TS男子大学生の受難 〜メス堕ちしても、君が好き〜 作:キツネリス
先輩に途中介抱してもらったことでようやく俺は無事目的の病院にたどり着き、今は特別内科の診療室で担当医師の前に座っている。
特別内科とは女体化症候群にかかった男性を治療するために設けられたより専門的な内科…という意味らしい。ただ実際のところはこの病気一つに限らず通常の内科としての診療も行っているという話だ。ちなみに女体化症候群にかかった男性が抵抗を覚えないよう特別内科に所属する医師はもれなく全員女医のみが選ばれるとされている。喜ぶべきところなのか、俺は判断に悩んだ末深くは考えないことにした。
「それにしても珍しいわね、20歳を過ぎて発症した患者さんは私の知る限りでは貴方が初めてよ」
目の前の女医も俺が成人を迎えた後で女体化症候群を発症したことに驚いていたが、まずは本来の役割を果たすべく女体化症候群の治療方法についてあらためて説明してくれた。
「現在貴方のその病気は投薬治療によって治すのが一般的なの。今日飲み薬を4週間分出すわ。毎日欠かさずそれを飲んでしばらくは安静にしていれば貴方は元通りの男性の体に戻ることができる」
女医の言葉に俺はひどく安心した。毎日欠かさず薬を飲む、たったそれだけでこの忌まわしい女体とおさらば出来るのなら願ったり叶ったりだ。
このまま男に戻れず先輩と一生ただの良いお友達のままで終わるなんてまっぴらごめんだし、それでなくてもこの胸と尻のやけに大きな体つきを男友達連中が見たときに何を言い出すか……そのうちの特に下ネタ好きな1人が、ちょっと揉ませてくれよ〜なんて鼻の下を伸ばしながら迫ってくるイメージが頭をよぎる。あまり気持ちの良い光景ではなく、内心震え上がってしまった。
最初の説明を終えた後、女医は少し深刻そうに眉をひそめながら続けた。
「ただし気を付けてね。この薬を飲み忘れればそれだけ元に戻れる可能性が低くなっていくわ。もし貴方が男に戻りたいなら毎日欠かさず飲むのよ」
「えっと…具体的にはどの程度忘れるとアウトとか、あるんですか?」
俺は先生の言葉に面食らうあまりつい質問を返してしまう。もちろん元に戻りたいという気持ちは揺るぎないし言われたことを怠る気なんてのもさらさら無いわけだが、かといって一切飲み忘れてはいけないというのも中々プレッシャーだった。
そんな俺の思考を察したのかどうかは分からないが、ともかく女医の先生は眉間のシワは緩めつつも表情はそのままに淡々と説明してくれた。
「あなたも昔小学校で説明されたと思うけど、この病気は異常な女性ホルモンの過剰分泌によって引き起こされたものなの。あなたの体内では今も女性ホルモンが必要以上に作られ続けている…それを抑えて、本来のホルモンバランスに戻るまで抑制し続ける。それが今日出す飲み薬の役割よ。ただし…出来るのはあくまで抑制だけ。飲み忘れればその分また過剰に分泌され続け、体内に蓄積されたホルモンはあなたの体をより女へと固着させようと悪さをするの。それを放っておけばやがて脳が、体は女性であるということを正常だと認識するようになってしまうわ」
思っていた以上にその病状の内容が恐ろしく思えて俺はしばらく何も言えなかった。その心境を察したのか先生はさらにこう付け加える。
「さらに厄介な点として…あなたの体がどれくらいのペースで女性ホルモンを作るようになっているのか、また今現在どれだけのホルモンが蓄積されているのか、それらを正確に測るのは難しいの。だから、本気で男性に戻りたいのなら…万全を期して、絶対に飲み忘れてほしくない…と、言うのが医者としての本音ね。分かってもらえたかしら?」
最後の最後にこちらの緊張をほぐそうとしてなのか、先生はほんのりと微笑みを浮かべながら説明を終え、俺は言葉が出ないままコクコクとただ頷いてみせた。
「それじゃあ診察はこれで終わりだけど…そうそう、最後にあなたにこれを渡しておくわ」
先生はそう言うとおもむろに1枚のパンフレットを渡してきた。受け取り表紙を見ると、『これから女性として暮らしていくあなたへ』なんてタイトルが大きく載せられている。俺は最初意味がよく分からなかった。
「あの、先生…これは……?」
わけがわからないまま質問を投げかけた俺に先生が答える。
「これはあくまで形式的な説明になるけど、もしあなたがそのまま女性として暮らしていくことを選択するのなら、そこにはそのために必要な手続きの仕方が諸々載せられているわ。今は必要ないかもしれないけれど万が一に備えて…持っていきなさい」
その言葉に俺は思わず笑いそうになってしまった。そりゃあ世の中には自分は女だって自認している人もそれなりにいるかも知れないけれど、大多数の男にとってはそんなの無縁の願望だろう。俺だってそうだ、ここにだって男に戻るために来たのだから。それを、もし女として暮らしていくことを選択するのなら、だって…?
「やだな先生…こんな病気になって男に戻りたくない奴なんているわけないじゃないですか」
俺は可笑しそうな顔をしながらそう言ったが、実際のところ心の内では少しばかり嫌悪感も抱いていた。男の抱える性的嗜好というのは時に罪深いもので、世の中には女体化症候群を単なるエロネタとして取り上げる下衆な輩もそれなりに存在するのだ。
彼らの作る極めてアングラなコンテンツの中では、昨日まで普通に親しく接していた友人や隣人、家族、教師などといったあらゆる男性たちが、ある日突然発症して女になってしまったその人物にことごとく迫っては性欲の限りをこれでもかとぶつけまくり、挙句の果てにはぶつけられた側も心まで女に作り変えられて堕ちていく…なんておぞましい光景がさも日常的に描かれているのだ。
初めて目の当たりにしたときですら実在する病気を平然とネタにするその厚顔無恥っぷりに苦い顔をしたものだが、言ってみれば今はそれこそ自分自身がそうした性欲の捌け口そのものとなっているも同然なのだ。そのことに嫌悪こそすれど、一体誰がそのまま女性として暮らしていきたいなどと思うのだろうか?
俺の考えていることをどれだけ察しているのかは分からないが…ともかく先生は困ったように眉尻を下げながらも、若干の笑みを浮かべつつ答えた。
「……案外そのまま女性であろうとする人も、結構居るのよ…」
女医の言葉は今の俺には到底信じられなかった。
その後俺が20歳を過ぎて発症した珍しいケースであることもあり、何か少しでも体に異変が起こるようならすぐ連絡するように念を押してきた上でその日の診察は終わった。
診療室を出て待合室にまで戻ると、先輩はソファの一角に腰掛けてじっとうつむいていた。その横顔はなんだか物憂げで、その様子が気になったものの俺は努めて明るく接するようにしてみた。
「せーんぱいっ、診察終わりましたよ」
「ひゃっ…あ、お、お疲れ様、夏樹くん…」
俺が声を掛けると先輩はびくっと少し肩が跳ねて驚いた姿を見せた後、少し遅れてこちらに気がついたようでバツが悪そうにしながらも受け答えしてくれた。しかしながらまだなんとも暗い雰囲気が拭えないように見えた俺は、彼女の隣に腰掛けた後沈黙に耐えきれずについ尋ねてしまう。
「どうしたんです?さっきよりなんだか元気がないみたいですけど…」
「う、ううん、なんでもないの…そ、それより、さっきは本当、ごめんね…その、変なところ触ったりして…」
(ああ、バスから降りたときのことを気にしてたのか…)
その言葉で俺は先輩のおおよそ考えていることに察しがついた。
「気にしないでくださいよ、先輩のおかげでさっきは転ばずに済んだんですから。それに、先輩は女の子なんだし、別にその…ちょっと触っちゃうくらいどうってことないですって。実際オレだって気にしてないですし」
「でも…」
先輩はなおも遠慮がちに言い淀んだ。俺は申し訳なさそうにしている彼女のしょんぼりとした様子を見ているのが忍びなくて、少しでも元気づけてあげられないかととにかく思考を巡らせた。そして頭の中に一つ名案が思い浮かぶ。
「そうだ、先輩良かったら今日オレの家に寄っていってくださいよ。この前読みたいって言ってた恋愛小説の本、あったでしょう?アレつい最近届いたんですよ。今度大学で会うときに渡そうかなって思ってたんですけど、先輩さえ良ければ今日受け取ってほしいなって」
「え……で、でも…本当に、いいの…?」
俺の提案に先輩はまだ遠慮していながらも、少しぐらついた様子をみせた。俺は確かな手応えを感じつつ、この際先輩ともう少し踏み込んだ関係になりたいなんてちょっとした下心も手伝いさらに続けた。
「ついでって言ったらなんですけど、うちでコーヒーでも飲んでいきません?…いつもならこんな誘い躊躇するところなんですけど、今はホラ、女同士だし」
忌々しいと思っていた病気でもモノは使いようだ。実際この体が彼女から相当な好印象を受けているのはここまでの道中で悲しくなるほどに理解できている。この際利用できるものは利用してしまえ、そんな思いでまくし立てた。
「え、えと、えと…じゃあ…お言葉に、甘えちゃおうかな」
「ふふ…決まりですね」
そう口にした先輩にようやく笑顔が戻る。遠慮がちながらも微笑む顔を見ていると、なんだか俺も安心したせいか急にどっと疲れが押し寄せてきて椅子の背もたれにどっと体を投げ出してしまった。
安心したところで自分の家について思考を巡らせ始める。咄嗟の思いつきで見切り発車的に誘いをかけてしまったが、見られてはまずい物は散乱していなかっただろうか?あったとして片付けに時間はかかり過ぎないか?目を閉じ脳内でシミュレーションを行い試行しようとして…
ふと、鼻腔を何やら妙な匂いがくすぐることに気がついた。
その匂いは非常に微小で最初全く気が付かなかったが、いざ感知してしまうと無視しようとしても居座り続けて仕方がない。なんならこの匂いが絶えず気になって他のことが手につかなくなりそうなほどだ。
例えるならば…発酵食品。必ずしも嗅いでいて心地よいとは限らない、が、嗅いでいるとなんとなくクセになるような…そんな匂い。
(にしても…いったいどこから……?)
こんな病院にそんな匂いの出る食品を持ち込もうなんて人間はまず居ないだろうし、となると発生源は大体限られてくる。…現状を思うとあまり考えたくない可能性ではあったが。
このとき俺の脳裏には高校時代の記憶がぼんやりと浮かび上がってきていた。同級生の男子生徒の1人にやたらと下ネタ話の好きなお調子者がいて、彼のしていた話にこんなものがあったのだ。
彼曰く、女は男が直前にシコってたかどうかが匂いで分かるらしい…と。
俺の中でこの得体の知れない独特な匂いと過去の記憶とが結び付き、近くに自慰行為をしたばかりの男が紛れているのではないか…?という嫌な推測が生まれていた。
(冗談だろ?誰だよ、まったく…)
しかめっ面になりながらきょろきょろと目だけを右往左往させそれらしい人物が居ないか確認してみたものの、自分たちの周囲に原因となりそうな対象はこれといって見当たらない。
だったら一体この匂いはどこから…?疑心暗鬼に陥った俺はついしかめっ面を浮かべてしまう。
「どうしたの夏樹くん…なんだか顔が怖くなってるよ…?」
だがそんな不快感に満ちた表情を見て心配になったのか、先輩から声をかけられて俺はハッと我に返った。
「え…あ、ああ、いや、なんでもないですよ」
先輩のなんだか不安そうな声色につい上ずったような声で誤魔化してしまった。
まあ、どこの誰かはともかくとしてもさすがにこちらに危害を加えてくるなんてことは無いだろう…俺はそう思い込むことで気持ちを切り替えることにした。
……それにしても……
ちらりと今度は俺が先輩の横顔を覗き見た。変な話女になったばかりの俺でさえ感じ取ることの出来たこの匂いに先輩が気づいていないなんてことがあるのだろうか?それが気になって俺は彼女の表情からその当たりを推察できないかと様子をうかがいたくなったのだ。
先輩の表情はどこか物憂げで、何かに困っているかのような…そんな印象を受けた。やっぱり先輩もこの匂いを嗅ぎつけてしまっているのだろうか?それでこんな悲しそうな顔をしているんだとしたら、その匂いを放っている元凶はなんて罪深い男なんだろうか。俺の中に小さな怒りの炎が灯る。
男に戻ったら、絶対先輩にこんな顔させない…!俺はそう強く決意を新たにした。
おや?冬子先輩の様子が…?(Bキャン不可)