翌日の放課後。重い雲が空を覆い始めているのか、夕暮れの光は昨日よりもさらに鈍く、気怠いオレンジ色をしていた。それが、男子寮の、埃っぽい空気が澱む一室に、重いカーテンの僅かな隙間から、まるで底なしの沼から伸びる手のようにねっとりと差し込んでいる。埃が光の筋の中で静かに舞い、古びた絨毯を、まるで乾いて黒ずんだ血のような、陰鬱な赤茶色に染めていた。
櫛田桔梗は、綾小路清隆の部屋のドアの前に立っていた。心臓が、早鐘というにはあまりにも不規則で、破裂しそうなほど激しく胸を打つ。指先が、冷たい汗でじっとりと湿っていた。ドアノブに手を伸ばそうとするが、指は意志に反して震え、まるで赤熱した鉄板に触れる寸前のように、ドアの手前で空しく宙を漂う。
昨日の教室。あの机の上で、絶望の中で握らされたペン。罪深くも自分の名前を記したインクの、甘ったるく、そしてどこか腐敗したような化学的な匂いが、まだ指先にこびり付いているような気がした。その記憶だけで、胃の奥底から、苦いものが込み上げてくる。吐き気がする。
制服の下。そこには、彼女なりの、本当に僅かで、そしておそらくは無意味な抵抗の証として、意識的に選んだ白いレースの下着が、汗ばんだ肌に張り付いていた。清楚で、壊れやすそうで、守ってあげたくなるような…彼、綾小路清隆が好みそうなタイプの下着。
(せめてもの抵抗…? いいえ、違うわ。これも結局、彼の掌の上で踊らされているだけじゃない。彼が求める「純粋で無垢な櫛田桔梗」を演じるための、ただの道具。自分で自分を貶めているだけ…なんて皮肉なの)
自ら進んで、綾小路好みの、純粋で無垢な印象を与える装いを選んでしまったという事実。それが、へし折られ、歪んでしまった彼女の自尊心を、さらに深く抉り、内側から嘲笑っているようだった。クラスの男子たちが憧れる「清純な櫛田桔梗」のイメージ。それを、皮肉にも加害者である彼のためだけに再現しようとしている自分自身が、許せなかった。
(逃げられる…今ならまだ、引き返せるかもしれない…)
一瞬、そんな考えが脳裏をよぎり、踵を返そうかと身体が微かに動いた、その刹那。
目の前のドアが、まるで彼女の心の揺らぎと、その後の諦めを見透かしていたかのように、音もなく、ゆっくりと内側へ開いた。
廊下の薄暗がりの中に、綾小路のシルエットが長く伸びている。それは、まるで巨大な肉食獣が開いた顎のように見え、逃げようとした獲物である彼女を、静かに、しかし確実に飲み込もうと待ち構えているかのようだった。
「…30秒、遅い」
温度というものが全く感じられない、平坦な声が、彼女の頭頂から脊髄へと、鋭く冷たい感覚を走らせた。時間まで計られていた。彼女の行動は、完全に彼の監視下にある。
(やっぱり…彼は何も感じていないんだわ。ただの駒。時間を守るか守らないか、それだけを評価する、ただの使い捨ての駒として、私を扱っているだけ…)
彼の吐息が、すぐ近くで感じられた。実際に首筋に触れたわけではないのに、その気配だけで、全身の毛穴が、まるで危険を察知した虫のように、一斉に収縮した。肌が粟立つ。
昨日の屋上。あの吹き曝しの中で、暴力と共に刻まれた記憶。教室での、更なる屈辱。それらが、古傷が疼くように、肉体の奥底から鈍い痛みを伴って蘇り、彼女の思考を麻痺させていく。
「すみ…ません…でした…」
謝罪の言葉は、張り付いた喉の奥で、まるで乾いた紙が破れるような、悲痛な音を立てて千切れた。
綾小路は答えなかった。代わりに、まるでショーウィンドウから価値のない人形を掴み出すかのように、彼女の手首を無造作に掴んだ。その指は冷たく、硬く、彼女の細い手首を容易く砕いてしまいそうなほどの力が込められている。抵抗する間も、心の準備をする間も与えられず、彼女は為す術なく室内へと引きずり込まれた。
背後で、重いドアが、ゴン、という鈍い音を立てて閉まる。その音は、永遠に続くかもしれない、光の届かない監禁の始まりを告げる、絶望的な響きを伴う宣告のように、彼女の耳に届いた。
部屋の中央に、まるでこれから始まる儀式の生贄のように、櫛田は立たされた。窓から差し込む、もはや赤みを失いかけた、しかし依然として強い夕方の斜光が、容赦なく彼女の姿を照らし出す。その光の中で、彼女はまるで、埃をかぶったガラスケースの中に飾られた、魂のない、無機質な美術館の展示品のようだった。クラスメイトたちが普段目にし、その完璧なスタイルに感嘆の声を漏らす彼女の姿とは似ても似つかない、ただ存在するだけのモノ。
(価値を…値踏みされているみたい…)
彼の冷たい、分析するような視線が、彼女の頭のてっぺんから、制服の着こなし、スカートの丈、靴下の折り目、そしてその内側にあるであろう身体の隅々までを、まるでレントゲン写真でも撮るかのように、暴き、評価しているのを感じる。クラスの男子たちが憧れる、その均整の取れたプロポーション。すらりと伸びた脚、細いウエスト、そしてそれとは対照的な豊かな胸。それら全てが、今や彼の所有物として、彼の冷徹な評価の対象となっているのだ。
綾小路は、部屋の隅にあるシンプルなベッドの縁に腰を下ろした。そして、まるで何かを待つかのように、あるいは単に退屈を紛らわすかのように、指でゆっくりと、一定のリズムで膝を叩き始めた。トン、トン、トン…。その単調で、無機質なリズムは、静かな部屋の中で妙に大きく響き、まるで心臓の鼓動そのものを支配しようとするかのように、彼女の不安な脈拍に重なっていく。逃れられない、という感覚が強まる。
「一つ、指示に従わなかったな」
静寂を切り裂く、突然の、しかし静かな宣告。その言葉に、櫛田の繊細な眉が、恐怖に微かに震えた。心臓が、嫌な予感に凍りつく。
「下着を替えた。…俺の好みではないものに、だ」
彼は、膝を叩くのをやめ、真っ直ぐに彼女を見据えた。その目は、何の感情も映していないように見えて、その奥には、全てを見透かしているかのような、底知れない冷たさがあった。
(なぜ…? どうしてわかったの…?)
確かに、彼女は下着を替えた。昨日、彼に辱められた下着をそのまま着けていることへの、ささやかな抵抗のつもりだった。彼が好みそうな白いレースを選んだのは、抵抗しきれない自分への当てつけのようなものだったが、それは彼が指定したものではなかったはずだ。なぜ、彼にわかるのだろう。
「全て脱げ」
彼の命令は、短く、そして絶対的だった。それは、まるで冷たい銃口のように、有無を言わさず彼女の心臓に突きつけられる。
(また…? ここで…? しかも、今度は自分の手で…?)
昨日、教室で、そして屋上で、屈辱的に衣服を奪われた記憶が蘇る。そして今度は、彼の部屋で、彼だけが見ている前で、自らの手で脱がなければならない。
櫛田の指が、まるで自分の意志とは無関係に動く操り人形の糸に引かれるかのように、震えながら、制服のブラウスの第一ボタンへと伸びる。その指がボタンに触れようとした、まさにその瞬間。
チッ、と綾小路の鋭い舌打ちが、静かな部屋に冷酷に響き渡った。
「…手袋を使え」
彼は、近くのテーブルに置かれていた、薄いラテックスの手袋の箱を顎で示した。
(てぶくろ…? なぜ…?)
ああ、そうか。理解した瞬間、更なる屈辱が彼女を襲った。彼の汚れた手で直接触れることすら許されない。そうではない。彼自身の、あるいは他の何かの「汚れ」から、彼の所有物である「商品」=私を守るため? それとも、私が自らの手で、この冷たく滑らかな人工物の感触で、自分の肌に触れ、衣服を剥ぎ取っていく様を、彼は見たいのか? 私はもう、彼の所有物であり、彼の気紛れな命令に従うしかない存在なのだから。
(この…冷たくて、生きていないような感触のもので、自分の肌に直接触れなければならないなんて…)
思考は悲鳴を上げて拒絶したが、裏切りの指先は、まるで抗えない磁石に吸い寄せられるかのように、手袋の箱へと伸びていった。薄い手袋を両手にはめると、自分の体温が遮断され、指先の感覚が鈍くなる。これでこの手袋は、自ら自身の、男子生徒たちが触れたいと願うであろう滑らかな肌を冒涜し、汚すための、許されない道具となる。
手袋をはめた指で、ブラウスのボタンに触れる。一つ、また一つと、まるで自分の魂の一部を、一枚一枚剥ぎ取っていくかのように、ボタンが外されていく。プラスチックのボタンが、手袋越しにカチリ、と小さな音を立てる。
(私の築き上げてきたものが…音を立てて崩れていく。このボタン一つ一つが、私の価値を、私の尊厳を、奪っていくみたいだ…)
薄い夏服のブラウスが、まるで硬い蕾がゆっくりと開くように、左右に分かれていく。その隙間から、冷房の効いた部屋の、容赦ない人工的な風が吹き込み、下に着けていた白いブラジャーとその下の素肌に触れる。鳥肌が立ち、特に敏感な乳首が、きゅっと硬く尖っていくのを、手袋越しの指先でも感じた。
(冷たい…まるで彼の視線そのものみたい…。私の体は、もう、彼の意のままになるしかないのね…)
自らの手で衣服を脱ぎ去るという、この上なく屈辱的な行為。それが、彼女から「羞恥心」という最後のヴェールを剥ぎ取り、意志の完全な剥奪を、これ以上ないほど痛烈に実感させる。ブラウスが肩から滑り落ち、まるで生命を失った抜け殻のように、くしゃりと音もなく床に落ちた時、彼女は既に、この歪んだ倒錯的な儀式の、単なる被害者ではなく、不本意な加害者の一端を、否応なしに担わされていたのだ。
白いブラジャーに包まれた、豊かな胸の丸みが露わになる。男子生徒たちが授業中に盗み見ては溜息をつく、その完璧な曲線。しかし今、それはただ、冷たい部屋の空気と、彼の無機質な視線に晒されているだけだった。
「続けろ」
綾小路の、決して熱を帯びることのない視線が、まるで獲物の表面を舐める蛇のように、彼女のウエストラインから、スカートのベルトへと、ゆっくりと這い上がってくる。
(見下されている…彼の目は、生きている人間を見る目じゃない。ただの物を見るような、評価するような、冷たさを感じる…)
櫛田は、乾いた下唇を強く噛み締め、手袋をはめた、震える指でスカートのサイドにあるファスナーの金具を掴んだ。ジーッ、という微かな金属音。それは、昨日の教室での屈辱的な記憶の引き金を、容容赦なく引いた。あの時と同じ音が、今度は自分の手で奏деられている。
スカートが、重力に従って、彼女の滑らかな太腿を滑り落ちていく。床に落ちたスカートは、ブラウスの隣に、もう一つの抜け殻として加わった。
残るは、白いレースのブラジャーと、同じく白いレースのパンティーだけ。皮肉にも、彼が好むとされている色と素材。なぜ、自分は彼の望む通りのものを、無意識に、あるいは意識的に選んでしまったのだろう。プライドなんて、もうどこにも残ってはいないのだろうか。自発的に、彼の歪んだ嗜好に合わせて選んだという事実。それが、彼女の羞恥心という名の、既に燃え盛る炎に、さらに屈辱という油を、どろりと注ぎ込む。
動きが、止まった。パンティーを、自分の手で下ろすことへの、最後の、本能的な抵抗。
「止めるな」
低い、しかし部屋の隅々まで響き渡るような、命令的な声。それが、彼女の胸に突き刺さる。ほんの僅かに残っていたかもしれない抵抗の意志を、鋭利なナイフのように断ち切る。
手袋をはめた指が、震えながら、パンティーのウエストラインのレース部分に触れる。そして、ゆっくりと、まるで汚い、忌まわしい包帯でも剥がすかのように、それを膝まで引き下げた。
その瞬間、綾小路は、ベッドから音もなく立ち上がった。彼の影が、巨大な壁のように彼女に覆い被さり、部屋の照明を遮る。そして、冷たく光る手袋をはめた彼の手が、まるで獲物を捕らえる猛禽の鉤爪のように、彼女の手首を強く掴んだ。
(怖い…! 彼の力は、いとも簡単に、私のどんな抵抗もねじ伏せる…!)
「…こうしろ」
彼は、有無を言わせぬ力で、彼女の震える手を導いた。まるで壊れた操り人形を操るマエストロのように、彼女自身の手で、パンティーをさらに足首までずり下ろさせる。
(自分の手で…こんな…屈辱的なことを…! もう、何もかもが壊れていく…!)
自らの手で、これまで誰にも、自分自身でさえもまともに直視したことのなかった、最も清らかであるべき場所を、この汚れた手袋で触れさせられ、衆目に(彼一人の目に)晒すよう強制される。
震える指先が、柔らかく、少しだけ湿り気を帯びた恥毛に、手袋越しに触れた瞬間、胃の底から、堪え難いほどの嫌悪感が、濁流のように込み上げてきた。
(汚い…こんな自分、見たくない…見られたくない…!)
「鏡を見ろ」
抵抗する間もなく、彼の冷たい指が、彼女の顎を掴んだ。そして、無理やり顔を上げさせ、部屋の隅に置かれた、大きな姿見の前へと立たせた。
(いや…! 見たくない! こんな姿、絶対に私じゃない!)
しかし、目は強制的に開かせられる。そして、見てしまった。鏡の中に映っていたのは――クラスの誰もが理想の少女として憧れる、完璧なプロポーションを持つはずの櫛田桔梗が、今はただ白いブラジャー一枚を身に着けただけの半裸で立ち、自らの手が、まるで自発的に愛撫するかのように、だらしなく足首まで下げられたパンティーの上から、自身の性器周辺を露わにし、そして、その顔には、苦痛と屈辱に歪みながらも、どこか恍惚としたような、自分でも信じられないほど淫靡で醜悪な表情を浮かべている、忌まわしい像だった。
(違う…! これは私じゃない…! こんな顔、こんな表情、絶対にしたくない…!)
「これがお前の真実だ、櫛田」
鏡の中の、どこか満足げにさえ見える自分が、まるで嘲笑っているかのようだった。その声は、綾小路の声のはずなのに、自分自身の内側から響いてくるようにも聞こえ、櫛田の背筋に、冷たい氷を直接押し当てられたかのような、激しい戦慄が走った。
(これが…私の…本当の姿…?)
認めたくない。けれど、鏡は冷酷に、その事実(あるいは、彼が作り出そうとしている事実)を突きつけてくる。
綾小路は、鏡の前で呆然とする彼女の背後に立つと、今度は彼自身の手で、彼女の白いブラジャーのホックに指をかけた。パチン、という小さな音と共に、最後の束縛が解き放たれる。
弾けるように解放された乳房は、豊かな丸みをおび、夕暮れの室内の薄暗い光を浴びて、淡い、上質な陶器のような光沢を放っていた。その形は、多くの男子生徒が夢に見るであろう、完璧な左右対称と、若々しい張りを持っている。しかし、先端の淡い桃色の乳首は、彼の視線と、部屋の冷気、そして彼女自身の緊張と恐怖によって、既に硬く尖っていた。
(自由になった…でも、この解放感は、ほんの一瞬に過ぎない。すぐに、彼の、本当の支配が始まる…)
「触れろ」
再び、冷たい命令。今度は、裸になった自分の胸に。手袋をはめた指が、恐る恐る、その柔らかく、しかし張り詰めた膨らみに触れる。自分の肌なのに、手袋のせいで、まるで他人の身体に触れているかのような、奇妙な感覚。指を軽く押し込むと、柔らかな肉が指の間から心地よく溢れる。そして、指先で硬くなった乳首を、そっと擦る。
「……っ」
びくり、と身体が反応する。下腹部の奥が、きゅっと疼くような感覚。
(いや…自分で、自分の体をこんな風に触るなんて…気持ち悪い…変だわ…でも、彼の命令には、もう逆らえない…)
その時、綾小路が、彼女の背後から、音もなく両手を伸ばし、それぞれの手で、彼女の豊かな乳房を、優しく、しかし確実に覆った。ひやり、とした手袋の感触。彼の冷たい手が、まるで獲物の大きさと質感を確かめるかのように、彼女の胸を包み込む。
乳首を、彼の拇指と人差し指で、軽く、しかし確実に摘まれる。そして、そのまま、ゆっくりと捻られた。
「あ……ぅん…っ!」
鋭い痛みと、それに逆らうような、痺れるような快感が同時に襲う。膝が、がくりと折れそうになるのを、必死で堪える。
(痛い…! でも、どこか…気持ちいい…? こんな感覚、初めて…どうして…?)
「…やはり、形が良いな。…搾乳にも向いているかもしれん」
まるで家畜か何かを評価するかのような、平坦で、機械的な声。その言葉が、さらに彼女の羞恥心を煽り、乳首がさらに硬く尖っていくのを感じた。
(ただの物としてしか見ていない…家畜みたいに…私の体は、彼の玩具でしかないんだわ…)
彼は、片方の乳房を鷲掴みにするように強く握りしめながら、もう一方の乳房の、硬くなった先端に、顔を寄せた。そして、熱い吐息が肌にかかったかと思うと、次の瞬間、鋭い歯が、乳首の根元あたりを、甘噛みするように、しかし確実に痛みを与える強さで、軽く噛んだ。
「ひゃっ…!」
熱さと冷たさ。痛みと快感。掴まれる圧迫感と、噛まれる鋭い刺激。相反する感覚が一挙に押し寄せ、彼女の思考は完全に混乱し、ただ喘ぐことしかできなかった。彼の熱い唾液が、噛まれた箇所にじわりと広がり、光を鈍く反射しているのが、鏡越しに見えた。
(彼の熱さと、手の冷たさ…全部、矛盾している…それが、私を混乱させて、抵抗できなくさせていく…)
乳房への刺激が一段落すると、彼は冷たく言い放った。
「跪け」
その一言で、彼女は鏡の前から引き戻され、ベッドの前の、古びた絨毯の上に、抵抗する間もなく膝をつかされた。ざらりとした、埃っぽい絨毯の感触が、裸の膝に直接伝わる。それは、まるで自分が地面に這いつくばる動物にでもなったかのような、屈辱的な感覚だった。
(また、こんな…屈辱的な姿勢を…でも、抵抗する力なんて、もうどこにも残っていない…)
顔を上げると、目の前には、既にズボンのジッパーを下ろし、硬く勃起した綾小路の陰茎が突き出されていた。それは、夕暮れの薄暗い光の中で、紫色がかった血管をくっきりと浮き上がらせ、先端の亀頭部分からは、粘り気のある透明な液体が、重力に逆らうように糸を引いている。生命の神秘とは程遠い、ただただ威圧的で、暴力的な存在感。
(汚い…見たくない…目を背けたい…でも、見なければ。これも、彼の命令だから…)
「口を開けろ。そして、根本から先端まで、全長を舐め上げろ」
震える唇を、ゆっくりと開く。そして、意を決して、顔を近づけた。先端の、湿った亀頭に、恐る恐る舌先を触れさせた瞬間、生臭い鉄のような匂いと、濃厚な、むせ返るような麝香の匂いが、一気に口腔内へと広がった。
(気持ち悪い…吐きそうだわ…でも、彼の命令は、絶対…)
舌先で、亀頭のカリの部分をなぞり、尿道口のあたりをくすぐるように刺激すると、目の前の綾小路の太腿の筋肉が、ぴくりと微かに震えるのが見えた。
(彼も…感じているの…? ほんの少しでも、この無機質な仮面の下で、何かを感じているというの…?)
その微かな反応が、彼女の中に奇妙な感情を呼び起こす。それは、征服感とは全く違う、もっと倒錯した、従属することによる奇妙な繋がりへの意識かもしれなかった。
「……ん……ちゅ……じゅ……」
意識的に、あるいは無意識的にか、彼女は唾液を多く分泌させ、陰茎全体を湿らせていく。自分の唾液が、彼のものに滴り落ち、混ざり合っていく。
(自分の唾液で汚していく…なんて嫌らしい行為なの…)
彼女は、言われるがままに、両手で彼の固く張った睾丸を、壊れ物を扱うように、しかし確かめるように、そっと包み込んだ。そして、舌で竿の部分を、根本から先端へと這わせながら、最終的に、先端の亀頭部分を、唇で柔らかく咥えた。そのまま、頬を窪ませるようにして、ゆっくりと吸い上げる。口の中に、少し塩味のする、生温かい液体――おそらくは先走りの分泌液――が流れ込んでくる。
(飲み込みたくない…絶対に嫌…でも、吐き出すことなんて、許されるはずがない…)
意を決して、こくり、と喉を鳴らして飲み込む。
「…よし。次は深喉までだ」
突然、綾小路の手が、彼女の後頭部を強く掴んだ。そして、有無を言わせぬ力で、顔を彼の股間へと押し付けてきた。
「んぐっ…! ぐ……ぉえっ…!」
抵抗する間もなく、太く硬い陰茎が、喉の奥深く、息ができない領域まで、一気に貫いた。窒息しそうな苦しさと、強烈な嘔吐感。生理的な涙が、ぼろぼろと溢れ出し、鼻水まで混じって、彼の陰毛に汚らしく付着する。呼吸ができない。苦しい。死んでしまいそうだ。こんな屈辱、もう本当に耐えられない。
限界を感じ、必死に身を捩らせると、ようやく彼は後頭部の手を離した。引き抜かれた瞬間、口の端から、彼のものと彼女自身の唾液が混じり合った、粘り気のある透明な糸が引かれ、それが彼女自身の、形の良い裸の乳房の上に、ぽたり、と落ちた。
(汚れた…全部、汚れてしまった…私の身体も、心も、もう、何もかも…)
息も絶え絶えになりながら、彼女は絨毯の上で咳き込んだ。
「次は本番だ。四つん這いになれ」
休む間もなく、次の命令が下される。もはや、彼女に拒否権はない。言われるがままに、犬のように四つん備えの姿勢をとる。背中から腰、そして臀部へと続く、滑らかで美しい曲線が、無防備に晒される。
綾小路は、彼女の後ろに回り込み、潤んで赤くなった秘裂に、自身の硬く熱い先端を押し当てた。
(いや…! まだ…まだ奥には入ってきてほしくない…!)
しかし、彼の熱と硬さ、そして先ほど口にした彼の匂いが、彼女の身体を裏切る。粘稠な愛液が、彼の先端と彼女の粘膜の間で混ざり合い、恥毛をぐっしょりと湿らせていく。
(私の体は、もう彼のものなのだと、受け入れるしかないの…?)
「入れるぞ」
その言葉と同時に、ぐちり、という鈍い、水っぽい音が響いた。熱く、硬く、太い肉棒が、抵抗する間もなく、狭い膣内をこじ開け、引き裂くように侵入してくる。
「あああっ! 痛い…! 裂ける…! や……!」
櫛田の爪が、ベッドのシーツを強く掴み、白い指先が食い込む。背中が、痛みに大きく反り返る。
「あ……んぐ……!? っ…!」
何…この感覚…? 痛いのに…熱い…? 奥を無理やり押し広げられるような、初めての異物感に、膣壁が驚いたように痙攣し、自ら彼を締め付けてしまう。
(やめて…お願い…こんなの…耐えられない…!)
しかし、綾小路は一切の憐憫なく、腰を大きく、そして深く振り始めた。子宮口のあたりに、硬い先端が、ごつり、ごつりと突き当たる感覚。その度に、彼女の豊かな乳房が、彼の動きに合わせて激しく揺れる。
(彼の動きに合わせて、私の体はただ揺さぶられるだけ…私の意志なんて、どこにもない…!)
ずっぷ、ずっぷ……。部屋には、二人の身体が結合し、動く、生々しい水音だけが響き渡る。結合部から溢れ出した、泡立つ愛液が、彼女の白く滑らかな内腿を伝い落ちていく。
(汚い…汚れていく…でも、もう止められない…!)
彼の硬い陰毛が、動くたびに、敏感になったクリトリスを擦る。その度に、予期せぬ、鋭い快感の電流が、脳を直接貫く。
(いや…だめ…こんな状況で…気持ちいいなんて…感じてしまうなんて…!)
「…動け。腰を使え」
腰を強く掴まれ、促される。最初は抵抗していたものの、彼の執拗なピストン運動と、内側から突き上げられる感覚に、次第に、彼女自身の腰も、彼の動きに応えるかのように、くねり始めてしまう。
(もっと…もっと激しく…? もっと深く、私の奥を掻き回してほしい…? 違う…! そんなこと、絶対に思っちゃだめ…!)
かつてクラスの視線を集めた、その肢体は、今や彼の欲望を受け止め、それに反応してしまっている。乳房が、まるで鞭打たれるかのように激しく揺れ、硬くなった乳首と、乾いた空気が擦れるたびに、甘く痺れるような痛みが走る。
(痛い…でも…この痛みも…快感の一部になっていく…?)
「……っ…ぁ……ご、ご主人、さま……っ、だめ……! なか、は……っ!」
言いたくない。絶対に口にしたくない言葉。けれど、快感と苦痛の狭間で、思考が混濁し、口が勝手に、彼が望むであろう言葉を紡いでしまう。
しかし、その懇願とも拒絶ともつかない言葉は、虚しく部屋の空気に溶けた。彼は動きを止めず、むしろさらに激しく腰を打ち付け、最後の瞬間、子宮の奥深くに、熱く、濃いものを注ぎ込んだ。衝撃で、全身が大きく跳ねる。
(ああ…終わった…彼のものが、私の、一番奥に…)
内部で脈打つような感覚。溢れ出した白い液体が、さらに腿を伝い、絨毯の上に小さな染みを作っていく。
(汚された…彼の痕跡が、私の体に、こんなにも深く刻まれた…)
行為が終わると、彼はすぐに身を引き抜いた。そして、ぐったりと四つん這いのまま喘いでいる櫛田を、まるで用済みの道具か何かのように、冷たいベッドの上に、無造作に放り込んだ。
シーツの冷たさが、火照った肌に心地よいはずなのに、今はただ、更なる屈辱を感じさせるだけだった。息を整える暇も与えられず、次の瞬間には、冷たい金属製の、見慣れない拘束具が持ち出された。それは、彼女の抵抗を完全に封じ込めるためだろうか、あるいは、これから始まる更なる「調教」のためか、両方の豊かな乳房を、それぞれ根本から締め上げるように装着された。
(冷たい…! 締め付けられる…痛い…! もう、本当に逃げられない…)
無機質な金属の鎖が、ベッドサイドのフレームに繋がれ、夕焼けの名残の光を受けて鈍く光っている。それは、彼女を永遠にこの場所に繋ぎとめるための、物理的な鎖のようにも見えた。
櫛田が恐怖と混乱で荒い息を繰り返していると、綾小路はベッドサイドに立ち、まるで精密機械を操作するかのように、拘束具から伸びたコードの先にある、小さなリモコンのような装置のスイッチを入れた。そして、彼の冷たい指が、性交の余韻で濡れたままのクリトリスに触れたかと思うと、次の瞬間、その先端にある小さな金属部分から、微弱な、しかし鋭い電気が流された。
「ひぃっ!? あ……あああああっ!!!」
稲妻のような、強烈な、痺れる快感が、何の段階も踏まずに、彼女の意志とは全く無関係に脊椎を駆け上がり、全身を貫いた。それは、性交による快感とは全く異質の、直接的で、抗いがたい、暴力的な快楽の波だった。
(だめ…! こんなの…! 気持ちいいなんて、絶対に思っちゃだめなのに…!)
彼女の背中は、まるで高圧電流を流された海老のように、ベッドの上で苦痛と快感に身を捩らせて、限界まで弧を描いた。両手が、まるで最後の命綱でも求めるかのように、虚しくシーツを鷲掴みにする。
(掴むものがない…! 助けて…誰か…!)
「や…やめ…こんな…契約になんて…!」
言葉は、第二波、第三波と、間断なく押し寄せる電気的な快感の波に飲み込まれ、意味をなさなくなる。
(もう、何も考えられない…ただ、この、与えられるだけの快感に、身を任せるしかないの…?)
「契約第三条。所有者の要求には、肉体と精神の全てをもって従うこと」
綾小路は、淡々と契約条項を読み上げる。その声は、彼女の耳には入っているはずなのに、快感で飽和した脳は、その意味を正確に処理できない。
「第四条。絶頂の回数および方法は、所有者が決定する」
彼女の意識とは完全に裏腹に、腰が、快感から逃れるように、あるいは更なる快感を求めるように、勝手に、まるで壊れた操り人形のように、くねくねと動き出す。
(私の体じゃないみたい…! 勝手に動いてる…!)
痛みと快楽。屈辱と、それに伴う倒錯的な興奮。それらが混沌と混ざり合い、彼女の思考は徐々に、熱いシロップのように溶解していく。
(何が何だかわからない…ただ、感じて…感じさせられて…)
綾小路は、まるで実験の進行を記録する研究者のように、淡々とリモコンを操作し、それに付随する小さな液晶画面に表示される数字――おそらくは経過時間か、あるいは与えた刺激の回数か――を読み上げる。
(冷たい…彼の目は、何も映していない…ただの数字しか見ていないんだわ…)
「初回、3分7秒で到達。なかなか早いな」
「はぁ…っ! ま、待って…! もう、無理…あんっ!」
彼女の懇願は、無情にも次の快楽の波に掻き消される。第二波の刺激は、さらに強さを増していた。
(待って…まだ…いや…! ああ…もう…!)
第二波の刺激が収まると、今度は、まるで飢えた獣が獲物を貪るように、彼の舌が再び彼女を襲った。今度は、クリトリスだけでなく、その周辺、そして昨日、教室で舐められた肛門まで。
(いや…! そこは…! 汚い…でも…! ああっ…!)
これまで経験したことのない、二つの異なる場所を同時に舌で舐め上げられるという、未知の感覚。それに、拘束された乳房への締め付けと、器具からの断続的な微弱な刺激が加わる。彼女の繊細な大腿部が、まるで痙攣を起こしたかのように、びくり、びくりと震える。
(恥ずかしい…こんなこと…! 誰にも見られたくない…!)
羞恥心という、彼女を彼女たらしめていた最後の壁が、音を立てて崩れ落ちていく。禁断の、あまりにも強すぎる快感が、直接彼女の脳髄を焼き切るかのように刺激する恐怖。
(だめ…こんな快感を知ってしまったら…もう、本当に堕ちていく…!)
まるで、彼女の魂が、一歩、また一歩と、彼の望む奴隷へと、その階段を転がり落ちていく。そんな音が、耳元で聞こえるような気がした。
(もう、元には戻れないんだわ…)
「…五回目まで、続ける」
綾小路の、静かだが決定的な宣告。
「む、無理…! もう…ほんとうに……あっ、んがぁぁぁっ…!」
三回目の刺激が始まる。リモコンのカウンターが、無慈悲に時間を刻み、彼女の精神を削り取っていく。
(終わりがない…この苦しみも、この屈辱的な快感も…!)
二回目、三回目――液晶に表示される数字が、彼女の人間としての尊厳を、まるで砂時計の砂が落ちるように、少しずつ、しかし確実に、容赦なく削り取っていく。
(私の尊厳が…私の意志が…少しずつ…消えていく…)
四回目の刺激が与えられた時、彼女は最早、抵抗することを完全に諦めていた。むしろ、自らその強烈な快楽に身を委ねるように、拘束されていない腰を積極的に振り、喘ぎ声を上げていた。そして、五回目の刺激が最高潮に達した時には、苦痛や屈辱を通り越した、抑えきれない、歪んだ歓喜の叫びを、部屋中に響かせていた。
「あああああっ…! もっとぉぉっ…! あやのこうじ、くん…! ごしゅじん、さまぁぁっ…!!」
全てが終わり、刺激が完全に止められた後。綾小路は、ぐったりとベッドに沈み込み、涙と涎と汗でぐっしょりと濡れた彼女の顔を、やはり何の感情も見せない瞳で見下ろした。そして、冷たい手袋をはめた指で、彼女の目元に滲んだ涙を、まるで埃でも払うかのように、そっと拭った。
(彼の指…冷たい…でも、どうして…どこか、少しだけ、安心するような気がするの…?)
その表情は、どこまでも冷酷で、無感情だった。彼女の反応も、彼の計算の内だったのだろう。
(やっぱり、彼は何も感じていないんだわ…)
「これがお前の本質だ、櫛田」
彼の最後の言葉は、彼女の中に、もはや打ち砕くべき抵抗など何も残っていないことを確認するかのように、重い鉄槌のように響いた。
(これが…私の本質…? 認めたくない…でも…そうなのかもしれない…)
事後処理として、綾小路は彼女の顎を掴むと、彼女自身の腿や腹部に飛び散った、彼のものと彼女のものが混ざり合った体液を、指で掬い取ると、彼女の口元へと運んだ。
(汚い…! 嫌だ…!)
しかし、彼の無言の圧力に、彼女は逆らえない。恐る恐る口を開けると、指が口内に挿入され、生温かく、少し塩味のする液体を、無理やり舌の上に押し付けられた。
「全部、飲め」
命令に従い、ゆっくりと嚥下する。濃厚な味が喉を通り過ぎ、胃の底から、奇妙な熱が広がっていく。
(気持ち悪い…でも、彼のものなら…受け入れなければならないの…?)
拘束具が外された乳房には、締め付けられた跡と、彼の指の痕が赤く浮かび上がっていた。腿の間は、彼の精液と彼女自身の愛液で汚れ、赤く腫れ上がっていた。
(彼の痕跡…私の体に、こんなにも深く残された…)
「…帰れ」
用済みだ、と言わんばかりの、短い一言。
「……はい」
もはや、彼の許可なしには、立ち上がることさえできない。奴隷としての自覚が、骨の髄まで染み渡っていく。
ふらつく足取りで、ベッドから降りる。床に落ちていた自分の衣服を拾い上げようとしたが、綾小路はそれを制止した。代わりに、彼がクローゼットから取り出した、自分のものであろう、何の変哲もない黒いTシャツを投げ渡した。
「それを着ていけ。お前の服は、後で処分しておく」
彼女は、何も言わずに、彼の大きなTシャツに袖を通した。ぶかぶかのTシャツは、彼女の裸体を辛うじて覆い隠したが、彼の匂いが、まるで全身を包み込むように、強く感じられた。それは、彼の部屋の匂いであり、彼自身の匂いであり、そして、先ほどまでの行為の匂いも混じっていた。
(彼の匂い…どうして…なぜか、少しだけ、落ち着くような気がするの…?)
(……違う。この匂いで、彼は私を縛ろうとしているんだわ)
部屋を出て、男子寮の薄暗い廊下を一人歩きながら、彼女は初めて、自分の中に芽生え始めていた、恐ろしい欲望に気づいた。
(まさか…私が、こんな状況に…屈辱に…快感を覚えて、彼に、もっと支配されたいと、心のどこかで願ってしまっている…?)
もう逃げられない――奴隷としての快楽が、魂の隅々まで染め上げていくのを感じる。
(怖い…! 恐ろしい…! でも…それでも、どこかで彼に惹かれてしまっている自分がいる…!)
午前零時を回り、全てが、まるで現実とは思えない悪夢のように終わった後。櫛田は、自室の冷たいベッドの上で、まるで母親の胎内にいた頃の記憶を辿るかのように、小さく、小さく丸まっていた。
(私…これから、どうなってしまうんだろう…)
腿の間には、彼の与えた屈辱的な痕跡が、まだ熱く、疼くように残っている。そして、彼女の心には、もはや決して逃れることのできない、「綾小路清隆の所有物」としての、奴隷としての自覚が、深く、重く、そして確実に刻み込まれていた。部屋の暗闇の中で、彼女はただ、静かに、自分の内側で起こった決定的な変化を、受け入れるしかなかった。