TS男子大学生の受難 〜メス堕ちしても、君が好き〜 作:キツネリス
……えー、というわけで大変長らくお待たせいたしました。いよいよ最終話でございます。この投稿にお気づきになられました方々、ぜひ最後までお付き合いしていただければと思います。
2人でシャワーを浴び終えてから、私たちはその後結局出前を取ることにした。はっきり言って……ちょっとやり過ぎた。本当に膝がガクガクして歩くのもちょっとしんどいくらいだし、それにこれ以上からっぽのお腹をなだめすかし続けるのも限界だった。
とはいえなっちゃんと2人でスマホの画面とにらめっこしながら何を頼もうかなんて話していると、前よりもずっ近しくなった彼女との距離感になんだか心がぽかぽかと温まるような感覚を覚えた。
ふと、隣に座る彼女に目をやる。そして彼女の腰回りをちらりと見ては、頬をつい赤らめてしまう。なっちゃんは今、うちに来たとき着ていた空色のタンクトップに加えて……なんと……なんと、私が普段着として常用していたピンク色のドルフィンパンツを身に着けているのだ……!
(わ、私の部屋着を、な、なな、なっちゃんが着てる……!)
――
何故こうなったのか?それは浴室から出た直後の時間にまでさかのぼる。
お互い身体を拭いた後、私の方はいつもの部屋着に着替えた。薄いピンクのキャミソールにパステルイエローのドルフィンパンツ……外に出るときは出来るだけ体のライン、特に腰回りがはっきり分かるような服装は避けるのだけれど、自分の部屋ではさすがにくつろぎやすい格好で居たいと思うのが自然じゃないだろうか。
私が着替えをあらかた済ませながらふとなっちゃんの方を見ると……驚いたことに、彼女はタンクトップとショーツだけ着てさもこれで着替え終わりましたよーなんて言わんばかりにほっと一息ついている。
「な、なっちゃん……?あ、あの、し、下は穿かないの……?」
私は困惑するあまり唇の端をひくつかせながらぎこちない口調で彼女に尋ねた。
「え……?いや、だって暑いじゃないですか。今日履いて来たズボン、生地が厚くてずっと穿いてるのつらいんですよねぇ」
彼は落ち着き払った様子でそう答えた。……駄目だ、今の彼女の姿は刺激が強すぎる。ついさっきまで散々その……張り切ったおかげでまだなんとか落ち着いていられるけれど……夏樹くんったら、絶対分かってやってるに違いない。……嬉しいと言えば、嬉しい……けれど。
「……せ、せめて、その……わ、私の部屋着、貸すから……それ穿いてほしい……かな……っ」
――
と、まあ……そんなやりとりを経た上で、現在に至るわけなのだが。はっきり言って今すぐ顔を覆ってしまいたくなるほどに気恥ずかしくて、なんだかそわそわと落ち着かなかった。
「先輩?なんだか顔赤いですよ?」
「き、気のせいじゃない……かな」
不意になっちゃんに声をかけられて私はビクッとしながらつい目を泳がせてしまっていた。
「……お昼は軽めに済ませます……?またシタそうだし……?♡」
そんな私の胸の内を彼女は見透かしているかのようで、こちらをからかうようなことを言いながら……タンクトップの襟元に指を引っ掛けて胸元をチラ見せまでしてきたのだ……!
それが視界の端に映った瞬間私は思わず目を見開きながら息を呑んでしまった。私を誘惑する彼女の谷間……そして、ブラを身に着けていないためにもう少しまで乳首まで見えそうになって……!
「か、かか、からかわないでよなっちゃん……!それにほら、なっちゃんこれからやることいっぱいあるんでしょ……!?」
私は咄嗟に顔を背けてその魅惑的な光景から瞬時に視線を外した。そして私を誘惑しようとするその態度を今は慌て半分だがたしなめる。
「ふぅ……やっぱ後回しにしちゃ不味いですよねぇ……」
私の言葉に色めいた様子が鳴りを潜め、スマホの画面へと視線を落としながらなっちゃんは呟いた。
夏樹くんが女体化症候群を発症して女の子になってしまったことを彼はまだ私の知る限り他の誰にも話していないし、どの公的機関にもそのことを知らせに行っていないはずだ。家族だったり、親しい友人だったり、バイト先の人たちだったりと、事情を話して回らないといけない対象は多岐に渡るだろうし、場合によっては書類の手続きだとか、証明写真の撮り直しだとか……素人考えで少し頭を働かせただけでも、やらなきゃいけないことはいっぱいあるように思えた。
「んー……とりあえず、バイト先には一回連絡はしとくべきだよなー……後はー……えーっと……」
なっちゃんは真面目な顔をしながらうんうん唸り出した。しばらくすると額に手を当て深刻そうな面持ちであれこれ思案し始めた風な様子を見せる。私はそんな彼女の横顔をなんとなしに眺めてしまう。
……綺麗だ。元々男の子だったときから顔立ちの整ったかっこいい印象だったけど、今は女の子になってなお凛々しさが増したというか…………
あれ……?なんだろう…………
私……なんだか……ほっぺた、熱くなってきてるような……?
「あー駄目だ!さすがにもうお腹限界……!」
なんだかなっちゃんの横顔に吸い寄せられていきそうな気分になりかけていたのが、彼女が急にスマホを投げ出して後ろにばたーんと体を投げ出してしまうのに思わずビクッと驚きながら我に返る。すると……
…………ぐぎゅるるるぅ〜…………
およそ女の子がさせたら顔を真っ赤にすること間違いなしの大きな腹の虫の鳴き声が響く。…………穴があったら入りたいと思う瞬間だった。一つだけありがたかったのは……なっちゃんも似たようなタイミングでお腹がなって、彼女も苦笑いしながらちょっと恥ずかしそうな表情を見せてくれたことだ。意図せぬタイミングとは言え、少しだけ気が楽になる思いがする。
「ごめん、よく頼み慣れてるから吉田屋の牛丼頼んじゃっていい……?」
恥ずかしついでになっちゃんがそう提案してきた。私に断る選択肢なんて無かったし、何より今まで知らなかった食分野、そして些細なこととはいえ彼の新たな一面を見られるんだと思うとむしろちょっとした好奇心すら湧いてくるほどだった。
「えと……さっぱり系のメニューってあるかな……?」
「あるある、任せといて」
遠慮がちに尋ねる私に対して、すっくとまた上半身を起こしながら快諾する彼女の姿に……わたしはなんだか、安らぎを感じていた。
そして……遅めの昼食を済ませ、なっちゃんと2人でこれからのことや、今まで話したことのなかったような話題で盛り上がったり……ときどきまたちょっと、イチャイチャしたり……そうしてそれまでの急転直下が嘘のように穏やかな1日が過ぎていき……
――
そして、それから数日経った後のこと。
私達は今、市役所に来ている。
私達は一番単純でなおかつ一番重要なことが、信じられないことだが昨日までの段階ではすっぽりと抜け落ちていた。
そう……夏樹くんはこれから戸籍上の上でも、『女性である』、と証明しなければならないのだ。
ただそうは言っても別に何か大層な試験があったりするわけじゃない。単に必要な書類を一通り揃えて提出すれば、それで済む。ごく簡単なことだ。なのだけど……
役所内の案内一覧を眺める夏樹くんのすぐそばに立ちながら、ふと私は建物の中を見渡した。
建物の中にはオフィスデスクがずらっと並んでいて、そこで働いている人々のいわゆる生活音のみが本当に穏やかに聞こえてくるだけの光景が広がっている。
どの人も自分の仕事に熱心に励んでいてこちらをわざわざ興味ありげに見つめてくる人なんてまず居ないのだけれど……それでもなんだか、この場に居ること自体をなんとなしに咎められているかのような、そんなうっすらとしたそこはかとない居心地の悪さを感じてしまう。
もちろん、向こうからしたら私なんて大して興味もない赤の他人でしかないだろう。そう思いはしても、長年人目をはばかるように生きてきた私にとっては、この衆人環視の環境に置かれたように錯覚させられてしまうこの場所が、なんだか少し怖く感じられて……思わず隣に立つなっちゃんの陰に隠れてしまいたくなる。
やっぱり外で待ってれば良かったかな……?自己嫌悪に胸が締め付けられて、息が詰まりそうになる。やっぱり、付いてくるんじゃなかった。一緒に行くなんて言わなきゃよかった。
辛いよ…… 苦しいよ…… 助けて、夏樹くん……っ
私の周りだけ重苦しく空気がのしかかってくる。だけど、次の瞬間ぎゅっと手を握られてその空気がどこかへと吹き飛んでいった。まるでそよ風が嫌な空気を運び去ってくれたかのようだ。
この手を握る、なっちゃんの指先に想いを馳せてみる。ほんの少し細くなった、しなやかな指先の感触……思わず握り締めた手のひらから伝わってくる感覚は、ほんのちょっと変わってしまったけれど……私はこの感触をずっと前からよく知っている。
「大丈夫ですよ、先輩」
優しく響く、
……そうだ、思い出した。
彼は仲良くなって間もない頃からよく、こんな風に人が大勢いるのを前にして尻込みする私の手を引いてくれていた。いつも自分が前に出て、私のことをかばってくれて……時には、人通りの少ない道を優先的に選んでくれることもよくあった。
何も、変わっていない。変わらず優しい彼が居る。
女の子になっても、なんだか綺麗になっても、背丈が私と同じくらいになっても。
彼は……夏樹くんは、そこに居る。
「それじゃ、行こっか」
「う……うんっ……」
なっちゃんもさすがにこんな場所で手を繋ぐのは恥ずかしいのか、はにかみながら私に小声で囁いてきた。でも、彼女が手を繋いで勇気づけてくれるおかげで私はもう、何の息苦しさも感じなくなっていた。
その後なっちゃんは特別何かにつまづくようなこともなく、無事必要な手続きの申請を終えた。そして、受付を担当してくれた職員の人から控えとして新しい戸籍抄本を受け取ると……手渡された書類の性別の項目が、間違いなく『女性』となっていた。こうしてなっちゃんはついに、名実ともに女の子と認められたことになる。
「ふー。お待たせ、それじゃ残りの用事を済ませに……?」
市役所での用事はこれで済んだ。もうここに用はないし、今日は他にも行くところがあったから2人で外に出ようとしたんだけど、なっちゃんが急に何かに気を取られたように押し黙った。
「なっちゃん……?」
不思議に思い彼女の様子を見る。どうやら役所内のとある一点を見つめているらしく、視線を追うように顔をそちらに向けると役所の窓口に提出するための書類が一通り並べてある立ち机があった。しばらくすると、なっちゃんが再び静かに口を開いた。
「ねえ先輩。ついでに……『アレ』も一緒に出しちゃいますか」
「……?アレ……って……?」
なっちゃんは私に小声で耳打ちしながら控えめにある場所を指さした。それは、立ち机に並べられた書類束のうちの一つ。私は彼女のこのときのいたずらっぽい声色が何を意味しているのかすぐには理解できず、頭上にクエスチョンマークをグルグルさせながら彼女の指先を凝視した。ほどなく意識がそちらに向かうと、彼女の指さすものの正体が眼前に明らかになる。
その書類は薄い桃色に彩られ、そしてこう印字されていた。
『婚姻届』……と。
「な、な、なな…………!?」
私は思わず顔が真っ赤になってしまった。……実を言えば、女体化症候群に罹患した後そのままの姿を選択したいわゆる『元男性』に限り、なんと同性婚が認められている……んだとか。
私は頭の中が真っ白になった。……いや、厳密に言えば、真っピンク、と表現したほうが正しいかもしれない。私の脳裏に一瞬にして……ウェディングドレスを着たなっちゃんや、エプロン姿のなっちゃんが思い描かれていく。それも、あろうことか裸エプロン姿のなっちゃんまでもが思い浮かんできて……!
「ま、まま、まだ早いよなっちゃん……!」
「ふぅん……したいと思ってくれては、いるんですね……?」
私は慌てて良からぬ妄想を振り払い、そしてかろうじてそう小声で呟いたのだが……呟いた後で自分が無意識のうちに『まだ』と付け加えてしまったことにはたと気が付き、そしてそれを見事に彼女に拾われてしまい、そこで私の思考回路は黒煙をあげてショートしてしまった。
「ふふ…………そのうちまた来ましょうね……?」
「あ、あうう……」
少しの沈黙があった後、いかにも満足げな声色でもう一度だけなっちゃんがささやいた。私は恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になってしまい、別の意味で周囲の視線が気になりだしてもう気が気じゃなかった。穴があったら入りたいとは正にこのことだ。
なっちゃんに手を引かれて市役所の外に出ると、私はようやく生き返ったような思いがした。緊張の糸が切れ、その後深く息を吐く。
「もう、からかうなんてひどいよなっちゃん……!」
「別にからかってなんかいないですよ。本気で言ったことですし?」
「む、むうう〜……」
緊張が解けた私は先ほどのやり取りについて抗議した。が、夏樹くんはあっさりと私の一枚上を行ってのける。彼からの好意がひしひしと伝わってくるために、私はそれ以上何も言えなくなってしまった。
してやられたというわずかばかりの悔しさと……それをあっという間に覆い隠してしまうほどの嬉しさ。そして、悔しさは後から湧き上がる暖かな気持ちの中に溶けていく。思わずふてくされてしまっていた顔も、ほどなくすると嬉しさと照れくささで笑みが浮かんでくる。
…………でも……よく考えるとさっきの私の妄想、まるで男の子みたいだったなぁ…………
「さ、気を取り直して……今度は先輩の用事を済ませに行きましょうか」
「あ、うん……っ」
後から自分の思考回路を振り返り一人勝手に傷心に至っていたところ、夏樹くんの声がして私は現実に引き戻された。
そして彼の言葉で思い返す。そう……今日は私も一つ、実行に移すべく決心したことがある。それは夏樹くんのそれに比べればほんの些細なものだけど……それでも、これまでの私からしたら大きな一歩なのだ。
――
役所を後にした私達はその足で、今度は別の施設にやってきていた。……そこは、古本屋だ。
私はここに、自分がこれまで買い漁っては読み込んでいた恋愛小説のいくつかを処分するつもりで来た。そして、ゆくゆくはもっている全てのそれらを処分するつもりだ。
「それにしても……あんなに熱心に集めていたのに、本当に手放しちゃうんですか?」
買取カウンターに向かう道すがら、なっちゃんが私にどこか気を遣った様子で尋ねてくる。彼と知り合い仲良くさせてもらってきたこのおよそ2年間、彼と交わす話の種にこの書物たちが大いに関わってきたのは事実だし、つい最近だって彼が私の探していたお目当ての作品を見つけてきてくれたばかりだし、そういったことを思えば……今隣にいる彼女がなんだかしょんぼりとしてしまっているように見えたとしても、無理もないことかもしれない。
「……私には、もう必要ないかなって……なんとなく、そう思うの」
「それって、どういう……?」
私のいまいち掴みどころのない答えになっちゃんはまだわけが分からないといった様子だった。
「…………ないしょ」
このごろなにかとからかわれっぱなしだった私はほんの出来心でちょっと仕返ししてみたくなっちゃって、いたずらっぽくそう返してみた。いつもの私らしくない、ちょっと子供っぽい物言いに自分で口にしていてちょっと可笑しくなってしまう。
「意地悪な先輩」
「……ふふ……」
ちょっぴりむすっとした様子でつぶやく彼女の、そのらしくなく子供っぽいじとっとした目つきがなんだか可愛らしく思えて、そんな表情を見られたのがなぜだか面白くて嬉しくて、気がつけば私の口元はにまにまと、ちょっとくすぐったい感じの笑みが浮かんでいる。
そんなやりとりを交えつつ、古本屋での用事は大した時間もかかることなくあっさりと終わったのだった。
私にとって……少なくとも、ついこの間までの私にとって、恋愛小説は言わば心のよりどころだった。
人との関わりを必死に避けてきた私にとって、友達を作ったりだとか、ましてや恋をするなんていうのは到底考えられないことだった。望むことも許されない禁忌……かつての私は、本気でそれほどまでに自分を追い詰め、そして追い込まれていたのだ。
それでも、人というのは孤独に対してとても弱い。誰にも頼ることなく一人で生きていくなんていうのはとても辛いことで、私はその辛さと寂しさをほんの一時的にでも埋めたくて、その結果本の世界に、空想上の恋物語の中に逃げ込んだのだ。
私は何冊も何冊も読みふけった。読んで読んで、お話の中に出てくる女の子たちに思いを馳せて、そうやって寂しさを紛らわせようとした。例え一時しのぎにしかならなくても、後から空しさに襲われたとしても、私は貪るように読み漁るその行為から離れられなかった。それが、私にとっては必要不可欠だったのだ。
……………………でも。今は違う。
今は、
私の隣で手を繋いでいてくれる彼女は、この手のひらに感じるぬくもりは、決して空想上の存在でも、妄想の産物でもない。
数日前を境に明確に紡がれ始めた、彼女と共に歩む恋物語……それは私だけのもの。私と彼女、2人だけのもの。
これから彼女と一緒に過ごす時間は、きっと寂しさとは無縁でいられるに違いない。彼女の見せる微笑みが、そして時折発揮されるちょっと小悪魔的な横顔が、そう予感させてくれる。
だからこれからは……ずっと彼女だけを見ていようと思う。そうしたいと、心の底からそう願っている。というか、彼女のほうが私によそ見を許してくれないんだろうなぁ……とも思えてしまうのだけれど。
ともかく…………そういうわけで今までお世話になってきた空想上の彼らや彼女たちには、今日を限りにお別れしよう。
今まで支えになってくれてありがとう。でも、きっと私はもう大丈夫。
なぜなら……私と
「さてと……もうそろそろお昼だけどどうします?」
「んーどうしようか……」
私達は古本屋を出た後、特に決めていなかった午後の予定について頭を悩ませた。夏樹くんに話を振られたものの、これといって名案もなく考えあぐねていると……
「あら?貴方達、こんなところで会うなんて奇遇ね」
不意に一人の女性から声をかけられた。その声のした方向に二人揃って視線を向けると、それはよく見知った顔の持ち主だった。
「あれ、特別内科の先生だ。病院の外で会うなんて思ってもみませんでしたよ」
私が口を開くよりも先に夏樹くんがそうやって彼女に返したのを耳にして驚いた。目の前の彼女は私にとってのかかりつけ医でもあったからだ。つまり、私達は偶然にも同じ先生に診察してもらっていた……ということになるらしい。
「ええ、本当に。しかも……そう、まさか私の患者さんたちがこんな親しい間柄だったなんてねぇ。さっき見かけたときはびっくりしちゃったわ」
「え、えへへ……」
先生が微笑みながら私たち二人を見つめてそう言い、私はその言葉に照れ笑いを返した。私たちは今やもうどちらからともなく自然と手を繋ぎ合うまでになっていたし、その光景は端から見ればもはや恋人同士という関係を思わせるものに違いなかっただろう。
私がそのまま控えめに笑っていると、不意に繋いでいた手が解かれる。どうしたんだろう?と思う間もなく、夏樹くんの腕が私の腕に絡められ、気持ち強めに引き寄せられる。
「へへ、驚きました?オレたち実は仲良くなってもう二年以上経つんですよ。」
「あらそんなに?それは知らなかったわ……でも、似合いの2人って感じ。仲が良いのがとてもよく伝わってくるもの」
いたずらっぽい笑顔で話す夏樹くん。それを聞きながら楽しげに微笑む先生。そんな2人を尻目に私はというと。
「あ、あはは…………」
夏樹くんが腕を絡めてきたおかげで私の二の腕にはふにゅりと柔らかな感触が強く押し付けられていて、そのせいで半ば強制的に引き起こされてしまった生理現象を必死に隠し通そうと誤魔化し笑いをするのが精一杯なのだった。
そうこうしているうちに予定があるからと行ってしまった先生を私たちは軽く見送り、そうしてようやく一息ついたところで私は少々むくれて夏樹くんにささやかながら抗議した。
「も、もう、ひどいよ夏樹くん!そ、その……ば、バレたらどうしようって思ったじゃない!」
「んんー?バレたらって……何がバレそうだったんです?」
ところが当の夏樹くんといえば、まるでしらばっくれた様子で尋ね返してくる。これは、何がと問われて私が恥ずかしさゆえに答えに窮するのを見越しての反応に違いない。事実、「さっき夏樹くんが腕を組んできたせいで思わず勃起しちゃったことがだよ!」……などと言い返すことは、到底できそうになかった。
そして答えに窮した私をにまにまと楽しげに微笑みながら見つめてくる。見つめられた私はほんの少し湧き上がった怒気をあっさりと吹き飛ばされて、後には見つめられて恥ずかしいという気持ちと、着衣の下ですっかり
「ふふ…………とりあえず、どこかで一度……
やっぱり夏樹くんは私のことをどこまでもよく分かっている。私の耳元に唇を寄せて色っぽく囁いてくる彼女の声に、私はただただ頷くのが精一杯だった。
――
私はこの世に、ある種における奇形児として産まれてきた。それは言うまでもない、女性でありながらその身に陰茎を生やした、異形の姿。
私は言わば化け物だ。抱えた秘密を周囲に打ち明けることもままならず、ただひたすらに自分の世界に引きこもり続ける。それはまるで、寒くて暗い海の底に一人ぼっちで漂う深海魚。
だけど、そんな私のもとに1人潜ってきてくれた人がいる。その人は、絶えず私のそばにいてくれて……そして、正気を失った私に一度傷つけられてもなお、私のそばから離れようとしなかった。
冬の寒さの如く凍りついた私の心。そこに、
私は今、幸せだ。私はもう、化け物じゃない。
今、私の目の前には、雲一つない透き通るような晴れ空が……私たち二人を祝福するかのように、広がっている。
これからも……末永くよろしくね、夏樹くん。
終わった……ようやく終わった……我ながら長く苦しい戦い、もとい執筆活動でした。
振り返ってみると、自分自身が抱えていた「こういう物語を読んでみたいんじゃ!!」という妄想の発露をきっかけとした、言わば作者にして同時に読者第一号ともなる自給自足的執筆活動。それもようやく一つの作品を完結させるところまでこぎつけることができました。
執筆活動を続けていく上で色々と壁(主に仕事が多忙すぎて一度真面目に体調崩したこととか)にぶち当たることもありましたが、それでもめげずに書き上げることができたのは、やっぱり大勢の方が興味を持ってくれて、実際に読者として私の作品を読んでくれたこと。そして思い思いの感想を投げかけてくれたこと。これらが大いに励みになったおかげだと思っています。
それでは最後に、ここまでお付き合いしていただいた皆様。本当に、ありがとうございました。そのうちまたなんか気がついたらエロい話書いてぶん投げに来るかもしれないので、そのときは興味が向きましたらまたお付き合いしていただけると嬉しいです。
では、またいずれ。