たった一日で、世界の認識は大きく変化した。
たった一つしかない、世界最強という名の椅子。その座に腰掛ける者が変わった。
あまりの強さに勝てる者はいないと匙を投げていた理不尽を、一本の刀で斬り伏せたその少年の名は全世界に轟く。
情報という名の波紋の広がりは早い。
テレビから、新聞から、人の口から。武の新たなる王座の誕生が人の耳から耳へと入っていく。
その名は———。
多摩大橋。街の区画を繋いでいる大きな橋は、川神の誇る名スポットの一つとして数えられている。
住宅地から学園への一本道であるために、殆どの学生がその橋を通学路としてよく利用する。その為、通勤する社会人も含めて朝方は多くの通行人が行き交っていた。
多くの人が集まるということは自然と、それだけ問題も起きてしまうのは道理。ひったくりや変質者が出現するのは日常茶飯事。
しかし、そこは聖地川神。
魑魅魍魎跋扈するこの地で育った者は色んな意味で濃く、トラブルが起きたとしても自力で解決できてしまう。
そんな出来事が多々起きてしまう場所であることからここは通称、変態橋と呼ばれている。
その橋で、時折名物というべきものが起きる。
川神に住まう人々にとっては日常の一つであり、中にはこれを目的に見にくる人もいる程。
それは、“挑戦”。
この道を通る最強を待ち構える、武を極めんとする武道家や、なんぼのもんじゃない!と名を上げようとする暴走族など。
そういった立ちはだかる障害物を、圧倒的な力を持ってしてバッタバッタと薙ぎ倒す麗しい武神の姿に誰もが歓声を上げる。
それがありふれた川神の一日の始まり。
しかし、その当たり前は変化を迎えていた。
今日も今日とで、挑戦者が変態橋で立ち塞がる。相手を迎え撃ち、変態橋にこだまするのは振り下ろされた拳の打撃音……ではなかった。
風切り音すらも追いつけぬ高速の斬撃が、武道家の屈強な肉体を通り過ぎる。開始から僅か数秒も掛からず、振り抜かれた銀光が意識を刈り取った。
挑戦を受け入れた青年の手にしている得物は刀。勿論、真剣ではなくレプリカだ。それでも実戦に近い仕様となっており、当たれば死ぬ程の痛みが伴う。
なのに何だ?この斬られ心地は?
刀身が胴に叩きつけられる、過ぎ去っていく一閃の衝撃が全身を貫く。だというのにどうしてか、痛みというものを感じない。
滑らかとも感じられる三日月の軌跡は、ゆっくりと挑戦者の視界を黒く染めていく。閉じていく瞼の隙間に、自身が挑んだ剣士の背中が見える。
勝てると思っていた。
映像越しにではあるが、あの試合を確かにこの目で拝見し、武道家としての衝動のままに大陸を渡ってきた。
東方の島国で、最強の称号を冠する青年。
あの武神に勝利したというのだから、相応の実力を備えていることは理解していた。
それでもここへ来たのは、何より剣術という一芸ならば我が国の誰よりも強いでていると自負しているからだ。
だが、自惚れていた。侮っていた。武神を下したその剣に、まぐれや奇跡、ましてや嘘偽りなんてものは決してない。
新たなる王者の挑戦者第一号は、己の修行不足を痛感しながらアスファルトに沈むのだった。
試合の決着。それは誰の目から見ても明らか。
勝者は一息ついて刀を納刀し、敗者は観戦していた川神院の修行僧によって運ばれていく。
始まりから過程、その結果こそ同じである筈なのに、中身はまるで異なっていた。いつものように湧き上がる拍手喝采が薄いのが、その証拠だ。
リアクションは大まかに三つに分かれていた。
素直に称賛し、拍手を送る者。
ぎこちなく傍観している者。
そして、納得がいかないと顔を顰めている者。
後者の殆どは、武神・川神百代のファン達で構成されていた。
本来ならば、勝負を挑まれた彼女が挑戦者を瞬殺するのがお約束となっている。だが、大衆の注目を浴びるのは武神ではなく、剣士。
川神百代を倒し、最強となった水城ユウだ。
武神の敗北は世界に広まった。その発信源であるこの川神において、知らぬ者はいないだろう。
だが、知ると理解するとではまるで違ってくる。
当たり前と思っていたルーティンの変化を、受け入れる人間と受け入れられない人間は確かに存在した。
それが絶対だと思っていた者なら尚更だ。
いつもいる場所に、自分達の誇りである無敗の女がいない。それが、彼女が最強ではなくなったという証であると、武神を崇拝する彼女彼らにとって面白くない事この上ないのだろう。
しかもその男が水城ユウということが問題だった。幾度も武神に挑み負けてを繰り返す、諦めの悪い男。
呆れて馬鹿にしていた青年が、その認識を覆して頂点に立つ。微妙な顔をしてしまうのもさも当然と言えよう。
今更掌を返す程、図太くはない。
かと言って、武神の敗北を受け入れたくない。
だからこうして、何も言えず苦い顔をするしかないのだった。
何より、許せない事がまだ一つある。
こだまするのは、モテない男の魂の慟哭。一人がポツリと呟けば、周囲の志しを同じくする男達は頷き同意を示す。
世の中理不尽で不公平だ、と。
尤も、その声はユウの耳には一切届いていない。
何故なら彼は、そんな周囲の様子など元から眼中になく、試合が終わればその目も耳も意識も、全てを“彼女”だけに費やしているのだから。
人混みの中から現れた一人の女子生徒が、ユウの隣に立つ。
「終わったぞ、燕」
「ほーい、お疲れサマンサー!じゃ、行こっか!」
呼ばれた女子生徒、松永燕。
納豆小町と呼ばれる、西からやってきた武人。強いだけでなく容姿端麗、編入初日から多くの男の心を射止めた美少女は、ユウの勝利を快く労った。
並び立つ二人は、手を繋いで歩き出す。
しかもその手は、ただ繋いでいるだけではない。指と指を交互に絡ませた恋人繋ぎだ。
見ての通り、水城ユウと松永燕はそういう関係である。周りの目も憚らず、公衆の面前で堂々としているのだから間違いない。
その仲睦まじい様子を見て、周囲の男達の嫉妬と羨望の眼差しに血涙が加わるのだった。
天はニ物を与えず、ではないのか?
いいや。与えられていない、勝ち取ったのだ。
勝者である水城ユウと松永燕の交際は川神学園でも大きな噂となっていた。
知でも武でも、ルックスでもあの男には敵わない。しかも女まで手に入れるとは、なんたる不条理か。
そんな相手にする価値もない悪感情などは無視して、クリスは興味深そうに並び歩くカップルを見やる。
「まさかあの二人が付き合っていたとはな」
「よく一緒にいたわよね。もしかして〜、って男子達がよく噂してたわ。血の涙を流しながら」
「あうぅ……。私は……自分が情けないです。あと一歩でも、踏み出せていたら……」
『諦めるなまゆっちー!まだまだチャンスは残ってるZE!来るべき日のために、NTR、略奪愛同人誌を読み漁るんだまだまゆっちー!』
「そ、そうですよね!まだチャンスは……!」
「そう、残っている。残ってなくても無理矢理作る。それが、恋する女ってもんだろ?」
あれを見せられても、未だ尽きぬ水城ユウへの敬愛と恋慕。両拳を握り、執念を燃やす由紀江の背後から、ひょっこりと川神百代が顔を出す。
もう最強でも無敗でもない、王座から引き摺り下ろされた美少女は、一切の悲壮を感じさせぬ不適な笑みを浮かべていた。
「姉さん……。あれを実際見て、どう思う?」
「どうとも、って言ったら嘘になるな……。ああ、燃えてきた。ワクワクする!ますます惚れさせ甲斐があるってもんだ!」
先の決闘を見ての通り、ユウは鍛錬を怠っていない事が分かる。未だに更なる力を求めて研鑽を重ね、強さの次元が一段上がった事への歓喜。
武神に勝つ。昔からの目標を叶えた今でも、慢心するどころか力をつけている男の姿は、女の目からはこれ以上なく魅力的に映る事だろう。
それでこそ我がライバル。
それでこそ私が恋した男。
そして何よりも、そいつを見事勝ち取った親友にも獰猛な笑みを向けるのだった。
「やってくれたな燕〜。後から現れて、掻っ攫っていきおってからに……!」
しかもあの雰囲気、距離感……ヤッたな?
優勝者特典のバカンスで、一夜を過ごしたことは明白。渇望していた男の初めてさえも奪われ、完膚なきまでの女としての敗北感を味わう。
だがそれは諦めるどころか、寧ろ恋心という名の闘争心を搔き立てられる。
ならば奪い返し、自分のモノにするまで。松永燕よりも、より良い女だと見せつけてやればいい。
このどん底を乗り越えて、自分を打ち負かした強敵に自ら惚れさせるという恋愛的アプローチの計画も、頭の中で構築されつつあった。
まだまだ恋する乙女は元気一杯なようだ。
「だが、今はいい。今はよそう」
だがそれはそれ、これはこれ。
約束もある為、強引な手は使わない。
何より、今は恋よりも優先しなければならはい事がある。それは、一から己を鍛え直すことだ。性根の腐った精神を磨き上げ、本来のあいつが憧れていた川神百代を取り戻す。
武神の敗北は、それを受け入れない者もいれば、醜態を誹謗中傷する者もいる。だが、そんなこと知ったこっちゃない。
好きな男に振り向いてもらえる為に、ひたすらに歩むこの時間が楽しくて仕方がないのだ。
追われる側から、追う側に。これが自分が愛した男が見ていた景色なのだと、気持ちが高揚としていく。
そんな姉を、舎弟は嘆息して肩をすくめるのだった。
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学園に着いても周囲の視線は止まぬことはない。
それもその筈。武神に勝つという歴史的な快挙を成し遂げた男が、自分らと同じ川神学園の生徒なのだから。
後輩、同学年、教師に至るまで。水城ユウの存在を認識した瞬間、人の声が波打つ。
その隣に立つ松永燕の存在も際立っていた。
話題を抜きにしても、タッグマッチトーナメントの優勝者と準優勝者だ。なんという最強カップルであろうか。
密かにユウを狙っていた女子達は肩を落とし、納豆小町のファンは悔しさに拳を握る。
そんな野次馬に構わず二人は教室へと向かう。
「それじゃ、ユウくん。私Fだから」
「ああ、昼休憩で」
「おりょ、忘れてた。ユウくん忘れ物」
「あん?何が……」
振り返ったのと同時に、制服の襟を引っ張られる。その直後、唇に押し当てられた柔らかな感触。
一瞬の静寂の後、廊下は黄色い歓声で包まれた。中には膝から崩れ落ちる男子もおり、ユウへの憎悪が一層増す。
二、三秒と言ったところか。唇が離れ、固まっている彼氏に燕はウィンクを送った。
「えへへ。じゃ、お昼に!」
人混みに消える恋人の後ろ姿。数秒後、我に返ったユウは唇の感触を手でなぞる。
キス———それを認識した途端、顔が真っ赤に染まり、思わずその場に蹲るのだった。
そんなユウの肩に、クラスメイトであり親友の男子生徒がポンと触れるのだった。
「君は本当に話題の中心にいる男だな」
「褒めてる?」
「侮辱していないことは……確かだ」
「ならいいや」
聞くだけで心休まる声。京極彦一の言葉に苦笑いを浮かべて、立ち上がる。
多分、燕とのキスは京極にも目撃されていた。その事について、親友はただ一言だけ、おめでとうと送るだけだった。
席につく。
変わり映えのない、いつもの同じ席。
いつもの軽口を叩く友達。
いつもの教室。
いつもの教師。
いつもの授業。
いつもの日常。
念願の夢を叶えたからといっても、日々の流れが大まかに変わる訳でもない。武道家だって続けていくつもりだ。鍛錬も欠かすことなく、また百代に挑戦する。
いや、それでも……確かに変化したことはある。
まず周囲の視線。
これまで水城ユウに向けられていた応援、心配、不憫、侮蔑の目が、賞賛、尊敬、驚愕、否定の目に。
歴史的勝利は、彼の評価を大きく変えた。
だが、そんな事どうでもいい。元から周囲の目も気にせず、剣を振り続けてきたのだから。
二つ目は、挑戦者。
百代目当てだった武道家達が、今度は最強の座に君臨した剣士に狙いを定めた。
正直、バカンスから帰って登校初日から挑戦者が来るとは思いもしなかった。てっきり、負けたとしても百代の方が挑まれるものかと。
だが、これも悪くない。
多くの強者と戦えるのは、武人冥利につきる。それが遠い国から来た者なら大歓迎だ。多彩な技を見て吸収できるのだから。
そして何より、一番と言っていい変化が……自分だ。
(時間の流れが遅く感じる……。ついつい時計を見ちまう……。目が廊下の方、っていうかFクラスの方へいっちまう……)
ついさっき別れたばかりだというのに。
昼休憩になれば会えるというのに。
なんなら、休憩時間になれば気軽にFクラスへ顔を出せるというのに。
(やばい、俺今すぐ燕に会いたいって思ってる)
これが恋なのか?……やべぇ、恋ってやべぇ。
青春の醍醐味は恋って、前に総代から聞いたことあるけど、これがそうなのか?
みんなこんなの胸に抱えて生きてんの?
凄え……。いったいどんな鍛錬を積んだら、こんなに集中して授業を受けられるんだ⁉︎
まさか、俺が知らないだけで恋を制御する修行をしているとか?……あ、あり得る!
なんだよクソ、ズルいぞみんなだけ!
俺だけ除け者かよ!……いや、当たり散らすな。恋心を制御する修行を疎かにしていた俺が悪い。
今からでも誰かに教えを乞おう、誰がいいか……。京極は、なんか違うな。あいつ恋とは別時空にいる感じがする。
だとすると俺の近しい男は……。
風間は無いな。あいつ恋より冒険派だし。
島津は論外。師岡は、話したことないな。
だとしたら……そうだ直江!直江がいるだろ‼︎
確かあいつ、百代に気があるみたいだし!
絶賛恋してるから参考するのにピッタリだ!
よし、今度あいつに相談してみよう!
(水城よ。今、お前の頭に凶星が見えたぞ)
言霊部主将、京極彦一。
友のある未来を予見し、両手を重ねるのだった。
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(あと二分……二分ちょい……)
時間の流れが遅く感じる……。
ついつい時計を見てしまう……。
目が廊下の方、というよりSクラスの方へいってしまう……。
朝、別クラスなために彼氏と別れて学園生活が開始される。
ほんの数時間前に、別れたばかりだというのに。
昼休憩になれば会えるというのに。
なんなら、休憩時間になれば気軽にFクラスへ顔を出せるというのに。
(やばい、私今すぐユウくんに会いたいって思っちゃってる……)
これが恋なの?……やば、恋ってやば。
青春の醍醐味は恋って、昔おかんから聞いたことあるけど、これがそうなのかな?
みんなこんなの胸に抱えて生きてるの?
凄い……。いったいどんな鍛錬を積んだら、こんなに集中して授業を受けられるんだろう。
まさか、私が知らないだけで恋を制御する修行をしているとか?……あ、あり得るかも!
何それ、ズルいよみんなだけ!
私だけ除け者なんて!……いや、当たり散らすのはダメだよねん。恋心を制御する修行を疎かにしていた私が悪いんだから。
そう、これまで惚れるより惚れさせる事が多かったから、こういうのに慣れてないだけなんだよ。
慣れよう!これから!どうやるかは分からないけど、取り敢えずユウくんに会ってから!
その瞬間を想像するだけで頬が緩む私の耳に、授業終了を報せるチャイムが鳴り響いた。
昼休み、待ちに待った時間が訪れる。
頭では未だに彼との一時の夢想しつつも、肉体は生の水城ユウを求めている。昼休みとなったことを本能的に察知した私は、お弁当箱を持って即座に廊下へ飛び出した。
……背後にモモちゃんと弓子ちゃん二人の視線を感じたけど、私の優先順位は彼氏なので。
注意されないギリギリの速度で、すれ違う人達を避けつつ、目的地へと向かう。登校中に二人で決めたお昼の集合場所。そこでユウくんが待っている。
「ふん、ふふん♪」
足取りが軽い。なんならここでスキップしてしまいたいぐらいに、私の気分は高揚していた。
目指すはSクラスでも屋上でもない、私達がいつも二人きりで集まる場所。
茶道部や将棋部、花道部が利用するフロア。その予備として設置されている茶道室———打倒武神部の部室だ。
モモちゃんを倒す為に集まってた話し合いの場。そこは今では、私達が誰にも邪魔されずにイチャつける秘密の場所。
部室の扉の前で、一度深呼吸する。
これから行うのは、お昼ご飯を一緒に食べるだけの行為。だけど私にとっては、大好きな人と紡ぐ特別な時間だ。
高鳴る心臓をなんとか抑え込み、扉を開ける。
最初に飛び込んできたのは、畳のいい香り。明かりのついた茶道室の中心で、いつものようにその人はいた。
「まった?」
「いや、俺も今来たところだ」
嘘。ユウくん、私よりずっと前に来てた。
そわそわ貧乏ゆすりしていた形跡がその証拠。
そんなにも私が来るのを楽しみにしてくれていたことが堪らなく嬉しくて、同時にちょっとだけ意地悪したい気持ちにもなる。
腰掛け、二人で向かい合い早速お弁当箱の蓋を開ける。
「さぁーて!今日もやってきました、燕さんの愛妻弁当!愛情と納豆たっぷりのお昼を、あーんで召し上がれ♪」
箸でおかずのうちの一つである卵焼きを取り、彼氏の口元へと運んでいく。
それを見たユウくんは、頬を引き攣らせながらも、口を開けて受け入れてくれるのだった。
昼休憩の時間は限られている。この時間の中で、空腹となった腹に昼ご飯を収めなくてはならない。
食事だけが全てではない。早く済めば、その空いた時間を自由に使う事ができる為、大抵の生徒は食事の早食いを心掛けている。
中には、ゆっくりと味わって食べる者もいるが、それも人それぞれだ。
この二人の場合は後者。
恋人の作った愛情の籠った料理を噛み締めて、ゆっくりと味わう。それも、あ〜んで食べさせ合いながら。
妬く感情すらも湧かない、何とも甘ったるい光景に、ピンク色の空気が二人の間に流れていた。
やがて、よりどりみどりなおかずが詰め込まれていた弁当箱は、綺麗さっぱりに残り物なく完食となった。
「ふぅ、ご馳走様」
「お粗末さまでした。……で?どうかしたの?」
満足な顔で弁当を片付ける燕。唐突に彼女の口から放たれた物問いは、ユウの身が一瞬硬直させた。
誘うような挑発的な顔つき、交差する視線。
隠し事など無駄だぞと言いたげな、恋人のただならぬ眼光に、ユウは困ったように頬をかく。
「あ?……あー、顔に出てたか?」
「あからさますぎるよん。視線とか顔とか、彼女の眼力を舐めないことだねん」
「だな、お前に隠し事は出来ねぇわ。けどまぁ、なんだ……。言いづらいことなんだけど」
「なになに?なんでも聞くよん?」
ずいっと、身を寄せる。視界の端から端まで全てが埋まる距離に、彼女の柔らかな胸の膨らみが僅かに接触する。
その感触と、密着した身体から香る女特有の甘い香りに、ドキリと心臓が高鳴った。
君の頼みならなんだって聞いてあげる、細めた瞳をそう輝かせて次の言葉を待つ。
どこか気まずそうに言い淀む。もにょもにょと口元を動かし、若干俯いたまま彼は自身の欲を溢した。
「……キス、していいか?」
……はい来ましたビンゴ。
耳を疑うことなんてことはしない、薄々勘付いていた彼氏へのお願い。っというよりも、燕自身もずっとそれが言いたくて我慢の限界であった。
この要望に対する返答なんてただ一つ。
それは勿論、答えるまでもなくユウの頬に手を当てる。顎まで手を添えて上を向かせ、そっと顔を近付けた。
触れた唇の感触に、ユウは一瞬身を硬直させるがすぐに受け入れる。触れ合った部分から蕩けてしまいそうな快楽が全身を包み込んだ。
((幸せ))
幸福感が全身に染み渡っていく。
「授業中、ずっとお前のことを考えてた……」
「私も。恋したらこんなことになっちゃうなんて、思いもよらなかった。だからもう少し待っててね?次のテストで成績上げて、Sクラスに昇るから」
「ああ、待ってる」
本来ならば、松永燕はSクラスになれるぐらいの学力は備わっている。そんな彼女がFクラスに在籍しているのは、川神百代討伐の依頼で標的の情報を得るがため。
だがその契約も終わった。
彼氏との一緒の時間を謳歌する今、Fクラスにいる理由はない。百代を含めたクラスのみんなは好きだけど、やっぱり松永燕の一番は水城ユウなのだから。
身体が熱い……。夏場であるものの、この部屋は十分涼しい環境だというのに、汗が止まってくれない。
午前中会えなかったその分、ほんの少し触れ合うだけだと思っていたのに、その反動は想像を遥かに超えていたらしい。
二人は本能的に理解した。もう歯止めが効かないと、欲が点火される。
汗の雫を吸って濡れていく制服を擦り合わせて、互いに腕を回して密着度を高め合う。
軽いキスの筈が、唇を押し付け舌を絡め合うディープキスの形へと変わり、激しいリップ音が部屋中に響き渡る。互いの熱を交換させ続け、キス一つで心が満たされていく。
あれほどまでに長く味わっていた昼食の時間とは打って変わって、下品に貪り合う男女の姿はまるで獣。五感の全てを目の前の相手に委ねて、二人だけの時間が流れて行く。
これだけやっても、まだ物足りない。
チラリと、視線を時計の方へと見やる。
時間はギリギリと言ったところか。
「ぁ、ふぁ……はぁん……ユウくん……一回だけ」
「ああ、俺もこれ以上我慢は無理だ」
衝動のままに燕を押し倒した。細い両手を掴み、逃げられないよう覆い被さって自由を奪う。
こんなことをしなくても全てを受け入れるというのに。燕は淫靡な吐息を吐き、彼の好きに受け入れる。
ああ、完全にスイッチ入った。この流れはまずい……。そう思った時には既に遅く、乱れた制服に伸びた手が、ボタンを一つ一つ外していく。
サラサラの黒髪を撫でながら、腰から臀部にかけて手を下ろして行き、スカートをズラす。
ズボンを半脱ぎにすると、熱に当てられた興奮によって大きくなったモノが姿を現した。
ここでヤル気満々だ。ギンギンに硬く屹立した、熱された鉄棒同然のそれを下腹部に押し付ける。
露わとなった秘境は完全に出来上がっており、あてがわれた瞬間にトロトロの愛液を垂れ流す。
これが今から自分の中に入るんだと再認識する度、体温の上昇は止めどなく、下半身は湿り気を帯びていく。
期待を孕んだ眼差しでユウを見上げる。
これが欲しい……。そう視線で訴えかけると、その屈強な身体がゆっくりと前屈みになって顔を近づけた。
(ああ、これッ……これが欲しかったの❤️)
ズプ……ズプ……。ゆっくり、確実に中へ侵入していく肉棒。塗れた汗と愛液もあって、その形を覚えてしまった蜜壺はすんなりと受け入れ、奥へ奥へと導いて行く。
何度ヤッても、この瞬間は慣れることはない。
痛みなんかない、あるのは絶え間ない快感だけ。それが脳をじんわりと侵食し、その他一切を忘却の彼方へと追いやった。
「ぃひん❤️」
下腹部に伝わる小さな刺激が、腰を浮かせる。軽い静電気程度の衝撃は、燕を軽い絶頂に誘った。
それは互いの腰が密着し、全てが収まった事を示していた。
「あっ……あはぁん……!」
「動いていいか、燕」
「うん……いいよ。沢山して❤️」
ほんの数センチ、僅かにユウは腰を引き、一気に最奥へと突き出して亀頭を打ちつけた。
パンッ!と肉同士がぶつかり合い、愛液の飛沫が弾ける。衝撃は子宮を揺さぶり、燕の身体を仰け反らせた。
一度で終わるはずもなく、また引いては突く。
熱された極太ペニスによる激しいピストン運動が、膣壁を擦りながら子宮口を叩く。
絶え間ない快楽の波に、身体は激しい前後に見舞われる。甘い声が漏れ出し、その様を至近距離で見るユウの動きには、緩まる気配はまるでない。
「お゛ッ、ほお゛‼︎お゛ぉ゛ぉ゛ッ゛ッ゛、奥ドチュドチュ……気持ちいとこ全部当てられてっ〜〜〜イグッ゛〜〜〜〜〜❤️❤️❤️」
腰を振るたびに反応し、喘ぐ恋人の姿はあまりにも淫靡で愛欲を刺激した。
普段、鍛錬で見せる凛々しい彼女も、笑顔を振り撒く可愛らしい彼女も、人を揶揄う小悪魔な彼女も今や存在せず、己の身体に溺れる恋人だけがそこにいる。
これほどまでに愛おしく、情愛をそそられることがあるだろうか。
とろけながらも強烈な圧迫感を感じさせる膣内の感触を味わい、腰使いは激しさを増していくばかり。愛液と先走りが混ざり合い、泡立ちながら結合部から溢れ出す。
「燕、そろそろ出るぞ……!」
「うん、出して!ユウくんの精液ッ……中にいっぱい出してぇ!」
甘い嬌声による射精の懇願は肉棒はより膨張させ、膣壁を圧迫する。
容赦なくぶつけられる欲望の奔流に舌を伸ばし、自らも動くことで甘美なる同時絶頂を誘う。
胎内を蹂躙する肉棒の感触に、体温と共に上昇していく精の予感が、愛情を最高潮に達させた。
子宮口を押し潰す勢いで腰を密着させ、亀頭が膨れ上がる。そして、その欲望を解き放った。
ぶびゅるるるっ、どびゅびゅぶっ、びゅるるる❤️
どびゅーっ‼︎ぶびゅっ、どぴゅっ❤️
「はァッ、あァァァァァァ〜〜〜ッ❤️」
脈打ちながら吐き出されていく精液が、子宮を満たしていく。灼熱に呼応するかのように膣内は痙攣し、肉棒を締め付けて一滴も取り逃すことなく子種汁を搾り取る。
長く時間を掛け、ようやく射精が収まる頃には、燕は絶頂の余韻に浸りながらぐったりと畳の上に身を任せる。
互いの乱れきった息遣いだけが、室内に響いていた。
「もう直ぐ……午後だ、ね」
「ああ。それじゃあ、また後で」
「うん、後で❤️」
チュ……。と、軽く唇を重ねるのだった。
ユウ「ってことがあったんだ。ご教授頼めるか?」
大和「バカじゃねーの?」
これぐらい軽口叩け合えるぐらい距離縮まった