

 濡れた音が夜気に混じり、獣じみた低い喘ぎが広場を這った。

 

 老いた男も、若い女も、店主らしい体格の男も、隣り合った者同士で絡み合う。

 性別も年齢も構わず、路上で衣服を引き剥がし、互いの体へ貪りついていた。

 悲鳴と嬌声と殴打の音が、同じ空気の中で区別なく重なる。

 皆が同じ幻覚を見ているわけでも、同じ場所へ向かっているわけでもない。

 だが、静まり返っていた町が『鐘の音』を境目にして、一斉に狂気へと変貌したことだけは疑いようがなかった。

 

 ――メキッ、ばきぃッ!!

 

 ひときわ甲高い、木の裂ける音が響いた。

 向かいの男の拳が、ついに分厚い扉の板を突き破っていた。

 

「……おいおい、なんだよこれは」

 

 ニーシャは思わず信じられないものを見るように声を漏らした。

 男は穴から腕を引き抜き、割れた箇所へ無理やり指をねじ込んだ。

 手の甲からドクドクと血が流れている。

 鋭い木片も深く刺さっているはずだ。それでも男は痛覚を失ったように手を庇う素振りすら見せず、力任せに扉の板を引き剝がそうとしていた。

 

 その時、足元に『紫色の光』が毒々しく走った。

 

「……あれは!?」

 

 ニーシャは屋根の縁へ身を乗り出した。

 石畳の隙間に入り込んだ血管のような『灰黒色の筋』が、不気味な紫色に明滅している。

 

 昼間、ライオットが見つけたものだ。

 宿の基礎から通りへ伸び、向かいの家にも、広場へ続く路地にも無数に枝分かれしていたあの筋。

 

 男が、狂ったような力で扉を引く。

 その腕がギリギリと震えた瞬間、足元の筋が呼応するように一段と強く発光した。

 バァンッ! と、ついに分厚い扉の板が真っ二つに裂け飛んだ。

 割れた闇の奥から、女の腕がのぞく。

 男はそれを掴み、家の中から路上へ引き摺り出した。

 

 女は喉の奥で何か訴えようとしたが、男は構わず彼女の頭を自分の股間へ押しつけ、寝間着の裾を掴んで裂く。

 血のついた拳のまま腰を押しつけ、獣のような低い唸りを漏らした。

 

 すぐ傍でも、別の男女が石畳に膝をつき、互いの体を舐め合い、突き合っていた。

 乱れた髪、剥き出しの肌、夜風に乗る生臭い音。広場の乱交は、扉が破られた今、大通りまで溢れ出していた。

 

「鐘だけじゃない……こいつが住人たちを動かしているのか」

 

 ニーシャは杖先を下げ、魔力を練り上げた。

 あの筋を一本でも炎で焼き切れば、この狂気に何が起きるか確かめられる。

 だが、その直前で、闇に消えた少年の声が耳の奥に蘇った。

 

 ――『壊す前に、確かめて』

 

 ニーシャは寸前で炎を打ち消し、杖先を戻した。

 あの筋は、町のあらゆる建物へもつながっている。

 今ここでむやみに焼き切れば、狂気に囚われた住人たちの命まで奪うことになるのか。

 それすら分かっていない。

 罠だらけのこの迷宮で、軽挙妄動は死に直結する。

 

「カイル!」

 

 ニーシャは屋根から身を引き、宿の一階へ向かって鋭い声を投げ落とした。

 

「異変だ。皆を起こせ!」

 

 吹き抜けの階段へ向かって、再度鋭く呼びかける。

 だが――いつもなら真っ先に返ってくるはずのカイルの返事が、ない。

 

「……カイル?」

 

 しんと静まり返った暗い宿の中から聞こえてきたのは。

 

 ――ガシャン、ドサッ!

 

 椅子か何かがひっくり返り、重いものが床へ倒れ込むような、不穏な物音だけだった。

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