スイーツスキル~不遇な俺をこのスキルが変えた~ 作:赤い髪の勇者
人は、生まれる場所を選べない。どんな親のもとに生まれ、どんな環境で育つのか──それは誰にも決めることができない。だが、もし選べるとしたら、俺は間違いなくこんな人生を望まなかった。
俺が生まれたのは、とある地方都市の片隅だった。両親は決して裕福ではなかったが、真面目で働き者だったと聞く。父は小さな会社で経理を担当し、母はパートをしながら家を守っていた。二人は慎ましくも穏やかな生活を送っていたらしい。──俺が生まれるまでは。
俺が産声を上げて間もなく、両親は突然、警察に捕まった。
「会社の金を横領した疑いがある」
そう告げられ、連行されたのだ。後に冤罪であることが判明したものの、それが証明されることはなかった。誰かが裏で糸を引き、証拠がねじ曲げられ、弁明の機会すら与えられなかった。裁判も形だけのものだった。結局、二人は有罪判決を受け、収監された。
残された俺は、母方の祖母に引き取られた。しかし、祖母はすでに高齢で、俺を育てる余裕などなかった。何より、世間の目を恐れていた。
──犯罪者の子ども。
そう、人々は俺を呼んだ。
幼稚園では、先生も他の子どもたちも俺を腫れ物のように扱った。誰も俺と遊ぼうとしなかったし、誕生日会に誘われることもなかった。小学校に上がると、それは明確ないじめに変わった。
その中心にいたのが、藤田翔だった。
翔は町の有力者の家の息子で、教師たちにも可愛がられていた。成績こそ平凡だったが、運動神経がよく、クラスの中心にいるようなタイプだった。彼は、俺が「犯罪者の息子」だと知ると、まるでそれが当然の義務であるかのようにいじめの標的に定めた。
最初は無視から始まった。俺の話に誰も返事をしない。隣の席の子が先生に頼んで席を替えてもらう。給食の時間、俺の机だけが少し離されていることもあった。
そのうち、翔は俺の物を隠し始めた。筆箱、上履き、教科書……何度もなくなり、その度に探して見つかるのは、ゴミ箱の中か、校舎裏だった。
「お前の親も、こんな感じで物を盗んでたんじゃね?」
翔が笑いながら言った時、初めて俺は本気で人を殴りたいと思った。でも、俺が何かすれば、それこそ「犯罪者の息子が暴力を振るった」と言われるだけだ。だから、ただ耐えた。
だが、それで終わるはずもなかった。
翔の取り巻きたち──杉本、圭介、達也も加わり、いじめはさらにエスカレートした。体育の授業中に背中を突き飛ばされて転ばされたり、トイレで水をかけられたり、給食のパンを勝手に食べられたり。家に帰れば、破られた教科書や泥まみれのランドセルが待っていた。
教師は見て見ぬふりをした。
何度か相談したこともあったが、返ってくるのは決まってこうだった。
「お前も何かしたんじゃないのか?」
「気にしすぎだろ」
「みんなと仲良くしろよ」
仲良く? 一体、どうやって?
祖母も、俺を守ってはくれなかった。
「世間なんてそんなもんだよ」
諦めたようにそう言うだけだった。
気づけば、俺は感情を押し殺すようになっていた。悔しくても、悲しくても、怒りすらも感じなくなった。ただ、耐えて、黙って、時が過ぎるのを待つだけの毎日。
そんなある日、翔が俺に言った。
「お前の親、もうすぐ出てくるんじゃね? でもさ、出てきてもどこにも行くとこねーだろ。犯罪者の家族なんて、誰も雇わねーし」
取り巻きたちが笑う。俺は、拳を握った。
こいつらは何も知らない。ただ、人を踏みにじることを楽しんでいるだけだ。俺がどんな気持ちで生きているか、どんなに無力か、それを知ろうともしない。
──もし、力があったら。
俺を嘲笑うこいつらを、黙らせることができる力があったら。
そんなことを思いながら、俺はただ、空を見上げた。
どうして俺は、こんな世界に生まれてしまったんだろう。
そうして、俺の物語は、絶望から始まった。