TS男子大学生の受難 〜メス堕ちしても、君が好き〜 作:キツネリス
大雨の中私はやっとの思いで自分の家に帰ってきた。両親の計らいで用意してもらったオートロックマンションの一室へふらふらになりながらもようやく戻ってくる。
途中まで息を切らして必死に走ってきたこともあり私はもうへとへとで、身体はまるで泥まみれにでもなったかのように重くて、今すぐにでも横になって休みたいくらいに全身が疲労を訴えていたけれど…さすがに全身ずぶ濡れのこの装いをどうにかしないことにはそれも無理な相談だった。
私は重たい体を引きずってバスルームの前まで行くと、雨水を大量に吸って重たくなったワンピースを脱ぎ捨て、下着も外してしまうとまとめてそれらを洗濯籠へと投げ入れた。今は衣服が傷むだとか些細な事柄を考えてる余裕なんて微塵もない。
素っ裸になった私はすぐさまバスルームに閉じこもると蛇口を捻って熱いシャワーを浴び始めた。冷え切った体は少しずつ暖まっていき、それに伴い高ぶっていた神経も幾分か穏やかになり、落ち着きを取り戻していく。だけど心の中は依然として暗雲が立ち込め、土砂降りの雨が降り注いでいる気分だった。
取り返しのつかないことをしてしまった。私の心は今もなお罪の意識に苛まれ、自責の念と後悔とで胸が張り裂けそうなくらいに苦しくて、うなだれているとまた涙が溢れそうになってくる。
「うっ…………ううっ…………」
そして私はまたさめざめと泣き出してしまった。辛さのあまり自分の身を抱きしめてしまいながら、とめどなく溢れる涙を、悲しみに暮れた心を、どうすることもできずに…ただ、その場に立ち尽くす。
「夏樹、くん…………っ」
私は気がつくと消え入りそうな涙声で彼の名前を呼んでいた。……自分でも身勝手すぎると思う。この期に及んで、彼に助けでも求めようというのだろうか?私の罪は彼を犯したというもので、彼を酷い目に合わせたのは他でもない自分自身なのに。自分のしでかした罪の重さにまた悲しみが押し寄せ吐きそうになる。
「もう……っ、元通りに、なんてっ……なるわけないよね……っ」
私は泣きながら自分の犯した罪に打ちひしがれ、罪悪感に打ちのめされてうなだれていた。一時の浮ついた感情に流されずにもっと厳しく自分を律していれば……後悔の念は尽きることがなく、思いを巡らせるたびにひどくまた落ち込んでしまう。
あまりにも落ち込んでいた私は津波のように打ち寄せ続ける負の感情の洪水に耐え切れず、気がつけば夏樹くんとの思い出を脳裏に浮かべ始めていた。両性具有症を患っていた私の人生は彼と出会うまでは灰色そのもので、その一方で彼と過ごす時間は終始綺麗な彩りに満ちていたのだ……。
――
両性具有症は名前の通り、男性器と女性器の両方が同時に備わった状態で生まれてきてしまう病気だ。ただこの病気は、何故か今のところ発症した人間が皆一様に女性らしい体つきへと成長していくことが確認されており、そのため現在は実質女性特有の病気であるとされている。
病気といっても別に身体の何処かが痛んだりするわけではない。ただ単に、女の子にペニスも余計に付いている…それだけ。もっとも、それが『他の女性に混じって日常生活を送る』という意味においてはとても重大なことでもあるのだけれど…。
私はこの体のせいで幼い頃からずっと苦労してきた。他の女の子と違う体に何度悩んだか分からないし、体育の授業などは毎回休むようにと言われ同級生の皆に病弱だからという嘘の理由で誤魔化さなければならないというのは、例えそれが他の子にいじめられないために周りの大人が気を遣った結果だとしても本当に苦痛だった。
さらに私を苦しめたのは思春期にさしかかった頃のこと。私の体が精通を迎え、射精という生理現象を覚えると日々の暮らしはより窮屈になっていった。同級生の女の子たちに欲情してしまうこの体を何度呪ったことだろう。いつしか私は自分から他の同年代の子たちとは進んで距離を置くようになり、すると次第にその子たちも私から自然と離れていった。そうやって私は、1人で殻にこもることに慣れていったのだ。
大学で読書サークルなんていう半ば開店休業状態の集団の中に入っていったのも、他のサークルからの勧誘を避ける隠れ蓑としてはちょうど良かったから。図書室に寄りつく人なんて内向的な人ばかりで干渉される心配も少なくて好都合だったから。…まさかそのせいで、次年度のサークル勧誘のために駆り出される羽目になるとは思っていなかったけれど。
倉橋夏樹くんと出会ったのは、そんな折のこと。学内で1人勧誘チラシの束を手に半ば途方に暮れていたとき、彼は私の前に姿を見せた。
最初に見たときの印象は…活発そうで、女の子からの人気も高そうで…人の目を避けて日陰に籠もってばかりの私とは、まったく違う世界に居ていそうな…そんな男の子。そのときも毛先を遊ばせてふんわりとしたショートヘアをしていたように思う。
切れ長の目はぱっちりと開かれていて、そして私の方を見るとほんの一瞬こちらに見惚れているかのような…そんな反応を見せた。そんな彼と目が合ったとき、私もどういうわけか、彼から目が離せなくなっていたような……そんな気がする。お互いの視線が通じ合ったその直後、彼は子供っぽくて可愛らしい笑顔を浮かべながら私に近づき話しかけてきた。
「あ、あの!今日、外暑くって、涼める場所探してたんスけど、お姉さん良い場所知りませんか!?」
その日の外が実際暑かったかどうかは正直覚えていない。けれど、彼の言葉に私は気が付くと微笑みながら受け答えていた。
「えっと…じゃあ、良かったら読書サークルのこと、聞いていきませんか?」
「読書サークル……?……は、はい、ぜひ!」
私の提案に、彼はなんだか嬉しそうに返事しながら頷いてくれた。
多分長く一人ぼっちの生活を続けていたせいで、知らないうちに友達というか……とにかく、仲良く話のできる相手というのを欲してしまっていたんだと思う。それから…彼が男性ということも、私が落ち着いて接することがしやすかった理由なのかも知れない。
事実、彼と一緒にいる間はいつも穏やかな気持ちでいられたのだ。この忌まわしい身体も男性である彼には異常な反応を見せたりすることはなく、おかげでそれ以来、長い大学生活のさなかにささやかな楽しみができたのだ。
彼は私にとても優しく接してくれた。私の話をいつも楽しそうに聞いてくれて、そして彼の方からもよく話しかけてくれるようになった。本を通じて彼と語らうその時間は私にとってかけがえのないものとなり、やがて彼は私にとって他の何ものにも代えがたい大切な人になっていった。
もし彼が、何か困った状況に陥るようなことがあれば手を差し伸べてあげたい、助けてあげたい……そうやって考えられるくらいに親密な間柄に最近はなりつつあると思っていた。
そう、思っていたのに……。
――
「ひっく……馬鹿みたい……っ……」
脳裏に幾つも浮かんでくる夏樹くんとの楽しかった思い出たち。それらの記憶について思い返しているうち、ふと急に虚しい気持ちに襲われる。
何ものにも代えがたい大切な人?手を差し伸べてあげたい?助けてあげたい?笑えない冗談だと思った。夏樹くんが女体化症候群にかかり、実際に女性になって弱ってしまっていたとき、私は一体何をしただろうか?
私は女になった彼の胸を揉みしだいた。彼が病院に行くのに付き添った際に彼がバスを降りる間際バランスを崩して転びそうになったとき、私は彼の身体を支えようとして……その胸を思い切り掴んでしまった。手のひらに沈み込む柔らかな感触は、それまで必死になって女性との接触を絶ち、決して他人に欲情すまいと絶えず律してきた私の欲深い心を目覚めさせるのには充分だった。
私は女になった彼に欲情した。手のひらに残る柔らかな乳房の感触に私は確かに勃起した。弱っている彼を思えば他の誰に対してよりも必死になって己を律しないといけなかったはずなのに、突如として相対した女体に私は浅ましくも自分を抑えることができず、気がつけば何度も彼の肉体の柔らかさを思い返してしまっていた。
私は女になった彼に甘えた。病院を出た後の帰りのバスの中、夏樹くんが寝言で呟いた好きですという言葉に私の心は鷲掴みにされていた。でもそのときの私は本来の男性としての彼の言葉と、女性になった彼の喉から発せられた高くて落ち着いたその声色、そのどちらに惹かれていたのか分からなくなっていたのだ。ただ一つ確かなのは、このとき私は隣に座る
そして…
私は…………私は…………!
彼の唇を奪い、その乳房をまた揉みしだき、嫌がる彼の着衣を無理やり脱がして、そして……そして…………!
彼を…………夏樹くんを…………レイプしてしまった…………!!
頭の中に蘇ってくる記憶。私は彼に覆いかぶさり、彼の……彼の、腟内に、自分のペニスを突き立てたんだ……!そして、欲望のままに腰を振り、何度も何度も腰を打ち付けて、そして…………そして、彼の腟内に、精液を…………!!
「っ……!!!」
自分自身を今ほどに憎んだことはない。……私は、女になった夏樹くんを犯した記憶を頭の中でなぞったことで、勃起してしまっていた。どれだけ罪の意識に苛まれても、どれだけ罪悪感に襲われたとしても、それでもまだ肉欲を抱こうというのか。……私は本当に度し難い、浅ましくて最低な人間だと思う。
『はぁっ……はぁっ……ひ、ひぇん、ぱい……っ♡』
今も、耳に夏樹くんの嬌声がこびりついて離れない。夏樹くんの、あの子の喘ぎ声が頭の中でずっと響いてる。あの子の柔肌の感触がこの手にずっと残ってる。あの子を組み敷いていたとき、自分がどんな風になっていたか……考えただけで自分自身が恐ろしく、そしてとても憎らしくなってくる。
私は我も忘れてあの子を犯し続けた。何年も何年も己を律して、抑圧してきたその反動を、溜め込んできた獣のような欲望を、ありったけをあの子にぶつけてしまった。
「元通りになんか……なれるわけないじゃない……っ!」
あまりにも傲慢過ぎる。我ながらそう思う。惨いなんて言葉では表しきれないほどに私の犯した罪は重い。とても許されるものじゃない。どれだけ謝っても、どれだけ償ったとしても償いきれるものじゃない。元の親しい関係に戻れたらなんて、なんて自分勝手な考えなんだろうと自己嫌悪する。
身体は温水を浴び続けたことでほんのりと湯気が上がる程度には暖まった。でも心は変わらず曇天の雨模様で、どれだけ時間が経っても冷え切ったまま……。
私はシャワーを止めるとバスルームから出た。身体をタオルで拭く腕がなんだか重くて気怠さを感じる。替えの下着を身につけ、上からTシャツを身に纏いそしてドルフィンパンツを穿く。着替えを済ませ、仮初めの日常を取り戻そうとしてみても心が軽くなるわけもなく……私はベッドに腰掛けると疲労とともに睡魔がやってきたためにそのまま倒れ込み、暗い気持ちに涙しながら死んだように眠りこけたのだった。
これアップする前に最終チェックのため見返してたら何度か涙ぐみかけました。我ながら涙腺弱し。ともかく、もうちょっとだけこの曇り空な感じは続きます。ホントにもうちょっとだけ。多分。maybe。