美しき排泄──アナルを晒したストイック美女のゼリー排泄実演講義 作:鬼金目なむか
恵那は、スタッフが差し出したウェットティッシュを受け取ると、背を逸らして、ひと仕事終えたその部分を清める。
澱みない動きは、排泄の後処理というよりテーブルマナーの所作のようだった。
そして、一度立ち上がると、スタッフが便器内のオレンジ色のゼリーを慎重にシリンダーケースに収め、持ち去るのを見送った。
「さて、ここまでで何か質問はありますか?」
恵那は便器の傍に凛と立ち、前貼り姿のまま受講者に声をかける。
セミナールームが一瞬静まり返ったが、若い男性が手を挙げた。
「あの……すばらしいパフォーマンスでした。さいしょ驚きましたが、だんだん引き込まれて、学生のころ好きだった生物の授業のことを思い出しました」
かしこまって言葉を選びながら発言する男性に、恵那は微笑みかける。
「ふふ、アカデミックな視点でみてくださったんですね。ありがとうございます」
「それで、あの、排便のときの正しい姿勢は理解できました。ですが、正しくない姿勢でするときとどのくらいの違いがあるのかも気になります」
「なるほど……素敵な着眼点ですね」
問いかけを受け止めるように目を細める。そしてスタッフに何かの合図のように頷きかけた。
合図を受けたスタッフは彼女にシリコン製の器具を手渡す。
直径2.5センチ、滑らかな凹凸があり健康な便を模した器具である。ローションが滑らかに塗布され、挿入・抜去をしやすいように片方の先端には指をかけるリングもついている。
恵那はそのリングに指をかけながら軽く持ち上げ質問者に示す。
「では、この器具を使って、正しい姿勢とそうでない姿勢の違いを実演してみましょう」
彼女は再び便座に深く座り直す。
そして便を模したスティックを持つ手を背後に回すと、その先端を肛門に当て、ゆっくりと挿入し始めた。
モニターが2分割され、左側には便器の底に設置されたカメラから見た映像、右側にはスティック先端のカメラが捉えた肛門内部の映像が映る。
右側の映像には、恵那の肛門がスティックを飲み込もうとゆるやかに開く様子が映し出されている。
「……ふっ、うぅぅぅぅ…………」
恵那がスティックを押し込もうとわずかに力を入れ、同時にゆっくりと息を吐き出す。
すると、最初は入り口で抵抗感を示していたスティックが、ぬるんっと肛門に咥え込まれる。
全体の半分ほどまで入ったところで恵那はスティック後端のリングから指を離す。
スティックは既に括約筋に捕まっているため、落下することなく、
「ふぅぅぅ………ふぅぅぅ……」
という呼吸に合わせて、ぐぐっ、ぐぐっと更に奥へ入ってゆく。
そしてリングを肛門の外へ残し、スティック全体が埋没した。
「ふぅ…………入りましたね。このように肛門括約筋は呼吸と合わせることで、コントロールできます。……さて」
恵那がモニターを振り向くと、カメラのレンズが内蔵のライトで腸内を照らし、腸壁の微細な収縮が鮮明に映しだされた。
「まず、この姿勢――足を床につけ、背筋を伸ばしたままの状態ですと、直腸と肛門の角度が直角に近くなり、便が通りにくくなります」
恵那はわずかに腹圧をかけてスティックを排出しようとするが、外から見た肛門はほとんど開かない。
内部映像には、腸が無理に圧迫され、筋肉が緊張し力みによって固く収縮している様子が映し出された。
「見てください。力を入れても便がスムーズに出ないのです。この緊張状態のまま無理に出そうとすると便秘や痔の原因にもなります」
そう説明すると、恵那はゆっくりと姿勢を変え、スクワットポジションを取った。膝を少し上げ、前かがみにした瞬間、モニターに映る肛門内部の腸壁が滑らかに広がり、圧迫されていた角度が緩やかに変わっていく。
「このように、正しく前傾姿勢を取ることで腸の角度や緊縮が改善され、便が通りやすくなります。」
恵那は軽く腹筋を引き締め、穏やかに息を吐きながら腹圧をかけると、肛門に埋没していたスティックが滑らかに露出する。
肛門の外と内部の映像がスムーズに変化して、括約筋が、健康な動きで自然にスティックを押し出す様子が映し出された。
「ふぅぅ……ご覧ください。リラックスした筋肉がスムーズな排出を助けています。必要以上に力むことなく、自然な力で排便ができるんです」
ぷりゅっ──とスティック全体が排出されると、開いていた肛門が、ふっ……と仕事を終えたようにもとのすぼまりを取り戻した。
恵那はそのまま指にかけたスティックをスタッフに渡し手を消毒すると、受講者たちに穏やかな微笑みを向けた。
◆
質疑応答はさらに活発になり、排便や肛門に関する具体的な質問が飛び交い始めた。
透明便器に座りながらも凛とした姿勢は崩さず、恵那は一つ一つに対し、体を使って分かりやすく答えていく。
教室は次第に打ち解けた雰囲気に包まれていった。
「ふふっ、皆さん、気付いていますか? 普段ためらってしまうような話題も、今はオープンに話せていますね。わたしの実演は少しショッキングだったかもしれませんが、どうやらこの場の常識は壊せたようです」
セミナールームに和やかな笑い声が広がる。
そんな中、一人の女性が少し戸惑いながらも手を挙げた。
「あの……いいですか?」
恵那は微笑みで発言を促す。
「ええ、どうぞ。」
「その……ゼリーとはいえ、人前で排泄するのって恥ずかしくないんですか? 実演はとても美しくて感動しましたけど、やっぱり排泄は排泄だと思って……」
部屋の空気が、ぴん……と張り詰め、静寂が漂う。
「ふふっ、そう思うのは自然なことですよ。皆さんも、わたしの実演を見ていろいろな感情を抱かれたでしょう?」
恵那は口元に笑みを浮かべたまま、男性受講者たちに何かを見透かすような視線を送った。
少し目を細めると、モニターに映る肛門が妖しく笑いかけるようにゆっくりと開き、視線を受けた受講者たちは息を飲む。
恵那は、質問者に向き直り話し始めた。
「これは、正しい排泄のあり方を伝えるための実演です。そして、ここはそのための場なんです。たとえば医療の現場で、身体を見せることが恥ずかしいとは限らないのと、少し似ているかもしれませんね」
彼女は軽く息を吸い込み、部屋全体を見渡す。モニターに映る肛門は、静かにリラックスした状態を保っている。
「排泄を恥ずかしいと感じるのは、社会の中で作られた“常識”によるものです。でもこの場では、その常識を一度、壊してみたかったんです。健康に欠かせない行為なのに、それを隠さなきゃいけない──その意識こそ、わたし達を窮屈にしている気がします」
質問者の女性は、しかし不安げに眉根を寄せる。
「……答えていただきありがとうございます。でも…………」
恵那が視線で先を促す。笑みを湛えてはいるがその眼差しには真剣な色が帯びる。
「その……恵那さんは私の憧れです。SNSで投稿を見るたびに私もこんなふうになれたらなぁって想像して、トレーニングも真似して、そうしてたら暗い気分も明るくなるんです」
「ええ。ありがとう」
「だから……その、この場がある意味で医療現場みたいなもの、ってわかっててもこんなたくさんの人に………お尻の穴とか、排泄を見せるなんて……憧れの恵那さんのそんなところが皆に見られるなんて……すごく……憧れが、けっ……汚されたような気がして」
恵那はこの場で──「美しい排泄」の実演で、排泄というものに対するタブーを破壊してみせた。
だが、女性受講者が息を詰まらせながら口にした告白にも似た発言は、恵那によって反転した価値観を再び覆すタブーだった。
受講者の誰もがそう思って、空気が凍りついた。
「ッ! 私っ、何を……!? ご、ごめんなさい」
空気の変化に気づいて女性受講者は口に手を当て、顔を青くする。
「謝ることはありません。あなたの意見、すばらしいわ」
恵那は動じず、むしろ、安心させるように、ふ──と眼差しを優しくする。
「……わたし、この場に強い『魔法』をかけていました。何重にも。それは、あなたが言った『排泄は排泄』って常識を壊すため」
穏やかに、秘密の種明かしをするように口元で指を立てて、続ける。
「でも、完全にかかる魔法なんてありません。今のあなたの言葉で、むしろわたし、安心したんですよ? わたしは『美しい排泄』を広めたいと思っています。でも、ただ信じて突き進むだけじゃなくて──その途中で生まれる戸惑いや疑問にも、ちゃんと耳を傾けていきたいんです」
「そんなこと……私、恵那さんのこと否定するようなこと言ったのに……」
俯き、握った手を振るわせる女性受講者に、恵那は大事なものを壊してしまった子どもを慈しむような、そんな顔を向ける。
「いいのよ。異なる意見っていうのはね、わたしがどう進むべきかの指針になるの。……だから、ね? そんな泣き出しそうな顔しないで。もっと声をきかせてくださいね」
恵那が言い終えると、女性受講者はそれ以上何も言わなかった。
ただ、伏せていた視線をそっと上げて、もう一度──まっすぐに恵那を見た。
その後も質疑応答は続き、排便や身体との向き合い方について、さまざまな意見や質問が交わされた。
恵那はひとつひとつに丁寧に応じながら、参加した全員が恥ずかしさの先へと踏み出していくのを、静かに感じていた。