TS男子大学生の受難 〜メス堕ちしても、君が好き〜 作:キツネリス
まあ命が失われる危険性はないんですけどね。
「ん、んん…………ぷあっ♡」
「んん……ぷはっ!はぁ、はぁ……っ」
永遠にも思える時間続いたディープキス……それは不意に夏樹くんが顔を引いていったおかげでようやく中断された。絡み合っていた舌と舌が離れると、先端同士を結びつけるかのように混ざり合った唾液が銀の糸の如く引き伸ばされていき……そしてぷつんと切れる。
私はすっかり興奮を掻き立てられてしまい、乱れてしまった呼吸を整えようと荒く肩で息をしていた。夏樹くんの方も少し吐息を乱しているようだったけど、私に比べれば落ち着いているように見えた。
「はぁ、はぁ、な、夏樹くん、お、お願いだから、離して……っ」
私は今にも砕け散ってしまいそうな理性をやっとの思いで繋ぎ止めながら『彼女』に腕を解いて欲しいと訴えて、夏樹くんの肩を掴んで押し退けようと試みた。
鼻腔を絶えずくすぐってくる甘い香りと擦り付けられる柔らかな身体の感触にずっと苛まれた私は、自分自身の体の反応に危機感を覚えていた。肉欲を掻き立てられるあまり、ペニスがずっと勃起してしまっていたからだ。
少し痛いと感じてしまうほどに膨れ上がるその肉竿が、自分がどれだけ興奮してしまっているかを物語っていた。
(駄目……このまま流されたら昨日の二の舞になっちゃう……!)
もう夏樹くんを酷い目に合わせたくない、その一心で私は懇願した。でも……『彼女』はまるで私の言葉を意に介そうとしないようだった。夏樹くんは私の押しのけようとする腕の力をものともせず、澄ました顔でこちらを見つめながらほんのりと笑みを浮かべつつも夏樹くんは言った。
「嫌です。もう先輩のこと、意地でも離しません」
「ど、どうして……わ、私、昨日あんなに酷いことしたんだよ!?な、なのに、なのになんで……」
本当なら私以上に夏樹くんは悩み苦しんでいてもおかしくないはずなのに、まるで気にしていないかのような雰囲気でいるのが全然理解できなかった。私は自分の抱える罪悪感と後ろめたさのせいで夏樹くんの顔を直視するのが辛くて視線を逸らしてしまう。
「……や、やっぱり、こんなの良くないよ。夏樹くんは、男の子に戻らなきゃ、駄目、だよ……っ」
私は彼のことを思ってそう口にした。このまま流されてしまえばきっとまた私は彼に酷い仕打ちをしてしまうに違いない。彼にまたひとつ、嫌な記憶を刻みつけてしまうことになりかねない。
それに……こんな中途半端な体の女のために無理に自分を犠牲にしなくても、彼なら他に素敵な女の子といくらでも仲良くなれるに違いない。わざわざ私なんかのために彼に人生を棒に振らせるような真似はしたくない。……そう考えながら私は夏樹くんを諭そうとした。
「それ、本気で言ってます……?」
だけど、当の夏樹くんから返ってきた言葉はそんな私の思いからはまったく予想できないようなものだった。その問いかけてくるような言葉に私はひどく戸惑った。
「本当にそう思ってるんですか……?昨日あんなにあたしと、情熱的な夜を過ごしたのに……?」
私は耳を疑った。彼は今確かに自分のことを、『あたし』と表現した。昨日まで接してきたどの場面でも『俺』と口にしていたはずの彼が、今このときにおいては確かに自分を『あたし』と呼んでいる。そのことが私をひどく惑わせた。
『彼女』は顔を背けた私の耳元にその唇を近づけて囁いてきた。耳にかかる吐息が、鼓膜を揺さぶるその声色が困惑する私の心をも揺さぶってくる。その戸惑いのあまり私は腕の力も抜けてしまっていた。
「あんなこと、あたしが元に戻ったらもう二度とできないんですよ?本当に良いんですか……?」
「そ、そんなこと……」
さらにまくし立ててくる夏樹くんの言葉に私はいよいよ言葉に窮してしまう。私なんかのために彼を犠牲にするなんて、そんなこと許されるはずがないのに……なのに、これじゃあまるで、『
静まり返る静寂の中に、二人の息づかいだけがわずかに響く。ほんの短い時間沈黙は続き、そしてその沈黙に焦れたのか……夏樹くんのほうから口火を切った。
「せんぱい……セックスしましょう……昨日の続きしましょうせんぱい……♡」
「や、やめ、んん…っ」
耳元でその声色を妖艶に響かせてなおも囁きかけてくる『
「や、やめて……お願いだから、もう止めて……っ!」
私は終始艶めかしく誘惑してくる『
「お、お願いだから……そんな風に女の子のフリをするのはもう止めて……」
私は彼の女仕草を目の当たりにし続けるのにこれ以上耐えられそうになかった。それがまるで、彼がこうなったのはお前のせいだと責められているかのように感じられたからだ。
私はもう自責の念に押し潰されてしまいそうなほどに追い詰められていて、震える声で訴えかけるうちにぽろぽろと涙までこぼれてきてしまうほどだった。
「昨日のことは謝るからっ……罪をっ、償う、ためっ、なら、なんでもするから……っ、だから、元の夏樹くんに、戻ってよぉ……っ」
流れ出る涙はどんどん溢れ、いつしか私は泣きじゃくりながら彼に許しを請うようになってしまっていた。このまま夏樹くんの女言葉を聞き続けていたらおかしくなってしまう……そう思った。私の心はもう限界を迎えていたのだ。私は俯きながらひたすらに泣いた。
「…………ごめんね、先輩。泣かせるつもりはなかったんです」
泣いている私の耳に、夏樹くんの声が響いてきた。気取った感じも、妖しい雰囲気もない、いつもの夏樹くんの声。優しく語りかけてくる彼の声が、私の胸にじんわりと染み入ってくる。
「先輩は……昨日のこと、気にしてるかもしれませんけど……オレ……別に、なんとも思ってませんから」
彼の口から途切れ途切れに語られるその言葉を、私はすぐには上手く受け止めることができなかった。だって、昨日私がしでかしたことは明らかに人の道を外れていて、到底許してもらえるわけがない……そのはずなのに。
私の蛮行をその身に受けてしまった彼自身がそれを気にしてないだなんて……。
「嘘……だよね……?そんな、そんなこと、あるわけが」
「嘘じゃないですよ。本心です」
震える声で私は思わず彼を疑うような言葉を吐いてしまった。なのに、彼は私に変わらず優しげな声色で返事してくれる。その雰囲気に私はまたひどく戸惑い、言葉を失ってしまう。黙りこくってしまった私に、彼はさらに語りかけてきた。
「昨日先輩、オレのこと好きって……言ってくれましたよね?いっぱい……いっぱい、好きって…………オレ、なんか、変な話……嬉しくなっちゃって」
彼のその言葉を聞いた途端に私は胸が締め付けられる思いがしてしまう。昨日あんなに酷いことをしたのに……その最中に発した好きだなんて言葉、あまりにも薄っぺらで到底受け入れてもらえるわけがないはずなのに。
それでも彼は……その言葉を受け止めてくれようとしている。それどころか、その声色からは確かに仄かな好感が伝わってくる。
「オレ、これからも先輩の……冬子先輩のそばにいたい。先輩に好かれていたい。そのためなら……もう男になんか戻らなくてもいい、だからオレを……」
私は内心ひどくうろたえていた。夏樹くんは私なんかに好かれるために、男の子としての自分を捨てようとしている。こんな一時の感情に流されるような形で、そんなことをさせていいのだろうか?
彼の示してくれた好意に不覚にも胸の奥が少しずつ暖かくなるのを感じるその一方で、彼に負わせようとしている業の罪深さに胸がちくちくと痛み出してもきた。それでも……彼の口ぶりはとても真剣そのもので、私はどうしていいか分からなくなってしまう。そして……。
「オレを冬子先輩の……オンナにしてください」
彼の口から成された……私への、愛の告白。それも、自らの今日に至るまでの人生の尽くをかなぐり捨ててまで、彼は私にその身を差し出そうとしている。私はそのとき嬉しいなんて気持ちを自分が抱けているのか疑問に思えるくらいに、彼に対する申し訳なさで頭の中がいっぱいだった。
「……だ、駄目だよこんなの……やっぱりこんなのおかしいよっ……!……こんなの、良くないよ夏樹くん……っ」
彼から向けられる好意が、優しさが、深々と胸に突き刺さる。いっそ罵られたほうがどんなにか気持ちが楽だっただろうか。私はなかなか彼の想いを受け止められないでいた。
「先輩……顔を上げてください、先輩」
俯いたままの私に、夏樹くんは変わらず優しく語りかけてくる。けど私はすぐには顔を上げられそうになかった。私の情緒はもうぐちゃぐちゃでどんな顔を彼に見せればいいか分からなかったし、それに散々泣き腫らしたせいで今自分がひどい顔になってしまっているかと思うと、そんなところを見せる気になんてなれそうになかった。
それでも……彼の言葉をいつまでも無視しているわけにもいかないとも思った。私はしばらくの間を置いた後、ようやく顔を上げて再び夏樹くんの方を向いた。
夏樹くんは、私に向かって優しく微笑んでくれていた。そんな彼を見ているとまた涙が溢れてきそうになる。
その笑顔は、まるで柔らかに降り注ぐ木漏れ日のようで。その微笑みが今の私にとってはとても眩しくて……そして、とても暖かく感じられた。
「ふふ……いっぱい泣かせちゃいましたね。ごめんなさい先輩」
それまで悲しみと苦しみに支配され、悲痛に絶えず口元を震わせてしまっていた私を夏樹くんはいたわり、優しく後ろ髪を撫でてくれている。彼の柔らかな手つきが、私の凍てついた心をゆっくりと溶かしていくかのように感じられた。わずかに胸の内に穏やかさを取り戻した私の様子を察したのか、また少しの間を置いた後彼が口を開く。
「オレ……先輩が、好きです。他の誰でもない、先輩のことが……一番、好きです」
彼の言葉が、私の胸を打った。罪悪感と自責の念で凍りついていた私の心にひびが入り、そこからこんこんと湧き水のように……彼へと寄せる思いの丈が溢れ出す。彼と過ごしてきたこの2年間、ずっと彼に対して抱いていながらも努めて気づかないふりを貫いてきた……彼を好きだという気持ち。
私の胸の中では今、それまで自分を苛み続けていた悲しみと苦しみと、彼から差し伸べられた好意と愛情に対する嬉しさとがごちゃ混ぜになり、喜びと悲しみとが押し合いへし合いを繰り返し、口元は絶えず口角が上がったり下がったりと震え続けていた。
「正直……初めて会ったときから、好きになってたんだと思います。……そのときの気持ちは、今でも……変わってない、つもりです」
彼の告白は途切れ途切れに紡がれていく。その様子から夏樹くんがとても深く考えながら言葉を選んでいるのが伝わってくる。夏樹くんも私と同じように出会ったときから特別な想いを抱き始めていたのだと思うと、私はなんとも言えず切ない気持ちになってしまう。
恐らく……彼が女体化症候群にかかることなく、私たちのどちらもが平穏に大学生活を終えていたとしたら。……きっと、2人の関係はそこで自然に消滅してしまっていたと思う。
何故なら……私がこの身体を理由に、彼との関係をどこかの時点で断ち切ろうとしていただろうから。私の勇気がひどくちっぽけで、想いを伝えることも、この身体のことを打ち明けることも……多分、できなかっただろうから。
「…………それとも……迷惑、ですかね……?……こういうの」
「……!……う、ううん……っ!そ、そんなことない……っ」
何も答えることができずにいると、夏樹くんが眉尻を下げて少し不安そうな表情で呟いたのを耳にして私は思わずぶるぶると首を横に振って否定した。彼が悲しそうな顔をするのを私は見ていられなくて、今この瞬間だけは反射的に体が動いてしまっていたみたいだ。
「ふふ……良かった」
私が首を振って否定するのを見た夏樹くんがまた笑った。ニッコリと朗らかに、それでいてどこか悪戯っ子のように無邪気に微笑むその顔を見ていると、私の脳裏に男の子だった頃の彼の笑顔が蘇ってくるようだった。そして、彼はその微笑みを浮かべたまま続けざま言った。
「オレ……先輩がこの見た目の方が好きって、言ってくれるなら……このまま、女として生きるのも……悪くないかなって、ちょっと思い始めてるんです」
彼の言葉は今の私にとってあまりにも衝撃的過ぎた。夏樹くんは……彼は今、私の意思ひとつでこの先の人生をどちらの性別で生きていくか決めてしまおうとしている。その事実に私の心がひどく揺さぶられてしまう。
ここが最後の機会……ここで私が、それは駄目だと彼の考えを否定しなければ……きっと彼は、このまま女として生きていくことを選ぶに違いない。彼の言葉の端々からはそんな決意が確かに感じ取れた。
……でもやっぱり、こんな私なんかのために、一時の感情の高ぶりに任せてそんな決定をさせるのはどう考えたって良くないと思う。
(言わなきゃ……流されちゃ駄目……ちゃんと、彼を止めなきゃ……!)
私は言おうとした。口に出して、彼の考えを止めようとした。……なのに、声が出てこない。唇が、まぶたが震えて、上手く言葉を発することができない。今止めてあげないともう後戻りできないのに、私は一体何を怖がってしまっているのだろうか?
彼を止めたとしたら。その申し出を断ったとしたら。恐らく夏樹くんは悲しい顔をするだろう。
だとしたら私は、夏樹くんの悲しむ顔を見ることを怖がっているということになるのだろうか……?
……いや、違う。別に彼が悲しんだとしてもそれはごく自然なことだし、夏樹くんが男の子としての生活に戻れるのなら何も問題はない。彼が、男の子として普通に生活して、そして、普通の女の子と……普通に、恋に落ちて…………そして、幸せな…………人生を、送ってくれるのなら……………………?
そのとき……………………私は…………?
私は……気がついてしまった。
他の誰でもない、私自身が……彼が、夏樹くんが男の子に戻るのを無意識のうちに惜しんでいたということを。
彼が元の姿に戻ることによって、この親密な関係が終わってしまうのを、とても強く恐れてしまっていたということを。
もし彼が男の子に戻ってしまったとき、これまでと同じように仲の良いお友達という関係であり続けることは恐らく二度と出来ないに違いない。彼の求愛を拒んだことで2人の関係がぎくしゃくするのは火を見るよりも明らかだろうし、何より……私が彼をレイプしてしまったという事実も変わりはしない。
そうだ……私は強姦という罪を犯したのだ。本当なら今すぐにでも警察に出頭して罪を償うべきで、そうなってしまえば彼との関係がどうこうなどと気にしている場合ではなくなる。それに、きっと大勢の人間が私を蔑んだ目で見るようになることだろう……。
私は結局のところ恐れているのだ。
犯した罪を責められるのを。
また、ひとりぼっちに戻ってしまうのを。
彼を……夏樹くんを、失ってしまうことを。
思い返してみれば昨日の昼間、何気なく出かけたその外出先で、今にも転びそうになっていた『
私はあのとき……確かに、この腕の中に抱いた女性に対して、心ときめくものを感じてしまっていた。
……なんのことはない。私は一目会ったそのときから、『彼女』を好きになってしまっていたのだ。『彼女』に惚れて、『彼女』の身体に夢中になって、そして我を忘れて『彼女』を貪って……そして今、私は、『彼女』を手放すことを、何よりも恐れてしまっている。
私はなんて滑稽なんだろう。初めから夏樹くんを元の姿に戻す気なんてなかったんじゃないか。それを良い人ヅラするために、面倒見が良くて優しい先輩としての自分を取り繕うために、自分の醜い欲望に必死に気がつかないふりをし続けて……。
私は最低な人間だ。臆病で、卑怯で、自分勝手で……。
彼を止める、最後の機会。私はついにこれを活かすことができずに終わってしまった。私にはもう、彼になんと声をかけたらいいのか分からなくなってしまっていたのだ。
「……先輩」
彼に呼びかけられて、びくっと肩が震えてしまう。いつの間にか私はまた俯いてしまっていたみたいだ。恐る恐る顔を上げつつ震える私の目の前で、彼がいよいよその言葉を伝えようと口を開いた。
「先輩……オレを、先輩のカノジョにしてくれますか?」
夏樹くんは……再度自分が男を捨てるつもりであることを言い含めた上で私と結ばれることを望み、その告白の言葉を私に伝えてきた。
私は相変わらずどう答えていいか分からないでいたし、胸の奥では喜びと悲しみとが嵐のように荒れ狂う様相を呈していた。
彼から寄せられる好意に対しては……正直なことを言えば、心躍るものを感じる。だけど……彼が女であり続けることを決意したのは、どう考えても私のせいだ。私が犯した罪。私が招いた因果。
ああ……そうか。これは、私に対する罰なんだ。
彼から向けられる微笑みから、その喜び溢れる顔から、決して目を背けずにいること。何があっても、絶対に拒絶しないこと。これこそが、私という人間に与えられた罰なのだと。
彼の好意に応えること。彼から差し伸べられた手を決して振りほどくことなく、こちらからもしっかりと……握り返すこと。これこそが、私という存在に許された……たったひとつの償いなのだと。
結局のところ……もう私には、夏樹くんの申し出を受け入れるしか道はなかったのだ。
「よ、よろ、しぐ……おね、おねがいしま、す」
とうとう私は再び瓦解した涙腺から大粒の涙を流し、泣きじゃくりながら彼の告白を受け入れたのだった。涙ながらに返事した私を、彼はにっこりと優しく微笑みながら見つめつつ……気が付くと彼の目尻からもつう……っと一筋の涙が零れていた。そんな彼の顔を見ているうちに涙がもっと溢れてくる。
別に夏樹くんは私の罪に対して明確に許しを与えてくれたわけじゃない。心の中ではどう思ってるかなんて分かるわけもないし、それを尋ねる勇気もない。だけど……だけど、不思議と彼の言葉に嘘はないと……私は感じるようになっていた。彼の眼差しとその口から紡がれる言葉たちが、とても真っ直ぐに私の方を向いていると思えたからだ。
私の中では今2つの感情がはち切れんばかりに大きくなっている。彼から好意を寄せてもらえているという喜びと、彼にこれまでの自分の一部を捨てさせてしまったという悲しみや苦しみ。それらの思いが膨れ上がった末に……涙と共に、まるで濁流のように溢れ出ていってしまう。
「うっ……ううっ…………うわああああん…………うあああああん…………」
私はついに限界を迎え、気がつけば子供みたいに大泣きしてしまっていた。そんな私を彼はまたぎゅっと優しく抱き寄せて、柔らかく慈しむような手つきで頭を撫でてくれている。
時折背中を優しくぽんぽんとしてくれる仕草はまるで母親か歳の離れた姉のようで、私はいつしかすがりつくように夏樹くんにぎゅ……っと抱きついてしまっていた。
「……ダイスキですよ……せんぱい……♡」
未だ涙が治まらずに泣きじゃくる私に夏樹くんは優しく静かに……そう囁いた。胸に染み渡る、彼からの好意。
それはまるで夏の日差しのように私の心に降り注ぎ、そして私の胸の奥に雪のように積もりに積もった寂しさを……ゆっくりと溶かしていく。
私の中で渦巻いていた負の感情たち。そのどれもこれもが一斉に溶け出していき、雪解け水の如く……涙と一緒に流れ出ていく。
「ひっく、ごめんね……ごべんね……っ、う、うう、うああああん………」
流れ出ていく罪悪感が口をついて出ていき、気がつくと私は涙ながらに夏樹くんに何度も繰り返し謝っていた。彼から与えられる罰はどうしてこんなにも、私の心を暖めてくれるのだろう。
私はしばらくの間、時が経つのも忘れてひたすらに泣き続けた。そして、いつまでも泣き続ける私を彼は……夏樹くんはただじっと黙って、優しく抱きしめ続けてくれていた。
さあ、ようやく先輩の心を覆っていた曇り空に光が差し込んできました。
次回からいよいよ……お待ちかねの濡れ場のシーンになります。
誠心誠意書き上げてまいりますので、どうかもうしばらくお待ちくださいませ。